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第98話 南方視察準備諸々04
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人は失敗無くして成長無し。シュルツ様の言う通りだ。
日々勉強だな。
毎日緊張感を持って過ごせば気疲れするが。全く無くすのも困りもの。
今は休暇であって休暇でない。
南に渡る為の準備期間。文字通り遊びは半分まで。
カジノも行きたいが程々に。正直手が届く気がしない。
仕事とプライベートを上手く切り分けられる大人に成りましょう。
毎度の日課から即無人島へと飛んだ。
可愛い銀縁眼鏡にゼブラソラリマ。色合がグチャグチャ。
統一感が全く無い装備が俺だ。
外観よりも中身で勝負。
その中身もソラリマ無しだとクワンやアローマにも劣ってしまうのは内緒にして欲しい所。
シュルツは表裏の境目が見えると言っていた。
刀身が鈍い灰色の長剣。
厳つい装飾は全て消え去り至ってシンプルなデザイン。
境目を探している間にも魔力はグングン減っては復帰を繰り返している。
今の所気絶する要素は無い。無いが境目も見付からない。
センスか。センスの問題ですか。
名前:煉獄の帝王剣(女神の加護:絶大)
性能:攻撃力3400
装備適合者(スターレン)
知能以外の全能力値+2400
自動帰還機能搭載
聖魔混合属性保有
炎属性保有
空きスロット(2)
特徴:古の旅人が強力過ぎる性能を畏怖し分解した作品
復元者に連れ従う習性を持つ
「気になる空きスロットがあるけど。これに関しては深層が消えちゃったみたい」
「水竜様が私に矛を渡したように。女神様がスタンに渡したって事?」
「何だろ。最近ないなぁと思ってたから。俺とフィーネのバランス調整なのかな」
「そんな風にも思えるね」
ソラリマをクワンが装備すれば大枠で横並び?
これもベルさんの作品だろうか。
炎属性って何やねんな疑問はそのままにして次行こ。
鞘に戻して袋に仕舞い、代わりに鎧を出した。
表面は前述の通りに。
「これかぁ。しっかり次項へって出てる」
「私には見えないわ」
これは誰でも見たくなるな。無理も無し。
ノイちゃんの眼鏡を重ね掛けした時とも違い丁寧。
名前:業灼の革鎧
主構成:赤竜の真皮、古竜の髭
進化必要品:永久の勾玉、凍土の石英
特徴:古き時代に吸血王が所望した作品
鑑定阻害の呪いが掛かっている
「吸血王さんはこれを欲しがっている模様」
「成程成程。その阻害呪いが禁忌だった訳だ」
本物の禁忌とも違う気がしなくもないが。
予想通り魔力は2000消し飛んだ。
眼鏡を外して魔力の回復を待ち、次は鏡
名前:弩鏡の盾
主構成:原祖の涙、原祖の身鏡
進化必要品:英折の鏡、不知火の秘境
特徴:古き時代に吸血王が所望した作品
鑑定阻害の呪いが掛かっている
「吸血王さんってどうやら女性っぽいな」
「私もそんな気がします」
次にはマント。
名前:破聖の外殻
主構成:原祖の髪、原祖の羽衣
進化必要品:神獣の爪
特徴:原祖の吸血王のお気に入り
鑑定阻害の呪いが掛かっている
「これにフェンリル様の爪を使うらしい」
「これだけに全部使うのは勿体ないよ。一番欲しがってそうだけど」
他の装備品に深層は見当たらなかった。
強いて言えばブーツの表層の見え方が全然違った。
名前:隼の革靴
性能:防御力500
俊敏性向上(大:装備者ベース✕3倍)
採寸自動調整機能搭載
特徴:飛行系鳥類最速の隼に人類が挑もうとした際
主がお遊びで作った作品
材質は不明
ユニークツールの類だが性能は非常に優秀。
通年で履ければいいが、このままだと冬場限定装備だ。
靴に関しては良いの貰ってるから時々気分で履き替えるのもいいだろう。赤色で女性向けではある。
「このブーツはシュルツに渡して暇な時に色々作って貰うのがいいかな」
「危険も無さそうだし大賛成。靴は沢山あっても困りません」
全ての鑑定を終えて思う。
「何処に居るかは解らんけども」
「この流れは吸血王さんにも会う流れだね」
「クワァ…」
靴を収納した段階で感じていた違和感を口にした。
「鑑定数が多過ぎたのか指先が超熱い」
「大丈夫なの?」
道具に触れた指先から熱が手首腕と回り、全身が焼かれている様な感覚に陥った。
感覚だけではない。実際に指先から煙りが立ち始めた。
嫌な予感全開。躊躇無く嫁とクワンの前で全裸を敢行。
「ちょ、何して…」
「ク?」
応えるのは後にして。生まれたままの姿に腰にロープを巻き付けソラリマを装備し直し、煉獄剣を引き抜いてバッグを脱ぎ捨てた衣服の上に置いて距離を取った。
「これ燃えそうだから荷物持って離れてて」
既に周囲は灼熱地獄。波打ち際に立つと海水が熱せられて蒸気が立ち籠めた。
フィーネは心配そうにしながらも俺の荷物を抱えて即座に離れた。離れたのに彼女はもう汗だく。俺が熱源のサウナの完成。
振り返り我が嫁に問う。
「フィーネってさー。俺のスキンヘッドどう思う?」
「徐々に抜けるのはいいけど。出来れば嫌ー」
どうやら好みではないらしい。頼む髪よ生き残れ!
ソラリマを最短に収め、剣を両手で頭上に掲げた。
『凄まじい熱量だ。温度を剣に集約すれば紅蓮の溶岩にも匹敵するだろう。失敗は許されないぞ』
「解ってる。何処の誰が仕掛けた罠かは知らんけど。俺昨日から頭来てんだよ。シュルツを危険な目に遭わせた奴にお返ししてやるってな!!」
剣の刀身に全ての熱を移動させる。
最初は黄ばんだ赤い炎。それが段々と透き通る青色へ。
青から濃い紫色へと変化して行った。
熱さで眼球が焼かれる。瞼を閉じながらイメージをし続け更に上昇させた。
刀身よりも先に手の甲が爛れ始めた。ここまでが限界。
「フィーネ。全力で空に打ち上げる。行き先見といて」
「りょうかーい!」
背負い刀を縦一閃。練り上げた炎で熱いお中元。大好物の炎だろ。遠慮せず一片残らず平らげて欲しい。
意趣返しが消え去ると同時に周囲の温度も冷め返った。
普段なら纏わり付く潮風も火照った身体に心地良い。
「東の空に向かって飛んでったよ」
犯人は東だったか。
焼け爛れた両腕を見ながら。
「髪の毛大丈夫?」
フィーネが笑いながら。
「心配するとこそこじゃないよ。火傷手当するから横になって」
「よろしく~」
頭に触るとまだフサフサ。安堵してフィーネの膝枕に頭を預けた。
……
「無茶ばっかして」少し涙声?
「泣かなくても」
「泣いてません!」
傷薬と治癒魔法の併用ですっかり元通りに。戻ってからも暫く膝枕を続けて貰った。
「ねえねえスタンさん」
「はいはいフィーネさん」
「私お腹が空いたのですが」
「何故か晴れてしまったのでここで焼肉にしましょうか」
俺が焼き払ってしまった所為で空は一面の快晴。弊害で島の沖合が暴風雨で荒れ狂っていた。
自然環境を破壊してしまったのか。一過性の物なのかを探るためにも時間を掛けて見守った。
15時前頃に上空は雲に覆われ、大きな穴は塞がれた。
戻った証拠に大粒の雨が降り出した。
全ての確認を終え。不意の敵襲も来ない。
安心を得られた所でハイネに向かい、キャンプ用品を買い漁ってから帰宅した。
---------------
何と言う光景。何と言う熱さ。
今真に我が城は中央部の妾が居る場所からドロドロに溶かされ崩壊の一途を辿っていた。
外壁も装飾も道具も全てが溶かされて塵と成り果てる。
正直に語ろう。妾は人間を嘗めていた。
装備を作らせる為だけの道具にしてやろうとの浅はかな考えがこの結果を招いた。
妾の身を包む崇高なる装備品。その欲望の炎が何百倍もの熱に成って返された。
見事な迄の意趣返し。
この世で最も愚かな生き物は人間風情だと侮っていた。
煉獄の炎が目前に迫る。これは空から飛来したのだから飛んで逃げても無意味だろう。
「妾が逃げる?」それは有り得ない。
神に等しいと過信したのが仇と成って邪魔をした。
防壁と成ろうと挑んだ部下たちは全て飲まれて消えた。
永劫の刻を過ごし、不死の身体も手に入れた。それが今砕かれようとしている。
人間風情に恨み言は吐かない。その代わりに。
「必ず貴様らに会いに戻る。待っていろ人間め」
煉獄の炎に足が飲み込まれた。
四方や自分に再び苦痛が与えられるとは。
前言を撤回しようかと気持ちを改めながら、始祖の女王は炎の渦中に沈み入った。
絶え間なく続く彼女の悲鳴は、誰に聞かれるでもなく。
---------------
皮と餡を作り焼き餃子にした夜。
約束通りシュルツに煉獄剣をお披露目した。
ベッドの端に座りながら素晴らしい性能ですねと素直な感想を漏らした。
久し振りにフィーネと寝るんだと意気込んでやって来た彼女に応える形で内緒でこっそりお披露目と相成った。
リビングで取出しロロシュ氏に怒られるのが嫌だったとも言える。
寝る前の女の子には相応しくない立派な剣。男の子なら朝まで語り明かせたかも知れないが可愛い女の子では明日のお肌の方が心配だ。
結果を自分の目で確認出来た事で安心したのか、その夜のシュルツはぐっすり安眠。
受けた呪いの影響は微塵も感じられない。
合コン当日。何故に幹事が緊張しなければならんのか。
フィーネのお叱りに屈せずちゃんと女性陣が参加してくれるのか心配は尽きない。
振り払うように日課のトレーニングに精を出した。傍らで体育座りの期待一杯で眺めるシュルツの目が痛い。調子に乗って遣り過ぎてしまい、膝が笑ってら。
お風呂の後の朝食時もシュルツが同席。
焼き魚に麦飯にお浸しに味噌汁。昔で言うなら和食一辺倒であるがこちらの世界では果たして何と呼べば良いのだろうかが小さな悩み。
お箸の扱いに困惑中のシュルツに。
「無理せずフォークとスプーンでいいのに」
「何事も勉学で精進有るのみです」
と言って聞いてくれない。
反抗期だな。
食後にフィーネが話題を変えて。
「シュルツに新しいお仕事の依頼があるのだけど」
待ってましたと満面の笑み。
隼のブーツを床に置いて。
「これを解析して似たような靴を頼みたい」
繁々と手に取り眺め回して。
「サーペントの皮はまだまだ有ります。ポーチも後数個作れば充分ですので次のお仕事を悩んでいた所なのです。
ブーツは初挑戦ですが風の魔石はありませんか?」
行き成り上に挑戦する気だ。シュルツの向上心に応えて大きな魔石を1つ渡した。
物の引き渡しと断塊の鉄鎚を借りる為にシュルツの工房にお邪魔した。
「お姉様。箪笥はどうされますか?」
「棚にも箱が必要でしょ。それはもうそのまま使って。その方が持って回るより私も安心出来る」
「有り難う御座います!」
隼ブーツを解体中の横で金槌でフェンリル様の爪端を割り砕いた。
シュルツが横目で。
「大狼様のお爪をどうされるのですか」
煉獄剣の空きスロットとマントとフィーネの矛とかに合成出来る筈だと説明。
「復元だけでなく合成まで出来るのですね」
興味津々で見詰める眼差しに負け、手堅くスロットを埋めてみた。
スロット1:大狼の爪
氷属性保有(大狼の加護:絶大)と盗難防止機能が追加された。
スロットの出し入れでは魔力の損失は軽微。続けてマントに爪の破片を合成。
マントを風呂敷にして爪を包み込んだ形。
魔力損失は2割程度。こちらのマントは結構な変化が。
名前:始原の外殻(大狼の加護:絶大)
性能:防御力3200
変幻自在に形状変更可能
知能以外の全能力値+2400
盗難防止機能搭載
光学迷彩機能搭載
特徴:始まりの者が身に付けたと言われる外殻
全ての攻撃に対して絶対的な耐性を持つ
「誰でも着られるし。フィーネのフル装備に加えれば略無敵だな」
防御力に関して言えば合計で万を超えてしまう。
「照れるわね」
「凄いです!」
「クワッ」
「ステは単なる加算じゃないとは思うけどな」
「だね。各装備を使い熟してこその真価。正しく使えなければ宝の持ち腐れ」
事前に生血入りの解毒剤を飲み干し挑むはポセラの矛。これにはスロットが存在しない。合成出来るかはフィーネの手腕次第。
「これは私1人でやるわ。水の巫女として」
鬼気迫る表情に言葉を失う。反対意見も特に無い。
目映い光の後で矛は姿を変えた。
名前:ポセラの密槍(二神の加護:絶大)
性能:攻撃力4500
知能以外の全能力値+4800
装備者固定(フィーネ:死亡時解除)
6時間に一撃のみ任意魔力を攻撃力に上乗せ可
自動帰還機能、盗難防止機能搭載
全属性保有
特徴:太古の昔に水竜を討伐する為に造り出された槍
制作者、素材不明。唯一無二の神槍
芯部の色味に変更は無い。歪な箇所が整い、長い柄の上中下段に薄紫色の螺旋グリップが巻き付いた。
「凄いの一言だな」
「水竜様を討伐する為…?」
「誰にでもやんちゃだった時代はあるもんさ。伝承には一切残ってないけど。逆鱗を剥ぎ取られる前は怒りん坊だったのかもね。水竜様」
「信奉する身としてはコメントし辛いわね」
シュルツからの質問。
「水竜様の御加護が付いているのでお気に為さる必要は無いのではないでしょうか。それよりもお姉様が水の巫女とは何ですか?」
「それに関しては秘密にさせて。それこそ禁忌に関わる事だから」
「はい…」
許可も下りてないのに信者に言い触らす訳には行かないもんな。
「何にしろフェンリル様の爪に関しては二度と手に入らないって意味で有限だ。今後も使う物は吟味して行こう」
「そうね」
作業台の上を片付け、マントのフィッティングを3人とクワンで試していたらアローマが1人で工房に現われた。
「やはりこちらでしたか。何度も光が外に漏れ出ていましたよ。もう少し配慮されては如何ですか?」
ごめんごめんと打ち切り、アローマにもマントの有効性を力説した。
クワンにもリサイズ可能だったので、柔軟な発想を持っていれば誰にでも扱える筈。
好きな形をと解いたら。
侍女服の上から真っ赤なノースリーブドレスを纏う形にしてしまった。
「そんなんでもアリなのか…。緊急時の服の代わりにも成るんだな。スリットが入って色っぽい」
評した途端に解除してしまった。
「恥ずかしいのでお止め下さい」服の上なのに?
4人とクワンで本棟に移動し、向上心豊かな料理長入魂の昼食を頂いた。
前日から柔らかく煮込まれた牛タンシチュー。
「美味い!これはトワイライトにも負けてない」
他の4者も絶賛。
「お褒め預かり光栄です。彼の名店と比べられるとは有り難いお言葉」
料理長も照れ照れ。やっぱりプロは一味違うぜ。
お返しに味噌と醤油を合せ、韮と大蒜の芽と鷹の爪を細かく刻んだ物を練り込み寝かせた豆板醤擬きを進呈し、リベンジ麻婆豆腐を本棟の厨房で作らせて貰った。
隠し味にビーフシチューを少々。これぞ和洋中折衷。
「ここに摺下ろし大蒜や山椒を加えれば激辛になって美味しいんですけど」
「今日はこれから出掛けないといけないので」
「勉強に成ります。お嬢様を除き大人向けとして改良してみます。それでその山椒を分けて頂きたいのですが」
いいですよと快く置いて。
「粒のまま煮込むも良し。軽く砕いて肉料理に添付しても良し。細かく摺って先日の鰻の蒲焼きに振り掛けても風味が増して濃い味でもさっぱり食べられますよ」
「鰻だと栄養の吸収率が向上してもっと元気が出ます」
「それはそれは。ロロシュ様もお喜びに成ります」
自宅に戻り、漬けた梅の実の様子を見た。
「ちゃんと梅酢が出てる」
「梅がラフドッグにあったなんて盲点だったね」
同時に購入してきた赤紫蘇を軽く水で戻して梅干し鍋に敷き詰め重しを乗せ直した。
「酸っぱいのが嫌いなら取り分けるよ」
「いいよ。最初は定番から入らないと。それより益々お米が欲しくなっちゃうなぁ」
「もう直ぐ出会えるさ。南西の攻略を最短にして」
「モメットさんのお悩みと反応次第だね」
そのモメットさんがメメットさんの息子。南西の滞在が長引くかは彼の状況次第になる。ベルさん曰く、人間性に難が有るとか無いとか。
会うのが楽しみだ。
身支度を済ませ邸内の馬車を借りてエドワンドへ。予定の5人が店のロビーで寛いでいた。
流石は百戦錬磨の女性陣。ちょっと怒られた位では凹まない。強い意志が窺えた。
「予定通り真面目にお願いします。接客に関して言う事は無いですが。今日は仕事を忘れて下さいね」
パメラさんが。
「この緊張感は久し振りで。素を出すのが恥ずかしいと言いますか」
「男側ももっと緊張してるでしょうから。行き成り色仕掛けで攻めないようにお願いします」
「気を付けます」
以下4人のマリカ、リリス、カンナ、エナンシャも含めてフィーネが服装チェック。
「今日はお酒も出て寝室も沢山ありますが、大人の淑女としての貞淑さに期待します。後の責任は一切関知しませんので宜しく」
店を出る前にブルームさんにもご挨拶。
「今日上手く行って全員引退になっても大丈夫なんですよね」
「問題ありません。当店は健全なお喋りの場、ですから。従業員の入替えも長い目で見て当然の流れですので」
ドライな話。入替えや循環も世の常。人妻になっても産休以外は仕事を続ける人だって中には居るんだし。
邪な考えを抱くのは男ばかりで彼女たちは至って真面目にやっている。そうでない人も偶には居る。単純な話だ。
10人乗りの馬車でデニスさんをピックアップ。男1人で肩身が狭かったが改善した。
抑え気味な香水でも密集すればそれなりにキツい。キツいが嫌では無いレベル。
熱気と湿度で車内は蒸れていたが、デニスさんは余裕で彼女たちの質問攻めに対応していた。ポイント高いぜ。
残りの男衆4人も、俺たちが到着した時にはリビングテーブルに陣取っていた。
若干重苦しい雰囲気が漂っているが知ったこっちゃない。
デニスさんもノイちゃんに案内された席に座り、女性陣も思い思いの席に座った。
ノイちゃんから順番に自己紹介とアピールポイントの発表をしている間に酔い止めを配布。
「今日はこの様な場を設けてくれたスターレン殿に感謝する。ここは私の屋敷だが三階と地下以外は自由にしてくれて構わない。余計な世話だが男女問わず、汚したら明日掃除をして帰って貰うからその積もりで使って欲しい」
各自酔い止めを飲んで頷いた。
空き瓶を回収して給仕さんが料理を運んで来てくれたのを見計らってシャンパンとウィスキーを並べえる。
「追加のお摘まみ作って来るんで始めて下さい」
「何かあれば私かスタンに遠慮無く言って下さいねー」
注意事項として酔いに任せてクワンに触るな。男だったら腕の骨折れても知らないぞと脅してから厨房へ。
使用人、給仕、王宮からレンタルされた料理人の皆さんと協力してお摘まみを拵えた。
「こちらは任せてお二人も中へお戻りになられては」
「今日は幹事なんで中に居ても邪魔なんですよ」
「私たちが居ると楽しくお喋り出来ませんから」
「それならば良いのですが」
もう何度も顔を合せている人たちばかりで遣りやすい。
自分たちとクワンの夕食も片隅で食べるからどの道リビングには戻るのだが。
千切りキャベツ、大根、人参、ピーマンを軽く塩胡椒で炒め隠し味に醤油を垂らし、蛇肉の醤油焼きをタルタルサンドイッチにして配給。
それぞれ赤面しながら楽しそうに小声で話をしていた。いい感じだ。今日は何も起きない事を祈ります。
ノイちゃんの隣には長身スレンダーなマリカさんが。デニスさんの隣にパメラさん。俺的には逆かなぁと勝手に思っていたが組み合わせは悪くなさそう。
蛇肉サンドに参加者のテンションが上がった。
お酒も進み、より楽しそうに。
フィーネと小声で密談。
「席の入替えどうする?このままの流れでもいい気がする」
「同感。でも一応暫くしたら聞いてみるね」
「お願いします」
少し大蒜を利かせた熊肉焼きを作って戻ると更に温まっていた。
配膳と同時にシャンパンを入替え。
「皆さん。そろそろお席の入替えをしたいと思います。このままで良いよと言う方は居ますか?」
全員元気良く挙手。
何これ確定?幹事としては楽でいいけど…。
熊肉で更に上昇。席替えが無いならと給仕さんに用意されていた料理を順番に運んで貰った。
滞り無く会は進み、お邪魔な様なのでご自由にと馬車を置いて帰宅した。
「楽勝だったな」
「みんな大人ですから」
別宅の正門を出た所で…。
「ニーダ?」
「どうしたのニーダちゃん。傘も差さずに」
「スターレン様…。フィーネ様…」
彼女は泣いていた。嘘だろ…本気でノイちゃんの事を?
「ノイツェ様は…」
「残念だけど上手く行ってるみたいだ」濁さずに。
「兎に角私たちの家に行こ」
逃げる素振りも一瞬見せたが、フィーネに肩を抱かれて直ぐに大人しくなった。
「はい…」
のんびり歩いて帰る積もりで居たが急遽転移で自宅に戻ってフィーネと一緒に風呂へ入らせた。
赤ワインに新作滋養酒を混ぜ粒山椒を入れて沸かした。
今夜のお風呂は長くなりそうだ。
絶対無いと思い込んでいた道。倍以上の年の差を越える恋愛?
こと女性の恋愛事情は女性同士フィーネに任せた方がいいと思う。
男の意見を入れると拗れる事受合いだからな。
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女同士のお風呂にも抵抗が無くなった。
声も上げずに涙を流すなんて相当だと思う。
自分で身体を洗い流し湯船に浸からせると肩を寄せて頭を預けて来た。
裸で密着している訳だが拒絶する訳にも行かない。
「ノイツェさんの事好きだったの?」
「…よく、解らないんです。自分の気持ちが」
他人には余計に解りません。
「嫉妬かな」
「違う気がします…。ポッカリと胸に穴が空いたような」
何とも判断が付かないな。
「明日の朝に馬車を回収しに行くから。一緒に行く?」
一瞬身体が強張った。
「はい」
「一度さ。ノイツェさんの事をお義父さんって呼んでみたらどうかな」
「お義父さん…」
「前にノイツェさんが養女なら考えるって言ってたでしょ。それで自分の気持ちを確かめられるんじゃない?」
後はお相手さんを見た時に嫉妬心が芽生えるかとか。
「それ、言ってみます。拒絶されたら…」
「慰めてあげるわよ。明日から暫く時間取れるし」
安請け合いとはこの事だ。
それでもスタンに任せるよりは余程マシだと思う。
少しでも油断すると女の子がノンジャンルで寄って来てしまう旦那様。一度でも許せば決壊ハーレムの出来上がり。
絶対に許されない。
---------------
翌朝早くに別宅へ赴いた。馬車を回収しに。
各自で大人時間を過ごしたのか皆が程良くお疲れモード。
関知しないと言ったからには何も言わん。
ノイちゃんが俺たちの隣でモジモジするニーダを不思議そうに見ていた。
「さあ言ってみて」
フィーネに背中をそっと押されてニーダが歩み出す。
「…ノイツェ様。私を養女にして下さい。お義父さんと呼ばせて下さい」
「な…にを急に?」
「養女?」不思議顔がもう1人。マリカさんだ。
「お義父さん」
「ニーダ。落ち着きなさい。物には順序がある。取り敢えず朝食にしよう」
「はい」
他の面々も興味津々。その他は引き取ろう。
「ノイツェ殿とマリカさん以外は全員退出!」
「今なら雨止んでますので。馬車に乗る方は早くしないと出ちゃいますよー」
後ろ髪引かれながらも残りの8人が動き出した。
しっとり濡れた御者台に乗り8人を運搬。
デニスさんの店前にパメラのペアを捨て。
冒険者ギルド前にモヘッド、リリスのペアとギーク、エナンシャのペア2組を捨て。
北城門前の兵舎屋前にメドベド、カンナのペアを捨てた。
馬車を戻して自宅待機。
「三種の神器の件言いそびれたわぁ」
「問題だったら昨日言って来てるよ。それよりもニーダが1人で戻って来ないのを心配して」
「戻って来たら…美味しいもん腹一杯食わせればいいんじゃね?」
「色気よりも食い気ってか…。私もそれしか浮かばないのもまた事実」
ちと早いが漬け途中の梅の実を3つ磨り潰して素焼きにした蛇肉に梅肉ソースでサンドイッチを量産した。
ブランチタイムでお昼は抜きだな。
コーヒーを淹れてミルクオレを作り、サンドイッチを美味美味していたらノイちゃんが3人の女連れで押し掛けて来た。マリカ、ライラ、ニーダの3人を。
4人に梅肉サンドを提供しながらお話。
「余りニーダに無責任な話を吹き込まないでくれ」
ノイちゃんが痛くご立腹。
ライラも余計な事を言ったと罰の悪そうな顔。
マリカは若干飲み込めていない感。
ニーダはションボリしていた。
かなりイラっとするな。
「無責任?何が?」
「ニーダを養子にする話だ」
「逆に聞きたいけど。ノイちゃんとライラはニーダに何をさせたくて文官見習いに置いてんの?ライラの後任なんて重責背負わしてんのはあんたらの都合じゃねえのか!」
「それは…」
何か言いたそうなニーダを制して。
「暫くニーダを預かって欲しいとは頼んだのは俺だよ。でも彼女が抱えていた問題はとっくに解決した。なら何でその時に返すなり相談してくれなかったんだ。何も無ければ将来までしっかり責任取ってくれるもんだと思うだろ」
「…」
「何黙ってんだよ。体良くニーダを使い潰してポイ捨てする気だったのか」
「違う!」
「違います。私が働かせて下さいとお願いしたんです。お世話になったお二人とノイツェ様のご恩返しに成るのならと思い…」
「健気に頑張るニーダのお願い1つ叶えられないの?俺はそっちの方が無責任だと思うけど?」
「違うんだ。昨日出会ったばかりのマリカの前でとても話し辛いが。何事にも本家の了承が必要なんだ。今やバートハイト家の直系は私一人。マリカを将来嫁に迎える話とニーダを養子に迎える話は丸で違う。私の養女に成ると彼女の将来を潰してしまい兼ねない」
ライラが苦しそうに。
「本家はまだそれだけの影響力を持っているのです。老長の耳に入った途端。ニーダに訳の解らない縁談話が降り注ぎます」
傍迷惑な婆さんだな。
「ごめん。言い過ぎたよ。ニーダ、振り回して済まない。まずは仕事と私情は切り離して考えよう。仕事は続けたかったら続けてもいいし。嫌なら俺が紹介出来る。君ならロロシュ財団系でもカメノス財団系でも引く手数多だ」
「仕事はもう暫く続けながら考えたいと思います」
「マリカさんの件も含めて性急過ぎた」
「だから順序があると言ったんだ」
一段落した所でノイツェに手付かずのサンドイッチ弁当とポーチを返却してライラに引き取って貰い、マリカとニーダを残した。
「マリカさんには急展開過ぎた?」
「正直。昨晩バートハイト家のお話は少しだけ伺いましたがニーダさんの件は初耳で…」
そりゃそうだ。嫁に行けるかもの話から貴族入りの話で大きな子供を迎えますじゃ付き合い切れないよな。
「ニーダちゃんは。ノイツェさんをお義父さんと呼んでみて変化はあった?」
「私個人としては妙にしっくり来ました。それだけでスッキリしてしまったと言いますか。マリカさんには申し訳ないです…」
いえいえを言い合う2人を前に考える。
「恋愛感情じゃないのが理解出来た所で。まだ養子に入りたい?」
「いいえ。もう心残りは有りません。ノイツェ様とライラ様のお考えも解りましたし」
「ふむ。ニーダの問題は概ね解決として。マリカさんはじっくり今後を考えて貰うでいいかな」
「はい。異存は在りません。平民風情には身に余る良縁です。貴族の仕来り云々の話を差し置いても逃したくはないですね。年齢的にも」
「正直だなぁ。でも嫌いじゃ無い」
「ラフドッグの本家に相当な老害さんがいらっしゃるみたいですけどねぇ」
一気に表情が暗くなった。
「推測だけど。その人の所為でノイちゃんが結婚出来なかったんだと思うよ。挨拶行くのは身を固めてからがいいかも」
「全部片付けてからの事後承諾の方向で畳み掛けてしまいましょう」
「そうですわね」
軽く笑い合ってニーダが席を立った。
「遅れましたが出勤して参ります。お騒がせして済みませんと伝えて」
「これしきの事で心変わりはしておりませんとノイツェ様にご伝言をお願い出来ますか」
「了解しました」
ニーダを南門前に送り届けてリビングに戻った。
「縁結びの幹事も大変だ」
「ホントね」
「ご縁談のお話は兎も角。先程スターレン様が仰られた仕事の紹介は私では難しいでしょうか」
「何処も人材不足だから難しいって事は無いよ」
「ジェシカは身の振り方を決めている様子ですが。私も含め五人は探し始めた所で。特に私が軍官の妻と成るには世間体が悪いと申しますか」
「話は解る。けどそれは先にノイツェ殿に相談して欲しいかな。飲み屋の接客業の人を紹介するって時点で何も考えてない筈がないからさ」
「解りました。これも順序ですね」
「マリカさんは今日は出勤されますか?出勤ならそろそろ帰って寝ないと」
「五人は本日も休暇です。長らく休暇を取らなかったもので。若い子が頑張ってくれれば良いとブルームが気を利かせてくれました」
梅肉サンドをさっぱりしていて美味しいと頬張るマリカさんは幸せそうだ。
他がデート中ならカジノに単独では誘えない。
思い切って相談してみると2つ返事でOKだった。多分他も帰って来ているだろうとも。
ホントにぃと馬車でエドワンドに向かうと。玄関前の日指部で手を振る5人が居た。ジェシカさんまで。
従業員寮は店舗の裏手に在るそうで呼べば直ぐ来れるそうな。
合流するとマリカはどうなったんだと心配していた。
本人が無事に俺の一喝で拗れずに済んだと報告すると5人に拍手された。
お時間あるならカジノ行きませんかと誘うと全員OK。
カーライル到着。コインを集約すると2万4千枚。
「先週に大当たりが続きまして。景品と交換も出来たのですが紛失や盗難が怖くて保留しました」
とパメラが説明してくれた。
残り1万6千。これならバザーまでに手が届く。などと欲を出してはいけない。
いけないと解っていながら俺が凡ミスを連発してもーた。
笑えない。
初の単独ルーレットで大失敗。
昼過ぎの集計で+2千弱。
「すんませんした!」
「素直に私の隣に居てよ。変に格好付けてなかったら倍は勝ってた」
「単独ならダーツでもやってます」
フィーネにヨシヨシされて慰められた。子供か!
夕方までに+3千近く稼ぎ、本日の終始5千でお開き。
女性陣をお店前まで送り届けると、パメラがデニスさんの店に行くと言い出し、ジェシカさんも参加で俺たちも便乗した。
段々面倒になってしまい。馬車をロロシュ邸に放棄して転移で店前に飛んだった。
「いらっしゃい。何も当日に来なくとも」
「善は急げです。…本当にお客さんが居ない…」
「これが証拠だ。ほぼスターレンたちしか寄り付かん。パメラをウェイトレスで雇ってもグラス磨きと掃除位しか仕事が無いんだ」
「少し憧れていましたのに。残念ですわ」
「意外にパメラさんが入ればお店流行るかもよ」
「パメラさん目当てに小金持ちが挙って」
行動を読まれ、男性陣も続々と来店し、宛ら昨日の2次会と化した。
それぞれペアに分かれて談笑。俺たちとジェシカとパメラはカウンター席に並んだ。
クワンはジュース数種を飲み比べ。
「今夜は大繁盛ですね」
「何時もこれなら張り合いもあるんだが。私は笑顔がどうも苦手でな。怖いらしい」
解ってるなら頑張ろうよとの言葉が出そうになった。
「やはり私が立つべきです。安定収入と将来の貯蓄の為にも」
「そう言われると反論の余地が無いな。その話はゆっくりして行こう」
「はい」
パメラがお酒とお摘まみを運んでいる間に。
「ジェシカさんの方はどうなりました?」
「私の方は…今度の在庫処分が終わった後で動きます」
「あれって在庫処分なの?」
「彼自身の発言権等に売り上げ成績も加味されるのです。表裏関係無く常に本部は目を光らせて。嫌らしい事この上無いですね」
何処も面倒なルール設定してるなぁ。
宴も酣の頃にソプランとアローマが来店した。
「おー居る居る…。て何だこれ。モヘッドとノイツェ様まで居るじゃん。女子はエドワンドの?」
「昨日のお見合い会の流れでさ」
「だったら邪魔しちゃ悪いな」
「ですね」
2人もカウンター席に座った。
「お前に仕事の話持って来たが帰ってからにするよ」
「仕事?城で何かあったの」
「ノイツェ様とモヘッド以外には聞かせられん」
「じゃあ後で。あー明日からカジノに籠ろうと思ってたのになぁ」
「カジノ行くのか。俺たちも打ち合わせが終わったから参戦するぜ。仕事の話もそんなに時間食う話でも無さそうだしよ」
「私も気晴らし程度に行かせて頂きます」
ジェシカさんも乗り気で。
「私たちも行ける子で。昼過ぎの短時間だけ参加します」
「助かります」
「無理する物でも無いですから。気軽に」
数杯飲んだ所で金貨を数枚置いて席を立った。
「今日は俺の奢りです。これで足ります?」
「何時もの事だが。貰い過ぎだ」
まあまあと。テーブル席に振り返って。
「この中でレンゼデブと言う名の家名に心当りがある人って居ますか」
するとカンナが手を挙げた。
「それ私の昔の家名ですが何か」
「お!カンナさん明日の出勤前に少しお時間下さい」
「是非お聞きしたい事があるので」
小首を傾げながら。
「構いません。明日でも、今からでも」
と答えだったものの2人切りの貴重な時間を邪魔するのも良くない。明日でと断りジェシカさんだけお店前に届けて帰宅した。
「まさかカンナさんだったとは」
「世間は意外に狭いものね」
かなり重たい話になるかも知れない。セルダさんに連絡するのは後にしようとなった。
場合に因ってはメドベドにも…それは余計かな。
話題を変えて蛇肉の残量を確認するとトータルで半分を過ぎていた。
「大分食べちゃったなぁ」
「あんなに沢山あったのに…。無くなるのは早いねぇ」
生血はたっぷり在庫を抱えているが魔力を回復出来る手段が現状これしか無いなら大切に使うべきだ。
エーテルポーション。それは増強剤よりも重要になって行くかも知れない。ロープのような反則技でも見付からないと色々と厳しい局面も出て来るだろう。
次の料理を考案しながらお茶をしているとソプランたちが帰って来た。
「メイザー様の帰還予定は来週らしいが。それよりも先に帝国から密書が届いたそうだ。近日中に見に来いとさ」
「帝国からか…」
「良い話、ではなさそうね」
来年じゃないと北に行ってもなぁなどと話していると、どうして来年なんだと質問が返された。
「まだ詳しくは話せない。帝国に行くのと同じタイミングでどうしても用意しなきゃいけない物品があって」
「それが手に入るのが来年の2月以降なのよ」
人脈作りの観点で言えば早めに行くのもアリ。
「何れ聞けるんなら待つけどよ」
密書の内容次第で考えると加え、梅肉サンドを2人に食べさせてみた。
「酸っぱいなぁ。疲れた時とかに効きそうな味だ」
「酸味とお肉の肉汁が相まって大変美味しいです」
「醤油味ばっかだと飽きるから。今度の式ではこれ出す積もり」
「何だよ。楽しみが減ったじゃねえか」
「他にもちゃんと追加メニュー考えてあるから」
「夕食とかで色々試作してみる積もりなので。当日の楽しみに取って置きたいなら食べに来ないでね」
「それは、悩ましいです」
2人共本気で悩んでいた。
料理はさて置き、明日の予定を打ち合わせして今夜は解散した。
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午前に特別会議室へ伺った。
列席者は陛下、メルシャン様、キャルベスタの3人。取り敢えずの様子見なのか。
「良く来た。今度の書は真面だったが…。またしてもお前をご指名だ」
「またですか…」
大人しく席に座り書を読み上げる。
「タイラント国、ヘルメン王殿。
総選挙で選出され次期皇帝に座した
アストラ・フェーゼ・ビエンガルドと申す。
正式な通達は後日。本書はそれとは別に貴国に所属するスターレン殿に折り入って接見を申し入れる物である。
これもまた正式には出せぬ召還依頼である為、貴公と当人の都合で良いと考える。
がしかし。早ければ早い方が喜ばしい。
来国を望み、陸でも港でも何処からでも入れる入国及び帝都入場の許可証を同巻した。
本件の特異性を考慮し、
我が国の元帥エンバミル・アーレイ・サイゼリンド
との連名にて記す」
「前と比べ物にならない位に良識的な御方で良かった」
「感想を述べる前に。どうして指名が上がったのだ」
「その説明に入る前にキャルベスタ殿。このお二方に心当りは有りますか」
ヘルメンの許可を取り。
「次期皇帝と名乗るアストラは、帝国騎士団長を長らく勤め上げた傑物。元帥総司令のエンバミルは、崩壊し掛けた帝国を急場で取り仕切り、立て直しを計った張本人と思われる英才。
何方の人物も侮れません。
私的感想を述べれば、何方が次期皇帝でも何ら可笑しくはなかったと」
「立ち直りが異常に早い。もしかしたら前々からエンバミル氏が準備を練っていたのかも知れません。
陛下。大変失礼ながら本件は私に預けて頂く訳には」
「いかんな。説明を終えるまでは帰さんぞ」
「でしょうねぇ」
「陛下。今からお話する事はかなりの衝撃です。お心の準備を願います」
「ぬ…そこまでの話か。と、兎に角話せ」
話をする前に2通の手紙をメルシャン様に読み上げて貰った。
フェンリル様からのお手紙を。
「ほ…本鮪…」何かのシンパシーを感じた模様。
食い付くのは絶対そこじゃない。
上手く飲み込めない陛下さん。
「何の…冗談だ」
「それが冗談ならどれ程良かったか」
クワンの首輪を外し、生爪を取り出して並べて見せた。
「ゴーグルで覗いて見て下さい。鬣の方が一通目に。爪が二通目に添えられて北の大陸から運ばれて来ました」
何度もゴーグルを外して確認し、最後には目頭を押えて項垂れてしまった。
ゴーグルを順番に受け取り覗き見た2人も。
「「……」」固まるわな。
「恐らくですが。帝国の人は怖くて北の大陸に行けないから俺に行って来てって頼まれるのかなと思います」
「南本鮪漁の次の解禁時期が早くても来年2月です。それ以前に行けと急かされても。接見するのが困難です」
「神域の聖獣様の怒りを買いたくはないんで。今は行きたくないですね」
「ぬぅぅ…。他の誰にも手に負えんな」
「事前入国の時期はお任せ下さい。今は北よりも南の攻略を優先したいんで」
「仕方ない。返事も含めてお前に任せる」
「有り難う御座います」
「仰せのままに」
「これが大狼様の匂い…」
メルシャン様がクワンの首輪をクンクンし出した。
「クワァァ!!」
クワンに叩かれたメルシャン様は涙目で。
「大丈夫です。臭くはありませんよ」
返事は明日迄に書くと伝えて退出した…。
「フィーネさんフィーネさん。今俺たちって役人の一員じゃないですか」
「そうとも言えますねスタンさん。悪い目をしていますね」
ここは謁見の間から目と鼻の先。いや目の前だ。
大扉は閉め切られ、警備も2人しか居ない。
やあやあご苦労さんと接近すると。
「ス、スターレン様。これ以上は」
「え?何で?上官命令でも駄目?」
「絶対に通すなと言われております。我らの首が…」
泣きそうな衛兵さんの前で食い下がる俺を。
「いい加減にしなさい」
とフィーネが首を掴んで引き摺って行った。
次こそ。次こそは。
1人で来た時は絶対に入ってやるぞ。
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自宅に戻りお返事は簡潔に書いた。
「お誘いは大変有り難いのですが。
今現在は南方諸国への外務と商人としての仕事が立て込んでおります。
来年の二月以降でしたら空きも作れる見込みです。
私をご指名された意図は計り兼ねますが、これも我が国を発展させる外交の一環として捉え、有効で有益なご関係を築ければと思い馳せ参じる所存です。
今の所手土産等々のご用意はしておりません。反意と捉えられても困ります故。その点はご了承下さい。
また私を北の大陸へ渡らせたいのであれば。分厚い氷河を越えられる船をご用意して頂けると幸いです」
「んな感じで」
「いいんじゃない」
自宅で待機していたソプランが。
「何だ。帝国からの呼び出しか」
「そうなんだよ。厄介な仕事ばかり押し付けられそう。
またその時になったら詳しく説明するよ」
自国の問題は自国で処理して欲しいと強く思う。
気分を入替え闘技場の裏手に飛んで徒歩でカジノへ入場した。
俺たちはルーレット。ソプランはポーカー。アローマはダーツと分かれて荒稼ぎ。
昼までに千枚近く稼ぎ出し、定番のサンドイッチを貪った。
ハムエッグトーストに進化している。マスタードソースが秀逸。オレンジジュースが最高だ。
王道を食べ真っ当な勝負を挑む。
挑み続けた結果。15時過ぎの合流までに2500枚。
夕方までに3千枚。
総計3万5千を越え明日で届きそうな気配。
気持ち早めのお開き。エドワンド組を送り届けてブルームさんにお願いし、カンナだけを連れ出した。
トワイライトの1階奥のブースでお茶をしながら。
「何をどうやって聞こうか悩んだけど。単刀直入にお聞きします」
どうして自分だけが。そんな表情を浮べている。
「ど、どうぞ」
「カンナさんって。お姉さんとか居ました?」
「え…」
彼女の二の句をじっと待つ。
「姉の行方をご存じ…。どうして過去形、なんですか」
「カンナさん。お姉さんは。ヤヌイさんは既に亡くなっています」
「…」
信じたくない。その言葉に尽きる。
「姉の、最後を教えて下さい」
推定2月初め頃。セルダと言う商人一家とタイラントへ入国した時に運悪くクインザの一派に襲われたと話した。
キツく自らの腕を掴み、口端を噛んでいた。
「セルダさんとお子さんの救出は間に合いましたが。元奥様はヤヌイさんと一緒に殺されていました。私たちの発見が後数日早ければ間に合っていたかも知れません」
あのオーク狩りの準備期間を省いていれば。後悔ばかりが頭を過る。
「ご遺体を最後に供養したのは、メドベドさんです」
はらりと涙が頬を伝い落ちた。
フィーネがそっとハンカチを差し出した。
「…皮肉、ですね。違うか。心配性な姉さんが私たちを引き合わせて、くれたんだと思いたいです」
涙を拭いながら辿々しく語り鼻を押えた。
「こちらの勝手ながら共同墓地にお墓を立てさせて貰いました。これから行ってみますか」
「…いいえ。出来れば明日の午前中に。丁度メドベド様とお散歩をするお約束をしておりますので、その時に案内をお願い出来ますでしょうか」
「解りました。お店の前に向えに上がります」
彼女は気丈にもお店に出ると言った。
何も言わずに見送りして俺たちは帰宅した。
2人とクワンだけのリビングで紅茶を啜る。
「なんか…今日は何もする気が起きない」
「私も同感」
結局作り置きしておいた梅肉サンドをオーブンで温め直して夕食代わりにした。
毎食でも美味しいと思っていた物でも。
「味気ないな」
「人間の味覚って不思議ね」
「クワァ…」
クワンも同じだったかと頭を撫でた。
「人間って愚かだな。ホントに」
「身も蓋もない…」
---------------
翌朝。
返信書をソプランに頼み、俺たちはセルダさんとキャライさんを誘ってお墓参りに行った。
一家は2区の新居に居たので子供をトーム家に預かって貰い大人だけで。
その内に怒られそうだが転移で飛び回れば直ぐ。
雨期には貴重な晴れ間が出ている内にと。
エドワンドの前ではカンナがボーッと空を見上げていた。
皆終始無言で当然空気が重い。
セルダさんとキャライさんは何となく事情を察してくれていたが、何も知らないメドベドは。
「こ、これは?」
バッチリ正装で決めて兵舎屋の玄関前で驚いていた。
カンナが先に家族のお墓参りがしたいとメドベドを連れ、6人で墓地に向かった。
1人1人に鈴蘭を一輪ずつ手渡し、お墓の前で手を合せて祈った。
お墓の前で涙するカンナを抱き締めた時に、メドベドも漸く事情を理解した様子だった。
セルダさんたちを連れその場を離れようとした時にカンナに呼び止められた。
「今日の夜。お二人のご自宅にお邪魔しても宜しいでしょうか。折り入ってお話したい事があります」
「解った。家で待ってる」
「何か美味しい物作っておきますね」
カンナはお礼を告げてメドベドの所へ戻った。
トーム家の前で少しだけ立ち話。
「セルダさんがヤヌイさんの名前を覚えていてくれて助かりました」
「いえ。ご遺族が見付かって何よりです。捜索までして頂いて申し訳ありません」
「今日の遅刻は俺に連れ回されたって伝えて下さい」
「事実ですから遠慮は要りませんよ」
礼を返す2人に手を振って自宅へ飛んだ。
自宅でソプランとアローマに合流してからカジノへ。
今日も出遅れてしまった為、午前は適度に1500枚。
午後から頑張りエドワンド組と合流する頃には4万枚を越えていた。
景品交換へ行く前に。
「今回の目標枚数に達しました。有り難う御座います。ですがエドワンドの皆さんと人海戦術をするのも今日で最後にしましょう」
「これからはそれぞれの将来に向けてお金を使って行きましょうね」
思い思いの返事をくれた。
こうやって節目を作るのも大切だ。ズルズルと破産しては元も子もない。
今後は個別で嗜む程度に収めようと誓い合った。
エドワンドのVIP室で景品のご開帳。こう言った遣り取りをここでするのももう直ぐ終わりとなる。
それぞれがここから巣立ち、自分の人生を見付ける長い旅に出るんだ。
1つ目の景品を手に取る。
名前:開眼のスカーフ
性能:防御力300
完全防水、完全防汚機能搭載
特徴:装備者の潜在能力を導き出すと云われる装飾品
急な雨にもこれさえ有れば困らない
材質は不明だが触り心地からすると黒染めしたシルクに似ているロングスカーフ。
並みの鉄鎧位の防御力を誇る。不思議です。
「名前に偽り無し」
「どうして防御力が高いのかしら」
みんなでコンコン叩いて首を捻った。
2つ目の景品。
名前:浮島の笛
特徴:一吹きすれば心に念じた探し物が必ず見付かる
方角、位置関係、物体の深度が脳裏に浮かぶ
(対象物が既知の物であること)
抜き穴が無い小さなオカリナみたいな形だ。
「何か大切な物を落とした時に大変便利」
「無闇に探す手間が省けるね」
少し気が早いが全員の前途を祝して乾杯をした。
解散間際にカンナがお休みを貰ってメドベドの所へ行くと言って店を出て行った。
送ろうかと提案したが自分の足で歩きたいと。
---------------
自宅に戻った後。夕食の仕込みに取り掛かった。
業務用ハンドミンサーで挽肉作りを敢行。
帰ろうか居座ろうか思い悩むアローマたちの目の前で。
新鮮な牛肉を多目に。豚肉、蛇肉、熊肉の混合合い挽きと牛肉100%と牛豚合い挽きのハンバーグを3種類。
塩胡椒少々。ナツメグ、摺下ろし大蒜と山椒。隠し味は発酵中の梅酢と新作滋養酒をストレートで少しだけ。
繋ぎは微塵切りの玉葱とパン粉のみ。冷蔵庫を見たら卵牛乳も無かった…。
下準備の段階からロロシュ氏とシュルツが観覧に訪れ、メドベドとカンナペアも到着してしまった。
諦めたアローマがメモを取り始めた所でソプランもダイニングテーブルの上を片付け、客人用のお茶を淹れていた。
ロロシュ氏を間近にメドベドが超緊張。それを見たカンナがクスクス笑っていた。
「笑い事じゃないよ。本物のロロシュ様だぞ。普段なら俺たち下っ端は口も利けないお人なんだ」
「そのロロシュ様の邸内に入った時点で手遅れですよ」
意外に元気そうで良かった。
「気にするな。ここはスターレン夫婦の家だ。わしの存在は無視をしろ」
「無視とは流石に…」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
「今日の来客は6人だけみたいなんで作り始めちゃいますね。カンナさんも未来の旦那…かも知れない人の為にも覚えて帰って下さい」
「はい。学の低い頭でもお料理は大好きなので頑張って覚えます。アローマさん。後でメモを見せて下さい」
「いいですよ。今日のは機材以外は手に入りそうな物ばかり…でもないですが。それらを除いてメモを作ります」
「こちらの業務用ミンサーは主に豚の腸詰めを作る時に使いますが。出口の器具を取り替えるだけで挽肉を作る機械に変化出来ます」
「今日用意したのは牛と豚の腿肉、蛇肉、熊肉の4種。鮮度抜群の牛肉以外はしっかり火を通すのが前提です」
「湿度が高いこの季節は衛生面を考慮して牛肉もしっかり火を通しますのでご安心を」
自分たちだけなら激レアを目指す所だが。
料理用手袋を装着し、フィーネがハンドルを回して出て来た挽肉をボールで受け取った。
牛肉から順番に。
「初めは牛肉10割の挽肉に軽く塩胡椒、ナツメグ、摺下ろした大蒜、山椒の粉を塗し、微塵切りの玉葱、パン粉を和えて捏ねます」
「今日は隠し味に梅酢と料理酒を加えます。最初はお好みでと言っても難しいでしょうから無しでも構いません」
「捏ねてお肉に粘りが出て来たら頃合いです。拳大よりもやや小さめの大きさの玉を作り、利き手に投げ付けるような感じで整形しながら叩き付けます」
「この作業は中の空気を抜くため。決して遊んでいる訳ではありません」
牛肉10割の次に牛豚合い挽き、異種混合合い挽きと順に捏ね回して整形。
フィーネが根菜スープを煮込んでいる隣で焼き工程。
「焼きにはこってりがお好きならバター。あっさり目がお好きならオリーブオイルか菜種油を使って下さい。今日はオリーブオイルを使います」
「フライパンをよく熱して肉の表面を焦し、中の肉汁を閉じ込めます」
「焼きに入る直前で玉を楕円形に潰し、真ん中に凹みを作ります」
「フライパンの熱を均等に伝える為ですね」
お肉が焦げる良い匂いが充満。
「表面が焼き上がりました。オーブンが在るご家庭ならオーブンで。無ければこのままフライパンで片面数分ずつ返しながら中まで火を通します」
「本日は人数が多いのでオーブンを使って仕上げます」
………
「焼き工程で染み出た肉汁は捨てずにソース作りに転用します。これもお好みですが。赤ワインとトマトピューレを加え煮切ります」
「アクセントにバジルや香草を加えるのもお勧めです」
焼きとソース作りも終了。
配膳を終え食卓に着きお祈り。
「頂きましょう」
溢れ出る肉汁。香ばしい外側。ソースもジューシー。
美味い美味いの大合唱。
「一度挽いた肉を捏ねるとは。これは何と言う料理なのだ」
「これはハンバーグと言います」
「腸詰めを作る精肉店の方々には割と馴染みのある料理法なんですよ」
「外に出すまでもない、余ったお肉を固めて作る謂わば手抜き料理です」
「手抜きを惜しまず逆に手を加えれば、この通り」
ソワソワソプランが。
「これを俺たちの式に?」
「当然でしょ」
「うわぁ。やっぱりか」
「お楽しみが一つ減ってしまいましたね…」
「前日に焼き捲って当日持って行くだけにします。アローマさんも余力あったら手伝って」
「はい。出来る限り。ミランダにも手伝わせます」
疑問に思ったメドベド。
「式って何だ」
「俺とカーネギ。カメノス邸のケッペラとヒレッツとメレスの組との合同結婚式だけど?」
「…招待状貰ってないぞ。それは何時だ」
「ノイツェ様にしか送ってねえよ。メドベド氏も来てくれんの?」
「四日後なのですが…」
「厳しいな…」
「残念です」と言ったのはカンナ。
「本式はもう無理だが夜にデニスさんとこで貸し切り二次会やるからそっちに来てくれよ」
「ああ。そうするよ」
「私たちも。明日声を掛けます」
急な話も持ち上がったが何とか収まった夕食後。
アローマと助っ人プリタさん(3人目の自宅担当侍女)に片付けと洗い物をお願いしてリビングに4人。
クワンは宿り木に鎮座して半分寝落ち状態。
お茶を淹れて。
「カンナさんのお話と言うのは」
多少言い辛そうにしていたが意を決して。
「姉の事はとても残念ですが受け入れるしかありません。
私たち家族。母と姉の三人は南東の大陸、北西部に位置するミリータリアからの脱出者でした。
昨年の暮れにその母が肺炎を患い、今年に入って危篤状態となった為、マッハリアに嫁いだ姉に連絡を取りました。
それが、過ちだったとは悔やんでも悔やみ切れません」
それに対して返せる言葉は無い。
「クインザの圧制下で碌に薬も買えず。母は直ぐに息を引き取りました。しかし何時まで待っても姉は現われず。
嫁ぎ先に連絡してみても、姉は夫と家を捨てて出て行ったと返されました。あちらとは其れっ切り。
私がエドワンドで働いている事は知っているので。お二人にクインザを討伐して頂いた後も、家名を捨て去り働き続けて待ちました。
願わくば。あいつの首をこの手で刎ねたかったです」
待ち人はもうこの世に居なかった。
カンナは持参したバッグから四角い包みを取り出してテーブルの上に置いた。
「姉と引き合わせてくれたお礼だと思って受け取って下さい。お役に立つかは解りませんが」
包みを解くと、割と大きな何かの石版の一部が出て来た。
「レンゼデブ家に伝わる家宝を路銀に変える為に、女神教に心酔し傾倒を深め私たち家族を顧みなかった父から奪い取った物です。稚拙な復讐とでも言いましょうか。
命辛々ウィンザートに入り込めたまでは良かったのですがクインザの罠に掛かり、私と母が身代わりとなり姉の自由を勝ち取ったのが精一杯。
結局それを売る迄も無く…。今に至ります」
「…」
「メドベド様。薄汚れたわた」
カンナの口をメドベドが塞いだ。
「それ以上は吐かなくていい。全てを受け入れよう。過去は過去。忌むべき物は捨てこの先だけを見詰めて生きて欲しい。出来れば俺と一緒の未来を」
「…有り難う、御座います」
互いを見つめ合う眼差しには、思い遣りと固い決意が窺えた。この2人ならもう大丈夫だろう。
石版に手を触れてみた。
名前:スフィンスラー迷宮の石版
特徴:迷宮の最深部へ入場する鍵と成る石版の一片
接触時のみ鑑定可能
「スフィンスラー…迷宮」
「カンナさん。何か知ってますか?」
「はい…。確か、あの場所が」
カンナの前に地図を広げ、書き込んで貰った。
ミリータリアの王都、タリルダリアから更に東の山岳地帯に在る隠しダンジョンだと教えてくれた。
「南東の行き先が見えたな」
「決まりね」
「クワッ」重要そうな話に飛び起きて来た。
来客が全員帰宅した後でクワンが。
「目的地が決まったのなら。南西大陸の北東の端から偵察に行きます。モメットと言う人に会う必要はありません」
「転移で直接飛ぶのか」
「いいかも。どうせ港町は新興派が占拠してるんだし」
この上無い名案だ。だがしかしそんな甘い話は無かった。
石版の一片に触れながら、浮島の笛を吹いてみた所。
1つはここ。1つはサンタギーナの王都サンジナンテ。
1つはミリータリアの王都タリルダリア。
最後の1つはスフィンスラーの目印と同じ場所を示した。
「見事な4分割」
「サンジナンテのはモメットさんが…」
「有り得るね」
「クワァ…」がっくし頭を垂れた。
「そう悄気るなって。大陸を渡る時は宜しくな」
「頼りにしてるよ。クワンティ」
「クワッ」
「全ての行動をベルさんの助言に合わせる必要は無いからさ。締結の鎖か似た様な物がもう1つあれば。これを起点に集められる。そうすればモメットさんには帰り掛けにでも挨拶するだけで事が済む」
「目的さえ達成すればお米を買う位しか南東に用事は無いもんねぇ。ゆっくりたっぷり南西大陸を旅行して回っちゃおうよ」
「それいいな。お馬鹿な新興派なんてガン無視してさ」
俺たちは浮かれて笑い合った。
スフィンスラー迷宮だけで終わりだと、いったい誰が言ったのか…。
---------------
翌朝。バザー前日。
朝早くにシュルツを誘い、開眼のスカーフと前々から気になっていた万寿の樹液の詳細を調べようと思い立ち。
開眼は俺たちやクワンが身に付けても特に変化が無かった。シュルツに対しても同じ結果。
着用者が違うのか。余計に調べたくなった訳です。
眼鏡を借りて覗き込むと。やはり深層部が存在した。
名前:開眼のスカーフ
主構成:古竜種の産毛、鬣
進化必要品:大狼の爪
特徴:太古の昔。ある古竜と大狼が度重なる闘争を経て
和平と友好の証として人間種に織らせた記念品
装着者の潜在能力を引き出せる
「やっぱこれで完成品じゃなかった」
「後で合成してみるね」
「どの様に進化するのか楽しみです」
半分残しの樹液の小瓶を確認。こちらもだった。
名前:万寿の樹液
主構成:世界樹の樹液、始祖の泪
特徴:有機生命体なら一口飲用で寿命が百万倍に延長
無機物質なら永久腐食防止や
接着剤として使用可能
(接着剤使用時:断面等に貼付
復元魔法との併用で物体を完全復元、再構成)
「これは飲み物ではなかったよ?」
「…御免なさい。そうよこれは接着剤ね。石版の復元時に使いましょ」
一口でも飲もうものなら半永久不滅人間の出来上がり。大惨事処の騒ぎじゃない。神様にでも成りたい人向けだ。
人生残りが50年として考えると…約5千万年。星の寿命の何割かに匹敵するかも知れない。
いやはや恐ろしい。
樹液をそっと収納し、フィーネが武装を整えている間にお爪の欠片を割った。
全然減ってない。今後も色々な物に使える。
要らなくなったら御本人に返却しようそうしよう。
始原のマントまで装備して準備万端。
白黒赤に水色。それでもバランスは悪くない。この俺との差は何だ。今度からは色味のバランスも考えよ。
完成した黒スカーフ。形状や見た目に変化は無い。
名前:開放のスカーフ(大狼の加護:絶大)
性能:防御力1500
知能以外の全能力値+2400
全属性強耐性保有
被毒無効(着用中)
着用者自動設定:本体主導
自動帰還機能搭載(着用設定者の下)
盗難防止機能搭載
特徴:着用者の潜在能力を引き出し高める効果を有する
信じるは産むが易し
伝説の英雄が生涯好んで使ったと言われる装具
「誰でもって訳じゃなさそうだけど」
「認められた人には持って来いの性能ね」
試しに俺から。
時間操作スキルが1秒から3秒に伸びた。
地味に嬉しい。
いいんですか女神様。
「…些事には黙するそうです」些事かいな。
結構重要だと思います。お礼言っといて。
「礼は良いから新興派を無視するのは止めてあげて欲しいと仰っています」
え~。それ探してる物が同じって答えになってますよ。
血眼になって探し回った挙句。実は持ってかれてましたって方が打撃になって一番被害が少ないと思うんですが?
「女神様!?…泣いちゃいました」
え!?待って。泣く程の事なの?
だって俺たちが持ち出しましたってお知らせしたら、新興派の組員が挙って押し寄せて来ますよね?
抵抗しますよ?半殺しじゃ済みませんよ?
責めてそれは無いって保証して下さらないと。
「…それも踏まえて?助けて、あげて欲しい。だそうです」
んな無茶苦茶なぁ…。
「さっきから黙ってどうしたの?具合でも悪い?」
「ロイドちゃん経由で女神様にお礼言ったら。逆に無茶振りされた…」
探し物を奪取した上で、襲い掛かって来る新興派の皆さんを救ってくれよと。
「…何て無理難題を」
「お話はよく解りませんが。難しいのですか?」
シュルツの頭を撫でながら。
「何万人と大挙して押し寄せる敵対者の人々を。出来る限り殺傷せずに、一度に説得出来ると思う?」
「…不可能に近い、ですね…」
「だろぉ」頭を抱えてしまった。
ロイドちゃん。最悪ペリーニャを引っ張り出すのはお許しをと伝えて。
「…悩みながらも。頷きました」
例え本人次第でも。それすら許さないなら一切無視して放置しますんで宜しくです。
若しくは俺たちが使命を果たしてからのお知らせで。
「まあいいや。実際の状況確認が済んでから考えよう」
「そうね」
続いてフィーネさん。
彼女がスカーフを首に巻いた途端。ハラリと床に落ちた。
「なぜ?」
「フィーネには必要無いよってお知らせかもね」
「残念…。でもこれ以上を望むのも贅沢か」
続いてクワンティ。首輪の上からちゃんと巻けた。
能力項目に俊敏性:ベース+200が付いた。
「クワッ」
「素早さではもう誰も追い着けないな」
「いいなぁ」
「私も巻きたいです!」
意気揚々と巻いてはみたものの。フィーネと同じで落ちてしまった。
「仲間だ」
「地味にショックですね…」
「シュルツは既に天才魔道具職人の称号を得てるから。伸ばしたいなら自己研鑽と日々の勉強を怠るなって事で」
「頑張ります!」
人外に足を踏み入れる人を限定しているんだろう。そう割り切る事にした。
その後はシュルツのブーツ作りを隣で眺め、本棟で昼食を頂いて足りなくなった食材の買い足しに行った。
夜はトワイライトでディナー。
お互いの明日の無事を祈って乾杯。
熟成されたお肉の柔らかさに感動。
「雨に濡れた景色ってのもいいもんだな」
「豪雨や台風じゃない静かな雨は好きかも」
「クワァ…」クワンはそうでもないらしい。
「クワンは飛ぶのに邪魔だもんな」
「クワ」ウンウン。
デザートのチョコアイスをしっかり食べ、お土産貰って総本堂で安全祈願をして帰った。
日々勉強だな。
毎日緊張感を持って過ごせば気疲れするが。全く無くすのも困りもの。
今は休暇であって休暇でない。
南に渡る為の準備期間。文字通り遊びは半分まで。
カジノも行きたいが程々に。正直手が届く気がしない。
仕事とプライベートを上手く切り分けられる大人に成りましょう。
毎度の日課から即無人島へと飛んだ。
可愛い銀縁眼鏡にゼブラソラリマ。色合がグチャグチャ。
統一感が全く無い装備が俺だ。
外観よりも中身で勝負。
その中身もソラリマ無しだとクワンやアローマにも劣ってしまうのは内緒にして欲しい所。
シュルツは表裏の境目が見えると言っていた。
刀身が鈍い灰色の長剣。
厳つい装飾は全て消え去り至ってシンプルなデザイン。
境目を探している間にも魔力はグングン減っては復帰を繰り返している。
今の所気絶する要素は無い。無いが境目も見付からない。
センスか。センスの問題ですか。
名前:煉獄の帝王剣(女神の加護:絶大)
性能:攻撃力3400
装備適合者(スターレン)
知能以外の全能力値+2400
自動帰還機能搭載
聖魔混合属性保有
炎属性保有
空きスロット(2)
特徴:古の旅人が強力過ぎる性能を畏怖し分解した作品
復元者に連れ従う習性を持つ
「気になる空きスロットがあるけど。これに関しては深層が消えちゃったみたい」
「水竜様が私に矛を渡したように。女神様がスタンに渡したって事?」
「何だろ。最近ないなぁと思ってたから。俺とフィーネのバランス調整なのかな」
「そんな風にも思えるね」
ソラリマをクワンが装備すれば大枠で横並び?
これもベルさんの作品だろうか。
炎属性って何やねんな疑問はそのままにして次行こ。
鞘に戻して袋に仕舞い、代わりに鎧を出した。
表面は前述の通りに。
「これかぁ。しっかり次項へって出てる」
「私には見えないわ」
これは誰でも見たくなるな。無理も無し。
ノイちゃんの眼鏡を重ね掛けした時とも違い丁寧。
名前:業灼の革鎧
主構成:赤竜の真皮、古竜の髭
進化必要品:永久の勾玉、凍土の石英
特徴:古き時代に吸血王が所望した作品
鑑定阻害の呪いが掛かっている
「吸血王さんはこれを欲しがっている模様」
「成程成程。その阻害呪いが禁忌だった訳だ」
本物の禁忌とも違う気がしなくもないが。
予想通り魔力は2000消し飛んだ。
眼鏡を外して魔力の回復を待ち、次は鏡
名前:弩鏡の盾
主構成:原祖の涙、原祖の身鏡
進化必要品:英折の鏡、不知火の秘境
特徴:古き時代に吸血王が所望した作品
鑑定阻害の呪いが掛かっている
「吸血王さんってどうやら女性っぽいな」
「私もそんな気がします」
次にはマント。
名前:破聖の外殻
主構成:原祖の髪、原祖の羽衣
進化必要品:神獣の爪
特徴:原祖の吸血王のお気に入り
鑑定阻害の呪いが掛かっている
「これにフェンリル様の爪を使うらしい」
「これだけに全部使うのは勿体ないよ。一番欲しがってそうだけど」
他の装備品に深層は見当たらなかった。
強いて言えばブーツの表層の見え方が全然違った。
名前:隼の革靴
性能:防御力500
俊敏性向上(大:装備者ベース✕3倍)
採寸自動調整機能搭載
特徴:飛行系鳥類最速の隼に人類が挑もうとした際
主がお遊びで作った作品
材質は不明
ユニークツールの類だが性能は非常に優秀。
通年で履ければいいが、このままだと冬場限定装備だ。
靴に関しては良いの貰ってるから時々気分で履き替えるのもいいだろう。赤色で女性向けではある。
「このブーツはシュルツに渡して暇な時に色々作って貰うのがいいかな」
「危険も無さそうだし大賛成。靴は沢山あっても困りません」
全ての鑑定を終えて思う。
「何処に居るかは解らんけども」
「この流れは吸血王さんにも会う流れだね」
「クワァ…」
靴を収納した段階で感じていた違和感を口にした。
「鑑定数が多過ぎたのか指先が超熱い」
「大丈夫なの?」
道具に触れた指先から熱が手首腕と回り、全身が焼かれている様な感覚に陥った。
感覚だけではない。実際に指先から煙りが立ち始めた。
嫌な予感全開。躊躇無く嫁とクワンの前で全裸を敢行。
「ちょ、何して…」
「ク?」
応えるのは後にして。生まれたままの姿に腰にロープを巻き付けソラリマを装備し直し、煉獄剣を引き抜いてバッグを脱ぎ捨てた衣服の上に置いて距離を取った。
「これ燃えそうだから荷物持って離れてて」
既に周囲は灼熱地獄。波打ち際に立つと海水が熱せられて蒸気が立ち籠めた。
フィーネは心配そうにしながらも俺の荷物を抱えて即座に離れた。離れたのに彼女はもう汗だく。俺が熱源のサウナの完成。
振り返り我が嫁に問う。
「フィーネってさー。俺のスキンヘッドどう思う?」
「徐々に抜けるのはいいけど。出来れば嫌ー」
どうやら好みではないらしい。頼む髪よ生き残れ!
ソラリマを最短に収め、剣を両手で頭上に掲げた。
『凄まじい熱量だ。温度を剣に集約すれば紅蓮の溶岩にも匹敵するだろう。失敗は許されないぞ』
「解ってる。何処の誰が仕掛けた罠かは知らんけど。俺昨日から頭来てんだよ。シュルツを危険な目に遭わせた奴にお返ししてやるってな!!」
剣の刀身に全ての熱を移動させる。
最初は黄ばんだ赤い炎。それが段々と透き通る青色へ。
青から濃い紫色へと変化して行った。
熱さで眼球が焼かれる。瞼を閉じながらイメージをし続け更に上昇させた。
刀身よりも先に手の甲が爛れ始めた。ここまでが限界。
「フィーネ。全力で空に打ち上げる。行き先見といて」
「りょうかーい!」
背負い刀を縦一閃。練り上げた炎で熱いお中元。大好物の炎だろ。遠慮せず一片残らず平らげて欲しい。
意趣返しが消え去ると同時に周囲の温度も冷め返った。
普段なら纏わり付く潮風も火照った身体に心地良い。
「東の空に向かって飛んでったよ」
犯人は東だったか。
焼け爛れた両腕を見ながら。
「髪の毛大丈夫?」
フィーネが笑いながら。
「心配するとこそこじゃないよ。火傷手当するから横になって」
「よろしく~」
頭に触るとまだフサフサ。安堵してフィーネの膝枕に頭を預けた。
……
「無茶ばっかして」少し涙声?
「泣かなくても」
「泣いてません!」
傷薬と治癒魔法の併用ですっかり元通りに。戻ってからも暫く膝枕を続けて貰った。
「ねえねえスタンさん」
「はいはいフィーネさん」
「私お腹が空いたのですが」
「何故か晴れてしまったのでここで焼肉にしましょうか」
俺が焼き払ってしまった所為で空は一面の快晴。弊害で島の沖合が暴風雨で荒れ狂っていた。
自然環境を破壊してしまったのか。一過性の物なのかを探るためにも時間を掛けて見守った。
15時前頃に上空は雲に覆われ、大きな穴は塞がれた。
戻った証拠に大粒の雨が降り出した。
全ての確認を終え。不意の敵襲も来ない。
安心を得られた所でハイネに向かい、キャンプ用品を買い漁ってから帰宅した。
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何と言う光景。何と言う熱さ。
今真に我が城は中央部の妾が居る場所からドロドロに溶かされ崩壊の一途を辿っていた。
外壁も装飾も道具も全てが溶かされて塵と成り果てる。
正直に語ろう。妾は人間を嘗めていた。
装備を作らせる為だけの道具にしてやろうとの浅はかな考えがこの結果を招いた。
妾の身を包む崇高なる装備品。その欲望の炎が何百倍もの熱に成って返された。
見事な迄の意趣返し。
この世で最も愚かな生き物は人間風情だと侮っていた。
煉獄の炎が目前に迫る。これは空から飛来したのだから飛んで逃げても無意味だろう。
「妾が逃げる?」それは有り得ない。
神に等しいと過信したのが仇と成って邪魔をした。
防壁と成ろうと挑んだ部下たちは全て飲まれて消えた。
永劫の刻を過ごし、不死の身体も手に入れた。それが今砕かれようとしている。
人間風情に恨み言は吐かない。その代わりに。
「必ず貴様らに会いに戻る。待っていろ人間め」
煉獄の炎に足が飲み込まれた。
四方や自分に再び苦痛が与えられるとは。
前言を撤回しようかと気持ちを改めながら、始祖の女王は炎の渦中に沈み入った。
絶え間なく続く彼女の悲鳴は、誰に聞かれるでもなく。
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皮と餡を作り焼き餃子にした夜。
約束通りシュルツに煉獄剣をお披露目した。
ベッドの端に座りながら素晴らしい性能ですねと素直な感想を漏らした。
久し振りにフィーネと寝るんだと意気込んでやって来た彼女に応える形で内緒でこっそりお披露目と相成った。
リビングで取出しロロシュ氏に怒られるのが嫌だったとも言える。
寝る前の女の子には相応しくない立派な剣。男の子なら朝まで語り明かせたかも知れないが可愛い女の子では明日のお肌の方が心配だ。
結果を自分の目で確認出来た事で安心したのか、その夜のシュルツはぐっすり安眠。
受けた呪いの影響は微塵も感じられない。
合コン当日。何故に幹事が緊張しなければならんのか。
フィーネのお叱りに屈せずちゃんと女性陣が参加してくれるのか心配は尽きない。
振り払うように日課のトレーニングに精を出した。傍らで体育座りの期待一杯で眺めるシュルツの目が痛い。調子に乗って遣り過ぎてしまい、膝が笑ってら。
お風呂の後の朝食時もシュルツが同席。
焼き魚に麦飯にお浸しに味噌汁。昔で言うなら和食一辺倒であるがこちらの世界では果たして何と呼べば良いのだろうかが小さな悩み。
お箸の扱いに困惑中のシュルツに。
「無理せずフォークとスプーンでいいのに」
「何事も勉学で精進有るのみです」
と言って聞いてくれない。
反抗期だな。
食後にフィーネが話題を変えて。
「シュルツに新しいお仕事の依頼があるのだけど」
待ってましたと満面の笑み。
隼のブーツを床に置いて。
「これを解析して似たような靴を頼みたい」
繁々と手に取り眺め回して。
「サーペントの皮はまだまだ有ります。ポーチも後数個作れば充分ですので次のお仕事を悩んでいた所なのです。
ブーツは初挑戦ですが風の魔石はありませんか?」
行き成り上に挑戦する気だ。シュルツの向上心に応えて大きな魔石を1つ渡した。
物の引き渡しと断塊の鉄鎚を借りる為にシュルツの工房にお邪魔した。
「お姉様。箪笥はどうされますか?」
「棚にも箱が必要でしょ。それはもうそのまま使って。その方が持って回るより私も安心出来る」
「有り難う御座います!」
隼ブーツを解体中の横で金槌でフェンリル様の爪端を割り砕いた。
シュルツが横目で。
「大狼様のお爪をどうされるのですか」
煉獄剣の空きスロットとマントとフィーネの矛とかに合成出来る筈だと説明。
「復元だけでなく合成まで出来るのですね」
興味津々で見詰める眼差しに負け、手堅くスロットを埋めてみた。
スロット1:大狼の爪
氷属性保有(大狼の加護:絶大)と盗難防止機能が追加された。
スロットの出し入れでは魔力の損失は軽微。続けてマントに爪の破片を合成。
マントを風呂敷にして爪を包み込んだ形。
魔力損失は2割程度。こちらのマントは結構な変化が。
名前:始原の外殻(大狼の加護:絶大)
性能:防御力3200
変幻自在に形状変更可能
知能以外の全能力値+2400
盗難防止機能搭載
光学迷彩機能搭載
特徴:始まりの者が身に付けたと言われる外殻
全ての攻撃に対して絶対的な耐性を持つ
「誰でも着られるし。フィーネのフル装備に加えれば略無敵だな」
防御力に関して言えば合計で万を超えてしまう。
「照れるわね」
「凄いです!」
「クワッ」
「ステは単なる加算じゃないとは思うけどな」
「だね。各装備を使い熟してこその真価。正しく使えなければ宝の持ち腐れ」
事前に生血入りの解毒剤を飲み干し挑むはポセラの矛。これにはスロットが存在しない。合成出来るかはフィーネの手腕次第。
「これは私1人でやるわ。水の巫女として」
鬼気迫る表情に言葉を失う。反対意見も特に無い。
目映い光の後で矛は姿を変えた。
名前:ポセラの密槍(二神の加護:絶大)
性能:攻撃力4500
知能以外の全能力値+4800
装備者固定(フィーネ:死亡時解除)
6時間に一撃のみ任意魔力を攻撃力に上乗せ可
自動帰還機能、盗難防止機能搭載
全属性保有
特徴:太古の昔に水竜を討伐する為に造り出された槍
制作者、素材不明。唯一無二の神槍
芯部の色味に変更は無い。歪な箇所が整い、長い柄の上中下段に薄紫色の螺旋グリップが巻き付いた。
「凄いの一言だな」
「水竜様を討伐する為…?」
「誰にでもやんちゃだった時代はあるもんさ。伝承には一切残ってないけど。逆鱗を剥ぎ取られる前は怒りん坊だったのかもね。水竜様」
「信奉する身としてはコメントし辛いわね」
シュルツからの質問。
「水竜様の御加護が付いているのでお気に為さる必要は無いのではないでしょうか。それよりもお姉様が水の巫女とは何ですか?」
「それに関しては秘密にさせて。それこそ禁忌に関わる事だから」
「はい…」
許可も下りてないのに信者に言い触らす訳には行かないもんな。
「何にしろフェンリル様の爪に関しては二度と手に入らないって意味で有限だ。今後も使う物は吟味して行こう」
「そうね」
作業台の上を片付け、マントのフィッティングを3人とクワンで試していたらアローマが1人で工房に現われた。
「やはりこちらでしたか。何度も光が外に漏れ出ていましたよ。もう少し配慮されては如何ですか?」
ごめんごめんと打ち切り、アローマにもマントの有効性を力説した。
クワンにもリサイズ可能だったので、柔軟な発想を持っていれば誰にでも扱える筈。
好きな形をと解いたら。
侍女服の上から真っ赤なノースリーブドレスを纏う形にしてしまった。
「そんなんでもアリなのか…。緊急時の服の代わりにも成るんだな。スリットが入って色っぽい」
評した途端に解除してしまった。
「恥ずかしいのでお止め下さい」服の上なのに?
4人とクワンで本棟に移動し、向上心豊かな料理長入魂の昼食を頂いた。
前日から柔らかく煮込まれた牛タンシチュー。
「美味い!これはトワイライトにも負けてない」
他の4者も絶賛。
「お褒め預かり光栄です。彼の名店と比べられるとは有り難いお言葉」
料理長も照れ照れ。やっぱりプロは一味違うぜ。
お返しに味噌と醤油を合せ、韮と大蒜の芽と鷹の爪を細かく刻んだ物を練り込み寝かせた豆板醤擬きを進呈し、リベンジ麻婆豆腐を本棟の厨房で作らせて貰った。
隠し味にビーフシチューを少々。これぞ和洋中折衷。
「ここに摺下ろし大蒜や山椒を加えれば激辛になって美味しいんですけど」
「今日はこれから出掛けないといけないので」
「勉強に成ります。お嬢様を除き大人向けとして改良してみます。それでその山椒を分けて頂きたいのですが」
いいですよと快く置いて。
「粒のまま煮込むも良し。軽く砕いて肉料理に添付しても良し。細かく摺って先日の鰻の蒲焼きに振り掛けても風味が増して濃い味でもさっぱり食べられますよ」
「鰻だと栄養の吸収率が向上してもっと元気が出ます」
「それはそれは。ロロシュ様もお喜びに成ります」
自宅に戻り、漬けた梅の実の様子を見た。
「ちゃんと梅酢が出てる」
「梅がラフドッグにあったなんて盲点だったね」
同時に購入してきた赤紫蘇を軽く水で戻して梅干し鍋に敷き詰め重しを乗せ直した。
「酸っぱいのが嫌いなら取り分けるよ」
「いいよ。最初は定番から入らないと。それより益々お米が欲しくなっちゃうなぁ」
「もう直ぐ出会えるさ。南西の攻略を最短にして」
「モメットさんのお悩みと反応次第だね」
そのモメットさんがメメットさんの息子。南西の滞在が長引くかは彼の状況次第になる。ベルさん曰く、人間性に難が有るとか無いとか。
会うのが楽しみだ。
身支度を済ませ邸内の馬車を借りてエドワンドへ。予定の5人が店のロビーで寛いでいた。
流石は百戦錬磨の女性陣。ちょっと怒られた位では凹まない。強い意志が窺えた。
「予定通り真面目にお願いします。接客に関して言う事は無いですが。今日は仕事を忘れて下さいね」
パメラさんが。
「この緊張感は久し振りで。素を出すのが恥ずかしいと言いますか」
「男側ももっと緊張してるでしょうから。行き成り色仕掛けで攻めないようにお願いします」
「気を付けます」
以下4人のマリカ、リリス、カンナ、エナンシャも含めてフィーネが服装チェック。
「今日はお酒も出て寝室も沢山ありますが、大人の淑女としての貞淑さに期待します。後の責任は一切関知しませんので宜しく」
店を出る前にブルームさんにもご挨拶。
「今日上手く行って全員引退になっても大丈夫なんですよね」
「問題ありません。当店は健全なお喋りの場、ですから。従業員の入替えも長い目で見て当然の流れですので」
ドライな話。入替えや循環も世の常。人妻になっても産休以外は仕事を続ける人だって中には居るんだし。
邪な考えを抱くのは男ばかりで彼女たちは至って真面目にやっている。そうでない人も偶には居る。単純な話だ。
10人乗りの馬車でデニスさんをピックアップ。男1人で肩身が狭かったが改善した。
抑え気味な香水でも密集すればそれなりにキツい。キツいが嫌では無いレベル。
熱気と湿度で車内は蒸れていたが、デニスさんは余裕で彼女たちの質問攻めに対応していた。ポイント高いぜ。
残りの男衆4人も、俺たちが到着した時にはリビングテーブルに陣取っていた。
若干重苦しい雰囲気が漂っているが知ったこっちゃない。
デニスさんもノイちゃんに案内された席に座り、女性陣も思い思いの席に座った。
ノイちゃんから順番に自己紹介とアピールポイントの発表をしている間に酔い止めを配布。
「今日はこの様な場を設けてくれたスターレン殿に感謝する。ここは私の屋敷だが三階と地下以外は自由にしてくれて構わない。余計な世話だが男女問わず、汚したら明日掃除をして帰って貰うからその積もりで使って欲しい」
各自酔い止めを飲んで頷いた。
空き瓶を回収して給仕さんが料理を運んで来てくれたのを見計らってシャンパンとウィスキーを並べえる。
「追加のお摘まみ作って来るんで始めて下さい」
「何かあれば私かスタンに遠慮無く言って下さいねー」
注意事項として酔いに任せてクワンに触るな。男だったら腕の骨折れても知らないぞと脅してから厨房へ。
使用人、給仕、王宮からレンタルされた料理人の皆さんと協力してお摘まみを拵えた。
「こちらは任せてお二人も中へお戻りになられては」
「今日は幹事なんで中に居ても邪魔なんですよ」
「私たちが居ると楽しくお喋り出来ませんから」
「それならば良いのですが」
もう何度も顔を合せている人たちばかりで遣りやすい。
自分たちとクワンの夕食も片隅で食べるからどの道リビングには戻るのだが。
千切りキャベツ、大根、人参、ピーマンを軽く塩胡椒で炒め隠し味に醤油を垂らし、蛇肉の醤油焼きをタルタルサンドイッチにして配給。
それぞれ赤面しながら楽しそうに小声で話をしていた。いい感じだ。今日は何も起きない事を祈ります。
ノイちゃんの隣には長身スレンダーなマリカさんが。デニスさんの隣にパメラさん。俺的には逆かなぁと勝手に思っていたが組み合わせは悪くなさそう。
蛇肉サンドに参加者のテンションが上がった。
お酒も進み、より楽しそうに。
フィーネと小声で密談。
「席の入替えどうする?このままの流れでもいい気がする」
「同感。でも一応暫くしたら聞いてみるね」
「お願いします」
少し大蒜を利かせた熊肉焼きを作って戻ると更に温まっていた。
配膳と同時にシャンパンを入替え。
「皆さん。そろそろお席の入替えをしたいと思います。このままで良いよと言う方は居ますか?」
全員元気良く挙手。
何これ確定?幹事としては楽でいいけど…。
熊肉で更に上昇。席替えが無いならと給仕さんに用意されていた料理を順番に運んで貰った。
滞り無く会は進み、お邪魔な様なのでご自由にと馬車を置いて帰宅した。
「楽勝だったな」
「みんな大人ですから」
別宅の正門を出た所で…。
「ニーダ?」
「どうしたのニーダちゃん。傘も差さずに」
「スターレン様…。フィーネ様…」
彼女は泣いていた。嘘だろ…本気でノイちゃんの事を?
「ノイツェ様は…」
「残念だけど上手く行ってるみたいだ」濁さずに。
「兎に角私たちの家に行こ」
逃げる素振りも一瞬見せたが、フィーネに肩を抱かれて直ぐに大人しくなった。
「はい…」
のんびり歩いて帰る積もりで居たが急遽転移で自宅に戻ってフィーネと一緒に風呂へ入らせた。
赤ワインに新作滋養酒を混ぜ粒山椒を入れて沸かした。
今夜のお風呂は長くなりそうだ。
絶対無いと思い込んでいた道。倍以上の年の差を越える恋愛?
こと女性の恋愛事情は女性同士フィーネに任せた方がいいと思う。
男の意見を入れると拗れる事受合いだからな。
---------------
女同士のお風呂にも抵抗が無くなった。
声も上げずに涙を流すなんて相当だと思う。
自分で身体を洗い流し湯船に浸からせると肩を寄せて頭を預けて来た。
裸で密着している訳だが拒絶する訳にも行かない。
「ノイツェさんの事好きだったの?」
「…よく、解らないんです。自分の気持ちが」
他人には余計に解りません。
「嫉妬かな」
「違う気がします…。ポッカリと胸に穴が空いたような」
何とも判断が付かないな。
「明日の朝に馬車を回収しに行くから。一緒に行く?」
一瞬身体が強張った。
「はい」
「一度さ。ノイツェさんの事をお義父さんって呼んでみたらどうかな」
「お義父さん…」
「前にノイツェさんが養女なら考えるって言ってたでしょ。それで自分の気持ちを確かめられるんじゃない?」
後はお相手さんを見た時に嫉妬心が芽生えるかとか。
「それ、言ってみます。拒絶されたら…」
「慰めてあげるわよ。明日から暫く時間取れるし」
安請け合いとはこの事だ。
それでもスタンに任せるよりは余程マシだと思う。
少しでも油断すると女の子がノンジャンルで寄って来てしまう旦那様。一度でも許せば決壊ハーレムの出来上がり。
絶対に許されない。
---------------
翌朝早くに別宅へ赴いた。馬車を回収しに。
各自で大人時間を過ごしたのか皆が程良くお疲れモード。
関知しないと言ったからには何も言わん。
ノイちゃんが俺たちの隣でモジモジするニーダを不思議そうに見ていた。
「さあ言ってみて」
フィーネに背中をそっと押されてニーダが歩み出す。
「…ノイツェ様。私を養女にして下さい。お義父さんと呼ばせて下さい」
「な…にを急に?」
「養女?」不思議顔がもう1人。マリカさんだ。
「お義父さん」
「ニーダ。落ち着きなさい。物には順序がある。取り敢えず朝食にしよう」
「はい」
他の面々も興味津々。その他は引き取ろう。
「ノイツェ殿とマリカさん以外は全員退出!」
「今なら雨止んでますので。馬車に乗る方は早くしないと出ちゃいますよー」
後ろ髪引かれながらも残りの8人が動き出した。
しっとり濡れた御者台に乗り8人を運搬。
デニスさんの店前にパメラのペアを捨て。
冒険者ギルド前にモヘッド、リリスのペアとギーク、エナンシャのペア2組を捨て。
北城門前の兵舎屋前にメドベド、カンナのペアを捨てた。
馬車を戻して自宅待機。
「三種の神器の件言いそびれたわぁ」
「問題だったら昨日言って来てるよ。それよりもニーダが1人で戻って来ないのを心配して」
「戻って来たら…美味しいもん腹一杯食わせればいいんじゃね?」
「色気よりも食い気ってか…。私もそれしか浮かばないのもまた事実」
ちと早いが漬け途中の梅の実を3つ磨り潰して素焼きにした蛇肉に梅肉ソースでサンドイッチを量産した。
ブランチタイムでお昼は抜きだな。
コーヒーを淹れてミルクオレを作り、サンドイッチを美味美味していたらノイちゃんが3人の女連れで押し掛けて来た。マリカ、ライラ、ニーダの3人を。
4人に梅肉サンドを提供しながらお話。
「余りニーダに無責任な話を吹き込まないでくれ」
ノイちゃんが痛くご立腹。
ライラも余計な事を言ったと罰の悪そうな顔。
マリカは若干飲み込めていない感。
ニーダはションボリしていた。
かなりイラっとするな。
「無責任?何が?」
「ニーダを養子にする話だ」
「逆に聞きたいけど。ノイちゃんとライラはニーダに何をさせたくて文官見習いに置いてんの?ライラの後任なんて重責背負わしてんのはあんたらの都合じゃねえのか!」
「それは…」
何か言いたそうなニーダを制して。
「暫くニーダを預かって欲しいとは頼んだのは俺だよ。でも彼女が抱えていた問題はとっくに解決した。なら何でその時に返すなり相談してくれなかったんだ。何も無ければ将来までしっかり責任取ってくれるもんだと思うだろ」
「…」
「何黙ってんだよ。体良くニーダを使い潰してポイ捨てする気だったのか」
「違う!」
「違います。私が働かせて下さいとお願いしたんです。お世話になったお二人とノイツェ様のご恩返しに成るのならと思い…」
「健気に頑張るニーダのお願い1つ叶えられないの?俺はそっちの方が無責任だと思うけど?」
「違うんだ。昨日出会ったばかりのマリカの前でとても話し辛いが。何事にも本家の了承が必要なんだ。今やバートハイト家の直系は私一人。マリカを将来嫁に迎える話とニーダを養子に迎える話は丸で違う。私の養女に成ると彼女の将来を潰してしまい兼ねない」
ライラが苦しそうに。
「本家はまだそれだけの影響力を持っているのです。老長の耳に入った途端。ニーダに訳の解らない縁談話が降り注ぎます」
傍迷惑な婆さんだな。
「ごめん。言い過ぎたよ。ニーダ、振り回して済まない。まずは仕事と私情は切り離して考えよう。仕事は続けたかったら続けてもいいし。嫌なら俺が紹介出来る。君ならロロシュ財団系でもカメノス財団系でも引く手数多だ」
「仕事はもう暫く続けながら考えたいと思います」
「マリカさんの件も含めて性急過ぎた」
「だから順序があると言ったんだ」
一段落した所でノイツェに手付かずのサンドイッチ弁当とポーチを返却してライラに引き取って貰い、マリカとニーダを残した。
「マリカさんには急展開過ぎた?」
「正直。昨晩バートハイト家のお話は少しだけ伺いましたがニーダさんの件は初耳で…」
そりゃそうだ。嫁に行けるかもの話から貴族入りの話で大きな子供を迎えますじゃ付き合い切れないよな。
「ニーダちゃんは。ノイツェさんをお義父さんと呼んでみて変化はあった?」
「私個人としては妙にしっくり来ました。それだけでスッキリしてしまったと言いますか。マリカさんには申し訳ないです…」
いえいえを言い合う2人を前に考える。
「恋愛感情じゃないのが理解出来た所で。まだ養子に入りたい?」
「いいえ。もう心残りは有りません。ノイツェ様とライラ様のお考えも解りましたし」
「ふむ。ニーダの問題は概ね解決として。マリカさんはじっくり今後を考えて貰うでいいかな」
「はい。異存は在りません。平民風情には身に余る良縁です。貴族の仕来り云々の話を差し置いても逃したくはないですね。年齢的にも」
「正直だなぁ。でも嫌いじゃ無い」
「ラフドッグの本家に相当な老害さんがいらっしゃるみたいですけどねぇ」
一気に表情が暗くなった。
「推測だけど。その人の所為でノイちゃんが結婚出来なかったんだと思うよ。挨拶行くのは身を固めてからがいいかも」
「全部片付けてからの事後承諾の方向で畳み掛けてしまいましょう」
「そうですわね」
軽く笑い合ってニーダが席を立った。
「遅れましたが出勤して参ります。お騒がせして済みませんと伝えて」
「これしきの事で心変わりはしておりませんとノイツェ様にご伝言をお願い出来ますか」
「了解しました」
ニーダを南門前に送り届けてリビングに戻った。
「縁結びの幹事も大変だ」
「ホントね」
「ご縁談のお話は兎も角。先程スターレン様が仰られた仕事の紹介は私では難しいでしょうか」
「何処も人材不足だから難しいって事は無いよ」
「ジェシカは身の振り方を決めている様子ですが。私も含め五人は探し始めた所で。特に私が軍官の妻と成るには世間体が悪いと申しますか」
「話は解る。けどそれは先にノイツェ殿に相談して欲しいかな。飲み屋の接客業の人を紹介するって時点で何も考えてない筈がないからさ」
「解りました。これも順序ですね」
「マリカさんは今日は出勤されますか?出勤ならそろそろ帰って寝ないと」
「五人は本日も休暇です。長らく休暇を取らなかったもので。若い子が頑張ってくれれば良いとブルームが気を利かせてくれました」
梅肉サンドをさっぱりしていて美味しいと頬張るマリカさんは幸せそうだ。
他がデート中ならカジノに単独では誘えない。
思い切って相談してみると2つ返事でOKだった。多分他も帰って来ているだろうとも。
ホントにぃと馬車でエドワンドに向かうと。玄関前の日指部で手を振る5人が居た。ジェシカさんまで。
従業員寮は店舗の裏手に在るそうで呼べば直ぐ来れるそうな。
合流するとマリカはどうなったんだと心配していた。
本人が無事に俺の一喝で拗れずに済んだと報告すると5人に拍手された。
お時間あるならカジノ行きませんかと誘うと全員OK。
カーライル到着。コインを集約すると2万4千枚。
「先週に大当たりが続きまして。景品と交換も出来たのですが紛失や盗難が怖くて保留しました」
とパメラが説明してくれた。
残り1万6千。これならバザーまでに手が届く。などと欲を出してはいけない。
いけないと解っていながら俺が凡ミスを連発してもーた。
笑えない。
初の単独ルーレットで大失敗。
昼過ぎの集計で+2千弱。
「すんませんした!」
「素直に私の隣に居てよ。変に格好付けてなかったら倍は勝ってた」
「単独ならダーツでもやってます」
フィーネにヨシヨシされて慰められた。子供か!
夕方までに+3千近く稼ぎ、本日の終始5千でお開き。
女性陣をお店前まで送り届けると、パメラがデニスさんの店に行くと言い出し、ジェシカさんも参加で俺たちも便乗した。
段々面倒になってしまい。馬車をロロシュ邸に放棄して転移で店前に飛んだった。
「いらっしゃい。何も当日に来なくとも」
「善は急げです。…本当にお客さんが居ない…」
「これが証拠だ。ほぼスターレンたちしか寄り付かん。パメラをウェイトレスで雇ってもグラス磨きと掃除位しか仕事が無いんだ」
「少し憧れていましたのに。残念ですわ」
「意外にパメラさんが入ればお店流行るかもよ」
「パメラさん目当てに小金持ちが挙って」
行動を読まれ、男性陣も続々と来店し、宛ら昨日の2次会と化した。
それぞれペアに分かれて談笑。俺たちとジェシカとパメラはカウンター席に並んだ。
クワンはジュース数種を飲み比べ。
「今夜は大繁盛ですね」
「何時もこれなら張り合いもあるんだが。私は笑顔がどうも苦手でな。怖いらしい」
解ってるなら頑張ろうよとの言葉が出そうになった。
「やはり私が立つべきです。安定収入と将来の貯蓄の為にも」
「そう言われると反論の余地が無いな。その話はゆっくりして行こう」
「はい」
パメラがお酒とお摘まみを運んでいる間に。
「ジェシカさんの方はどうなりました?」
「私の方は…今度の在庫処分が終わった後で動きます」
「あれって在庫処分なの?」
「彼自身の発言権等に売り上げ成績も加味されるのです。表裏関係無く常に本部は目を光らせて。嫌らしい事この上無いですね」
何処も面倒なルール設定してるなぁ。
宴も酣の頃にソプランとアローマが来店した。
「おー居る居る…。て何だこれ。モヘッドとノイツェ様まで居るじゃん。女子はエドワンドの?」
「昨日のお見合い会の流れでさ」
「だったら邪魔しちゃ悪いな」
「ですね」
2人もカウンター席に座った。
「お前に仕事の話持って来たが帰ってからにするよ」
「仕事?城で何かあったの」
「ノイツェ様とモヘッド以外には聞かせられん」
「じゃあ後で。あー明日からカジノに籠ろうと思ってたのになぁ」
「カジノ行くのか。俺たちも打ち合わせが終わったから参戦するぜ。仕事の話もそんなに時間食う話でも無さそうだしよ」
「私も気晴らし程度に行かせて頂きます」
ジェシカさんも乗り気で。
「私たちも行ける子で。昼過ぎの短時間だけ参加します」
「助かります」
「無理する物でも無いですから。気軽に」
数杯飲んだ所で金貨を数枚置いて席を立った。
「今日は俺の奢りです。これで足ります?」
「何時もの事だが。貰い過ぎだ」
まあまあと。テーブル席に振り返って。
「この中でレンゼデブと言う名の家名に心当りがある人って居ますか」
するとカンナが手を挙げた。
「それ私の昔の家名ですが何か」
「お!カンナさん明日の出勤前に少しお時間下さい」
「是非お聞きしたい事があるので」
小首を傾げながら。
「構いません。明日でも、今からでも」
と答えだったものの2人切りの貴重な時間を邪魔するのも良くない。明日でと断りジェシカさんだけお店前に届けて帰宅した。
「まさかカンナさんだったとは」
「世間は意外に狭いものね」
かなり重たい話になるかも知れない。セルダさんに連絡するのは後にしようとなった。
場合に因ってはメドベドにも…それは余計かな。
話題を変えて蛇肉の残量を確認するとトータルで半分を過ぎていた。
「大分食べちゃったなぁ」
「あんなに沢山あったのに…。無くなるのは早いねぇ」
生血はたっぷり在庫を抱えているが魔力を回復出来る手段が現状これしか無いなら大切に使うべきだ。
エーテルポーション。それは増強剤よりも重要になって行くかも知れない。ロープのような反則技でも見付からないと色々と厳しい局面も出て来るだろう。
次の料理を考案しながらお茶をしているとソプランたちが帰って来た。
「メイザー様の帰還予定は来週らしいが。それよりも先に帝国から密書が届いたそうだ。近日中に見に来いとさ」
「帝国からか…」
「良い話、ではなさそうね」
来年じゃないと北に行ってもなぁなどと話していると、どうして来年なんだと質問が返された。
「まだ詳しくは話せない。帝国に行くのと同じタイミングでどうしても用意しなきゃいけない物品があって」
「それが手に入るのが来年の2月以降なのよ」
人脈作りの観点で言えば早めに行くのもアリ。
「何れ聞けるんなら待つけどよ」
密書の内容次第で考えると加え、梅肉サンドを2人に食べさせてみた。
「酸っぱいなぁ。疲れた時とかに効きそうな味だ」
「酸味とお肉の肉汁が相まって大変美味しいです」
「醤油味ばっかだと飽きるから。今度の式ではこれ出す積もり」
「何だよ。楽しみが減ったじゃねえか」
「他にもちゃんと追加メニュー考えてあるから」
「夕食とかで色々試作してみる積もりなので。当日の楽しみに取って置きたいなら食べに来ないでね」
「それは、悩ましいです」
2人共本気で悩んでいた。
料理はさて置き、明日の予定を打ち合わせして今夜は解散した。
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午前に特別会議室へ伺った。
列席者は陛下、メルシャン様、キャルベスタの3人。取り敢えずの様子見なのか。
「良く来た。今度の書は真面だったが…。またしてもお前をご指名だ」
「またですか…」
大人しく席に座り書を読み上げる。
「タイラント国、ヘルメン王殿。
総選挙で選出され次期皇帝に座した
アストラ・フェーゼ・ビエンガルドと申す。
正式な通達は後日。本書はそれとは別に貴国に所属するスターレン殿に折り入って接見を申し入れる物である。
これもまた正式には出せぬ召還依頼である為、貴公と当人の都合で良いと考える。
がしかし。早ければ早い方が喜ばしい。
来国を望み、陸でも港でも何処からでも入れる入国及び帝都入場の許可証を同巻した。
本件の特異性を考慮し、
我が国の元帥エンバミル・アーレイ・サイゼリンド
との連名にて記す」
「前と比べ物にならない位に良識的な御方で良かった」
「感想を述べる前に。どうして指名が上がったのだ」
「その説明に入る前にキャルベスタ殿。このお二方に心当りは有りますか」
ヘルメンの許可を取り。
「次期皇帝と名乗るアストラは、帝国騎士団長を長らく勤め上げた傑物。元帥総司令のエンバミルは、崩壊し掛けた帝国を急場で取り仕切り、立て直しを計った張本人と思われる英才。
何方の人物も侮れません。
私的感想を述べれば、何方が次期皇帝でも何ら可笑しくはなかったと」
「立ち直りが異常に早い。もしかしたら前々からエンバミル氏が準備を練っていたのかも知れません。
陛下。大変失礼ながら本件は私に預けて頂く訳には」
「いかんな。説明を終えるまでは帰さんぞ」
「でしょうねぇ」
「陛下。今からお話する事はかなりの衝撃です。お心の準備を願います」
「ぬ…そこまでの話か。と、兎に角話せ」
話をする前に2通の手紙をメルシャン様に読み上げて貰った。
フェンリル様からのお手紙を。
「ほ…本鮪…」何かのシンパシーを感じた模様。
食い付くのは絶対そこじゃない。
上手く飲み込めない陛下さん。
「何の…冗談だ」
「それが冗談ならどれ程良かったか」
クワンの首輪を外し、生爪を取り出して並べて見せた。
「ゴーグルで覗いて見て下さい。鬣の方が一通目に。爪が二通目に添えられて北の大陸から運ばれて来ました」
何度もゴーグルを外して確認し、最後には目頭を押えて項垂れてしまった。
ゴーグルを順番に受け取り覗き見た2人も。
「「……」」固まるわな。
「恐らくですが。帝国の人は怖くて北の大陸に行けないから俺に行って来てって頼まれるのかなと思います」
「南本鮪漁の次の解禁時期が早くても来年2月です。それ以前に行けと急かされても。接見するのが困難です」
「神域の聖獣様の怒りを買いたくはないんで。今は行きたくないですね」
「ぬぅぅ…。他の誰にも手に負えんな」
「事前入国の時期はお任せ下さい。今は北よりも南の攻略を優先したいんで」
「仕方ない。返事も含めてお前に任せる」
「有り難う御座います」
「仰せのままに」
「これが大狼様の匂い…」
メルシャン様がクワンの首輪をクンクンし出した。
「クワァァ!!」
クワンに叩かれたメルシャン様は涙目で。
「大丈夫です。臭くはありませんよ」
返事は明日迄に書くと伝えて退出した…。
「フィーネさんフィーネさん。今俺たちって役人の一員じゃないですか」
「そうとも言えますねスタンさん。悪い目をしていますね」
ここは謁見の間から目と鼻の先。いや目の前だ。
大扉は閉め切られ、警備も2人しか居ない。
やあやあご苦労さんと接近すると。
「ス、スターレン様。これ以上は」
「え?何で?上官命令でも駄目?」
「絶対に通すなと言われております。我らの首が…」
泣きそうな衛兵さんの前で食い下がる俺を。
「いい加減にしなさい」
とフィーネが首を掴んで引き摺って行った。
次こそ。次こそは。
1人で来た時は絶対に入ってやるぞ。
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自宅に戻りお返事は簡潔に書いた。
「お誘いは大変有り難いのですが。
今現在は南方諸国への外務と商人としての仕事が立て込んでおります。
来年の二月以降でしたら空きも作れる見込みです。
私をご指名された意図は計り兼ねますが、これも我が国を発展させる外交の一環として捉え、有効で有益なご関係を築ければと思い馳せ参じる所存です。
今の所手土産等々のご用意はしておりません。反意と捉えられても困ります故。その点はご了承下さい。
また私を北の大陸へ渡らせたいのであれば。分厚い氷河を越えられる船をご用意して頂けると幸いです」
「んな感じで」
「いいんじゃない」
自宅で待機していたソプランが。
「何だ。帝国からの呼び出しか」
「そうなんだよ。厄介な仕事ばかり押し付けられそう。
またその時になったら詳しく説明するよ」
自国の問題は自国で処理して欲しいと強く思う。
気分を入替え闘技場の裏手に飛んで徒歩でカジノへ入場した。
俺たちはルーレット。ソプランはポーカー。アローマはダーツと分かれて荒稼ぎ。
昼までに千枚近く稼ぎ出し、定番のサンドイッチを貪った。
ハムエッグトーストに進化している。マスタードソースが秀逸。オレンジジュースが最高だ。
王道を食べ真っ当な勝負を挑む。
挑み続けた結果。15時過ぎの合流までに2500枚。
夕方までに3千枚。
総計3万5千を越え明日で届きそうな気配。
気持ち早めのお開き。エドワンド組を送り届けてブルームさんにお願いし、カンナだけを連れ出した。
トワイライトの1階奥のブースでお茶をしながら。
「何をどうやって聞こうか悩んだけど。単刀直入にお聞きします」
どうして自分だけが。そんな表情を浮べている。
「ど、どうぞ」
「カンナさんって。お姉さんとか居ました?」
「え…」
彼女の二の句をじっと待つ。
「姉の行方をご存じ…。どうして過去形、なんですか」
「カンナさん。お姉さんは。ヤヌイさんは既に亡くなっています」
「…」
信じたくない。その言葉に尽きる。
「姉の、最後を教えて下さい」
推定2月初め頃。セルダと言う商人一家とタイラントへ入国した時に運悪くクインザの一派に襲われたと話した。
キツく自らの腕を掴み、口端を噛んでいた。
「セルダさんとお子さんの救出は間に合いましたが。元奥様はヤヌイさんと一緒に殺されていました。私たちの発見が後数日早ければ間に合っていたかも知れません」
あのオーク狩りの準備期間を省いていれば。後悔ばかりが頭を過る。
「ご遺体を最後に供養したのは、メドベドさんです」
はらりと涙が頬を伝い落ちた。
フィーネがそっとハンカチを差し出した。
「…皮肉、ですね。違うか。心配性な姉さんが私たちを引き合わせて、くれたんだと思いたいです」
涙を拭いながら辿々しく語り鼻を押えた。
「こちらの勝手ながら共同墓地にお墓を立てさせて貰いました。これから行ってみますか」
「…いいえ。出来れば明日の午前中に。丁度メドベド様とお散歩をするお約束をしておりますので、その時に案内をお願い出来ますでしょうか」
「解りました。お店の前に向えに上がります」
彼女は気丈にもお店に出ると言った。
何も言わずに見送りして俺たちは帰宅した。
2人とクワンだけのリビングで紅茶を啜る。
「なんか…今日は何もする気が起きない」
「私も同感」
結局作り置きしておいた梅肉サンドをオーブンで温め直して夕食代わりにした。
毎食でも美味しいと思っていた物でも。
「味気ないな」
「人間の味覚って不思議ね」
「クワァ…」
クワンも同じだったかと頭を撫でた。
「人間って愚かだな。ホントに」
「身も蓋もない…」
---------------
翌朝。
返信書をソプランに頼み、俺たちはセルダさんとキャライさんを誘ってお墓参りに行った。
一家は2区の新居に居たので子供をトーム家に預かって貰い大人だけで。
その内に怒られそうだが転移で飛び回れば直ぐ。
雨期には貴重な晴れ間が出ている内にと。
エドワンドの前ではカンナがボーッと空を見上げていた。
皆終始無言で当然空気が重い。
セルダさんとキャライさんは何となく事情を察してくれていたが、何も知らないメドベドは。
「こ、これは?」
バッチリ正装で決めて兵舎屋の玄関前で驚いていた。
カンナが先に家族のお墓参りがしたいとメドベドを連れ、6人で墓地に向かった。
1人1人に鈴蘭を一輪ずつ手渡し、お墓の前で手を合せて祈った。
お墓の前で涙するカンナを抱き締めた時に、メドベドも漸く事情を理解した様子だった。
セルダさんたちを連れその場を離れようとした時にカンナに呼び止められた。
「今日の夜。お二人のご自宅にお邪魔しても宜しいでしょうか。折り入ってお話したい事があります」
「解った。家で待ってる」
「何か美味しい物作っておきますね」
カンナはお礼を告げてメドベドの所へ戻った。
トーム家の前で少しだけ立ち話。
「セルダさんがヤヌイさんの名前を覚えていてくれて助かりました」
「いえ。ご遺族が見付かって何よりです。捜索までして頂いて申し訳ありません」
「今日の遅刻は俺に連れ回されたって伝えて下さい」
「事実ですから遠慮は要りませんよ」
礼を返す2人に手を振って自宅へ飛んだ。
自宅でソプランとアローマに合流してからカジノへ。
今日も出遅れてしまった為、午前は適度に1500枚。
午後から頑張りエドワンド組と合流する頃には4万枚を越えていた。
景品交換へ行く前に。
「今回の目標枚数に達しました。有り難う御座います。ですがエドワンドの皆さんと人海戦術をするのも今日で最後にしましょう」
「これからはそれぞれの将来に向けてお金を使って行きましょうね」
思い思いの返事をくれた。
こうやって節目を作るのも大切だ。ズルズルと破産しては元も子もない。
今後は個別で嗜む程度に収めようと誓い合った。
エドワンドのVIP室で景品のご開帳。こう言った遣り取りをここでするのももう直ぐ終わりとなる。
それぞれがここから巣立ち、自分の人生を見付ける長い旅に出るんだ。
1つ目の景品を手に取る。
名前:開眼のスカーフ
性能:防御力300
完全防水、完全防汚機能搭載
特徴:装備者の潜在能力を導き出すと云われる装飾品
急な雨にもこれさえ有れば困らない
材質は不明だが触り心地からすると黒染めしたシルクに似ているロングスカーフ。
並みの鉄鎧位の防御力を誇る。不思議です。
「名前に偽り無し」
「どうして防御力が高いのかしら」
みんなでコンコン叩いて首を捻った。
2つ目の景品。
名前:浮島の笛
特徴:一吹きすれば心に念じた探し物が必ず見付かる
方角、位置関係、物体の深度が脳裏に浮かぶ
(対象物が既知の物であること)
抜き穴が無い小さなオカリナみたいな形だ。
「何か大切な物を落とした時に大変便利」
「無闇に探す手間が省けるね」
少し気が早いが全員の前途を祝して乾杯をした。
解散間際にカンナがお休みを貰ってメドベドの所へ行くと言って店を出て行った。
送ろうかと提案したが自分の足で歩きたいと。
---------------
自宅に戻った後。夕食の仕込みに取り掛かった。
業務用ハンドミンサーで挽肉作りを敢行。
帰ろうか居座ろうか思い悩むアローマたちの目の前で。
新鮮な牛肉を多目に。豚肉、蛇肉、熊肉の混合合い挽きと牛肉100%と牛豚合い挽きのハンバーグを3種類。
塩胡椒少々。ナツメグ、摺下ろし大蒜と山椒。隠し味は発酵中の梅酢と新作滋養酒をストレートで少しだけ。
繋ぎは微塵切りの玉葱とパン粉のみ。冷蔵庫を見たら卵牛乳も無かった…。
下準備の段階からロロシュ氏とシュルツが観覧に訪れ、メドベドとカンナペアも到着してしまった。
諦めたアローマがメモを取り始めた所でソプランもダイニングテーブルの上を片付け、客人用のお茶を淹れていた。
ロロシュ氏を間近にメドベドが超緊張。それを見たカンナがクスクス笑っていた。
「笑い事じゃないよ。本物のロロシュ様だぞ。普段なら俺たち下っ端は口も利けないお人なんだ」
「そのロロシュ様の邸内に入った時点で手遅れですよ」
意外に元気そうで良かった。
「気にするな。ここはスターレン夫婦の家だ。わしの存在は無視をしろ」
「無視とは流石に…」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
「今日の来客は6人だけみたいなんで作り始めちゃいますね。カンナさんも未来の旦那…かも知れない人の為にも覚えて帰って下さい」
「はい。学の低い頭でもお料理は大好きなので頑張って覚えます。アローマさん。後でメモを見せて下さい」
「いいですよ。今日のは機材以外は手に入りそうな物ばかり…でもないですが。それらを除いてメモを作ります」
「こちらの業務用ミンサーは主に豚の腸詰めを作る時に使いますが。出口の器具を取り替えるだけで挽肉を作る機械に変化出来ます」
「今日用意したのは牛と豚の腿肉、蛇肉、熊肉の4種。鮮度抜群の牛肉以外はしっかり火を通すのが前提です」
「湿度が高いこの季節は衛生面を考慮して牛肉もしっかり火を通しますのでご安心を」
自分たちだけなら激レアを目指す所だが。
料理用手袋を装着し、フィーネがハンドルを回して出て来た挽肉をボールで受け取った。
牛肉から順番に。
「初めは牛肉10割の挽肉に軽く塩胡椒、ナツメグ、摺下ろした大蒜、山椒の粉を塗し、微塵切りの玉葱、パン粉を和えて捏ねます」
「今日は隠し味に梅酢と料理酒を加えます。最初はお好みでと言っても難しいでしょうから無しでも構いません」
「捏ねてお肉に粘りが出て来たら頃合いです。拳大よりもやや小さめの大きさの玉を作り、利き手に投げ付けるような感じで整形しながら叩き付けます」
「この作業は中の空気を抜くため。決して遊んでいる訳ではありません」
牛肉10割の次に牛豚合い挽き、異種混合合い挽きと順に捏ね回して整形。
フィーネが根菜スープを煮込んでいる隣で焼き工程。
「焼きにはこってりがお好きならバター。あっさり目がお好きならオリーブオイルか菜種油を使って下さい。今日はオリーブオイルを使います」
「フライパンをよく熱して肉の表面を焦し、中の肉汁を閉じ込めます」
「焼きに入る直前で玉を楕円形に潰し、真ん中に凹みを作ります」
「フライパンの熱を均等に伝える為ですね」
お肉が焦げる良い匂いが充満。
「表面が焼き上がりました。オーブンが在るご家庭ならオーブンで。無ければこのままフライパンで片面数分ずつ返しながら中まで火を通します」
「本日は人数が多いのでオーブンを使って仕上げます」
………
「焼き工程で染み出た肉汁は捨てずにソース作りに転用します。これもお好みですが。赤ワインとトマトピューレを加え煮切ります」
「アクセントにバジルや香草を加えるのもお勧めです」
焼きとソース作りも終了。
配膳を終え食卓に着きお祈り。
「頂きましょう」
溢れ出る肉汁。香ばしい外側。ソースもジューシー。
美味い美味いの大合唱。
「一度挽いた肉を捏ねるとは。これは何と言う料理なのだ」
「これはハンバーグと言います」
「腸詰めを作る精肉店の方々には割と馴染みのある料理法なんですよ」
「外に出すまでもない、余ったお肉を固めて作る謂わば手抜き料理です」
「手抜きを惜しまず逆に手を加えれば、この通り」
ソワソワソプランが。
「これを俺たちの式に?」
「当然でしょ」
「うわぁ。やっぱりか」
「お楽しみが一つ減ってしまいましたね…」
「前日に焼き捲って当日持って行くだけにします。アローマさんも余力あったら手伝って」
「はい。出来る限り。ミランダにも手伝わせます」
疑問に思ったメドベド。
「式って何だ」
「俺とカーネギ。カメノス邸のケッペラとヒレッツとメレスの組との合同結婚式だけど?」
「…招待状貰ってないぞ。それは何時だ」
「ノイツェ様にしか送ってねえよ。メドベド氏も来てくれんの?」
「四日後なのですが…」
「厳しいな…」
「残念です」と言ったのはカンナ。
「本式はもう無理だが夜にデニスさんとこで貸し切り二次会やるからそっちに来てくれよ」
「ああ。そうするよ」
「私たちも。明日声を掛けます」
急な話も持ち上がったが何とか収まった夕食後。
アローマと助っ人プリタさん(3人目の自宅担当侍女)に片付けと洗い物をお願いしてリビングに4人。
クワンは宿り木に鎮座して半分寝落ち状態。
お茶を淹れて。
「カンナさんのお話と言うのは」
多少言い辛そうにしていたが意を決して。
「姉の事はとても残念ですが受け入れるしかありません。
私たち家族。母と姉の三人は南東の大陸、北西部に位置するミリータリアからの脱出者でした。
昨年の暮れにその母が肺炎を患い、今年に入って危篤状態となった為、マッハリアに嫁いだ姉に連絡を取りました。
それが、過ちだったとは悔やんでも悔やみ切れません」
それに対して返せる言葉は無い。
「クインザの圧制下で碌に薬も買えず。母は直ぐに息を引き取りました。しかし何時まで待っても姉は現われず。
嫁ぎ先に連絡してみても、姉は夫と家を捨てて出て行ったと返されました。あちらとは其れっ切り。
私がエドワンドで働いている事は知っているので。お二人にクインザを討伐して頂いた後も、家名を捨て去り働き続けて待ちました。
願わくば。あいつの首をこの手で刎ねたかったです」
待ち人はもうこの世に居なかった。
カンナは持参したバッグから四角い包みを取り出してテーブルの上に置いた。
「姉と引き合わせてくれたお礼だと思って受け取って下さい。お役に立つかは解りませんが」
包みを解くと、割と大きな何かの石版の一部が出て来た。
「レンゼデブ家に伝わる家宝を路銀に変える為に、女神教に心酔し傾倒を深め私たち家族を顧みなかった父から奪い取った物です。稚拙な復讐とでも言いましょうか。
命辛々ウィンザートに入り込めたまでは良かったのですがクインザの罠に掛かり、私と母が身代わりとなり姉の自由を勝ち取ったのが精一杯。
結局それを売る迄も無く…。今に至ります」
「…」
「メドベド様。薄汚れたわた」
カンナの口をメドベドが塞いだ。
「それ以上は吐かなくていい。全てを受け入れよう。過去は過去。忌むべき物は捨てこの先だけを見詰めて生きて欲しい。出来れば俺と一緒の未来を」
「…有り難う、御座います」
互いを見つめ合う眼差しには、思い遣りと固い決意が窺えた。この2人ならもう大丈夫だろう。
石版に手を触れてみた。
名前:スフィンスラー迷宮の石版
特徴:迷宮の最深部へ入場する鍵と成る石版の一片
接触時のみ鑑定可能
「スフィンスラー…迷宮」
「カンナさん。何か知ってますか?」
「はい…。確か、あの場所が」
カンナの前に地図を広げ、書き込んで貰った。
ミリータリアの王都、タリルダリアから更に東の山岳地帯に在る隠しダンジョンだと教えてくれた。
「南東の行き先が見えたな」
「決まりね」
「クワッ」重要そうな話に飛び起きて来た。
来客が全員帰宅した後でクワンが。
「目的地が決まったのなら。南西大陸の北東の端から偵察に行きます。モメットと言う人に会う必要はありません」
「転移で直接飛ぶのか」
「いいかも。どうせ港町は新興派が占拠してるんだし」
この上無い名案だ。だがしかしそんな甘い話は無かった。
石版の一片に触れながら、浮島の笛を吹いてみた所。
1つはここ。1つはサンタギーナの王都サンジナンテ。
1つはミリータリアの王都タリルダリア。
最後の1つはスフィンスラーの目印と同じ場所を示した。
「見事な4分割」
「サンジナンテのはモメットさんが…」
「有り得るね」
「クワァ…」がっくし頭を垂れた。
「そう悄気るなって。大陸を渡る時は宜しくな」
「頼りにしてるよ。クワンティ」
「クワッ」
「全ての行動をベルさんの助言に合わせる必要は無いからさ。締結の鎖か似た様な物がもう1つあれば。これを起点に集められる。そうすればモメットさんには帰り掛けにでも挨拶するだけで事が済む」
「目的さえ達成すればお米を買う位しか南東に用事は無いもんねぇ。ゆっくりたっぷり南西大陸を旅行して回っちゃおうよ」
「それいいな。お馬鹿な新興派なんてガン無視してさ」
俺たちは浮かれて笑い合った。
スフィンスラー迷宮だけで終わりだと、いったい誰が言ったのか…。
---------------
翌朝。バザー前日。
朝早くにシュルツを誘い、開眼のスカーフと前々から気になっていた万寿の樹液の詳細を調べようと思い立ち。
開眼は俺たちやクワンが身に付けても特に変化が無かった。シュルツに対しても同じ結果。
着用者が違うのか。余計に調べたくなった訳です。
眼鏡を借りて覗き込むと。やはり深層部が存在した。
名前:開眼のスカーフ
主構成:古竜種の産毛、鬣
進化必要品:大狼の爪
特徴:太古の昔。ある古竜と大狼が度重なる闘争を経て
和平と友好の証として人間種に織らせた記念品
装着者の潜在能力を引き出せる
「やっぱこれで完成品じゃなかった」
「後で合成してみるね」
「どの様に進化するのか楽しみです」
半分残しの樹液の小瓶を確認。こちらもだった。
名前:万寿の樹液
主構成:世界樹の樹液、始祖の泪
特徴:有機生命体なら一口飲用で寿命が百万倍に延長
無機物質なら永久腐食防止や
接着剤として使用可能
(接着剤使用時:断面等に貼付
復元魔法との併用で物体を完全復元、再構成)
「これは飲み物ではなかったよ?」
「…御免なさい。そうよこれは接着剤ね。石版の復元時に使いましょ」
一口でも飲もうものなら半永久不滅人間の出来上がり。大惨事処の騒ぎじゃない。神様にでも成りたい人向けだ。
人生残りが50年として考えると…約5千万年。星の寿命の何割かに匹敵するかも知れない。
いやはや恐ろしい。
樹液をそっと収納し、フィーネが武装を整えている間にお爪の欠片を割った。
全然減ってない。今後も色々な物に使える。
要らなくなったら御本人に返却しようそうしよう。
始原のマントまで装備して準備万端。
白黒赤に水色。それでもバランスは悪くない。この俺との差は何だ。今度からは色味のバランスも考えよ。
完成した黒スカーフ。形状や見た目に変化は無い。
名前:開放のスカーフ(大狼の加護:絶大)
性能:防御力1500
知能以外の全能力値+2400
全属性強耐性保有
被毒無効(着用中)
着用者自動設定:本体主導
自動帰還機能搭載(着用設定者の下)
盗難防止機能搭載
特徴:着用者の潜在能力を引き出し高める効果を有する
信じるは産むが易し
伝説の英雄が生涯好んで使ったと言われる装具
「誰でもって訳じゃなさそうだけど」
「認められた人には持って来いの性能ね」
試しに俺から。
時間操作スキルが1秒から3秒に伸びた。
地味に嬉しい。
いいんですか女神様。
「…些事には黙するそうです」些事かいな。
結構重要だと思います。お礼言っといて。
「礼は良いから新興派を無視するのは止めてあげて欲しいと仰っています」
え~。それ探してる物が同じって答えになってますよ。
血眼になって探し回った挙句。実は持ってかれてましたって方が打撃になって一番被害が少ないと思うんですが?
「女神様!?…泣いちゃいました」
え!?待って。泣く程の事なの?
だって俺たちが持ち出しましたってお知らせしたら、新興派の組員が挙って押し寄せて来ますよね?
抵抗しますよ?半殺しじゃ済みませんよ?
責めてそれは無いって保証して下さらないと。
「…それも踏まえて?助けて、あげて欲しい。だそうです」
んな無茶苦茶なぁ…。
「さっきから黙ってどうしたの?具合でも悪い?」
「ロイドちゃん経由で女神様にお礼言ったら。逆に無茶振りされた…」
探し物を奪取した上で、襲い掛かって来る新興派の皆さんを救ってくれよと。
「…何て無理難題を」
「お話はよく解りませんが。難しいのですか?」
シュルツの頭を撫でながら。
「何万人と大挙して押し寄せる敵対者の人々を。出来る限り殺傷せずに、一度に説得出来ると思う?」
「…不可能に近い、ですね…」
「だろぉ」頭を抱えてしまった。
ロイドちゃん。最悪ペリーニャを引っ張り出すのはお許しをと伝えて。
「…悩みながらも。頷きました」
例え本人次第でも。それすら許さないなら一切無視して放置しますんで宜しくです。
若しくは俺たちが使命を果たしてからのお知らせで。
「まあいいや。実際の状況確認が済んでから考えよう」
「そうね」
続いてフィーネさん。
彼女がスカーフを首に巻いた途端。ハラリと床に落ちた。
「なぜ?」
「フィーネには必要無いよってお知らせかもね」
「残念…。でもこれ以上を望むのも贅沢か」
続いてクワンティ。首輪の上からちゃんと巻けた。
能力項目に俊敏性:ベース+200が付いた。
「クワッ」
「素早さではもう誰も追い着けないな」
「いいなぁ」
「私も巻きたいです!」
意気揚々と巻いてはみたものの。フィーネと同じで落ちてしまった。
「仲間だ」
「地味にショックですね…」
「シュルツは既に天才魔道具職人の称号を得てるから。伸ばしたいなら自己研鑽と日々の勉強を怠るなって事で」
「頑張ります!」
人外に足を踏み入れる人を限定しているんだろう。そう割り切る事にした。
その後はシュルツのブーツ作りを隣で眺め、本棟で昼食を頂いて足りなくなった食材の買い足しに行った。
夜はトワイライトでディナー。
お互いの明日の無事を祈って乾杯。
熟成されたお肉の柔らかさに感動。
「雨に濡れた景色ってのもいいもんだな」
「豪雨や台風じゃない静かな雨は好きかも」
「クワァ…」クワンはそうでもないらしい。
「クワンは飛ぶのに邪魔だもんな」
「クワ」ウンウン。
デザートのチョコアイスをしっかり食べ、お土産貰って総本堂で安全祈願をして帰った。
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