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第102話 南方への視察02
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色々と巻き込まれて来た俺たちだが、他人のお家騒動にまで巻き込まれなきゃいけない謂われは微塵も無い。
無い訳だが切っ掛けを作った人間として、フィーネさんの言う通り責任は有る。
バートハイト家の当主の婆さんが皆大好き魔道具収集家である事を鑑みれば、盗聴器や監視カメラ等のスパイ用品のお取り扱いをしていても何も可笑しくはない。
個人的には存在していて欲しい方面の人間です。ですがいざ自分の身に降り掛かろう物なら犯人を八つ裂きにして燃やし尽くします。
と前置きを並べて午前にノイちゃんの執務室に片眼鏡を持参してお邪魔した。
嫁はラフドッグに買い物序でのクラリア訪問に行ってる。
誤解無きよう室内の3人に黙って立ち仕事をして貰っている間に机の下、壁際、椅子の裏、窓枠、隅々まで調べ倒した。
在った。存在してしまった。
一瞬出会いたくない生物No.1のGかと見紛う黒い物体。
それがノイちゃんのデスクの脚の裏手に貼り付いてた。
ストールハンカチでそっと掴んで取り外した。
黒く光沢を持つ小さな供試体。
名前:盗声の耳(送信側)
性能:送信器周辺15m内の音声を受信側に送る
受信可能距離:直線20km内
特徴:焦がれるあの子の声が聞きたいと執念を燃やした
愚か者の遺作
使う前に死んだのか。可哀想にな。
3人に見せた後ハンカチで包んで一息。
筆談で「何か遮音出来る小箱無い?」
ノイちゃん「思い当たる物は無い」
ライラ「これが盗聴器?」
俺「そう。これの相方が居る。持ってる奴が犯人」
ニーダ「気持ち悪いです。色も存在も」
対策考えて取りに戻ると書いて盗聴器を元の位置に貼り直し退出した。
これまで沢山の小箱も収集して来たが完全遮音可能な箱は無かった。
気密性が高いだけでは不充分。フィーネにサイレントリバイブでも掛けて貰って試作してみよう。視察出発間近で靴作りで忙しいシュルツには頼めない。
受信器の形が不明では捜索の笛も使えない。さてさてどうしたもんか。犯人特定とセットで陛下に進呈したい所だ。
帰宅後にお留守番していたクワンの前でリビングテーブルの上に幾つか小箱を並べた。
中でもタングステン弾が入っていた箱が最も頑丈で気密性が高かった。
遅れて帰宅したフィーネを交えて報告し合った。
クラリアは拳を振わしてやっと自由に成れると大層喜んでいたらしい。
俺はGみたいな色した盗聴器を発見したと報告。
「完全遮音出来る箱が欲しいなと思って引き返して来た。犯人捜しはそれから」
「それで小箱並べてるのね」
「サイレントとリバイブで試して貰えないかと思って」
「ほうほう。良さげな箱は何れかしら」
弾入れ箱をお勧めし、早速開始。
苦心する間も無く改造完了。
名前:沈黙の箱
性能:遮蔽された箱内を無音にする
特徴:あの人の声は誰にも届かない
「ちょいと不気味な説明文だけど。出来たな」
「作れちゃうもんねぇ。私シュルツと一緒に万屋に転職しようかな」
二枚貝を使って動作確認。万事満了何も聞こえない。
転職は今は勘弁して下さいとお願いして。ノイちゃんの執務室に引き返した。
盗聴器を回収。
「いやーホントに実在するもんだね。盗聴器」
「犯人が身内に居ると思うと情けないやら恥ずかしいやらだが、見つけ出すのが難しいな」
「陛下に相談して来るよ。こっちは被害者なんだし堂々と捜せる」
さて置きフィーネからクラリアの返答を伝えた。
「手間を掛けさせて済まなかった。後は絶縁のタイミングだけか…」
「それは頑張って。じゃあ行って来るよ」
「頼む」
執務室から後宮に向かい陛下にお目通り願い。丁度帰還したメイザー王太子が陛下に遠征結果の報告をしている所だった。
同席者はメルシャン様とキャルベスタ。
「呼ばれる前に来るとは良い心懸けだ」
「いえ偶々別件でお伺いに来てただけで」
「同席しても宜しいでしょうか」
「勿論だ。お前たちも当事者なのだから。共に報告を聞いて行け」
「「ハッ」」
メイザー太子の報告内容に予想外な点は特に無く。良好な折衝内容。条約解除も滞り無く締結された。
「向こうでの滞在中に例のクワンジア案件の書が届けられたのは恐ろしい偶然だったが。あの内容には驚いたぞ」
「嫌な事思い出させないで下さいよ。こっちはチンピラに絡まれてグリエル様共々いい迷惑です」
「1年後に必ず呼ばれる私たちの身にも成って下さい」
ハハハと軽笑いされた。
「いや済まん。西の大国も君らに震え上がる日が来ると思うと可笑しくてな」
遠征報告が終わった所で尚も続き。
「そうそう。弟君がスターレン殿に頻りに会いたがっていたぞ。父君に隠れて内密にと伝言を頼まれた」
「甘えん坊だなぁ…」
「相談出来る相手が居ないのよ。行ってあげたら?」
「仕方が無いので近日中に転移で様子を見て参ります」
「うむ。大事なら後で報告せよ。それでお前たちの伺い内容とは何だ」
「少々面倒なお家騒動に巻き込まれておりまして」
と前置きしてノイツェの件と執務室で発見した盗聴器に付いて説明した…。
箱の蓋を閉じて激高。器用だ。
「余の城に罠を仕掛けただと!!今直ぐ兵を率いてバートハイト本家を血祭りに」
「怒りを鎮めて下さい。犯人の特定とこれの受信器は私が探しますから」
「責めてノイツェ殿が離脱してからにしましょう。挙兵しなくとも私たちが関係者を全員捕えて連れて参ります」
陛下の鼻息が落着くのを待ち。
「何か捜索に有用な道具はご存じないですか?」
「…離れた場所の付随品を探す道具か」
ここでキャルベスタが挙手。
「先日のバザーで購入した物の中に、確か類似する物が在った気がします」
俺がスルーした便利グッズの中に…。
「キャルベスタ殿も参加されてたんですね」
「ええ、まあ」
「余計な事は言わんで良い。前回以外は偽装させたキャルベに参加させていた。覆面をしようとそんな場所に王族が出られんからな」
納得。前回は側近の誰かに行かせたんだろう。
報告相談会を解散し、昼休憩を挟んで購入品を収めた宝物殿に入場。
フィーネから男の浪漫が削られた双眼鏡を借用。本人はメルシャン様たちとのお茶会で欠席した。
代わりにキャルが同伴。購入した本人だもの。
1階部の片隅に今回の購入品が雑然と並べられていた。
「まだ仕分け前でな。後でじっくりと眺めるのが私の唯一の趣味」
「陛下の魔道具への愛は解りましたから。手に取っても宜しいですか?」
好きにせよとのお達しを受け。
「キャルベスタ殿。何れの事ですか?」
自分的には何も引っ掛かる物が見付からない。
「その真ん中の棒状の物ではないかと」
一見只の真鍮の円錐棒。溶かす前の棒材にも見える。
名前:反響の指針棒
性能:振った震動の反響波が拾える
特徴:失明状態で自分の位置を把握する為に作成された
独自の高周波を放ち出す不思議な棒
「対象物に音が届くなら。逆も又然り、ではないのかと」
「なるほど!いいっすね。試す価値はあります。陛下、これをお借りしても」
「むぅ。そうだな。貸与は許す。任務で使い終えたら盗聴器と抱き合わせで返却しろ」
「中々商売上手ですねぇ陛下も。仕掛けた犯人、上手く使えれば本日中に捕まえられます。何処に突き出せば宜しいでしょうか」
「城内なら王宮広間。外部に居たらメドベドの所に連れて来い」
「賜りました。必ず捕えて参ります」
見えない敵を召し捕る大捕物。は起きず。犯人は意外にも近場に居た。
王宮料理番の給仕副長イサベル。女性のような名前の紳士的な男性だった。
確かにこの人なら城内の何処にでも入り込める。
長年城に従順に努めて来たベテランさん。勿体ない。
後宮にも料理を運んだ事も有り、陛下とも面識を持つ。犯人の彼を見た時のヘルメンの落胆は、非常に大きな物となった。
「残念だ、イサベル。余を裏切り、庭を汚すとはな」
「…申し訳、御座いません」
「家族の者を人質に取られておるのか」
「そこまで非道な事情は在りません。人に害を及ぼさない道具での簡単な依頼。その法外な報酬に目が眩んだだけで御座います」
事はそこまで複雑でも無い。人命が関わる程でもない。
しかし罪は罪。裁定は陛下の判断だ。
「この道具の他に類似品は存在するのか」
「私の知り得る中ではこれだけです」
「他に城を汚す輩は居るのか」
「いいえ。ノイツェ様の動向を探る上での連絡員は数名居りますが。主犯は私だけです」
自棄にスラスラと。誰かを庇っているとも聞こえる。
フィーネを垣間見たが彼女は首を横に振った。
前以て返答を準備していたのか。
陛下もフィーネの反応を見てから。
「お前が知る関係者。ノイツェの邸宅に従事するバートハイト家に縁在る者全て捕えよ。処分は保留するが牢には入れる。ノイツェ」
「ハッ!」
「お前の家の不始末はお前の手で片付けろ。バインカレから全ての執行権を剥奪。財は差し押さえ没収。動けぬ老害なら住み慣れたラフドッグで幽閉処分とする。仕事はギルマートに任せ、早急に対処せよ。
抵抗を示すならば極刑を命ずる!」
自分で自分の母親を討つ、か。抵抗せずに素直に投降して欲しいと切に願う。
「御拝命。直ちに」
「スターレン。ノイツェと共に王都憲兵隊を差し向ける。準備出来次第南へ送ってやれ。もしも老婆が魔道具を行使する様なら、手助けしてやってくれ」
「拝命。賜りました」最後まで見届けるお役目か。
「フィーネも余力あらば同行を頼む」
「ハッ」
話は重いが俺たちが出来る事は少ない。婆さんがどんな魔道具を持っているかが難点。今は待つのみ。
---------------
帰宅して朝から出汁醤油に漬けていた鶏腿肉を卵を潜らせ砕いたナッツ入りの片栗粉を塗して揚げ揚げ。
「小麦粉じゃないんだ」
「表面は黒っぽくなるけど。一度揚げでカリカリが長持ちする。冷めても美味しい。小麦だけだとどうしてもベシャっとするからさ」
「これが我が家の味になるのね」
「良い事言いますねぇ。愛してるぜフィーネさん」
「私も愛してるよスタンさん」
ダイニングの片隅に座るマリカが隣のアローマに問う。
「何時も。あんな感じなのですか?」
「あれで平常ですね。人が居ないと腕まで組んで抱き合って離れません」
「とても真似出来ない…」
「真似は常人には無理でしょう」
羨む一方で局所的な暑苦しさを感じるマリカであった。
大量に揚げた唐揚げも来客で全て消化し切った。
「残らない…」
「作った分だけ人が来ちゃう…」
「クワァ…」
大蒜が苦手だったシュルツもパクパク。
今日もお越しのノイちゃんは半ば自棄糞で。
御年で胃が弱ってる?ロロシュ氏も全然平気。
クワンも最初の1個目こそ戸惑っていたがガツガツ。
消え去る前に俺たちも負けじと。
ライラはこっそり堂々と弁当箱に詰め込み。
ニーダもそれを真似し出す。
護衛も執事も侍女3人も見習いさんも遂に、遠慮が無くなった。
俺たちは、初手の選択を間違えたのかも知れない。
「次からはアローマさんたちにも作って貰うから」
「嫁入り修行だと思って頑張って」
「「「はい…」」」
「ソプランとカーネギも食ってばっかじゃなくて。折角シュルツにポーチ貰ったんだから買い出しとか行ってよ」
「う…うす」
「お、怒ってる?」
「ほんの少し。もう少し味わって食べてよ」
「特に2人は食べ方汚いし」
「「すんません」」
「まあいいや。でノイちゃん。こんな所で油売ってていいの?」
「先布令は先程送った。遠征隊は明日中に編制する。出発がロロシュ卿と被るが、こちらは明後日に頼みたい。
詰り時間は余裕だが、作り手が一時収監されてしまって今日明日の食事が無い。許せ。何なら別宅の貯蔵ワインを半分進呈しよう」
「別に食べに来るのはいいよ。ノイちゃんグルメなのに料理はしない派?」
「全くしない派だ」自信満々に。
「マリカさん苦労しそう」
「本宅が整ったら侍女や料理番を雇い直すから心配は要らないぞ。家事が好きならやってくれても良いが。マリカには全く別の仕事も用意してある」
「それはどの様な」
「まだ詳細は語れない。しかし第六区に関わる仕事だと伝えておくよ」
「六区…ですか」
「行き成り難しい仕事は割り振らないさ。時が来たら内容をしっかり吟味して選択して欲しい」
「はい。解りました」
「遂に動き出すんだ」奴隷区開放に向けて。
「まだまだ先だ。それに向けての足場を構築する作業が始まるだけさ」
優しげに語るノイちゃんの様子から察するに、どうやら危険は無いようだ。
「明日は俺もフィーネも丸1日ここに居ないから。何か連絡があったらシュルツかアローマに回してね」
「承知した」
会話の終わりにロロシュ氏が。
「明日は出掛けるのか。2人とシュルツに見せたい物がある。朝食後にでも本棟に寄ってくれ」
「解りました」何だろ急に改まって。
「必ず伺います」
「そう畏まる話でもない。楽に来ると良いぞ」
---------------
俺はマッハリアへ。フィーネは古代遺跡への準備支度で朝はバタバタ。
今日は俺が義眼を持ち、架振をフィーネが持って出る。
クワンは自由にお散歩。家にはアローマ以下三人衆の誰かに居て貰い男子禁制化した。
フィーネが武装する前に本棟に立ち寄った。
今日は遅出らしいロロシュ氏は俺たちが行くとゼファーさんとシュルツだけを連れ本棟1階の奥へと足を向けた。
奥と言えば…ロロシュ氏の私室方面。書庫よりも更に奥で俺たちは疎か邸内の人間でも立ち入りが数人に限られる家族だけのスペースだ。
「どうしたんですか急に」
「いやな。そちらの自宅ばかりに押し掛けて置きながら、自分だけ私有を誇示するのも気が引ける。その様な理由で深い意味は無い。
シュルツにも入らせる切っ掛けが掴めず…と考えていたら時が過ぎた」
「御爺様…」
「ここはロロシュさんの邸内ですから。好きな様に振舞うのは何も思いませんよ」
「俺たち居候みたいなもんだしな」
「まあそう言ってくれるな。…見せたい物とはあれだ」
広いリビングスペースの奥。冬用暖炉の右手に鎮座する石像。総本堂の石像よりは縮小版ではあるが、それでも立派な水竜様の石像だった。
ロロシュ氏はここでお祈りしてたのか。
「ここは妻のテラサの為に建てた家。正門側の本棟は後付けの増築だ」増築部の方が遙かに大きいと言う。
「今日からこちらで祈りを捧げてもいいですか?」
「そうしてくれ。一人で抱えていても得は無く水竜様にも失礼だ。シュルツが無事に戻って来た時に本棟側へ移設する案も浮かんだがどうにも動かし辛くてな」
4人横並びで祈りを捧げ、ゼファーさんは後方で膝を落とした。
立ち上がり見渡した間取りは自宅のリビングスペースに似通うと感じた。…考案者が同じなら当然だな。
ロロシュ氏にお礼を言って帰ろうとした時。フィーネが水竜様の右首の眼上を指先で撫でていた。
「何か気になる?」
「ううん。何でもない」
失礼しますとお暇した。
俺とクワンは唐揚げ弁当を。フィーネは改良型解毒剤、強壮剤、海蛇の生血、檸檬水を混ぜた栄養ドリンク水袋を準備して。
水没ダンジョン入口の滝前で各自解散。
「気を付けて」
「お互いに。クワンティもね」
「クワッ」
カッチカチの唇に強引にキス。彼女の舌は何時も通りの柔らかさで安心した。
「スタンの口が切れちゃったじゃない」
「したかったんだ。気にしない気にしない」
万全の体制でそれぞれの目的地へと旅立った。
無い訳だが切っ掛けを作った人間として、フィーネさんの言う通り責任は有る。
バートハイト家の当主の婆さんが皆大好き魔道具収集家である事を鑑みれば、盗聴器や監視カメラ等のスパイ用品のお取り扱いをしていても何も可笑しくはない。
個人的には存在していて欲しい方面の人間です。ですがいざ自分の身に降り掛かろう物なら犯人を八つ裂きにして燃やし尽くします。
と前置きを並べて午前にノイちゃんの執務室に片眼鏡を持参してお邪魔した。
嫁はラフドッグに買い物序でのクラリア訪問に行ってる。
誤解無きよう室内の3人に黙って立ち仕事をして貰っている間に机の下、壁際、椅子の裏、窓枠、隅々まで調べ倒した。
在った。存在してしまった。
一瞬出会いたくない生物No.1のGかと見紛う黒い物体。
それがノイちゃんのデスクの脚の裏手に貼り付いてた。
ストールハンカチでそっと掴んで取り外した。
黒く光沢を持つ小さな供試体。
名前:盗声の耳(送信側)
性能:送信器周辺15m内の音声を受信側に送る
受信可能距離:直線20km内
特徴:焦がれるあの子の声が聞きたいと執念を燃やした
愚か者の遺作
使う前に死んだのか。可哀想にな。
3人に見せた後ハンカチで包んで一息。
筆談で「何か遮音出来る小箱無い?」
ノイちゃん「思い当たる物は無い」
ライラ「これが盗聴器?」
俺「そう。これの相方が居る。持ってる奴が犯人」
ニーダ「気持ち悪いです。色も存在も」
対策考えて取りに戻ると書いて盗聴器を元の位置に貼り直し退出した。
これまで沢山の小箱も収集して来たが完全遮音可能な箱は無かった。
気密性が高いだけでは不充分。フィーネにサイレントリバイブでも掛けて貰って試作してみよう。視察出発間近で靴作りで忙しいシュルツには頼めない。
受信器の形が不明では捜索の笛も使えない。さてさてどうしたもんか。犯人特定とセットで陛下に進呈したい所だ。
帰宅後にお留守番していたクワンの前でリビングテーブルの上に幾つか小箱を並べた。
中でもタングステン弾が入っていた箱が最も頑丈で気密性が高かった。
遅れて帰宅したフィーネを交えて報告し合った。
クラリアは拳を振わしてやっと自由に成れると大層喜んでいたらしい。
俺はGみたいな色した盗聴器を発見したと報告。
「完全遮音出来る箱が欲しいなと思って引き返して来た。犯人捜しはそれから」
「それで小箱並べてるのね」
「サイレントとリバイブで試して貰えないかと思って」
「ほうほう。良さげな箱は何れかしら」
弾入れ箱をお勧めし、早速開始。
苦心する間も無く改造完了。
名前:沈黙の箱
性能:遮蔽された箱内を無音にする
特徴:あの人の声は誰にも届かない
「ちょいと不気味な説明文だけど。出来たな」
「作れちゃうもんねぇ。私シュルツと一緒に万屋に転職しようかな」
二枚貝を使って動作確認。万事満了何も聞こえない。
転職は今は勘弁して下さいとお願いして。ノイちゃんの執務室に引き返した。
盗聴器を回収。
「いやーホントに実在するもんだね。盗聴器」
「犯人が身内に居ると思うと情けないやら恥ずかしいやらだが、見つけ出すのが難しいな」
「陛下に相談して来るよ。こっちは被害者なんだし堂々と捜せる」
さて置きフィーネからクラリアの返答を伝えた。
「手間を掛けさせて済まなかった。後は絶縁のタイミングだけか…」
「それは頑張って。じゃあ行って来るよ」
「頼む」
執務室から後宮に向かい陛下にお目通り願い。丁度帰還したメイザー王太子が陛下に遠征結果の報告をしている所だった。
同席者はメルシャン様とキャルベスタ。
「呼ばれる前に来るとは良い心懸けだ」
「いえ偶々別件でお伺いに来てただけで」
「同席しても宜しいでしょうか」
「勿論だ。お前たちも当事者なのだから。共に報告を聞いて行け」
「「ハッ」」
メイザー太子の報告内容に予想外な点は特に無く。良好な折衝内容。条約解除も滞り無く締結された。
「向こうでの滞在中に例のクワンジア案件の書が届けられたのは恐ろしい偶然だったが。あの内容には驚いたぞ」
「嫌な事思い出させないで下さいよ。こっちはチンピラに絡まれてグリエル様共々いい迷惑です」
「1年後に必ず呼ばれる私たちの身にも成って下さい」
ハハハと軽笑いされた。
「いや済まん。西の大国も君らに震え上がる日が来ると思うと可笑しくてな」
遠征報告が終わった所で尚も続き。
「そうそう。弟君がスターレン殿に頻りに会いたがっていたぞ。父君に隠れて内密にと伝言を頼まれた」
「甘えん坊だなぁ…」
「相談出来る相手が居ないのよ。行ってあげたら?」
「仕方が無いので近日中に転移で様子を見て参ります」
「うむ。大事なら後で報告せよ。それでお前たちの伺い内容とは何だ」
「少々面倒なお家騒動に巻き込まれておりまして」
と前置きしてノイツェの件と執務室で発見した盗聴器に付いて説明した…。
箱の蓋を閉じて激高。器用だ。
「余の城に罠を仕掛けただと!!今直ぐ兵を率いてバートハイト本家を血祭りに」
「怒りを鎮めて下さい。犯人の特定とこれの受信器は私が探しますから」
「責めてノイツェ殿が離脱してからにしましょう。挙兵しなくとも私たちが関係者を全員捕えて連れて参ります」
陛下の鼻息が落着くのを待ち。
「何か捜索に有用な道具はご存じないですか?」
「…離れた場所の付随品を探す道具か」
ここでキャルベスタが挙手。
「先日のバザーで購入した物の中に、確か類似する物が在った気がします」
俺がスルーした便利グッズの中に…。
「キャルベスタ殿も参加されてたんですね」
「ええ、まあ」
「余計な事は言わんで良い。前回以外は偽装させたキャルベに参加させていた。覆面をしようとそんな場所に王族が出られんからな」
納得。前回は側近の誰かに行かせたんだろう。
報告相談会を解散し、昼休憩を挟んで購入品を収めた宝物殿に入場。
フィーネから男の浪漫が削られた双眼鏡を借用。本人はメルシャン様たちとのお茶会で欠席した。
代わりにキャルが同伴。購入した本人だもの。
1階部の片隅に今回の購入品が雑然と並べられていた。
「まだ仕分け前でな。後でじっくりと眺めるのが私の唯一の趣味」
「陛下の魔道具への愛は解りましたから。手に取っても宜しいですか?」
好きにせよとのお達しを受け。
「キャルベスタ殿。何れの事ですか?」
自分的には何も引っ掛かる物が見付からない。
「その真ん中の棒状の物ではないかと」
一見只の真鍮の円錐棒。溶かす前の棒材にも見える。
名前:反響の指針棒
性能:振った震動の反響波が拾える
特徴:失明状態で自分の位置を把握する為に作成された
独自の高周波を放ち出す不思議な棒
「対象物に音が届くなら。逆も又然り、ではないのかと」
「なるほど!いいっすね。試す価値はあります。陛下、これをお借りしても」
「むぅ。そうだな。貸与は許す。任務で使い終えたら盗聴器と抱き合わせで返却しろ」
「中々商売上手ですねぇ陛下も。仕掛けた犯人、上手く使えれば本日中に捕まえられます。何処に突き出せば宜しいでしょうか」
「城内なら王宮広間。外部に居たらメドベドの所に連れて来い」
「賜りました。必ず捕えて参ります」
見えない敵を召し捕る大捕物。は起きず。犯人は意外にも近場に居た。
王宮料理番の給仕副長イサベル。女性のような名前の紳士的な男性だった。
確かにこの人なら城内の何処にでも入り込める。
長年城に従順に努めて来たベテランさん。勿体ない。
後宮にも料理を運んだ事も有り、陛下とも面識を持つ。犯人の彼を見た時のヘルメンの落胆は、非常に大きな物となった。
「残念だ、イサベル。余を裏切り、庭を汚すとはな」
「…申し訳、御座いません」
「家族の者を人質に取られておるのか」
「そこまで非道な事情は在りません。人に害を及ぼさない道具での簡単な依頼。その法外な報酬に目が眩んだだけで御座います」
事はそこまで複雑でも無い。人命が関わる程でもない。
しかし罪は罪。裁定は陛下の判断だ。
「この道具の他に類似品は存在するのか」
「私の知り得る中ではこれだけです」
「他に城を汚す輩は居るのか」
「いいえ。ノイツェ様の動向を探る上での連絡員は数名居りますが。主犯は私だけです」
自棄にスラスラと。誰かを庇っているとも聞こえる。
フィーネを垣間見たが彼女は首を横に振った。
前以て返答を準備していたのか。
陛下もフィーネの反応を見てから。
「お前が知る関係者。ノイツェの邸宅に従事するバートハイト家に縁在る者全て捕えよ。処分は保留するが牢には入れる。ノイツェ」
「ハッ!」
「お前の家の不始末はお前の手で片付けろ。バインカレから全ての執行権を剥奪。財は差し押さえ没収。動けぬ老害なら住み慣れたラフドッグで幽閉処分とする。仕事はギルマートに任せ、早急に対処せよ。
抵抗を示すならば極刑を命ずる!」
自分で自分の母親を討つ、か。抵抗せずに素直に投降して欲しいと切に願う。
「御拝命。直ちに」
「スターレン。ノイツェと共に王都憲兵隊を差し向ける。準備出来次第南へ送ってやれ。もしも老婆が魔道具を行使する様なら、手助けしてやってくれ」
「拝命。賜りました」最後まで見届けるお役目か。
「フィーネも余力あらば同行を頼む」
「ハッ」
話は重いが俺たちが出来る事は少ない。婆さんがどんな魔道具を持っているかが難点。今は待つのみ。
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帰宅して朝から出汁醤油に漬けていた鶏腿肉を卵を潜らせ砕いたナッツ入りの片栗粉を塗して揚げ揚げ。
「小麦粉じゃないんだ」
「表面は黒っぽくなるけど。一度揚げでカリカリが長持ちする。冷めても美味しい。小麦だけだとどうしてもベシャっとするからさ」
「これが我が家の味になるのね」
「良い事言いますねぇ。愛してるぜフィーネさん」
「私も愛してるよスタンさん」
ダイニングの片隅に座るマリカが隣のアローマに問う。
「何時も。あんな感じなのですか?」
「あれで平常ですね。人が居ないと腕まで組んで抱き合って離れません」
「とても真似出来ない…」
「真似は常人には無理でしょう」
羨む一方で局所的な暑苦しさを感じるマリカであった。
大量に揚げた唐揚げも来客で全て消化し切った。
「残らない…」
「作った分だけ人が来ちゃう…」
「クワァ…」
大蒜が苦手だったシュルツもパクパク。
今日もお越しのノイちゃんは半ば自棄糞で。
御年で胃が弱ってる?ロロシュ氏も全然平気。
クワンも最初の1個目こそ戸惑っていたがガツガツ。
消え去る前に俺たちも負けじと。
ライラはこっそり堂々と弁当箱に詰め込み。
ニーダもそれを真似し出す。
護衛も執事も侍女3人も見習いさんも遂に、遠慮が無くなった。
俺たちは、初手の選択を間違えたのかも知れない。
「次からはアローマさんたちにも作って貰うから」
「嫁入り修行だと思って頑張って」
「「「はい…」」」
「ソプランとカーネギも食ってばっかじゃなくて。折角シュルツにポーチ貰ったんだから買い出しとか行ってよ」
「う…うす」
「お、怒ってる?」
「ほんの少し。もう少し味わって食べてよ」
「特に2人は食べ方汚いし」
「「すんません」」
「まあいいや。でノイちゃん。こんな所で油売ってていいの?」
「先布令は先程送った。遠征隊は明日中に編制する。出発がロロシュ卿と被るが、こちらは明後日に頼みたい。
詰り時間は余裕だが、作り手が一時収監されてしまって今日明日の食事が無い。許せ。何なら別宅の貯蔵ワインを半分進呈しよう」
「別に食べに来るのはいいよ。ノイちゃんグルメなのに料理はしない派?」
「全くしない派だ」自信満々に。
「マリカさん苦労しそう」
「本宅が整ったら侍女や料理番を雇い直すから心配は要らないぞ。家事が好きならやってくれても良いが。マリカには全く別の仕事も用意してある」
「それはどの様な」
「まだ詳細は語れない。しかし第六区に関わる仕事だと伝えておくよ」
「六区…ですか」
「行き成り難しい仕事は割り振らないさ。時が来たら内容をしっかり吟味して選択して欲しい」
「はい。解りました」
「遂に動き出すんだ」奴隷区開放に向けて。
「まだまだ先だ。それに向けての足場を構築する作業が始まるだけさ」
優しげに語るノイちゃんの様子から察するに、どうやら危険は無いようだ。
「明日は俺もフィーネも丸1日ここに居ないから。何か連絡があったらシュルツかアローマに回してね」
「承知した」
会話の終わりにロロシュ氏が。
「明日は出掛けるのか。2人とシュルツに見せたい物がある。朝食後にでも本棟に寄ってくれ」
「解りました」何だろ急に改まって。
「必ず伺います」
「そう畏まる話でもない。楽に来ると良いぞ」
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俺はマッハリアへ。フィーネは古代遺跡への準備支度で朝はバタバタ。
今日は俺が義眼を持ち、架振をフィーネが持って出る。
クワンは自由にお散歩。家にはアローマ以下三人衆の誰かに居て貰い男子禁制化した。
フィーネが武装する前に本棟に立ち寄った。
今日は遅出らしいロロシュ氏は俺たちが行くとゼファーさんとシュルツだけを連れ本棟1階の奥へと足を向けた。
奥と言えば…ロロシュ氏の私室方面。書庫よりも更に奥で俺たちは疎か邸内の人間でも立ち入りが数人に限られる家族だけのスペースだ。
「どうしたんですか急に」
「いやな。そちらの自宅ばかりに押し掛けて置きながら、自分だけ私有を誇示するのも気が引ける。その様な理由で深い意味は無い。
シュルツにも入らせる切っ掛けが掴めず…と考えていたら時が過ぎた」
「御爺様…」
「ここはロロシュさんの邸内ですから。好きな様に振舞うのは何も思いませんよ」
「俺たち居候みたいなもんだしな」
「まあそう言ってくれるな。…見せたい物とはあれだ」
広いリビングスペースの奥。冬用暖炉の右手に鎮座する石像。総本堂の石像よりは縮小版ではあるが、それでも立派な水竜様の石像だった。
ロロシュ氏はここでお祈りしてたのか。
「ここは妻のテラサの為に建てた家。正門側の本棟は後付けの増築だ」増築部の方が遙かに大きいと言う。
「今日からこちらで祈りを捧げてもいいですか?」
「そうしてくれ。一人で抱えていても得は無く水竜様にも失礼だ。シュルツが無事に戻って来た時に本棟側へ移設する案も浮かんだがどうにも動かし辛くてな」
4人横並びで祈りを捧げ、ゼファーさんは後方で膝を落とした。
立ち上がり見渡した間取りは自宅のリビングスペースに似通うと感じた。…考案者が同じなら当然だな。
ロロシュ氏にお礼を言って帰ろうとした時。フィーネが水竜様の右首の眼上を指先で撫でていた。
「何か気になる?」
「ううん。何でもない」
失礼しますとお暇した。
俺とクワンは唐揚げ弁当を。フィーネは改良型解毒剤、強壮剤、海蛇の生血、檸檬水を混ぜた栄養ドリンク水袋を準備して。
水没ダンジョン入口の滝前で各自解散。
「気を付けて」
「お互いに。クワンティもね」
「クワッ」
カッチカチの唇に強引にキス。彼女の舌は何時も通りの柔らかさで安心した。
「スタンの口が切れちゃったじゃない」
「したかったんだ。気にしない気にしない」
万全の体制でそれぞれの目的地へと旅立った。
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