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第3章 大狼討伐戦

第6話 裏切りはいつだって

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赤竜と対峙。僅かな時間も油断は出来ない。
油断してた訳じゃないのに。

左の翼を一扇ぎされただけで突風が起きた。
自分も含め、立てた水の壁が押し流された。

次いで来る火炎。咄嗟に壁を設けて難を寸前で逃れた。
なんか似た様な戦いばかりしてる気がする。

逃げてばかり。躱してばかり。


-スキル【無知無能・激情】
 並列スキル【臨戦】発動が確認されました。-

僕でも出来る。なら誰にだって出来る。
召喚者じゃなくても。

一歩。踏み出そうとした時。

-スキル【慈悲】
 並列スキル【躍動】発動が確認されました。-

「タッチー君!上!」

東の壁に突き立てた槍が外れ、動き出した。
見上げると黒い物体が眼前に居た。

側面から飛んで来た槍が黒の先端に刺さり、首が曲がった。

到着間近で後ろに飛び退いた。
勢いが殺し切れず、黒い飛竜が地面へ激突。

「ジェ…。キュリオさん!」

「ジェ?それは、何方かな?」
遅れて地に降りた姿は、キュリオさんで間違いない。
僕が口走った言葉に少し怒っているようにも見える。

「後で、説明します」

「約束だよぉ」
黒い瘴気を身に纏うキュリオ。少しじゃない。めちゃお怒りモード。


地に突き刺さった黒は放置し、赤へと走る。

接近すると前足を振り上げた。誘われている。踏み潰されるその前に。

後ろ足にブレイカーの刃を滑らせ、外側へ退避した。
薄ら鱗に傷が入った。

直後に吐き出される炎を大きく避ける。その先に向けられる太い尻尾。

盾を出すのが間に合わず、腹に直撃を食らう。

鈍痛が走り、呼吸が止まる。でも死んでない。

元に近い場所まで転がり戻された序でに、黒の腹にブレイカーを突き刺した。こいつには刃が入る。赤竜の耐久性が高いのが解った。

「タッチー君。他に武器は無いの?」
「在庫はあるけど、魔力は大丈夫?」

「わかんない。初めてだしさ。少し身体が怠い。魔力を使い果たすとどうなるの?」
「普通は気絶するんだって」
気絶するまで撃った事が無いから解りません。

「そうなったら、連れて逃げてね。出して!あいつはお母さんとお父さんの仇。絶対に許さない!」
そうか…、ならもう何も言わない。思う存分。


タッチーはワイリーンの腹から魔石を取出し収納。代わりにサーベルや斧を何割か出して宙に放り上げた。

羽根を片手に扇ぐ。黒衣の風が武器を絡めて舞い上がる。左手を腰に据え、右肩を支点に腕全体を回した。

「飛ばせない!」

持ち上がった黒い濁流が、赤竜の残る左翼へ向かう。
激しくぶつかり合う赤い嵐と黒い渦滝。

打ち勝つ黒い波に押され、翼の根が飲み込まれた。


傍らで構築させていた特大の水球を放つ。今度は正真正銘水の滝。

首を持ち上げ、大きく開いたその口に。凝縮した水を捻じ込んだ。

火を封じ、動きも抑え、咆哮もさせない。こちらは水なら幾らでも作り出せる。真に一石三鳥。

苦しみ藻掻き、尚も首を上げる。二陣、三陣、底無しの胃袋に容赦無く水を注ぎ込む。

四順目で赤竜の身体に変化が現われ始めた。胸から下の腹が膨らみ始めた。

「キュ…」
振り返ると、キュリオは地に伏せ意識を失っていた。

竜とは言え、あの姿を今のキュリオさんには見せたくなかった。

赤ちゃん。僕との子供。実感は湧かない。どうしたって男は鈍いんだ。だから今度は僕が支えよう。責めてもの罪滅ぼしに。


-感傷スキル【覚悟】【決心】【贖罪】同時発動により、
 最上位スキル【無知無能・激情】は、
 【有知有能】へと進化しました。
 並列スキル【サーチ】発動が確認されました。-

今度は油断しない。入念に周囲の気配を探る。

地平、空、地面の下まで。深く、広く。


東から接近中の3人。手前の人物は知らない人。
後ろの高速移動体はジェシカさんとリンジーさん。

町中での戦闘は終わっていない。恐らく赤竜を倒さない限り、敵の勢いは止められない。

ヒオシの方は終わった様子。大きな敵の気配が消えていた。もう一人は…メイリダさんに違いない。
ザイリスさん…。


近くに敵影は一切無い。動物たちも、赤竜を恐れて逃げ出していた。

割りに開けた草原地帯。気を遣うのは背にしたキュリオのみで、多少の爆風なら町の壁が防いでくれる。

だからって起爆はしない。入念に念入りに。どんどん水を溜めて内側から決壊させる。

一旦間を開けた所為で、収まり方向に転じた赤竜の腹の膨らみ。


-スキル【有知有能】
 並列スキル【解離】発動が確認されました。-

これ以上飲まされまいと、口を閉ざした赤竜に向けブレイカーを離れた場所から振り乱した。

竜の腹の中に在るのは、僕が作った水。操作は可能。

胃袋の壁を水の牙で貫く。何カ所も繰り返す。
胃壁を破った勢いで他の臓器も。

堪らず口を開ける赤竜。追加の水を溢れるまで導入。
溢れたって止めない。叫ばせない。


「や、止めるんだ!」
見知らぬ男性。鎧のバックルにクイーズの紋が入ってる。

「な…んで?」
男はキュリオの首筋にナイフの刃を当てる仕草を見せ、タッチーに止まるよう脅し始めた。

国も民も冒険者も関係無く、赤竜は、人類共通の敵じゃないのかよ。

「困るんだ。希少種を殺してしまっては、二度とその種の魔石が取れなくなる。それでは国が、国の財産が…」

下らない。余りにも下らない理由。そんな塵みたいな理由でキュリオさんが傷付けられる。ついさっき、守り支えると誓ったばかりなのに。

しかし、どれ程素早く動こうとも。兵士の刃物が彼女の首を裂く方が早い。


抵抗を諦め、ブレイカーを地に置いて手放した。
内側からの大ダメージ。簡単に復活されて堪るか。
僅かでも時間はある。

折角再会出来たのに。この町から彼女を連れ去る口実だって考えていたのに。後一歩で赤竜を倒せたはずなのに。
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