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第41話 新婚旅行後半戦(海賊編)

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俺は1つ、フィーネに話していない事がある。

こんな話はしたくない。
新婚旅行中に話すべきでない事も解っている。

しかし、頭のいい彼女なら。
当然この疑問に辿り着く。

どうして、海賊は討伐されないのかと。


朝食を終え、笑顔で身支度をしているフィーネを眺めていると、つい何もかも忘れて逃げたくなる。

「どうしたの?今日は何処行くか…ではないみたいね」

「そう…。フィーネに話そうかどうしようか。悩んでいた事があるんだ」

「何?」

ベッドの端。彼女も真顔で隣に座った。

「ごめん。君を抱き締めながら話してもいいかな」
「いいけど…。本当に、どうしたの?」

許可を得て、彼女を抱きながら横になった。

「俺も話し始めると、平静では居られなくなるから。
きっとフィーネも」
「うん…」

まず何から話せばいいのか悩む。

「昨日。広場で闇市の話をしたよね」
「港には、その。女性に酷い事をする魔道具が集まるって言ってたね」

「フィーネは。疑問に思ってるだろ。どうして、ウィンザートの海賊が放置されたままなのか」

「うん…。スタンも、見て見ぬ振りをしているようで。聞かない方がいいんだと思ってた」

「そうだね。フレゼリカと対決するのに、海賊まで相手にしたくなかった。てのが本音かな。

タイラントは港を保有する上で、ちゃんとした軍艦も多く持っている。

なのに海賊とウィンザートの荒廃は放置状態。

軍艦では海賊船を、叩けない…理由が…」

涙が、止まらない。
フィーネは優しく、俺の頭を撫でてくれた。

「海賊船の…デッキの端に…、隷属化した、若い女性と子供を沢山縛り付けて…盾に、してるからだよ」

フィーネの手が止まった。


「この旅行中にこんな話はしたくなかった。
後でフィーネが知って。それが解ってて見過ごした俺を軽蔑してくれても構わないと思ってた」

「…しない。軽蔑なんて」

嬉しい言葉だ。何よりも。

「前まで。俺たちは、大規模な上位の隷属化に対抗する手段を、持ってなかった」

「でも。今は、聖剣がある」

「そうだ…」


フィーネはまた俺の頭を撫でて。
「それで悩んでたのね。スタンは、どう見てるの?
この旅行中に救えるのか、救えないのか」

「可能性はある。でも、大きな問題があるんだ」

「問題?」

「その…。大規模な隷属化を司る魔道具が、何処に在るかが解らないんだ。そして、それを壊せたとして」

「今の人質が、正常に戻れるかが解らないのね」

「うん。…最悪、廃人のままになる」


それから暫く、沈黙が続いた。

ふと。フィーネが口を開いた。
「暖かいね」

「うん。暖かい」

「ありがとう。話してくれて。
私も、今抱かれていなかったら。また暴走していたかも知れない。

冷静だから言えることは。

逃げても、誰も文句は言わないし。
私も軽蔑したりしない。

だって。それは国の問題であって。私たち個人には関係ないから。

まして。スタンはマッハリアが控えてる。

でも私は知ってる。
スタンはそれを放って置けない人だって。

だったら。もう遣るしかないじゃない」

フィーネの温もりを確かめてから。
「ありがとう、フィーネ。手を、貸してくれ」
「当たり前じゃない、そんなの」


「なら。最悪のシナリオから話す。いいかい?
絶対に、暴れないで聞いて欲しい」
「…聞いてから、考える」

暴れるなよぉ。

「全ての黒幕、公爵クインザは。
俺の首を、フレゼリカに差し出す積もりだ」

フィーネの腕に力が入る。
「離して!今直ぐ!あいつを、殺してやる!!」


説得すること30分位。
その間。全力でフィーネを抑え続けた。

俺の背中は傷だらけ。心に染みる痛みだな。


やっと落着いたフィーネの前に正座中。

「全部説明するには、時間が足りない。
今日もこれから、俺たちは何も気付いていない振りをして町中に遊びに行き。

クインザが潜伏させてる密偵に、そう思わせなければならないんだ。

その中でまずは、ロロシュ財団が持つ海域の情報を貰わないといけない。

今回、ロロシュさんに協力を仰ぐのは無理だ。

逆にロロシュさんは、俺の動きを察知した途端。

少ない私兵を引き連れて、クインザが所有する数千の兵に勝負を挑んでしまう。

王都でも前と比べ物にならない程の戦いになってしまう。
それは絶対に避けなければならない。

ここまではいい?」

「何となく。普通に過ごして、情報を集めるのね」

「フィーネは俺の事になると、演技が下手糞になる。それならいっそ。俺の後ろで、俺が話す人物の嘘を見抜く事だけに専念して欲しい。
誰が敵か全く解らないから。

俺は普段より一層馬鹿を演じる。多少のお痛は目を瞑って欲しいかな」

「…浮気だけは絶対嫌」
信用ねえな俺。

「違うよ。それはしない。
ちょっと陽気なお調子者になるだけさ。
人前でフィーネのお尻を撫でるとか。これまで以上にイチャイチャするだけ。新婚らしくね」

「…私にするなら、許す」


「ありがと。じゃあ今日は。市場周辺を練り歩こうか」

「直ぐには財団には行かないのね」

「まだ早い。数日…。最低でも、明日くらいまでは町中で過ごす」

「解った」


「出掛ける前に。こちらの有利な点を話すね」
「うん」

クインザは聖剣の存在を知らない。

裏社会に詳しいコマネンティに、上位隷属化の解除方法を探って貰っている。これは間に合うかが微妙。

ヘルメン王は味方。
クインザを現状維持にしているのは、あいつの私兵の反乱を恐れている為。

クワンティの戦闘能力を誰も知らない。
これも切り札の1つ。


「加えて。ソラリマは俺たちの切り札だ。その存在がクインザにバレた時点で敗北する。
現状で、最も安全に魔道具を破壊出来るのはソラリマだけだと言ってもいい。

バレた時点で、魔道具を隠されてしまう。

ソラリマは、これ以上の説明が必要か」

『絶対に人前では喋らぬ』

「クワンティ。君はケージ毎強奪される可能性がある。
フィーネから引き離されたら、ケージを破って全力全開で逃げろ」

「クワッ!」


「さ。市場に繰り出しますか!続きはまた夜に」

「ちょっと待って。背中の傷を治してから」




---------------

背中の勲章を綺麗に治され、武装無しの旅装備で今日も市場へお出掛け。

説明に時間を食ったので、今日も市場はお店開き状態。


でも!腕に当たる柔らかい膨らみが俺に勇気を。
「それが無ければ。完璧な紳士なのですが」
言わないで!


「無くなるの早いなぁ。見たかったのにぃ」
「ちょっと寂しいねぇ」

鮮魚がもう殆ど残ってない。捌けるのが早いわ。

血で血を洗うではなく、普通に水で床のお魚の血を流していた屈強なおじちゃんに聞いてみた。

「魚が無くなるの、早いっすねぇ」

「あ?行商の夫婦か?…まぁなぁ、最近は不漁でな。
鯵とか鯖とか。烏賊とかよ。クソ海賊船の影響で、夜間の漁が出来てねえんだ」

「海賊船!それは何と言うか…。災難ですね。
俺は一応商人ですが、新婚旅の序でに港の勉強中なんですよぉ」
「ねー」

「ちょっと。いやかなりあんたらにイラッとするが。
災難なんてもんじゃねえよ。普通この時期なら、もっとこの町も賑わってる。あー今年の冬が心配だわ」

「頑張って下さい。お邪魔しました」
「しましたー」


腰をポンポン叩くおじちゃんにお別れを告げた。


「海域が侵食されてるな。もしかしたら、魔道具本体がこっちに移動してるかも知れない」
「早くぶっ壊したいわ」

「まだ早いって」
「解ってますぅ」



昨日とは違う定食屋さんへ。

ここには麦飯丼が在りました。

「丼物なんて珍しい。何にしよっかなぁ」
「私は初めて。楽しみ」

丼物の選択肢は少ない。
鰹さんのフライが載ってます。これだけ。

この世界。余り生食が浸透してないな。

折角魚町に来たのに、お刺身が無いなんて…。

フィーネも同じ丼物を頼んだ。


箸なんて無いです。スプーンが付いてきた。

「へぇ。麦を炊くとこうなるんだぁ」
「甘くて、歯応えがあって、プチプチするね」

でも米ではありません。

「あー米が食いたい!」と強めに言ったら。

隣席のおじさんが反応した。
「あんた若いのに、米を知ってるのか」

「え?おじさんも知ってるんですか」

「俺は一度だけな。今は封鎖されてるが、南東の大陸に入り込めた時に。粒粒の…何て言ったっけなぁ。
そうだ、おにぎりだ。これは何だって聞いたら米だって」

何だって!まさか女神教は米を独占したくて大陸毎封鎖してるのか!!
「流石にそれは無いでしょう」
だよね。

「俺は見慣れない行商人から買ったんですけど。
甘くてモチモチが忘れられないんですよぉ。あーもう一度あの商人に出会えないかなぁ」

「おぉ。何処の町で買ったんだ」

「ハイネです」
嘘です。

「へぇ。そんなとこに在ったのかぁ」
ゴメンよおじさん。それ、嘘なんだ。

「まあこの国の人じゃないぽかったんで。どっから流れて来たのやら」


実りの無い会話で退散。



「麦飯は麦飯で美味しいんだけどねぇ」
「南東に行くご予定は?」

「絶対無い。あんなとこに飛び込むなんて自殺行為だ。
教団が何やってるかすら、さっぱりだ」
「良かった。それは信じる」



昨日とは違う雑貨屋へ。

星砂は無いが、品揃えが隣とモロ被りじゃん。
ここはストレートに。

「ここって隣と同じ系列なんすか」

「え…。違いますが」
「商品被ってません?」

「そん…な事はないと思うんですが」
怪しいわ。これはフィーネに聞くまでもないな。

「そうっすかぁ。ちゃんと調べたほうがいいっすよ」
「センスないねぇ」

男の店員がムッとしてる。


ちょいと喧嘩売ってふーんと退店。



「解り易すぎる…。馬鹿にしやがって」
「怒らない怒らない。怒るのは私の役目」



今日も夕方まで、心を癒す為に海辺へ。

「この海の何処かに、水竜様っているのかなぁ」
とフィーネが呟いた。

「伝承では存命だとか。どっかに居るのかもね」
「一度、お会いしてみたいね」

素潜りでもする積もりかい?

「ちょっと冷えるな。早めに帰るか」
「そうしましょー」

帰り序でに宣言通り。昨日よりも更に攻めたオレンジが基調の水着を購入。

「…め、面積…」
嫁の呟きは聞かなかった事にして。



ホテルに戻り、小綺麗に着替えて1Fへ。

本日のメニューは。

小アジのマリネと、湯引きした鱈のカルパッチョ。
メインはサーロイン。

「なんか。贅沢し過ぎじゃない?」
「このホテルに泊まってる時点で諦めて」

セルジュさんを呼んでお勧めの赤と、何か合う物を追加でオーダー。

「今日は飲ませちゃおっかなぁ」
「もう。私を酔わせてどうするのぉ」

などと戯れて。




---------------

最上に戻り、ラフな普段着に着替え。

バーカウンターに入ったフィーネが。
「何か飲む?私はちょっと飲みたいから」

珍しいな。
「じゃあ。俺はウィスキー適当に」
「解った」


カウンター前の小テーブルを挟み、グラスを2つ並べて半分位注いでくれた。

まあ何でもタダだし。追加無しって意味で。

クワンティはカウンターの上で、コップに入れた水を飲んでいる。

足元にリュックを置いた。

一口飲んで話し始めた。

「明日は早めに、もう一度市場に行って。
お参りしてから、この町の商業ギルドと冒険者ギルドに行く積もり」

「特に商業は寄らないと可笑しいもんね」

「そうそう。でも挨拶程度に。旅行中に仕事なんてしないから。商業では町中全体の流れを。冒険者では外周辺の情報を掲示板レベルで調べる。
何か接触があるとしたら、そのどっちかだと思う」

「気が抜けないね」

「そこは本当にごめん。実質、新婚旅行は昨日1日だけになってしまって。
こんなにも早く海賊が動いてると思わなかったから」

「謝るの無し。今は海を見れただけで充分。私の旅行としては、アッテンハイムの山の中で満足よ。混浴露天風呂入れたしね」

「そう言って貰えると有り難いよ」

「あ、ハイネハイネのは数えてないし。記憶にも御座いません」
「同じく」


「また町中での戦闘になるの?」

一口。渋みが大人の味だ。
「流石にそれは無い。クインザは王都で失敗してるし。
戦場になるとしたら。
この町の東から北東になると思ってる。
自分なら、陸と海から一気に叩くな。

何かしらの餌で俺たちを誘き寄せるとか。

どうにかその先手を打って、魔道具を破壊したい」

「大体流れは解った」


フィーネも一口飲んで。
「ヘルメン王様が味方って言うのは?」

「陛下もギルマートも。王都の西部に人員が回せないって言ってたでしょ。あれは、ウィンザートとクインザの動きを警戒してるからなんだ」

「ギルマートさんを急かしたのは、失敗だったんだ」

「怒鳴り込みに行った時。フィーネも今直ぐは無理でもってちゃんとフォローしてたから大丈夫だよ。
多分、クインザを潰せたら、西部にも人が回せると思う」

「原因はアッテンハイムだけじゃなかったんだね」

「そのどっちにも関わる事になるとは。正直俺も凄く凹んだよ」

「あっちに首突っ込んだのは私たちだもんね」

「上から自業自得って言われちゃうと、ちょっと頭にくるけどね。

それと陛下が味方ってのは。宝物殿の地下の事もある。

あそこには海賊が集めてバザーに流した、隷属化系の魔道具もあったんだ。

元々魔道具を集めるのが趣味ってのもあって。
陛下はクインザが買おうとしてた物を、俺みたいに横から奪ったんだ。

他にもっと酷いのは弓。
それで放たれた矢に当たると、どんな物でも腐らせるとかさ。

そう言う危険な魔道具や武器を集めて管理してた。

自分で使う為じゃなく」

「そっか。悪い王様じゃなかったんだ」

「まあいい人でもないけど。一度は本気で俺を排除して自分でフレゼリカと対決しようとしてたし。

今は陛下に恩を着せ捲って、絶対に反抗出来なくしてるって感じ」

「恩の押し売りですねぇ」

「やり過ぎたのは否めません。
突然ですがフィーネさん。余計な事が1つあるのです」

「えー。余り聞きたくないですがどーぞ」


「多分だけど。本当に嫌な感じだけど。
今回俺がクインザを潰して。マッハリアも解決出来て。
タイラントに戻って来たら。

俺、公爵やらされます!
フィーネさんは公爵夫人になってしまします!」

「え………ちょ…と。話が…」

「もしも!そんな話になったら。
俺は全力で逃げます。逃げたら二度とタイラントへは戻れません。

一緒に付いて来て貰えますか?」


残りの酒を一気に飲んで。
「地の果てまでも付いてくわよ!!」

「言いましたね。覆せませんよ」
「覆しません!」


「有り難うフィーネ。愛してる。何時までも」
「もう。狡いよぉ、それ。私も、愛してます!」


その日はクワンやソラリマを無視して、とても熱い夜を過ごした。

明日が来る。その恐怖を掻き消す為に。
この幸せが、続いて欲しいと願いながら。
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