上 下
63 / 115
第3章 大狼討伐戦

第24話 事前ミーティング

しおりを挟む
時はそれぞれの告白より数刻前に遡る。

宿屋ローレンライにマクベスとゴルザ両名以外の人間が、最上階の峰岸組の部屋に再度集まっていた。

ロンジー女史の伝達事項を伝える為である。

「わたしゃ眠い。端的に伝えるからよーくお聞き」

全員の顔を見渡し、一呼吸置いた後。
「ここより北のマルゼ。使えない4人組が先行してる要塞都市が在るのは既知だと思う。全て大狼フェンリルを討伐する為に造られた町さ。国兵でない冒険者が入場出来る条件はただ1つ。B級以上の功績がある者。異世界の召喚者はフリーパスさね。身分を隠したまま潜り込むのは不可能。打てる手はキョーヤとユーコ以外の等級を一気に引き上げるか、異世界人だと名乗り出るしかないね」

だからマクベスさんは、リンジーさんとメイリダさんを話題から外したのか。

自由を奪われるのは嫌だ。B以上に成ると何かしら国からの束縛を受ける。それも嫌なら国外追放。

鷲尾さんが挙手をして意見を述べた。
「私たちだけ。峰岸君と斉藤さん以外で単独で動くと言うのはダメですか?」

「最高戦力に近しいあんたらを、態々二分するってのかい?フェンリルが一体だけだなんて、誰が言ったんだい。嘗め過ぎだよ。一匹倒す前に他に喰われるよ!」

想定外な話。そうだ、誰もフェンリルが一体だけとは言ってない。その事実に驚愕する。

「フェンリルの強さも然る事乍ら。見知らぬ先行組が居たら連合軍に磨り潰されちまう。戦いになったら物の分別が付く状況じゃなくなる。共闘なんざ期待するだけ無駄」

国の大義と冒険者たちの理念。それが合致してこその討伐戦。乱戦になってからでは異物は排除の対象。

行くなら端から顔や素性を提示してから行けと。
誰もが知るゴルザさんでも無ければ無理は通せない。

「僕らはBに上がれる条件は満たしてますか?」

「問題無いね。ミストは何もしちゃいないが、異質な強さは誰が見ても明らか。タッチーたちは紛いなりにもSランクの魔獣を2体も討伐し、赤竜の首を献上。これ以上の功績があるもんかい。カルバンは故国ゴーウィンの高名な魔術師の末裔。2人はその付き人。誰も文句は言わない」

条件は既に満たされている。全員が。

「リンジーとメイリダは元がB級。今回の功績だけでA級は当確。マルゼではどの隊を任されるかは解らない。あそこの指揮官が口を挟んで来る可能性は大いに感じる。拒否や敵対するのは構わないが、仲間内で揉めれば。後は解るね」

堂々巡り。単独孤軍奮闘は望めない。他の隊との連携の方が大事。

「編成に付いては心配ないかも知れない。根回しにジョルディを4人組と一緒に送ったからね。あの子が上手くやってくれていれば、望み通りに進められてるだろうさ。交渉を有利に進められる最適なスキル持ってるからねぇ」

「あのスキルがここで効いて来るんだ…」
リンジーさんが一人で唸っていた。

「あの子の努力を無駄にしたくないなら、全員腹を括りな。ミストには伝わらないかも知れないが」

「ちゃんと伝わってるわ。ただ私は寒いのは苦手。キョーヤと離されるなら、一端北西部の巣に帰らせて貰う。私の背を襲おうものなら、言わずと知れた事」

言葉通りに蜂の巣になるんだろうね。

「要塞内で暴れないで居てくれれば何も言わないさ。義理は全く無いが、頼んだよ」

「頭の片隅に置いておこう」


「フェンリルの件はあんたらに任せる。明日にでもマクベスに直接気持ちを伝えな」

妙に引っ掛かりのある物言い。まだ何かあるのか…。
ああ、一番聞きたくない奴か。

「大陸西側諸国と、南のプリシラベートの動きですか」

「頭が回るようになったねぇ、タッチー。そうさ、忘れてはならないクイーズとベンジャム以外の諸外国の動き。フェンリルの首を狙っているのは何もウチらだけじゃあない。これまでの所、有利に進められて来たのは、北の山脈を間近に望める二国だからこそ。北で戦ってるのが知られれば直近の国も、西側も黙っちゃいないだろう」

疲弊した二国を指を咥えて黙っちゃいない。そんな所だろう。漁夫の利が悪いとは言わない。言えた義理でもない。

「序でに。異教徒。邪神教徒。数こそ少ないが中々侮れない連中。防衛の主要拠点クロスガング。その頭が自壊するとはお国も考えもしてなかった。今在る状況は真に」

「敵にガラ空きの背中を見せている」

「それを黙って見ているだけの奴らじゃない。ラムールは私利私欲を優先。ゴルザに討たれても大手で断罪されないって寸法さ。フレーゼ様も心労が絶えない。内心気が狂っても可笑しくないのに、健気な事さ」

全く笑えない冗談だ。虎穴入らずんば、の状況でもない。国としても後戻りは出来ない。

ヒオシの言葉が全てを物語る。
「クソだな」
汚くてもそうだと僕も思う。どうして世界の人々は、手を取り合って戦えないのだろうか。

「そうさ。ふざけてる。この老体まで駆り出される始末。脚を故障したマクベスが羨ましいねぇ。勘弁して欲しい。次にツーザサで何かが起きるなら、全ての終わりか、全ての始まりかの何方かさ」

「そうまでして、この世界の住人が北を目指す理由は?」
峰岸君。聞きたい事ではあるけど、ここで聞かなくても。

「さぁて。信じた者の弱みか。弱者故の高い望みか。もう誰も知っちゃ居ない。全てを知るのは、神だけ。この腐った世界を創り出した神か。その全てを翻そうとした異なる神の所業か。私何ぞに知る由もない。たった1つ言えるのは、そこに希望が在るからさ」

リンジーがロンジーに歩み寄り、抱き締める。
「これが、最後ではない事を祈ります」


「進むなら抗いな。退くなら女々しく祈りな。流されるままに、指咥えて黙って居ればいいさ。文句言ってりゃ誰かが何かして、世界を変えてくれる。そんな夢物語を抱いて、死んじまえばいいのさ」

「偉そうに言える立場にはない。でもこれだけは言わせて欲しい。答えは自分自身で出してくれ」
僕は集まる皆にそう言い切った。

正直ここまでの切羽詰まった状況だとは夢にも思ってなかった。休みたい。もう少しの猶予を。生温い考えだけで生きていた。

「討伐が大きな物だとは解った。西の防衛が良くて数千。それだけで数万の敵に抗えるのか?」
ヒオシが僕の反対の意見を出した。

「数万?そんな情報は得ていない」

「西側には確かに3万規模の部隊が構えてた、だろ?」

「そうだね。あれは、脅威だ」
「ツーザサとサイカルは、また戦乱に巻き込まれるのかよ!もう沢山だろ。今度は十倍以上の人間との戦争。解っていながら、何で少数しか置かないんだよ」

「ヒオシ。それがツーザサ。延いてはクロスガングの悲しき定め。防波堤としての役目は。魔物に対する物だけじゃないの。町に居た人々は、皆覚悟を決めて留まっていた。それが与えられた役目。最西のサイカルの役目は、戦の発端を知らせる警鐘」

「ラムールは、その役目から逃げたのさ」

「その代役を命じられたロンジーさんは、それが解っていながら向かうんですか?」

「誰かがやらなくちゃいけない事さ」

「ツーザサがまた巻き込まれるの…」
鷲尾さんの顔が青ざめる。何だかんだ、サリスが心配なんだ。ある意味安心した。


「無能君。あの鍵、使うわよ」
山査子さんが、僕に許可を求めて来た。
「人との、戦争になるよ」
「承知の上で聞いてる」
これは、綺麗事じゃないんだ。

「西と南は頼んだよ。僕たちが戻るまで」
約束は出来ない。大狼にどれだけ時間が掛かるか解らないから。

「させるもんですか。やるわ。たったの3人ぽっちでも」
鷲尾さんの決意も固い。

「私共3人は残念ですが、北への参戦は出来ません。代わりに西と南の侵攻を抑えましょう」
二度と間違いは起こすまいとするカルバンの表明。

「この先どうなるかは予想出来ません。ロンジーさん。東側はどう動くと思います?」

「現段階では休戦中。北東海域の青竜を抑える大役もあるし。こちら側の味方であると信じたいね。陸地に払ってる余裕は微塵も無いと、国は見てる。同時進行で青竜まで暴れ出したら…。誰の予測も外れるさ」

それぞれの覚悟もあり、僕らも腹を決める。
この時点では、僕自身。西の大陸への注意を外していた。見えない西大陸で何が起きていたかなど。
ミストさん以外は。と銘打っておく。

有知有能では届かぬ頂き。まだその先が在った。
北の果てにも、西の先にも。この世界の人類が未だ辿り着けていなかった場所の双方で。

逃れられない厄災は、何の前触れも無く去来する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...