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第3章 大狼討伐戦

第15話 終焉を告げる華

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各自担当した魔物のマッシュアップが終了。
森の木々が蠢いてる。壮大で壮観な光景。

お猿のリーダーは、ギングスモンキーに。S突入。
最後にハイタッチしたら僕の肩外されましたわ。

ヒオシ担当の木の精霊は、キノピアに。Aの上。
お仲間とご一緒に根っからの武闘派になった。木々を傷付けたり火を放つ、愚かな行為は許さない。濃い樹液攻撃は毒にもなる。枝葉が自力で動く様は定点最凶。夜中には拝みたくないね。

リンジーさん担当の鳥たちは、セグアバードに。Aの上。
リーダー格の梟を筆頭に、他種の鳥類まで従え堂々たる風格を醸し出してる。夜行組と昼行組に分かれ、夜行組のリーダーさんは何時寝るの?疑問は残る。
配下が強けりゃ問題ないか。

ジェシカが少々手子摺ってた虎は、トリプルホーンタイガーへと進化。12頭中3頭も。絶滅危惧種との噂は本当でそこまで数が減らされてるとは正直驚いた。

乱獲し過ぎだろ。少しは調整考えろよ。胸クソ悪い。

出だし、ジェシカと只管鬼ごっこをしていた臆病さは何処へやら。強制的に獣の魂を呼び起こされ、今では重厚なオーラで漲ってる。近寄りがたい。

全頭ジェシカに手懐けられて、ゴロゴロ腹を見せてる。でっかいので可愛らしさは感じない。リーダーに一回ジェシカが背中をざっくりやられた時は、僕が全滅させそうになってしまった。危ない危ない。簡単にキレる若者には成りたくないぜ。上回復で傷は残ってないし。本人は笑顔で服の心配をしていた程度。

何処かの森でタイガー種を発見したら、ここへ連れて来てもいいな。補強と数を増やすには、交配を促すしか手はなさそう。


予定よりも早く整った。軍勢の動きは特に無かった。
どうすべきか協議中なのだろう。森の住人は総数でも1万にも満たない。それも一部を強化しただけ。

全軍で踏み込まれたら厳しい。でも僕らが出来るのもここまで。これ以上介入すれば、戦時戦犯扱いされても否定出来なくなるしね。

森へ強行突入し、横断出来ても。ボロボロの状態では東国とは戦えまい。火の魔術を行使してないのを見ると、あちらサイドも新たな黒竜の出現を警戒しているんだと思われる。

可能性は極めて薄いが、零じゃない。


「予定よりも早いけど、そろそろ学校に戻ろう…ん?」
広域サーチに反応があった。東側から?これは、カルバンだ。単独で急速接近。他の2人の反応が無い。

ぽっかり口を開けて呆けてるキュリオとメイリダさんのお口を閉じて、荷物の片付けを促した。

「カルバンがこっちに来てる。学校で何かあったらしい。こっちも急いで引き揚げよう」

仲良くなった魔物たちとのお別れ。名残惜しい。
黒竜の脅威が消え去ったと確定認知されれば、この森も戦場となるかも知れない。人間は何処までも欲深で汚らしい生き物だから。

何時からだろう。人間が自然を蹂躙してもいいだなんて傲慢な考えを持ったのは。この世に生まれ落ちた瞬間?

頑張れよ、ギングス。負けるなよ、人間なんかにさ。
人間の僕が言えた台詞じゃないな。

手を振るとギングスたちが振り返してくれた。何時になるかは解らない。いつの日かもう一度ここへ来よう。それまで覚えててくれると嬉しいな。



全速で森を抜け、馬車移動中のカルバンと合流した。
「どうしたの?2人は?」
「皆さん、急時です。言えた義理ではありませんが、どうか2人を助けて下さい」

彼女の話を要約する。
学校の地下には南方に続くダンジョンが在り、偵察を兼ねて潜った所。同級生の誰かと同化した上位魔獣が現われ、鷲尾さんだけを連れ去ってしまった。

既に半日程経過。鷲尾さんの後を追った山査子さんも強いとは言え、どこまで持つかは解らない状況。

「ダンジョンは馬車が通れる大きさ?」
「そちらのは少し小さくしないと厳しいです」

大型を造り変え、縦長の車両に変形。

「クラスの誰かが主犯なら僕らの責任。鷲尾さんたちを救う意味もある。気が進まないなら残ってもいいよ」
「それ以上言ったら、本気で殴るぞ」
ヒオシが拳を握って見せた。ごめんってば。

「見損なわないで。冒険者足る者。助けを求められて応えないなら、野盗と同義」
「知っていて行かなかったら、きっと後悔するよぉ」
メイさんとキュリオの意志も固い。聞くまでもなかったな。

カルバンの馬車を預かり収納。7名乗車の馬車を滑り走らせる。全開魔力。時間が惜しい。最悪車は乗り捨てる。

マップ表示で学校に到着後、カルバンの案内に従いダンジョンへと突入。

「俺らが転移して来た頃には、こんなダンジョンは無かったはずだ」
「たぶん黒竜の襲撃で口が開いたんだと思う」
「なるほどなぁ」
「学校周辺も、もっと調べておくべきだったね」
「何も無いと思い込んでたからな。灯台下暗し」


南国プリシラベートとの国境の真下に差し掛かった。
そろそろ火を使っても問題なさそうな距離。しかし別の問題が発生した。岩盤に皹を入れ、崩落させたら国同士の責任問題。果ては戦争。あっちもこっちも実に面倒臭い。

臭いと言えば、先程から硫黄臭い。一瞬誰かのおならかと黙っていたが、どうやら外から流入している模様。ある意味良かった。

サーチを展開。巨大な何かと、2人が今でも交戦中。2人が健在でホッとした。のも束の間。

7人全員の呼吸が乱れた。慌てて外へと飛び出す。

「良かった。間に合ってくれた。私が時間稼いでる間に、フウはマスクをお願い」
「直ぐに。暫く息止めてて!」

僕らの方に駆け寄って来た山査子さんが、即行でガスマスクを7つ作り上げた。頭の後ろで結ぶ簡易マスクに見えても、そこは山査子さんの特製魔道具。フィルターに白石の粉を塗してある。

正常な呼吸に目が覚める勢い。

「硫化水素だったらヤバかった。単なる硫黄ガス溜り」
無臭だったら、数秒で気付かずあの世の川渡り切ってた。
地下って怖いね。色んな意味で。

「助かった。あいつ誰?」
助けに来た積もりが助けられる。立場無いわぁ。

「アビは藤原じゃないかって言ってる。斬り刻んでも直ぐ再生。その度に強化。デカ過ぎて体術も無理。本気で殺しても生き返る。あいつ不死身だよ」

「あれが藤原か。確か前にちらっと鷲尾が好きだとか言ってた気がするな。藤原の成分はどれ位残ってるの?」
ヒオシが指を鳴らして尋ねた。

「解んないよ!こいつ、やたら私の服溶かそうとするし」
円月輪を投げ飛ばしながら、鷲尾さんが憤慨してる。竜鱗の繊維を編み込んでなかったら、今頃丸裸に違いない。

「鷲尾さんチェンジ。おれが相手するから、後ろに控えててよ。教授、その間に何か対策考えてくれ」
「お願い。もう私の円月も通じなくなってるから」

超グロい敵は鷲尾さんだけに集中してる。視界から外れなければ逃げない様子。

「メイちゃん。気持ち悪いよぉ。これからあんなのともいっぱい戦うの?」
「あ、あんなのは序の口よ…」
目を逸らし気味ですが。

リアルにキモい。のは今は関係無い。同級生に手を掛ける罪悪感も、不死身だと聞くと多少は薄れる。

局所を斬っても無駄。殺しても生き返る。自我がなさげで説得も不能。出来ても鷲尾さんを差し出せとか言いそう。
詰んでる。

「不死の相手か。燃やしてみたいが、ここでは無理ね」
仰る通りです、リンジーさん。
今度はジェシカが山査子さんに質問した。
「死して復活までの時間は?」

「2回は倒してみたけど…。1度目は2分くらい。2度目は数秒だった」

「その時の違いは?」

「1度目は身体を細切れ。2度目は電気ショック+改造スタンガン」

おまけで恐ろしき道具名がぶち込まれた。怖いから今は深追いしない。身体的損壊度で復活までの時間が変わると推定。

先送りの論理でも、やるしかない。
ドデカい腹にボディーブローを連打してるヒオシに向かって声を掛けた。

「ヒオシ、一度だけ胸開いて。僕があいつの魔石を破壊する。次いでリンジーとジェシカで岩の杭を心臓部に突き立てて欲しい」

キュリオに槍を撃たせてもとも思う。ただ失敗したら内蔵まで強化させる羽目に陥る。今回だけは経験豊富な2人に頼ろう。

「おーけい。タイミングは任せろ」
推定藤原君は肉体的強化に加え、強電撃耐性も獲得してる。チャンスは一度切り。同じ手は使えない。

ヒオシがバックステップで距離を取りながら、大剣を引き出した。ザイリスさんに比べると小柄だから、剣身がはみ出してしまう。咄嗟に構えたのは下段突き。

前ステップと同時に肩を入れて斬り上げ前傾。ヒオシの足の動きに合せ、右隣からブレイカー。僕の後方から岩石製の杭が飛ぶ。

一瞬の出来事。僅かでもタイミングがずれれば反撃されて失敗。誰もが息を呑む瞬間。

「わ…し…」断末魔の代わりに、最後に藤原君の言葉が聞こえた気がした。

垣間見えた心臓が、鼓動を止める。
「収納!!」それで決着は着いた。

問題の先送り。もしかしたらBOXの中で復活するかも知れない。我がBOXの機能を全て把握してるワケじゃない。身を以て体感した中の状況を思い出す。

極低温、真空、無重力。そして時の遅延。責めて時間と言う概念が無かったら。彼が中で苦しむ事はないだろう。今はそれに期待するしかない。対応策が今後見つかれば、本当の意味で助ける為に外へ出そう。

「や、やったのね。でも…」
鷲尾さんが地に座り込んだ。

凶悪な敵は倒せた。けれど、僕らは何も。誰も救えなかった。言葉にならない無力感だけが、静かな洞窟の深部に漂っていた。

念の為にワニの魔石だけを取出し、ヒオシのBOXに入れて貰った。

ヒオシが一息吐き。
「いやー終わったなぁ」大剣を地面に深く突き刺し、大きく伸びをした。

「いい加減ちゃんと寝たい…ってヒオシ、足元何か水湧いてね?」

「ん?」

「まさか…、マジで」
「温泉!?」
鷲尾さんの言葉を合図に。全員で馬車に乗り込んだ。

9人乗車は想定外で中は寿司詰状態だったけど、文句を垂れてる暇は無いです。

「おぉマジかぁ」
ヒオシがメイさんを膝に乗せ、後部の窓を覗いた。

後ろから迫る熱湯濁流。熱気が窓を曇らせる。

「水がこちらに来てるなら、道はプリシラには繋がってなかったのだな」
リンジーさんは何時でも冷静です。申し訳無さそうにしてるメイさんを睨んで、眉間に皺を寄せてる以外は。平等って難しい。

僕の上にはほら。膝って2つあるじゃん。キュリオとジェシカで仲良くシェアしてるのさ。
「あらキュリオ。お隣の席が空いてますわよ」
「どうぞジェシカ。さぞお疲れでしょう。空きはあなたが」
結構バチバチやっております。何を言っても角だらけ。無言を貫く所存です。情けない。

「ねぇ無能君」
「何?鷲尾さん」
「正式に婚姻は結んだの?2人と」
「え?まだだよ。てかあるの?結婚式とかって」
「あるに決まってるじゃん。どこの世界も事実婚なんて流行らないよ。でさ。まだ空きがあるなら、私も加えてくれないかな。結構本気で、冗談じゃなく」
「…」

「今は答えないで。王都に戻るまでに考えて欲しい」
膝上の2人も無言。鷲尾さんはこちらに残る気なのだろうか。単なる寂しさとは思えない。ひょっとしたら、僕の答えで進路を決める積もりじゃ。
「うわぁ抜駆け。私はおじ様がタイプだから2人はパス。どうせフラれるし。だったら玉砕してみるわ」

今は保留にしよう。お互い冷静じゃないし、背後の濁流は勢い増してるしね。

VS濁流とのデットヒートは結局入口まで続き、辛くも逃げ切り勝利。

噴水は内包していた汚物を全て押し流し、時間が経過しても留まらず学校の1階部を水浸しにした。

生態系を破壊する可能性は否めないが、突貫工事で東の森を縦断する川まで排水ルートを構築。途中に浄水場と簡易ダム。主にリンジーさんと山査子さんが頑張った。

温泉の出入り口に蓋をして、圧抜きバルブを設置。
学校の水路部、配管、貯水槽、排水系の見直しと温泉との連結。温度調節用魔道具の作成。

全員総出で対応。徹夜になり、山査子さんの魔力が尽き果て気絶すると同時に施工は終了。

適当に食事を済ませ、泥の様に眠った。


翌朝。復活した山査子さんが、待望の大浴場を校舎1階の空き教室に男女別で設営。

「生き返りますなぁ、先生」
「温泉なんて何年振りかなぁ、教授」

だだ広い浴場に2人だけ。
壁向こうの女子の笑い声が時折聞こえて来る。

こんな時間が何時までも続けばいいのに。後数日でゴルザさんが王都に到着する頃。そうも言ってられない訳だけど。今だけは。今日だけは。全部忘れよう。

モラルとか…。

「行くかね、我が友よ」
「健全な男子足る者。冒険してなんぼ」

覗きは犯罪です。解っています。けどやらせて下さい。
と言いつつ、実行する勇気はなかったワケで。

立ち上がる素振りだけして笑い合った。

鷲尾さんの告白が無ければ、やっちゃったかもだけど。
返答の前に軽蔑されるような行動は、余りにも失礼。僕も真剣に考えなきゃ。

「思えば遠くに来た様で」
「振り出しまで戻って来たよな」

そろそろ上がろうかと話していた矢先。幸せは、何と向こう側からやって来た。

女子組が全員。ビキニ着用で男湯に乗り込んで来た。
ありがとうございます。じゃない!

お嫁の4人はまだ解る。なぜ残りの3人まで来るの?
恥ずかしそうに…。なら止めとけばいいじゃん。こっちは嬉しいけどさ。

各員のフォルムは割愛させて頂きます。
何らかの順位付けを強いてするならば。

不動のTOPはキュリオ。2番はメイリダさん。
3番は鷲尾さん。4番はジェシカ。5番は山査子さん。
6番はカルバン。7番はリンジーさん。

「やはり風呂も食事も、大勢だと楽しいな」
リンジー様は開き直っておられます。実に楽しげに話題をすり替えられました。見えてる地雷は踏みません。

そして男の僕らは、諸事情で立てません。肉体のある一点が勝手に反応を示すが故に。

混浴って意外に会話が弾まない物なんですね。初めて知ったよ。何事も経験かな…。


それ以上の発展は無く、下半身の火照りが収まったタイミングで腰タオルで逃げ出したとさ。


良く冷えた白ワインを柑橘系の果汁で割ったカクテルで程良く酔い。ホットプレートで焼いたワニ肉のステーキを頬張る。癖のある鶏肉に近い味わい。適度な脂身が美味しかった。

そして本日のメインイベント。

校舎の屋上で、全員が完全武装して待ち構える。

「タッチー。本気でやるの?」
「怖いけど。確認しておかないと、帰るに帰れない」

ヒオシの前には打上げ用の筒が3つ。
長くした導火線を手前に出し、全員が頷くのを確認した上でヒオシが魔術で着火した。


甲高い射音の後の、上空での破裂音。七色に輝く夜空。
腹まで響く轟音。思えばこんな至近距離で、打上げ花火を拝んだ事なんて無い。

香ばしい加薬の臭い。美しく儚い夜空の華。
知らなかったけど、降り注ぐ灰もまあまあ酷い。

消え行く華は、何かの終わりを告げていた。長い悪夢から目覚めるように。切なく、気怠い。虚しさとはまた違う。
新しい物語の始まりの号砲。

黒竜は、この世界から消滅していた。
それが今、確信出来た。
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