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第3章 大狼討伐戦
第41話 野望を砕く勇者
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バックステージ。華やかな表とは裏腹。
スタッフ(女性兵士兼捕虜)たちが、忙しなく走り回っていた。男共は偉そうに食うばかりで使い物にならず、素行が酷い者から地下牢に押し込んだ。
働かざる者、食う何たら。
学校側のメンバーが控え室に集まり、無能の話を聞いていた。
「…全否定だね…」鷲尾が悲しそうに呟いた。
これまでの準備と理念が覆る悲しい話。
「そこまで否定的になる話でもないよ。同じ人間だから文明として進化するのは必然。馬車から車。原油から燃料やプラスチック。紙風船から気球。紙飛行機から飛行機。空を飛ぶ魔術が存在するなら、舟を飛ばす技術にも何れは辿り着くのも当然」
山査子が挙手をした。
「私が飛行機作ろうか?幾つか無人機で段階踏めば作れるかも知れない」
「それも一瞬考えたけど。止めたほうがいいと思う。行き過ぎた急速な進化は必ず破綻する。完成系に近付ける切っ掛けにもなり兼ねないしさ。僕らは僕らの遣り方で行こうよ。何も僕らはこちらの世界を壊しに来たんじゃないでしょ?」
「空飛ぶ舟だべかぁ。そりゃまたど偉いもん考えるべな。西側はおいらの担当だべ。帝都の工房さ、プチッと潰せばええんだべ?」
「師匠。西側にお戻りになるなら、俺も」
サリスの威勢が空回る。
「んにゃダメだ」
「どうしてですか?俺が弱いからですか?空を飛べないからですか?」
「人が大勢、犠牲になるから、だべよ。罪も無い一般人も巻き添えにするっぺ」
直接的にではなくとも。誰かが責任を負わされる。
工房には奴隷に近い従事者も多く働いているだろう。
責は末端に押し付けられる。帝国とはそう言った国。
「俺なら、でき」
鷲尾の平手がサリスの頬を打った。
「人殺しがして欲しくて剣を渡したんじゃない!自分の身を守る為。大切な人を守れるようにって。自分から率先して殺しに行くのは違うよ」
そして抱き締める。若き少年が履き違えないように。
「ご、ごめんなさい」
開演時間が迫る。
解体した猪肉を金網に乗せ、炭で焼き上げた。
香ばしい脂の溶けた煙が爆ぜた。周辺の者が生唾を飲み込んだ。
「無駄なんて、誰にも言わせない!行くわよ」
円陣を組んで鷲尾が左腕を中央に差し出した。
続く演者に加わり、無能も手を重ねた。
余計な御託は不要。鷲尾の号声に合わせ、全員が腕を振り上げた。
ステージ端の火台が弾けたのが合図。
「アルバさん。僕は先手を撃ちに行きます。後始末は任せても?」
「もちのロンだっぺよ。突っ込み過ぎるでねぇべよ」
「はい!」
無能以外のメンバーが各方面に走り出した。
舞踊も楽芸も、全ては貴族の嗜み。
下の者には浸透していない。初手はそれを打ち破る。
序曲は発声調整。鷲尾とカルバンの共鳴ハウリング。
スピーカーが大音量で音割れする寸前まで。
聞く者を逆撫でするポップ調は排除した。
焦げた煙を大型扇風機で送り届けた数分後。広いステージに演者が並んだ。
サリスと鴉州が段下へと降りた。
構えたのは木刀と、普通の鉄球。
素振りを繰り返すサリスの隣で。
「ボールは人に打つける為の武具じゃないのに…」
鴉州はクッションで包んだ鉄球を軽くバウンドさせ、感触を確かめた。残念ながらボーリングの球並に重い。
スタミナ、筋力的に長時間の使用は避けるべきだ。
-スキル【巡礼】
並列スキル【ループ】発動が確認されました。-
「サリス君。私も木刀一本借りるね。この剣技はベンジャム特性。参考にするならして」
「はい。勉強させて貰います」
基本の型は言葉通り。ベンジャムで叩き込まれた物。
「ステージには誰一人近付けさせない!百を生かす為に一を斬る」
柄を両手で握り絞めた。左足を半歩前へと擦る。
インカムから山査子の号令が飛んだ。
「壁開くよ。1,2,3!」
壁向こうの数千人が双極隊列を組んだ。食料が枯渇してから数日。凄まじい精神力で盛り返していた。
プリシラベートの千騎も動き出す。
側面真横から分断する腹積りでいたが、殺さずの作戦執行下では攻撃は限られる。
エドガーの命の元。溢れた分子を抑え、退路を塞ぐ役に徹していた。
「フウコ殿。穴はまだなのか。何かしらの魔術を唱えているぞ」
「まだまだ。どうにか阻害して下さい。敵の大将を巻き込まないと意味が無いの」
「それはそうだが。ええい、我らは陽動。魔術隊、前へ。奴らの濡れた身体にたっぷりと砂でも掛けてやれ!眼と口を塞いでしまえ」
詠唱の邪魔をするだけなら簡単。
特製魔道具は詠唱要らず。機動早さはこちらが有利。
切り札を初手から切る。
空いた隙間から雪崩れ込む敵兵。
ステージまでのアリーナ上には、数日前までの仲間たちが立ち塞がっていた。
数的劣勢は明らか。それでも敵陣の将軍は折れてはいなかった。
「この私の指揮下を飢餓で解くとは、中々恐ろしい手を使う。しかし、檻を解くのが早過ぎたな。幻しの舞曲なぞに惑わされるな!残る全軍で…」
山査子の次の指示が飛ぶ。
「全軍退避。ポチッとな」カチリと言う音がインカムから響いた。
ドスンとの音と共に、敵陣の足元の地が消えた。
空けられた大穴には抗えず、残らずが飲み込まれた。
台形の穴では地上までの通路は無い。
重なる様に落ちた何人かは軽傷を負ったが、生き埋めにされた訳でもないので、生きてはいる。
ロープを取り出そうとした何割かの頭上に、薄く砂礫が降り注いだ。
発動出来た魔術は全て蓋の障壁に弾き返された。
「聴く気がないなら退場」
大きな看板が穴の外周に立ち並んだ。
流れる曲調が転じた。
スローからアップテンポへ。
美しい2人の歌声に、敵兵の動きが止まった。
「聞くでない!抗え!魔術を」
帰るべき場所、待つ人たち
行くべき場所はここじゃない
数多の世界、越えた先
出会えた奇跡
帰るべき場所、待つ者たち
来るべき場所はここじゃない
幾多の世界、越えた先
交わる軌跡
戻るべき場所、小さな家
迎える場所はここじゃない
あなたの世界、彼の地にて
消える命
「惑わされるな!まど…」
将軍の声にも微動だにしなくなった兵士たち。
敵兵だけではない。その場に集まる全ての者が、手を止め聴いていた。
流れるような歌声が、確実に心を捉えた。
-スキル【アイドル】
並列スキル【言霊】発動が…、素晴らしい。-
鷲尾がマイクに乗せて絞り出す声は、荒野北から参じる者たちへも届いていた。
ステージ上の後ろでは、曲に合わせて演舞する乙女。
幼いような妖艶。男女を問わず、その舞いに息を飲み込み見取れていた。
尾を引く衣装。覗き出る長い手足。
並んだ太鼓を打上げる長髪のアルバも、不思議な弦を奏でる岸川も身体を大きく揺らしていた。
アリーナ一帯から歓声が押し上がった。
一定の距離を残した場所で、思い思いに踊り出した。
一部溢れだした兵士の数人が、ステージに駆け寄ろうと走り出した。それを阻んだのはたったの2人。
段下から離れた鴉州が木刀で払って回った。届かぬ相手には鉄球を打ち込んだ。
ステージ直近には、サリス一人。
「俺だって!ちゃんと歌を聴きたいのに!」
別の意味で憤っていた。
鷲尾がカルバンに目線を送り、マイクを離した。
「フウ。フィナーレ」
「ラジャ。ポチッとな」
大穴の前方に上り階段が出来上がった。
再びの転調。スローバラードへ。
恋を知りました。届かぬ恋を
届かぬ想いが、また一つ
波間に飲まれた泡のよう
愛を知りました。届かぬ愛を
届かぬ想いが、また二つ
波間に埋もれた沫のよう
愛しいあの人。届けと声を
届かぬ声が、また三つ
波間に重なる波のよう
疲れた兵。あの人の元
消える命が、また四つ
波間に溶ける声のよう
殆どの敵兵たちが障壁を潜れた。上がれた兵士が次々に武装を地へと投げ捨てた。
三度の転調。よりスローライドへ。
-スキル【アイドル】
並列スキル【鎮魂歌】発動が確認されました。
私も生で聞きたいです!-
鷲尾はマイクに両手を添えた。最後は皆に捧ぐ歌を。
魂の寄る辺。空の果て
昇る白きは、あの人の
今夜は泣こう。想う人の笑顔を胸に
望まなくとも、明日は来る
魂の寄る辺。辿る果て
昇る光は、あの人の
今夜も泣こう。想う人の言葉を胸に
望まなくとも、日はまた昇る
魂の寄る辺。此所に在り
昇る形は、無くなりて
今夜に送ろう。想う人の行く場所へ
望まなくとも、闇は去る
魂の寄る辺。明日に在る
昇る朝日は、変わらずに
今夜で終わろう。想う人の行く場所で
望まなくとも、明日は来る
地上に這い出たヒッテランは、落とし掛けた剣を握り絞め直した。そして振り上げ叫ぶ。
「余興は、終わりだ。道を空けよ!」
ステージまでの間に細い筋道が開いた。
-スキル【野望】
並列スキル【抵抗】発動が確認されました。-
か弱き剣を手に、ヒッテランは無謀にも走り出した。
「しつこい男は嫌われるってさ!」
負けじとサリスが集中を一点に向けた。
-スキル【勇者】
並列スキル【破願】発動が確認されました。-
打ち合うと同時に、周辺が間を空けた。
打合い、剣と木刀が重なる度に大きな火花が飛んだ。
剣が業物なら、樫の木刀にもコーティングが施されている逸品。武器として互角。
低い打点から打上げられる木刀。
上段から降ろされる真剣。
体勢を大きく崩された方の敗北。
「王族が国の再興を望んで何が悪い」
「知るかよ!」
鍔迫り合いに持ち込み、サリスは腰の鞘を膝で打ち敵の注意を逸らせた。
離れ際の中段突き。武装の薄い脇腹に打ち込んだ。
「くっ」
ステージ上で繰り広げられた演舞のよう。
敵が剣を手放すまで。距離感を掻き乱して連撃を繰り出して見せた。
両腕両足、脇肋の骨を打ち砕いた。
「み、見事…。剣技と呼ぶには、少々粗い、な…」
ヒッテランは敵味方が見詰める中、意識を落とした。
「首領は落ちたぞぉぉぉーーー」
サリスの勝ち名乗りと共に、沸き上がる歓声。
感嘆と賞賛が入り交じった歓声は連なり、この舞台の演目の全てが終わった。
スタッフ(女性兵士兼捕虜)たちが、忙しなく走り回っていた。男共は偉そうに食うばかりで使い物にならず、素行が酷い者から地下牢に押し込んだ。
働かざる者、食う何たら。
学校側のメンバーが控え室に集まり、無能の話を聞いていた。
「…全否定だね…」鷲尾が悲しそうに呟いた。
これまでの準備と理念が覆る悲しい話。
「そこまで否定的になる話でもないよ。同じ人間だから文明として進化するのは必然。馬車から車。原油から燃料やプラスチック。紙風船から気球。紙飛行機から飛行機。空を飛ぶ魔術が存在するなら、舟を飛ばす技術にも何れは辿り着くのも当然」
山査子が挙手をした。
「私が飛行機作ろうか?幾つか無人機で段階踏めば作れるかも知れない」
「それも一瞬考えたけど。止めたほうがいいと思う。行き過ぎた急速な進化は必ず破綻する。完成系に近付ける切っ掛けにもなり兼ねないしさ。僕らは僕らの遣り方で行こうよ。何も僕らはこちらの世界を壊しに来たんじゃないでしょ?」
「空飛ぶ舟だべかぁ。そりゃまたど偉いもん考えるべな。西側はおいらの担当だべ。帝都の工房さ、プチッと潰せばええんだべ?」
「師匠。西側にお戻りになるなら、俺も」
サリスの威勢が空回る。
「んにゃダメだ」
「どうしてですか?俺が弱いからですか?空を飛べないからですか?」
「人が大勢、犠牲になるから、だべよ。罪も無い一般人も巻き添えにするっぺ」
直接的にではなくとも。誰かが責任を負わされる。
工房には奴隷に近い従事者も多く働いているだろう。
責は末端に押し付けられる。帝国とはそう言った国。
「俺なら、でき」
鷲尾の平手がサリスの頬を打った。
「人殺しがして欲しくて剣を渡したんじゃない!自分の身を守る為。大切な人を守れるようにって。自分から率先して殺しに行くのは違うよ」
そして抱き締める。若き少年が履き違えないように。
「ご、ごめんなさい」
開演時間が迫る。
解体した猪肉を金網に乗せ、炭で焼き上げた。
香ばしい脂の溶けた煙が爆ぜた。周辺の者が生唾を飲み込んだ。
「無駄なんて、誰にも言わせない!行くわよ」
円陣を組んで鷲尾が左腕を中央に差し出した。
続く演者に加わり、無能も手を重ねた。
余計な御託は不要。鷲尾の号声に合わせ、全員が腕を振り上げた。
ステージ端の火台が弾けたのが合図。
「アルバさん。僕は先手を撃ちに行きます。後始末は任せても?」
「もちのロンだっぺよ。突っ込み過ぎるでねぇべよ」
「はい!」
無能以外のメンバーが各方面に走り出した。
舞踊も楽芸も、全ては貴族の嗜み。
下の者には浸透していない。初手はそれを打ち破る。
序曲は発声調整。鷲尾とカルバンの共鳴ハウリング。
スピーカーが大音量で音割れする寸前まで。
聞く者を逆撫でするポップ調は排除した。
焦げた煙を大型扇風機で送り届けた数分後。広いステージに演者が並んだ。
サリスと鴉州が段下へと降りた。
構えたのは木刀と、普通の鉄球。
素振りを繰り返すサリスの隣で。
「ボールは人に打つける為の武具じゃないのに…」
鴉州はクッションで包んだ鉄球を軽くバウンドさせ、感触を確かめた。残念ながらボーリングの球並に重い。
スタミナ、筋力的に長時間の使用は避けるべきだ。
-スキル【巡礼】
並列スキル【ループ】発動が確認されました。-
「サリス君。私も木刀一本借りるね。この剣技はベンジャム特性。参考にするならして」
「はい。勉強させて貰います」
基本の型は言葉通り。ベンジャムで叩き込まれた物。
「ステージには誰一人近付けさせない!百を生かす為に一を斬る」
柄を両手で握り絞めた。左足を半歩前へと擦る。
インカムから山査子の号令が飛んだ。
「壁開くよ。1,2,3!」
壁向こうの数千人が双極隊列を組んだ。食料が枯渇してから数日。凄まじい精神力で盛り返していた。
プリシラベートの千騎も動き出す。
側面真横から分断する腹積りでいたが、殺さずの作戦執行下では攻撃は限られる。
エドガーの命の元。溢れた分子を抑え、退路を塞ぐ役に徹していた。
「フウコ殿。穴はまだなのか。何かしらの魔術を唱えているぞ」
「まだまだ。どうにか阻害して下さい。敵の大将を巻き込まないと意味が無いの」
「それはそうだが。ええい、我らは陽動。魔術隊、前へ。奴らの濡れた身体にたっぷりと砂でも掛けてやれ!眼と口を塞いでしまえ」
詠唱の邪魔をするだけなら簡単。
特製魔道具は詠唱要らず。機動早さはこちらが有利。
切り札を初手から切る。
空いた隙間から雪崩れ込む敵兵。
ステージまでのアリーナ上には、数日前までの仲間たちが立ち塞がっていた。
数的劣勢は明らか。それでも敵陣の将軍は折れてはいなかった。
「この私の指揮下を飢餓で解くとは、中々恐ろしい手を使う。しかし、檻を解くのが早過ぎたな。幻しの舞曲なぞに惑わされるな!残る全軍で…」
山査子の次の指示が飛ぶ。
「全軍退避。ポチッとな」カチリと言う音がインカムから響いた。
ドスンとの音と共に、敵陣の足元の地が消えた。
空けられた大穴には抗えず、残らずが飲み込まれた。
台形の穴では地上までの通路は無い。
重なる様に落ちた何人かは軽傷を負ったが、生き埋めにされた訳でもないので、生きてはいる。
ロープを取り出そうとした何割かの頭上に、薄く砂礫が降り注いだ。
発動出来た魔術は全て蓋の障壁に弾き返された。
「聴く気がないなら退場」
大きな看板が穴の外周に立ち並んだ。
流れる曲調が転じた。
スローからアップテンポへ。
美しい2人の歌声に、敵兵の動きが止まった。
「聞くでない!抗え!魔術を」
帰るべき場所、待つ人たち
行くべき場所はここじゃない
数多の世界、越えた先
出会えた奇跡
帰るべき場所、待つ者たち
来るべき場所はここじゃない
幾多の世界、越えた先
交わる軌跡
戻るべき場所、小さな家
迎える場所はここじゃない
あなたの世界、彼の地にて
消える命
「惑わされるな!まど…」
将軍の声にも微動だにしなくなった兵士たち。
敵兵だけではない。その場に集まる全ての者が、手を止め聴いていた。
流れるような歌声が、確実に心を捉えた。
-スキル【アイドル】
並列スキル【言霊】発動が…、素晴らしい。-
鷲尾がマイクに乗せて絞り出す声は、荒野北から参じる者たちへも届いていた。
ステージ上の後ろでは、曲に合わせて演舞する乙女。
幼いような妖艶。男女を問わず、その舞いに息を飲み込み見取れていた。
尾を引く衣装。覗き出る長い手足。
並んだ太鼓を打上げる長髪のアルバも、不思議な弦を奏でる岸川も身体を大きく揺らしていた。
アリーナ一帯から歓声が押し上がった。
一定の距離を残した場所で、思い思いに踊り出した。
一部溢れだした兵士の数人が、ステージに駆け寄ろうと走り出した。それを阻んだのはたったの2人。
段下から離れた鴉州が木刀で払って回った。届かぬ相手には鉄球を打ち込んだ。
ステージ直近には、サリス一人。
「俺だって!ちゃんと歌を聴きたいのに!」
別の意味で憤っていた。
鷲尾がカルバンに目線を送り、マイクを離した。
「フウ。フィナーレ」
「ラジャ。ポチッとな」
大穴の前方に上り階段が出来上がった。
再びの転調。スローバラードへ。
恋を知りました。届かぬ恋を
届かぬ想いが、また一つ
波間に飲まれた泡のよう
愛を知りました。届かぬ愛を
届かぬ想いが、また二つ
波間に埋もれた沫のよう
愛しいあの人。届けと声を
届かぬ声が、また三つ
波間に重なる波のよう
疲れた兵。あの人の元
消える命が、また四つ
波間に溶ける声のよう
殆どの敵兵たちが障壁を潜れた。上がれた兵士が次々に武装を地へと投げ捨てた。
三度の転調。よりスローライドへ。
-スキル【アイドル】
並列スキル【鎮魂歌】発動が確認されました。
私も生で聞きたいです!-
鷲尾はマイクに両手を添えた。最後は皆に捧ぐ歌を。
魂の寄る辺。空の果て
昇る白きは、あの人の
今夜は泣こう。想う人の笑顔を胸に
望まなくとも、明日は来る
魂の寄る辺。辿る果て
昇る光は、あの人の
今夜も泣こう。想う人の言葉を胸に
望まなくとも、日はまた昇る
魂の寄る辺。此所に在り
昇る形は、無くなりて
今夜に送ろう。想う人の行く場所へ
望まなくとも、闇は去る
魂の寄る辺。明日に在る
昇る朝日は、変わらずに
今夜で終わろう。想う人の行く場所で
望まなくとも、明日は来る
地上に這い出たヒッテランは、落とし掛けた剣を握り絞め直した。そして振り上げ叫ぶ。
「余興は、終わりだ。道を空けよ!」
ステージまでの間に細い筋道が開いた。
-スキル【野望】
並列スキル【抵抗】発動が確認されました。-
か弱き剣を手に、ヒッテランは無謀にも走り出した。
「しつこい男は嫌われるってさ!」
負けじとサリスが集中を一点に向けた。
-スキル【勇者】
並列スキル【破願】発動が確認されました。-
打ち合うと同時に、周辺が間を空けた。
打合い、剣と木刀が重なる度に大きな火花が飛んだ。
剣が業物なら、樫の木刀にもコーティングが施されている逸品。武器として互角。
低い打点から打上げられる木刀。
上段から降ろされる真剣。
体勢を大きく崩された方の敗北。
「王族が国の再興を望んで何が悪い」
「知るかよ!」
鍔迫り合いに持ち込み、サリスは腰の鞘を膝で打ち敵の注意を逸らせた。
離れ際の中段突き。武装の薄い脇腹に打ち込んだ。
「くっ」
ステージ上で繰り広げられた演舞のよう。
敵が剣を手放すまで。距離感を掻き乱して連撃を繰り出して見せた。
両腕両足、脇肋の骨を打ち砕いた。
「み、見事…。剣技と呼ぶには、少々粗い、な…」
ヒッテランは敵味方が見詰める中、意識を落とした。
「首領は落ちたぞぉぉぉーーー」
サリスの勝ち名乗りと共に、沸き上がる歓声。
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