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第3章 大狼討伐戦

第12話 地獄の釜が開く時

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森の中は、とても不思議な雰囲気が漂う。
多くの魔物は徘徊していた。至近距離で目にもした。

襲って来ない。凶悪そうな面構えの猿も、こちらを警戒しながら一定距離を保つ。

知能が高い。

感じる気配と、薄い瘴気。でも肝心の本体を感じない。

精度は多少落ちるが、サーチの範囲を拡大させてみた。
やはり何も引っ掛からなかった。

「変だな。黒竜居ないのかなぁ」

「長期の休眠状態なのかも知れない。これまでの歴史上、黒竜がこの森から離れた記録はない。周辺国が襲われた情報も聞いてない。偶然にしては出来過ぎだな」
リンジーさんの分析結果。僕らも頷いた。

万人に知られた強敵。楽観は出来ない。
感じられない位に、相手が強大なのかも知れないし。
または本当に寝ている。その何方かだ。


現在、目的の林檎の木まで中間地点。
開けた場所を見つけ、馬車を展開。虫除けの結界でコーティングした上でコテージ替わりとした。

2つの大きなベッドと、2枚の毛布。後は説明不要。
小寒いレベルだったから、重なり合うと丁度良い。


蛇足。キュリオだけは冒険者登録してないからBOXを持ってない。自動的にキュリオの荷物は僕が預かってる。
女の子の下着まで。本人涙目。そりゃそうだよなぁ。

王都に戻ったら、ギルマスのマクベスさんに頼んでみよう。
こっそりと。条件云々言われたら、ワイリーンの死骸を見せつけてあげる。急降下する飛竜を仕留めたセンスは本物。文句が出るはずがない。


メイリダさんの気になるスキルは…、特に持ってなかった。上級冒険者の中にも、無技の人は大勢居る。戦闘経験を積み重ね、努力し続け自力で登り上がった。BOXだけは貰えたようで、大を持っていた。それだけでも冒険の幅は格段に広がる。

今は違う。

昨晩。自分の登録証を久々に確認したメイリダさんは、スキル欄を見て涙を一筋流していた。

「…兄さん。心配性なんだから」
ザイリスさんのスキルを継承したらしい。ヒオシも掛ける言葉が見つからず、彼女の背中を黙って抱いていた。

きっと善い事さ。発現して困るスキルなんて…、なかなか無いしね。


自分の無知無能を振り返る。あれには何の意味があったのかな。意味不明な補正が付いてたしさ。

現在は有知有能になった。ますます意味不明。
この先があるなら…。行き着く先は、アレしかない。嘘でしょ。嘘だと言ってくれ。神様!!

ヒオシのは闘真になった。狂戦士からは外れ、リンジーさんが歓喜してた。いいなぁ。格好いいもん。

格好いいと言えばジェシカ。アサシンだってさ。滅茶苦茶羨ましい。残念そうな彼女に対し、僕とヒオシが絶賛して褒め称えると照れ臭そうに笑ってくれた。要は悪い事に使わなきゃいいだけっしょ。簡単簡単。

僕のが一番難解。無知無能からの差が見えない。
より鮮明に敵の存在を広範囲で感じられるようになっただけなんですが…。重要っちゃ重要だけどさぁ。
なんだかなぁ。

方向性さえ間違えなければ、スキルは有用。方向性さえ見えない僕は除外する。伸ばして良い物かどうか。


換気扇と換気口を馬車に設置。密閉空間の酸欠で仲良く心中は嫌。扉開けると虫たちの餌食。
野宿生活には戻りたくない。てか戻れん。


貰ったほうの索敵の魔道具に、自分のサーチを加えて展開した。

「やっぱり、何も居なさそうだよ」
重ね掛けだと森林地帯は疎か、西側の周辺国一帯まで見通せる。黒竜が居るとされる区域まで網羅。

「油断は禁物。自己よりも格上なら見えずとも何ら可笑しくはない。しかしこの一軍は…」
それなら頷ける。フェンリルを越える存在だもんなぁ。
だと仮定しても、敵意を一切読み取れないのは変だ。
普通の魔物や、西から森に入って来た軍隊はハッキリ出ているのにさ。数はざっと4千。

「ゴーウィンの残党とは考え辛いです。この規模からすると周辺国の連合軍かと」
西の国で生まれ育ったジェシカの見立て。推測でも信憑性は高い。

「森に入って狙う物と言えば。黒竜の魔石かな」
余り好ましくない予想を述べたヒオシ。連合軍(仮)が態々危険を冒して狙う物。それなりのメリットが無きゃ大軍は動かんよねぇ。

「ゴーウィンの魔術師が隠れ生き残っていたなら。考えられなくはないですね」
ジェシカが更に加えた。

「不味いね」
「不味いな」

「なんで?」キュリオが小首を傾げた。あら可愛い。

「強力な竜の魔石を手に入れた奴らが考えそうな事と言えば。僕らみたいな異世界の召喚者を新たに呼ぼうとするとか」
「魔石を使って、殲滅兵器を造ろうとかさ。どう転んでも碌な使い道じゃないのは確か」

「力を平和利用しようなどとは…。考えないでしょうね」
メイリダさんの顔色が陰る。
「何だか、悲しいね」
キュリオがメイリダさんの頭を撫でた。


「そうと決まれば見過ごせない。明日、目的のリンゴを奪取したらそのまま北上。西の奴らが辿り着く前に。黒竜の様子を伺う」

「この状況では、仕方ないな。黒竜だけは慎重に」

「赤竜の二の舞だけは回避。戦闘になったらなったで死力を尽くそう」

「戦いはその場で終わらせれば変に拡散はしない。寧ろ混乱させるのは西から来る奴らさ」
良くも悪くも、ケリはその場で着ける。戦火はここで食い止める。それは僕らの命を捧げる意味でもある。

「私は帰らないよぉ。もう離れ離れは嫌」
キュリオに先を言われた。思ってたのがバレバレ。

「今は休もう。明日は忙しくなるから」

5人が応え、その夜は大人しく眠った。
でもどうしてだろう。何の不安も感じない。負ける気がしないとも違う。それ以前の問題のような…。



-----

「もう!五月蠅いなぁ」
「鼾?私も寝てないよ!」
「地鳴りが止まない…」

止まぬ地鳴り。地の底から蓋を突き上げる轟音。
やはり何かが居る。

音と共に地面が揺れる。軽い地震。震源地はすぐ近く。

美容に悪いとかは言わない。ツーザサの町の人たちは、昼夜を問わず戦い続けていたんだから。

ちょっと眠いくらいは贅沢。こんな不安を抱えてたんだ。
犠牲になった町の人たちは。2週間もの間。


「よーし。何者か知らないけど、やってやろうじゃない」
起き上がって戦闘用の服に着替えた。

「しゃーないしゃーない。バカは何処にだって居る」
フウも自分が愛用してた道着に着替えた。
金属繊維で練り直した、上等な防具。

「私は、もう間違えない」
カルも着替えて拳を固める。右手には愛用の杖も。

私たちの防具は全てフウが造り変えた物。鈍な鉄剣レベルなら傷一つ入らない。無能君たちが使ってた剣なら素通りされそう…なんて考えない。

一流の武装が、ほいほい造られて堪るもんですか。

油断じゃない。慢心でもない。私たちは出来る限りを尽くす。例え竜が来ても、私は二度と逃げたりしない。

「カル。敵の戦力は」

「地下だから正確じゃない。百は居ないみたい」

「フウ。チャンスと見たらツッコんで。私がサポート。カルが攻撃魔術で援護」

「いつものダンジョン攻略と同じ」
フウがガントレットを装着した拳を合わせ、眠気覚ましに自分の両頬を叩いた。

3人の想いは同じ。あの時、こうして逃げずに戦いさえすれば。悔いるなら、私たちは戦う。

これ以上、誰かを悲しませないように。


フウが蓋の端に手を掛けた。
その奥に何が、誰が待ち受けていようとも。

絶対的有利な火炎系は使えない。大きなアドバンデージ。
けれど私たちには、無能君に分けて貰った白い魔石が有る。純度の高い最高級品。

奏でよう。荒ぶる波風。
唄おう。安らぎ求める魂が為。

-スキル【魅了】
 並列スキル【威光】発動が確認されました。-

蓋の開場と同時に。
鮮烈な発光魔術を大穴へと投げ入れた。
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