52 / 115
第3章 大狼討伐戦
第13話 調教師
しおりを挟む
起きて一番に確認確認。想定以上に行軍速度が速い。
これはうかうかしてられない。
この人たちは本気で遣り合う積もりだ。
後出しや横取り、漁夫の利はマナー違反。
先行されたりしたら手出しは無用。
救援を求められれば別にしろ、あちらも精鋭部隊で臨んでいるに違いない。
先手を取りに行くしかない。
「行こう」四の五の言わずに、突っ走る。
馬車コテージを収納。中の掃除は後にして。
新調し直しと、調整した武装をそれぞれ装備。
僕とヒオシは黒いベスト。ワイリーンの皮から製造。
女子メンバーには、赤竜の皮を加工した革鎧。首元まで包んで反り返った特殊仕様。各位の身体に合わせた物で、シルエットが眩しい。
どれも機動性を重視。
武器は僕がブレイカーをメインに据えた。
ヒオシがザイリスさんの遺品の大剣を打ち直した物。
リンジーさんにはチタニウム製レイピア。
ジェシカにはチタニウム製双剣。ベースのモデルは銀鉄鋼を模した。
メイリダさんにはエレメンタル。魔術の行使と共に靱性も保証付き。
キュリオは雷鳥の羽根を扇子に加工。雷と風を両立可能な優れ物。まだBOXが無いから、供給は僕のストックから出す手筈。無しでも充分な戦力。
全武装には魔石が填め込める。防具には白石。武器には各自の得意分野の色を。
ヒオシのグローブの甲には、赤石…をセットし掛けてたけど今は空気読んで止めたぽい。
いつの間に造ったって?そりゃ学校まで来る数日の内に。
山査子さんに頼んで高出力の炉を拵えて貰ってさ。
急造なれども侮るなかれ。時短も含め、ベースの型は全て山査子さんが整えてくれたので、僕らはほぼ仕上げのみ。
大剣だけはヒオシが一から打ち直した。
遺品であり自分が引き継いだプライドがある。
僕は只管返しの手伝いだけ。費やした時間は、殆どあの大剣に費やした。
何事にも折れない心。
ヒオシの心血を重ね合わせた逸品。
素の状態で、二度と折れない【不屈】に似たオーラを感じ取れた。
打ち直した大剣を、メイリダさんと並んで眺める姿に僕らが掛けられる言葉は無かった。
リンジーさんだけが…、これ以上は野暮でしょ。
青林檎を無事に回収。グリーン通り越して黄金色。
実っていた3割程度は残しておく。欲張ったらコレを主食とする誰かが困る。僕らは強盗じゃない。と言いつつ7割も持ってくんだから、何言われても反論出来ん。
一つの林檎を3人で頬張る。
「う…うまっ」馬じゃないよ。表現に苦しむ美味。
リンゴであってリンゴじゃない。糖度が極限に高い。
かと思えば後味スッキリ。豊潤な香りが鼻から抜ける。
いかんいかん6人全員、リンゴの魅惑に捕われてた。
臨戦状態だった。
軍影はもう直ぐそこまで迫っていた。
そろそろ先端が見える位置。
整列行進。3種の御旗が羽ばたいている。
全然全く知らないっす。リンジーさんの見立てに間違いなかった。本当に連合軍。なら精鋭部隊を揃えたとのお見立ても…。
「先手必勝!」
リンジーさんが地面にレイピアを突き立てて祈る。
直ぐさま周囲に高い壁が出来た。
怯んだのはほんの一時。折り返しの風の魔術が壁にぶち当たった。そう簡単には崩れませんがね。
こちらは小手試し。その場を退き、黒竜の巣へ…。
「なんじゃこりゃ!!」
ガラリと反転する景色。思わず息を呑む。
森を抜けた先は、ただの焼け野原。それも広大な。
「タッチー。真ん中に」
当然僕にも見えてる。巨大なクレーター。
爆心地と思われる中央地点には。
遠距離からでも良く解る。薄紅色の魔石の塊が鎮座していた。
「僕が収納してみる」
ヒオシのBOXも何だかんだで心許ない。大物は全て僕が担当。
今の宣言は、取った後に何が起きるか解らないって忠告も含む。
いったい何が。と思うよりも先に。僕は駆け出していた。
リンジーさんが僕の両サイドに壁を築き、キュリオが風を起こして背中を押してくれた。
ジェシカが壁沿いに風の幕を張る。
ヒオシが振り上げた大剣に、メイリダさんが雷を落とした。火の魔術の代わりの一閃。
殲滅ではない。先頭集団を痺れさせるだけのスタン。
充分過ぎる時間。余裕で魔石まで辿り着き、唱える言葉。
「収納!」手を伸ばし、指先が触れる。
指が砕ける感覚。予想された拒絶。
白石で即座に回復。グローブ無かったら全損も有り得た。
「ヒオシ、チェンジ!」
「おーけい」
大剣を収納したヒオシと交代する。
すれ違い様にハイタッチ。
「白じゃないとヤバいよ」
「らじゃー。久々に、やってみるぜ」
グローブに白石を仕込み。両腕を抱え込むように低く身構えた。久々に見られるんだ。本来のスタイル。
-スキル【闘真】
並列スキル【カウンター】発動が確認されました。-
やっぱりヒオシはこうでなくちゃさ。
左右左右。左右の連撃が撃ち込まれる。
時折血が飛んでいるのは、ヒオシの拳が割れてるから。
魔石を覆う見えない障壁。あれを外すには強大な魔術か肉弾戦。前者は魔石を消し飛ばす危険を感じた。
黒竜が警戒する火が有効と思われる。
火を使えば?んなアホな。黒竜が一体だけとは限らないじゃん。それにあの魔石が黒竜の物である確証が持てないからさ。
障壁はブレイカーでは破れないと咄嗟に判断した。
残る手段はヒオシの拳ってワケです。
回復魔術を駆使しながら、ヒュッと息を出しながら拳を突き出してる。魔力が尽きるのが先か、障壁が割れるのが先かて感じだな。
壁の外では連合軍の猛攻が続いてる。欲深いなぁ。
先行したのは僕らだよ。一欠片だって渡さない。
問答無用で襲って来る辺り。魔石を悪用するのは萬に受け合いさ。最早疑いようもないね。
ヒオシの上半身が上下左右に振れる。相手は不動のサンドバック。足は地に据えるだけでいいのに軽くステップ踏んじゃってるんですが。
彼は非常にノっています。あれは何とかロールではなかろうか。狙い所が集中。弱点が見えたようです。
お外で響く轟音と怒声。何か叫んでる。
よこせ?よっこいせ?
よく聞こえないからどうでもいいや。
内側で続く連打音。次第に音が軽く成っていった。
強弱まで多彩に織り交ぜ、遂に。
「よし!」
-スキル【闘真】
並列スキル【壊手】発動が確認されました。-
ピシリ。何かが砕ける音。ヒオシの拳の骨でなくて。
「今の内に」汗でずぶ濡れのヒオシの組み手を借り。
飛び立ち、上段から振り降ろしのブレイカー。
巨大な魔石が2つに割れた。
間に降り立ち、両手で触れる。
「収納!!」
拍手喝采の代わりに、頭上の天より風を纏った弓矢が飛来した。
より強い風に押し返されて帰って行った矢群。ジェシカとキュリオの共同作業。2人の風使いが居れば、弓矢なんて怖くないねぇ。
僕らより上位者は、一人も軍側に居ないので。
烏合の集団が何層もの壁と遊んでいる隙に。
僕らは馬車に乗り込み退散した。
壁のこちら側にはもう誰も居ないのに。それに気付かず暴れる輩たちを放置して。馬車は何事も無く走り去った。
「タッチー君。冒険者は、盗賊稼業もするのぉ?」
間の抜けたキュリオの言葉が印象的だった。
「盗賊じゃないよ。落とし物が悪用される前に拾ったの」
ヒオシがリンゴを囓る。
「おー、やっぱ魔力が回復するなぁ。コレ」
数ならまだまだ余裕。イオラたちへのお土産分だけ残せばいいんだし。
「変わった…。あれは武術と言ってもいいの?」
「激しい闘争心を打ち捨てるような拳闘。闘真…。でも無茶はして欲しくない」
2人に手を取られてヒオシも困惑気味。
「あれは武術じゃな…、どっちだろ。大枠で言えば武術なのかなぁ。どう思う?教授」
「解んないや」その答えは持ってねぇです。
グローブは指の部分に穴が空いてストリート感が増した。
流石は竜皮で頑丈。拳もグローブも全損はしてない。
交代して正解だった。あのまま続けてたら、手持ちの武器が全部壊れてた。
南方の湖の畔にコテージを張った。
黒竜がもしも居た場合。引き連れて森の外や、学校には戻れない。後1日は様子を見る。
魔石のロストに依る魔物の動向も探らないと。
凶暴化するなら数を粛正。しないなら放置。
敵に回すには猿程厄介な相手は居ない。頭良いしね。
西方面に流れ出たら、ツーザサのような悲劇を引き起こし兼ねない。ここで1日。学校に戻って何日かを様子見期間とする。最後に盛大に火でも起こせば、黒竜の存在有無が判明。晴れて王都へ折り返す。
ゴルザさんの沙汰が気になる。クラスメイトの事は、ぶっちゃけどうでもいい。峰岸組もまぁまぁ強い。あっちはロンジーさんにお任せ。
「2人は、母さんに指導を受けたの?」
「ギルドでちょろっとお説教を貰っただけ」
「指導云々よりも先に、俺ら勝手にお出掛けしちゃったからね」
「運がいいわね。母さんは誰にでも厳しい人だった。特に私には輪を掛けて。若い人間を不用意に死なせたくない気持ちの裏返しだとは思う。当事者に取っては散々だが」
それを聞いて胸を撫で降ろす。
「あの人が2人を見て何も言わなかったなら。放っておいても生き抜けると判断したのかもね」
リンジーさんの含み笑顔が眩しい。
軍隊は未だ北を彷徨っていた。手ぶらでは帰れないといった所だろう。精々頑張ればいいんじゃない?手強いお猿さんがわんさと居るけどね。
手を出さなきゃ襲われないなんて知らんだろうし。
放っておこう。放置された僕らと同じように。違うか…。
警戒は解かず、2人ずつ交代で見張り。
外に出る必要は用を足す程度。索敵は魔道具。室内で事足りる。
僕とヒオシ。ジェシカとリンジーさん。キュリオとメイリダさんのペア。分け易いっす。
お喋りも程々に。隣で寝てるから。
暇潰しのトランプ。UNO。物はモチ学校から拝借。
ルールを教えながら、始めてしまった…。終わりの無いバトルを。
失念。僕らは6人。揃いも揃って。負けず嫌いの集まりだったんです!既に時は遅し。
結局朝まで。外の監視もそこそこに。
いやー燃えましたな。何も賭けずにどうしてここまで盛り上がるのかを問いたいよ。
何もかも忘れ、笑い合う。キュリオやメイリダさんにも笑顔がこの時だけは戻った。少しずつちょっとずつ。積み重ねが大事なんだと思う。
激しく眠い。でも、みんなで遊べて良かった。
不完全な状態で戦えるのか?否!無理っす。
ちょっとだけ。ちょっとの積もりが、長い二度寝。一度も寝てなかった。本気で寝ます。
だったら徹夜するなよ。と怒られそうですが。
「皆起きろ」
しっかり者のリンジーさんに叩き起こされた。
「おはようー」
「もう朝だ。囲まれてる」
知ってる。バリバリ敵意向けられてるしさ。
警戒感からか、疎らな軍の残党がコテージ馬車の周囲を離れてワイワイしていた。
ワイワイとは何?何でしょうねぇ。残軍の一部。じゃなく大半が魔物と交戦中。いい加減諦めろよ。
「暫く様子を見よう。助ける義理もないし、大人しい魔物を討伐しようとした罰だと思って。寝直そう」
「タッチー君。ごめん。お手洗いに…無理かなぁ。結構限界かも」
キュリオの生理現象が降臨してしまった。隔夕僕のタンクも半分くらい。気にしてしまったら、スッキリしないと寝られないもんな。
言葉にせずともみんな同様。トイレ行かずに徹ゲーで寝ちゃったからさ。
「さっくり片付けて、おトイレタイムと行こうじゃないか」
「タッチー。センスないわぁ。お猿は?」
「寧ろ襲われているお猿を助けよう」
ちょっとした離れを取出し、キュリオを放り込む。
余裕のある5人で殲滅(気絶)作戦を展開した。剣や小太刀を鞘に入れた状態で叩く作業。
白石をセットした武器は効率が良い。上手い具合に意識を刈り取り重症化はさせない。
今後の人間相手にはコレで行こう。
「き、貴様らは、いったい何だ!」
「人間だ!」
「ウゴッ」
すれ違ったお猿とハイタッチ。いつの間に流行ったん?
クレイジーモンキー。Bの上。
見た目の凶悪さから誤解をされる事受合い。心根はとても優しいが、崇拝する上位種と認めた者に対してはもの凄く従順。純情派。意外に軟派。
ベースの野生からすると、意外でも何でもないよ。
ハイタッチを交したお猿を皮切りに。どんどん気絶者たちを北へと運んで行く。一匹で何体も同時に担いで。
いよっ、力自慢。お猿はこちらの意図を読み、完全に味方をしてくれた。賢い。ただ…、運ばれた後でどうなってしまうのかは、存じません。クレイジーだけに。
そろそろ僕のタンクもヤバい。
隊長格ぽい人だけ残し、他は片付いた。念の為にロープで簀の子にして。運びやすいように、僅かな親切を。
「単刀直入に聞くよ。幾つの国が関与して、何処で黒竜が弱ってる情報を得たの?」
「だ、誰が答えるものか!この悪魔め!猿共ときょ、ふごふご…」
お話する気がないみたいだから、猿轡を施しお猿たちに引き渡した。上手くない。
最初から西側の国には、さっぱり興味が湧かない。ジェシカのご親族が健在なら、その国には興味有りですが。
まだ一度も帰りたいとか本人の口から聞いてないから、帰りたくないんだと思う。帰っても、もう誰も居ないとか。聞き辛いけど、やっぱ聞かないとなぁ。
レディースが用を済ませ、やっと順番が回って来た。
簡易トイレはもう一基必要だ。
山査子さんに追加発注しよっと。
「隊長風の男は何と?」
「喋る気なさげだったから、何も聞かずに渡しちゃった」
リンジーさんが頭をポリポリ。大きな溜息を吐いた。
「言わんとするのは解るよ。でも今の僕らに西側の国に構ってられる余裕は無い。関わりたくない。こちらの情報を与えたくもない。正体不明の6人組が、魔石を持ち去ったって事実だけ持ち帰らせる。黒竜の話題を振っても動揺しなかった。森の内情にも詳しい。あの巨石は正真正銘、黒竜の成れの果てさ。お猿たちが僕の行動に同調した。魔物には解るんだ。誰が何を持っているのかが」
「状況は全てを肯定してるわね。彼らを逃して、大丈夫だったのかしら」
「一つはキュリオやメイさんに人殺しはさせたくない。一つは軍を全滅させても大した意味が無いから」
「意味が無い?」
「昨日のとさっきの奴らは本体じゃない。偵察部隊ってとこかな。本営の大部隊はゴーウィンの跡地に陣を構えてる。この人数で勝てる見込みは薄い。交戦は出来ない。極め付けは、敵の中に遠隔視か、それに似たスキル持ちが居る。だから全く意味が無い」
「視られているのか…。成程、腑に落ちる」
「これだけ暴れても動かないなら。新たな黒竜はもう居ない。この魔石を持っていた黒竜を、誰がどうやって討伐したのだけは気になる。大きすぎて運べなかったのか、ギリで相打ちになったのか。考えられるのはそれ位。あの障壁を破れる強者が現われた。又は運べる手段を得た。ますます戦いたくないでしょ?きっと苦戦する」
誰が相手でも、このメンバーなら簡単には負けない。
逆に取れば、人間と本気の殺し合いに縺れ込む。
そんな無用な争いに、キュリオたちを巻き込みたくない。それが本音かな。
「タッチー。スキルの影響で知能上がった?」
「それも有るかもね。サーチの範囲が広域になって、色んな状況が見えるようになった。今の推論は、状況証拠を並べただけ。確信はあっても根拠はないよ」
「タッチー君…。もう君何て呼べなくなっちゃったな」
メイリダさんが寂しげに笑っていた。根本は何も変わってないから大丈夫っすよ。
女性陣は全員少しだけお姉さんなのは事実。だからって甘えてられない。歳ネタには触れたらあかんっしょ。禁句。
「私は呼ぶよぉ。お話の半分しか理解出来ないしさ。難しい事は何も解らないけど、私に人殺しはさせたくないって言葉は嬉しかったし、信じられる。ありがとね、タッチー君。私ももう戦争は嫌。人間同士で戦って、何の意味があるんだろうねぇ」
「きっと、意味何て無いんだよ。上に立つアホな偉い奴らが勝手に始めただけさ。ジェシカはどうしたい?故郷の国に帰りたいとか、希望はある?」
「私は正直に申し上げて、国に未練は微塵もありません。生まれはゴーウィンの西のミルフィネ。幼少時にゴーウィンの貴族に売られ、暗殺者としての教育を受けさせられました。発現した素養のお陰で。両親の顔も、兄弟が居たのかも思い出せず、ゴーウィンに善い思い出は皆無です。タッチーや皆さんに向かう用事が無ければ、寄る筋合いは無いですよ」
悲しい過去をサラリと喋らせてしまった。そこまで根が深いとは、思ってもなかった。
「ごめん。辛い事思い出させて」
「いいえ。過ぎた過去です。今はこうしてタッチーと、皆さんに出会えた。人並みの恋も友情も諦めていた私に、こんなにも多くの幸せを与えて頂けて、感謝以外に言葉はありません」
「ジェシカは強いね。羨ましいな…」
キュリオがジェシカの頭を撫でた。優しい、姉のような妹のような純粋な仕草。
「キュリオこそ。私よりも辛い目に遭われて」
「決まりだね。西に用事は無し!西の本営の監視を続けて何事も無ければ、夕方に学校へ戻ろう」
「軍影の規模は?」
「ざっと低く見積もって、3万は越えてる。森に乗り込んで来る前に、何か対策打っとかないと」
「対策?」
「何言ってるのさ。僕ら4人はテイマーでしょ。だったらアレが出来るはず」
「アレ…って、まさか。タッチー、マジでやるの?」
「フッフッフッ。何を怖じ気づくのかね、ヒオシ君」
始めるのは【調教】テイマーの真骨頂であり原点。
黒竜亡き今。ほぼ無防備なこの森の番人を、新たに育成する。
素通り蹂躙されたら、東西の国々で本当に戦争になる。それだけは避けなきゃ。
これは一方的な利用じゃない。森の住人たちには、自分たちの住処を守って欲しい。急造で育て切れないにしても、その切っ掛けは与えられる。
猿はベースで知能が高い。敵味方の分別が付けられる。進化すれば自衛専門の、上位種に進化は可能。僕とハイタッチした彼がリーダー候補筆頭。
他にも。
ウエイクルバード。Bの中。
夜行性の一部の梟が魔物化したと言われている。長い体毛に隠れた鋭利な嘴と爪は、硬い岩をも砕く。
キノピオ。Bの中。
変異した木々の精霊。大樹に宿り、森を統べる。影のような存在。主に樫の木に隠れている事が多い。希少種には青い果実を実らせる精霊も居る噂。
林檎を全部取らなかったのは、無駄に精霊の怒りを買わない為でもあった。
ホーンタイガー。Bの上。
一角を保持した大虎。力はあるのに、かなりの臆病者。稀少な角と毛皮を目当てにされ、上級冒険者たちに乱獲された過去を持つ。現存数は少なく、滅多に人前には現われない。絶滅危惧種。
「一人一種担当ね。お猿はかなり手応えあった。リーダーは進化手前。育て方間違えると、凶暴な魔獣に成るだけだから僕がやる」
「私は鳥にする。スキルが動物や魔物にも通用するか試したい」
「おれは精霊かなぁ。拳で語り合えるなら」
「残るは虎ですね。隠者を探し出すのは得意ですので」
「残りの2人はお留守番。食材と魔道具置いてくから、お昼ご飯何か頼める?」
「はーい」
「解ったわ。雷の力を利用した調理器具なら、使っても問題無さそうね」
2人共、雷が得意で助かった。何より負担が少なく済む。
得意気にクルクルと回って見せるキュリオに手を振り、北へと向かった。
これはうかうかしてられない。
この人たちは本気で遣り合う積もりだ。
後出しや横取り、漁夫の利はマナー違反。
先行されたりしたら手出しは無用。
救援を求められれば別にしろ、あちらも精鋭部隊で臨んでいるに違いない。
先手を取りに行くしかない。
「行こう」四の五の言わずに、突っ走る。
馬車コテージを収納。中の掃除は後にして。
新調し直しと、調整した武装をそれぞれ装備。
僕とヒオシは黒いベスト。ワイリーンの皮から製造。
女子メンバーには、赤竜の皮を加工した革鎧。首元まで包んで反り返った特殊仕様。各位の身体に合わせた物で、シルエットが眩しい。
どれも機動性を重視。
武器は僕がブレイカーをメインに据えた。
ヒオシがザイリスさんの遺品の大剣を打ち直した物。
リンジーさんにはチタニウム製レイピア。
ジェシカにはチタニウム製双剣。ベースのモデルは銀鉄鋼を模した。
メイリダさんにはエレメンタル。魔術の行使と共に靱性も保証付き。
キュリオは雷鳥の羽根を扇子に加工。雷と風を両立可能な優れ物。まだBOXが無いから、供給は僕のストックから出す手筈。無しでも充分な戦力。
全武装には魔石が填め込める。防具には白石。武器には各自の得意分野の色を。
ヒオシのグローブの甲には、赤石…をセットし掛けてたけど今は空気読んで止めたぽい。
いつの間に造ったって?そりゃ学校まで来る数日の内に。
山査子さんに頼んで高出力の炉を拵えて貰ってさ。
急造なれども侮るなかれ。時短も含め、ベースの型は全て山査子さんが整えてくれたので、僕らはほぼ仕上げのみ。
大剣だけはヒオシが一から打ち直した。
遺品であり自分が引き継いだプライドがある。
僕は只管返しの手伝いだけ。費やした時間は、殆どあの大剣に費やした。
何事にも折れない心。
ヒオシの心血を重ね合わせた逸品。
素の状態で、二度と折れない【不屈】に似たオーラを感じ取れた。
打ち直した大剣を、メイリダさんと並んで眺める姿に僕らが掛けられる言葉は無かった。
リンジーさんだけが…、これ以上は野暮でしょ。
青林檎を無事に回収。グリーン通り越して黄金色。
実っていた3割程度は残しておく。欲張ったらコレを主食とする誰かが困る。僕らは強盗じゃない。と言いつつ7割も持ってくんだから、何言われても反論出来ん。
一つの林檎を3人で頬張る。
「う…うまっ」馬じゃないよ。表現に苦しむ美味。
リンゴであってリンゴじゃない。糖度が極限に高い。
かと思えば後味スッキリ。豊潤な香りが鼻から抜ける。
いかんいかん6人全員、リンゴの魅惑に捕われてた。
臨戦状態だった。
軍影はもう直ぐそこまで迫っていた。
そろそろ先端が見える位置。
整列行進。3種の御旗が羽ばたいている。
全然全く知らないっす。リンジーさんの見立てに間違いなかった。本当に連合軍。なら精鋭部隊を揃えたとのお見立ても…。
「先手必勝!」
リンジーさんが地面にレイピアを突き立てて祈る。
直ぐさま周囲に高い壁が出来た。
怯んだのはほんの一時。折り返しの風の魔術が壁にぶち当たった。そう簡単には崩れませんがね。
こちらは小手試し。その場を退き、黒竜の巣へ…。
「なんじゃこりゃ!!」
ガラリと反転する景色。思わず息を呑む。
森を抜けた先は、ただの焼け野原。それも広大な。
「タッチー。真ん中に」
当然僕にも見えてる。巨大なクレーター。
爆心地と思われる中央地点には。
遠距離からでも良く解る。薄紅色の魔石の塊が鎮座していた。
「僕が収納してみる」
ヒオシのBOXも何だかんだで心許ない。大物は全て僕が担当。
今の宣言は、取った後に何が起きるか解らないって忠告も含む。
いったい何が。と思うよりも先に。僕は駆け出していた。
リンジーさんが僕の両サイドに壁を築き、キュリオが風を起こして背中を押してくれた。
ジェシカが壁沿いに風の幕を張る。
ヒオシが振り上げた大剣に、メイリダさんが雷を落とした。火の魔術の代わりの一閃。
殲滅ではない。先頭集団を痺れさせるだけのスタン。
充分過ぎる時間。余裕で魔石まで辿り着き、唱える言葉。
「収納!」手を伸ばし、指先が触れる。
指が砕ける感覚。予想された拒絶。
白石で即座に回復。グローブ無かったら全損も有り得た。
「ヒオシ、チェンジ!」
「おーけい」
大剣を収納したヒオシと交代する。
すれ違い様にハイタッチ。
「白じゃないとヤバいよ」
「らじゃー。久々に、やってみるぜ」
グローブに白石を仕込み。両腕を抱え込むように低く身構えた。久々に見られるんだ。本来のスタイル。
-スキル【闘真】
並列スキル【カウンター】発動が確認されました。-
やっぱりヒオシはこうでなくちゃさ。
左右左右。左右の連撃が撃ち込まれる。
時折血が飛んでいるのは、ヒオシの拳が割れてるから。
魔石を覆う見えない障壁。あれを外すには強大な魔術か肉弾戦。前者は魔石を消し飛ばす危険を感じた。
黒竜が警戒する火が有効と思われる。
火を使えば?んなアホな。黒竜が一体だけとは限らないじゃん。それにあの魔石が黒竜の物である確証が持てないからさ。
障壁はブレイカーでは破れないと咄嗟に判断した。
残る手段はヒオシの拳ってワケです。
回復魔術を駆使しながら、ヒュッと息を出しながら拳を突き出してる。魔力が尽きるのが先か、障壁が割れるのが先かて感じだな。
壁の外では連合軍の猛攻が続いてる。欲深いなぁ。
先行したのは僕らだよ。一欠片だって渡さない。
問答無用で襲って来る辺り。魔石を悪用するのは萬に受け合いさ。最早疑いようもないね。
ヒオシの上半身が上下左右に振れる。相手は不動のサンドバック。足は地に据えるだけでいいのに軽くステップ踏んじゃってるんですが。
彼は非常にノっています。あれは何とかロールではなかろうか。狙い所が集中。弱点が見えたようです。
お外で響く轟音と怒声。何か叫んでる。
よこせ?よっこいせ?
よく聞こえないからどうでもいいや。
内側で続く連打音。次第に音が軽く成っていった。
強弱まで多彩に織り交ぜ、遂に。
「よし!」
-スキル【闘真】
並列スキル【壊手】発動が確認されました。-
ピシリ。何かが砕ける音。ヒオシの拳の骨でなくて。
「今の内に」汗でずぶ濡れのヒオシの組み手を借り。
飛び立ち、上段から振り降ろしのブレイカー。
巨大な魔石が2つに割れた。
間に降り立ち、両手で触れる。
「収納!!」
拍手喝采の代わりに、頭上の天より風を纏った弓矢が飛来した。
より強い風に押し返されて帰って行った矢群。ジェシカとキュリオの共同作業。2人の風使いが居れば、弓矢なんて怖くないねぇ。
僕らより上位者は、一人も軍側に居ないので。
烏合の集団が何層もの壁と遊んでいる隙に。
僕らは馬車に乗り込み退散した。
壁のこちら側にはもう誰も居ないのに。それに気付かず暴れる輩たちを放置して。馬車は何事も無く走り去った。
「タッチー君。冒険者は、盗賊稼業もするのぉ?」
間の抜けたキュリオの言葉が印象的だった。
「盗賊じゃないよ。落とし物が悪用される前に拾ったの」
ヒオシがリンゴを囓る。
「おー、やっぱ魔力が回復するなぁ。コレ」
数ならまだまだ余裕。イオラたちへのお土産分だけ残せばいいんだし。
「変わった…。あれは武術と言ってもいいの?」
「激しい闘争心を打ち捨てるような拳闘。闘真…。でも無茶はして欲しくない」
2人に手を取られてヒオシも困惑気味。
「あれは武術じゃな…、どっちだろ。大枠で言えば武術なのかなぁ。どう思う?教授」
「解んないや」その答えは持ってねぇです。
グローブは指の部分に穴が空いてストリート感が増した。
流石は竜皮で頑丈。拳もグローブも全損はしてない。
交代して正解だった。あのまま続けてたら、手持ちの武器が全部壊れてた。
南方の湖の畔にコテージを張った。
黒竜がもしも居た場合。引き連れて森の外や、学校には戻れない。後1日は様子を見る。
魔石のロストに依る魔物の動向も探らないと。
凶暴化するなら数を粛正。しないなら放置。
敵に回すには猿程厄介な相手は居ない。頭良いしね。
西方面に流れ出たら、ツーザサのような悲劇を引き起こし兼ねない。ここで1日。学校に戻って何日かを様子見期間とする。最後に盛大に火でも起こせば、黒竜の存在有無が判明。晴れて王都へ折り返す。
ゴルザさんの沙汰が気になる。クラスメイトの事は、ぶっちゃけどうでもいい。峰岸組もまぁまぁ強い。あっちはロンジーさんにお任せ。
「2人は、母さんに指導を受けたの?」
「ギルドでちょろっとお説教を貰っただけ」
「指導云々よりも先に、俺ら勝手にお出掛けしちゃったからね」
「運がいいわね。母さんは誰にでも厳しい人だった。特に私には輪を掛けて。若い人間を不用意に死なせたくない気持ちの裏返しだとは思う。当事者に取っては散々だが」
それを聞いて胸を撫で降ろす。
「あの人が2人を見て何も言わなかったなら。放っておいても生き抜けると判断したのかもね」
リンジーさんの含み笑顔が眩しい。
軍隊は未だ北を彷徨っていた。手ぶらでは帰れないといった所だろう。精々頑張ればいいんじゃない?手強いお猿さんがわんさと居るけどね。
手を出さなきゃ襲われないなんて知らんだろうし。
放っておこう。放置された僕らと同じように。違うか…。
警戒は解かず、2人ずつ交代で見張り。
外に出る必要は用を足す程度。索敵は魔道具。室内で事足りる。
僕とヒオシ。ジェシカとリンジーさん。キュリオとメイリダさんのペア。分け易いっす。
お喋りも程々に。隣で寝てるから。
暇潰しのトランプ。UNO。物はモチ学校から拝借。
ルールを教えながら、始めてしまった…。終わりの無いバトルを。
失念。僕らは6人。揃いも揃って。負けず嫌いの集まりだったんです!既に時は遅し。
結局朝まで。外の監視もそこそこに。
いやー燃えましたな。何も賭けずにどうしてここまで盛り上がるのかを問いたいよ。
何もかも忘れ、笑い合う。キュリオやメイリダさんにも笑顔がこの時だけは戻った。少しずつちょっとずつ。積み重ねが大事なんだと思う。
激しく眠い。でも、みんなで遊べて良かった。
不完全な状態で戦えるのか?否!無理っす。
ちょっとだけ。ちょっとの積もりが、長い二度寝。一度も寝てなかった。本気で寝ます。
だったら徹夜するなよ。と怒られそうですが。
「皆起きろ」
しっかり者のリンジーさんに叩き起こされた。
「おはようー」
「もう朝だ。囲まれてる」
知ってる。バリバリ敵意向けられてるしさ。
警戒感からか、疎らな軍の残党がコテージ馬車の周囲を離れてワイワイしていた。
ワイワイとは何?何でしょうねぇ。残軍の一部。じゃなく大半が魔物と交戦中。いい加減諦めろよ。
「暫く様子を見よう。助ける義理もないし、大人しい魔物を討伐しようとした罰だと思って。寝直そう」
「タッチー君。ごめん。お手洗いに…無理かなぁ。結構限界かも」
キュリオの生理現象が降臨してしまった。隔夕僕のタンクも半分くらい。気にしてしまったら、スッキリしないと寝られないもんな。
言葉にせずともみんな同様。トイレ行かずに徹ゲーで寝ちゃったからさ。
「さっくり片付けて、おトイレタイムと行こうじゃないか」
「タッチー。センスないわぁ。お猿は?」
「寧ろ襲われているお猿を助けよう」
ちょっとした離れを取出し、キュリオを放り込む。
余裕のある5人で殲滅(気絶)作戦を展開した。剣や小太刀を鞘に入れた状態で叩く作業。
白石をセットした武器は効率が良い。上手い具合に意識を刈り取り重症化はさせない。
今後の人間相手にはコレで行こう。
「き、貴様らは、いったい何だ!」
「人間だ!」
「ウゴッ」
すれ違ったお猿とハイタッチ。いつの間に流行ったん?
クレイジーモンキー。Bの上。
見た目の凶悪さから誤解をされる事受合い。心根はとても優しいが、崇拝する上位種と認めた者に対してはもの凄く従順。純情派。意外に軟派。
ベースの野生からすると、意外でも何でもないよ。
ハイタッチを交したお猿を皮切りに。どんどん気絶者たちを北へと運んで行く。一匹で何体も同時に担いで。
いよっ、力自慢。お猿はこちらの意図を読み、完全に味方をしてくれた。賢い。ただ…、運ばれた後でどうなってしまうのかは、存じません。クレイジーだけに。
そろそろ僕のタンクもヤバい。
隊長格ぽい人だけ残し、他は片付いた。念の為にロープで簀の子にして。運びやすいように、僅かな親切を。
「単刀直入に聞くよ。幾つの国が関与して、何処で黒竜が弱ってる情報を得たの?」
「だ、誰が答えるものか!この悪魔め!猿共ときょ、ふごふご…」
お話する気がないみたいだから、猿轡を施しお猿たちに引き渡した。上手くない。
最初から西側の国には、さっぱり興味が湧かない。ジェシカのご親族が健在なら、その国には興味有りですが。
まだ一度も帰りたいとか本人の口から聞いてないから、帰りたくないんだと思う。帰っても、もう誰も居ないとか。聞き辛いけど、やっぱ聞かないとなぁ。
レディースが用を済ませ、やっと順番が回って来た。
簡易トイレはもう一基必要だ。
山査子さんに追加発注しよっと。
「隊長風の男は何と?」
「喋る気なさげだったから、何も聞かずに渡しちゃった」
リンジーさんが頭をポリポリ。大きな溜息を吐いた。
「言わんとするのは解るよ。でも今の僕らに西側の国に構ってられる余裕は無い。関わりたくない。こちらの情報を与えたくもない。正体不明の6人組が、魔石を持ち去ったって事実だけ持ち帰らせる。黒竜の話題を振っても動揺しなかった。森の内情にも詳しい。あの巨石は正真正銘、黒竜の成れの果てさ。お猿たちが僕の行動に同調した。魔物には解るんだ。誰が何を持っているのかが」
「状況は全てを肯定してるわね。彼らを逃して、大丈夫だったのかしら」
「一つはキュリオやメイさんに人殺しはさせたくない。一つは軍を全滅させても大した意味が無いから」
「意味が無い?」
「昨日のとさっきの奴らは本体じゃない。偵察部隊ってとこかな。本営の大部隊はゴーウィンの跡地に陣を構えてる。この人数で勝てる見込みは薄い。交戦は出来ない。極め付けは、敵の中に遠隔視か、それに似たスキル持ちが居る。だから全く意味が無い」
「視られているのか…。成程、腑に落ちる」
「これだけ暴れても動かないなら。新たな黒竜はもう居ない。この魔石を持っていた黒竜を、誰がどうやって討伐したのだけは気になる。大きすぎて運べなかったのか、ギリで相打ちになったのか。考えられるのはそれ位。あの障壁を破れる強者が現われた。又は運べる手段を得た。ますます戦いたくないでしょ?きっと苦戦する」
誰が相手でも、このメンバーなら簡単には負けない。
逆に取れば、人間と本気の殺し合いに縺れ込む。
そんな無用な争いに、キュリオたちを巻き込みたくない。それが本音かな。
「タッチー。スキルの影響で知能上がった?」
「それも有るかもね。サーチの範囲が広域になって、色んな状況が見えるようになった。今の推論は、状況証拠を並べただけ。確信はあっても根拠はないよ」
「タッチー君…。もう君何て呼べなくなっちゃったな」
メイリダさんが寂しげに笑っていた。根本は何も変わってないから大丈夫っすよ。
女性陣は全員少しだけお姉さんなのは事実。だからって甘えてられない。歳ネタには触れたらあかんっしょ。禁句。
「私は呼ぶよぉ。お話の半分しか理解出来ないしさ。難しい事は何も解らないけど、私に人殺しはさせたくないって言葉は嬉しかったし、信じられる。ありがとね、タッチー君。私ももう戦争は嫌。人間同士で戦って、何の意味があるんだろうねぇ」
「きっと、意味何て無いんだよ。上に立つアホな偉い奴らが勝手に始めただけさ。ジェシカはどうしたい?故郷の国に帰りたいとか、希望はある?」
「私は正直に申し上げて、国に未練は微塵もありません。生まれはゴーウィンの西のミルフィネ。幼少時にゴーウィンの貴族に売られ、暗殺者としての教育を受けさせられました。発現した素養のお陰で。両親の顔も、兄弟が居たのかも思い出せず、ゴーウィンに善い思い出は皆無です。タッチーや皆さんに向かう用事が無ければ、寄る筋合いは無いですよ」
悲しい過去をサラリと喋らせてしまった。そこまで根が深いとは、思ってもなかった。
「ごめん。辛い事思い出させて」
「いいえ。過ぎた過去です。今はこうしてタッチーと、皆さんに出会えた。人並みの恋も友情も諦めていた私に、こんなにも多くの幸せを与えて頂けて、感謝以外に言葉はありません」
「ジェシカは強いね。羨ましいな…」
キュリオがジェシカの頭を撫でた。優しい、姉のような妹のような純粋な仕草。
「キュリオこそ。私よりも辛い目に遭われて」
「決まりだね。西に用事は無し!西の本営の監視を続けて何事も無ければ、夕方に学校へ戻ろう」
「軍影の規模は?」
「ざっと低く見積もって、3万は越えてる。森に乗り込んで来る前に、何か対策打っとかないと」
「対策?」
「何言ってるのさ。僕ら4人はテイマーでしょ。だったらアレが出来るはず」
「アレ…って、まさか。タッチー、マジでやるの?」
「フッフッフッ。何を怖じ気づくのかね、ヒオシ君」
始めるのは【調教】テイマーの真骨頂であり原点。
黒竜亡き今。ほぼ無防備なこの森の番人を、新たに育成する。
素通り蹂躙されたら、東西の国々で本当に戦争になる。それだけは避けなきゃ。
これは一方的な利用じゃない。森の住人たちには、自分たちの住処を守って欲しい。急造で育て切れないにしても、その切っ掛けは与えられる。
猿はベースで知能が高い。敵味方の分別が付けられる。進化すれば自衛専門の、上位種に進化は可能。僕とハイタッチした彼がリーダー候補筆頭。
他にも。
ウエイクルバード。Bの中。
夜行性の一部の梟が魔物化したと言われている。長い体毛に隠れた鋭利な嘴と爪は、硬い岩をも砕く。
キノピオ。Bの中。
変異した木々の精霊。大樹に宿り、森を統べる。影のような存在。主に樫の木に隠れている事が多い。希少種には青い果実を実らせる精霊も居る噂。
林檎を全部取らなかったのは、無駄に精霊の怒りを買わない為でもあった。
ホーンタイガー。Bの上。
一角を保持した大虎。力はあるのに、かなりの臆病者。稀少な角と毛皮を目当てにされ、上級冒険者たちに乱獲された過去を持つ。現存数は少なく、滅多に人前には現われない。絶滅危惧種。
「一人一種担当ね。お猿はかなり手応えあった。リーダーは進化手前。育て方間違えると、凶暴な魔獣に成るだけだから僕がやる」
「私は鳥にする。スキルが動物や魔物にも通用するか試したい」
「おれは精霊かなぁ。拳で語り合えるなら」
「残るは虎ですね。隠者を探し出すのは得意ですので」
「残りの2人はお留守番。食材と魔道具置いてくから、お昼ご飯何か頼める?」
「はーい」
「解ったわ。雷の力を利用した調理器具なら、使っても問題無さそうね」
2人共、雷が得意で助かった。何より負担が少なく済む。
得意気にクルクルと回って見せるキュリオに手を振り、北へと向かった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる