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第43話 新婚旅行後半戦(海賊討伐編)

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本当に丸1日を掛け、彫像製作は完成した。

名前:女神の彫像(女神の加護)
性能:半径100m内に居る全ての者の隷属化、
   奴隷化、異常状態を完全解除
   使用回数制限:無し
   魔力消費量:2
   防御力:2000
特徴:真実の愛を知る2人の合作

「で…、出来たーーー」
「疲れたーーー。枯渇寸前…」


床に寝ながら2人で彫像を持ち上げ、窓から入る月光に彫像を翳した。

鮮やかな赤の中に、輝ける淡い白い光が灯っているように見える。


「ねぇねぇフィーネさん」
「なになにスタンさん」

「使用回数制限も無くて、半径100m内に居る人の隷属化を完全に解除出来る。のはいいんだけど」
「希望通りの性能だね。…けど?」

「防御力が2000。付いてるのですが…」
「宝石だから、硬度じゃなくて?」

「じゃないんです」
「それはまた…」

「「深く考えない!」」


彫刻刀を片し、削った粉を床上に張った布シートに包み、全てをリュックに詰めた。

何も考えず、夜食をオーダーして細やかな晩餐。

お風呂は朝でいいやと、歯を磨いてそのまま就寝。




---------------

翌日。ゴーギャンに海図を貰いに行く日。

午後のおやつ時までには時間が在る。

財団の港から、近海の運航許可を出して貰っていて。
小型船の試運転を口実にして行く。

「試運転でコツを掴んだら、そのままうっかり東海域に出ちゃいます!」
「あらうっかりさん」

「これまたピックリ。海賊船団が居るではありませんか」
「それはビックリしますね」

「しかも船上には人質が一杯」
「それは一人でも多く助けねば」

「クワンティちゃんも驚いて大空へ」
「クワンティが飛んで行くー」

「「それで行こう!」」
「クワッ!」


モーニングは食べ終わり、暫定の作戦会議も終わった。

「午前の予定が真っ白ですねぇ」
「一昨日買った水着を…」

「いえいえ。朝っぱらから着こなす勇気が足りません。
ご容赦下さい」

「町中を散策して、適当にお昼食べますか。人質には申し訳ないけど」
「そこまでスタンが気にする事はないよ。戦況がどうなるか解らないんだから」

「ですね」


何時もの旅装備に着替えて出発。

1階のカウンターに鍵を預け、数日外出する旨を伝えた。

クルーザーにはシャワー、トイレ、簡易キッチンと大人が余裕で4人は寝られるベッド。

食料や薬もリュックにたっぷり。

たっぷりと言っても、人質全ての腹を満たすには全く足りない。

千人以上の人質をどうやって助け、運ぶのかも難問だ。

自分たちだけなら、海の上を海賊目指して探し回る事は出来る。


しかし海上での救出程困難な物はない。まして、縛られている人が大半。本当に困ったもんだ。


水竜様に海での安全祈願をして、見ていない雑貨店を巡り時間を潰した。

初日に行った定食屋に並んで昼食。
メニューに在ったミックスフライ定食を2人共注文。

午後に向けた緊張感で喉の通りが悪かった。

無理矢理完食。


昼からも海岸と港をフラフラし、15時位の連絡船へ乗り込んで移動。

ここまで来たら後には退けない。

船と一緒で全身あるのみ。


管理棟に到着して、ゴーギャンと面会。

「例の物はどうですか?」

かなりお疲れ気味のゴーギャン。
無理言って御免なさい。

「出来ている。また上で話をしよう」


3階会議室。

広げられた海図は南海域の全図。離れた諸島と南東大陸までが描かれていた。

そこに黒い点で海賊船の目撃情報。
「助かりました。これだけあれば、大凡の位置が割り出せます」

「一応。ここまでが、海賊船が接近して来る以前の点」

ゴーギャンはプロット群の真ん中辺りに斜線を入れた。

縮尺は大体10km/1cm。
斜線からは約100km移動している計算。

「この斜線は、いつ頃の事ですか」

「境目は、丁度国王生誕祭以降になりますな」

あの糞。昼食会ではもう手を出さないって言っておいて。
翌日には動いていやがる。

いっそ腕と言わず、両肩やっちゃうか。
止血が面倒だからそれは止めよう。


「こちらも隷属化解除方法を手に入れました。
これからの試運転後に、うっかり沖に出て一気に東沖に出ます。宜しいですか、と言ってもやるんですけど」

盛大な溜息を吐き出して。
「そう言われると思いまして。高性能コンパスを船内に置いておきましたよ」

船旅の必須アイテムだ。

「有り難う御座います。状況次第ですが、救出した捕虜を一旦ここの海岸に運ぼうと考えています。
俺たちが走り出したら、軍部に連絡して受け入れ態勢を整えさせて下さい。
海賊船団丸ごと拿捕するのは困難なので、何回かに分けてになるでしょう。

折り返しの時に軍艦が動いてくれたら、理想的です」

「やれるだけやってみます。軍が動かないなら財団の全従業員を動かして、クビを覚悟で商船も。救出なら、漁港も喜んで手を貸してくれるでしょうし」

良かった。いい流れだ。
これで俺たちが失敗したら元も子もないな。



造船所で船に乗り込み、レクチャーを受ける。

誰か別のスタッフが来るのかと思っていたら、ゴーギャン自らご指導。

「他の従業員では緊張で作戦の邪魔になると思いまして。
こう見えて昔は船乗りです。

魔導船の操作は実は非常に簡単。魔道具を扱えるスターレン様なら、大型船でも楽勝でしょう」

そうなんです。
操舵室には何と!何と!!
十字に倒せるレバーが1本だけ。

動力装置は初動に使う分しか魔力が溜まっておらず。
加速したい時に随時魔力を流すだけ。

後ろに倒せば、減速魔力解放。
前に倒せば、加速魔力注入。
左右は旋回。

これ、フィーネには言えないけど。
ゲーマーなら誰でも出来るわ。


勿論自分はすんなりクリア。
手子摺ったのは、やっぱり嫁さん。

しっかり船舶の通らない沖に出たのに。

嘘みたいに加速して、危うく大型船と接触事故。

海洋ルールで船舶同士が擦れ違う場合。両方共右旋回しなければいけない所を、テンパって左へ。

「右!右に倒して!」
「右ってどっち!スプーン持つ方?フォークかな?」

「と、兎に角後ろに倒して減速!」
「はい!」


結構な時間を食って、漸く習得したのは夕焼け空。

「何よ。簡単じゃない」
君がそれを言っちゃうのかい。

一時は今夜は止めにしようかと思ったが、何とか間に合いそうだ。


港に引き返し、造船所ドック左手から入り元の位置へ。

「ゴーギャンさんは、夜釣りでも垂らして待ってて下さいね」と降ろした。

「流石にそれはちょっと…」


寂しげな背中を見送り、うっかりスタート。

「あれぇ。動いちゃうなぁ」
「岬の灯台目指しまーす」


全解放された扉からスタートダッシュ。

当然沖に出て岬を越えるまでは俺。
帰りの漁船に気を付けながら。

光源のランタン+スポットランタンも自動点灯。

金掛かってるわぁ。


港を離れる頃にはすっかり満天星空。


動力もエンジンではないので静寂そのもの。
ゆったり走れば、波も穏やかで快適なのだが…。

海図を読もうと、フィーネにチェンジした途端。
「どれ位の速度?」
「弱で」

グングン加速。
「ちょっとそれ中じゃないの?」
「弱だよー」

まあギリギリ読める。
「そのままキープで」
「あい」
可愛いなぁもう!抱き締めたろか。

真面目に海図とコンパスと望遠鏡で照らし合わせ。
左手遠方に見える大陸岸壁を頼りに。

「ちょい右」
「ちょい右ー」

大分慣れてきたな。


目標のプロット群までは遠い。

そろそろ彼女の出番だ。
「クワンティ。君の眼だけが頼りだ。赤く光る球を乗せた船を見付けたら戻って来い。いいな」
「クワッ!」

ケージから取り出して、操舵室の窓から解き放った。

見付からなければ今夜は諦める。
もしもの場合はフィーネに呼び戻して貰えばいい。


だがしかしあっさりとクワンは数分後に帰って来た。

「もう見付けたのか」
「クワッ!」

「よし!出来した。船の前を飛んで案内してくれ。
フィーネはクワンティの後ろに付いて行け」

「クワッ」
「了解」


月明かりに照らされて、やがて見えて来た船団。

海のど真ん中で錨を降ろして停泊中の5隻。
黒光りした海賊船の姿。

「あの真ん中のデカい船だ。こっから減速して上が見える位置で止まってくれ」
「はい!」


やはり居た。小物大将クインザ。

こちらを見下ろし、眼を剥いていた。

俺は狭いデッキに出て、叫んだ。

「おーい。クインザ。ここで何やってるんだ」
「…」

顔を合わせ、次の声を発しようとした時。リュックの異変に気付いた。

ソラリマが…居ない…。

ヤバい。出してもいないのに、
無意識に海へ落としたかな。などと逡巡していたら。

「クワァァァ!!」

遙か上空から、鳩の鳴き声。

そこには、煌びやかに白発光する螺旋を身に纏った。
クワンティの姿。

彼女は更に上昇すると。そこから…。


船上に居た者は、空を見上げて静止する。


ある人質を取られていた兵士は語る。
「あれは、音の無い稲光だった」と。

ある無理矢理連れて来られた従者は悟る。
「あれは、星空を駆ける流星だった」と。

意識の混濁した少女たちは記憶する。
「あれは、羽衣を纏った天使様だった」と。


そして。俺たち夫婦は同時に思う。
「「何やってんのーーー!!」」と。


クワンは正しい。俺が交渉を始める前。
クインザを認識した瞬間に。飛んだのだから。

彼女は上昇を止め、上から見える赤い球を目掛けて直下降を開始した。

それは一瞬の出来事。

真っ白い、音の無い線が出来上がり、問答無用で球体を破壊した。

敢えて彼女を人であると括るならば。
この3人の中で、ソラリマを武装展開したならば。
それは誰よりも速い。

クワンは迷わない。球の破壊こそが最優先だと。


この場の誰よりも速く。
クインザが次の回避行動を起こすよりも早く。
俺たちが言葉を発するよりも早く。


次に聞こえたのは大きな物が弾ける破砕音。


一切の迷いの無い彼女は、誰よりも早く行動した。

仰け反ったクインザの肩を鷲掴み、
一旦空へと持ち出した。

翻り、持ち運んだその先は…俺の目の前だった。


この場の最善策を、瞬時に見出してくれたクワンティに応え、考えるよりも前に。

ロープを往なして、クインザの両腕を肘から断った。

泣き叫びながら無い腕を求めて悶えるクインザを尻目に、落ちた腕の指から、5色の指輪を外して鑑定。

これは違う、これも違う。
水竜様に謝罪を祈りながら海へと投げ捨てた。

3つ目にそれはあった。

名前:架振の指輪(古代兵器)
性能:任意の場所に瞬間転移できる
   魔力消費:3割/1回
   座標条件:装着者が行った事の在る場所
   座標軸:記憶、指定した人物付近の平場
   同時搬送可能数:10名+装備品
   (紐等で締結された状態で装着者と接触)
特徴:転移秘宝の1つ


迷っている暇は微塵も無い。

デッキを赤く染めている獣を保留し、指輪を左中指に嵌めた。

後で消毒しよう。

ロープを握り、海賊中央船のメインマスト中段にアーチを描いた。

船を乗り移り、力の限り叫んだ。

「中枢の魔道具は破壊した!呪いの解除は後で掛けに必ず戻る!あの塵虫を然るべき所に預けてからだ!

この中で離反者は居るか!!」

「…」

「俺に刃を向ける者は居るか!!」

「…」

「ならば良し!協力し!人質を全員デッキへ引き上げろ!
君たちは!もう!自由だ!!」

涙混じりの豪声が吹き荒れる。


動き出す兵士たちを振り返らずに、
フィーネの元へ戻った。

「フィーネはここに居てくれ。君が指輪の座標になる。
俺は王都へ塵処理に行く」
「解った。行って!」




---------------

タイラント王都パージェント。
商業ギルド。2階、支部長室。

そこでは今日も、ムートンが国政案件と商業案件の振り分け業務に追われていた。

そんな中。突然、唐突に。デスクの前に。

見慣れた青年が、見慣れた男を抱えて現われた。

「ムートン!」

呼ばれたムートンは一瞬、何が起きたのかが理解出来なかった。

「なっ…」

「この国家反逆者を置いていく。必ず陛下の前に送り届けろ。隷属の魔道具は木っ端に破壊した。

今は、海上の人質の救出中だ。

人質は全て呪いを完全解除する。

一旦、ラフドッグに収容。衰弱の激しい者は、後で総本堂前広場まで運んで来る。

カメノス商団の協力を仰ぎ、治療に当たらせてくれ。

金なら俺のツケでもいい。

クインザは倒れた!解ったか!」

「………」

「時間が無いんだ!呪いを解くのに制限時間がある!
今直ぐ答えろ!解ったのか!!」

「了解だ!!」

答えを聞くと、青年は大きく頷き、両腕を失ったクインザを床に降ろした。

一歩後ろに下がった場所で、思い出した様に青年は振り返った。

「あぁそうだ。俺はこんな雑魚に、聞きたい事なんて何一つ無い!斬首は俺の帰りを待たなくていいと。
陛下に伝言を頼む」

そう言い残して、青年はその場から消え去った。




---------------

そこはラフドッグから南東の海域。

一艇の小型クルーズ船のデッキ。

戻って早々に、呪いの解除、衰弱者の選別とピストン搬送を経て、残る人々はラフドッグを目指して貰った。

この短期決戦はたった一晩で幕を閉じた。

クインザは腕を縛るだけで、しっかり止血をせずにそのまま届けたが、腕の他にも何か装備はしていただろうと放置した。

届けるまでは生きてたし。

「終わったーーー」

フィーネの膝枕の上で、伸びをした。

「お疲れ様。マストの上で叫ぶスタン。格好良かったよ」

「ありがと。でも一晩で片付いて、本当に良かった。
特にクワンティ。お前は本当に賢いな」

フィーネの肩に乗って胸を張るクワンを、下から仰ぐ。

「俺の策だと、もう少し時間掛かってたし。失敗していた可能性が大だ」

「お手柄だね。クワンティ」
「クワッ」

「ソラリマも。今回ばかりは助かったよ。礼を言う」

『では、我も外に』

「だーめ。ソラリマは私たちの秘密兵器なんだから。
大人しくしてて」

今宵のフィーネは優しいのぉ。

『秘密兵器…。相解った!』

単純だな。


「王都も。今頃凄い事になってるだろうねぇ」
「まー、100人位は運んだしな。もういい、知らん」

「私も知らなーい」


「そういやあいつの腕は」
「水竜様にごめんなさいしてポイしました」

今の船の上は、フィーネが洗浄したので綺麗さっぱり。
序でに俺の指も。

「魚の餌になっていいのかも」
「そのお魚が回って来たら、嫌だなぁ」

言われてみれば…。


軽く笑い合い、満天の星空を見上げた。


「王都に帰るのが怖い。絶対ロロシュ爺ちゃん怒る。
寧ろ今真に怒ってると思う」
「私が盾になるよ」

「心強いっす」

「だって自分を守る為だもん。ゴチャゴチャ言われたくないよ」


「フィーネさんフィーネさん」
「なんだいなんだい、スタン君」

「このまま海の上で数日過ごすというのはどうだろう」
「非常に魅惑的だけど。ここって漁師さん来ない?」

「あー。そりゃ来るかぁ。じゃあ明日の朝にホテルに帰りましょ」
「そうしましょ」


「フィーネさん。お願いがあるのです」
「な、内容に依るかな」

「ご一緒にシャワーを」
「ん??あれは、お一人用では」

「だからいいのです!」
「…私からもお願い」

「何でしょう」
「その。真面目なのと、エッチなの。落差が激しすぎて心臓に悪いのです。どうにか出来ませんか。前よりどんどん悪化している気がします」

「無理です!」
「そんなにハッキリと言われると…」


兎に角海賊討伐は終わった。そんな夜。
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