お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第51話 英雄の昇霊(後編)

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彼の事をどう表現すればいいのか解らない。

真面目なのか、不真面目なのか。

天から眺めている方々は、これからする話を読んで。
きっと気分が悪くなるだろう。

でも彼は、そう言う人だった。

俺も大概だが、そんな俺を軽く越えていく、破天荒。

この言葉がしっくり来るのは、俺の中ではこの人だけ。


食事会決行日。

そこまで普通に過ごし、王にベルエイガは俺に会いに来ていただけだったと説明し、恥ずかしい思いで締結鎖を受け取った。

当日の昼過ぎ。
会場に現われた、ニーダとノイツェを引き取り、
ラフドッグへと飛んだ。

予定のメンバーは変更していない。

全員が必要なのだと思えたから。

ノイツェの反応は今一だった。
理解しているのか、してないのか微妙な顔。

何も聞いてないニーダだけが狼狽えていたが。
フィーネが抱き締めていたら落着いた。

シュルツに首飾りを装備…着用させ、昇霊の門の準備をさせた。


それは締結の鎖をニーダに持たせた瞬間に終わった。

ほんの数秒間。淡い光が彼女の身体を包み、
それが終息すると、ベルエイガはこちらから何をせずとも彼女から離れて。こう言った…と思う。

「やぁ。スターレン君。
漸く会えたね。邪魔だから出て来た瞬間ぶっ殺すとか。
酷い逆読みするよねぇ。

人が一生懸命制限塗れの中で伝えようとしてるのに。
そりゃあないよ」

「済みません。フレゼリカの事ばかり考えてしまって」
俺は素直に謝った。


岸辺の砂浜で。
目の前で胡座を描く、真っ白いおじさんに。

髪から足まで真っ白。

ひょっとしたら、この人が何かの神様なのか。
そう思えた。

彼は何かを考える素振りを止め、口を開いた。
「何から話そうかなぁ」

あれ?結論出てないの?
その言葉が出掛かった。

こちらも全員足を崩して座り直した。

「よし!君の見立ては概ね正しい。
このままフレゼリカに挑んでも、真の敵は倒せないから。

それは君も聞いた、フレゼリカの腹心。
君が呼ぶ、後釜。

しかしあの男は後釜でも何でもない。
そいつこそが本筋さ。

私の魂を魔道具使って砕いた犯人もそいつ。

締結の鎖は私が作ったんだから、何処に在っても位置は解るのさ。

一度目でこれを出して欲しかった。
そうしてくれたらこんな周り諄い事はやってない」

「すんません」

「責めてはいないよ。では続き。

フレゼリカだけ倒しても、結局君はこの先々でそいつに道を阻まれる。

君が使命を果たそうとすればするほど、邪魔をしてくる。

そいつが厄介なのは。転移の魔道具を直接体内に埋め込んで移動している点。

何処に埋めてるのかは解らない。
一瞬過ぎて確認出来なかった。

その道具は、君のそれより高機能。
行った事のある場所なら、本当に任意の場所に行ける。
座標となる人を置かなくとも。

先ず、そいつをラザーリアの地下で見た瞬間に首を刎ねるか、身体を迷わず両断すること。

そうしてくれないと。君も私も困ります。
凄くすっごく困ります。

君は使命を果たすのが大幅に遅れる。
例え二神様が味方でもだ。

私は、これからシュルツちゃんに送り届けて貰う、昇霊の門の向こう側にある、転生の門を通れなくなる。

ずっとその間に閉じ込められる感じで。

私は魔王戦から帰って来て、別にロルーゼの王様にはなりたくなかったのに、周りが勝手に祭り上げ、やれよやれよ国王様。

漸く老衰で死ねるって直前で、そいつが突然目の前に現われてガッシャーンと。

私は普通に死んで、次の人生歩みたいだけなのに。

魔王戦を観戦しに行っただけで。
たまたま居合わせた冒険者を連れ帰っただけなのにさ」

「かん…せん?」

「そうだよ。私は傍観者。

君が勝手に妄想してる。勇者なんて殺害してないし、
聖剣も終わったら勝手に飛んでっちゃうしで。

本当に酷いよ。君の想像力。

私は魔王戦が始まるって言うから、大昔に出会ったグラリーズ君と、久々に酒でも飲みたいなって西の大陸に行っただけ。

ここまで言えば解るよね。君に大全集を渡した。

私は、とある同胞の探訪者さ」

あぁ、そっからもう絡んでたのか。
「全然気付きませんでした」

「西の大陸中央部東側だったかな。

その辺りでグラリーズ君を発見。さぁ声を掛けようって所で聖剣持った勇者一行にボッコボコ。

酷いよね。友達目の前でボコボコだよ?
袋だよ?私も人間側だけど。

おいおい止めないか。可哀想だろって止めたの。

ポテトフライ片手に親切に止めてあげたのに。

今度は、お前も手伝えやこらって勇者が怒るのよ。

私は頭の上に?マークが乱立したね。
何故?って。

だって勇者は魔王に正義の鉄槌を喰らわせに行ったんじゃなくて。

自分の私利私欲で。西の大陸にじーっとしてた魔王君を討伐しに行ったんだから。

え?お前、自分で勝手に徒党組んで飛びこんだんじゃねえの?だよ。


勇者が当時の魔王君に挑んだ理由がさ。

女神様は俺のもんだーって。ただの嫉妬。

女神様と魔王君が恋仲になるお話は、君がまだ読んでないあの本の通りさ。後で読むといいよ。

そこに割り込みに行ったのが勇者。

結果は何故か私が書いた事になってる紀伝の内容じゃなくって。

相打ちだよ。本当だよ。疑ってる?」

「…疑っては、いないっす」

「それでフレゼリカの下で魔人を拵えてるのが、その時死んだ勇者の生まれ変わり。

どうしてその彼が、君や私を狙うかって言うと。

彼も同胞で、記憶を持って転生してるからで。

私は魔王戦の詳細を知ってるから壊されちゃったの。

君が狙われるのは、女神様が君ばっかり依怙贔屓するからその嫉妬。

凄いよねぇ。まだ女神様諦めてないんだよ。

俺を見ろ!あいつぶっ殺すから俺を見ろ!
魔人沢山作って君をぶっ潰すから、次は俺を見ろ!

正直に頭イカれてる。

君も私も相当だけど。あいつが一番イカれてる。

君が一番真面かな」

「有り難う御座います」


「で、話戻すね。
君を付け狙う理由はさっきの通りだけど。

君が死んじゃうと、お隣のフィーネちゃんが狙われる。
強いからね彼もそれなりに。

女神様が駄目ならフィーネちゃんだーーーって。

ゴメン…私も吐きそう。

どうかな。彼の危険度解った?」

「大変、よく解りました」

「だから彼を見た瞬間に迷わず両断して。
目印は見れば直ぐ解る。君になら。
日本語一杯だからその部屋」

「はい。そうします」

「あいつに関しては倫理とか考えちゃ駄目。
どうせ生まれ変わるんだし。

私は多分これが最後。一応使命も果たしたし。
最後の手前で引き留められたんだよ。

マジ勘弁して欲しい。強く」

「痛い程解ります」

「良かった。兎に角あいつを殺して道具を解除してくれないと、私はこの世界とおさらば出来ない。

だから君に助言しまくり」

「はい」

「次に。君に行って欲しい場所がある。

1つは最果ての町。理由は解ってる筈。

1つは最も深き迷宮。大全集の最終巻置いたから。

1つは南東の大陸。行けば何となく解ると思う。

南東に入る為のキーパーソンは、南西で君が一番に会おうとしてる人物。その人が切り拓いてくれる。
ちょっと嫌な感じしても穏やかに対応…。いっそお父さんに助けを求めてみて」

「そうします」

「あ、黒竜さんと西の大陸だけはまだ早い。

分身体を先に葬っちゃうと多分君がすっごく困る。
西大陸に残留してる魔王の因子にも気を付けること。

その因子の殆どを分身体が保有してる。

なぜ…って、ねぇ。君が自分でやっちゃったんだから。
仕方ないよねぇ」


あ…。俺…一番最初に…やっちまった…

思わず俺は天を仰いだ。

「凄いよ。君の行動力は。
私も驚いたし、上の方々も度肝を抜かれたと思う。

最後にやらなきゃいけない事を、
出だし一番にやってしまって。

何をするのかなぁ………え!?マジで!?
空へ持ち逃げかよぉーーー!!!って」

なんてこった…。何も考えて無かった。


ロイドちゃんの慰めの声がする。
「やってしまったものは仕方がありません。
あの時、女神様に力を貸して頂けた理由がそれです。
それはこの世界に取って、最も望ましい結果。
しかし、それでは貴方が救われない」

もう誰に謝っていいのか、解りません…。



「まあそれはそれ。クヨクヨしない。

黒竜さんは、最後に挑む前の最終調整で会うこと。

敵意じゃなくて、腕試しさせて下さいってお願いするんだ。

東大陸のロルーゼみたいな立ち位置だね。
だってのんびり待ってれば、人間なんて勝手に自滅するんだから、一々相手にしないよ。

性別は良く解らないけど。彼の好物は林檎。
どうしてあの巨体が林檎一個で満足出来るのかは、
宇宙の存在並の謎だ。

申し込みに行く時に、沢山種類持って行くといい。
林檎のお酒とか作って行くと喜んでくれると思う。


そもそも分身体は全部をクリアして倒しに行かないと、
秒も掛からず死ねる」

「存じております」


「で次に。婚礼式が終わって。
君の推察通りに、薬をフレゼリカが使用のゴーサイン出すのが決起かな。

その時に、同時に彼を倒すんだけど。

もしその時に失敗しちゃった場合。
真っ先に東大陸の大全集を取りに行く事。
中身は先に言っちゃうとあれだけど。

道具を阻害する道具作成の方法が載ってる。
それを作らない事には倒せない。

阻害道具の重要部品の1つを。
今、絶賛隠れん坊してる商人さんが知ってる。
消される前に見付けないと、大変な事になるね。

君の人生内で倒せるチャンスはその2回だけ。
まーヨボヨボのお爺ちゃんでは戦えないでしょ。

それくらい時間が奪われるってこと」

「肝に銘じます」


「大体話せたと思うけど。何かある?」

横のフィーネが手を挙げて。
「延命の方法は、結局見付かったのですか?」

「そうだね。君はそれが一番知りたいもんね。

結論は無かった。でも逆は出来る」

「逆…とは」

「スターレン君が見事に使命を果たしきった報酬として
女神様にお願いするの。フィーネちゃんを…。
これ以上聞く?」

逆の方法は行けるのか。
ならそっちがいいな。

「いえ。今ので解りました。
勇者を何が何でもぶっ殺します」

「今お願いしちゃうと。勝率が零まで落っこちるから。
絶対に焦ってはいけない」

「はい」


「次は?無いかな?」

再び自分。
「ノイツェとライザーって元に戻るんですか」

「戻ります。私がこの後、門を潜った時点で。
多少記憶が混濁するけど。直に戻る。

あー。シュルツちゃんには本当に申し訳ない事した」

「何をですか?」

「ライザー君がピッタリ波長が合ってね。
久々に自由に動かせたから、酒飲みまくって
大蒜ガンガン食べちゃった。

目の前には美少女。今の私は婚約者。
ならキッスの1つせがんでも怒られないんじゃないかって思ってしまい。あの結果。

まさか嘔吐するまで臭かったとはねぇ。

その記憶は彼には残らないと思う。

気が付けばシュルツちゃんに嫌われてるぞ。
俺は何した状態だから。出来れば許してあげて」

「許しません!主に貴方を」
強いっすねぇ。

「反省しても手遅れかぁ…。

あ、ニーダちゃんの身体に入っちゃったのは全部あいつが悪いから。恨まないで」

「恨んではいませんが…。助けて、貰いましたし…」


「後は?」

「フレゼリカと勇者倒せば、中央は終わりと見ていいんですか?」

「一応。同時に倒せれば。彼を取り逃がすと帝国引き連れて帰って来ちゃう。そうすると西も南もくっちゃくちゃ。
君の最悪想定が起きちゃうかも。

ロルーゼだけが山脈の向こうから。
あいつら馬鹿やってるわぁ状態になると思う」

「絶対に殺します」

「そうそう、その意気。今後もロルーゼは傍観者の立ち位置になると思うから。無理に取り込もうってするだけ無駄に終わると思う。
アッテンハイムが改革派なら、ロルーゼは保守派。
のんびり屋さんの集まりだから、最悪足引っ張られるよ。

えーやだー。やりたくなーいー。他行ってよーって」

「解りました。シカトします」


「他はないかな?
私は上の2人に怒られるまでは居れるけど」


周りを見渡して、みんな首を振った。

最後に。
「一応聞きたいんですが。今後もアドバイス貰えたりするんですか?俺にはロイドが居ますけど」

「それは君にしてはマイナスだねぇ。全部知ってないと行動出来ない子に成りたいの?」

「すんません。馬鹿で」


今度はロイドちゃんの溜息が聞こえる。
マジで御免なさい!ほんの出来心で!!
「…今回だけは。彼に免じて許します…」
本気で済まない…。

俺は、何て事を口走ったんだ。


「まあね。これだけ教えといては言い辛いけど。
人生は未知だから辛くもあり、楽しくもある。
君が南西に抱く理想そのものさ。解る?」

「解りました。深くお詫びします」


「じゃ。無いようなら行きたいかな。

スターレン君のは強すぎて、中の壁に貼り付け状態になるから、シュルツちゃんにお願いしたいなぁ」

「先程のは、全く納得してませんが、
…許せる努力はしてみます。

お二人の足を引っ張る訳には行きませんから」
ありがとね、シュルツ。


その後。シュルツが門を無事開いて、ベルエイガさんは手を振りながら潜って行った。

町から、近接する海から、近くの森から。
淡白い光が巨大掃除機に吸い込まれるが如く飛び。

海岸付近は白一色に染まった。




---------------

カメノス邸内に帰還して。

気絶中のノイちゃんを寝室で寝かせ。

別館の宴会場に集まる人々にさっきの出来事を…
一応…説明した。

全員キョトン顔。

気持ちは俺も同じ。

無理矢理笑顔を作り。
「御目出度う、ニーダ。騙してゴメンだけど。
これで正真正銘。君は自由です」

「これは…。有り難うと言う所なのでしょうが。
少し気持ちを整理する時間が欲しいです。

ライラ様。明日、休暇を頂きたいのですが…」
そりゃそうなるわな。

「え…、えぇ。解りました。ノイツェも無事?
戻りましたし。上には伝えておきます。

ショッピングでも、友達とお茶でも。自由に」
戸惑いを隠しきれないライラ。


俺は叫んだ。
「あーもー。何だか良く解りませんが!

取り敢えず。真の敵も解りましたし。
ニーダの自己復帰も出来ましたし。

何をどうすればいいのかも大体解りました。

でも、正直心が付いてかないので。
お時間ある人は、これから自棄酒に付き合って下さい。

無性に今だけ忘れたい!!」

「そ、そうね。今日位は、飲んじゃおう!」


今一反応の悪い中で。

進呈した鮪の美味しさで、
自我を取り戻して行く面々だった。
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