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第2章 再会、集結

第10話 出兵

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「ひゃー。弱ぇー」

眼前にはその首を床に転がした魔族が一人。

手刀で一発。こちらは無傷。
魔王ってのも大した事ねぇなぁ。

死霊王。只のゾンビだった。
百獣王。只のライオン顔の大男だった。
奇人王。只のキモい奴だった。

俺は何も苦戦してねぇ。

体当たりするか、今みたいに手刀でケリが付く。

温い。何て温ゲーだこれ。

魔法?撃たれても効かねぇし。
爆散させればくだばる。何も面白くねぇ。

この大陸には、もう後3匹魔王がいるらしいが。
どうせ大した事ねぇんだろ。

そいつらを片付けたら、ルシちゃんと共に東に打って出るってよ。

世界征服なんて、詰まらねぇ。

それよか目に着いた女を襲ったほうがずっと楽しい。
この大陸には人型の女はルシちゃんだけらしい。

こいつにも、そろそろ飽きたなぁ。

背後で微笑みかけるルシフェルを振り返った。
「大陸制覇まで、後3つじゃな」

「だな。東もチョロいぜ。世界征服も大した事ねぇ」
「頼もしい限り。シン様は強いからのぉ」

この喋り方もなんとかならねぇもんかねぇ。
折角の美人が台無しだ。

俺は調子に乗ってた。乗りに乗って。
遂に余計な言葉を漏らしてしまう。

口から出ちまった物は戻せねぇ。

「世界征服したらよぉ。俺は女共を片っ端から犯し捲る」

「?」
ルシの微笑みが固まった。時が止まったみてぇに。

-スキル【支配】
 並列スキル【機能停止】発動が確認されました。-

時が止まったのは・・・、俺の方だった。

懐かしい痛みを感じ、ルシが手を添えた自分の胸元に目を落とす。

彼女の腕が胸に突き刺さっていた。
何かを探るように、引き摺り出された、物。

彼女の手の上で脈を打つ、それを。
梶田は薄く笑いながら見詰めていた。

「な、んで・・・だ」

「何?と問うか、愚かな人間」

彼女の。それを美味しそうに貪る笑顔だけが。
彼が見た、最後の光景。


「思ったよりも、不味いのぉ」
力を失い倒れた人間の男の身体を、足蹴にして暫く弄ぶ。

「妾と言う者がありながら。汚らしい人間と交わるじゃと。許されると思うてか・・・」

ルシフェルは、食べ掛けの物を無造作に放り捨てた。
それから自分の下腹部を撫でる。

「この子さえ居ればよい」

暫くの間堪えていた高笑い。
全ては馬鹿なこいつが悪い。

操られているのにも気付かずに。

「今なら、効くのかのぉ」

-インフェルノ(煉獄火葬)-
翳した手より出流、気高き炎。

放たれた火は、床に転がる汚物の遺骸を包み込み。
やがて黒い炭となって、風の中に溶け行き消えた。


-最上位スキル【ド根性】消滅が確認されました。
 これまで獲得されたスキル群は
 全て解放状態へ移行します。-

もう少し他人を思いやる心が欠片でも在れば。
この世界はきっと、彼に救われていたのだろう。


スキル発動個数。発動限界まで残り、18個。



-----

クロスガング砦。
クイーズブラン王国、北西部防衛線。

ベンジャム王国との国境を北に座する立地。

自然に出来た隆起の上に立つ砦。
砦を管理する彼らが何を守護しているのか。

友好国であるベンジャムを牽制している訳ではない。

北部を覆い尽くす森林地帯。
そこに棲まう魔物を定期的に削減する。
それが彼らに与えられた役割。

その重要な役割を、彼らの長は善しとはしていなかった。

国王実子。次兄。
ラムール・バン・センゼリカその人である。

兄程に知略に長けては居らず、弟程の財務の才も無い。
許せなかった。彼は全てが許せなかった。

この様な辺境の地に自分を押し込める父も。
自分以外に流れる貴族も、それらを称える国民も。

彼には武の才だけは在った。他2人の兄弟よりも。

彼は大いに吠える。
「忌々しい!皆して余を馬鹿にしおって!」
近くに居た側近たちが目を背けた。

彼は目前の机を拳で叩いた。
「あの召喚者共め!」
テーブルの上、備えられた陶器のグラスが倒れ転がる。

2週間以上前に、この砦を我が物顔で素通りして行った6人の異世界人。
あの侮蔑に満ちた目を脳裏に浮かべて。


「ラムール様!急報です!!」

間の悪い所に、伝令兵が議室に駆け込んで来た。
「何だ!」

激しい彼の剣幕にも臆せず、兵は伝える。
「南のツーザサで、氾濫が起きた模様です」

ツーザサ?

ラムールは逡巡を巡らし、細く笑った。

あの町は憎き兄の管轄。これを利用しない手は無いと。

彼は高らかに笑った。

「如何されますか?今すぐ鳩を」

「必要ない」

「今、何と?鳩でなければ、彼らを呼び戻しま・・・」

そう言い掛けた伝令の胸を貫く銀剣。
その先には、ラムールの手が在った。


「こやつはツーザサで焙れた魔物に殺された。良いな?」
心弱い側近たちは、悍ましい光景に目を疑い、反対の意を閉じた。

「出るぞ。裏切りは許さん!全軍を以て、氾濫とやらを狩り尽くしてやろうぞぉ!!」

仮にもこの激戦区を制する兵士たち。
総勢3百。精鋭だけでも百を越える。

対応する動きは素早く、半刻程で準備を整え終わった。
ある意味でラムールに鍛えられた所為で。

運命は巡り回る。
「ラムール様。バリスタ(弩弓)はどうされますか?」

国内唯一と言っていい、強力な対空発射台。
「要らぬ!ゴブリン如き、貧弱な魔物なぞ我らの敵ではないわ!」

一理は在った。弩弓台は移動に時を食い過ぎる。
一刻を争う状況での足枷は、邪魔以外の何物にも成らないのだから。

置いて行く判断も、決して間違いではなかった。

相手にするのが、ゴブリンだけであったなら。


氾濫と聞けば、精々が数百。多くても5百。

其れしきの相手に遅れを取るツーザサ。それを救えば兄の責を問える。

兄を主席の座から、引きずり下ろす絶好の機会。
もう一度、王道に返り咲き王選主席に躍り出る。機会。


ラムールは、意気揚々と銀剣を掲げ鳴いた。
「これより、ツーザサを救う!余を王道へと誘え!」

出兵する兵士たちの士気は低く。呼応する声は疎ら。

その些細には気付かずに。ラムールは砦を、空にした。

この愚かな判断が、悲劇を惨劇へと導くとも知らず。
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