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第91話 アッテンハイム外務03
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昨日同様に分かれての朝食会。
豚肉と川魚のソテーのサンドイッチと野菜スープ。
葡萄か何かの果実水と言った軽いメニュー。
食事終わりにグリエル様が。
「私に何か聞きたい事があるのではないかね」
「はい。ご気分を害されるのではと躊躇うような質問が」
「…娘を救ってくれた礼だ。何なりと申せ」
「では。南東の大陸を占拠している派閥。あれはいったい何なのかをお聞きしたいです」
暫く沈黙が続いた。
「あれは女神教を騙った新興宗教だ。遠縁の恥が生み出した戯れ事。何かを探すと言い残して出て行ったまま戻らない。只、この私の権限でも破門は出来ない」
「信仰の自由、でしょうか」
「そうだ。時代の流れと共に宗教も信仰も徐々に形を変えて行くのは当然の理。謂わば変化を望む者の集まりだ」
「ならば。最悪私が南東の派閥を倒してもグリエル様は無関係、と考えても宜しいのでしょうか」
「…何とも言えんな。中枢を破壊されればこちらに戻って来る者も居るやも知れぬ。その者たちは見逃しては貰えぬだろうか」
「フレゼリカのような狂人でなければ良いのですが。話が通じる者であれば交渉から入ります」
「私たちも。何も虐殺をしに行く訳ではありません。目的の物が同じであれば、共存の道も有り得ます」
「こちらはまだその探し物が何なのかすら掴んではいないので。出遅れたら終わりなんですが。
それはそれとして。ピエールからの密書の閲覧は可能でしょうか」
「あれか…。
まあ君が当事者なのだから見せるのは構わない。後の会議の時に渡そう」
「有り難う御座います。
…もし仮になのですが。私がクワンジアを潰すと言ったらグリエル様は」
「許可する訳が無かろう。黙認も出来ん。
朝から背筋が寒いぞ。頼むから冗談だと言ってくれ」
「冗談です」
「但し。売られた喧嘩は買う主義ですのでご了承を」
「了承出来んと言っているのに…」
「御父様。お二人は為すと決めたら為してしまわれる方々です。動き出せば最早誰にもお止め出来ません。敵対だけはせぬようお願いします」
「…今の話は聞かなかった事にする。会議でも不用意な発言は慎んでくれ」
「極力に留めます」
「我が国の王にも判断を仰ぎますのでご安心を」
「ヘルメン王が止めてくれる事を祈る。話は以上かね」
「「はい」」
---------------
朝食後に宿泊部屋で合流。
「会議は2時間後。従者も入れる。
イリ何たらが乱入してくるってさ。密書もその時読める。
かなり面白い事言うと思うけど、フィーネも含めて我慢出来る?」
「頑張って堪える」
「俺が出しゃばっても拗れるだけだろ」
「従者に発言権はありません」
「交渉事は俺に任せてじっとしてて。クワンも普通のケージでソプランが運んで」
「了解」
「クワッ」
『発言してもいいか』
珍しいな。時々重要な事を言うから侮れない。
「何?」
『そのイリが居ると思われる方向から微量な魔力の放出が感じられる。後でフィーネの眼鏡で確認して欲しい。
勘だがあれは魔装の類だ。上位の魔石が埋め込まれていたらかなり硬い』
「それなりの物を持って来てるのか」
『だが中身の体内魔力が低ければ大した問題ではない。外殻が硬いだけならフィーネの金槌で一撃だろう。武器の選択を間違えるな』
「忠告ありがと」
双眼鏡を構えたフィーネが室内から探した。
「うわホントだ。鎧だけで防御2500。それに魔力値が2倍加算。ベースの魔力量が…115」失笑。
「そんな奴によく準将やらせるなぁ」
「ピエールの親族か何かじゃねえの」
「可能性は大いに有りますね」
「張り倒して鎧奪おうかな」
『話は変わるが先日の熊から得た風の魔石を一つ砕いてみてもいいだろうか』
「袋の中で動けるのか?」
『それは無理だ。何処か人目に付かない所で重ねて置いて欲しい。鞘の上で構わない。低級の石では難しいかも知れないが。もしかしたら空刃が使えるように成るかも知れない。それを確かめたい』
「解った。今直ぐは無理だけど時間作るよ。本当に成立したらかなりの戦力だな」
「魔力の消耗激しそうね」
『その点は保証し兼ねる。では後日に』
そしてまた沈黙状態に戻った。
ボーッと待っているのも芸が無いので時間まで食堂でお茶を出して貰った。
会議室は別館で行われる。
暫く談笑しているとペリーニャも修女を連れて参加。
タイラント国内事情に付いて色々話した。
俺の武勇は俺以外がペラペラと。
南の海は穏やかで綺麗だとか。
フィーネが素潜りで大きな本鮪を何度もゲットしただとか。
シュルツと言う天才少女がペリーニャに会いたがっていると紹介したら大喜びでメールを打ち込んで、少しだけ会話をしていた。
そうしている内に会議室へのご案内が来た。
渡り廊下を渡り別館へ。
邪魔者さえ居なければ大変有意義な会議に成るのに…
それでもペリーニャの笑顔に救われ、いざ入場。
外は相変わらずの雨。
会議室は2階の最奥室。晴れていれば色鮮やかな庭園も拝めたのに。
拝礼して用意されていた席に着席。
ソプランたちは真後ろの壁際に配置。
続々と主要メンバーが部屋に入って来た。
晩餐会で見た顔の2人も着席した。軽く会釈してご挨拶したが、どっちがどっちかは解りません!
「豪語しないで下さい。左がケイブラハム枢機卿で右がモーツァレラ外務卿です」
サンキューです。
グリエル様も着席して開会宣言。
起立して一礼後に順番に自己紹介。
内務官のユリアドさんは若手の女性だった。
流石は女神教。上位の中にもちゃんと女性が進出しているな。
別件の注目人物のサファリ祭事長は単なる小太りなおっちゃん。表情からは闇を抱えてそうには見えない。
少しヒエリンドに似ている。
フィーネの自己紹介の時に目付きが一瞬変化した。食い付きはした様子。
会議中に仕掛けて来るかは微妙。
断りを入れ、邪魔者が来る前に条約解除の申請書にサインを頂いた。
自分とヘルメン陛下のサインを4人分が並んだ。
「その節はご挨拶にも伺わず、大変失礼しました。フレゼリカを牽制するのに必死で」
モーツァレラさんに褒められた。
「あの御口上はお見事でしたよ。彼の王妃に真っ向勝負を挑まれただけでも称賛します。
臆病な私ではとても真似出来ません」
ケイブラハムさんも。
「あの荒削りの条約も作戦の内でしたか」
「そうですね。まさかあれを丸飲みされるとは思ってもいませんでした。あそこから削り合って落とし所を探ろうとしていたのに。拍子抜けも良いとこでしたよ」
「成程。至極納得しました。お若いのに武も立ち頭も回るとは。タイラントの未来は明るいですな」
「いえ、それ程でも」
「褒め言もそこまでにして。邪魔が来る前に。
これが隣国のクワンジア。ピエール王から届けられた密書だ」
回されて来た書類…。
「字きったな!」ギリギリ読めはするが。
「そう言わずに読み上げてくれ」
「では読み上げます…。
貴国に訪れるであろうタイラントのスターレン・シュトルフの力量を計りたい。
王国屈指の強者、イリヤンドを送り込む。
充分に疲弊させた所を叩いてみろと指示してある。
全面的な協力を要請する。
断れば交易流通量を絞り込み、我が側室に聖女ペリーニャを加える。
拒否は一切認めない。
以上」
初めて聞いたと思われるユリアドさんが机を叩いて。
「何と言う低俗な言動。ペリーニャ様を側室になどと許されませんし、許しません!」
「だから飲んだのだ。スターレン殿に迷惑が掛かると承知でな。脅しに屈してしまった形だが、娘の事は抜いても西からの交易を絞られては食料事情が一気に傾いてしまうからな」
「概要は把握しました。事情はお察しします。
私は全く疲弊していませんが。兎に角このイリヤンドと言う小物と一騎打ちをすれば良いのでしょうか」
「誰が読んでもそうなるだろうな」
「その程度でしたら我がヘルメン王の判断を仰ぐ必要もありません。イリヤンドが来るのを待ちましょうか」
……
待ち人来ず。
「来ませんね。休憩でもはさ…」
廊下の向こう側から重なり合う金属音が接近して来る。
「来た様だな」
蹴破られる前に扉が開けられ、転がるように入室して来たイリヤンド。脂と汗塗れの汚いおっさん。
「もう魚には飽きた!もっと肉を食わせろ」
何言ってんだこいつ。
全員が反応出来ずに戸惑う。
「おい!貴様がスターレンだな。何だガキではないか。
俺と勝負しろ。そして捕虜にした兵士たちを返せ」
「私がスターレンですが。クワンジアの準将とは随分と無作法なのですね」
「何だと!我が国を侮辱するか!」
いや馬鹿にしたのはあんただけど。
話通じないリアル脳筋来ちゃったよ。
どうしようロイドちゃん。
「…知りません」冷たッ。
「勝負しますから。少し落着かれては如何か」
「クソ生意気な!俺に命令するとはいい度胸だ。貴様を二つに畳んでピエール様への手土産にして…」
隣のフィーネを見て。
「この女が貴様の嫁か。俺が勝ったらこれは貰うぞ!」
「はぁ?」当然キレたのはフィーネさん。
「私を貰う?笑わせるな!スターレンが出る迄もない。
私がお前を叩き潰す。今直ぐ表に出ろ!」
「上等だ小娘!大衆の面前で裸に剥いてやるわ!」
何処の蛮族だよ。
咄嗟に。
「グリエル様。何処か適切な場所は」
「邸内、正門前の広場を使え。被害を最少にして欲しい」
「全開で障壁張ります」
「ゼノン!都内で捕虜にしている八十名の人員を至急列席させろ。証人が必要だ」
「ハッ!」
睨み合いながら出て行く2人に付いて行くその他俺たち。
小雨降り頻る中決行された一騎打ち。
既に勝敗は見えているが会場は俄に沸いた。
距離を取って睨み会う2人。
間に立つ俺とゼノンさん。
少し離れて傘を差しながら立ち会うグリエル様と護衛&会議出席者。
イリヤンドの得物はハルバード。重装歩兵に相応しい出で立ち。装備だけは。
対するフィーネはゼブラソラリマと破壊鎚。
外周に捕虜たちが並び立ち、中央の両者を見守る。
状況は何となく察している様子。
グリエル様の。
「始め!」号令と共にフィーネのハンマーが淡白く輝いた。
描いたのは流線。丸で聖なる大河の流れの如く。
雷のような轟音後に続いたのは無様な男の小さな悲鳴。
5重に張ったロープの障壁にイリの身体が沈んだ。
しぶとく生きてはいたが重傷だ。肋は全損したと思う。
多分全身バラバラ。
「終わったわ」
雨の中。爽やかな笑顔で髪を掻き上げた。
ハルバードと無傷の鎧は没収。
80名の捕虜に雨具と馬車を返還し、部隊長に路銀を持たせて西の街道へと誘った。
捕虜たちは皆。帰りたくないと泣いていた。
こちらも涙を吞んで見送った。達者でなと。
「この結果は書簡でクワンジアへ送る。後でスターレン殿の署名が欲しい」
「解りましたー」
一旦解散となり宿泊部屋でフィーネとアローマのお風呂終わりを待ちながら、陛下への報告書を纏めた。
要点は3つ。
教皇グリエル様に冷蔵庫を献上し、関係性は良好。食に関するお話で大層喜ばれました。
条約の解除は滞り無く締結。署名済要請書をこの報告書と共に送ります。
クワンジアのピエール王から私の腕試しにと多くの刺客が送り込まれ、アッテンハイムに多大なご迷惑が掛かってしまっていたので独断で排除。
教皇様お立ち会いの下。会議に割り込んで来た無礼なクワンジアの国防準将をフィーネが撃破し、捕虜の一部と一緒に重体準将を強制帰国させました。
大変申し訳ありません。
無視をするか、拒絶するのか、脅してみるのか、
ピエールの首を取りに行くかで悩んでいます。
陛下のご判断をお待ちしております。
「こんなもんかな」
「……いいんじゃねえの」
「クワンはフィーネの確認後に書類を持って陛下の所へ飛んでくれるか」
「クワッ!」
「シュルツの所で一泊してもいいし。余力あれば帰って来てな」
「クワァ」大きく頷いた。
クワンの為に焼き芋と檸檬水の水筒を用意した頃。
お風呂を終えた2人が戻った。
「…御免なさい。反省してます」
「いいって。強引な流れだったけど。予定通り殺さずに送り返せたんだから。途中でくたばるならあいつが悪い。
報告書読んで問題無かったらクワンを飛ばしてね」
「解った…」
軽くキスして、男女交代でお風呂へ入った。
---------------
タイラント王都パージェント王城。特別会議室。
夕刻。
鈍よりとした曇り空を眺めながら、今後の方針策定会議が行われていた。
会議出席者は出張中のメイザーの代理でメルシャン。
公爵の二人。モヘッドと副宰相キャルベスタの五人。
粗方の方針も決まり、落着いた会議終了間際。
その五人を前にヘルメンが雑談を挟む。
「メイザーもスターレンも居らんと、静かなものだな」
「二人を疫病神みたく言うのはお止め下さい」
外務への同伴を却下されたメルシャンは若干機嫌が悪い。
もう少し安定してからだとの説得は余り効果が無かった。
そんな折に背後から「クワッ」と鳩の鳴き声。
見慣れたずぶ濡れの白い鳩。
「鳩小屋に行って欲しかったのだがな…。まあ良い。
メルシャン。鳩を拭いてやってくれ」
「はい」
前掛けのパックから書類を取出し、クワンティをメルシャンに渡した。
冷めた紅茶を飲みながら、読み上げる前に一読。
報告書の後半部に差し掛かり茶で噎せ返った。
誰もその背を摩りには行けない。
膝の上のクワンティをタオルで拭き上げながらメルシャンが声を掛けた。
「大丈夫ですか、陛下」
「だ…大丈夫だ。メルシャン。代わりに、読み上げを」
「はい」報告書を受け取り「読み上げます…」
……
短い文章で簡潔に纏められた報告書。
二枚目にはフィーネの反省文が添えられていた。
ロロシュが呟いた。
「やはりそう成ってしまったか」
「先生…。知っていたなら教えて下さいよ」
「首都で状況確認を終えるまでは何も言えぬだろう」
「む…」
「冷静に。スターレン殿の最後の文面は冗談として。
何かしらの対応策をこちらでも考案すべき状況は変わりません」
「そうだな。衛兵!至急ノイツェをここへ呼べ」
「ハッ!」
メルシャンは。
「クワンティ。今夜はロロシュ邸でお待ちなさい。明日返答を文面で送るか、貴女の宝具を使わせて貰えるかしら」
「クゥ…」朱ら様に嫌そう目を返した。
「取り上げたりはしませんよ。誰も奪えませんし。そんなに嫌ならシュルツを呼び立てます」
渋々了承の意を示して飛び去った。
「各自食事休憩を挟む。何か妙案を期待する」
それぞれ頭を悩ませながらの一時解散となった。
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明日にスマホを使って会議になるかもとのクワンからのメールを受け、グリエル様にその旨を伝えた。
「理解した。イリヤンドを送り返してしまった手前。こちらも腹を括らねばならない。
しかし君らの鳩は優秀過ぎるな。言葉を正しく理解し、文章まで打てる。昼に飛び立って夕刻にはあちらへ到着してしまうとは」
「お褒め頂き光栄です。本人も喜ぶでしょう」
隣のフィーネはかなりションボリしている。
議場で彼女の背を摩っていると。
「けしからん!教皇様の御前で醜態を晒すとは」
とサファリが文句を垂れて来た。
「捕虜を抱えたまま他に手立てがあったのですか?先に貴方の代案を要求したいですね」
小さく舌打ちして。手は懐に差し込んで…。
「フィーネ嬢」
「はい。何でしょうか」
平然と答えるフィーネに対してサファリの顔が青ざめる。
「フィッ……」
遂には首を押えて苦しみ出した。
グリエル様も突発した異常に戸惑う。
「どうしたサファリ。雨に濡れて体調でも」
声に成らない声を絞り出し、首を掻き毟って椅子を倒して床に蹲った。
ペリーニャが。
「サファリは許可無く魔道具を使用しました。恐らくフィーネ様のお声を奪う為に。
これまで闇で使用した分。フィーネ様に反射され、蓄積された呪いの反動で喉が潰れたようですね」
「何だと!本当かサファリ」
事切れたサファリの脈を取ったゼノンが首を振る。
「お亡くなりです」
懐からは砕け散った魔道具と思われる小さな石版が取り出された。
「それが盗言の碑石ですね」
冷めた目でサファリの遺体を見下ろしていた。
「訳が解らんな。誰かサファリの暴挙の事情を知る者はこの中に居るか」
室内の全員が首を横に振った。
「むぅ。ゼノン兎に角サファリの遺体を冷暗所に運べ。身体検査後にサファリの私室を捜索しろ」
「ハッ!」
着席し直したグリエル様が。
「次から次へと。申し訳ない」
「いえ俺たちは何も。後数日はヘルメン陛下からの返答待ちで待機しますので何かあればお呼び出しを」
「何か…申し訳ない気持ちで一杯です」
「謝られる事は無い。サファリが身勝手に自滅した迄。
これも客賓に呪いを掛けようとした事への女神様からの天罰だ。
祭事長の後任選びが追加になってしまったが、それはこちらの話。
本日の夕食会はペリーニャ。お相手して差し上げなさい」
「はい、御父様」
夕食会は俺たち4人同席で行われた。
修女数人と第三師団の数人が控えているが、ゼノン本人は仕事中で居なかった。
「何か仕掛けて来るとは思ってたけど」
「まさか死んでしまうとは」
「残念ですが。自業自得です。その目的は不明ですが。
それよりも今日のお料理はどうでしょうか。
クワンティ様が居ないので鶏肉料理を御用意しました」
手羽元を何時もの出汁で塩胡椒、唐辛子、香草で柔らかく煮込んだ参鶏湯風の料理がメインだった。
「美味しいよ。身体が芯から温まる。もう一度お風呂に入ろうかな」
「うん。優しい味わいが丁度良い感じ。あの小物が居たから控えてたとか?」
「御明察です。あの方が居座る間は肉料理を控えていました。今日から平常に戻ります。
お二人から助言された料理も。早ければ明日には出されるかも知れません。楽しみです」
「そりゃいいな。外にも出られないから。飯位しか楽しみがねえしよ」
「ソプラン。聖女様のお近くで。その様な態度は」
「構いませんよ。御父様の前でだけは気を付けて頂ければ大丈夫です」
「口は閉じるさ。
俺たち従者に意見を求められる事は無いしな」
「それはそうですが。申し訳ありません」
「ペリーニャがいいって言ってるんだからいいでしょ」
「仕事さえ無かったらペリーニャのお家に遊びに来ただけだもんね」
「はい」
「でも…。閉じこもってばかりだと身体が鈍るしなぁ。
明日天気が良かったら、ゼノン隊の皆さん模擬戦でもどうですか?」
「有り難いお話ですが。まずは団長にお伺いしないと判断出来ません。
先程の件もありますし」
だよねぇ。
「なあ。許可次第だが。冒険者ギルド寄ってみるか。
町中も歩けるなら散策してもいいんだろ」
「それもいいかな。外務視察として」
「言われてみれば首都に来たのに何も見てないわね」
「会議とお天気次第ですね」
「私もこの様な状況でなければご案内したいのですが」
「まあペリーニャはまだ無理でしょ。逆に何か欲しい物があれば内緒のお土産で買って来ようか」
小声で答えた。
「でしたら…。何か蔵書を。修女に取り上げられてしまわないような本を」
ここでの娯楽は少なそうだもんな。
「よし。明日は微妙だけど。滞在中に視察に行こう」
寝るには早いし。今夜は何するかなぁ。
プリンでも作るか。
「プリン?とは何でしょうか」
食い付いたのはフィーネ。
「プリン!作るの?」
「何だそれ」
「新作ですか?」
「みんな食い付いちゃったな。プリンは牛乳と卵とお砂糖さえあれば簡単に出来ちゃうスイーツだよ」
ペリーニャが更に食い付いた。
「ここの厨房で作っては頂けませんか?」
「え?…修女さん。厨房と食材使ってもいいんですか?」
「ペリーニャ様のご希望とあれば問題ありません」
急遽開催、プリン作成コーナーinアッテンハイム。
「えー。流離いの外務料理人、スターレンです」
「助手のフィーネです」
「思い付きでイメージしていたら。ペリーニャちゃんにバッチリ読まれてしまいましたので勢いでやってしまいます」
「冷蔵庫がこちらに配置されてしまっていますので急遽厨房をお借りしました」
「観客は大勢。料理番の皆さんと給仕さん。お毒味の修女さん複数。第三師団の副団長殿以下数名などなど」
「厨房が人で溢れそうです」
「早速参りましょう。ご用意して頂いたのは。
生卵10個。牛乳1L。お砂糖200g」
「本当に。使っても宜しいんですね。料理長さん」
「ええ。基本的に使い切りですので。
勉強させて頂きます」
「有り難いお言葉を得た所で。
綺麗にした大きめのボールの中に卵を割り入れ、泡立て器で只管掻き混ぜます」
「玉に成らない様に砂糖を加えて行きます。40gは後でソースにしますので取り置きします」
「充分に混ざり切った所で。牛乳の湯煎です」
「湯煎の温度は常温より上。お風呂の湯温のやや下目狙いです。表面上で手を翳して僅かに温かみを感じる程度が最適」
「軽く温めた牛乳の中に先程の卵液を目の細かい濾し器で濾しながら入れて行きます」
「切れていない卵白やカラザを入れない為と、固めた後の口当たりを良くする為です。必ず濾しましょう」
「ここで牛乳を温め過ぎていると入れた卵が固まってしまいますので必ずこの温度域で混ぜて下さい」
「綺麗に混ざった所でココットなどの小さな器に注ぎ分けて行きます」
「注いだココットを蒸し器に並べ置き、弱火で15分程度加熱します」
「15分後位に火の上から降ろして約10分。蒸し器の蓋を開けずに余熱で追加蒸しをします」
「待っている間に残りの砂糖をフライパンなどで加熱しながら水を少量加え焦茶色になるまで熱します」
「焦さず。砂糖水が粘りを持ち始めた所が狙い目です」
「ソースが出来ましたので。蒸し器の中のココットを取出して上からソースを掛けます」
「貴重で高級な白砂糖です。ソースが表面に広がる程度で充分でしょう」
「後はココットを冷蔵庫で冷やすだけ」
「一晩置いて芯まで冷やしても美味しいですし、30分程度冷ますだけでもいいですね」
………
「全員分は無いのである程度のグループに分かれて食べて下さいね」
お毒味役の修女さんたちから。
「う!?嘘。美味しいです」
「表面のソースがパリパリに固まって食感も面白い」
「卵と牛乳を混ぜる。初めての体験」
その後のペリーニャも満開の笑顔で一皿ペロリと。
グリエル様の分は取り置いて。
クワン用には一皿拝借。
「どうですか、料理長さん。デザートメニューに加えてみては」
「はい。参考にさせて頂きます!」
「商売に繋げる場合は商業ギルドに一度問い合わせをお願いします。他の誰かに先を越されているかもなので」
「ソースを野苺などの酸味のある果物のジャムに変えても更に美味しいですよ」
「精進します!」
「糖分量がとても高いお料理なので。食べ過ぎにはご注意を。簡単に太ってしまいますので」
「寝る前の歯磨きも忘れずに」
「はい!」
プリン作成コーナーは大団円で幕を閉じた。
「帰ったら茶碗蒸しやってみるか」
「いいですねぇ」
---------------
翌日朝早くにシュルツから入電。
「クワンティが帰りたがっているので先に帰して御爺様と一緒に私がお城へ上がります」
「クワッ」
スピーカーモードで対応。
「ごめんなぁ。忙しいのに」
「ごめんね」
「いいえ。それがこの宝具を受け取った者のお役目だと思っていますので。
収納袋もクルーガーエンペラーの素材を加えて目処が付きそうです」
「そりゃ凄い。帰りに何かお土産…て言ってもこっちは自然派な物とクワンジア産の物しか無さそうだけど」
「何か探して買っていくわ」
「楽しみにしていますね。何も無くても…熊肉が美味しかったとクワンティから聞きましたので少し取って置いて下さい」
「熊肉なら全然食い切れない位余ってるから大丈夫さ」
「暑い時期だけどお鍋でもしよっか」
「はい。では後程」
シュルツとの通話を終え、ソプランたちに向い合う。
「午前は会議で潰れそうだな。昼にはクワンも戻って来るから散策は昼以降で」
「今日は天気も良さそうだし。今の所雨雲は見えない」
「やっと外か」
「だといいですね」
朝食後の会議室では早々にグリエル様が神妙な面持ちで上座に座っていた。
目前の机上には書類が数枚。
「君らに伝えるのも心苦しい物が見付かってしまった。
あちらとの通信を開く前に説明したい」
「…解りました。懸念があるなら従者は外しますが」
「それは構わない。しかし内密に願いたい」
頷き合って席に着いた。
続々と着席する出席者たち。
サファリの代打として副祭事長のビエンコ氏が座った。
予定者全員が集まり、グリエル様が口を開いた。
「今日の議題はクワンジアとの対応を協議するのと…
昨夕に自害したサファリの案件を話す。
ビエンコ。確定ではないが正式任命までお前が祭事の代役を務めよ」
「志かと。お役目を果たすと誓います」
「お前はあちら側ではないのだな」
「…サファリとの繋がりでしょうか。でしたら私は無関係で御座います。あれは元々全て自分一人で進めてしまう身勝手な人間でした。教皇様からのご指示が無ければ下に仕事が回って来る事も無い程に」
「うむ。ではサファリの件から話す。
奴の私室をゼノンが調査した結果。南東の大陸で増長中のローレライ率いる新興派との繋がりを示す書簡が見付かった」
動揺を隠せないアッテンハイム側の面々。
ペリーニャだけは落着いている。
「幾つかの文面を繋ぎ合わせると。
どうやら南東の何処かの遺跡の封印を解くのに聖女の肉声が必要であると言う事実が浮かび上がった。
サファリがペリーニャの声色を真似たフィーネ嬢の声を狙ったと言うのもこれで筋が通る。
逆を辿れば。ペリーニャの誘拐もこの件に関連していると見られる。
スターレン殿らは二重の意味で娘を救ってくれた事となるな」
「…」なんてこったい。
「私も動揺している。現時点で後手を取っているが。
こちらから直接的に手が出せない以上。大変申し訳ないがスターレン殿には内密に依頼したい案件がある。
協力は出来ないと言って置きながら虫の良い話だとは承知している。しかし君に甘えるしか手立てが無い」
フィーネと目を合わせてから答えた。
「元々南東には行く積もりでした。中央大陸内の外務に段落を付けられたら、候補として東大陸か南かで悩んでいましたし。南から優先して回るとお約束致します」
「有り難い」
「有り難う御座います」
フィーネが挙手をして。
「南東に上陸出来る段階になったら。何度かここへ訪れる場面があるかも知れません。ペリーニャに渡した宝具ではなく直接お会いしなければならない場面も想定されます。
皆様には忌むべき物とは存じますが。何卒転移の魔道具の使用許可をお与え願います」
「良かろう。一切非協力ではこちらも体面が立たない。
その際はペリーニャへの連絡を下に入国申請を無視してくれて構わん。一同、相違はないな」
「御心のままに」全員一礼を返した。
「そうなるといよいよクワンジアのピエールが邪魔ですね」
「直接攻撃だけは止めて欲しい。
君らがここへ来ると言う情報を漏らしたのもサファリだと推測するなら…あちらにも新興派が居ると考えられる」
「でしょうね。皆さんの準備が良ければタイラントとの通信を開きますが宜しいでしょうか」
「うむ。その間に茶を用意する。従者や控えの者も後ろの席へ腰を下ろしてくれ」
シュルツに連絡し、了承を得た後にスピーカーON。
「久しいな。グリエル教皇。貴殿の即位式以来か」
「その様に。ヘルメン王も健常な声の様で何より」
「再会がこの様な形になるとは夢にも思わなかったが、部下が大変な迷惑を掛けた」
「娘を救い出して貰った大恩を仇で返してしまったのはこちら側。迷惑などとは感じませんな」
「ならば挨拶はここまでに。スターレン…」
「何でしょう陛下」
「何でしょうではないわ!!何だピエールの首を取りに行くなどと戯れ事を書きおって。茶で咽せたではないか」
「飲みながらお読みになった陛下が悪いと思います」
大きな舌打ちが聞こえた。
「グリエル教皇。ピエールからの返事は当然まだだな」
「昨日の昼に書を送ったばかり。返事は早くとも明日でしょう。解放した捕虜がクワンジア入りするのも一週以上は掛かる見込み」
「ふむ。次の手がどう出るか解らぬ段階では何も決められないが。こちらの配下から一つの提案をしたい。発言させても構わないか」
「是非とも聞きたいですな」
「タイラント国防参謀のノイツェと申します。恐縮ながらご提案を」
ノイちゃんの提案には誰もが驚いた。
その内容は、三国内限定の闘技大会を打診すると言う物だった。
1年以上先の実施を促し、そこに俺たちも参加させる。
ピエールが自国の問題でアッテンハイムを侵害した旨をモーランゼアとメレディス、暫定政権を樹立したエストラージ帝国とマッハリアにも大々的に告知してピエールの口を封じてしまえば拒否は出来なくなる。
各国で封印されつつある闘技場の再開をする建前として、どうやらクワンジアは死亡を食い止める魔道具を有した闘技場を持っているとの事。
手広く戦力を欲しているなら必ず乗ると思われる。
多額の賞金や有用な魔道具でも出させれば、名のある冒険者も挙って来るに違いない。
参加者は勝敗に関わらず加担するか否かの拒否権を有する意は忘れずに追加させる。
クワンジアにも利が有ると見せ、それを提案してみるのはどうかと。
ヘルメン陛下に交代して。
「ピエールの反応内容次第だが。女神教団の教義に抵触するにしても。スターレンの話をアッテンハイムから切り離せられれば差して問題には成らないと思うが。どうかね」
「…成程。中々の妙案。
こちらでもその提案を検討して見よう」
「友好国家として余の署名が必要なら幾らでも書こう。
国内最速の鳩はそちらの二人の下に帰してしまったから急ぐ場合は一度だけスターレンの転移を許可してやって欲しい」
「充二分な配慮に感謝する。許可は問題無く。
ではまた後日に」
「そちらからの連絡を待つ。
スターレン。切り離しに成功したとしてもクワンジアに行って良しと命を下した訳ではない。
夫婦共々早まった真似はするな」
「「はい」」
通信を閉じて一息。
「貴国の参謀殿の案。志かと聞き入れた」
「この案であれば南を調べて来るだけの時間が充分に取れます。変な邪魔も入りませんし。
熟考をお願い致します。
仮にクワンジアの交易が絞られたとしてもタイラントとマッハリアとの関係性を再構築し、モーランゼア側に幅を設ければ被害は最少となるでしょう。
マッハリアの暫定王座には私の愚弟が座っているので、幾らでも融通が利かせられます。
各地の行商隊に冷蔵庫が配備されるまでは、多少苦しむ期間はあるかと思いますが」
「ふむ。我が儘なクワンジアを切り離すか…。
言われてみれば君はマッハリアの王族でもあったのだな」
「元、ですがね」
お茶を飲み干したグリエル様が。
「後は返事があるまでに、こちらで煮詰めよう」
「では私共はこれにて。それとグリエル様。
今日は天気も良いので午後から町中を歩いて回りたいのですが宜しいでしょうか」
「そうだった。外務中の君を引き留めてしまって済まない。
日暮れ前には戻ってくれ。どの道首都内の店は夜には閉まる。夜間に開いているのは寺院だけだ」
「解りました。行って参ります」
「失礼致します」
---------------
クワンも無事戻り、昼食後。
こっそりプリンで疲れを癒して貰いながら、居なかった間の出来事を説明した。
「てな訳で正装のまま堂々と町中をブラブラします」
「クワッ」
「敬虔な女神教徒さんに塩撒かれたり、トマトを打つけられても一切気にしてはいけません」
「「「え?」」」
「ク?」
「もしかしたらそんな事もあるかもって話さ。怒っちゃダメだよフィーネさん」
ブルーダイヤのネックレスに手を当てて呼吸を整える。
「スタン。ずっと手を繋いでて」
「勿論さ。それでは参りましょう」
正門を出て間近に在る国軍舎屋の前を通り、女神教総本山の礼拝堂に入り最後尾から祭壇奥に鎮座する女神様の大きな石像を拝んだ。
巨大な施設。流石は本拠地と言った所。
ゴリゴリと握られた手が締められてちょっと痛い。
異教徒だからお参りは控えたが、軽く一礼だけして直ぐに退出した。
「雨期の間は大きな祭事や行事は控えてるんだってさ」
「だから教皇様がずっと邸内に居るんだね」
「足元悪くて、泥だらけの靴で上がり込むのも双方あんまし良い気分じゃないでしょ」
「お前らしい視点だな」
「実際どうなのでしょうね」
少ない晴れ間で人通りは多い。普段を知らないので何とも言えないがそう言った人も居るんじゃないかと思う。
次に入ったのは冒険者ギルド。
冒険者に討伐許可されている魔物は少ない。
立ち入ってはいけない場所が殆どを占めていた。
クルーガー以外には、
ペリーガン。ペリカンの大型種。自重が重く数mしか上昇出来ない鳥類。ビッグベア以外で風属性を持つ魔物。
デビルイール。残念ながら鰻ではない。電気ナマズの一種で触れなければ倒し易い。地上に釣上げ窒息するまで放置するのが一般的な倒し方。希少な雷属性の魔石を落とす事でも有名。
狩猟許可されている時期は今の雨期から秋まで。
コモドリアン。4足歩行の大蜥蜴。イラストを見る限り鰐ぽい姿をしている。こいつも網や肉餌で水辺から引き離して干涸らびるまで放置するか仰向けに転がして柔らかい腹を突き刺すか。
「丸っきり獣を狩る猟だね」
「何か思ってたのと違うが…実際はこんなもんなのか」
「もっと危険種はやっぱり聖騎士頼みなんじゃない?」
「これだけだと狩猟の延長と言われるのも頷けます」
比較的魔素溜りから引き離して倒し易い種類限定。
3種共に北ルートから行ける場所で首都周辺には討伐可能な魔物は居なかった。
奥地にはもっと危険な魔物が居るんだろうな。
「ちょっと風は気になるけど…遠いな」
「ここじゃ暇潰しにも困るな。小銭稼ぎも出来ねえし」
「期待外れだね」
「個人的には平和に過ごしたいのですが」
露店売りの市場では珍しい物を発見した。
「フィーネさんフィーネさん。大発見だよ」
「どうしたのどうしたの?スタンさん。これは…」
「おじさん。これ買い占めてもいい?」
「おぉ、お客人これが何かを知ってるのかい。此処いらじゃこれの良さが全く伝わらなくてな。全然売れないんだ」
「山葵の良さを知らないなんて勿体ないです。
全部下さい」
「助かるよ。この時期幾らでも採れるから何なら直ぐに入荷しとくよ」
「お願いします」
「スタンさん。隣の店に山椒まであるよ」
「それも買おう。この市場は宝の山だな」
「これは視察ってよりも」
「ご趣味のお料理目的ですね」
2つ共に現金で購入して俺とフィーネで半分ずつ持ち帰った。多分イメージしている物は同じ物に違いない。
本屋では4人それぞれで好きな本を買い漁った。
俺は植物図鑑や栽培図鑑。
フィーネとアローマはペリーニャへの手土産を含め、女子目線で正統派のロマンス小説ぽい物を。
ソプランは武器や防具の正しい手入れの仕方とか。
帰り掛けに北側の見晴し台に登り、絶景を堪能した。
遙か北の山々と深い樹海。
手付かずの大自然が広がっていた。
厚めの雲間から差す日の光が輝いて見える。
高台から眺める景色と言うのも新鮮で、4人共言葉を失い唯々眺めていた。
これがクワンの見ている世界。
空を駆ける事が叶わぬ人間が大空へと夢を繋いでしまうのは必然、か。
それは何れこの世界でも。
「懐かしい…」フィーネが小さく呟いた。
無言で彼女の肩を抱き、もたれ掛かる身体を支えた。
豚肉と川魚のソテーのサンドイッチと野菜スープ。
葡萄か何かの果実水と言った軽いメニュー。
食事終わりにグリエル様が。
「私に何か聞きたい事があるのではないかね」
「はい。ご気分を害されるのではと躊躇うような質問が」
「…娘を救ってくれた礼だ。何なりと申せ」
「では。南東の大陸を占拠している派閥。あれはいったい何なのかをお聞きしたいです」
暫く沈黙が続いた。
「あれは女神教を騙った新興宗教だ。遠縁の恥が生み出した戯れ事。何かを探すと言い残して出て行ったまま戻らない。只、この私の権限でも破門は出来ない」
「信仰の自由、でしょうか」
「そうだ。時代の流れと共に宗教も信仰も徐々に形を変えて行くのは当然の理。謂わば変化を望む者の集まりだ」
「ならば。最悪私が南東の派閥を倒してもグリエル様は無関係、と考えても宜しいのでしょうか」
「…何とも言えんな。中枢を破壊されればこちらに戻って来る者も居るやも知れぬ。その者たちは見逃しては貰えぬだろうか」
「フレゼリカのような狂人でなければ良いのですが。話が通じる者であれば交渉から入ります」
「私たちも。何も虐殺をしに行く訳ではありません。目的の物が同じであれば、共存の道も有り得ます」
「こちらはまだその探し物が何なのかすら掴んではいないので。出遅れたら終わりなんですが。
それはそれとして。ピエールからの密書の閲覧は可能でしょうか」
「あれか…。
まあ君が当事者なのだから見せるのは構わない。後の会議の時に渡そう」
「有り難う御座います。
…もし仮になのですが。私がクワンジアを潰すと言ったらグリエル様は」
「許可する訳が無かろう。黙認も出来ん。
朝から背筋が寒いぞ。頼むから冗談だと言ってくれ」
「冗談です」
「但し。売られた喧嘩は買う主義ですのでご了承を」
「了承出来んと言っているのに…」
「御父様。お二人は為すと決めたら為してしまわれる方々です。動き出せば最早誰にもお止め出来ません。敵対だけはせぬようお願いします」
「…今の話は聞かなかった事にする。会議でも不用意な発言は慎んでくれ」
「極力に留めます」
「我が国の王にも判断を仰ぎますのでご安心を」
「ヘルメン王が止めてくれる事を祈る。話は以上かね」
「「はい」」
---------------
朝食後に宿泊部屋で合流。
「会議は2時間後。従者も入れる。
イリ何たらが乱入してくるってさ。密書もその時読める。
かなり面白い事言うと思うけど、フィーネも含めて我慢出来る?」
「頑張って堪える」
「俺が出しゃばっても拗れるだけだろ」
「従者に発言権はありません」
「交渉事は俺に任せてじっとしてて。クワンも普通のケージでソプランが運んで」
「了解」
「クワッ」
『発言してもいいか』
珍しいな。時々重要な事を言うから侮れない。
「何?」
『そのイリが居ると思われる方向から微量な魔力の放出が感じられる。後でフィーネの眼鏡で確認して欲しい。
勘だがあれは魔装の類だ。上位の魔石が埋め込まれていたらかなり硬い』
「それなりの物を持って来てるのか」
『だが中身の体内魔力が低ければ大した問題ではない。外殻が硬いだけならフィーネの金槌で一撃だろう。武器の選択を間違えるな』
「忠告ありがと」
双眼鏡を構えたフィーネが室内から探した。
「うわホントだ。鎧だけで防御2500。それに魔力値が2倍加算。ベースの魔力量が…115」失笑。
「そんな奴によく準将やらせるなぁ」
「ピエールの親族か何かじゃねえの」
「可能性は大いに有りますね」
「張り倒して鎧奪おうかな」
『話は変わるが先日の熊から得た風の魔石を一つ砕いてみてもいいだろうか』
「袋の中で動けるのか?」
『それは無理だ。何処か人目に付かない所で重ねて置いて欲しい。鞘の上で構わない。低級の石では難しいかも知れないが。もしかしたら空刃が使えるように成るかも知れない。それを確かめたい』
「解った。今直ぐは無理だけど時間作るよ。本当に成立したらかなりの戦力だな」
「魔力の消耗激しそうね」
『その点は保証し兼ねる。では後日に』
そしてまた沈黙状態に戻った。
ボーッと待っているのも芸が無いので時間まで食堂でお茶を出して貰った。
会議室は別館で行われる。
暫く談笑しているとペリーニャも修女を連れて参加。
タイラント国内事情に付いて色々話した。
俺の武勇は俺以外がペラペラと。
南の海は穏やかで綺麗だとか。
フィーネが素潜りで大きな本鮪を何度もゲットしただとか。
シュルツと言う天才少女がペリーニャに会いたがっていると紹介したら大喜びでメールを打ち込んで、少しだけ会話をしていた。
そうしている内に会議室へのご案内が来た。
渡り廊下を渡り別館へ。
邪魔者さえ居なければ大変有意義な会議に成るのに…
それでもペリーニャの笑顔に救われ、いざ入場。
外は相変わらずの雨。
会議室は2階の最奥室。晴れていれば色鮮やかな庭園も拝めたのに。
拝礼して用意されていた席に着席。
ソプランたちは真後ろの壁際に配置。
続々と主要メンバーが部屋に入って来た。
晩餐会で見た顔の2人も着席した。軽く会釈してご挨拶したが、どっちがどっちかは解りません!
「豪語しないで下さい。左がケイブラハム枢機卿で右がモーツァレラ外務卿です」
サンキューです。
グリエル様も着席して開会宣言。
起立して一礼後に順番に自己紹介。
内務官のユリアドさんは若手の女性だった。
流石は女神教。上位の中にもちゃんと女性が進出しているな。
別件の注目人物のサファリ祭事長は単なる小太りなおっちゃん。表情からは闇を抱えてそうには見えない。
少しヒエリンドに似ている。
フィーネの自己紹介の時に目付きが一瞬変化した。食い付きはした様子。
会議中に仕掛けて来るかは微妙。
断りを入れ、邪魔者が来る前に条約解除の申請書にサインを頂いた。
自分とヘルメン陛下のサインを4人分が並んだ。
「その節はご挨拶にも伺わず、大変失礼しました。フレゼリカを牽制するのに必死で」
モーツァレラさんに褒められた。
「あの御口上はお見事でしたよ。彼の王妃に真っ向勝負を挑まれただけでも称賛します。
臆病な私ではとても真似出来ません」
ケイブラハムさんも。
「あの荒削りの条約も作戦の内でしたか」
「そうですね。まさかあれを丸飲みされるとは思ってもいませんでした。あそこから削り合って落とし所を探ろうとしていたのに。拍子抜けも良いとこでしたよ」
「成程。至極納得しました。お若いのに武も立ち頭も回るとは。タイラントの未来は明るいですな」
「いえ、それ程でも」
「褒め言もそこまでにして。邪魔が来る前に。
これが隣国のクワンジア。ピエール王から届けられた密書だ」
回されて来た書類…。
「字きったな!」ギリギリ読めはするが。
「そう言わずに読み上げてくれ」
「では読み上げます…。
貴国に訪れるであろうタイラントのスターレン・シュトルフの力量を計りたい。
王国屈指の強者、イリヤンドを送り込む。
充分に疲弊させた所を叩いてみろと指示してある。
全面的な協力を要請する。
断れば交易流通量を絞り込み、我が側室に聖女ペリーニャを加える。
拒否は一切認めない。
以上」
初めて聞いたと思われるユリアドさんが机を叩いて。
「何と言う低俗な言動。ペリーニャ様を側室になどと許されませんし、許しません!」
「だから飲んだのだ。スターレン殿に迷惑が掛かると承知でな。脅しに屈してしまった形だが、娘の事は抜いても西からの交易を絞られては食料事情が一気に傾いてしまうからな」
「概要は把握しました。事情はお察しします。
私は全く疲弊していませんが。兎に角このイリヤンドと言う小物と一騎打ちをすれば良いのでしょうか」
「誰が読んでもそうなるだろうな」
「その程度でしたら我がヘルメン王の判断を仰ぐ必要もありません。イリヤンドが来るのを待ちましょうか」
……
待ち人来ず。
「来ませんね。休憩でもはさ…」
廊下の向こう側から重なり合う金属音が接近して来る。
「来た様だな」
蹴破られる前に扉が開けられ、転がるように入室して来たイリヤンド。脂と汗塗れの汚いおっさん。
「もう魚には飽きた!もっと肉を食わせろ」
何言ってんだこいつ。
全員が反応出来ずに戸惑う。
「おい!貴様がスターレンだな。何だガキではないか。
俺と勝負しろ。そして捕虜にした兵士たちを返せ」
「私がスターレンですが。クワンジアの準将とは随分と無作法なのですね」
「何だと!我が国を侮辱するか!」
いや馬鹿にしたのはあんただけど。
話通じないリアル脳筋来ちゃったよ。
どうしようロイドちゃん。
「…知りません」冷たッ。
「勝負しますから。少し落着かれては如何か」
「クソ生意気な!俺に命令するとはいい度胸だ。貴様を二つに畳んでピエール様への手土産にして…」
隣のフィーネを見て。
「この女が貴様の嫁か。俺が勝ったらこれは貰うぞ!」
「はぁ?」当然キレたのはフィーネさん。
「私を貰う?笑わせるな!スターレンが出る迄もない。
私がお前を叩き潰す。今直ぐ表に出ろ!」
「上等だ小娘!大衆の面前で裸に剥いてやるわ!」
何処の蛮族だよ。
咄嗟に。
「グリエル様。何処か適切な場所は」
「邸内、正門前の広場を使え。被害を最少にして欲しい」
「全開で障壁張ります」
「ゼノン!都内で捕虜にしている八十名の人員を至急列席させろ。証人が必要だ」
「ハッ!」
睨み合いながら出て行く2人に付いて行くその他俺たち。
小雨降り頻る中決行された一騎打ち。
既に勝敗は見えているが会場は俄に沸いた。
距離を取って睨み会う2人。
間に立つ俺とゼノンさん。
少し離れて傘を差しながら立ち会うグリエル様と護衛&会議出席者。
イリヤンドの得物はハルバード。重装歩兵に相応しい出で立ち。装備だけは。
対するフィーネはゼブラソラリマと破壊鎚。
外周に捕虜たちが並び立ち、中央の両者を見守る。
状況は何となく察している様子。
グリエル様の。
「始め!」号令と共にフィーネのハンマーが淡白く輝いた。
描いたのは流線。丸で聖なる大河の流れの如く。
雷のような轟音後に続いたのは無様な男の小さな悲鳴。
5重に張ったロープの障壁にイリの身体が沈んだ。
しぶとく生きてはいたが重傷だ。肋は全損したと思う。
多分全身バラバラ。
「終わったわ」
雨の中。爽やかな笑顔で髪を掻き上げた。
ハルバードと無傷の鎧は没収。
80名の捕虜に雨具と馬車を返還し、部隊長に路銀を持たせて西の街道へと誘った。
捕虜たちは皆。帰りたくないと泣いていた。
こちらも涙を吞んで見送った。達者でなと。
「この結果は書簡でクワンジアへ送る。後でスターレン殿の署名が欲しい」
「解りましたー」
一旦解散となり宿泊部屋でフィーネとアローマのお風呂終わりを待ちながら、陛下への報告書を纏めた。
要点は3つ。
教皇グリエル様に冷蔵庫を献上し、関係性は良好。食に関するお話で大層喜ばれました。
条約の解除は滞り無く締結。署名済要請書をこの報告書と共に送ります。
クワンジアのピエール王から私の腕試しにと多くの刺客が送り込まれ、アッテンハイムに多大なご迷惑が掛かってしまっていたので独断で排除。
教皇様お立ち会いの下。会議に割り込んで来た無礼なクワンジアの国防準将をフィーネが撃破し、捕虜の一部と一緒に重体準将を強制帰国させました。
大変申し訳ありません。
無視をするか、拒絶するのか、脅してみるのか、
ピエールの首を取りに行くかで悩んでいます。
陛下のご判断をお待ちしております。
「こんなもんかな」
「……いいんじゃねえの」
「クワンはフィーネの確認後に書類を持って陛下の所へ飛んでくれるか」
「クワッ!」
「シュルツの所で一泊してもいいし。余力あれば帰って来てな」
「クワァ」大きく頷いた。
クワンの為に焼き芋と檸檬水の水筒を用意した頃。
お風呂を終えた2人が戻った。
「…御免なさい。反省してます」
「いいって。強引な流れだったけど。予定通り殺さずに送り返せたんだから。途中でくたばるならあいつが悪い。
報告書読んで問題無かったらクワンを飛ばしてね」
「解った…」
軽くキスして、男女交代でお風呂へ入った。
---------------
タイラント王都パージェント王城。特別会議室。
夕刻。
鈍よりとした曇り空を眺めながら、今後の方針策定会議が行われていた。
会議出席者は出張中のメイザーの代理でメルシャン。
公爵の二人。モヘッドと副宰相キャルベスタの五人。
粗方の方針も決まり、落着いた会議終了間際。
その五人を前にヘルメンが雑談を挟む。
「メイザーもスターレンも居らんと、静かなものだな」
「二人を疫病神みたく言うのはお止め下さい」
外務への同伴を却下されたメルシャンは若干機嫌が悪い。
もう少し安定してからだとの説得は余り効果が無かった。
そんな折に背後から「クワッ」と鳩の鳴き声。
見慣れたずぶ濡れの白い鳩。
「鳩小屋に行って欲しかったのだがな…。まあ良い。
メルシャン。鳩を拭いてやってくれ」
「はい」
前掛けのパックから書類を取出し、クワンティをメルシャンに渡した。
冷めた紅茶を飲みながら、読み上げる前に一読。
報告書の後半部に差し掛かり茶で噎せ返った。
誰もその背を摩りには行けない。
膝の上のクワンティをタオルで拭き上げながらメルシャンが声を掛けた。
「大丈夫ですか、陛下」
「だ…大丈夫だ。メルシャン。代わりに、読み上げを」
「はい」報告書を受け取り「読み上げます…」
……
短い文章で簡潔に纏められた報告書。
二枚目にはフィーネの反省文が添えられていた。
ロロシュが呟いた。
「やはりそう成ってしまったか」
「先生…。知っていたなら教えて下さいよ」
「首都で状況確認を終えるまでは何も言えぬだろう」
「む…」
「冷静に。スターレン殿の最後の文面は冗談として。
何かしらの対応策をこちらでも考案すべき状況は変わりません」
「そうだな。衛兵!至急ノイツェをここへ呼べ」
「ハッ!」
メルシャンは。
「クワンティ。今夜はロロシュ邸でお待ちなさい。明日返答を文面で送るか、貴女の宝具を使わせて貰えるかしら」
「クゥ…」朱ら様に嫌そう目を返した。
「取り上げたりはしませんよ。誰も奪えませんし。そんなに嫌ならシュルツを呼び立てます」
渋々了承の意を示して飛び去った。
「各自食事休憩を挟む。何か妙案を期待する」
それぞれ頭を悩ませながらの一時解散となった。
---------------
明日にスマホを使って会議になるかもとのクワンからのメールを受け、グリエル様にその旨を伝えた。
「理解した。イリヤンドを送り返してしまった手前。こちらも腹を括らねばならない。
しかし君らの鳩は優秀過ぎるな。言葉を正しく理解し、文章まで打てる。昼に飛び立って夕刻にはあちらへ到着してしまうとは」
「お褒め頂き光栄です。本人も喜ぶでしょう」
隣のフィーネはかなりションボリしている。
議場で彼女の背を摩っていると。
「けしからん!教皇様の御前で醜態を晒すとは」
とサファリが文句を垂れて来た。
「捕虜を抱えたまま他に手立てがあったのですか?先に貴方の代案を要求したいですね」
小さく舌打ちして。手は懐に差し込んで…。
「フィーネ嬢」
「はい。何でしょうか」
平然と答えるフィーネに対してサファリの顔が青ざめる。
「フィッ……」
遂には首を押えて苦しみ出した。
グリエル様も突発した異常に戸惑う。
「どうしたサファリ。雨に濡れて体調でも」
声に成らない声を絞り出し、首を掻き毟って椅子を倒して床に蹲った。
ペリーニャが。
「サファリは許可無く魔道具を使用しました。恐らくフィーネ様のお声を奪う為に。
これまで闇で使用した分。フィーネ様に反射され、蓄積された呪いの反動で喉が潰れたようですね」
「何だと!本当かサファリ」
事切れたサファリの脈を取ったゼノンが首を振る。
「お亡くなりです」
懐からは砕け散った魔道具と思われる小さな石版が取り出された。
「それが盗言の碑石ですね」
冷めた目でサファリの遺体を見下ろしていた。
「訳が解らんな。誰かサファリの暴挙の事情を知る者はこの中に居るか」
室内の全員が首を横に振った。
「むぅ。ゼノン兎に角サファリの遺体を冷暗所に運べ。身体検査後にサファリの私室を捜索しろ」
「ハッ!」
着席し直したグリエル様が。
「次から次へと。申し訳ない」
「いえ俺たちは何も。後数日はヘルメン陛下からの返答待ちで待機しますので何かあればお呼び出しを」
「何か…申し訳ない気持ちで一杯です」
「謝られる事は無い。サファリが身勝手に自滅した迄。
これも客賓に呪いを掛けようとした事への女神様からの天罰だ。
祭事長の後任選びが追加になってしまったが、それはこちらの話。
本日の夕食会はペリーニャ。お相手して差し上げなさい」
「はい、御父様」
夕食会は俺たち4人同席で行われた。
修女数人と第三師団の数人が控えているが、ゼノン本人は仕事中で居なかった。
「何か仕掛けて来るとは思ってたけど」
「まさか死んでしまうとは」
「残念ですが。自業自得です。その目的は不明ですが。
それよりも今日のお料理はどうでしょうか。
クワンティ様が居ないので鶏肉料理を御用意しました」
手羽元を何時もの出汁で塩胡椒、唐辛子、香草で柔らかく煮込んだ参鶏湯風の料理がメインだった。
「美味しいよ。身体が芯から温まる。もう一度お風呂に入ろうかな」
「うん。優しい味わいが丁度良い感じ。あの小物が居たから控えてたとか?」
「御明察です。あの方が居座る間は肉料理を控えていました。今日から平常に戻ります。
お二人から助言された料理も。早ければ明日には出されるかも知れません。楽しみです」
「そりゃいいな。外にも出られないから。飯位しか楽しみがねえしよ」
「ソプラン。聖女様のお近くで。その様な態度は」
「構いませんよ。御父様の前でだけは気を付けて頂ければ大丈夫です」
「口は閉じるさ。
俺たち従者に意見を求められる事は無いしな」
「それはそうですが。申し訳ありません」
「ペリーニャがいいって言ってるんだからいいでしょ」
「仕事さえ無かったらペリーニャのお家に遊びに来ただけだもんね」
「はい」
「でも…。閉じこもってばかりだと身体が鈍るしなぁ。
明日天気が良かったら、ゼノン隊の皆さん模擬戦でもどうですか?」
「有り難いお話ですが。まずは団長にお伺いしないと判断出来ません。
先程の件もありますし」
だよねぇ。
「なあ。許可次第だが。冒険者ギルド寄ってみるか。
町中も歩けるなら散策してもいいんだろ」
「それもいいかな。外務視察として」
「言われてみれば首都に来たのに何も見てないわね」
「会議とお天気次第ですね」
「私もこの様な状況でなければご案内したいのですが」
「まあペリーニャはまだ無理でしょ。逆に何か欲しい物があれば内緒のお土産で買って来ようか」
小声で答えた。
「でしたら…。何か蔵書を。修女に取り上げられてしまわないような本を」
ここでの娯楽は少なそうだもんな。
「よし。明日は微妙だけど。滞在中に視察に行こう」
寝るには早いし。今夜は何するかなぁ。
プリンでも作るか。
「プリン?とは何でしょうか」
食い付いたのはフィーネ。
「プリン!作るの?」
「何だそれ」
「新作ですか?」
「みんな食い付いちゃったな。プリンは牛乳と卵とお砂糖さえあれば簡単に出来ちゃうスイーツだよ」
ペリーニャが更に食い付いた。
「ここの厨房で作っては頂けませんか?」
「え?…修女さん。厨房と食材使ってもいいんですか?」
「ペリーニャ様のご希望とあれば問題ありません」
急遽開催、プリン作成コーナーinアッテンハイム。
「えー。流離いの外務料理人、スターレンです」
「助手のフィーネです」
「思い付きでイメージしていたら。ペリーニャちゃんにバッチリ読まれてしまいましたので勢いでやってしまいます」
「冷蔵庫がこちらに配置されてしまっていますので急遽厨房をお借りしました」
「観客は大勢。料理番の皆さんと給仕さん。お毒味の修女さん複数。第三師団の副団長殿以下数名などなど」
「厨房が人で溢れそうです」
「早速参りましょう。ご用意して頂いたのは。
生卵10個。牛乳1L。お砂糖200g」
「本当に。使っても宜しいんですね。料理長さん」
「ええ。基本的に使い切りですので。
勉強させて頂きます」
「有り難いお言葉を得た所で。
綺麗にした大きめのボールの中に卵を割り入れ、泡立て器で只管掻き混ぜます」
「玉に成らない様に砂糖を加えて行きます。40gは後でソースにしますので取り置きします」
「充分に混ざり切った所で。牛乳の湯煎です」
「湯煎の温度は常温より上。お風呂の湯温のやや下目狙いです。表面上で手を翳して僅かに温かみを感じる程度が最適」
「軽く温めた牛乳の中に先程の卵液を目の細かい濾し器で濾しながら入れて行きます」
「切れていない卵白やカラザを入れない為と、固めた後の口当たりを良くする為です。必ず濾しましょう」
「ここで牛乳を温め過ぎていると入れた卵が固まってしまいますので必ずこの温度域で混ぜて下さい」
「綺麗に混ざった所でココットなどの小さな器に注ぎ分けて行きます」
「注いだココットを蒸し器に並べ置き、弱火で15分程度加熱します」
「15分後位に火の上から降ろして約10分。蒸し器の蓋を開けずに余熱で追加蒸しをします」
「待っている間に残りの砂糖をフライパンなどで加熱しながら水を少量加え焦茶色になるまで熱します」
「焦さず。砂糖水が粘りを持ち始めた所が狙い目です」
「ソースが出来ましたので。蒸し器の中のココットを取出して上からソースを掛けます」
「貴重で高級な白砂糖です。ソースが表面に広がる程度で充分でしょう」
「後はココットを冷蔵庫で冷やすだけ」
「一晩置いて芯まで冷やしても美味しいですし、30分程度冷ますだけでもいいですね」
………
「全員分は無いのである程度のグループに分かれて食べて下さいね」
お毒味役の修女さんたちから。
「う!?嘘。美味しいです」
「表面のソースがパリパリに固まって食感も面白い」
「卵と牛乳を混ぜる。初めての体験」
その後のペリーニャも満開の笑顔で一皿ペロリと。
グリエル様の分は取り置いて。
クワン用には一皿拝借。
「どうですか、料理長さん。デザートメニューに加えてみては」
「はい。参考にさせて頂きます!」
「商売に繋げる場合は商業ギルドに一度問い合わせをお願いします。他の誰かに先を越されているかもなので」
「ソースを野苺などの酸味のある果物のジャムに変えても更に美味しいですよ」
「精進します!」
「糖分量がとても高いお料理なので。食べ過ぎにはご注意を。簡単に太ってしまいますので」
「寝る前の歯磨きも忘れずに」
「はい!」
プリン作成コーナーは大団円で幕を閉じた。
「帰ったら茶碗蒸しやってみるか」
「いいですねぇ」
---------------
翌日朝早くにシュルツから入電。
「クワンティが帰りたがっているので先に帰して御爺様と一緒に私がお城へ上がります」
「クワッ」
スピーカーモードで対応。
「ごめんなぁ。忙しいのに」
「ごめんね」
「いいえ。それがこの宝具を受け取った者のお役目だと思っていますので。
収納袋もクルーガーエンペラーの素材を加えて目処が付きそうです」
「そりゃ凄い。帰りに何かお土産…て言ってもこっちは自然派な物とクワンジア産の物しか無さそうだけど」
「何か探して買っていくわ」
「楽しみにしていますね。何も無くても…熊肉が美味しかったとクワンティから聞きましたので少し取って置いて下さい」
「熊肉なら全然食い切れない位余ってるから大丈夫さ」
「暑い時期だけどお鍋でもしよっか」
「はい。では後程」
シュルツとの通話を終え、ソプランたちに向い合う。
「午前は会議で潰れそうだな。昼にはクワンも戻って来るから散策は昼以降で」
「今日は天気も良さそうだし。今の所雨雲は見えない」
「やっと外か」
「だといいですね」
朝食後の会議室では早々にグリエル様が神妙な面持ちで上座に座っていた。
目前の机上には書類が数枚。
「君らに伝えるのも心苦しい物が見付かってしまった。
あちらとの通信を開く前に説明したい」
「…解りました。懸念があるなら従者は外しますが」
「それは構わない。しかし内密に願いたい」
頷き合って席に着いた。
続々と着席する出席者たち。
サファリの代打として副祭事長のビエンコ氏が座った。
予定者全員が集まり、グリエル様が口を開いた。
「今日の議題はクワンジアとの対応を協議するのと…
昨夕に自害したサファリの案件を話す。
ビエンコ。確定ではないが正式任命までお前が祭事の代役を務めよ」
「志かと。お役目を果たすと誓います」
「お前はあちら側ではないのだな」
「…サファリとの繋がりでしょうか。でしたら私は無関係で御座います。あれは元々全て自分一人で進めてしまう身勝手な人間でした。教皇様からのご指示が無ければ下に仕事が回って来る事も無い程に」
「うむ。ではサファリの件から話す。
奴の私室をゼノンが調査した結果。南東の大陸で増長中のローレライ率いる新興派との繋がりを示す書簡が見付かった」
動揺を隠せないアッテンハイム側の面々。
ペリーニャだけは落着いている。
「幾つかの文面を繋ぎ合わせると。
どうやら南東の何処かの遺跡の封印を解くのに聖女の肉声が必要であると言う事実が浮かび上がった。
サファリがペリーニャの声色を真似たフィーネ嬢の声を狙ったと言うのもこれで筋が通る。
逆を辿れば。ペリーニャの誘拐もこの件に関連していると見られる。
スターレン殿らは二重の意味で娘を救ってくれた事となるな」
「…」なんてこったい。
「私も動揺している。現時点で後手を取っているが。
こちらから直接的に手が出せない以上。大変申し訳ないがスターレン殿には内密に依頼したい案件がある。
協力は出来ないと言って置きながら虫の良い話だとは承知している。しかし君に甘えるしか手立てが無い」
フィーネと目を合わせてから答えた。
「元々南東には行く積もりでした。中央大陸内の外務に段落を付けられたら、候補として東大陸か南かで悩んでいましたし。南から優先して回るとお約束致します」
「有り難い」
「有り難う御座います」
フィーネが挙手をして。
「南東に上陸出来る段階になったら。何度かここへ訪れる場面があるかも知れません。ペリーニャに渡した宝具ではなく直接お会いしなければならない場面も想定されます。
皆様には忌むべき物とは存じますが。何卒転移の魔道具の使用許可をお与え願います」
「良かろう。一切非協力ではこちらも体面が立たない。
その際はペリーニャへの連絡を下に入国申請を無視してくれて構わん。一同、相違はないな」
「御心のままに」全員一礼を返した。
「そうなるといよいよクワンジアのピエールが邪魔ですね」
「直接攻撃だけは止めて欲しい。
君らがここへ来ると言う情報を漏らしたのもサファリだと推測するなら…あちらにも新興派が居ると考えられる」
「でしょうね。皆さんの準備が良ければタイラントとの通信を開きますが宜しいでしょうか」
「うむ。その間に茶を用意する。従者や控えの者も後ろの席へ腰を下ろしてくれ」
シュルツに連絡し、了承を得た後にスピーカーON。
「久しいな。グリエル教皇。貴殿の即位式以来か」
「その様に。ヘルメン王も健常な声の様で何より」
「再会がこの様な形になるとは夢にも思わなかったが、部下が大変な迷惑を掛けた」
「娘を救い出して貰った大恩を仇で返してしまったのはこちら側。迷惑などとは感じませんな」
「ならば挨拶はここまでに。スターレン…」
「何でしょう陛下」
「何でしょうではないわ!!何だピエールの首を取りに行くなどと戯れ事を書きおって。茶で咽せたではないか」
「飲みながらお読みになった陛下が悪いと思います」
大きな舌打ちが聞こえた。
「グリエル教皇。ピエールからの返事は当然まだだな」
「昨日の昼に書を送ったばかり。返事は早くとも明日でしょう。解放した捕虜がクワンジア入りするのも一週以上は掛かる見込み」
「ふむ。次の手がどう出るか解らぬ段階では何も決められないが。こちらの配下から一つの提案をしたい。発言させても構わないか」
「是非とも聞きたいですな」
「タイラント国防参謀のノイツェと申します。恐縮ながらご提案を」
ノイちゃんの提案には誰もが驚いた。
その内容は、三国内限定の闘技大会を打診すると言う物だった。
1年以上先の実施を促し、そこに俺たちも参加させる。
ピエールが自国の問題でアッテンハイムを侵害した旨をモーランゼアとメレディス、暫定政権を樹立したエストラージ帝国とマッハリアにも大々的に告知してピエールの口を封じてしまえば拒否は出来なくなる。
各国で封印されつつある闘技場の再開をする建前として、どうやらクワンジアは死亡を食い止める魔道具を有した闘技場を持っているとの事。
手広く戦力を欲しているなら必ず乗ると思われる。
多額の賞金や有用な魔道具でも出させれば、名のある冒険者も挙って来るに違いない。
参加者は勝敗に関わらず加担するか否かの拒否権を有する意は忘れずに追加させる。
クワンジアにも利が有ると見せ、それを提案してみるのはどうかと。
ヘルメン陛下に交代して。
「ピエールの反応内容次第だが。女神教団の教義に抵触するにしても。スターレンの話をアッテンハイムから切り離せられれば差して問題には成らないと思うが。どうかね」
「…成程。中々の妙案。
こちらでもその提案を検討して見よう」
「友好国家として余の署名が必要なら幾らでも書こう。
国内最速の鳩はそちらの二人の下に帰してしまったから急ぐ場合は一度だけスターレンの転移を許可してやって欲しい」
「充二分な配慮に感謝する。許可は問題無く。
ではまた後日に」
「そちらからの連絡を待つ。
スターレン。切り離しに成功したとしてもクワンジアに行って良しと命を下した訳ではない。
夫婦共々早まった真似はするな」
「「はい」」
通信を閉じて一息。
「貴国の参謀殿の案。志かと聞き入れた」
「この案であれば南を調べて来るだけの時間が充分に取れます。変な邪魔も入りませんし。
熟考をお願い致します。
仮にクワンジアの交易が絞られたとしてもタイラントとマッハリアとの関係性を再構築し、モーランゼア側に幅を設ければ被害は最少となるでしょう。
マッハリアの暫定王座には私の愚弟が座っているので、幾らでも融通が利かせられます。
各地の行商隊に冷蔵庫が配備されるまでは、多少苦しむ期間はあるかと思いますが」
「ふむ。我が儘なクワンジアを切り離すか…。
言われてみれば君はマッハリアの王族でもあったのだな」
「元、ですがね」
お茶を飲み干したグリエル様が。
「後は返事があるまでに、こちらで煮詰めよう」
「では私共はこれにて。それとグリエル様。
今日は天気も良いので午後から町中を歩いて回りたいのですが宜しいでしょうか」
「そうだった。外務中の君を引き留めてしまって済まない。
日暮れ前には戻ってくれ。どの道首都内の店は夜には閉まる。夜間に開いているのは寺院だけだ」
「解りました。行って参ります」
「失礼致します」
---------------
クワンも無事戻り、昼食後。
こっそりプリンで疲れを癒して貰いながら、居なかった間の出来事を説明した。
「てな訳で正装のまま堂々と町中をブラブラします」
「クワッ」
「敬虔な女神教徒さんに塩撒かれたり、トマトを打つけられても一切気にしてはいけません」
「「「え?」」」
「ク?」
「もしかしたらそんな事もあるかもって話さ。怒っちゃダメだよフィーネさん」
ブルーダイヤのネックレスに手を当てて呼吸を整える。
「スタン。ずっと手を繋いでて」
「勿論さ。それでは参りましょう」
正門を出て間近に在る国軍舎屋の前を通り、女神教総本山の礼拝堂に入り最後尾から祭壇奥に鎮座する女神様の大きな石像を拝んだ。
巨大な施設。流石は本拠地と言った所。
ゴリゴリと握られた手が締められてちょっと痛い。
異教徒だからお参りは控えたが、軽く一礼だけして直ぐに退出した。
「雨期の間は大きな祭事や行事は控えてるんだってさ」
「だから教皇様がずっと邸内に居るんだね」
「足元悪くて、泥だらけの靴で上がり込むのも双方あんまし良い気分じゃないでしょ」
「お前らしい視点だな」
「実際どうなのでしょうね」
少ない晴れ間で人通りは多い。普段を知らないので何とも言えないがそう言った人も居るんじゃないかと思う。
次に入ったのは冒険者ギルド。
冒険者に討伐許可されている魔物は少ない。
立ち入ってはいけない場所が殆どを占めていた。
クルーガー以外には、
ペリーガン。ペリカンの大型種。自重が重く数mしか上昇出来ない鳥類。ビッグベア以外で風属性を持つ魔物。
デビルイール。残念ながら鰻ではない。電気ナマズの一種で触れなければ倒し易い。地上に釣上げ窒息するまで放置するのが一般的な倒し方。希少な雷属性の魔石を落とす事でも有名。
狩猟許可されている時期は今の雨期から秋まで。
コモドリアン。4足歩行の大蜥蜴。イラストを見る限り鰐ぽい姿をしている。こいつも網や肉餌で水辺から引き離して干涸らびるまで放置するか仰向けに転がして柔らかい腹を突き刺すか。
「丸っきり獣を狩る猟だね」
「何か思ってたのと違うが…実際はこんなもんなのか」
「もっと危険種はやっぱり聖騎士頼みなんじゃない?」
「これだけだと狩猟の延長と言われるのも頷けます」
比較的魔素溜りから引き離して倒し易い種類限定。
3種共に北ルートから行ける場所で首都周辺には討伐可能な魔物は居なかった。
奥地にはもっと危険な魔物が居るんだろうな。
「ちょっと風は気になるけど…遠いな」
「ここじゃ暇潰しにも困るな。小銭稼ぎも出来ねえし」
「期待外れだね」
「個人的には平和に過ごしたいのですが」
露店売りの市場では珍しい物を発見した。
「フィーネさんフィーネさん。大発見だよ」
「どうしたのどうしたの?スタンさん。これは…」
「おじさん。これ買い占めてもいい?」
「おぉ、お客人これが何かを知ってるのかい。此処いらじゃこれの良さが全く伝わらなくてな。全然売れないんだ」
「山葵の良さを知らないなんて勿体ないです。
全部下さい」
「助かるよ。この時期幾らでも採れるから何なら直ぐに入荷しとくよ」
「お願いします」
「スタンさん。隣の店に山椒まであるよ」
「それも買おう。この市場は宝の山だな」
「これは視察ってよりも」
「ご趣味のお料理目的ですね」
2つ共に現金で購入して俺とフィーネで半分ずつ持ち帰った。多分イメージしている物は同じ物に違いない。
本屋では4人それぞれで好きな本を買い漁った。
俺は植物図鑑や栽培図鑑。
フィーネとアローマはペリーニャへの手土産を含め、女子目線で正統派のロマンス小説ぽい物を。
ソプランは武器や防具の正しい手入れの仕方とか。
帰り掛けに北側の見晴し台に登り、絶景を堪能した。
遙か北の山々と深い樹海。
手付かずの大自然が広がっていた。
厚めの雲間から差す日の光が輝いて見える。
高台から眺める景色と言うのも新鮮で、4人共言葉を失い唯々眺めていた。
これがクワンの見ている世界。
空を駆ける事が叶わぬ人間が大空へと夢を繋いでしまうのは必然、か。
それは何れこの世界でも。
「懐かしい…」フィーネが小さく呟いた。
無言で彼女の肩を抱き、もたれ掛かる身体を支えた。
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