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第3章 大狼討伐戦

第49話 大狼討伐、作戦会議

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前回の勧誘失敗時に比べ、温和な表情を浮かべるパイコーン。
今回は始めから姿を見せてくれた。

ある程度の信頼はしてくれたかな?

-またお前か。人狼討伐をしてくれた恩には報いたいが、やはりここを離れる訳には…-

「人狼?それは私の班じゃないけど、たぶん仲間の仕業だと思うよ。今日は近くに来たから挨拶に来ただけ」

-従えようとはしないのだな?-

「もう理由が無いの。人間の都合で他種の生き物を従属させようなんてさ。ただの傲慢。この世界に住む生き物全てに自由に生きる権利がなくちゃ、不公平でしょ?」

-神の御業のような考えか-

「そんな大層なもんじゃないわ。神様にも会ってもない。強いて言えば友達になりたかった。仲間じゃなくて」

-何が違うのかは理解し難い-

「無理して理解してくれないくていいよ。今お願いするとすれば、私たち人間の邪魔だけはしないで欲しい。襲い掛かって来る悪い奴は別でね」

-確約は出来ぬ。我らより上位種族に取り込まれれば、そこまでの短き自由-

「だったらさ。私と盟約結ばない?」

-何に対して?-

「うーん。変わらぬ友情?」

パイコーンは大きく嘶いた。人で言い換えるなら、腹を抱えて笑う、みたいな。

-面白い。実に愉快。汝の望み、結んでやろう-

「ありがと」

跪き、差し出された脚の甲にキスをした。
短い儀式。パイコーンは一鳴き。

-盟約はここに結ばれた。このか弱き者と仲間たちとは敵対はしない-

「害意を持った輩だったら、八つ裂きにしちゃっていいからね」

-承知した-


立ち上がり、膝を払う。軽く手を振り、場を離れた。

他の仲間たちが待つ崖の上。心配そうにしてたサリス以外は笑顔を浮かべていた。

私たちは独りじゃない。沢山の仲間と恋人が居る。

幸せなのに、胸が苦しいのは何故。


昨日の夜。サリスとの初めての夜。
夢の中で、また私は嫌な光景を見てしまった。

私たちと、何者かの間に立ち、壁となって助けてくれるパイコーンたちを。あんなヴィジョンは再現させない。

今回の目的は勧誘じゃなく、住み慣れた場所に留めておく為の小さな約束。

これで良いはず。
鷲尾は高鳴る胸を静め、何時もの笑顔に戻った。




-----

大陸間弾道性スイーツ巡りに要したのは数日。
やっとの思いでマルゼまで辿り着いた。

ドーバンでゼリー系のフルーツジュレ。
サイカル手前でバニラエッセンスをゲット。
あの森での徘徊時、ヒオシと塗りたくった枝木がそれ。
王都センゼリカでケーキ各種と焼き菓子。バニラアイスも序でに作成。

漸く満足してくれたルドラを連れ、到着となった。

もうね、すっごい疲れた。将来の子育ての準備訓練と覚悟をしていても。
食う程増す元気パワーに終始圧倒された。

今はおんぶ状態でスヤスヤと眠っている。静かだと可愛いのになぁ。起きてる時は自由奔放、元気一杯でそれはそれで可愛げもあるのだが。

食費どんなけ掛かるんよ。

普通の人間が胃袋破裂する量をペロッてするんだもん。
これじゃママさんも放置したくなるわ。

愛ですら凌駕する食欲。末恐ろしい。

そういや期間を区切ってなかったな。
まぁ、何か進展あれば向こうから本人に連絡来るか。
気長に行こう。


このまま討伐戦に連れて行くか?答えはYES!
断じてYESですとも。

満腹状態を維持すれば眠ってくれる。
起きた途端に魔力を発散させないと暴走する単純構造。
途轍もない我が儘っ子。

もう少しだけこっちのお願いも聞いて欲しい。
きっと成長してくれると期待します。


マルゼ中央広場に位置する集会所。
到着して真っ直ぐ冒険者ギルドの詰め所に立ち寄った。

「ったく、遅い…ぞ?」目が合ったヒオシが、背中のルドラを見て驚いた。
「ごめんごめん。思ったより手間取って」

キョウヤも同じく質問を投げた。
「何処で拾った?」
「話せばちょっと長い。出来ればここではしたくない。討伐開始は何時?」

「出発は3日後の正午。既に部隊編成はこちらで片付けておいた。詳しい説明鷲尾班の到着後にする」
非常に助かります。

ミストがルドラを見て青醒めた。
「その者は…。いや、その御方は…」
同じ魔族。何か感ずる物が在るのかも。


キュリオがルドラを抱っこしてくれ、やっと肩の荷が下りた思い。

引き渡しと同じ位に、鷲尾班も到着。
「みんなー、元気…だった?何その子、可愛い~」
「あ、ホントだ。可愛いねぇ」

「丁度良かった。山査子さん。疲れてる所悪いけど、この部屋遮蔽空間にして。短時間でいいから」

「…おっけ」
意図を感じ取ってくれて、即座に全方位壁を分厚く、窓に目張りを施した。


「ありがとね。色々あって、何人かは初対面。だけど、その子の説明からすると」

ルドラは西大陸の上位魔族ルシフェルと梶田の娘で、和平の足掛りとして一時的に預かった事。

トルメキヤ帝国の内乱。復活した藤原を置いて来た事。

そこにアルバとシンシアと言う聖女様に任せて来た事。

飛空挺の存在と、門藤の暗躍など。

仕入れた情報を展開した。


アーチェとサリスの自己紹介を含め、一通りの挨拶を終えた。

「大陸越えしてたのか。そりゃ時間掛かる訳だ」

ヒオシ以外の人も、口々に感想を漏らした。

中でも城島の話は非常に興味深かった。

皆を裏切り、門藤の誘いに乗って情報を流していた事。

推測段階だが、門藤の狙いが僕らの逆召喚にある事。

「あいつはこちらのバランスを見てる。召喚で呼べる物が生贄の力量に比例するなら。僕らを全滅させなかった理由になるんじゃないかと、今なら思えるんだ」

それが正解だとすると。門藤はいったい何を。

「どの道、門藤はフェンリル討伐を阻止する方向に動いてる。こっちが動き出せば、必ず僕らの前に現われる。答えはその時に聞こう」

クラスの3割を残し、強化させるのを待った理由。
彼の欲する物が何なのか。


「次は俺から。部隊編成についてだが」

後衛支援部隊。
主に本体後衛と行動を共にする班員。

桐生、アーチェ、鷲尾、山査子、カルバン、鴉州、岸川、サリス。陣頭指揮は城島。
鴉州と岸川は最後尾の医療班がメイン。

異世界組、遊軍第一班。
タッチー、キュリオ、ジェシカ、ルドラ、ヒオシ、メイリダ、リンジー。未知数要因のルドラに対応する為、最も高い戦力層を厚くした布陣。

異世界組、遊軍第二班。
キョウヤ、ユウコ、ミスト、ジョルディ。一見手薄にも思えるが、主にギルド支局長のオートの部隊のサポートとして就く。
アルバ、シンシア、藤原の動向次第ではこちらに加わって貰う予定。当初の予定だとアルバのみだった。

全員揃えば戦力比、バランスは悪くない。

しかしそれだと、潜在的な人員不足が懸念される第二班の補填が必要。鷲尾、山査子、カルバンの3人に遊撃手としてバックアップに回って貰おうと…。

「なんかやだなぁ。私らだけ走り回るの。藤原君来たらロックオンされそうだし」
「アビは俺が守る!」

「それは嬉しいんだけどぉ」

自分を棚上げするけど、バカップル多過ぎ。

仕方が無いので、基本鷲尾とサリス、山査子とカルバンペアで動いて貰う案で決が出た。


学校からのお土産に山査子さんが持って来た魔導インカムを複製と魔改造。補填予備を1つ。計15個を作成し配布。

竜血の秘薬も全員分配布。この場に居ないメンバーと、スヤスヤルドラの分は僕が保管した。
「効果は上々だった。特殊な作用は見られない」
「あの薬?…私は実験台にされたのか?」

「死にたくなったら言って。旦那さんの許可が降り次第狩るから。責任を取って」

リンジーとアーチェがバチバチしてる。
悪い感情ではなさそうなので、本人たちに任せよう。
旦那は無言。心得てるぅ。


一通りの事前打ち合わせが終了。

「しかし。そこのルドラが、本当に梶田の娘なのか?」

各町に入る為、角と翼は隠して貰ってる。
何かと目立つので。

キュリオに抱かれる、光沢のある黒髪をそっと撫でた。
「僕も最初は信じられなかった。でも…、起きてる時はすんごいんだ。我が儘言い放題。目に付く物は欲しい欲しい食べたい食べたいって聞かないし。そういうトコだけはそっくり。寝てる姿は天使様みたいなのに」

「そう言えば、天使様綺麗だったねぇ」

「天使様?実在してたん?」
「それは、興味深いわね」
ヒオシとリンジーが同時に驚いていた。

「意外な人物だったよ。詳しくは聞けなかったけど、どうやら数人居るみたいな感じだった」

へぇ。と一同は似た感嘆を浮かべた。

「秘匿事項なら追求はしない。本人がここに来たらそれとなく教えてくれ」
委員長は何処まで行っても委員長。自然にみんなを纏める役割に立っている。凄いね。

「ご本人の許可取れたらね。それまでは他言無用で」

当然明かせない事情はあるんだと思う。
無理に突っ込む話でもないし。それも本人任せ。

神域。神様の領域かぁ。なんか、実感無いわぁ。

遙か先に在ると思われた一筋の希望。
フェンリル討伐。その先の北の大地には何が待つのだろうか。それは、もしかすると神域にも繋がる道なのかも知れない。

何れも途方も無い話である。


明日は各々の準備と、完全休養。
全員それぞれ、移動と連戦。各種打ち合わせ等でへっとへと。休養日も必要です。

その後。殆どのメンバーは解散となったが、
無能、來須磨、峰岸、城島、カルバン、リンジー、ジョルディの7名はオートの事務室を訪れ、これまでの各地で起きた出来事の情報交換をした。
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