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第3章 大狼討伐戦
第46話 スイーツ少女と氷菓
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マルゼまで戻って来た。
フランケン襲撃の顛末を聞き、ウルヴァリン討伐の成功を上層部に報告した。
どちらも無傷ではなく、町の損壊、数人かの負傷者、数人の死者たちを弔う儀式が済まされた。
鷲尾班が居たなら細やかな唄でも贈れたのにと、欲張りな事まで考えてしまう。
冒険者の再編をオートと峰岸、討伐に参加したリーダーらに任せ、以外の來須磨含め数名が宿舎に集まった。
各々表情は重い。
「タッチー遅ぇな。まぁ、心配してもしゃーないけど」
悩ましげなヒオシにリンジーが問う。
「追い掛ける?」
「いいよ。今、こっちにはマイラしか居ないし。半端に助けに行っても混乱する」
ライラもサイラも、ジェシカとキュリオが乗って行った。
「あっちが今どの辺に居るかは、マイラに聞けば大体捕捉出来るから、後で聞いてみるとして。問題は門藤だな」
城島が重い口を開く。
「詳しくは他のみんなが揃ってから話すけど…。前提として門藤に情報を流してたのは僕で間違いない」
「理由は置いといて、その方法には興味あるな。何か通信手段でもあるの?」
「通信手段じゃないさ。単純な方法。何かの気配を感じたら決まった時間に高い場所から、西を向いて口を動かすだけ。笑っちゃうだろ?ここ最近は何も感じなかった。フランケン襲撃時は、僅かに東に感じた気がする」
リンジーが聞き直す。
「読唇術?だけではないな。高度な遠見の魔道具も術も必要になる。そのモンドウと言う男のスキルは?」
「教えてくれるワケないじゃん。結局散々良いように利用されて、ポイ捨てだよ」
要領の得ない話に終始していた。詰まる所、門藤の目的が解らないのでは埒が明かないのである。
ヒオシが頭をポリポリ掻きながら。
「帰って来るまで、準備しておくかなぁ」
今後もここが拠点であるには変わりがなく、状況を整理しながら崩された町外壁の補修が先決。
峰岸が編成会議から戻り、簡単に今後の方針が伝えられた。その点は予定調和。
討伐対象を粉砕した異世界組の希望通りに進められた。
「以上。俺たちの分散は無し。前衛遊撃隊と後衛支援部隊の2隊に別れての行軍。希望者には町の防衛に徹して貰う方向で合意が取れた。これだけの規模の陣営だ。何処に裏切り者が紛れて居るか解らない。城島は門藤の裏を掻けそうか?」
「どうだろ。僕の敵意がどれだけ伝わってるかに因る。委員長は、僕を信用出来るの?また裏切るかも知れないよ」
「そうなったらなった時だ。俺がお前の立場なら、逆に奴を利用してやるがな。帰りたい気持ちに変わりが有ろうが無かろうが、フェンリルを倒さない事には何も始まらないだろ?途中までの道筋は同じじゃないのか?」
「門藤は帰る方法を他にも知ってる風だった。逆に利用するか…。考えてもみなかったよ。うん、やってみる」
「ガモウの監視は私が引き続き務めます」
ジョルディの表情は硬いまま。
「ちょ、ちょっとだけ気持ち入れてくれても」
「皆さんを裏切った挙句、土壇場で私だけは救う。などと喚きだした時、貴方を刈る役目ですので」
「あれぇ。じょ、冗談に聞こえないなぁ。アハハ」
「S級の2人もこちらの味方。無能の班も鷲尾の班も無事に戻れば、そうそう簡単にはやられない。城島も俺たちを簡単には裏切れない。違うか?」
「だよねぇ。僕もそう思うよ。僕一人で暴れても多寡が知れてる。君ら全員を相手に勝てる見込みは零。ボチボチ死なない程度に協力させて貰います。ただ…」
桐生と並んで、頭の上にお花畑を拵えていたアーチェが城島を睨み付け言った。
「何だ?勿体振らずに言え」
「こ、怖い。何とかしてよ、ナイゾウ君」
「し、知らない」
「ふぅ。ただ門藤は別の狙いを持ってる。その一つは逆召喚。手引きしたのも門藤で、僕らと一緒に学校まで召喚出来た事を喜んでたように見えた」
「詰り…。俺たちの誰かを元世界に帰す序でに、あっちから何かを呼び付けようって魂胆か」
行き着けば、答えは意外に単純な物かも知れない。
「そんなトコかな。てか、それ位しか思い付かない。それよか酷いのは…。生贄さ」
「生贄…」
言われてみれば、自分たちと交換された人物たちの行く末は知り得ない。自分たちが3割無事だったのも奇跡。
こちら側の生贄とされた人々が、元世界でどうなっているか何て誰にも解らない。元の世界であるとも限らない。
「僕は帰りたい。何としても。親父が早くに事故って死んでさ。母が一人で僕ら兄弟を育ててくれた。頼れる親戚も居ない中。ここへ来た年の春頃に、癌…。重い病気がたまたま見つかって。初期だったのに、それからも誰にも言わず働き続けた。貧乏だったから。僕らの為だけに!」
城島がテーブルを叩いた。
「僕はこんな所に来たくなかった。今帰っても、どうせ間に合わないって解ってる。母が居なくなったら、残された弟がどうなるか」
来る前は、3つ下の中学生。大きくなってから施設に入れられる可能性。
「その点については誰にも責める権利はないな。気持ちや理由に大小あっても、半数は帰りたいと思ってる。責めてその道が見えるまでは協力して欲しい」
「…解ったよ」
「なら尚更、さっさとフェンリル倒さないとな。ホントはタッチーが準備するって約束だったけど。おれがやるよ」
「何か、策はあるのか?」
「あるよ」
ヒオシがBOXから取出し、テーブルの上に置いた物。
一見水晶のような結晶体。
「ヒオシ…。お前、本気か」
「動物虐待とでも?」
平然と岩塩を指差し続ける。
「犬種である以上、身体の構造は同じ。過剰な塩分糖分で最初に腎臓が壊れる。たっぷり食わせて後は待つだけ。卑怯?知能があるなら食わないっしょ。どれだけの数が居たって、内の一匹が食べ始めれば連鎖は止まらない」
來須磨の見立ては恐らく正しい。
「うわぁ…」
城島が寒そうに身を震わせた。
「面白くない?俺らは誰かを楽しませる為に戦ってるんじゃない。勘違いすんな」間違ってはいないのだが。
沈痛な面持ちを浮かべる一同。
異世界組の大半が集まった、最初の会合が終わった。
-----
ぶつかり合う衝撃音。
地上に蠢く大小の虫たち。切り裂くように突き進む魔族の群れ。
シンシアはその合間に立ち、鞭を振るい飛び回っていた。
紫色の血、緑色の溶液。混色に彩られ、衣服は酷く汚れていた。
-スキル【天使】
並列スキル【粛正】発動が確認されました。-
「ハァァァ!!」
数体の虫の殻を破り裂く線撃。
飛び散る体液を者共せず、白き翼を広げた。
魔族の先頭に立つ親子風の2人。
少女は猛り狂い、母は後ろから追従。
「何じゃ?何故ここに、天使がおるのじゃ。ルドラ、待てと言うに」
「ママ!スイーツは近いわ」そこまで…。
自我を半分失う程の渇望。母の言葉が虚しく流される。
軽く舌打ち。
「来たれり暗闇。輝く紅蓮。インフェルノ・ダークネス!」
先行するルドラの周囲を赤と黒の炎で包んだ。
折角張った防御壁すら内側から打ち破る娘。
「我が儘か!反抗期か!待てい!」
宙空に浮かび、不適に笑う天使。
眼下にルドラの姿を捉えた。北東部から接近している蟲の一団も。
2つを見比べ、逡巡後に北東に向き直った。
ブリテスタ。SSクラス。
人の身の丈を軽く超える巨大なカマキリ。このキルヒマイセンでの蟲王として永く君臨している。
外装は黒褐色に変貌。超硬質化を果たし、大抵の魔術や魔法は弾き返されてしまう。武具も同じ。
その点鞭は最善。どれ程硬い外装も絡んで外し取る。
高速に低空飛行で移動する一団の真上から、乱れ打ち降ろされる鞭の一徹に、ブリテスタが静止した。
「何用か。この土地での内乱に、天賦の娘が介入する謂れは無い」
「ええ、私も油断していました。彼の御方と添い遂げられる夢を見、呆けていたのでしょう」
噛み合わない対話。交渉は初めから破綻していた。
-スキル【蟲王】
並列スキル【列鳴】発動が確認されました。-
隊列を組み、羽を鳴らした。威嚇と臨戦態勢。
乱れ打ち合う鞭と鎌。
多勢に無勢。段々とシンシアが圧され、白き翼が削られ地に引き降ろされた。
東上空から飛来する4人。
タッチー、ジェシカ、キュリオ、アルバニル。
地上から巻き上げる風を起こして不時着。
「ウッヒョー。でっけー」
多種の昆虫に占拠された一角でシンシアを発見した。
対峙している相手を見て述べた感想。
陣形を組んでいる真ん中の一体が頭であると解った。
-スキル【有知有能】
並列スキル【サーチ】発動が確認されました。-
弱点を詮索するまでもなく、昆虫である限り関節部しかない。甲殻を粉砕するのは無駄に手間。
峰岸を呼ばなかった事を少しだけ後悔した。
虫の関節は動物の物より稼働範囲が広い。それでも360度とまでは行かないのだから、突破口はあると思えた。
「どうして一人で突入すんだべか!」
「申し訳ありません。時に猶予が無いと思い」
こんな場所で痴話喧嘩は止めましょう。
四方を固められ、身動きが取れない中。水刃を周囲に飛ばして距離を稼いだ。
見渡す限りの敵模様。手加減も遠慮も要らないのだから打ち放題。
「やはり貴方様が。久方振りになります、天使様」
「…何の事でし」
「天使様!?すごーい、本物~」
キュリオがシンシアに抱き着いて羽交い締めにしていた。
回復させた翼に頬を擦り付け。
「フカフカ~」
「ちょ、ちょっと。お止めに。この身での接触は…」
ジェシカがキュリオを引き剥がす。
「こら。何でも抱き着けば良いと言う訳ではありません」
「え~。少し位いいじゃない」
ブリテスタの猛攻が止んだ。
防御に回られ、無尽蔵に撃ちまくった水刃の悉くが弾かれた。
しかしそれは本体のみ。取り巻きの格下たちは首から切断され無力化に成功した。
「キュリオ。雷、デカいやつ」
「はいはーい」
-スキル【雷明】
並列スキル【操術・豪雷】発動が確認されました。-
曇天の空から突如降り注ぐ雷鳴。
水浸しになった周囲に注ぎ、周辺一帯に帯電。小さな昆虫が軒並み黒炭に。大きな物たちは感電した。
恐らく初めての攻撃に、戸惑うブリテスタ。
「う、動かん…」
「おいたは、ダメだっぺ」
-スキル【変調】
並列スキル【変質】【変態】同時発動されました。-
ブリテスタまでの道筋が覗けた瞬間。
アルバが詰め寄り、ブリの胸元に手を添え、触れただけで横に飛び退いた。
緑色の体液と共に胸部の甲殻が内側から爆散した。
復活したシンシアと、キュリオが重なった。
-スキル【雷明】
並列スキル【操術・武装】発動が確認されました。-
-スキル【天使】
並列スキル【粛正】発動が確認されました。
同時発動に伴い、シークレットスキル【ゲイ・ボルタ】
発動が確認されました。-
開かれた胸部。覆い隠そうとする腕を払う鞭。
後を追う数本の槍が、深々とブリテスタの魔石を貫き通した。
勝利に歓喜した瞬間。背筋に感じた寒気。
「ほぉ。その様な倒し方があるとはのぉ」
「ママ、離して!」
黒い翼を背にした親子?
小脇に抱えられた少女が暴れている…。意味が。
シュールさに呆気に取られている間に。
「早速じゃが、汝らは死ねい!人間と天使風情が我が領地に踏み入り、生きて帰れると思うな。インフェルノ・ベルタ」
荒れ狂う炎。一カ所で固まる5人の外周が包まれた。
-スキル【有知有能】
並列スキル【防御壁】発動が確認されました。-
「火遊びは、人に向けちゃダメでしょ!」
即座に築いたのは水の壁。
身近な炎を取り込み消火活動。猛る炎の上から更に大量の水を被せた。
鎮火に成功しても、彼女の攻撃は止まない。
二陣三陣と繰り返される魔法に、内側は完全サウナ状態。
「あっちぃあっちぃ」アルバが上半身裸になった。
「はしたないですよ、アルバ様。しかし少々暑いですね」
胸元端を持ち上げ空気を取り込んだ。
チラつく白い柔肌。ゴクリと生唾を飲み込む。
「お目が嫌らしいですよ、タッチー」
「浮気ダメ。…見たいなら言ってくれれば」
肩口に手を掛けようとしたキュリオを、ジェシカが諫めた。
「あ、アイスでも食べよっか」
話題を逸らし、BOX内で凍らせてあった牛乳のアイスバーを5本取出して配った。
まだバニラエッセンスが手に入らないので、柑橘系のフルーツ味しかないのが残念。チョコは在るのに何でだろ。
「あ!!!アレ、アレ!ママ!聞いてる?ママ!!」
母親の腕に噛付いて止めた。
「イタッ。今度は何じゃ。母は今忙し」
「アイスだよ!ア、イ、ス!あの人間共がアイスを食べてる。私も食べたい。たーべーたーいー」
必死の駄駄を捏ね捲り暴れるルドラ。
「目にした人間は殲滅す」
「ダメ!あれはパチシエだよ、絶対だよ!奴隷にして作らせるの。決めたの!」
周囲の取り巻きたちが、別の意味の涎を垂らした。
「む、むぅ。い、一時休戦じゃ」
攻撃が止まった。
ゆっくりと水壁を下げて消し去ると、母の腕を逃れた少女が駆け込んで来た。
「アイス!それはアイスじゃろ?」
手に持った食い掛けのアイスバーを指差して叫んだ。
「これ?欲しいの?でもタダってのはなぁ」
「私の家来に成れ。スイーツを作れるなら家臣にしてやってもいいぞ」
突き抜けて偉そうな子だ。
「ヤダよ。僕らは帰らないといけないし、家来も奴隷もちょっとやってる暇ないなぁ」
悔しそうな顔をしている。まだ暴れられても面倒なので1本出して渡した。
奪い取るように、口一杯に頬張りご満悦。
「か、可愛い…」キュリオさん?
拗れそうだから抱き着くのはお止め下さい。
美人なママさんが黙って睨んでいる。
周囲も静観しているので、あれが統率者に違いない。
間にアルバが立ち、相手を牽制。
「おいちい。もう1つ寄越すが良い」
「えー。そんな急に食べるとお腹壊すよ。大丈夫?」
「大丈夫じゃ。お腹丈夫だから!」
元気一杯だね。
「じゃあ2本。1つはママさんの分だぞ」
「うん!」
受け取ると母の元に飛んで行った。
ママさんも口に入れ。
「…」目を見開き、言葉を失っていた。
何かブツブツ言いながらも完食していた。
何か大きな動きがあれば戦闘再開。睨み合う両陣営。
その間で喜び跳ねる少女。シュール過ぎる。
「おい、パチシエ。名は何と言う。私はルドラじゃ」
違うんだけどなぁ。~じゃはママさんの影響かな。
「僕はタッチー。お菓子職人さんは一杯居るよ。僕は見習いさ」
キャーと歓喜するルドラ。お兄さんは君の将来がちょっぴり不安です。
軽く会釈して握手を交わした。
垂れたアイスでベタベタだったけど。
西の大陸で果たされた戦場でのこの出会いは。
間も無く激変する世界の序章として、後の人類史に永く伝えられる語り草。
新規スキル発動限界まで。後、残り5個。
-【イージーモード】解放条件が満たされました。
以降【ノーマルモード】解放への道が拓かれます。-
フランケン襲撃の顛末を聞き、ウルヴァリン討伐の成功を上層部に報告した。
どちらも無傷ではなく、町の損壊、数人かの負傷者、数人の死者たちを弔う儀式が済まされた。
鷲尾班が居たなら細やかな唄でも贈れたのにと、欲張りな事まで考えてしまう。
冒険者の再編をオートと峰岸、討伐に参加したリーダーらに任せ、以外の來須磨含め数名が宿舎に集まった。
各々表情は重い。
「タッチー遅ぇな。まぁ、心配してもしゃーないけど」
悩ましげなヒオシにリンジーが問う。
「追い掛ける?」
「いいよ。今、こっちにはマイラしか居ないし。半端に助けに行っても混乱する」
ライラもサイラも、ジェシカとキュリオが乗って行った。
「あっちが今どの辺に居るかは、マイラに聞けば大体捕捉出来るから、後で聞いてみるとして。問題は門藤だな」
城島が重い口を開く。
「詳しくは他のみんなが揃ってから話すけど…。前提として門藤に情報を流してたのは僕で間違いない」
「理由は置いといて、その方法には興味あるな。何か通信手段でもあるの?」
「通信手段じゃないさ。単純な方法。何かの気配を感じたら決まった時間に高い場所から、西を向いて口を動かすだけ。笑っちゃうだろ?ここ最近は何も感じなかった。フランケン襲撃時は、僅かに東に感じた気がする」
リンジーが聞き直す。
「読唇術?だけではないな。高度な遠見の魔道具も術も必要になる。そのモンドウと言う男のスキルは?」
「教えてくれるワケないじゃん。結局散々良いように利用されて、ポイ捨てだよ」
要領の得ない話に終始していた。詰まる所、門藤の目的が解らないのでは埒が明かないのである。
ヒオシが頭をポリポリ掻きながら。
「帰って来るまで、準備しておくかなぁ」
今後もここが拠点であるには変わりがなく、状況を整理しながら崩された町外壁の補修が先決。
峰岸が編成会議から戻り、簡単に今後の方針が伝えられた。その点は予定調和。
討伐対象を粉砕した異世界組の希望通りに進められた。
「以上。俺たちの分散は無し。前衛遊撃隊と後衛支援部隊の2隊に別れての行軍。希望者には町の防衛に徹して貰う方向で合意が取れた。これだけの規模の陣営だ。何処に裏切り者が紛れて居るか解らない。城島は門藤の裏を掻けそうか?」
「どうだろ。僕の敵意がどれだけ伝わってるかに因る。委員長は、僕を信用出来るの?また裏切るかも知れないよ」
「そうなったらなった時だ。俺がお前の立場なら、逆に奴を利用してやるがな。帰りたい気持ちに変わりが有ろうが無かろうが、フェンリルを倒さない事には何も始まらないだろ?途中までの道筋は同じじゃないのか?」
「門藤は帰る方法を他にも知ってる風だった。逆に利用するか…。考えてもみなかったよ。うん、やってみる」
「ガモウの監視は私が引き続き務めます」
ジョルディの表情は硬いまま。
「ちょ、ちょっとだけ気持ち入れてくれても」
「皆さんを裏切った挙句、土壇場で私だけは救う。などと喚きだした時、貴方を刈る役目ですので」
「あれぇ。じょ、冗談に聞こえないなぁ。アハハ」
「S級の2人もこちらの味方。無能の班も鷲尾の班も無事に戻れば、そうそう簡単にはやられない。城島も俺たちを簡単には裏切れない。違うか?」
「だよねぇ。僕もそう思うよ。僕一人で暴れても多寡が知れてる。君ら全員を相手に勝てる見込みは零。ボチボチ死なない程度に協力させて貰います。ただ…」
桐生と並んで、頭の上にお花畑を拵えていたアーチェが城島を睨み付け言った。
「何だ?勿体振らずに言え」
「こ、怖い。何とかしてよ、ナイゾウ君」
「し、知らない」
「ふぅ。ただ門藤は別の狙いを持ってる。その一つは逆召喚。手引きしたのも門藤で、僕らと一緒に学校まで召喚出来た事を喜んでたように見えた」
「詰り…。俺たちの誰かを元世界に帰す序でに、あっちから何かを呼び付けようって魂胆か」
行き着けば、答えは意外に単純な物かも知れない。
「そんなトコかな。てか、それ位しか思い付かない。それよか酷いのは…。生贄さ」
「生贄…」
言われてみれば、自分たちと交換された人物たちの行く末は知り得ない。自分たちが3割無事だったのも奇跡。
こちら側の生贄とされた人々が、元世界でどうなっているか何て誰にも解らない。元の世界であるとも限らない。
「僕は帰りたい。何としても。親父が早くに事故って死んでさ。母が一人で僕ら兄弟を育ててくれた。頼れる親戚も居ない中。ここへ来た年の春頃に、癌…。重い病気がたまたま見つかって。初期だったのに、それからも誰にも言わず働き続けた。貧乏だったから。僕らの為だけに!」
城島がテーブルを叩いた。
「僕はこんな所に来たくなかった。今帰っても、どうせ間に合わないって解ってる。母が居なくなったら、残された弟がどうなるか」
来る前は、3つ下の中学生。大きくなってから施設に入れられる可能性。
「その点については誰にも責める権利はないな。気持ちや理由に大小あっても、半数は帰りたいと思ってる。責めてその道が見えるまでは協力して欲しい」
「…解ったよ」
「なら尚更、さっさとフェンリル倒さないとな。ホントはタッチーが準備するって約束だったけど。おれがやるよ」
「何か、策はあるのか?」
「あるよ」
ヒオシがBOXから取出し、テーブルの上に置いた物。
一見水晶のような結晶体。
「ヒオシ…。お前、本気か」
「動物虐待とでも?」
平然と岩塩を指差し続ける。
「犬種である以上、身体の構造は同じ。過剰な塩分糖分で最初に腎臓が壊れる。たっぷり食わせて後は待つだけ。卑怯?知能があるなら食わないっしょ。どれだけの数が居たって、内の一匹が食べ始めれば連鎖は止まらない」
來須磨の見立ては恐らく正しい。
「うわぁ…」
城島が寒そうに身を震わせた。
「面白くない?俺らは誰かを楽しませる為に戦ってるんじゃない。勘違いすんな」間違ってはいないのだが。
沈痛な面持ちを浮かべる一同。
異世界組の大半が集まった、最初の会合が終わった。
-----
ぶつかり合う衝撃音。
地上に蠢く大小の虫たち。切り裂くように突き進む魔族の群れ。
シンシアはその合間に立ち、鞭を振るい飛び回っていた。
紫色の血、緑色の溶液。混色に彩られ、衣服は酷く汚れていた。
-スキル【天使】
並列スキル【粛正】発動が確認されました。-
「ハァァァ!!」
数体の虫の殻を破り裂く線撃。
飛び散る体液を者共せず、白き翼を広げた。
魔族の先頭に立つ親子風の2人。
少女は猛り狂い、母は後ろから追従。
「何じゃ?何故ここに、天使がおるのじゃ。ルドラ、待てと言うに」
「ママ!スイーツは近いわ」そこまで…。
自我を半分失う程の渇望。母の言葉が虚しく流される。
軽く舌打ち。
「来たれり暗闇。輝く紅蓮。インフェルノ・ダークネス!」
先行するルドラの周囲を赤と黒の炎で包んだ。
折角張った防御壁すら内側から打ち破る娘。
「我が儘か!反抗期か!待てい!」
宙空に浮かび、不適に笑う天使。
眼下にルドラの姿を捉えた。北東部から接近している蟲の一団も。
2つを見比べ、逡巡後に北東に向き直った。
ブリテスタ。SSクラス。
人の身の丈を軽く超える巨大なカマキリ。このキルヒマイセンでの蟲王として永く君臨している。
外装は黒褐色に変貌。超硬質化を果たし、大抵の魔術や魔法は弾き返されてしまう。武具も同じ。
その点鞭は最善。どれ程硬い外装も絡んで外し取る。
高速に低空飛行で移動する一団の真上から、乱れ打ち降ろされる鞭の一徹に、ブリテスタが静止した。
「何用か。この土地での内乱に、天賦の娘が介入する謂れは無い」
「ええ、私も油断していました。彼の御方と添い遂げられる夢を見、呆けていたのでしょう」
噛み合わない対話。交渉は初めから破綻していた。
-スキル【蟲王】
並列スキル【列鳴】発動が確認されました。-
隊列を組み、羽を鳴らした。威嚇と臨戦態勢。
乱れ打ち合う鞭と鎌。
多勢に無勢。段々とシンシアが圧され、白き翼が削られ地に引き降ろされた。
東上空から飛来する4人。
タッチー、ジェシカ、キュリオ、アルバニル。
地上から巻き上げる風を起こして不時着。
「ウッヒョー。でっけー」
多種の昆虫に占拠された一角でシンシアを発見した。
対峙している相手を見て述べた感想。
陣形を組んでいる真ん中の一体が頭であると解った。
-スキル【有知有能】
並列スキル【サーチ】発動が確認されました。-
弱点を詮索するまでもなく、昆虫である限り関節部しかない。甲殻を粉砕するのは無駄に手間。
峰岸を呼ばなかった事を少しだけ後悔した。
虫の関節は動物の物より稼働範囲が広い。それでも360度とまでは行かないのだから、突破口はあると思えた。
「どうして一人で突入すんだべか!」
「申し訳ありません。時に猶予が無いと思い」
こんな場所で痴話喧嘩は止めましょう。
四方を固められ、身動きが取れない中。水刃を周囲に飛ばして距離を稼いだ。
見渡す限りの敵模様。手加減も遠慮も要らないのだから打ち放題。
「やはり貴方様が。久方振りになります、天使様」
「…何の事でし」
「天使様!?すごーい、本物~」
キュリオがシンシアに抱き着いて羽交い締めにしていた。
回復させた翼に頬を擦り付け。
「フカフカ~」
「ちょ、ちょっと。お止めに。この身での接触は…」
ジェシカがキュリオを引き剥がす。
「こら。何でも抱き着けば良いと言う訳ではありません」
「え~。少し位いいじゃない」
ブリテスタの猛攻が止んだ。
防御に回られ、無尽蔵に撃ちまくった水刃の悉くが弾かれた。
しかしそれは本体のみ。取り巻きの格下たちは首から切断され無力化に成功した。
「キュリオ。雷、デカいやつ」
「はいはーい」
-スキル【雷明】
並列スキル【操術・豪雷】発動が確認されました。-
曇天の空から突如降り注ぐ雷鳴。
水浸しになった周囲に注ぎ、周辺一帯に帯電。小さな昆虫が軒並み黒炭に。大きな物たちは感電した。
恐らく初めての攻撃に、戸惑うブリテスタ。
「う、動かん…」
「おいたは、ダメだっぺ」
-スキル【変調】
並列スキル【変質】【変態】同時発動されました。-
ブリテスタまでの道筋が覗けた瞬間。
アルバが詰め寄り、ブリの胸元に手を添え、触れただけで横に飛び退いた。
緑色の体液と共に胸部の甲殻が内側から爆散した。
復活したシンシアと、キュリオが重なった。
-スキル【雷明】
並列スキル【操術・武装】発動が確認されました。-
-スキル【天使】
並列スキル【粛正】発動が確認されました。
同時発動に伴い、シークレットスキル【ゲイ・ボルタ】
発動が確認されました。-
開かれた胸部。覆い隠そうとする腕を払う鞭。
後を追う数本の槍が、深々とブリテスタの魔石を貫き通した。
勝利に歓喜した瞬間。背筋に感じた寒気。
「ほぉ。その様な倒し方があるとはのぉ」
「ママ、離して!」
黒い翼を背にした親子?
小脇に抱えられた少女が暴れている…。意味が。
シュールさに呆気に取られている間に。
「早速じゃが、汝らは死ねい!人間と天使風情が我が領地に踏み入り、生きて帰れると思うな。インフェルノ・ベルタ」
荒れ狂う炎。一カ所で固まる5人の外周が包まれた。
-スキル【有知有能】
並列スキル【防御壁】発動が確認されました。-
「火遊びは、人に向けちゃダメでしょ!」
即座に築いたのは水の壁。
身近な炎を取り込み消火活動。猛る炎の上から更に大量の水を被せた。
鎮火に成功しても、彼女の攻撃は止まない。
二陣三陣と繰り返される魔法に、内側は完全サウナ状態。
「あっちぃあっちぃ」アルバが上半身裸になった。
「はしたないですよ、アルバ様。しかし少々暑いですね」
胸元端を持ち上げ空気を取り込んだ。
チラつく白い柔肌。ゴクリと生唾を飲み込む。
「お目が嫌らしいですよ、タッチー」
「浮気ダメ。…見たいなら言ってくれれば」
肩口に手を掛けようとしたキュリオを、ジェシカが諫めた。
「あ、アイスでも食べよっか」
話題を逸らし、BOX内で凍らせてあった牛乳のアイスバーを5本取出して配った。
まだバニラエッセンスが手に入らないので、柑橘系のフルーツ味しかないのが残念。チョコは在るのに何でだろ。
「あ!!!アレ、アレ!ママ!聞いてる?ママ!!」
母親の腕に噛付いて止めた。
「イタッ。今度は何じゃ。母は今忙し」
「アイスだよ!ア、イ、ス!あの人間共がアイスを食べてる。私も食べたい。たーべーたーいー」
必死の駄駄を捏ね捲り暴れるルドラ。
「目にした人間は殲滅す」
「ダメ!あれはパチシエだよ、絶対だよ!奴隷にして作らせるの。決めたの!」
周囲の取り巻きたちが、別の意味の涎を垂らした。
「む、むぅ。い、一時休戦じゃ」
攻撃が止まった。
ゆっくりと水壁を下げて消し去ると、母の腕を逃れた少女が駆け込んで来た。
「アイス!それはアイスじゃろ?」
手に持った食い掛けのアイスバーを指差して叫んだ。
「これ?欲しいの?でもタダってのはなぁ」
「私の家来に成れ。スイーツを作れるなら家臣にしてやってもいいぞ」
突き抜けて偉そうな子だ。
「ヤダよ。僕らは帰らないといけないし、家来も奴隷もちょっとやってる暇ないなぁ」
悔しそうな顔をしている。まだ暴れられても面倒なので1本出して渡した。
奪い取るように、口一杯に頬張りご満悦。
「か、可愛い…」キュリオさん?
拗れそうだから抱き着くのはお止め下さい。
美人なママさんが黙って睨んでいる。
周囲も静観しているので、あれが統率者に違いない。
間にアルバが立ち、相手を牽制。
「おいちい。もう1つ寄越すが良い」
「えー。そんな急に食べるとお腹壊すよ。大丈夫?」
「大丈夫じゃ。お腹丈夫だから!」
元気一杯だね。
「じゃあ2本。1つはママさんの分だぞ」
「うん!」
受け取ると母の元に飛んで行った。
ママさんも口に入れ。
「…」目を見開き、言葉を失っていた。
何かブツブツ言いながらも完食していた。
何か大きな動きがあれば戦闘再開。睨み合う両陣営。
その間で喜び跳ねる少女。シュール過ぎる。
「おい、パチシエ。名は何と言う。私はルドラじゃ」
違うんだけどなぁ。~じゃはママさんの影響かな。
「僕はタッチー。お菓子職人さんは一杯居るよ。僕は見習いさ」
キャーと歓喜するルドラ。お兄さんは君の将来がちょっぴり不安です。
軽く会釈して握手を交わした。
垂れたアイスでベタベタだったけど。
西の大陸で果たされた戦場でのこの出会いは。
間も無く激変する世界の序章として、後の人類史に永く伝えられる語り草。
新規スキル発動限界まで。後、残り5個。
-【イージーモード】解放条件が満たされました。
以降【ノーマルモード】解放への道が拓かれます。-
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