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第39話 お買い物色々

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色々ありすぎて何が何やら。

魔剣が聖剣になってしまった日。

嫁さんの情緒が不安定だったのも、きっと俺が如何わしい魔道具に触れてしまった所為だと強引に結び付け、何とか逃げ切った。が。

いやいや鑑定させてーやとヘルメンが五月蠅かったので、やれるもんならやってみろと渡して見せたり。

見える訳ないじゃん。全干渉攻撃完全無効が付いてるんだぜ。
当然承認者だけじゃなく、剣本体だって鑑定は不可能。

過保護のフィーネさんが、見えなくしろ。鑑定も立派な攻撃なんだぞと指示しちゃったんだもん。

王さんは案の定何も見えずに大層ご立腹だった。


これで俺たちは何も阻害品を持たずして、看破されない人となってフィーネは超ご機嫌。ご満悦。

平和だ。

俺は優秀な秘書官様に、尻に敷かれているのが丁度いいのかも知れない。


情緒不安定と結論付けて、ふと懐妊ではと聞いてみたがリズムで自己診断して貰っても違います!との答え。

俺の鑑定でも何も出なかった。
デリケートな問題なので、のんびりと行こう。


使えるかこんなもん!言って置きながら、聖剣のその他に付いても色々確認してみた。

潜在能力解放。

魔剣の時に付いていた装備時限定は。
「聖剣としての自覚を持て!一度持ち上げた能力を下げるとはどう言う了見だ!」
の、軍曹さんの叱咤激励で掻き消えた。

嫁さんは治癒魔法が中級に上がり、使える魔法の種類が格段に増えた。その種類に付いては追って、使用時に説明を加える。

俺の身体は一般人に後付けオプションが付いてるだけなので、特別何も解放はされず。強いて挙げれば覗き魔に近距離の索敵機能が付いた程度。

冒険者の大半が鍛えている能力と何ら変わりないから、何も特別感は無い。

意識しないと発動しないので、不意打ちが躱せる訳じゃないのでやはり俺の中身は凡人だ。


聖魔属性保有。

これは剣刃に属性が付いてるだけなので、当てないと効果は何も無い。剣だけで死霊系の魔物が倒し易くなった。
教会製造の聖水要らず。

死霊系が中央大陸に居ないのを祈る。

中距離に対応出来る空刃が飛んで行く訳でもない。

何かの魔道具との併用で化ける可能性は有る。


自動帰還機能。

これはいい。

剣本体を俺が優先的に預かる事になり、リュックに収納した状態で。

フィーネが来い!と言うだけでリュックの中から彼女の手元に瞬間移動する。

ハンマーとの持ち替えが容易となった。


気になる侵食同化機能。

これは衣服や装備品の上から、柄尻が伸びて腕に絡み付く程度に収まった。

収まったとは?

最初、俺が装備して念じてみた結果。手の甲から体内に侵食しようとソラリマさんが試みた。みてしまった。

当然激怒したフィーネが修正を強要し、最終的にこの形となったのです。

別に侵食されても痛くも痒くもなかったんだが。

嫁さんがどんどん過保護になって行く。


物理破壊不能。

大剣自体が物理完全防御盾としても使えます。以上。

剣が大きくなる訳ではありません。その守備範囲内。


全干渉攻撃無効(全承認者)

これもいい。

魔道具にしろ魔法にしろ。俺たちが心配していた武装の強制解除や精神攻撃が無効化された模様。

毒や病気などは受けてないので解らないが、恐らく大半が効かなくなったと思われる。


竜種特効。

戦ってないのに解るかーーーい!



本体性能はチートである!と豪語出来るが、その他機能は上級魔道具の機能を幾つか集約した感じだ。

これだけで無敵になった訳じゃないので充分注意が必要。

初代の聖剣の性能が見たいな。
東大陸の何処かだと、探訪者さんは示してくれたが。
範囲が広すぎるし、今現在もそこに在る保証は無い。

前回の魔王戦で勇者が持ち出したし。

これまで人から聞いた話を総合すると、東大陸の最果ての町辺りが怪しいが、そうすると歴史の文献やベルエイガの紀伝との辻褄が合わなくなる。

妄想レベルなら。勇者一派とは違う、別働隊が動いていたのかも知れない。

大陸東側に居たと思われるフィーネの御父上様が、聖剣と対決した風だったので、聖剣は普通に勇者が持っていた可能性がとても高いが。


謎は深まるばかりだ。



「どうしたの?また考え事?」
シュルツとのお風呂から上がってきた嫁が、髪を整えながら声を掛けて来た。

「うん。頭の中で情報整理してた」

我が儘ヘルメンの所為で出発が遅れた勢いで、数日王都の滞在期間を延ばし、滞在期間中はロロシュ邸にお泊まりさせて頂く事となりここに居ます。

シュルツはフィーネと寝るのを控える努力をするそうで、寝室にはフィーネと2人切り。

1つ。俺たちは新婚夫婦。人様のお家だからって、もう我慢はしないと決めました。放って置いて!



明日の昼間は別行動。

フィーネは久し振りに、レーラさんの所にがっつり遊びに行くそうだ。

その間。バザーで何も見付からなかったトームとソプランを誘って、闇市へ行こうと考えている。場所は既に割れてるしな。

夕方から合流してメメット隊全員とライラ、ニーダを加えて酒宴を開く予定。

ニーダ?彼女は何も悪くないのにハブらないよ。
未成年だから酒は飲ませないが。
裏の狙いとして、ベルエイガが諦めてくれないかと淡い期待はしている。

復活後に何を狙ってるか何て知りたくもない。


酒宴はカメノス邸の別館を提供してくれるらしい。

メレス、ケッペラ、ヒレッツの3人がカメノス側の女性と成立したので、その人たちも交えて。

残りのカーネギ、ソプランはロロシュ陣営と成立。もちその人たちも呼びます。

ムルシュも、改め婚約者さんを連れて来るらしい。
俺に纏わり付いて来たら、容赦無く叩き潰せと言われてしまったが、いったいどんな人なんだろ。


以降の酒宴(商売含め)の類は、カメノスが持つとロロシュ氏との遣り取りがあったそうだ。

メメット隊の今後も、そう言う流れになるんだと思う。
有り難や有り難や。

他にもシュルツを含め、フィーネのお友達。
未来の王女様2人と友達って凄えな。

ロロシュ氏は行けたら行くとの事。
顔出しには来ると思う。

何でも、卿がヘルメンに爵位なんて要らねえと言ってしまったらしく、その引き留めやら、各種段階的引き継ぎ業務で多忙だそうだ。

その他。今の内から全体の顔合わせやらなんやら。


宴会は小じんまりとやりたかったが、カメノスに声を掛けたらこうなった。
これにノイちゃんまで来たら、内祝勝会の総合版だな。


明後日に、南へと出発する。楽しみ~。



フィーネとベッドに入った。

「なんか不思議な感じだね」
「何が?」

「何て言うか。どんどん家族が増えて行く感じ」
「楽しくていいっしょ」

「うん。…でもスタン。無理しなくていいんだよ。無理に私の居場所を作ってくれなくても」
「考え過ぎ。俺はやりたいようにやってるだけさ。フィーネの笑顔が一番大事」

「もう。幸せ過ぎて怖いよ」
「おうおう。愛しいフィーネを怖がらせる奴は、全部俺が倒してやるぜ~」

クスッと笑う彼女をそっと抱き締めた。


今日も幸せな夜が更けて行く。




---------------

予定通り。
トームとソプランと一緒に、コマネンティ邸の裏手にやって来た。

3区の西の奥まった場所。

「はー、こんな場所が在ったとはなぁ」
そう言ったのはソプラン。

「まあ覚えても、定期的に場所は変わるんで。余り意味は無いんですけどね」

「そう言うもんか」
「そう言うもんです」

後ろから若干緊張気味のトーム。
「俺はあんまし深く関わりたくねえな」

「それが無難ですよ。
誰からの情報かは解ると思いますが。深入りすると命に関わるんで」

「知ってても。俺では交渉にもならん。今日はお前に付いてく護衛だ。
それより悪いな。今日も嫁さん引っ張っちまって」

「彼女がそうしたいんですよ。将来の子育ての勉強も兼ねてるとか」

「それなら。少しは後ろめたいのも晴れるわ。夜に礼でも言うよ」

「はい。…お、あれかなぁ」

人通りが一切消える場所。一見すると袋小路。
更に裏手に回れば、中の商売人の逃走経路も用意されているんだと思う。

外周から隔絶され、上からの視認性が悪い。

「入る前の注意事項のお復習いです。
互いの名前は口に出さない。
商品には許可なく触れない。
俺と話しをするのは大丈夫。
商人との交渉事は全て自分がやります」

「「おう」」

意思確認を終え、奥まった扉の小窓を覗いた。

中の受付と目を合わせた。小さく頷かれる。

「どうやら入れるみたいです。ラッキーですね」

安堵の声を漏らす2人。

暫くすると、扉が開いた。

中に入って直ぐに受け付け部屋。店舗はその奥だろう。

黒尽くめの受付員は、その部屋の前で玄関に戻った。

部屋に入り、小カウンターの前に立つ。
すると奥から別の黒子が、対面に立った。

無言で金貨を置いて行く。

今回は6枚目で闇金貨が出された。
6倍レート。これはいい物がありそうだ。

今の俺は小金持ち。臆する事は何も無い!

小袋から金貨を10枚積みで30並べる。

返って来た巾着には50枚。受付確認時の1枚を合わせ51枚。これで目玉品に届かないなら、不運だな。

後ろの2人が、大金が動いた事に息を呑んだ。

巾着の中身の確認を終えると、カウンター横の扉を開いてくれた。


中は薄暗いリビング。
オイルランタンの焼けた香りが鼻に付く。

2階へ上る階段は無い、正面奥と右手にそれぞれ扉が1つずつ。

リビング中央には定番の大敷き茶絨毯。

取り敢えず絨毯の上を歩いてみた。
真ん中手前に不自然な凹みを発見。

「さて運試し。この下と、扉が2つ。どれか1つしか入れません。2人ならどれを選びます?」

「俺なら正面扉だ」そう言ったのはトーム。素直だ。
「俺は下だな」ソプランは隠された方を選んだ。

正直自分もその2択だったが、どうしようか。

困った時のロイドちゃんだが、多分殆ど見えてないと思うので聞かない。
「はい」
答えてくれちゃった。


「確かに下は気になりますが。今日は、正面にしますか」
「「おう」」
どうやら俺に任せるらしい。


店内は武具各種が並んでいた。

やはり運がいい。これなら弓は兎も角、特殊な双剣もあるかも知れない。

商品を眺めていると、店奥に座る店主と後ろのトームが。
「「あ!」」
と同時に顔を見合わせて驚いていた。

トームに肩を叩かれ、小声で耳打ち。
「このおっさん。バザーで嬢ちゃんがハンマー買った時の店主だ。…生きてて良かったなって伝えてやれ」

それは好都合だ。

「控えの者に聞きました。その節は、どうやら嫁さんがお世話になったそうで。五体満足な様で良かったですね」

「お、おぅ」減なりな表情で項垂れてしまった。

「交渉しようかと思ってましたが。今の手持ちは闇金51枚有ります。
店主さんのお勧めで、双剣と弓と矢筒が欲しいです。
購入は可能ですか」

「ストレートに来たか。…俺も、前の挽回の為にノルマがあるからなぁ…」
腕を組んで、暫く考え込んでしまった。

「いいだろう。その値でそれを用意する。リビングに出て少し待っていろ」
いい人で良かった。

「では、確認を」巾着を丸ごと手渡した。
「おぅ」

店主が枚数を確認している間に、陳列棚をぐるりと見渡した。すると…。

一振りの中剣が目に入った。

「店主さん。あそこに掛かってる中剣も付けてくれます?」

丁度枚数確認を終えた店主が振り向く。
「あ?…そんな我楽多がいいのか」
「我楽多だからいいんです」

「それ位なら許容範囲だ。一緒に付けてやるよ。纏めて袋詰めで持って行く。リビングでは開くなよ」
「解ってますよぉ」

振り返り、2人に声を掛けて部屋を出た。

リビングスペース左手のソファーに腰掛けると、一息吐いてトームが尋ねて来た。

「随分あっさりだな。もっと他に粘るのかと思ってた」
「更に奥に部屋が在りましたからね。一々交渉してると時間ばかり食って、店主さんが焦れて。本当にいい物は出してくれなくなるんですよ」

「へぇ、面白えな。これって、いい買い物が出来たって事なのか」
「お楽しみ袋って感じでいいでしょ。後で開けるのが楽しみです」

今度は代わりにソプランが。
「確かにワクワクするな。…それで、一緒に指定したあの中剣は何なんだ」
「帰ってから、こっそり説明します。まあ、簡単に言えば思い出ってとこですかね」

「ふーん。言いたくないなら詮索はしないぜ」
「それ程深い意味はないですよ」

お喋りをしていたら、黒子が大きな麻袋を持って、俺たちの前の床にドスンと置いて去って行った。


「ここでは袋に入れ替えられません。このままで持ち、来た道を帰りましょう。どっちか、持って貰えます?」

ソプランが麻袋を担ぎ。
「俺が持ってく。一応、お前の従者!だったしな。
…にしても品数の割に軽いな」
「嫌みぃ。後で開けるのが楽しみですね」

「フッ。歳の離れた兄弟みたいだな、お前ら。まあさっさと帰ろうや」
「うっせーよ」

トームに急かされ、小さな闇市を後にした。

そんな風に見えるのかぁ。



3区内を大回りして、ロロシュ邸に戻った。

バザーでの購入した薬以外の装備品の大半が、この邸内の倉庫で預かって貰っている。

と、メメットの事務所まで運ぶのが面倒だった。
時間が惜しく、早く袋を開けたい一心で。


商談室を開けて貰い、3人で中身の確認。

「「「おぉ…」」」


双剣。

名前:追憶の双剣
性能:単体攻撃力200
特徴:2本装備時、一薙ぎ毎に斬撃速度加速
   装備者の魔力消費が最大値5割切れで、
   加速効果は停止する

弓。

名前:霞の弓
性能:射出速度上昇、飛距離延長、照準補正
特徴:装備者の技能に依り、殺傷能力追加上昇
   射られた鏃は霞が如く消える事があると言う
   認識阻害ランダム転写


「2つ共、凄いですね。矢筒は上等な市販品の50入りですが、双剣も弓も自分で使いたい位ですよ」

「使いたい?」
「まさか、お前」

「何の為に2人を誘ったと思ってるんですか。
当然、双剣はソプランさん。弓はトームさん。
他のメンバーにはいいのを渡せたのに、不公平でしょ。

あ、拒否権は無しですよ。

これらは俺の命の恩人に対するお礼の気持ちなんで。受け取って貰わないと困ります!」

ソプランは舌打ちをして。
「受け取りゃいんだろ、受け取りゃ。ったくよぉ」

トームは溜息を吐き出す。
「後で返せって言うなよ」

「言いませんよ。
この邸内で借りている倉庫は、メメット隊の武装保管庫になっています。

マッハリアで始まる大戦の余波が、ここまで来ない保証はありません。

ここが城下を防衛する上での重要な拠点になります。

勿論俺もそうならないように努力はします。

お願いです。みんなでここを守っていて下さい」

2人に頭を下げた。

「止めろ!従者に頭下げるな」

「大きなお世話だ。言われなくてもやってやるよ。
お前は心配し過ぎなんだよ。お前はお前の役目に専念してりゃいいんだよ!後ろなんて一々気にするな!」
トームには怒られてしまった。

これは無責任な仕事の依頼。身勝手なお願いだ。

その引き金を引いたのは俺なのに。


「辛気くせえ顔すんな。
折角夕方まで、アローマとお茶でもしようと思ってたのによぉ!気分が萎えたぜ」

そのアローマさんが、この邸内で働く侍女さんの1人で、ソプランと成立した人らしい。

そこでトームが提案してくれた。
「だったらこれで。三人で模擬やるか。
っても今のお前とやるのに、俺らだけじゃ厳しい」

「いいなそれ。
スターレンはロープで人柱作って適当に動かせ。

万一お前に掠り傷でも作られたら、後でお嬢に殺されちまうからよ」

「ハハッ。いいっすねえ。遣りましょう。
汗流すのにお風呂もお願いしときますね」


その後。訓練所を借りて模擬戦をした。

途中、アローマさんと思われる女性の黄色い声援が飛んでソプランが余所見をしたので、人形で軽く叩いたりと。

3人で汗と背中を流し合って風呂に浸かった。

楽しい、いやかなり楽しい昼過ぎを過ごせた。
偶には男同士の付き合いもいいもんだ。



出掛けに丁度ロロシュ氏が帰宅したので、3人で馬車に便乗させて貰った。

ロロシュ邸の女性陣は色々準備があるらしく。

短い馬車移動の中で。

緊張気味の隊員を余所に、ロロシュ氏に最終確認をしてみた。怒られるのを覚悟で。

「諄い!」まだなんも言ってねーよ!

「ロロシュさん。そうは言っても、これじゃミラージュ家からあいつを遠ざけた意味が…」

「諄いと言っておる!どの道、金庫の暗証はわしとお前とフィーネ嬢しか知らん。君らの旅行中に特使が間に合ったらどうする積もりだ」

「ですから。昨日も言いましたけど。途中で切り上げて戻ってく」
「戯けが!!そこまで守って貰う筋合いはない!
さっさと代理人申請を書いて寄越せ」

代理人とは、マッハリアの特使に薬を引き渡す役目の代理のこと。

昨日の夜もこれで拗れた。

「わ、解りましたよ。明日の出発前には。書いてゼファーさんに渡します。陛下にも宜しくお伝え下さい」

「それでいい。最初からそう言え!」

はぁ。ホント短気だなぁ。ここは甘えるか。

「はい。すんませんでしたー」

「生意気な口を叩きおってからに。
それとだ。我が邸内に、君らの家を造る。お前に拒否権は無い!フィーネ嬢の許可は取り、カメノスは捻じ伏せた」

あの本棟から南西方面の更地か。何を建てるんだろうと気にはなってた。

「あの、南西の更地ですか?」
「そうだ」

何このツンデレ。ここで反論しても怒るしな…。
もう着いちゃうし。

「大変有り難く…。でもあれは広すぎです」
「拒否権は無い!断じて無い!」


そんな隣で2人は。
「さっきと逆だな」
「あぁ、ざまー見ろだ」
などと笑っていた。

はぁ…。




---------------

カメノス邸前に到着するなり、俺だけ宴会会場となる別館の大広間に強制連行された。

開始予定前にも関わらず、会場には既に結構な人数が集まっていた。

案内されるまま、上座の特別席に座らされた。

なん、だと…。

俺の左隣には、空き席が1つ。


戸惑いを隠せない俺の前に、カメノスとペルシェさん。

「今日の主役は君だ。存分にそこで楽しめ」
「主賓は動かず。動かれますと、挨拶出来ない方が出てしまいますので。ご了承を」

ここでも俺の拒否権は、遠くへ出張したらしい。
もうどうでもいいや。

「解りました。甘んじて。お受けします。全然、
納得出来ませんが、お受けします」


遅れて会場入りしたフィーネも。クワンを肩に乗せたまま固まる。

「え…?ちょっと、ペルシェさん。ここまでとは聞いてないよぉ」
「言ってませんもの」

そんな遣り取りをしていた。

渋々俺の隣に着席。
クワンティは後方に設置された宿り木に留まった。

記憶してないお客を一気に総なめにする積もりだ。
これは邪魔をしてはいけない。

いけないのだが。


「これって…詰り?」
「私たちの披露宴パーティー?」

「その様に捉えられても構いませんよ。
あ、正装やドレスに着替える必要はありません。皆様気軽な服装でと、父から発せられておりますので」

ペルシェさんの隣で、カメノスがどうだ!と言う顔で笑ってやがる。


単なる宴会を頼んだ筈だった。どうしてだ!
頼む人の選択を誤ったようだ。


「こ、こうなったら受けてやるぜ。食事も一杯食べて、ムシャムシャしながら応答してやるぞ」
「お、おぉ…」


そうこうしている内に、多くの円卓に料理や酒やソフトドリンクが続々と運ばれセットされて行く。

立食形式だな。



こうして、俺たちに対するプチサプライズパーティーが始まった。

初手。ゴンザ、ライラ、ニーダ。

ゴンザから。
「ちょっと遅いが結婚おめでとう。俺たちも、落着いたら小さくやるから。必ず来いよ」

ライラ。
「ちょっと。それは私から言う予定だったのに…。
仕方ない。おめでとう御座います、お二人共」

ニーダ。
「おめでとう御座います。
お二人の正装とドレス姿を拝見出来ないのは残念ですが何時か機会があれば、是非呼んで下さい」

「今の所3次会は予定にないけど。開くなら必ず呼ぶよ。
ゴンザさんとライラさんの結婚式か…。行けるように努力します!」
「私も。間に合うように頑張る。ニーダちゃんは身体に気を付けて。私のドレス姿なんて大した事ないから。
あんまり期待しないで」

「大した事がないなんて…。
そのお言葉は信じられません。

助けて頂いたこの命。無駄にはしません。赤の他人にいいようにされるなんて。私は絶対に勝ってみせます」
強い意志を感じる眼差しだ。

「気負わずに。今日は友達沢山作って帰れよ」
「無理せず。頑張って。私たちも何か策が見付かれば、必ず駆け付けるから」

「はい!」

最後にライラ。
「後ろがじゃんじゃん控えてますので。私たちはこれで。
私とゴンザは彼女を女子寮に送らないといけないので。多分早めに抜けます。ではまた」


続いてメメット。

「おめでとう。隊の今後の方向性も大筋決まりだ。
盆暗な俺をここまで引っ張り上げてくれて。感謝以外に言葉が見付からねえよ」

「メメットさんは俺たち2人の命の恩人です。そのお返しなら、こんなの礼にもなりません」
「そうですよ」

「ハハッ。長くなるから、そう言う事にしといてやるよ。
馬鹿息子の情報は、少しは役に立ったか」

「それはもうとても。あいつの苦虫噛み倒した顔。見せて遣りたかったですよ」

「そいつは残念だが。俺は死んでも王族貴族の晩餐会なんざ行かねえわ」

軽く笑い合って、メメットは別のテーブルに向かった。


次はメルシャン様。

「この度は御目出度う御座います。
私たちもまだ確定ではありませんが、来月後半に国内挙式を計画中です」

「有り難う御座います。まさか、俺たちに合わせて…」
「え?嘘!」

「それ以外に何か?救国の英雄に感謝をしないで、何が次席ですか。メイザーが文句の一言でも告げたなら、私から縁切りさせて頂きます。個人的にもフィーネさんには是非来て頂きたいですし」

「必ず行きます。…北の動き次第ですが」
「ご招待には感謝しますが。ここまで来て破談だけは止めて欲しいですね」

「冗談ですよ。本当に言われたら…、考えます。
フィーネさんのドレス姿も楽しみにしていますよ」

「高尚な場のマナーには不慣れなもので。粗相をしたらごめんなさい」
「フィーネさんに文句を言う王族が居るなら、是非会いたいものですわ」

ウフフと笑うメルシャン様も素敵です。

「それはそうと。お姉さんに勝手に仕事を依頼してしまって済みませんでした」

「その事でしたら、どうかお気になさらず。お二人に関係なく。あの問題の指示は、遅かれ下っていました。
あの人もああ見えてしぶとい人です。そう簡単には倒れませんよ」

「話だけでも聞いて下さい!って半泣きで縋られた時は正直どうかと思いましたよ」
「そうよねぇ」

「それはいけませんわね…。帰って来たら、皆で問い詰めましょうか」

朗らかに笑ってメルシャン様は、付き人を引き連れて場を離れた。

ちょっと目が死んでた。

「ど、どうしよ。俺余計な事言ったかな」
「ま、まあ…。許容範囲じゃない?」


次が来る前に急いで料理を口に放り込んだ。
ゆっくり食わせろや!


しかし間髪入れずに奇襲してきた、ソプランとアローマ。
アローマさんが腕を引いてるのに、ソプランが強引に。

「順番なんてクジで決めたんだろ。ならさっさと済ました方がいい」

クジだったんかーい。
何か順番が可笑しいと思ったら。

「済みません。本当に済みません。
紹介が遅れました、ソプラン様の隣を勝ち取りましたアローマと申します。

本日は、真に御目出度きこと。当代様に仕える従者の身分でありながら。スターレン様とフィーネ様に直接お話出来るこの光栄。生涯わ」

「あー固い固い。それは止めましょう。ロロシュさんの所に半居候させて貰ってるのはこちらです」
「お顔はよく拝見してます。もっと気軽に声を掛けて貰っていいんですよ。寧ろそうして欲しいです。
私は同性のお友達が少ないので。今度ゆっくりと」

「そ、そんな…。私の様な下民風情が恐れ多い。…ですが敢えて、頑張ってお声掛けしたいと思います」

「なぁ。こいつ固いだろ。まあそこがいいとこなんだが」

惚気始めたぞこいつら。

「やめっ!止めて下さい。
ソプラン様こそ!顔合わせの段階で、私を含め皆さんの前で「俺は女よりも金だ」なんて言っておきながら。それを今では暇さえあれば、私の後ろをくっついて」

「ば、馬鹿!こいつらの前でバラすな!」

それを聞かされ、俺たちは何と答えるのが正解なのか。

「よ、良かったですね。上手く行ってるみたいで」
「仲介した甲斐がありました。良かったですね」

一頻りイチャついてどっかに消えた。

ニヒルな金の亡者は何処行った!!


次のセルダさんと、キャライさんの話は重要だった。

「す、スターレン様!ほ、本日はぁッ」

セルダさんが有り得ないとこで噛んで咽せていた。

「もう。大丈夫ですか」
セルダさんの背中を摩りながらキャライさん。
「本日は御目出度う御座います。子供たちは別室で、レーラさんの所の子供たちと一緒に遊ばしております。
乳母の経験豊富な侍女を付けておりますのでご安心を。

今日はセルダからどうしても話しておきたい事があると」

咽びから復活したセルダ。
「御目出度う御座います。
さ、最近になり、スターレン様の素性をメメットから聞きまして!これまでのご無礼を、何とかお許しいた」

「止め止め!それは無しで。同じ隊の傘下のメンバーですから。ここでは俺も立派な平民です。大丈夫です!しっかりして下さい」
今にも倒れそうだ。

「で、では…。お二人への感謝の弁は端折ります。
単刀直入に。お二人がご旅行から戻られた後、マッハリアへ向かわれるとのこと。御出立されるその前に、どうしてもお伝えしておきたい事がありますので。
どうか、そのお時間を設けて頂きたく」

何の話だろう。

「それは、あちら側の話ですか」

「はい。私の所属していたバギンズ商会に纏わる件で。
万の敵にナイフを投げる程度ではありますが。僅かにお役に立てるかも知れません。あちらに居た頃の情報と、お渡ししたい物があります。詳細はその時節に」

「解りました。必ず伺うようにします」
「それはそうと。今日は宴会です。楽しく隊のメンバーと他の人とも交流して下さいね。ロロシュさんとかカメノスさんとか、怖ーい人たちも居ますけど」

「は…ひゃい」
今頃になって周りの顔ぶれに顔を青くしていた。

「ではまた後日に」

そんな震え足のセルダさんを、キャライさんが見事に持ち帰って行った。

これはもう落ちてるな。

「どんな話かな」
「家名を商会名にしてるなら。多分、一族と親類に関わる事かも。
バギンズ商会の名前は、俺の記憶にはないな」
「ふむ」


隙を突いてご飯再開。


次はトームとレーラさんが来て、世間話とトーム家の隣近所にセルダ一家の住居を構えるとの話を聞いた。

何でも、先を見越して。
関係する家族を出来るだけ固めて、防衛し易くするのを兼ね、カメノス商団から(護衛兼)お手伝いさんと、子供たちの教育係を派遣してくれる話が進んでいるらしい。

これにはフィーネが大きく関わっていた。

「やるじゃんフィーネ」
「スタン程、全体は見切れないけど。やっぱり心残りは出来るだけ無くしたいの」

そうだよな。自分の手で守れなくなるもんな。

絶望的にキスしたい衝動に駆られたが、人目と口端が汚いのでグッと堪えた。


次はシュルツがロロシュ氏の手を引いてやって来た。

「御目出度う御座います!先程、御爺様から聞きました。
お二人が邸内に居を構えるとか。
本心で言えば。何処にも行って欲しくないです。
しかしそれは無理だと承知してます。

でも居られる時は。僅かな時間でも。私と遊んで下さい。

なるべく…その。夜のお邪魔はしませんので!」
最後は早口で捲った。

…何処で覚えたんだーーー。
少女は大人への階段を着実に登っていらっしゃる。

「夜は兎も角。大歓迎よ」
フィーネさん大人!

「か、歓迎するよ。程々にな」


ロロシュ氏は何も語らず。
さっき話したばかりだからな!


一通り終わったかと思わせておいて。

独身メンバーのお相手紹介タイム。

遊び人ヒレッツとケッペラは、自分より年下の若手。
ホントかどうかは実に疑わしいが、清い交際を続けているってさ。

メレスは同年代女性。本能的に姉御肌タイプが好みぽい。

カーネギは少し上の、物静かで落着いた女性。

何で年齢が解るかって?
それは自己紹介で頼みもしてないのに、教えてくれたからです!こっちからは聞いてないよ。


モーラスも、改めてペルシェさんと挨拶しに来てくれた。

そのラッシュが続いた後に、ムルシュが1人の令嬢を連れてやって来た。

その女性の顔には見覚えがあった。

「あーあなたがムルシュさんの。済みません、昼食会では冷たい態度を取ってしまって」
「誰なの?」
「あいつとの交渉前でピリピリしてた時に、挨拶に来てくれた人なんだけど。少し雑に対応しちゃってさ」

「いえいえ。その節は。本日は御目出度う御座います。
改めまして。クインザの派閥。侯爵家次女、マリーシャと申します」

「今日は挨拶だけだと言っただろ。余計な話は加えるな」

敵対派閥の令嬢さんだったか。
ムルシュがちょっと怒ってる。

「大丈夫です。スターレン様は心の広い御方。私などの小石に躓いたりはしませんわ」

「まあ喧嘩しないで。過ぎた話です。過去は水に流しましょう。それでムルシュさんは、高家の令嬢様とどうやって知り合いに?」

「昔個人的に、この娘の主人の護衛仕事を受けたことがあってな。その繋がりで。

かなり長い付き合いだが。先月まで手も握らせてくれなかったのに。お前の名前を口に出した途端に豹変した」

「人聞きが悪いですわ。清い交際を続けていたのです。

それはそうと。敵対派閥とは言え、クインザが大変なご迷惑をお掛けしたそうで。その謝罪にと。

信じて頂けるかどうかは解りませんが。
当家自体は何事も関わっておりません。なのに!
あのクインザは!私とムルシュの繋がりを知って、父を罵倒した挙句。派閥衰退の責の一部を、当家に押し付けました。父も私を叱責して。
何の事やら知らぬ私は、ムルシュに問い。初めてスターレン様の存在を知りました。

私はもう頭に来てしまって、近々出家してやろうと思いムルシュとの縁を受ける決意を固めた次第です。

先月では既に時悪く。一度延期にはなりましたが。

私の決意は変わりません。どうかそのご許可をスターレン様に頂きたく思い、本日おめおめとここへ参りました」

「最近はずっとこれなんだ。
スターレンはもう関係ないだろと何度言っても…。
どうしても、お前の許しが欲しいそうだ」

話は見えてきたけど。

「あの男そんな酷い奴だったんだ。ヘラヘラして薄気味悪いとは思ってたけど。スタン、許してあげれば?」

「いやーえーっと。許すも何も。あんな雑魚。端から相手にもしてませんし。関わってないなら。ドーンと嫁入りしちゃって下さい。許します!」

「ク…クインザが、雑魚…。素晴らしいですわ!
感激しました!」
テンション高いし、声大きい。

「さぁムルシュ。ご許可は得ましたわ。明日から…。
いいえ今夜から!この身一つで宅に参ります。引き取り遊ばせこの私を!」

「ちょ、落ち着け。マリーシャ。人前だ。
何ならスターレンの前だ。はしたない事を言えば、後悔するのはお前だぞ」

マリーシャさんは硬直。
「………」
硬直からの。
「申し訳ありません。余りの嬉しさと感激で。少々自分を見失っておりました」

「良かった。落着いて下さい。出家にしろ何にしろ。
多少の荷物は持って出た方がいいと思いますよ。今後も何かと入り用だと思いまっし」

「はい…そうさせて頂きます…」
テンションだだ下がりだな。

「騒がせてすまんな。二人共、今日は御目出度う」

「「いえいえ~」」

やっとマリーシャさんは引き取られた。


「何だったのかしら。今の時間」
「さぁ…」

「もう終わったよね。やっと落着いて食べられる」
「そうだね。明日のお別れ言う人ももう居ないし。
明日こそ。さくっと旅行に出発しよう」

「そうしよー」



しかし、ここから怒濤のリターンが始まった。

ご飯…冷めちゃったよ…。
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