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第20話 下準備

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商売や冒険。どんな仕事にも準備は必要。
準備を怠ると、後々に大きな失敗や災いを呼ぶ。

予習や鍛錬も同じ。成功には欠かせないプロセス。

マッサラから無事に戻った日の翌日午前。

「ケッペラさんだけ出張中ですが。皆さんに集まって頂ける機会も限られるんで。ここで皆さんに紹介したい人が居ます!心の準備はいいですか?」

不満顔のノイツェ。
「勿体振らないでサッサと教え給え。気軽に私まで何度も呼ばれては困るのだがね。
何の為にライラを付けているのか…」
「そんな事言って。きっと後悔しますよ。カモン!ロイドちゃん」

メメット商隊の工房事務所の2階。
ケッペラを抜いたメメット隊のメンバーと、ノイツェとライラを呼び出して。

自分とフィーネの間の空間に手を差し出す。

具現化するロイド。
深紅のロングドレスを身に纏い、背には白銀の翼を携え、手足には今朝方急造した白革のグローブとブーツ。
黄金色の金髪。いつの間に…。
「私とておしゃれ位しますよ」
何も無い空間から、彼女は俺の手を取り降り立った。

「お初にお目に掛かります。ロイドと申します。
皆様の事はスターレンの目耳を通して何時も拝見しております故。ご紹介は結構です」
久々に耳で聞く、ロイドの澄んだ声。

全員眼を全開で口をポカンとしている。
「久し振り。フィーネが、どうしても会わせろって聞かなくてさ」
「何でも人の所為にしてはいけませんよ」

「私は…」
「て、天使様…」
「マジかよ…」
「ゴンザ。俺は夢でも見ているのか」
「知らん…」

俺の手を離れ、ロイドはフィーネの後ろに立ち、彼女の両肩に手を置いた。
「スターレンにベタベタ触れると、お怒りでしょうから。
少しの間失礼します。居られる間だけ、フィーネ様の魔力を使わせて頂きますね」
具現化の依代に彼女の魔力を使う。自分の力を温存しつつ長く居られる様に。
「え?えぇ…。ど、どうぞ」

「予定外の具現化ですので。答えられる質問は一つとさせて頂きます。代表でノイツェ様」
「え!?ど、どうする…。ライラ君!」
「わ、私に振らないで下さい。ご指名はノイツェです!しっかりして下さい」
流石のノイツェも思考が付いて行かない様子。

「で、では…。ロイド様は、何方の神の御使いなのでしょうか」

「答えから申しますと、私は何方の神にも属してはおりません。ペリニャート様とポセラニウス様ともお話は出来ますが、下僕ではありません。個別の存在とお考えを。
飽くまで私はスターレンの管理者。そして仲介役。
全ての人間の味方でもありませんし、私が居るから助けて貰えるとのお考えはお捨て下さい。皆様が神と呼ぶ存在も人間だけでも信者だけでもなく、万物を見守る存在。
見方を変えれば、敵にも味方にも成り得ます」

「神に捧げる祈りは無意味だと…」
「祈りは願い。願えば人は動く。全ての祈りは神が叶えるのではなく、人それぞれが数多の選択をした結果。達成される事象。或はそれが成就。
叶わぬからと。悲劇が起きたからと。全てを神に擦り付けてはいけないと、私は思います。
お時間が来た様です。特別な効果は在りませんが、記念にこれをフィーネ様へ贈ります」
白銀の羽根の1つを抜き取り、フィーネに握らせた。

ロイドはフィーネの頭を一撫でした後、ふわりと消えた。


「…手品か。これは幻だと言ってくれ、スターレン君!」

「落着いて下さい、ノイツェさん。受け入れられない気持ちは良く解ります。俺も最初はそうでした。
この場に居る皆さんには関係が無い話です。ロイドの具現化も、真の魔王の復活も数世代先の話。
今を生きる人々には関係が在りません。全員漏れなく生きてはいないんですから。忘れてしまうのが一番です」

「あんな…、いや失礼。天使様を見せられて、はいそうですかと忘れられる訳が無いだろ」
ゴンザも半信半疑から抜けられてない。

メメットがゴンザを遮る。
「まぁいいじゃねえかよ。普通に生きてりゃ絶対に会えない御使いさんに会えたんだ。それだけで儲けもんだろ。
あー握手くらいして貰えば良かったなぁってな具合だ。
俺から、質問していいかスターレン」
「どうぞ」

「おめえいったい何処まで行って何をする気なんだ」

「今から約150年後に復活する魔王を倒すか、消滅させます。勇者が居たなら勇者に頼み。人類が滅亡していたなら俺自身が魔王の身体を乗っ取ります」

一頻り豪快に笑い飛ばした後。
「んでよ。今の俺たちに何が出来る。王妃打倒まででいいのかい」
「打倒は勿論ですが。ご迷惑でなければ、南大陸の情報を息子さんに頼んで入手して頂きたいです。これ以上関わりの無い人まで巻き込む積もりは無いので、現状で掴んでいる範囲内で」

「解った。それとなく聞いてみる。返事が返って来るかも疑わしいがな」

「お願いします。ノイツェさんにも頼みが在るんですが」
「何かね」

「この中央大陸、西方三国の動きを知りたいです。どうして西の大陸への進出を取り止めたのかと、今現在の戦力比がどの程度なのかを」
「うむ。他国の情報なら堂々と集めて見せよう。…しかし寺院に預けられたあの子はどうする」

「あの子ですか…。難しいですね。敵か味方か全く判別出来ない。彼は伝記や冒険譚を読みたがっていました。
幾つか見繕って、中にベルエイガの紀伝を混ぜましょう。
ひょっとしたら何かを思い出す切っ掛けになるかも」
「それは名案だ。書物はこちらで用意しよう」


終わったとばかりにトームが席を立って伸びをした。
「あーとんでもなくでかい話に巻き込まれちまったぜ。だがまぁ、これぞ冒険者って感じだよな」
頷くメメット隊の面々。中でもゴンザは。
「確かにな…。取り乱して済まなかった。これ以上何を聞いても驚くまいと決めていたが、軽々と越えられたよ。もう何も無いだろうな」

フィーネが悪戯顔で。
「残念ですがまだまだ在りますよー。取って置きが」
「ちょっと、余計な事は言わないでって」

メメットがニヤリと。
「ケッペラには悪いが、明日は完全休業とする。こうなったらとことん聞いてやる。戻って来た金とスターレンの小遣いでパーッとやるぞお前ら!」
「おぉ!」
いい雰囲気で良かった。もう諦めたって感じかな。
「俺は下戸だ。参加はするが、舐める程度で雛の所へ行くとしよう」
面倒掛けますムルシュさん。

「私も参加したいのですが…」
「ライラさんなら大歓迎だよ。女性がフィーネ一人だと…重傷者が出そうだから」
「人聞きの悪い。私もそんなに飲まないわよ。レーラさんの所にも行きたいし」
飲みはするんだ。


「待ってくれ君たち。そんな話を外でされても困る。何処で行う積もりなのだね」
「何処でってここでやるに決まってるだろ、ノイちゃん」
「ノイちゃ…。ま、まぁいいとして。場は用意する。とは言え先日、挙式の日に使った屋敷。あそこは私の別宅だ。
地下蔵には色々とコレクションも在る。特別に披露して見せよう」
「ノイツェ様の秘蔵の品が遂に見られる…」
ライラが別目線の笑顔を浮べてる。

「ノイちゃんも来るの?」
「ノ…もういいわ!私の屋敷で主不在の宴を催す筈が無いだろう。当然私も参加する。
ライラ君。宮に戻り、残務を蹴散らすぞ」
「はい!全力で片付けましょう」


懐から取り出した鍵を机の上に置いた。
あの懐は四次元BOXかいな。
「屋敷の鍵だ。地下以外は好きに使ってくれて構わない。汚したら掃除はして貰うぞ」
「ノイちゃん太っ腹。少し厨房借りますね。幾つか試作品作ってみたいんで」
「それは楽しみだ。存分に使ってくれ給え。ワイン以外食材の備蓄は無いからその様に」

沈静化に向かい団円を迎えようとしていた場が、次にゴンザが口にした言葉で混乱状態に戻された。
「フィーネ嬢。解散する前に、その羽根に触れさせては貰えないだろうか」
「少しだけですよ。余りベタベタ触らないで下さいね」

そこから始まる俺も私もの狂乱は、俺も含めた全員の正座で幕を閉じた。なんでや。
「節操無さ過ぎ。後で順番に触らせてあげるって言ってるでしょ!匂い嗅ぐとか有り得ないし!」
「はい…、済みません…」

「スターレンはこの混乱を招いた罰として」
「ハハッ!何なりと」


早めの夕食の買い出しの後。
お摘まみや料理の準備はそこそこに、お風呂の準備。
人の家の一番風呂を夫婦で頂いた。頂いちゃった♡

お互いの背中を流し合い、背中合わせで湯船に浸かる。
「なぁ。これって罰になってないんじゃ」
「小さい事つべこべ言うな。ずっとこうしたかった。嫌なら先に上がれば」
見える真っ赤な横顔。追っても横を向かれる始末。
「それは全力でお断りだけど」
「ならいいじゃない」

大きな風呂付きの家屋は、いつか欲しいねとよく話はしていた。それが急遽叶った。
「無理すれば買えなくはない。でも今はなぁ」
「解ってる。早く南行きたいねー」
「だね」
今の問題を解決し、南大陸で拠点を見付けたら。
そんな話をして向かい合い、顔を近付けたその時。
「ライラ!問答無用で入ります!」

「ちょ…」何事!俺居るって。

こちらの戸惑いは余所に、ライラは堂々と素っ裸で前も隠さず入って来た…。我が妻の目隠しナイスです。
「何ですかライラさん!夫婦水入らずの邪魔するの!」

「お邪魔はしませんよ。この屋敷の風呂に有り付ける機会は絶対に無いので逃したくないだけです。居ない者として接して下さい」
「そう言う事じゃなくて。俺の方が気を遣うし」

「ライラさん恥ずかしくないの?」
「恥ずかしい?軍属の兵舎では男女の区分けなど皆無。これが普通なので、特には。慣れですね。
フィーネさんよりも数段劣る貧素な身体で、スターレン様の欲情を買えるなら。逆に僥倖」
様って急に。フィーネの手がピクリと震える。
「冗談ですよ!フィーネさん。殺気を鎮めて下さい!
スターレン様の言葉を一言一句聞き漏らすなとのお達しです。お二人の後では聞き漏らしてしまいます。どうか切にご容赦を」
言いつつガシガシ身体を洗い流す音が聞こえます。

「ふぃー。生き返りますなぁ」あんたおっさんかよ。

フィーネの隣に浸かるライラ。俺だけが横を向いて天井近い小窓を眺める。
「それにしても。逃した三人の残党は、本当に追わなくても良いのですか」
「普通に話進めないで貰えます?」

「いい加減に諦めて下さい、フィーネさん。素手でも武でも劣る相手なんですから」
「もう!知らない!フンッ」

「お邪魔をして申し訳ないとは思います。ですがどうしても確認しておきたくて。ノイツェの耳に入るといけない事だと伏せている次第で」
「大体言わんとする事は解りました。逃げた3人の素性は知れてます。
ニックマン、ギョザ、シュマインの3人。
北の渓谷でも集落でも見掛けました。各所への伝達が奴らの仕事っぽいですね。
あいつらは顔を隠して油断してるみたいですが、俺に偽装は通用しません。まだ何か仕掛けてくる積もりなら、必ず王都に来る。本当の黒幕を引き連れて」
「敢えて泳がせたと言う訳ですね。覚えました。ノイツェに報告する前に個人でも調べてみます。因みに何処までの範囲で敵は潜んでいるとお考えですか?私も含め」

「ノイちゃんやライラさんまで裏切るなら、この国は救いようがない。希望的に嫌疑からは除外してます。ギルマートも掴み所の無い人だったんで、微妙。仮に軍部が敵側だったなら、フィーネと2人だけで逃亡しますんで」
「そのお言葉は胸に深く刻みます」

「この国の貴族系統は勿論把握してません。そちらはロロシュさんとノイちゃん頼みに成ります。
ギルドで言えばまだ会った事がない商業ギルドマスターも怪しいと言えば怪しい。こう成ると、コマネンティ以下の下位商団も怪しくなってくる。大きな派閥を持つ6番手までが特に。それ以下になると中規模で、ロロシュさんやカメノスさんが本気を出せば一瞬で潰れる。その点で言えば今は外してます」
「六位までが怪しい、と」

「まだ湯船で話すの?ちょっと逆上せそう」
「上がろっか。みんなが集まるまで深い話はしないから、ライラさんはゆっくりしてきなよ。で、反対向いててくれないかな」

「お気遣い痛み要ります」
ライラが壁を向いたのを見計らって湯船から上がった。
「おぉ、これは大変ご立派な」
何処見て褒めとんじゃ。

フィーネのデコピンを喰らい、一瞬で沈み掛けてギリギリ踏ん張っていた。よし、見ない様に見ない様に。

なんでこっちが気を遣わなくちゃいけないんだ。


湿った髪をタオルでターバン巻きにして。いざ料理に取り掛かる。
トーム家のとシュルツ邸への土産分も作らないといけないが、各自で好きな惣菜を持ち寄るので、そこまで大量に作る必要はない。
この世に保存用冷蔵庫は存在しない為、基本的に作るのは食べきり分。火力を微調整出来るコンロも無い。

蒔き釜の上に鍋を敷く。必然的に焼く、煮る、茹でる、揚げるのが一般的で、手の込んだ料理は巨大な厨房を持つ王宮や、設備と財を持つ邸宅でしか出来ない。

風呂に行く前に準備しておいた燻製。
今日はソーセージと片口鰯の干物を試作した。
ローズマリーやルッコラなどの香草類と杉チップで燻し揚げた力作。大蒜と黒胡椒が肉汁の香りと相まってスパイシーな仕上がりに成った。

桜チップも東大陸から取り寄せ可能との情報を得たが、晩餐会前の品評会までに間に合うかは微妙。
寧ろ絶望的。

アッテンハイムには無さそうとの事。フィーネは何を見たんだろう。やっぱ梅かな。
桜チップは最悪無くても構わないので、東から運搬される物に付いては注視してない。

南から来る鮮度の高い海産物。グルメ馬鹿を唸らせるには欠かせない。バジルソースにキャビアでも添えてやれば鼻を鳴らしてしゃぶり付く事受合い。

出来上がった燻製を編み台で焼き直すと、到着組とライラがリビングからキッチンに乱入して来た。
「美味しそうな香りですね」
「匂いだけで飲めそうだぜ」鼻を鳴らすトーム。

「後で出しますから。トーム家と雛宅への土産分も在るんで摘まみ食いは止めて」
「それ言われると手は出せねぇな」

焼きをフィーネに任せ、マヨネーズ作りに初トライ。
今朝採れ卵を10個。未使用の菜種油。岩塩と白胡椒。
それらをボールの中に入れ、泡立て器でシャカシャカ。
満遍なく馴染んだ所で、段階的に食酢を加えて行く。
料理に詳しい人からすれば、行程の順序が間違っているかもだが、何事も実践。スピード命。
適度な硬さが表れ出した所で味見と塩の最終調整。
見た目トロっと普通のドレッシングぽく仕上がったが、味はマヨにとても近い。
初手にしては上出来だ。

「お料理が得意な旦那様って羨ましいです。私も結婚したくなって来ました。誰か貰ってくれないかなぁ」
自分で作る気はないらしい。ライラの眼は何故かゴンザをロックオンしていた。本人全く気付かず。
「簡単そうに見えるが」

「見た通りに簡単ですよ。鮮度を保つ為に早さが命ですが誰にでも作れます。晩餐会以降ならメメットさんの事業に加えてもいいかも」

「そりゃありがてえ。なぁ早く食わせろよ。もうみんな集まってるぞ」
意外に集まるの早いなぁ。
「後一品作って持ってくんで、先に始めてていいですよ」
「主役のおめえが居ないんじゃ話に成らねえだろ」
俺主役だったんだ…。

蒸した合鴨の肝。そうフォアグラを濃い目の溜り醤油汁に漬け込み、屋外の中庭で寝かせた。
臭み抜きに牛乳で寝かせるのがベターだが、傷みやすく安価で手に入る、庶民の皆様の栄養源を奪い取り兼ねないので、今回はパス。別途市場の調査が必要。
このままだとあん肝に近付く。それを避ける為にトマトベースに合鴨肉の出汁スープを煮詰めたソースを添える。
後は肝本体を網焼きすれば完成。
「うー。良い匂い…」
焼いてる本人が言うんだから間違いない。

「素晴らしい。君も中々に食通だな」
遅れてキッチンを覗きに来たノイツェの腹の虫が盛大に鳴いていた。

テーブルに皿を並べ終り。
「どれも簡単な物ばかりですから。晩餐会まではくれぐれも内密にお願いします。味の感想はじゃんじゃん受付ますので。それでは」
「頂きまーす」祈り方も様々だ。


どうしても聞かせろとのリクエストに応え。
物語調で始めた昔話。
西の大陸に封印中の魔王アザゼルだった時の話。
前世でスタプだった時の苦労話。
今世でのマッハリアの内状と子供の頃の思い出話。
時々黙り込んだり、変な事を口走るのは大概ロイドちゃんと交渉してるからだと説明。
この世界に辿り着くまでの話だけは曖昧にした。


「漸く全てが繋がった気がするよ」
ノイツェの感想が印象的だった。

あれだけ飲みたがっていたメメットも、物語を聞き終わるまではワインには手を付けなかった。
「御伽話は御伽話だ。信じようが信じまいが。死んでる俺には関係ねえ。さーて今日は記憶を無くすまで飲むぞ」
「有り難う御座います。メメットさん」

「辛気くさい顔すんな。折角の料理と高級ワインが霞んじまうじゃねえかよ。直ぐに潰れるが、ここのどっかのベッドに放り込んでくれよな」
嫌そうな顔のメメット隊のメンバー。

「名残惜しいが。俺は雛の所へ行く。五人分の土産を包んでくれ」
席を立ったムルシュにモーラスが声を掛けた。
「それならこれを持って行くといい。昨日出来たばかりの歯磨き剤の試作品だ。子供向けに甘めの香料を加えて在る物」
「さっすがモーラスさん。期待通り」

「お主の知識に比べれば、どうと言う事はない。カメノス殿の工房でもそう。己の勉学の足無さが痛く身に染みた。トームの所のモーラの感想も欲しい。全て天然の素材で出来てはいるが、ミント剤の成分が強い。余り盛大に飲み込むと腹を下す」
「ありがてえ。飲ませない様に注意するよ」
「私が磨いてあげましょうか?」
「そりゃ助かる。レーラかお嬢でないと、大人しくしてくれねえからよぉ」


土産を持たせたムルシュを送り出し、小さな宴会も落着いて来た頃。ノイツェに地下室へ案内して貰った。
メンバーはノイツェ、ライラ、フィーネと自分の4人。
他のメメット隊の面々は。
「御伽話は満腹だ」と言い張って拒絶した。

「また嫌な事を思い出させるけど。でもどうしてもフィーネに確認して欲しいんだ」
「大丈夫。どんな時もあなたと一緒なら。平気よ」
胸が熱い。何気ない言葉でも嬉しいもんだ。


「ここには大した物は置いてはいない。曰く付きの品は全て城内の宝物庫に収められているからな」

「ここにノイちゃんが鑑定出来ない物って在りますか?」
フィーネと手を繋いで物色中。
「こんな場所でもデート気分ですか。そうですか。いいですねぇ新婚は」ライラの嫌みは完全無視をして。

「ここだと一番奥に並べてある三点だ。何れも何人かに素手で触らせたが、特別何も起きなかった」
既に実証済か。

「鏡は幾つか在るけど…。私が見た物は無いわ。似ている物も、脅威を感じる物も特に」
善かったのか悪かったのか。

「ロイドちゃんは何か感じる?」
「特には何も。神の加護を受けた物は無い様です」
「ロイドも特には見当たらないって言ってます」

「普通に見えない第三者とお話している様を見ると、不自然感が半端ないですね」
「その突っ込みは痛いよ。俺の胸が。どうせ二度手間になるんだし、親切心で声に出してるのにねぇ」

「ライラ」
「申し訳ありません。不要な発言。閉口します。天使様にも謝罪の弁を」
「気にしていませんよ」
「気にしてないってさ」

そんなこんなで。フィーネの手を離れ、3つの前に立つ。

勾玉、短剣、小振りな青銅鏡。
…三種の神器やないかーい。これ解るの俺だけ。
しかし何故ここに。日本古来の伝統が…。

一つ一つ触って確認。

名前:永久の勾玉(古代兵器)
名前:日和見の剣(古代兵器)
名前:英折の鏡(古代兵器)
名前から受けるイメージはあんまし善くはない。
特徴:三種を一度に装備すると、何かが起こる
そこが一番知りたいんじゃい。

「うーん。見たとこ意味不明。古代兵器と付いているので魔道具の類ではありますね。
因みにこれを3つ同時に装備すると、何かが起きるらしいです。その何かまでは明確に示されてない。三種同時にこの場に在ると言うのも何かの縁を感じますが。
不測の事態に陥って、打つ手が無くなった時。賭けに出たい時に使うと面白そう。
単品だと何の効果も無い代物です」

「同時装備か…。確かにそれは試してはいないな。何が起きるか解らないなら試せもしないがね。
それらは約百年前に、小規模の商隊が魔物の海を渡り切ったとの触込みでタイラントに寄贈された品。
賭けだとしたら、かなりの強運の持ち主だったのだろうな」
運も実力の内ってね。
運気上昇のアイテムでも別に持って…いたんだな。

「大変参考に成りました。半分冗談ですが150年後。
これが突然奪われても怒らないで下さいね」
「面白い事を言うな君は。何の確約も出来ないが、後世にも管理は怠るなと伝承しよう」

「もう暫く見て回っても?」
「好きなだけ見て行くといい。もしも。何かを持ち去るならこの品目リストにチェックを入れてくれ。後に紛失届けを発行する。それと、これを君に渡す」
メモ品目リストの束とポーチを一つ差し出された。

「これは真逆…」
「その想像通りの物だよ。どうするか悩んだが、君なら正しく使えるに違いない。人類の未来への投資だよ。
私で見た目の十倍は収納可能。補正無しなら、君も同じ程度だと。補正前後で収納状況がどう変化するのかは解らない。試した事が無いからな。
元から魔力の高いフィーネ嬢ならざっと四十倍は行けるかと思う。
大切にしてくれ給え」
四次元成らぬ、アイテムBOXが目の前に現われた。

「国をも動かせる品を、そんな簡単に」
「簡単ではない!こんな物しか君に託せない私を許せ。この国や世界の未来を頼んだぞ」
重いなぁ。でもそれだけの価値は在る物だ。

「ライラ。君が誰かと婚姻を結び子を設けるなら。この屋敷は丸ごと譲る。意味は解るな」
「ハッ!最善を尽くす所存です」

「変な質問ですけど。お二人は結婚されないんですか?」
フィーネのナイス質問が飛ぶ。
それは俺も前から聞きたかった。

2人共、不思議そうな顔をしている。
ああそうかと、ライラは手を俺の前に差し出した。
「どうぞ」
遠慮無く握手を交した。

名前:ライラ・キルメイ
特徴:バートハイト家系。ノイツェの姪子。

「成程。姪っ子さんでしたか」

「戦時に亡くなった兄の子供。これの母も身体が弱く数年前に病死した。その後引き取り、弟子として就かせた。
幾ら未来が掛かっているからと、身内に手を出す様な狂人にはさせんでくれ」
「早く言ってくれればいいのに…。言われて見れば、親子にも見えなくもないですね。頭の回転の早さといい、記憶力といい。家系でしたか」
フィーネがウンウン頷いた。

「何処でも身内に信頼を寄せたがる物だよ。軍部なら大抵の人間が知る所。だからと言って無闇に言い触らされても困るが」
「ノイツェは仕事面では厳しい上官です。病も討ち果たす肉体を手にしようと武を極める積もりで入隊したのに。
それを無理矢理文官に引っ張り込まれ…。
何故だか今は、この甲斐性無しの下に居ます」
微酔いのライラは毒舌だな。

「この性格と偏屈が祟ってね。齢四十を過ぎても独身街道驀地。私はこのまま国に身を捧ぐ決意だ。子孫繁栄はライラに期待する」

「そんな残念な事は言わないで下さいよ。
王妃撃退後に独身集めてお見合いパーティーを催す予定ですので。ライラさんも、今誰もお相手が居ないならどうですか」


自分で言っててどんどん話がデカく成ってるよ。
「自業自得です。責任を取って対処して下さい」
言われなくても。


「私は…。別に…」
「あれぇ。ゴンザさんも呼ぼうとしてたのになぁ。いいんですかぁ。誰かに取られちゃっても」
「!!!」
解り易い反応。
両手でがっしり離した手を握られた。かなり痛いっす。

「それはそうと。雛に付いてですが。ロロシュさんのお孫さんをカメノスさんと共同で匿っています。彼女も王妃に狙われている子なので、今は表には出せません」
「何となくは察してはいたが…」

「ノイちゃんには、ニーダの方を頼みます。彼は記憶の大半を失っては居ますが、全損はしていません。この微妙な時期に想定外の動きをされても困りますので」
「然るべき対処を約束しよう。何なら二番弟子として城に縛り付けてもいい」

「彼は勇者の行方を知り得る重要な人物。強制するのは避けて下さい」
「熟慮するとも」

「フィーネも彼には会わない方がいいと思う。惚れられちゃっても困るし」
「興味ないわ。この法螺吹き旦那で手が一杯よ」
照れるぜ。…褒められてない…。

「ここのスペアの鍵も君に渡す。好きな時に見に来ると良いだろう」
「何から何まで…」
隣のフィーネが食い気味に。
「お風呂も使っていいですか」

「後掃除を頼めるなら幾らでも。外部の人間を入れるのだけは勘弁して欲しい」
「わっかりました!」現金だねぇ。
嬉しそうで何より。


酒宴に戻ると、作った物の大半が無くなっていた。
最後の土産分をトームが、伸びる魔手を払い除け死守していた。
「やっと戻って来た。おせーよ!」
「すんません」

「お嬢。悪いが土産持って先に行ってくれ。今日は帰れる気がしない…。おいソプランてめえ!それはおれんだろうが!」
「早いもん勝ちだ。お嬢の分以外はな!」
荒れてるぅ。自宅に帰ろうかなぁ。

メメットは宣言通り突っ伏してるし。
「ここは私の家だ!どうして私が大切に残して置いたフォアグラが消えている…」
こりゃ収拾付かねぇわ。追加で何か作るかなぁ。

「脂肪分高そうな物ばかりだったから、私は満足よ。残り宜しかったらどうぞ」
「それは有り難い…」
「ヒャッハー」
ヒレッツが真っ先に飛び付いていた。
酔うと見境無いんだね。
「止め給えヒレッツ君!」


狂乱模様の宴会場からフィーネに各種土産を持たせ、玄関まで送り出した。
「飲み過ぎないでね」
「おっけー。フィーネも夜道は気を付けて」
「うん」
何も心配はしてないが。何気ない言葉でも一歩ずつ。

「酔い覚まし序でに俺が送ろう」
頭を軽く振ったゴンザが来た。
「私も行きます!」
完全にライラは狙いを絞ったな。
「すぐそこなのに…、大袈裟。キューピット役押し付けられるなんて」
「キューピット?何だそれは」
「さぁ?何だろうねー、ライラさん」
「さ、さぁ。私にもさっぱり」




---------------

「ごゆっくりー」

意味は良く解らなかったが、トーム家の玄関前で別れ際にフィーネ嬢から言われた言葉。

数件露店を巡り、馴染みの花屋で鈴蘭を買う。
「ゴンザさんの為だけに仕入れてるんですよ。こんな高い花誰も買ってくれないし」
店の主人の奥さんには毎回小言を言われてしまう。
「何時も悪いな。毎日買える訳でもない。無理に入荷しなくてもいいさ。無ければ他の花を買うまでだ」

「こっちも商売。色は付けて売ってるんだ。…心配しなくてもいいんだよぉ」
「最近は割と稼げる様になった。また寄らせて貰うよ」
何時もの銀貨の枚数に一枚加えた。
「毎度どうもね」

挨拶を交し店を出ると、まだライラは軒先に立っていた。
「帰らないのか?」
「ゴンザさんの方こそ」

「後で雛の所へ向かう。付いて来られると迷惑なんだが」
「でしたらその手前までご一緒します。お墓参りをされるのでしょう?」

「何でも調査済か。雑兵の素性を調べた所で、大して面白くもないだろうに」
「面白いだ何て失礼な。私たちは国を護る為に必死なのですよ。決して冗談半分では行いません」

「済まない。言い過ぎた様だ。気分を害したなら謝ろう」
害されたのは俺の方なんだが。

「いえこちらこそ。済みません。今日は何だか良く口が滑ります。お許しを」
「あんな御伽話を聞いた後ではな。お互い様だ」

「ご一緒しても宜しいでしょうか」
「好きにしろ。俺も好きにする。通い慣れた公道だ。誰も通ってはいけない道理も無い」

暫く無言で隣り合って歩いた。墓地までの道を。

「もう五年に成るとお聞きしました」
「誰からだ」
「メドベドからです」

「あいつも大概口が軽いな。折角に統率力は群を抜いているのに。だからこそ仲間には引き入れ難い」
「そうやって、士官の道を蹴られたのも人の所為にされますか?」

「君は…、いったい何が言いたいんだ。ノイツェ様の癖でも移ったのか」
「端を折り過ぎましたね。ノイツェに毒されているのは否定はしません。ですが。ゴンザさんは、過去に縛られ過ぎている」

「君に何の関係が在る。誰にも迷惑は掛けていない」
「そうでしょうか。同性からすると、いい加減ウンザリ。何時までも墓の前でメソメソ。そろそろ前を向いて」
「だから!それが君に何の関係が」
思わず怒鳴ってしまった。往来の人々にも遠目で視線を向けられた。

「真っ直ぐで嘘や演技が下手くそで。そんなあなたに惚れました。昨日や今日の想いではありません。
あなたの事を調べ始めてから。メドベドの隊に所属する前から。私も、アンネ様も同じです。
私たちはあの時、あなただけを見ていた」

「俺にいったいどうし」
「切り捨てないで下さい!どうか、たったの一言で終わらせないで下さい。
今直ぐにアンネ様を忘れてくれなどとは言いません。
責めて私も、その輪の中に加えて頂きたい」

「どうしろと…」
「考えて下さい。ご自分の将来を。
そして思い出して下さい。アンネ様も私も居た事を。
晩餐会が終わる頃。お返事をください。
それでは。任務と言う名の宴に戻ります。お二人の邪魔をする訳にも行きませんし」

言いたい事だけ言い放ち、ライラは去ってしまった。

「勝手な事を…」
女性は皆ああなのか。気が強く、我が儘で、奔放な。
しかし…本当に我が儘なのは、自分なのかも知れない。
ライラの言う通り、死後までアンネを縛り続けている。


通い慣れた道。管理人と挨拶を交し、彼女の墓の前で腰を落とした。
「何でも人の所為にするな、か。愚鈍な男には厳しい要求をするものだな。この世界は」
天使様やライラの言葉。示される物の違いはあれど、意図する形は同じ気がする。

立ち上がり帰路に振り返ると、そこには見慣れぬ人影が在った。気配を感じ取れぬとは、俺もいよいよだな。
多少の酔いは言い訳だ。

「貴方様はこちら側の人間だ。想い人の魂を呼び戻せる。そんな方法が在るとしたら」
深い黒衣のフードで表情は解らない。今まで聞いた事は無い声色だった。

揺れるな。正直に。
「面白い話だな。実証出来るならやって見せろ。後出しで眉唾だと知れても離反の言い訳にも成らん」

「では明日の正午。ここより北の外壁の外にお越し下さいな。お一人で」

「行こう。そっちも一人ではなかったら。どうなるかは解っているだろうな」
「用心深いお人だ。それでこそ…。では明日」
言い終わると男は姿を闇夜に消した。

今日は良く言い捨てられる日だ。




---------------

「と言う事があった」
升ゲームの駒を進めながら、相対する少女に話した。
「それを聞かされて。私はどうお答えすれば?あ、詰みですね」

「強いなぁ、シュルツは。一応女性の意見をだな」
「ゴンザ様が弱いだけかと」

隣でゲームを眺めていたムルシュ。
「自分はモテると自慢にも聞こえるが」

「そうですよ。先日には私からのお誘いを無下にお断りしておいて。よくぞ聞けますね」

離れた椅子に座るカメノス隊のリーダーも。
「お嬢ちゃんだけじゃなく、あの鮮血鬼にまで口説かれるってのはなぁ。同じ男として中々信じ難いぞ」
「ここには俺の味方は居ないのか…」

「お悩みなら、心の赴くままに動けば宜しいのでは」
「丸で人事だな」
「人事ですもの」それもそうだな。

銀貨を一枚ムルシュの前に差し置いた。
「お前…乗る積もりなのか」

「あんたも大概狂ってるぜ」
「主がああだとな。思考のネジも吹き飛ぶさ。明確な敵側からの接触だ。乗らない手は無いだろう」

シュルツが心配そうな眼差しを浮べる。
「危険なのですか?」
「恐らく俺は殺されるだろうな。俺たちは所詮は手駒。
スターレンの駒として死ねるなら本望だ」
「そんな、簡単に…」

「そうでなくとも。もしも反魂などが本物ならば、アンネに意見を聞いてみたい。素直に、会ってみたい」
「叔母様に…」

「スターレンにはどう伝える」
「明日の正午に北の外に呼び出されたとだけ伝えてくれ。正しい答えは主が導いてくれる。他力本願だが、正直俺にはどうしていいのか解らない。
すまんムルシュ。先に休ませてくれ」

「ああ、ゆっくり休め。明日。短気を起こされても釣れる物も釣れなくなるだろうしな」



あの様なゴンザを見るのも久し振りだ。
カメノス隊の残り三名も上の階で仮眠中。
どうしたものか。

「続きを遣るなら俺が代わろう」
「ムルシュ様はお強いので結構です。そろそろ私も休ませて貰います。それよりもゴンザ様は…」

「大丈夫だ。あいつはああ見えて心根は強い。武でも数人に囲まれた程度で簡単に死んだりはしない。寧ろ、単独の方が好きに暴れられる」
「そうですか。少し、安心しました」
「心配してくれるのか」

「当然です。私を何だと思っているのですか」
「これは失礼した」

人との交わりで、シュルツも本来の元気を取り戻しつつ在る。完全ではなさそうだが、女性が居ないとどうしても深くまでは探れない。

「明日。メメット隊は完全休業だ。ここもそろそろ潮時かも知れん。次の候補地の打診をしておいてくれ」
「了解だ。明日は俺らだけになるのか。こちらは仕事だから構わないが…」
「私は…」
一気に不安顔になった。無理も無い。

「案ずるな。スターレンとお嬢が明日の朝に迎えに来る。
カメノス隊には急で申し訳ないが、偽装の為に何人かここへ残して工作して欲しい。と言われた」
「それは有り難い。警護対象が空なら気が休まる」
連日張り詰めていては心労も溜まる一方。

丁度良い気分転換と休みにはなる。
シュルツに取っても。
「久々の外だ。南側には行けないだろうが、北部でも散策させて貰え。ゴンザの事は残りの俺たちで何とかする。心配は不要だ」
「はい。有り難う御座います」
作り笑いでも気丈に振舞う姿は、もう少女とは呼べない。

「寝る前にこれを使って歯を磨け」
「これは?」
「塩味のしない歯磨き剤だ」
粘剤の入った小さな銀箱を手渡した。
途端に綻ぶシュルツの顔。素直が一番だ。
「嬉しいです。塩はどうしても苦手で」
浮き足で洗面所に向かうシュルツを見届け、リビングに戻った。

「遂に出来たのか」
「試作品だそうだ。製品版の最終調整で広く意見が欲しいらしい。そっちは従業員割が利くだろうから、正規品を買ってくれ」

「内の団長ケチだからなぁ。臨時報酬に加えて貰うか」

明日の休暇は実質返上。婚姻申し込みの結果を聞きに行くのも後日。駆け引きをする積もりは毛頭無かったが、結果的にそう成ってしまった。今、敵に弱みを握られる訳には行かない。ここまで来たら、晩餐会終息後に行こう。
…断られるな、これは。

晩餐会まで二週半。無事に乗り切れないとは思ってはいたが、敵も手段を選んでいる余裕は無いと見られる。

だからと言って。敵も馬鹿な選択をするものだ。

相手の居なくなった升ゲーム。
チェイズと呼ばれるそれは。
追う者と追われる者で円周の十の升を使い、対角の配置から始める回し合い。詰め寄る移送ゲーム。
三歩進む札が二十。二歩札が二十。一歩札が五。
互いに最大四十手の持ち札。どれだけ終盤に三歩の札を残すかで勝敗が決まる。歩合しなければ流局。

果たして追い詰められているのは敵か主か。

思わず笑ってしまった俺にリーダーが肩を竦めた。
「かなりの窮地に思えるが、楽しんでる様にも見える」
「敵に同情してるだけだ。本物の化物を相手にしている自覚が皆無に見えてな。それが解った時が奴らの最後だ」

「ひぇー怖え怖え。お前も適当に休めよ。そっちの戦いには入れないからな」
「気遣い有り難い。座りながらでも仮眠するさ」

この国だけを見ているか、世界を見ているか。
在るのはその絶対的差。
升の中だけで踊っている内は、敵に勝機は無い。
敵が真に捨て身になった時が本当の勝負。
その時、俺たちはどれだけ主の有能な手駒に成り切れるかに掛かっている。
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