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第55話 出立準備02
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久々の父との再会の翌日。
早朝はトレーニングルームで軽く流し、サッパリしてから登城。
「私の事。信用してないの?」
「僅かでも地力を上げる為さ。少しでもね。
それに俺の索敵スキルは絶対に外せない。
その為の身体強化だよ。
前にラフドッグに走って行った時も、ステータスでは俺が上だったのに、先にバテたのは俺の方だった。
これは信用とか、そう言う話じゃないんだ」
「それは…。御免なさい。
スタンは私が守りたいと、そればかり考えてた」
「とっても嬉しいけど。今は違うかな」
「うん。反省…」
イチャついてたら控え室に呼び出しが来た。
後宮のヘルメン私室に案内された。
「お忙しい所。申し訳ありません、陛下」
「申し訳ありません」
「ここまで来た。次へ行く。
その為の準備の話だろう。
恩人に対して、何も返せぬ王なら不要だ。
遠慮無く言え」
何これ格好いい。惚れないけど。
昨日実家の父と面会し、あちらの状況を聞いてきた事を説明して。
抵抗勢力の一般兵の武装が欲しい旨を伝えた。
「二千人分か…」
「難しいでしょうか」
「いや。逆だ。
御父上の部隊は増えぬのかとな」
「聖剣の話をすれば、爆発的に増えますが。
それでは真の敵が逃げてしまいます。
これ以上は微増だと思われます。
ならば個々の武装を上げるしかないかと」
「むう。話は解った。
小国の利点は、人は居ないが物はある。
そしてタイラントには金もある。
だが公に出来ない。
準備には少し時間が掛かる。
今現在、ここの武器庫には約千人分。
後、千…。余裕を見て後、二千…。
よし。二千五百は用意しよう。
一週間後で間に合うか」
「充分に御座います。
ご協力感謝します。…お代の方は…」
「ふざけているのか、君は。
身銭を切る。お代と言うなら、必ず勝て。
あの糞忌々しい豚を葬って来い」
「有り難いお言葉です。必ず勝って帰還致します」
「必ずや」
「うむ。予定がズレそうなら早めに連絡する。
前日までに連絡が何も無ければここへ来い」
礼を返し、立ち上がろうとした時。
ふと。
「そう言えば。
何時私を謁見の間に入れて頂けるのですか?」
「絶対に入れぬ!
どうしてもと言うなら…いやこれは墓穴だな。
駄目だ」
「ケチ臭いですよ、陛下。
どんな感じか見るだけですって」
「調子に乗りおって。考えておいてやる。
君たちが帰ってきた時の気分だな」
後一押しだったか…。中々やるじゃない。
王城外に出て。
「まだ諦めてなかったの?」
「だって見たいんだもん」
「可愛く言っても。無理な物は無理だと思うよ」
「えー」
「これからどうしますか。スタンさん」
「シルビィさんの本屋で普通の本を買おう。
いつかのお礼に。
それに自宅の書庫が殺風景だし」
「いいですねぇ」
シルビィさんと、回復したお婆ちゃんにご挨拶。
適度に書籍を買って店を出た。
近くのレストランで昼食を食べてから、トーム家にお邪魔した。
レーラさんに事情を軽く説明し、フィーネを置いて行くからトームを夜借りたいとお願いしてみた。
「そうですかぁ。お仕事なら仕方が無いですね。
でもフィーネさんが居てくれるなら安心です。
…でも。飲み過ぎには注意です」
「お、いいのか!?やったぜラッキー」
「遊びに行く訳じゃないですよ。服装も、小サッパリにして下さい。夕方にロロシュ邸の俺たちの自宅へ。
服が駄目だったら、着替えて貰います」
「いいねぇ。いっそそっちの方がいいな。
他には誰だ」
「ソプランですね。
メメット隊で酒が強いのは、2人だけかと」
「確かに。解った。必ず行く。絶対に行く」
正直もんだなぁ。
フィーネがトモラ君を抱っこしながら呆れ顔。
何も拾えなかったらどうしよう…。
その時は謝り倒すしかないな。
もしもの時は運んで来まーすと言い残して
トーム家を出た。
一旦自宅へ戻り…、イチャついていたソプランを捕縛。
「あんたは毎日、人の家で」
「毎日じゃねぇよぉ…」
「ほぼ毎日ですが。
それよりも昨日は申し訳ありませんでした。
時間があったので。ベッドを整えていたら謎の睡魔に襲われまして…」
「アローマさんなら大丈夫ですよ。
毎回綺麗に清掃して貰ってるし」
「疲れたら遠慮無く言って下さいね」
「あんたは絶対に使うな」
「使うか!!」
2人に夜の事情を説明し、協力願い。
「…ソプラン様。浮気したら破談ですからね」
「ちょっと飲んで、話聞くだけだろ。
三区なら隣の区じゃねえか」
「近いから逆に心配です。
私よりも…、いい人に出会ってしまったら…」
「お前以上にいい女は…。
一人を除いて居るわけねぇだろ」
アローマさんとフィーネを比較して。
「人の嫁を何て目で見てんだ!
あんたは将来的にシュルツの専属執事になるんだぞ!
自覚を持て!」
つい怒鳴ってしまった。
「初耳だぞ!そんな話は聞いてねえ!」
「アローマさん。ソプランは、将来ヒモになるらしいですけど大丈夫ですか?」
「…真面目に働いて下さい…」
アローマさんが泣いてしまった。
「解った。解ったから。ちゃんと働くって。
だから泣くなよぉ」
人の家で、家の主の前で。抱き合う2人。
「「なんじゃこれ」」
---------------
さぁさぁやって参りました。
3区の高級クラブ:エドワンド
初めての歓楽街。余り長居出来ないのが残念ですが。
いざにゅ
「さっきの話はマジなのか?」
ソプランが歩み出し掛けた俺の肩を掴んだ。
「何か問題でも?」
「何の話だ」
「マジなのかぁ…。俺、将来貴族令嬢の専属執事になるんだってよ…」
「へぇ。頑張れよ。俺は万年自宅周辺の警備員だ」
「いいなぁ」
「これも立派な社会勉強だと思って。
ロロシュさんとは話付いてるんで。
もう逃げられませんよ」
「嘘だろぉ。俺は掃き溜めのスラム育ちだぞぉ。
あ、そっか。こりゃ夢だな。酒飲みまくって無かった事」
「なりませんって。
諦めて明日から、ゼファーさんとこで修行し直して下さいね。真面目に。
俺じゃなくて、ロロシュさんにクビ切られますよ。
アローマさんとも破談。
そうなったらカメノスさんとこでも引き受けないし。
独りぼっちですね。
1人ぼっちで冒険者やり直しかぁ」
「くっそ。解ったよ。やってやんよ!」
「んな事より早く入ろーぜ」
やっとこさ入店。
受付カウンターに立っていたボーイの青年に聞いた。
「初回で紹介無しで入れます?3人」
「当店はいち…いぃ!!??」
ボーイが固まっちまったぜ。
「駄目でした?」
「そんな事は微塵も在りません。直ぐにお席のご用意をしますので。そ、その奥のソファー席へどうぞ」
案内し終えると、ボーイがダッシュで奥へ駆け込んだ。
「おい!スターレン様が来てるぞ!!
今直ぐにVIP室を開けろぉーーー。
先客なんて摘まみ出せ!!」
「バッチリ聞こえてるんですけど」
「こう言う時便利だよな。お前の知名度」
「俺も何もせず、知名度上がらんかなぁ」
「レーラさんに報告しますね。遊んで騒いでたって」
「真面目に仕事して家族守るわ」
遠目で何故か、ヒエリンドさんが泣きながら店を摘まみ出されるのが僅かに見えた。
ごめんよ…。そんな積もりは無かったんだ。
ちょっと情報が拾えればと思って。それだけなんだ…。
---------------
通常エリアではない特別階段で2階へ上がった先。
VIPルーム。特別ねぇ…。
煌びやかな照明に、オレンジ色の壁。
大きな横長の黒革ソファー。
余裕で15人位は座れそう。
分厚いガラステーブル。
タバコは無いけど、何故か灰皿が。
入って左手奥に専用トイレ。
部屋全体が温かい空気に満たされていた。
空調の魔道具か。いいな。
と考えてしまうのは、やはり前世の名残なんだろうか。
豪華と言えば豪華だが。
ロロシュ邸でお世話になりすぎて、感覚が完全に麻痺ってるわ。…で何も感じなかった。
暫くすると。
「当店指名No.1のジェシカです。スターレン様」
「当店指名No.2のパメラです。スターレン様」
ソプランとトームにもそれぞれ2人ずつの女性が付けられてしまった。
いったい幾ら吹き飛ぶんだろ。
1,2を急に揃えて来た所を見ると。絶対に逃さないって事だろうな。
ジェシカさんもパメラさんも、甲乙付け難い美貌。
ジェシカさんの方が胸が大きかった。
真っ赤なミニドレスがジェシカさん。
パメラさんも丈が短い紺色ドレス。
やっぱ全然反応しねぇ。我が息子よ。
綺麗な生足が4つも左右に並んでいるのに。
胸の谷間もくっきりなのに。
何なら存分に見ろとばかりに見せ付けて来るのに…。
頼んでもいないシャンパンが運ばれて来て、
みんなで乾杯。
軽い世間話から、ジェシカさんが聞いて来た。
「あんなにお美しい奥様がいらっしゃるのに。
どうして急に夜遊びを?」
「何か面白い話が聞けないかなぁって。世界的な」
パメラさんも。
「この様な場でも情報収集ですかぁ。流石は仕事熱心でいらっしゃる」
「世界的に…。何か在ったかしら」
「うーん」
2人とも頭の検索を始めてしまった。
「他の客の情報喋ってもいいんですか?」
ジェシカさんが呆れ顔。
「この国を丸ごと救って頂いた英雄様に、何を隠す必要があるのでしょう」
「そうですよ。王都じゃなくても。殆どの皆が貴方様に感謝をしているんです。何なら奥様に内緒で胸でも足でもじゃんじゃん触って下さいな」
マジですか…。頑張ってみ…違うだろ!!
「誘惑されても触りませんけどね。嫁に感情が読まれてるんで。今現在も」
「それは失礼しました。では真面目に。もう少し検索してみますね」
追加でじゃんじゃん運ばれて来るシャンパンやらお摘まみやらを放り込みながら。
パメラさんが考えている間にジェシカさん。
「私の情報は余り新しくはないのですが、南西の大陸で結構大きな迷宮の入口が見付かったそうですよ。
確か、二ヶ月前辺りだったかしら。でもあそこは強い冒険者の方が少なくて、殆ど攻略されていないとか。
あちらを訪れた商人さんから聞きました」
へぇ。面白いな。ベルエイガさんでも未確認だったりして。
充分に有り得るな。
彼も世界の全てを知っている訳では無いから。
未開拓で言えば。北の大陸が丸々手つかずだ。
「いいっすね。何時か行こうと思ってたんで」
次にパメラさん。
「余り面白くはないですが。先日の晩餐会に来ていたロルーゼの特使の方から。
貴方様とは絶対に関わりたくない!と言ってましたね」
ほうほう。あそこに来てた人かも。
「まあこっちも相手にしてなかったですけどね。
あの時は特に。余裕が無かったんで」
「流石ですね。他に何かあったかしら…」
ジェシカさんがパメラさんに。
「パメラ。悪いけど目を逸らしててね」
「はーい」
目を閉じて考え込んだ。
その間に。
ジェシカさんがメモ紙に何かを書いて見せて来た。
「闇の商人さんに会いたくなったら。私の所へ」
俺が見終わると、ジェシカさんはテーブルの蝋燭で紙を燃やし、灰皿に捨てて丁寧に灰にしていた。
この為の灰皿だったか…。
「その時は是非。ですが。今は向こう側の邪魔になるだけなので暫くは大丈夫です」
ジェシカさんは頷くと。
「パメラ。もういいわ」
遙か先で必要になりそうな情報だ。
パメラさんが思い出したように。
「あ。そうですそうです。先月です。
えーっと。名前は良く覚えてないのですが。スターレン様に助けて頂いた二つの商会の方が、恩をお返ししたいけどロロシュ様が怖くて近付けないよぉ。て泣いてました」
「え?あの2つって。結構金持ってたんだ。
うわー。この店に来る位の金あったなら、少し金取れば良かったわぁ」
ちょっとだけ後悔。
「いえいえ。三区の中では優良店なんですよ。ここ。
紹介状があれば、馬鹿みたいには取りませんよぉ。
その知人の方が高名な方なら、結構お安いです。
スターレン様は本日無料ですけど?」
「え!?いいの?」
「当然じゃないですかぁ。遠慮せず飲んでって下さい。
あぁいけない。その二つの商会の方が、何かをタダ同然で拾って。それがかなり良い物らしくてスターレン様にお渡ししたいとか何とか」
何だろ。興味あるな。
「それって先月の何時ぐらいですか」
「下旬でしたね。王都は大人数で泊まると高いそうで。
一旦ハイネで滞在するんだとか」
おーすれ違いかぁ。一気に飛ばしたからな。
「時間見付けて行ってみます。河下れば直ぐなんで」
「お役に立てて良かったぁ…」
そろそろいい時間だな。
「面白い情報有り難う御座いました」
「「いえいえ~」」
最後に手当たり次第にグラスを空けて退店した。
恥ずかしき貧乏性。
---------------
退店後。
「2人共フラフラじゃないですか。大丈夫ですか?」
トームがギリギリ。
「タダって聞いた瞬間にがぶ飲みしてまった。
シャンパンなんて初めて飲んだぜ~」
「同じく」
「まぁ路上じゃ何なんで。ロロシュ邸まで歩きますか。
寧ろ歩けます?いっそロープで運びましょうか?」
「いやいい。今あれ遣られると、吐きそう」
「…同じく」
ロロシュ邸の正門から一番近い、本棟に入って食堂で休ませて貰った。
水とカメノス製の酔い覚まし薬を頂いた。
「おぉ。効くぅ」
「いいなぁこれ。タダで貰えるのかな」
「次は自分で買って下さい」
2人の酔いが落着いた頃。
トームが手を挙げた。
「早く帰らんと遅くなるから先に。
どうやらロルーゼ経由で、もうお前の情報が帝国にまで届いてるらしいぞ。
どこまでホントか解らんが。
皇帝の耳にまで入ってるとか。それもロルーゼの特使の仲間が最近こっちに遊びに来て自慢気に話してたらしい」
うっそーん。
「マジかぁ…」
「まあ、あんなけド派手に人助けしてりゃ、そう言う事も有り得るっちゃ有り得る。
お前のネタで、帝国が動くかどうかは微妙だな」
今動かれるとマジヤバいんですけど。
次はソプラン。
「こっちも似たようなもんだ。
それもロルーゼ経由で、今度は東大陸の西部に情報が回ってるとか。
まああっちは強い奴ウェルカムだから、冒険者ギルドの繋がりかもな」
まぁいいや。どうせ行くし。
「両方共ロルーゼがバラ撒いてるみたいだが。
お前に気を遣ってるのか。マッハリアだけには回してないってよ。
噂を信じるならな」
助かります。
「どの道もう直ぐ行きますから。あっちに。
でも裏側まで回ってるなら、早めに終結させないとダメっぽいな…」
「まぁ、噂だ。焦るなとは言えないが。予定通りに進めりゃいいんだろ。失敗は許されないってだけで。
やる事は変わらん」
「はい…。何とか頑張ります。
有り難う御座いました。ソプランはここですけど。
トームさん送りましょうか?
どうせフィーネあっちに居るんで」
「ガキ扱いすんなって言いたいとこだが。
結局行き先同じなら、ちょっとフラフラしながら歩くか」
フィーネと引き合わせてくれた恩人トームと、久々に梯子をしてしまい。
2人(フィーネ&レーラさん)にメッチャ怒られた。
言うまでもなく…。
早朝はトレーニングルームで軽く流し、サッパリしてから登城。
「私の事。信用してないの?」
「僅かでも地力を上げる為さ。少しでもね。
それに俺の索敵スキルは絶対に外せない。
その為の身体強化だよ。
前にラフドッグに走って行った時も、ステータスでは俺が上だったのに、先にバテたのは俺の方だった。
これは信用とか、そう言う話じゃないんだ」
「それは…。御免なさい。
スタンは私が守りたいと、そればかり考えてた」
「とっても嬉しいけど。今は違うかな」
「うん。反省…」
イチャついてたら控え室に呼び出しが来た。
後宮のヘルメン私室に案内された。
「お忙しい所。申し訳ありません、陛下」
「申し訳ありません」
「ここまで来た。次へ行く。
その為の準備の話だろう。
恩人に対して、何も返せぬ王なら不要だ。
遠慮無く言え」
何これ格好いい。惚れないけど。
昨日実家の父と面会し、あちらの状況を聞いてきた事を説明して。
抵抗勢力の一般兵の武装が欲しい旨を伝えた。
「二千人分か…」
「難しいでしょうか」
「いや。逆だ。
御父上の部隊は増えぬのかとな」
「聖剣の話をすれば、爆発的に増えますが。
それでは真の敵が逃げてしまいます。
これ以上は微増だと思われます。
ならば個々の武装を上げるしかないかと」
「むう。話は解った。
小国の利点は、人は居ないが物はある。
そしてタイラントには金もある。
だが公に出来ない。
準備には少し時間が掛かる。
今現在、ここの武器庫には約千人分。
後、千…。余裕を見て後、二千…。
よし。二千五百は用意しよう。
一週間後で間に合うか」
「充分に御座います。
ご協力感謝します。…お代の方は…」
「ふざけているのか、君は。
身銭を切る。お代と言うなら、必ず勝て。
あの糞忌々しい豚を葬って来い」
「有り難いお言葉です。必ず勝って帰還致します」
「必ずや」
「うむ。予定がズレそうなら早めに連絡する。
前日までに連絡が何も無ければここへ来い」
礼を返し、立ち上がろうとした時。
ふと。
「そう言えば。
何時私を謁見の間に入れて頂けるのですか?」
「絶対に入れぬ!
どうしてもと言うなら…いやこれは墓穴だな。
駄目だ」
「ケチ臭いですよ、陛下。
どんな感じか見るだけですって」
「調子に乗りおって。考えておいてやる。
君たちが帰ってきた時の気分だな」
後一押しだったか…。中々やるじゃない。
王城外に出て。
「まだ諦めてなかったの?」
「だって見たいんだもん」
「可愛く言っても。無理な物は無理だと思うよ」
「えー」
「これからどうしますか。スタンさん」
「シルビィさんの本屋で普通の本を買おう。
いつかのお礼に。
それに自宅の書庫が殺風景だし」
「いいですねぇ」
シルビィさんと、回復したお婆ちゃんにご挨拶。
適度に書籍を買って店を出た。
近くのレストランで昼食を食べてから、トーム家にお邪魔した。
レーラさんに事情を軽く説明し、フィーネを置いて行くからトームを夜借りたいとお願いしてみた。
「そうですかぁ。お仕事なら仕方が無いですね。
でもフィーネさんが居てくれるなら安心です。
…でも。飲み過ぎには注意です」
「お、いいのか!?やったぜラッキー」
「遊びに行く訳じゃないですよ。服装も、小サッパリにして下さい。夕方にロロシュ邸の俺たちの自宅へ。
服が駄目だったら、着替えて貰います」
「いいねぇ。いっそそっちの方がいいな。
他には誰だ」
「ソプランですね。
メメット隊で酒が強いのは、2人だけかと」
「確かに。解った。必ず行く。絶対に行く」
正直もんだなぁ。
フィーネがトモラ君を抱っこしながら呆れ顔。
何も拾えなかったらどうしよう…。
その時は謝り倒すしかないな。
もしもの時は運んで来まーすと言い残して
トーム家を出た。
一旦自宅へ戻り…、イチャついていたソプランを捕縛。
「あんたは毎日、人の家で」
「毎日じゃねぇよぉ…」
「ほぼ毎日ですが。
それよりも昨日は申し訳ありませんでした。
時間があったので。ベッドを整えていたら謎の睡魔に襲われまして…」
「アローマさんなら大丈夫ですよ。
毎回綺麗に清掃して貰ってるし」
「疲れたら遠慮無く言って下さいね」
「あんたは絶対に使うな」
「使うか!!」
2人に夜の事情を説明し、協力願い。
「…ソプラン様。浮気したら破談ですからね」
「ちょっと飲んで、話聞くだけだろ。
三区なら隣の区じゃねえか」
「近いから逆に心配です。
私よりも…、いい人に出会ってしまったら…」
「お前以上にいい女は…。
一人を除いて居るわけねぇだろ」
アローマさんとフィーネを比較して。
「人の嫁を何て目で見てんだ!
あんたは将来的にシュルツの専属執事になるんだぞ!
自覚を持て!」
つい怒鳴ってしまった。
「初耳だぞ!そんな話は聞いてねえ!」
「アローマさん。ソプランは、将来ヒモになるらしいですけど大丈夫ですか?」
「…真面目に働いて下さい…」
アローマさんが泣いてしまった。
「解った。解ったから。ちゃんと働くって。
だから泣くなよぉ」
人の家で、家の主の前で。抱き合う2人。
「「なんじゃこれ」」
---------------
さぁさぁやって参りました。
3区の高級クラブ:エドワンド
初めての歓楽街。余り長居出来ないのが残念ですが。
いざにゅ
「さっきの話はマジなのか?」
ソプランが歩み出し掛けた俺の肩を掴んだ。
「何か問題でも?」
「何の話だ」
「マジなのかぁ…。俺、将来貴族令嬢の専属執事になるんだってよ…」
「へぇ。頑張れよ。俺は万年自宅周辺の警備員だ」
「いいなぁ」
「これも立派な社会勉強だと思って。
ロロシュさんとは話付いてるんで。
もう逃げられませんよ」
「嘘だろぉ。俺は掃き溜めのスラム育ちだぞぉ。
あ、そっか。こりゃ夢だな。酒飲みまくって無かった事」
「なりませんって。
諦めて明日から、ゼファーさんとこで修行し直して下さいね。真面目に。
俺じゃなくて、ロロシュさんにクビ切られますよ。
アローマさんとも破談。
そうなったらカメノスさんとこでも引き受けないし。
独りぼっちですね。
1人ぼっちで冒険者やり直しかぁ」
「くっそ。解ったよ。やってやんよ!」
「んな事より早く入ろーぜ」
やっとこさ入店。
受付カウンターに立っていたボーイの青年に聞いた。
「初回で紹介無しで入れます?3人」
「当店はいち…いぃ!!??」
ボーイが固まっちまったぜ。
「駄目でした?」
「そんな事は微塵も在りません。直ぐにお席のご用意をしますので。そ、その奥のソファー席へどうぞ」
案内し終えると、ボーイがダッシュで奥へ駆け込んだ。
「おい!スターレン様が来てるぞ!!
今直ぐにVIP室を開けろぉーーー。
先客なんて摘まみ出せ!!」
「バッチリ聞こえてるんですけど」
「こう言う時便利だよな。お前の知名度」
「俺も何もせず、知名度上がらんかなぁ」
「レーラさんに報告しますね。遊んで騒いでたって」
「真面目に仕事して家族守るわ」
遠目で何故か、ヒエリンドさんが泣きながら店を摘まみ出されるのが僅かに見えた。
ごめんよ…。そんな積もりは無かったんだ。
ちょっと情報が拾えればと思って。それだけなんだ…。
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通常エリアではない特別階段で2階へ上がった先。
VIPルーム。特別ねぇ…。
煌びやかな照明に、オレンジ色の壁。
大きな横長の黒革ソファー。
余裕で15人位は座れそう。
分厚いガラステーブル。
タバコは無いけど、何故か灰皿が。
入って左手奥に専用トイレ。
部屋全体が温かい空気に満たされていた。
空調の魔道具か。いいな。
と考えてしまうのは、やはり前世の名残なんだろうか。
豪華と言えば豪華だが。
ロロシュ邸でお世話になりすぎて、感覚が完全に麻痺ってるわ。…で何も感じなかった。
暫くすると。
「当店指名No.1のジェシカです。スターレン様」
「当店指名No.2のパメラです。スターレン様」
ソプランとトームにもそれぞれ2人ずつの女性が付けられてしまった。
いったい幾ら吹き飛ぶんだろ。
1,2を急に揃えて来た所を見ると。絶対に逃さないって事だろうな。
ジェシカさんもパメラさんも、甲乙付け難い美貌。
ジェシカさんの方が胸が大きかった。
真っ赤なミニドレスがジェシカさん。
パメラさんも丈が短い紺色ドレス。
やっぱ全然反応しねぇ。我が息子よ。
綺麗な生足が4つも左右に並んでいるのに。
胸の谷間もくっきりなのに。
何なら存分に見ろとばかりに見せ付けて来るのに…。
頼んでもいないシャンパンが運ばれて来て、
みんなで乾杯。
軽い世間話から、ジェシカさんが聞いて来た。
「あんなにお美しい奥様がいらっしゃるのに。
どうして急に夜遊びを?」
「何か面白い話が聞けないかなぁって。世界的な」
パメラさんも。
「この様な場でも情報収集ですかぁ。流石は仕事熱心でいらっしゃる」
「世界的に…。何か在ったかしら」
「うーん」
2人とも頭の検索を始めてしまった。
「他の客の情報喋ってもいいんですか?」
ジェシカさんが呆れ顔。
「この国を丸ごと救って頂いた英雄様に、何を隠す必要があるのでしょう」
「そうですよ。王都じゃなくても。殆どの皆が貴方様に感謝をしているんです。何なら奥様に内緒で胸でも足でもじゃんじゃん触って下さいな」
マジですか…。頑張ってみ…違うだろ!!
「誘惑されても触りませんけどね。嫁に感情が読まれてるんで。今現在も」
「それは失礼しました。では真面目に。もう少し検索してみますね」
追加でじゃんじゃん運ばれて来るシャンパンやらお摘まみやらを放り込みながら。
パメラさんが考えている間にジェシカさん。
「私の情報は余り新しくはないのですが、南西の大陸で結構大きな迷宮の入口が見付かったそうですよ。
確か、二ヶ月前辺りだったかしら。でもあそこは強い冒険者の方が少なくて、殆ど攻略されていないとか。
あちらを訪れた商人さんから聞きました」
へぇ。面白いな。ベルエイガさんでも未確認だったりして。
充分に有り得るな。
彼も世界の全てを知っている訳では無いから。
未開拓で言えば。北の大陸が丸々手つかずだ。
「いいっすね。何時か行こうと思ってたんで」
次にパメラさん。
「余り面白くはないですが。先日の晩餐会に来ていたロルーゼの特使の方から。
貴方様とは絶対に関わりたくない!と言ってましたね」
ほうほう。あそこに来てた人かも。
「まあこっちも相手にしてなかったですけどね。
あの時は特に。余裕が無かったんで」
「流石ですね。他に何かあったかしら…」
ジェシカさんがパメラさんに。
「パメラ。悪いけど目を逸らしててね」
「はーい」
目を閉じて考え込んだ。
その間に。
ジェシカさんがメモ紙に何かを書いて見せて来た。
「闇の商人さんに会いたくなったら。私の所へ」
俺が見終わると、ジェシカさんはテーブルの蝋燭で紙を燃やし、灰皿に捨てて丁寧に灰にしていた。
この為の灰皿だったか…。
「その時は是非。ですが。今は向こう側の邪魔になるだけなので暫くは大丈夫です」
ジェシカさんは頷くと。
「パメラ。もういいわ」
遙か先で必要になりそうな情報だ。
パメラさんが思い出したように。
「あ。そうですそうです。先月です。
えーっと。名前は良く覚えてないのですが。スターレン様に助けて頂いた二つの商会の方が、恩をお返ししたいけどロロシュ様が怖くて近付けないよぉ。て泣いてました」
「え?あの2つって。結構金持ってたんだ。
うわー。この店に来る位の金あったなら、少し金取れば良かったわぁ」
ちょっとだけ後悔。
「いえいえ。三区の中では優良店なんですよ。ここ。
紹介状があれば、馬鹿みたいには取りませんよぉ。
その知人の方が高名な方なら、結構お安いです。
スターレン様は本日無料ですけど?」
「え!?いいの?」
「当然じゃないですかぁ。遠慮せず飲んでって下さい。
あぁいけない。その二つの商会の方が、何かをタダ同然で拾って。それがかなり良い物らしくてスターレン様にお渡ししたいとか何とか」
何だろ。興味あるな。
「それって先月の何時ぐらいですか」
「下旬でしたね。王都は大人数で泊まると高いそうで。
一旦ハイネで滞在するんだとか」
おーすれ違いかぁ。一気に飛ばしたからな。
「時間見付けて行ってみます。河下れば直ぐなんで」
「お役に立てて良かったぁ…」
そろそろいい時間だな。
「面白い情報有り難う御座いました」
「「いえいえ~」」
最後に手当たり次第にグラスを空けて退店した。
恥ずかしき貧乏性。
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退店後。
「2人共フラフラじゃないですか。大丈夫ですか?」
トームがギリギリ。
「タダって聞いた瞬間にがぶ飲みしてまった。
シャンパンなんて初めて飲んだぜ~」
「同じく」
「まぁ路上じゃ何なんで。ロロシュ邸まで歩きますか。
寧ろ歩けます?いっそロープで運びましょうか?」
「いやいい。今あれ遣られると、吐きそう」
「…同じく」
ロロシュ邸の正門から一番近い、本棟に入って食堂で休ませて貰った。
水とカメノス製の酔い覚まし薬を頂いた。
「おぉ。効くぅ」
「いいなぁこれ。タダで貰えるのかな」
「次は自分で買って下さい」
2人の酔いが落着いた頃。
トームが手を挙げた。
「早く帰らんと遅くなるから先に。
どうやらロルーゼ経由で、もうお前の情報が帝国にまで届いてるらしいぞ。
どこまでホントか解らんが。
皇帝の耳にまで入ってるとか。それもロルーゼの特使の仲間が最近こっちに遊びに来て自慢気に話してたらしい」
うっそーん。
「マジかぁ…」
「まあ、あんなけド派手に人助けしてりゃ、そう言う事も有り得るっちゃ有り得る。
お前のネタで、帝国が動くかどうかは微妙だな」
今動かれるとマジヤバいんですけど。
次はソプラン。
「こっちも似たようなもんだ。
それもロルーゼ経由で、今度は東大陸の西部に情報が回ってるとか。
まああっちは強い奴ウェルカムだから、冒険者ギルドの繋がりかもな」
まぁいいや。どうせ行くし。
「両方共ロルーゼがバラ撒いてるみたいだが。
お前に気を遣ってるのか。マッハリアだけには回してないってよ。
噂を信じるならな」
助かります。
「どの道もう直ぐ行きますから。あっちに。
でも裏側まで回ってるなら、早めに終結させないとダメっぽいな…」
「まぁ、噂だ。焦るなとは言えないが。予定通りに進めりゃいいんだろ。失敗は許されないってだけで。
やる事は変わらん」
「はい…。何とか頑張ります。
有り難う御座いました。ソプランはここですけど。
トームさん送りましょうか?
どうせフィーネあっちに居るんで」
「ガキ扱いすんなって言いたいとこだが。
結局行き先同じなら、ちょっとフラフラしながら歩くか」
フィーネと引き合わせてくれた恩人トームと、久々に梯子をしてしまい。
2人(フィーネ&レーラさん)にメッチャ怒られた。
言うまでもなく…。
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