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第3章 大狼討伐戦
第68話 乱入
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武神。乱撃は烈火の如くに咲き乱れた。
拳を突き入れ、入れ替わりに薙ぐ。
藻掻く大狼の相手は2人だけ。それで充分だった。
纏う風さえ突き破る。逃げる事すら許さない。
背を見せれば尾を刻み、腹を見せれば抉り取る。
-痛いよ…-
声は幻。2人には関係が無かった。
一切を聞かず、一切の妥協もせず。
完膚無きまでに掴んだ勝利。
尾と肢体を粉砕した後は、国軍が人界で止めを刺した。
かに見えた。
ナイゾウは腕組みしながら見守り、アーチェは満足そうに剣を拭った。
「なんか、偉そう、じゃない?」
「気にするな。戦人には威厳も必要。全ては代え難い勝利の為に」
「勝利、か…」
「気に入らない?」
「勝った、のかな。実感が、湧かない」
「…私もだ」
-…もう怒ったぞ-
戦闘開始から数時間。
夜は、未だ明けず。それは白夜の様に。
再起動。大狼は死んではいなかった。
「軍兵共!下がれ」アーチェが剣を振り翳した。
ナイゾウが深く呼吸する。
より深く。より長く。目前の巨体を見据え。
歯の隙間から漏れ出す吐息。寒空の下。
蒸気。吐息は湯気として立ち上る。
一歩。ナイゾウが踏み込んだ先の道が開かれた。
「間に合いましたね。追撃。頭上にはご注意を!」
聞き覚えの無い誰かの声。それでも解る。
その優しき囁きが示す出来事を。
ナイゾウがフェンリルの胴元に潜り込み、地上から大狼の顎を正確に捉えた。
跳ね上がる首。僅かに揺れた頭部。
「みんな!誰も下に居ないでよ」
上空から。舞い降りる1人の影。
端から目撃した兵士たちは、それが人であると寸手認識出来なかった。
-スキル【豪撃】
並列スキル【粉砕】発動が確認されました。-
空気との摩擦で燃え上がる隕石。
ある者にはそう見えた。
誰かが召喚した燃える大岩。
ある者はそう感じた。
-単独シークレットスキル
【メテオインパクト】発動されました。-
流星は大狼の頭上に降り注いだ。
大きな鉄塊だったからこそ。
それを振るう人間が英雄の娘だったからこそ。
真炎は真髄を枯らせなかった。
大きな激突音。衝撃は頭上から顎下に抜け、大地に凹みを作った。
ナイゾウが寸前で衝撃の波形を読み切り、アーチェを担いで離脱。
衝撃波は拡散。熱風と冷気が混じり合い、周辺一帯は一瞬で霧が立ち籠めた。
霧の中から現われたのは、
一人の少女を抱えた英雄の姿。
「父様。恥ずかしい。降ろして」
「恥じる気概が在るなら、余り無茶はするな」
「はい…」
誰かがその姿を見て呟いた。
「英雄様だ。ゴルザ様が来たぞ」
頭を2つに割られた大狼。
二度目の復活は叶わなかった。
砦より南側の大狼は討たれた。
これにより南のルートが開通。物資運搬の流路が確保された。
砦より北側。東西にも。
大狼は二十を超えていた。
「今回は英雄に止めを奪われた。でも落胆する事は無いぞナイゾウ。狼はまだまだ居るからな」
「えー。もう後ろ、下がろうよ」
「喧しい!」
「ゴメン…」
この2人だけは、相変わらずだった。
-----
砦から発射される白球。
ルドラの千本ノック。手当たり次第から段々と精度を上げて行った。
供給源のタッチーがトスを続ける。
「はいっ」
「滾る。もっと来るのじゃ」
金属バットを振りかぶりながら、ルドラは満面の笑みを浮べていた。
在庫は有限。但し、そう簡単には無くならない。
白球の正体は、砂糖と岩塩を固めた物をスフィアでコーティングした球体。とても食べられた物ではない。
砦周辺に集まっていたフェンリルも、最初の内は喜び踊りながら食べていた。
毒には耐性を持っていても、片や食品。毒ではない。
だがそれは過剰摂取をしなければ。
永い悠久の時を生きられる大狼でも、たった数発で生涯摂取量を軽く凌駕した。
「前方4体、沈黙」
観測室のジェシカが思わず叫んだ。
アビは隣で青い顔をしていた。
「エッグい…」
数分も経過すれば、塩は腎臓を破壊。分解許容を越える糖分は全身の血管を硬化させた。
次に招いたのは腎不全と意識混濁。
フェンリルたちは、その場で蹲り動かなくなった。
「さてと。次に何が起こるんだか」
タッチーは上空のマップを見上げた。
最寄りの4匹は沈黙した。
西側の7匹は静止。こちらの様子を見ている。
北東に3匹。こいつらも監視要員。
東奥に居る10匹は固まって動かない。
北奥に残りの4匹。東奥か北奥か。
どちらかが本命。どちらかにリーダーが居る。
昏睡した4匹の動きを見た限り、ある程度の連携は取れていた。個別の独立性を持ちつつ、指揮者の指示には従う従順さ。犬種らしいっちゃそれまで。
推定ランクSSS以上。それ程の存在が。
不意にタッチーの両腕をキュリオと、戻ったジェシカが抑え込み、目の前でルドラがバットを構えていた。
「い、行かないって!」
「信用なりません」
「今日も寝ずの番だよ」
「どこじゃ?バットを叩き入れられたいのは」
信用してよ…。ルドラはバットを仕舞おうね。
何度もBOX発動を見ている内に、ルドラも似た様な亜空間を発動させた。
収納量は必要に応じた可変式。便利だが拡げると魔力消費も増えるらしい。
ルドラや魔王にしてみたら些細な消費。
ただ塵も積もればってね。いざとなれば、他の血肉や魔石を囓れば補充出来ちゃう。魔族特権が羨ましい。
「そういやルドラは何ともない?体調悪いとか、引っ張られる感覚とか」
「全く無いのぉ。最近ママが島を出たようじゃ。早く会いたいな」
母親を意識すると素が入る。同時に他からの影響もされないのかも。気の持ちよう?
「…ルドラ?今、ルシさんが。島出たって?」
「出たのぉ」嬉しそう。
親子の絆?魔族の絆?
聞かなくても、目的は一つしかない。
ルドラの所に来る。詰りここにやって来る。
なんか頭痛くなってきた。
軽いバカンス、ルドラの引き取り、参戦…は無いか。
敵対と混沌だけは止めて欲しい。
「ルシさんのご機嫌は?」
「頗る上機嫌じゃ。町の一つや二つ、軽く屠れる位にな」
キュリオが腕から離れ、両手でルドラの頬を抓った。
「ママさん。止められるよね?ルドラちゃん」
「痛い!冗談じゃ。私が無事なら暴れないって、約束してたでしょ!」
そんな口約束もしてた、気もしなくもない。
「ならよし。ルドラちゃんは良い子だね」
キュリオに抱き締められると、途端に大人しくなるんだよなぁ。不思議だ。
隣で空を見上げていたジェシカが呟いた。
「何者かが西から来ます」
「ルシさんじゃなくて?」
「この感覚は…。全く別物です」
「予想通りかぁ。少しだけ、残念かな」
寂しげに西の空を見上げるタッチーに対し、ジェシカは不安を感じた。
「何を、する積もりなの?」
「安心して。僕は前には出ないよ。今はまだ、ね」
インカムをON。全配信で語り掛けた。
「フウ。対空砲起動」
「本気なのね。コレがパクられたら、全部終わるのよ」
失敗したら何もかも終わる。
どうしても確認しておきたい事項。門藤の反応だ。
敵飛空挺に乗っているのが門藤なら。必ず何かリアクションを起こす。
一か八か。世界を救う為に、逆の布石を打つ。
取られたら詰み。
ガモウが乗っていた機体。それを消し飛ばした光線。
ヒントは受け取り、存在は定義された。
同じ物じゃなく、越える物を。
電磁砲。パルス波を更に湾曲させ、物質構造を原子レベルまで強制分離する殺戮兵器。
…そんな危険な物は造りません。
そもそも元世界でも実用化されてない技術。恐らく間違ってる可能性大な妄想だけで造れちゃったら、科学への冒涜でしょ。
雷、風、白黒魔石を織り交ぜただけの贋作です!
今自分が居る中央北側の第一塔。
砲台はその屋上に設置されている。
シート布を剥ぎ取ると、ガンメタシルバーの砲台が現われた。男子心を擽るねぇ。
フウ氏も徐々に男子趣味に毒されてきた。
最近では詳しくデザインを伝えなくても、構成と材料を渡すだけで部品作成しちゃうんだから。
肝の魔石抽出部品は勿論鍛冶で自作。
贋作はそこまでハードル高くなかった。
要は食い付くのが誰かって話。
「パクられる物ならそれまでさ」所詮その程度。
門藤機で試し打ち。
勿論当てる気は無い。一応何も話聞いてないんで。
位置はマップで丸分かり。
照準を空へと向けた。ある程度の損失を与えて、空から降ろすのが狙いだ。
初手は大きく外す。
稼働レバーを両手で握る。深呼吸。
夜空を切り裂く真っ白な光線。
出力はこないだ見た奴の半分程度。上々の仕上がり…。
レバーを手放し、腰が抜けた。たったの一発で。
4種共に得意分野じゃない弊害。
魔力の消費が桁違いだった。でも後一発は撃たないと。
立ち上がり、レバーを握り直す。
「気絶したらゴメン」
「少しは頼ってよ」キュリオが僕の左腕に手を添えた。
「何でも一人でやってしまうのは、正直どうかと」
ジェシカが右腕に。
「仕方が無いのぉ」ルドラが背中に負ぶさった。
これで消費は軽減される。ホッとした。
同時に燃え滾ってキタ。
内心背中以外は興奮してるのは置いといて。もう一発。
タッチーは興奮で忘れていた。
攻撃効果も上がってしまっている事を。
「いっけぇぇぇーーー」
放たれた極太の光線は、暗い夜空を照らし上げる光源となった。
「あ、あれ?」やっべぇ。
出してしまった物は戻せない。覆水盆に返らず。
水分無いけど。
「門藤先生!避けてーーー!!」
「何じゃ?滅したいのか、生かしたいのか?」
ルドラがタッチーの頭に顎を乗せて首を捻る。
どっちなんだろ…。猛省中。
-----
「第二波、来ます」
焦りも抑揚も無い声。落着いているな。
一度死人になると感情に乏しい。
乱入の時期を早まったか。もっと激化してからでも。
「空に上がってまで、不自由を感じるとはねぇ」
やるじゃねぇか、クソガキ共。
有り得ない光景の連続に、自分の乏しかった感情も生前の名残を呼び起こされた。
一発目は脅し。二発目は警告。
舟の先端が溶け消えた。
どの道、この状況では高速移動も迷彩も不可能。
姿を隠していてもこの損害。こちらの姿は丸見え。
頭上の地図の赤は大狼を示しているのか。
索敵魔術。通りで、王都で俺がしくじった訳だ。
逆に見れば、大狼からも容易に捕捉される。
アルバニルにしてはお粗末だ。だとすると、これはタッチー側の誰かの仕業。正気か。
「この舟は捨てる。大狼が居ない場所に着地する」
俺が舵を握っているので、指示を出すまでもないが。
強奪も残りは後二回。
最後の一度は確定として、他に必要性を感じるスキルは特に…。
相性を考える。
闇夜と奇術師は結合しなかった。強奪も個別スキルとして存在している。他の組み合わせの案内も出なかった。
俺の最上位の闇夜を進化させるには。
【白夜】【白夜叉】【陽炎】陰側に分類されるスキル。
対人、暗殺向きの群。
【真勇者】【巌窟王】等も惹かれるが、陽側と仮定するなら相性は最悪。
爺が欲を出し、不死系のスキルを奪おうと失敗した所を見ると。
不死系は奪えない、又は相手が複数スキル持ちだった事が要因だと推測。
真相は闇の中。笑えるな。
筆頭は単品スキル持ちの【白夜】【白夜叉】
1.異世界人ではない。
2.複数持ちではない。
3.闇夜と同分類。
取得時の弊害が、最も低いと考えられる。
最たる問題は、対象者が強く、多くの仲間に囲まれている事の方だ。
索敵能力にも優れているので迂闊に接近出来まい。
手持ちの兵士、大狼との乱戦に乗じれば、接触の機会は必ず訪れるだろう。
出来れば今のジェシカや英雄たちとは当たりたくない。
互いの手の内を知る相手。
知識としては使えるが、付け焼き刃の奇術では話にならない。魔力は魔石内蔵量が枯渇するまでの制限も在る。
会いたくなくとも、あの女が俺を見過ごすはずはない。
適わぬ願いだろう。
それよりも、モンドウの知識と記憶の中に在った3人目の神の名と、見た事もない異世界の女との関係が気に掛かった。
知らず操られたままだったら、ハーデス様のお邪魔をしていた所だ。モンドウめ。
やはり止めを刺して於くべきだった。
死んだ振りはお手の物。海に捨てたのは、我ながら軽率な行為と言えよう。
唯一、我々が有利な点。
大狼は、死人には殆ど興味を示さない点だ。
その点だけは、モンドウに感謝しないとな。
ヒカジたちは山脈北西部の空き地に降り、陣を張った。
拳を突き入れ、入れ替わりに薙ぐ。
藻掻く大狼の相手は2人だけ。それで充分だった。
纏う風さえ突き破る。逃げる事すら許さない。
背を見せれば尾を刻み、腹を見せれば抉り取る。
-痛いよ…-
声は幻。2人には関係が無かった。
一切を聞かず、一切の妥協もせず。
完膚無きまでに掴んだ勝利。
尾と肢体を粉砕した後は、国軍が人界で止めを刺した。
かに見えた。
ナイゾウは腕組みしながら見守り、アーチェは満足そうに剣を拭った。
「なんか、偉そう、じゃない?」
「気にするな。戦人には威厳も必要。全ては代え難い勝利の為に」
「勝利、か…」
「気に入らない?」
「勝った、のかな。実感が、湧かない」
「…私もだ」
-…もう怒ったぞ-
戦闘開始から数時間。
夜は、未だ明けず。それは白夜の様に。
再起動。大狼は死んではいなかった。
「軍兵共!下がれ」アーチェが剣を振り翳した。
ナイゾウが深く呼吸する。
より深く。より長く。目前の巨体を見据え。
歯の隙間から漏れ出す吐息。寒空の下。
蒸気。吐息は湯気として立ち上る。
一歩。ナイゾウが踏み込んだ先の道が開かれた。
「間に合いましたね。追撃。頭上にはご注意を!」
聞き覚えの無い誰かの声。それでも解る。
その優しき囁きが示す出来事を。
ナイゾウがフェンリルの胴元に潜り込み、地上から大狼の顎を正確に捉えた。
跳ね上がる首。僅かに揺れた頭部。
「みんな!誰も下に居ないでよ」
上空から。舞い降りる1人の影。
端から目撃した兵士たちは、それが人であると寸手認識出来なかった。
-スキル【豪撃】
並列スキル【粉砕】発動が確認されました。-
空気との摩擦で燃え上がる隕石。
ある者にはそう見えた。
誰かが召喚した燃える大岩。
ある者はそう感じた。
-単独シークレットスキル
【メテオインパクト】発動されました。-
流星は大狼の頭上に降り注いだ。
大きな鉄塊だったからこそ。
それを振るう人間が英雄の娘だったからこそ。
真炎は真髄を枯らせなかった。
大きな激突音。衝撃は頭上から顎下に抜け、大地に凹みを作った。
ナイゾウが寸前で衝撃の波形を読み切り、アーチェを担いで離脱。
衝撃波は拡散。熱風と冷気が混じり合い、周辺一帯は一瞬で霧が立ち籠めた。
霧の中から現われたのは、
一人の少女を抱えた英雄の姿。
「父様。恥ずかしい。降ろして」
「恥じる気概が在るなら、余り無茶はするな」
「はい…」
誰かがその姿を見て呟いた。
「英雄様だ。ゴルザ様が来たぞ」
頭を2つに割られた大狼。
二度目の復活は叶わなかった。
砦より南側の大狼は討たれた。
これにより南のルートが開通。物資運搬の流路が確保された。
砦より北側。東西にも。
大狼は二十を超えていた。
「今回は英雄に止めを奪われた。でも落胆する事は無いぞナイゾウ。狼はまだまだ居るからな」
「えー。もう後ろ、下がろうよ」
「喧しい!」
「ゴメン…」
この2人だけは、相変わらずだった。
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砦から発射される白球。
ルドラの千本ノック。手当たり次第から段々と精度を上げて行った。
供給源のタッチーがトスを続ける。
「はいっ」
「滾る。もっと来るのじゃ」
金属バットを振りかぶりながら、ルドラは満面の笑みを浮べていた。
在庫は有限。但し、そう簡単には無くならない。
白球の正体は、砂糖と岩塩を固めた物をスフィアでコーティングした球体。とても食べられた物ではない。
砦周辺に集まっていたフェンリルも、最初の内は喜び踊りながら食べていた。
毒には耐性を持っていても、片や食品。毒ではない。
だがそれは過剰摂取をしなければ。
永い悠久の時を生きられる大狼でも、たった数発で生涯摂取量を軽く凌駕した。
「前方4体、沈黙」
観測室のジェシカが思わず叫んだ。
アビは隣で青い顔をしていた。
「エッグい…」
数分も経過すれば、塩は腎臓を破壊。分解許容を越える糖分は全身の血管を硬化させた。
次に招いたのは腎不全と意識混濁。
フェンリルたちは、その場で蹲り動かなくなった。
「さてと。次に何が起こるんだか」
タッチーは上空のマップを見上げた。
最寄りの4匹は沈黙した。
西側の7匹は静止。こちらの様子を見ている。
北東に3匹。こいつらも監視要員。
東奥に居る10匹は固まって動かない。
北奥に残りの4匹。東奥か北奥か。
どちらかが本命。どちらかにリーダーが居る。
昏睡した4匹の動きを見た限り、ある程度の連携は取れていた。個別の独立性を持ちつつ、指揮者の指示には従う従順さ。犬種らしいっちゃそれまで。
推定ランクSSS以上。それ程の存在が。
不意にタッチーの両腕をキュリオと、戻ったジェシカが抑え込み、目の前でルドラがバットを構えていた。
「い、行かないって!」
「信用なりません」
「今日も寝ずの番だよ」
「どこじゃ?バットを叩き入れられたいのは」
信用してよ…。ルドラはバットを仕舞おうね。
何度もBOX発動を見ている内に、ルドラも似た様な亜空間を発動させた。
収納量は必要に応じた可変式。便利だが拡げると魔力消費も増えるらしい。
ルドラや魔王にしてみたら些細な消費。
ただ塵も積もればってね。いざとなれば、他の血肉や魔石を囓れば補充出来ちゃう。魔族特権が羨ましい。
「そういやルドラは何ともない?体調悪いとか、引っ張られる感覚とか」
「全く無いのぉ。最近ママが島を出たようじゃ。早く会いたいな」
母親を意識すると素が入る。同時に他からの影響もされないのかも。気の持ちよう?
「…ルドラ?今、ルシさんが。島出たって?」
「出たのぉ」嬉しそう。
親子の絆?魔族の絆?
聞かなくても、目的は一つしかない。
ルドラの所に来る。詰りここにやって来る。
なんか頭痛くなってきた。
軽いバカンス、ルドラの引き取り、参戦…は無いか。
敵対と混沌だけは止めて欲しい。
「ルシさんのご機嫌は?」
「頗る上機嫌じゃ。町の一つや二つ、軽く屠れる位にな」
キュリオが腕から離れ、両手でルドラの頬を抓った。
「ママさん。止められるよね?ルドラちゃん」
「痛い!冗談じゃ。私が無事なら暴れないって、約束してたでしょ!」
そんな口約束もしてた、気もしなくもない。
「ならよし。ルドラちゃんは良い子だね」
キュリオに抱き締められると、途端に大人しくなるんだよなぁ。不思議だ。
隣で空を見上げていたジェシカが呟いた。
「何者かが西から来ます」
「ルシさんじゃなくて?」
「この感覚は…。全く別物です」
「予想通りかぁ。少しだけ、残念かな」
寂しげに西の空を見上げるタッチーに対し、ジェシカは不安を感じた。
「何を、する積もりなの?」
「安心して。僕は前には出ないよ。今はまだ、ね」
インカムをON。全配信で語り掛けた。
「フウ。対空砲起動」
「本気なのね。コレがパクられたら、全部終わるのよ」
失敗したら何もかも終わる。
どうしても確認しておきたい事項。門藤の反応だ。
敵飛空挺に乗っているのが門藤なら。必ず何かリアクションを起こす。
一か八か。世界を救う為に、逆の布石を打つ。
取られたら詰み。
ガモウが乗っていた機体。それを消し飛ばした光線。
ヒントは受け取り、存在は定義された。
同じ物じゃなく、越える物を。
電磁砲。パルス波を更に湾曲させ、物質構造を原子レベルまで強制分離する殺戮兵器。
…そんな危険な物は造りません。
そもそも元世界でも実用化されてない技術。恐らく間違ってる可能性大な妄想だけで造れちゃったら、科学への冒涜でしょ。
雷、風、白黒魔石を織り交ぜただけの贋作です!
今自分が居る中央北側の第一塔。
砲台はその屋上に設置されている。
シート布を剥ぎ取ると、ガンメタシルバーの砲台が現われた。男子心を擽るねぇ。
フウ氏も徐々に男子趣味に毒されてきた。
最近では詳しくデザインを伝えなくても、構成と材料を渡すだけで部品作成しちゃうんだから。
肝の魔石抽出部品は勿論鍛冶で自作。
贋作はそこまでハードル高くなかった。
要は食い付くのが誰かって話。
「パクられる物ならそれまでさ」所詮その程度。
門藤機で試し打ち。
勿論当てる気は無い。一応何も話聞いてないんで。
位置はマップで丸分かり。
照準を空へと向けた。ある程度の損失を与えて、空から降ろすのが狙いだ。
初手は大きく外す。
稼働レバーを両手で握る。深呼吸。
夜空を切り裂く真っ白な光線。
出力はこないだ見た奴の半分程度。上々の仕上がり…。
レバーを手放し、腰が抜けた。たったの一発で。
4種共に得意分野じゃない弊害。
魔力の消費が桁違いだった。でも後一発は撃たないと。
立ち上がり、レバーを握り直す。
「気絶したらゴメン」
「少しは頼ってよ」キュリオが僕の左腕に手を添えた。
「何でも一人でやってしまうのは、正直どうかと」
ジェシカが右腕に。
「仕方が無いのぉ」ルドラが背中に負ぶさった。
これで消費は軽減される。ホッとした。
同時に燃え滾ってキタ。
内心背中以外は興奮してるのは置いといて。もう一発。
タッチーは興奮で忘れていた。
攻撃効果も上がってしまっている事を。
「いっけぇぇぇーーー」
放たれた極太の光線は、暗い夜空を照らし上げる光源となった。
「あ、あれ?」やっべぇ。
出してしまった物は戻せない。覆水盆に返らず。
水分無いけど。
「門藤先生!避けてーーー!!」
「何じゃ?滅したいのか、生かしたいのか?」
ルドラがタッチーの頭に顎を乗せて首を捻る。
どっちなんだろ…。猛省中。
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「第二波、来ます」
焦りも抑揚も無い声。落着いているな。
一度死人になると感情に乏しい。
乱入の時期を早まったか。もっと激化してからでも。
「空に上がってまで、不自由を感じるとはねぇ」
やるじゃねぇか、クソガキ共。
有り得ない光景の連続に、自分の乏しかった感情も生前の名残を呼び起こされた。
一発目は脅し。二発目は警告。
舟の先端が溶け消えた。
どの道、この状況では高速移動も迷彩も不可能。
姿を隠していてもこの損害。こちらの姿は丸見え。
頭上の地図の赤は大狼を示しているのか。
索敵魔術。通りで、王都で俺がしくじった訳だ。
逆に見れば、大狼からも容易に捕捉される。
アルバニルにしてはお粗末だ。だとすると、これはタッチー側の誰かの仕業。正気か。
「この舟は捨てる。大狼が居ない場所に着地する」
俺が舵を握っているので、指示を出すまでもないが。
強奪も残りは後二回。
最後の一度は確定として、他に必要性を感じるスキルは特に…。
相性を考える。
闇夜と奇術師は結合しなかった。強奪も個別スキルとして存在している。他の組み合わせの案内も出なかった。
俺の最上位の闇夜を進化させるには。
【白夜】【白夜叉】【陽炎】陰側に分類されるスキル。
対人、暗殺向きの群。
【真勇者】【巌窟王】等も惹かれるが、陽側と仮定するなら相性は最悪。
爺が欲を出し、不死系のスキルを奪おうと失敗した所を見ると。
不死系は奪えない、又は相手が複数スキル持ちだった事が要因だと推測。
真相は闇の中。笑えるな。
筆頭は単品スキル持ちの【白夜】【白夜叉】
1.異世界人ではない。
2.複数持ちではない。
3.闇夜と同分類。
取得時の弊害が、最も低いと考えられる。
最たる問題は、対象者が強く、多くの仲間に囲まれている事の方だ。
索敵能力にも優れているので迂闊に接近出来まい。
手持ちの兵士、大狼との乱戦に乗じれば、接触の機会は必ず訪れるだろう。
出来れば今のジェシカや英雄たちとは当たりたくない。
互いの手の内を知る相手。
知識としては使えるが、付け焼き刃の奇術では話にならない。魔力は魔石内蔵量が枯渇するまでの制限も在る。
会いたくなくとも、あの女が俺を見過ごすはずはない。
適わぬ願いだろう。
それよりも、モンドウの知識と記憶の中に在った3人目の神の名と、見た事もない異世界の女との関係が気に掛かった。
知らず操られたままだったら、ハーデス様のお邪魔をしていた所だ。モンドウめ。
やはり止めを刺して於くべきだった。
死んだ振りはお手の物。海に捨てたのは、我ながら軽率な行為と言えよう。
唯一、我々が有利な点。
大狼は、死人には殆ど興味を示さない点だ。
その点だけは、モンドウに感謝しないとな。
ヒカジたちは山脈北西部の空き地に降り、陣を張った。
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【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
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校長室のソファの染みを知っていますか?
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【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
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なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
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