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第130話 年末年始と誕生月祝い

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大晦日前日から俺はキッチンから締め出され。
仕方なくプリタと一緒に裏庭の花壇を手入れしたり茸ピザを焼いてみたり焼き芋をしてみたり。書斎でパズルの続きをして時を過ごした。

現場を見たシュルツに。
「書斎の使い方として…。正しいのでしょうか」
「多分間違ってるね」多分じゃないわな。

「お暇なら執筆活動でも為されては」
「うーん。文章書くのも得意じゃないし字も綺麗じゃないからなぁ。ベルさんが作ったタイピングマスターって道具が手に入ったら考えてみようかな」
書籍を1冊1冊書き上げるなんて嫌です。

「それは残念です。スターレン様のお手紙は独特で面白いので。執筆家に向いていると思いましたのに」
かなりお巫山戯入ってたからね。
「タイピングマスターは何処に在るのでしょうか」
「多分最も深き迷宮。大全集の最終巻と一緒に置いてあると思う」
「頑張って下さい」
期待の眼差し。そんなに楽しみにしてるのか。
ちょっとやる気出たけれど。

「そこを踏破するのが一番難しいと思われます。1月中に入れたら少し覗く程度で本格的には再来年かなぁ」
「気長にお待ちしております。所でスターレン様」
「何?」
「あの…甘酒と言う飲み物は」
「あ!」
忙しくて忘れてたわ。

「今から材料買いに行ってくる。フィーネに伝えといて」
そういや蕎麦粉も挽かなきゃならん。のんびりパズルやっとる場合じゃなかった。

急遽買いに走ると時差で夕方。しかも雨模様。
店仕舞い寸前で飛び込んで米、餅米。隣のお店で酒粕と濁り酒と吟醸酒を追加購入。

シュルツに指摘されてなきゃ危ない所だった。

自宅に戻って蕎麦の実用の脱穀器を通して石臼で粉を挽いた。同時にミランダに預けた石臼で上小麦を挽き直してクシャミをしないようにマスクをしながら。

二八粉を配合した。

フィーネがキッチンから顔を覗かせて。
「それも私やるよ?」
「いいって。これ位はやらせてよ。その代わり天麩羅宜しくね」
「はーい。次は私やるから」
純粋にやってみたかったようだ。悪い事をした。

リビングテーブルに大きめの土鍋(器代わり)とまな板と丸棒を並べ。適量の水と粉を用意。

タオルを頭に巻いて蕎麦打ちスタート。

これは何をしているのとシュルツから質問。
「小麦粉で平打ちうどんを作る要領で別の蕎麦って言う爽やかで味わい深い粉を混ぜてるんだ。蕎麦粉で10割にすると混ぜる水加減が難しくて。これは小麦粉2割、蕎麦粉を8割にしてる。
今から水を加えながら練る所」
フィーネが捕捉。
「東大陸では小麦よりも主流なんだって。それで作ったお団子が美味しくて買って来たのよ。餅粉と同じで粘りも出るし麺だけじゃなくて他にも色々使えそうだなって」
「へぇ。世界にはまだまだ知らない食材が有るのですね」

素直な感心を示すシュルツに離れて貰い、水を少しずつ加えながら小玉から大玉へと練り上げた。

まな板に小麦粉を薄く敷き。艶の出た大玉を乗せて適度に粉を塗しながら丸棒で引き延ばす。

均一に延びたら畳んでまた延ばす。時折水を差して調整で繰り返した。

腰が出て端が皹割れない所で完成。

折り畳んで敷板を当てながら平包丁で切断。切り落としは後でおやつにする。

均等に100g狙いで小分けにすると。
「ふーむ。これで10人前かぁ。ちょっと足りないな。お客さん来るかも知れないし。フィーネ追加分交代する?」
「やりたい!でもキッチンには入っちゃダメ」
入らんでも匂いで何作ってるか大体解るんですが。

「えー。しゃーないなぁ。アローマさんこの切り落とし鍋で茹でて。序でにビール頂戴」
「畏まりました。昼間からお酒ですか?」
「だって飲みたいんだもん」

冬場のビールもまた格別。

飲みながらフィーネの隣に立ちコーチング。
先程同様の二八蕎麦。

「スタンみたいに綺麗に切れなかった…」
ちょいと太めのお蕎麦に成りました。
「味は変わらないさ」

グーニャが発熱している為暖房要らずだが今シーズン初めて暖炉に火を入れた。

この独特な臭いが季節を感じさせる。
タイラントは大陸南端で気候は通年で穏やか。雪も滅多に降らない。

四季の流れも日本に少し似ている。秋が短くそれ以外が長い感じだ。

去年のラザーリアでの年越しはそれはそれは寒かった。
暖炉用の薪すら巻き上げるクソ王家の所為で…。

止めよう。そんな奴らはもう居ない。
今では俺も嫁さんを貰い。多くの仲間や友人に囲まれ立派な仕事と自宅まで貰った。

俺は幸せ者だ。

大晦日の夜。お客さんたちが帰った後でフィーネが2人分の年越し蕎麦を茹で用意してくれた。

クワンとグーニャも隣で天麩羅の余りを食べている。
食べ過ぎだが今日ぐらい良いだろう。

懐中時計の針は年越し10分前を指していた。

「フィーネ。俺を選んでくれて有り難う」
「こちらこそよ。スタン」
ニッコリと笑うフィーネの頭を撫でた。

蕎麦食ってる最中では抱き締められん。

「来年も宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「幸せ過ぎて怖いよ」
「それは女の子の台詞です。取らないで下さい」
「はい」

スープを残らず飲み干し器を流しの桶に浸けた。

時計の針は5分前。

グラスを2つ並べ。新しいシャンパンを開けて注いだ。
自然の沫がキラキラ輝いて眩しく見えた。

針が0時を回った。
「「明けまして御目出度う御座います!」」

グラスを空けて。長いキスを交した。

「「今年も宜しく」」
「クワッ!」
『宜しくニャ~』

クワンとグーニャの皿を片付け屋根裏部屋に送った。

歯磨きを終えたフィーネをお姫様抱っこして。
「今日は寝かさないぜ」
「ほ、程々にね」




---------------

朝はシンプルな小松菜と焼き餅のお雑煮と御節。
黒豆と搗栗の甘煮。卵(伊達)巻き。鮭の昆布巻き。
鰤の照り煮。牛蒡と人参と椎茸の煮付け。
大根と胡瓜の生酢。有頭海老の塩茹で。蕎麦団子。
小魚の田作り。

「振り切りましたねぇ。嬉しくて泣きそうです」
「誕生月祝いも兼ねてたから遣り切ったわ。もしもお醤油が無かったらと思うとゾッとする。ペルシェさんに開発して貰って大正解」
「だろだろ」

「再出発までにケーキも作るからお楽しみに」
「何故そこだけ曖昧なん?」
「外に出たら誘惑が一杯じゃない」
「なるほ!」

本棟でロロシュ氏やシュルツと合流して元旦参り。

ロロシュ氏が頑として行かないと言い張る祝賀式に、何故か俺だけが行く事になった…。
「そんなに嫌なんすか」
「嫌だ。彼奴の挨拶は長くて退屈だ」
「だからって2人共行かない訳には」
「わしの分まで聞いて来い」
「えぇ…」
こんな流れで。

「フィーネ。甘酒作ってシュルツにあげといて。ペリーニャにも渡せそうだったら宜しく」
「ほーい。私は行かなくて良いの?」
「フィーネが行ったらメルシャン様が離してくれないだろ」
「あー。私は明日行こうかな…」

態々正装に着替えて出直し一人で王宮中央広間に向かった。今日も玉座の間ではない…。

ノイちゃんとダリアの隣が空いていたので了解を得て座った。

水色のドレスを纏ったダリアは美少女感が増し増し。
「御目出度う。何か…フィーネのドレスに似てるな」
「本日は御目出度う御座います。似てるも何もフィーネ様から頂いたお下がりですので」
「おぉそっかぁ。大事にしてな」
「はい」
胸元は…突っ込めない。

間に挟まれたノイちゃんにも挨拶して。
「毎年祝賀式ってここなの?」
「今年は誰かさんが居るから急遽変更に成った。これからはここに成るだろうな」

俺の所為ね。いい加減に諦めろよ…。

程なく出席者が集まりヘルメンちが壇上に立った。

全員起立して一礼。
「えー。今日と言う善き日を迎えられたのも主神である水竜様の思し召し。祝いと感謝を皆も捧げよ。座るが良い」
他が座るのを見て着席。

多少の戸惑いが見られる。王だけが立ち俺たちが座ってるのも可笑しな話だが。
「寒い中この様な場所で済まない…。さむ…くない。
スターレン。グーニャが居るのか?」
「はい陛下。私の頭の上に居ります。寒いのは嫌だなと思いまして連れて参りました」

「それは助かった。しかし礼は言わん。誰の所為でこう成ったかは言う迄も無い。では祝辞を述べる」

長い長い校長先生のお話だった。座ってなかったら貧血で倒れる所だったぜ。

年頭挨拶から始まり。昨年の出来事の総括と御講評が続き両王子も挨拶したもんだから更に延びた。

ミラン様とメルシャン様も順番に立ち簡潔な挨拶。
少しは見習え男衆。

陛下に話が戻りグーニャの暖かさですっかりウトウト。
「寝るなスターレン!!お前も何か挨拶せよ」
居眠りがバレて名指しでご指名。ここ学校だっけ?
「ハッ。嫌で御座います。あ、嘘です!」
本音が出ちゃった。
「き…。早くせよ」

壇上に立ったはいいが何を言うべきか。
取り敢えず自己紹介をして。
「昨年は色々有りました。そう望んだかは別にして善き物であったなら幸いです。
一介の商人として来国した筈!なのに今はこの様な誉れな場に立っています。
普通に商売を始めた筈!なのにどうしてこう成ったのかは解りません。
人生何が起こるか解らない物です。今年も沢山の出来事が有るでしょう。ですが皆で手を取り合い協力し合えば打破出来ぬ物は有りません。
私もその助力が出来る様邁進して行く所存です。どうぞ今年も夫婦共々、宜しくお願い致します」
気持ちの良い女性陣からの拍手を受けて壇を降りた。
他は思い思いでバラバラしてた。

文句あんならやったんぞコラ。

祝賀祭は滞り無く進み。ロロシュ氏のお言葉通りにダリア以外の王族一同が東本堂に出入りするのを遠目から見守るだけだった。




---------------

祝賀式があった元日から1週間。お祭り、各所各地の挨拶回り、実家で1泊、ペリーニャのお泊まり、サドハド島への訪問、お買い物等々で休んだのか休めてないのか解らない休日を過ごした。

指輪の位置も通信石の傍受も首飾りの分散もクワンジアの残党に大きな動きは無かった。東大陸の状況は戻ってみてのお楽しみ。本体の指輪は動いていない。

少し気に成ったのは帝国に居た首飾りの1つがマッハリアに向けて移動を開始した事。ラザーリアなら知り合いが大勢居るので飛んで火に入る冬の虫だが。北部の町は殆ど行ってはいない。注目度を上げよう。

来月以降の訪問で出会えるかも知れないが馬車とクワンで突っ切る積もりだからスルー確率大。ラザーリアに入るようなら父上に伝えてみるかな。

善い人悪い人。虫や動物も新年始め位はのんびりしましょうよ。ま、無理だろうな。

露店を巡っていると5区内の店で。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。エリュダー商団にも卸してる上質なタオルだよ~。
かの有名なシュトルフ夫妻も大のお気に入り!?と、言ってた傍から御本人登場!せんせーい寄ってって~」
威勢の良いミーシャが居た。

「久し振り。鞍替えしたの?」
「お久し振り」

「久方振りです!鞍替えも何もエリュダー商団に就職出来たんですよ。バイトしていた店にはあれ以来来なくなって業績は停滞。お給料も据え置きに成っちゃって私から見切りました。
上司にお二人と知り合いだと言うと。運試しにとこちらの店を任されました。是非ともご協力を!」
問答無用で買えと。
「買うのはいいけどなんで冬場にタオルなの?夏場ならもっと売れたでしょ」

「それは至って単純。これを織り成す上綿と秘密素材が寒くなってから採れるからなんですよ。植物も冬に備えて実付きが良くなるってもんです」

そこまで聞いてしまっては買わない訳にも行かない。強引に商品の半分位を買わされた…。

まああって困るもんでもないし。人にも配れるし。

引っ越したばかりで色々と物入りなタツリケ隊のご家族や子供が生まれるライラやペルシェさんやギャラリアさんに手当たり次第に配って大変喜ばれました。

調子に乗った俺たち夫婦は翌日には買い占めてトーム家やセルダ家その他身近な家にも配り歩いた。

結果手元に残ったのは必要最低限…。
それを見たソプランに。
「商人夫婦が元生徒に食われてどうすんだよ」
冷静に突っ込まれ。
「「やれれた!」」と成った。


ご奉仕しただけで悪い事はしていないと気分を入替えてラプシェの店とシルビィの店でお香と本を買い漁った。

俺たちは負けてない!

1区で新装開店したクラリアの道具雑貨店にも寄り幾つか購入後。静けさを求めてデニスさんの店に押し入った。

家主の2人の他にカンナも遊びに来ていた。

無断でカウンターを陣取り。
「相変わらず静かですね」
「来て早々に嫌味を言うな。開店すらしていないのに」

グラスを用意してくれたパメラが。
「本当はランチ営業も出来る位にお客さん増えたんですけどね。それをするには人手が足りなくてカンナを誘ってる所だったんですよ」
「私は兵舎で料理番と言う立派な仕事を頂きましたのでちょっと無理。お昼の食堂は戦場ですもん」
メドベドの紹介か。

「へぇ。じゃあ今は休暇中?」
「はい。メドベドは通常業務なので。こうして息抜きを」

大変だねぇと言い合ってデニスさんが。
「タツリケたちの家族で数人勧誘中だが。通勤も不便だしハイネでも仕事が溢れている現状では無理だろうな」

「そりゃあ財団で丸ごと引き受けましたから。俺の名前出せばトラブルには成りませんけど勧誘は無理でしょうね」
「ああ。今後ものんびり夜だけの営業だよ」

「私も赤ちゃん授かるかもなんで。今営業展開するのはちょっと…」
「おい。恥ずかしいだろ」
パメラの発言にデニスさんの方が赤く成った。
「恥ずかしくないですよ。当然の可能性です」

「デニスさんたちもカンナも。結婚式とかのご予定は」
ストレートに尋ねた。
「冬過ぎの。五月辺りですかね。他の成立したカップルと合同で小さくこの店でとか考え中です」
カンナが溜息を吐き。
「私たちもそれに便乗したいのですが…。メドベドが想像以上にうぶっ子で。夜も私がリードしないとキスだけで満足してしまう軟弱者で」
ゴンザよりも真面目さんだったんだメドベドって。

「過去に手痛く騙されてるから…。これ内緒ね。女性に対して強く行けないんじゃないかな。大切に思われてる証拠だよ。気持ちは解らなくもない」
「そうだったんだ。だから…あぁ納得」

悩めるカンナにフィーネがそっとお香を差し出した。
「これで落ちない男は居ませんよ。直ぐに換気が出来る2人切りのお部屋で。その覚悟が有るなら」
お香とフィーネの手を握り絞め。
「有り難う御座いますフィーネ様。明日メドベドは非番なので早速今夜使います!」

「わ、私たちには…」
「パメラには要らんでしょ。どうしても気に成るなら5区のラプシェの店で買えるよ。漂う良い香りが目印」
「おいおい。余計な物を…」

「いやいやデニスさん。興味津々な目してるよ。これだけ女性側がオープンなのにグイグイ行かないなんて。同じ男としてどうなのかなぁ」
「わ、解ったから。明日買いに行こう」
「やった♡」

2組のカップルに梃子入れして帰宅した。




---------------

用意さえた御節料理も綺麗に食べ終わり年始休暇もそろそろ終わりな7日目の朝の作戦会議。

シュルツが挙手。
「今日こそはケーキを作ります!」

何かと作って貰うタイミングが無かったから。
「それは是非お願いします。ではなくて明日からの進行予定を少々。お祭り気分でダラダラしてるとどんどん帝国行きが遅れてしまうので。
東大陸を進めに行こうと思います」

「カレイドを拠点にすると。最も深き迷宮かジャンガリの縄張か吸血姫様のお宅訪問の何れかね」

「お宅訪問したいのは山々ですが。献上品の最後の1つの鎧が完成していないので今回はパス。赤マントも反射盾も俺の煉獄剣も。ぶっちゃけ返したくない。
何とか鎧だけで満足して頂かないといけません。なので鎧を作ってからと成ります」

「確かに今お返しすると非常に困る物ばかり」

ソプランから質問。
「その鎧の材料に足りない物って何だ」
「北の大陸の奥地。極点付近に在る凍土の石英の欠片が必要。謎の集団も追ってる品だけど、それは必要分だけ先に使っちゃえば問題無い。フェンリル様が守護してんだから謎集団は無視」

「だから帝国が先って訳だな」
「そう。1月中に行けるのは最下層が丸で見えない迷宮よりもジャンガリの縄張だった場所にグーニャで強引に北側から乗り込み、サクッと落とし物拾って。吸血姫様に絡まれる前に逃げ去り。時間が余れば迷宮を覗きに行こうと思います」

心配そうにアローマが。
「逃げ切れるでしょうか。上位存在なら西の縄張に接近しただけで感じ取られてしまうような気が…」
「それはそれ。その時は俺が全身全霊で説得を試みる。
どうやらこっちからグイグイ行けば無傷で帰されるらしいからそこまで悪いお姫様でもないと思うよ」

『ジャンガリと言うのはすばしっこいだけの汚らしい鼠の事かニャ』
「そうそう。知ってる?」
『今の我輩なら難無く倒せそうニャ。猫に成って対鼠の嗅覚と俊敏性が格段に上がりましたニャン』
「残念ながらそいつは俺が倒しちゃったからもう居ない」
『…違うニャ。あいつらは一匹居たら二十は居ますニャ。
カレイドの南で嗅いだあの臭さは間違いニャい。番と子供が居ましたニャン』

「俺は…。出稼ぎに出ていた旦那カワウソを倒してしまったのか」
思わず頭を抱えてしまった。
「し、仕方ないよ。襲って来たんだもん。やらなきゃ殺されてたでしょ」

「だったらそっちはお前ら行って来いよ。俺たちは途中で潜伏してるかも知れない組織の残党を探る」
「足手纏いになりそうですし」

「そうしよっか。間違い無く討伐する事に成りそうだし」
「お互いの連絡はスマホで出来るしね」

果たしてこの選択は正しいのだろうか。有るか無いかも解らない道具の為に。吸血姫の眷属の1つを狩り尽くすと言う選択が…。

「まあいいや。行ってみて考えよう。今日は夕飯とケーキが出来るまでのんびりさせて貰うよ」

打ち合わせは終了。ケーキ作りにキッチンへ向かった女性陣に対し俺とソプランは暇。

「暇ならカジノでも行くか?年が変わって目玉も追加されてるかもだし」
「いいね。行こう行こう。フィーネ、ちょっと男2人で夕方までカジノ行って来るよ」
「えぇー。お昼はカジノで食べるの?」
「そうなるね」

「もう。残りは明日のお弁当に回すか。あんまり羽目外さないようにね」
「遅く成らない様にお願いします!」
元気なシュルツに見送られて出発。


カジノカードのコイン残高が継続出来るように成って2人共千枚ちょいずつ残っていた。

景品交換所の奥壁に貼り出された掲示板には。

頂点に君臨する流浪の…あれ?無くなってる。
「流浪が無くなった」
「どっかの物好きなコレクターが取ったんじゃねえの」
「飾るだけに百万枚もお馬鹿だねぇ」

世のコレクターが何に魅力を感じるかは自由だがそれにしても…。

代わりに1番には潮流のビスチェが5万枚。
2番が消えて3番には稀代の経典が3万枚。

「欲しいのは謎の経典より1番だな」
「五万かぁ。中々厳しい数字だぜ」

いっちょ聖馬の角を信じてやってみますかと。ルーレットとポーカーに分かれて挑戦。

紆余曲折はあったが俺が3万を越え。ソプランが1人で5万を越えた。

帰宅目標の16時前に。

特別エリアで2人して頭を悩ませる。
「途中までかなり削られたが…最後でロイヤルが来るとはなぁ。角の御利益が怖すぎる」
「俺も。昼前まで散々だったのに午後から激変した」

俺の場合は幸運の指輪があったりするが。余り幸運に恵まれ過ぎると、後の竹篦返しや揺り戻しが怖いと思ってしまう小心者です。

ビスチェだけ交換して経典はパスして次回の何か為に取って置くかを相談したが。
「俺にはよく解んねえけどよ。二つ分の枚数が揃ったんなら両方持って行けって事じゃねえのか?」
「導き…かなぁ。じゃあ両方行っちゃいますか」
持って行った方がいいなら有り難く頂きましょう。

景品を交換して控え室に戻ると支配人のオーランドさんがやって来た。

「流石はスターレン様御一行。たった二人で合計八万以上を数時間で叩き出すとは恐れ入りました」
「偶々っすよ。良い流れに乗った時に丁度手持ちが有っただけで」
「怖え位の強運だったがな」

「運も実力の内と申します。又のご来店時の為に探し回らなくては。…所で。流浪の双剣の事なのですが」
「あ、そうそう。あれどんな物好きが取ったの?」

「実は。情けない話ですが盗まれました。景品として落とされたのではなく」
「穏やかじゃねえな。何か別の装具と併用すりゃそれなりに使える武器だぞ」

「そうなのです。思い返せば当店のシステムを変更してからでしょうか。スターレン様の為と思い用意した目玉景品の数々が…一人の人物に取られ始め。
昨年に起きた王都とマッサラ北部の襲撃事件を境にパッタリと姿を見せなくなり。それと同時期に双剣が持ち去られました」
「双剣は別の場所で保管してたんでしょ」

「はい。こことは全く別の建物で。最初は内部犯や精通者を疑いましたが特に確証は得られず。警備が交代する隙を突かれたか、襲撃時の規制が入った時だったのか。
規制が解除された翌日に確認しに行くと忽然と消えていました」

「都内で襲って来た連中の中には持ってる奴は居なかったな。城の押収品の中にも」
「マッサラの北にも居なかった。それなりにいい武装してたけど流浪は見てない」

「どっか別の場所に流れたな。その他の目玉ってのはどんな物だったんだ」
「消費魔力を大幅に削減する腕輪と。武具の特性だけを増幅させる腕輪。そして…双剣を落下させても必ず手元に戻るグローブです」

「うわぁ。嫌な組み合わせ。確実に同一犯だね。昨年の時はどれも見てないから多分もうタイラントには無いよ」
「犯人は俺たちが追ってる連中かも知れないが。取り返すのは手間だ。あんたはどうして欲しい?」
「取り戻すのは危険です。是非とも破壊して下さい。戒めなら物が消えても心に刻むだけの話ですから」

「その方が早くて助かります」
その場で世界地図を開いて羅針盤をパージェントに置いて発動してみた。

双剣の在処を示したのは…。最も深き迷宮の辺り。
「双剣の現在位置は東大陸の迷宮です。今の所は人に向けてよりも迷宮の魔物を倒す為に使ってますね」
それを聞いてオーランドさんは胸を撫でた。
「それを聞けただけでも安心しました」

「因みに最近まであった2番の景品って」
「ああそれなら。小型の収納袋で昨年からコツコツ貯めていたジェシカが嬉しそうに持って行きましたよ」
なーんだ言ってくれればいいのに。でも好きなデザインとか色々有るか。

新作のブランドバッグ的なノリ。女の人好きだもんなぁ。


自宅に戻って夕食前に軽く打ち合わせ。

「どうすんだ。迷宮踏破されちまうかも知れねえだろ」
「大丈夫だよ。やれるもんならやってみろって感じだし。奴らの目的は結晶石だけだから。俺たちの目的は最下層のベルさんが書いた大全集だから」

シュルツが心配そうに。
「それも取られてしまったら大変な事に成るのでは」
「大丈夫。ベルさんが仕掛けたギミックはそう簡単に破られるもんじゃない。多分俺かフィーネじゃないと解けない物だろうと思う。それに前代の勇者もスルーした迷宮を踏破出来るなら敵の実力も大体把握出来るし」

「最悪そいつらから奪い取るってか」
「どうかなぁ。そこまで非道な事は今は考えてないよ。
あの本を正しく理解出来る人は少ないから。奪取よりも焼却するかな」
他人に読まれる位なら。

漂う甘い香りに心が満たされる。
「あ、スタンなら香りだけで解ると思うけど言わないで。
後でみんなで食べる時まで黙ってて」
「はーい」
何だか急激に腹が減って来た。

夕食のメニューは鰤の照り焼きとポークステーキがメインだった。メインが濃い味で添え物のボイル野菜が落着かせる感じだ。
白米と漬物もサッパリとしてメインに良く合う。

スープはあっさり目に仕上げたコーンポタージュ。硬めに揚げたクルトンも忘れていない。

「有り難うフィーネ。みんなも。去年までの質素なお祝いとは比べ物に成らない。豪華で沢山の愛情を感じる。
身も心も温まるよ」
ちょっと涙が出た。
「久々に泣き虫スタンさんが出ましたねぇ。頑張った甲斐が有りました」

一通り味わったロロシュ氏が。
「これらをシュルツも手伝ったのか」
「私は殆ど。プリタさんと一緒に味見担当でした。お料理の道は奥が深くて楽しいです。誰かの為に作る。食べて貰えて喜んでくれるのは素直に嬉しい物ですね」

「うむ。料理長が出す料理にも劣らない。何時かシュベインらが戻って来た時にでも披露してやると良い。きっと驚いて腰を抜かすぞ。…フィーネ嬢、米はもっと無いのか」
「後で取って置きのケーキを出すのでそれで我慢して下さい。それ以上は食べ過ぎです」
「むぅ」

全員の食べ終わりを待ち出されたホールケーキ。
栗の甘い匂いで解ってしまったモンブランケーキだった。
しかしこの世界にモンブランは存在しない。マロンクリームケーキか。

「スタンの為に作ったケーキだからあなたが皆の分を切り分けて」
「あいよ!ホントは独り占めしたいけど」
ロロシュ氏が瞬時にムッとした。
「冗談ですって」

デコレーションはシンプルでメッセージチョコなど無くても前世を含めて最も贅沢なケーキだった。

人数分を均等に切り分けるのは難しかったが一番大きい所を我が儘で俺が頂いた。

マロンクリームで外側をコーティング。スポンジ生地の真ん中には生クリームと完熟黄桃がザク切りで挟まれて栗の濃厚さを良い具合に抑えていた。

「栗と桃って合うんだな。この発想は無かった」
「苺か悩んだけどね。それだと酸味がキツいかなって。他には何か気付きませんか?」
他に…は生地だ。
「生地がしっとりしてる」
「挽き治した上小麦粉に同じく挽いた米粉を配合したの。バターを控えつつしっとり感を出したくて。いいでしょ」
「いい!全体的に甘さ控え目で幾らでも食べられそうだ」
「良かったぁ」

アローマとミランダもホッとした表情で味わっていた。

「ここにも米が使われているのか。それで夕食では控えたのだな」
「お察しの通り」

「わしも食べる専門で文句ばかり言って来たが…。これは絶品だ。未知の味と組み合わせ。ミランダ、余さず料理長に伝授せよ」
「畏まりました。明日にでも必ず」

「グルメ馬鹿のカメノスが悔しがる顔が目に浮かぶ」
悪い顔で笑ってら。

南東が開放されたら米の納入と発展は早く成りそうだ。
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
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 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
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弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

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