89 / 115
第3章 大狼討伐戦
第50話 戦闘準備
しおりを挟む
約束してた人狼討伐報酬を配布。
がめつい髭男爵がまた。
「小せえ」のはあんたのチ○コだろ。と心で念じておく。
討伐に参加していても死んでないなら、きっと程良く強いんだろうね。興味ないけど。
そこは希望通りに、ゴーレム(が居た)ルートをご案内。
モンスターは誰の物でもない。倒せるもんなら倒してくれよと。意見は割れなかった。
オート率いる峰岸隊は、中央のヴァンパイアルート。
僕らはウルフハウジングの西ルート。今後の実験も兼ねているので好都合。
冒険者ギルドを大きく前方3部隊、後方1部隊に分けられた。後方は勿論城島隊が含まれている。
機動力と柔軟性に長けた冒険者隊が先行し、偵察兼情報収集。
深入りせずに国軍に引き継ぎ、チェンジして叩いて貰う流れをベースとした。
未知数要素の強いゴーレムルート。
そこは狡賢く、周到な髭男爵に淡い期待をする。
甘い?いえいえ、臆病で逃げ出す位が丁度良い場合もあると判断された。
一番損失の少ない人選。
そういった人間こそ、悪運強く生き残るもんですわと。
何も死ねと言ってる訳じゃない。
取るもん取って満足したらさっさと離脱しろって感じ。
本当の意味での露払いの扱いだ。
隊全員のBOX満タン詰め込んだって、大した量は持ち帰れないでしょ。
ウルフの探索に目処が立てば、僕らが東ルートを引き継ぐと言うウマウマな内容で許可が降りた。
男爵同席の元でのお話なので本人も渋々了承。
実力はあるのに手癖の悪さで評判は頗る悪い。彼が今回何処までやれるのかも見所の一つらしい。
どうでもいい話でホントどうでもいい。
蛇足だけど僕の仕事は盛り沢山。
物資の運搬。途上拠点の設営。緊急時の連絡役等。
無限BOXを持っている事と、イオラのお披露目マズったなぁとちょい後悔。
後から文句言われるのも嫌だった。公開したら案の定。予想通りの展開で辟易。
山査子さんやカルバンさんにはコッソリと手伝って貰います。鷲尾さんの聖歌の出番は…ないわなぁ。
「嫌だよ。安売りなんかしない」だそうです。
大丈夫です。そんな状況は想定してませんて。
「藤原君。生きて…。違うか。復活出来て良かった」
城島氏はずっと気にしてた。
一応学校出る前に誘ったらしい。
その時は鷲尾さんに誘われなかったショックで、生きる気力を無くしてる様だったと。
鷲尾さん的に女子限定だったみたいだしねぇ。
彼の家庭の事情は大雑把には聞いた。
他人が口出す事じゃない。来れたんだから帰る道だって必ずあるさ。残ったみんなで頑張って探そうと声を掛けた。
宿舎を出て小寒い路地を歩いていると、夜空を眺めるカルバンと遭遇した。
ここに来て、ちゃんとカルバンと話が出来た。
「ツーザサの時は、酷い事言ってごめん」
「…何を言っているんですか。知識に自惚れ、私の慢心が招いた結果です。この謝罪と贖罪は生涯背負うべき物。他の誰にも渡しません」頑固だなぁ、この人は。
堂々巡りの再燃。ここは話題を変えて。
「元世界へのアテはあるの?」
「正直に言って微妙です。見果てぬ北の大地に何かが在るのは間違いないのですが、父の魔道書にも答えは書かれていません。気掛かりなのは、父たちが行使した召喚術が強制召喚になってしまった事。本来であれば、望んだ者しか飛べないはずなのです。転移術の延長だとしても、世界の壁までは越えられません」
壁が在るんだ。かなり難しい話題。
独りで頭を整理したいと言うのでお話はそこで終わり。
「背負い込み過ぎるなよ。また暴走されても困るし」
「ええ。はい…」気のない返事だこと。
完全休養日は終わり。
ルドラは今日一日眠り続けていたけど。明日には元気に起き出すだろう。今度は何を要求されるのやら。
思春期と反抗期からの子育てってムズい。
討伐遠征開始前日。
まだルドラが起きて来ない内に。
ヒオシを誘ってメンバー全員(異世界組のみ)の装備品の総点検と、追加と補充。
武器は手直し程度。防具を重点的に仕上げ。
残る赤竜とワイリーンの鱗と、黒竜の魔石を半分まで使い切った。
久々の鍛冶仕事で調子に乗りました。
相変わらず、女子メンのフィッティング調整には時間を要した。…黙秘させて頂きます。
ルドラ用は長く使える黒革(に見える)ベストを作成。
「すっかり父親面だなぁ。親元に帰す時が見物」
一言余計だよ、ヒオシ君。
面白くなってきて、ブリテスタの甲殻でフルアーマーを造り上げキョウヤ殿に進呈してみた。
「ダサい。キモい。趣味じゃない」即断かよ。
急遽金色にコーティングしてみたら。
「…貰えるなら貰っとく。幾らだ?」金好きだね。
これまでの慰労と今後のリーダー役で手を打った。
-同スキルの接触が認められました。
最上位スキル【蟲王】は、
【真蟲王】へと進化しました。-
試着後の姿を見詰め、傍らでミストが満足そうな笑顔でウンウン唸ってた。
後は岩塩で塩弾作りに時間を費やした。
塩漬けで生ハム。過剰な塩を練り込んだ生肉団子。
炉の残り火で塩塗れの燻製。
燻製は遠征用の食料にも敵用されるが、これらはとても人様が食べられる物ではないのは確か。
それを魔獣に食わせるのか!とチラチラ文句を言う兵士が居た。そうですけど?何か?で乗り切った。
脳みそイカれてるのか、反乱分子なのか何方かだろう。
文句言った奴らの顔は覚えた。
実際問題。塩がどれだけ有効か何て解らないのに。
噂に聞く体格相対比からすると、運が良ければ弱体化出来るかもねーレベルの話。
生肉なら食い付くと踏んでるけど、それも勘。食べる保証も無い。
賢くてグルメだったら、一舐めして吐き捨てるっしょ。
ほぼ塩分の塊なんだからさ。
ルシフェルママから頂いた黒糖は貴重品。
ルドラのおやつに使うので他には使えない。普通の砂糖も同様。
反対に岩塩は世界各地。塩は海岸線に行けば買い放題。
無駄打ち用の肉弾に使うのに丁度良しと結論付けた。
だからこそのフェンリル劣化種であるウィングウルフに実験台になって貰う。その結果次第で答えは自然に出る。
-----
ルデインの港町に到着した。
何年か振りの単独遠征。足を悪くしてからは遠出もしていなかった。
膝の補助具にも慣れ痛みも無い。あの少年には感謝ばかりだ。道を違えば敵として対峙していたかも知れないと考えると背筋が凍る想いだった。
そろそろ大狼討伐隊が動き出す頃。
本来こんな旅をしている場合ではないのだが。
町中は雰囲気は平時と変わらない。
港らしい喧騒と活気に満ち、威勢の良い声が其処彼処から聞こえて来る。
網で焼かれた魚介の匂いが食欲を掻き立てる。
乗り合い馬車や行商隊を乗り継いでここまで来たが、途中阻害される様な事は全く無かった。
ヒカジが単独犯?
予想が外れたなと、王都までの帰り道を想像しつつ。
冒険者ギルドの支部を訪ねた。
支部の表玄関手前まで来た時。
「お、覚えてろ!」
1人の立派な体格の青年が、係の者にギルドから摘まみ出される場面に遭遇した。
相変わらず、ここの奴らは血の気が多い。
本部にまで苦情が殺到するのはこの為。少しは後処理をする身にも…、まぁいい。
伊達となった眼鏡を擦り上げ、係の者に声を掛けた。
「君。マクベスが来たと、オーバエに伝えてくれないか」
「あぁん…。あ!?い、今直ぐ!て、てえへんだ。本店さんが査察に来たーーー」
彼らの慌て振りが面白い。
そこまで慌てられると、何か見られたくない物でもあるのかと勘ぐってしまう。
玄関前で待つ事数分。
「お、お待たせしやした!どうぞこちらへ」
汗臭い酸っぱい臭いを放つ男の後に続き、階上の事務室へと通された。
本部よりも酷い有様だ。
山積みの書類の山の中からオーバエが顔を出した。
「これはマクベス殿。お久し振りにございます。何ともお見苦しい所を」
「久しいな。…用事が済んだら少し手伝ってやろうか?」
「なんと!有り難やぁ」
どの道ここで処理出来なければ本部へ流れてしまう。
先手を打てるなら喜ばしい。態々来た甲斐が有ったとしよう。
オーバエが接客テーブル周りを片付け(押しやり)無理矢理場所を確保した。
埃を払いソファに腰掛けた。
茶の期待などしていないので、こちらから真水の水筒を2つテーブルに並べた。
「まぁ飲め。少しここの近況を尋ねたい」
「有り難い有り難い。…近況と申されましても。海上が少々荒れている位で地上は相変わらずですな」
海洋では青竜に大きな動きは無く、航路上に大型の海獣が幾らか確認されたのみ。
地上も変わらず進まぬ町までの治水工事。
一つの主要因として、街道外で群発している魔物が挙げられる。その大半は管理仕切れない、天然ダンジョンから湧いていると聞く。
ルデインも有力な冒険者が手薄で、規模の縮小された国軍も充てには成らない状況。
溜息しか出ない。
「尤も今は、町にラングたちが戻り、多少沈静化傾向に在りますが。根本的な解決には程遠く」
数人の熟練者が戻っても、解決出来る小さな話ではないのは容易に解る。
「ラングらは元気か?会えるなら会ってみたい」
「それでしたら、次の戻りは丁度今日の予定ですな。宿は押さえますんで町でも見て回られては」
この状況で外へ出そうとは何の積もりだ。
「…現時点で見られて困る物が無いなら手伝うが?」
「め、滅相もない。そう言って頂けると非常に助かります」
始めからそう言えば良い物を。
書類整理を共同で始めてみたものの。
何と言う物量。殆どが荒れた冒険者への苦情。
航路上でのトラブル。金品の不正授受。
強盗、恐喝紛いの事例の数々。異性、一般人への暴行事案が無いだけまだ救い様が有るんだか。
「何だこれらは!こんな物を握り潰していたのか」
「これが、通常運転でして」平然と言って退ける。
抜本的改革が必要である。
下手を打つと、中央の国に目を付けられる。それも時間の問題のように感じた。
「人手が足りていないのか?」
「信用の置ける者は少ないですな。自分と受付のフランツや用心棒のジョニ。ラング一行以外は誰も。妻は気が弱く言いなり。一人娘は南へ嫁ぎました」
受付の男と、玄関で若手を摘まみ出していた輩。
ラング一行を除き、肉親は頼れない。
本部との状況に少し似ている。
「玄関で弾かれていた若いのは、何か問題でも」
「あぁ、アレですか。あの小僧は私の孫。まだ成人前だと言うのに冒険者試験を受けたいと生意気な態度で。娘と喧嘩し飛び出して遙々ここまで来たのは、褒められなくもないですがね」
彼なりの孫に対する優しさとも取れる。
「その彼を、私が預かっても良いか?」
「…それは、娘の意見も聞きませんと」
当然の判断。
「では決が出るまで一時預かりとしよう。不服か」
「うーむ。一時的にですぞ。放っておくと何をしでかすかも解りませんし。名はイニシアン。不肖の孫を頼みます」
内心お手上げ。と顔が言っている。
会話しながらも、2人で山の一角を崩しに掛かった。
その作業が丁度区切れた頃。
ラング一行が旅を終えて挨拶に訪れた。
「オーバエ。今もど…、マクベス殿ではないか。本部から一人ですかな?」
「お久しゅう。そのお姿は、義足でしょうか」
「え?ギルマス?何で?」
「兄さん。みっともないよ。お久し振りです、マクベス様」
「ああ、挨拶は程々に。詳しくは後にしよう。早急に聞きたい事があってな」
ラング一行と合流したマクベスは、道端で支部の建物を睨み上げるイニシアンに声を掛けた。
「若いなりに冒険者を志していると聞いたが、本心か?」
「おじさん、誰?祖父ちゃんと話が出来る人?」
「生意気な餓鬼だな。この方は」
プルアが横槍を入れようとしたのを制し。
「口を挟むな。拗れるだけだ。時間が惜しい。私はマクベス。東方冒険者ギルド本部の局長を預かる者だ。君にその気が有るなら、預かってやらなくもないが、どうする」
「こいつは願ってもないです。たったの成人までに1年早いってだけで祖父ちゃん全然聞いてくれなくて。どうしても早く金が欲しいんです。自分で稼いだ金じゃないと、絶対無理ってアン…。俺の好きな子に、言われたんです」
彼を動かしたのは恋心。単純明快だが、その心意気は潔く一定の信用は出来る。
「ならば来るといい。君を一時的にだが私が預かる事にした。言っておくが私は厳しいぞ、イニシアン」
「合点でさぁ。懸命に頑張りますんで、マクベス様。どうか宜しくお願いします!」威勢と意気は善し。元気なのは結構な事だ。
-スキル【希望】発動が確認されました。-
「そうと決まれば、我が家でお食事にしましょう。積もるお話もその時節にでも。ねぇあなた」
「うむ。異論も無い」
エマがニッコリと微笑み、話に区切りを付けた。
新規スキル発動限界まで。後、残り3個。
がめつい髭男爵がまた。
「小せえ」のはあんたのチ○コだろ。と心で念じておく。
討伐に参加していても死んでないなら、きっと程良く強いんだろうね。興味ないけど。
そこは希望通りに、ゴーレム(が居た)ルートをご案内。
モンスターは誰の物でもない。倒せるもんなら倒してくれよと。意見は割れなかった。
オート率いる峰岸隊は、中央のヴァンパイアルート。
僕らはウルフハウジングの西ルート。今後の実験も兼ねているので好都合。
冒険者ギルドを大きく前方3部隊、後方1部隊に分けられた。後方は勿論城島隊が含まれている。
機動力と柔軟性に長けた冒険者隊が先行し、偵察兼情報収集。
深入りせずに国軍に引き継ぎ、チェンジして叩いて貰う流れをベースとした。
未知数要素の強いゴーレムルート。
そこは狡賢く、周到な髭男爵に淡い期待をする。
甘い?いえいえ、臆病で逃げ出す位が丁度良い場合もあると判断された。
一番損失の少ない人選。
そういった人間こそ、悪運強く生き残るもんですわと。
何も死ねと言ってる訳じゃない。
取るもん取って満足したらさっさと離脱しろって感じ。
本当の意味での露払いの扱いだ。
隊全員のBOX満タン詰め込んだって、大した量は持ち帰れないでしょ。
ウルフの探索に目処が立てば、僕らが東ルートを引き継ぐと言うウマウマな内容で許可が降りた。
男爵同席の元でのお話なので本人も渋々了承。
実力はあるのに手癖の悪さで評判は頗る悪い。彼が今回何処までやれるのかも見所の一つらしい。
どうでもいい話でホントどうでもいい。
蛇足だけど僕の仕事は盛り沢山。
物資の運搬。途上拠点の設営。緊急時の連絡役等。
無限BOXを持っている事と、イオラのお披露目マズったなぁとちょい後悔。
後から文句言われるのも嫌だった。公開したら案の定。予想通りの展開で辟易。
山査子さんやカルバンさんにはコッソリと手伝って貰います。鷲尾さんの聖歌の出番は…ないわなぁ。
「嫌だよ。安売りなんかしない」だそうです。
大丈夫です。そんな状況は想定してませんて。
「藤原君。生きて…。違うか。復活出来て良かった」
城島氏はずっと気にしてた。
一応学校出る前に誘ったらしい。
その時は鷲尾さんに誘われなかったショックで、生きる気力を無くしてる様だったと。
鷲尾さん的に女子限定だったみたいだしねぇ。
彼の家庭の事情は大雑把には聞いた。
他人が口出す事じゃない。来れたんだから帰る道だって必ずあるさ。残ったみんなで頑張って探そうと声を掛けた。
宿舎を出て小寒い路地を歩いていると、夜空を眺めるカルバンと遭遇した。
ここに来て、ちゃんとカルバンと話が出来た。
「ツーザサの時は、酷い事言ってごめん」
「…何を言っているんですか。知識に自惚れ、私の慢心が招いた結果です。この謝罪と贖罪は生涯背負うべき物。他の誰にも渡しません」頑固だなぁ、この人は。
堂々巡りの再燃。ここは話題を変えて。
「元世界へのアテはあるの?」
「正直に言って微妙です。見果てぬ北の大地に何かが在るのは間違いないのですが、父の魔道書にも答えは書かれていません。気掛かりなのは、父たちが行使した召喚術が強制召喚になってしまった事。本来であれば、望んだ者しか飛べないはずなのです。転移術の延長だとしても、世界の壁までは越えられません」
壁が在るんだ。かなり難しい話題。
独りで頭を整理したいと言うのでお話はそこで終わり。
「背負い込み過ぎるなよ。また暴走されても困るし」
「ええ。はい…」気のない返事だこと。
完全休養日は終わり。
ルドラは今日一日眠り続けていたけど。明日には元気に起き出すだろう。今度は何を要求されるのやら。
思春期と反抗期からの子育てってムズい。
討伐遠征開始前日。
まだルドラが起きて来ない内に。
ヒオシを誘ってメンバー全員(異世界組のみ)の装備品の総点検と、追加と補充。
武器は手直し程度。防具を重点的に仕上げ。
残る赤竜とワイリーンの鱗と、黒竜の魔石を半分まで使い切った。
久々の鍛冶仕事で調子に乗りました。
相変わらず、女子メンのフィッティング調整には時間を要した。…黙秘させて頂きます。
ルドラ用は長く使える黒革(に見える)ベストを作成。
「すっかり父親面だなぁ。親元に帰す時が見物」
一言余計だよ、ヒオシ君。
面白くなってきて、ブリテスタの甲殻でフルアーマーを造り上げキョウヤ殿に進呈してみた。
「ダサい。キモい。趣味じゃない」即断かよ。
急遽金色にコーティングしてみたら。
「…貰えるなら貰っとく。幾らだ?」金好きだね。
これまでの慰労と今後のリーダー役で手を打った。
-同スキルの接触が認められました。
最上位スキル【蟲王】は、
【真蟲王】へと進化しました。-
試着後の姿を見詰め、傍らでミストが満足そうな笑顔でウンウン唸ってた。
後は岩塩で塩弾作りに時間を費やした。
塩漬けで生ハム。過剰な塩を練り込んだ生肉団子。
炉の残り火で塩塗れの燻製。
燻製は遠征用の食料にも敵用されるが、これらはとても人様が食べられる物ではないのは確か。
それを魔獣に食わせるのか!とチラチラ文句を言う兵士が居た。そうですけど?何か?で乗り切った。
脳みそイカれてるのか、反乱分子なのか何方かだろう。
文句言った奴らの顔は覚えた。
実際問題。塩がどれだけ有効か何て解らないのに。
噂に聞く体格相対比からすると、運が良ければ弱体化出来るかもねーレベルの話。
生肉なら食い付くと踏んでるけど、それも勘。食べる保証も無い。
賢くてグルメだったら、一舐めして吐き捨てるっしょ。
ほぼ塩分の塊なんだからさ。
ルシフェルママから頂いた黒糖は貴重品。
ルドラのおやつに使うので他には使えない。普通の砂糖も同様。
反対に岩塩は世界各地。塩は海岸線に行けば買い放題。
無駄打ち用の肉弾に使うのに丁度良しと結論付けた。
だからこそのフェンリル劣化種であるウィングウルフに実験台になって貰う。その結果次第で答えは自然に出る。
-----
ルデインの港町に到着した。
何年か振りの単独遠征。足を悪くしてからは遠出もしていなかった。
膝の補助具にも慣れ痛みも無い。あの少年には感謝ばかりだ。道を違えば敵として対峙していたかも知れないと考えると背筋が凍る想いだった。
そろそろ大狼討伐隊が動き出す頃。
本来こんな旅をしている場合ではないのだが。
町中は雰囲気は平時と変わらない。
港らしい喧騒と活気に満ち、威勢の良い声が其処彼処から聞こえて来る。
網で焼かれた魚介の匂いが食欲を掻き立てる。
乗り合い馬車や行商隊を乗り継いでここまで来たが、途中阻害される様な事は全く無かった。
ヒカジが単独犯?
予想が外れたなと、王都までの帰り道を想像しつつ。
冒険者ギルドの支部を訪ねた。
支部の表玄関手前まで来た時。
「お、覚えてろ!」
1人の立派な体格の青年が、係の者にギルドから摘まみ出される場面に遭遇した。
相変わらず、ここの奴らは血の気が多い。
本部にまで苦情が殺到するのはこの為。少しは後処理をする身にも…、まぁいい。
伊達となった眼鏡を擦り上げ、係の者に声を掛けた。
「君。マクベスが来たと、オーバエに伝えてくれないか」
「あぁん…。あ!?い、今直ぐ!て、てえへんだ。本店さんが査察に来たーーー」
彼らの慌て振りが面白い。
そこまで慌てられると、何か見られたくない物でもあるのかと勘ぐってしまう。
玄関前で待つ事数分。
「お、お待たせしやした!どうぞこちらへ」
汗臭い酸っぱい臭いを放つ男の後に続き、階上の事務室へと通された。
本部よりも酷い有様だ。
山積みの書類の山の中からオーバエが顔を出した。
「これはマクベス殿。お久し振りにございます。何ともお見苦しい所を」
「久しいな。…用事が済んだら少し手伝ってやろうか?」
「なんと!有り難やぁ」
どの道ここで処理出来なければ本部へ流れてしまう。
先手を打てるなら喜ばしい。態々来た甲斐が有ったとしよう。
オーバエが接客テーブル周りを片付け(押しやり)無理矢理場所を確保した。
埃を払いソファに腰掛けた。
茶の期待などしていないので、こちらから真水の水筒を2つテーブルに並べた。
「まぁ飲め。少しここの近況を尋ねたい」
「有り難い有り難い。…近況と申されましても。海上が少々荒れている位で地上は相変わらずですな」
海洋では青竜に大きな動きは無く、航路上に大型の海獣が幾らか確認されたのみ。
地上も変わらず進まぬ町までの治水工事。
一つの主要因として、街道外で群発している魔物が挙げられる。その大半は管理仕切れない、天然ダンジョンから湧いていると聞く。
ルデインも有力な冒険者が手薄で、規模の縮小された国軍も充てには成らない状況。
溜息しか出ない。
「尤も今は、町にラングたちが戻り、多少沈静化傾向に在りますが。根本的な解決には程遠く」
数人の熟練者が戻っても、解決出来る小さな話ではないのは容易に解る。
「ラングらは元気か?会えるなら会ってみたい」
「それでしたら、次の戻りは丁度今日の予定ですな。宿は押さえますんで町でも見て回られては」
この状況で外へ出そうとは何の積もりだ。
「…現時点で見られて困る物が無いなら手伝うが?」
「め、滅相もない。そう言って頂けると非常に助かります」
始めからそう言えば良い物を。
書類整理を共同で始めてみたものの。
何と言う物量。殆どが荒れた冒険者への苦情。
航路上でのトラブル。金品の不正授受。
強盗、恐喝紛いの事例の数々。異性、一般人への暴行事案が無いだけまだ救い様が有るんだか。
「何だこれらは!こんな物を握り潰していたのか」
「これが、通常運転でして」平然と言って退ける。
抜本的改革が必要である。
下手を打つと、中央の国に目を付けられる。それも時間の問題のように感じた。
「人手が足りていないのか?」
「信用の置ける者は少ないですな。自分と受付のフランツや用心棒のジョニ。ラング一行以外は誰も。妻は気が弱く言いなり。一人娘は南へ嫁ぎました」
受付の男と、玄関で若手を摘まみ出していた輩。
ラング一行を除き、肉親は頼れない。
本部との状況に少し似ている。
「玄関で弾かれていた若いのは、何か問題でも」
「あぁ、アレですか。あの小僧は私の孫。まだ成人前だと言うのに冒険者試験を受けたいと生意気な態度で。娘と喧嘩し飛び出して遙々ここまで来たのは、褒められなくもないですがね」
彼なりの孫に対する優しさとも取れる。
「その彼を、私が預かっても良いか?」
「…それは、娘の意見も聞きませんと」
当然の判断。
「では決が出るまで一時預かりとしよう。不服か」
「うーむ。一時的にですぞ。放っておくと何をしでかすかも解りませんし。名はイニシアン。不肖の孫を頼みます」
内心お手上げ。と顔が言っている。
会話しながらも、2人で山の一角を崩しに掛かった。
その作業が丁度区切れた頃。
ラング一行が旅を終えて挨拶に訪れた。
「オーバエ。今もど…、マクベス殿ではないか。本部から一人ですかな?」
「お久しゅう。そのお姿は、義足でしょうか」
「え?ギルマス?何で?」
「兄さん。みっともないよ。お久し振りです、マクベス様」
「ああ、挨拶は程々に。詳しくは後にしよう。早急に聞きたい事があってな」
ラング一行と合流したマクベスは、道端で支部の建物を睨み上げるイニシアンに声を掛けた。
「若いなりに冒険者を志していると聞いたが、本心か?」
「おじさん、誰?祖父ちゃんと話が出来る人?」
「生意気な餓鬼だな。この方は」
プルアが横槍を入れようとしたのを制し。
「口を挟むな。拗れるだけだ。時間が惜しい。私はマクベス。東方冒険者ギルド本部の局長を預かる者だ。君にその気が有るなら、預かってやらなくもないが、どうする」
「こいつは願ってもないです。たったの成人までに1年早いってだけで祖父ちゃん全然聞いてくれなくて。どうしても早く金が欲しいんです。自分で稼いだ金じゃないと、絶対無理ってアン…。俺の好きな子に、言われたんです」
彼を動かしたのは恋心。単純明快だが、その心意気は潔く一定の信用は出来る。
「ならば来るといい。君を一時的にだが私が預かる事にした。言っておくが私は厳しいぞ、イニシアン」
「合点でさぁ。懸命に頑張りますんで、マクベス様。どうか宜しくお願いします!」威勢と意気は善し。元気なのは結構な事だ。
-スキル【希望】発動が確認されました。-
「そうと決まれば、我が家でお食事にしましょう。積もるお話もその時節にでも。ねぇあなた」
「うむ。異論も無い」
エマがニッコリと微笑み、話に区切りを付けた。
新規スキル発動限界まで。後、残り3個。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる