上 下
27 / 115
第2章 再会、集結

第10話 出兵

しおりを挟む
「ひゃー。弱ぇー」

眼前にはその首を床に転がした魔族が一人。

手刀で一発。こちらは無傷。
魔王ってのも大した事ねぇなぁ。

死霊王。只のゾンビだった。
百獣王。只のライオン顔の大男だった。
奇人王。只のキモい奴だった。

俺は何も苦戦してねぇ。

体当たりするか、今みたいに手刀でケリが付く。

温い。何て温ゲーだこれ。

魔法?撃たれても効かねぇし。
爆散させればくだばる。何も面白くねぇ。

この大陸には、もう後3匹魔王がいるらしいが。
どうせ大した事ねぇんだろ。

そいつらを片付けたら、ルシちゃんと共に東に打って出るってよ。

世界征服なんて、詰まらねぇ。

それよか目に着いた女を襲ったほうがずっと楽しい。
この大陸には人型の女はルシちゃんだけらしい。

こいつにも、そろそろ飽きたなぁ。

背後で微笑みかけるルシフェルを振り返った。
「大陸制覇まで、後3つじゃな」

「だな。東もチョロいぜ。世界征服も大した事ねぇ」
「頼もしい限り。シン様は強いからのぉ」

この喋り方もなんとかならねぇもんかねぇ。
折角の美人が台無しだ。

俺は調子に乗ってた。乗りに乗って。
遂に余計な言葉を漏らしてしまう。

口から出ちまった物は戻せねぇ。

「世界征服したらよぉ。俺は女共を片っ端から犯し捲る」

「?」
ルシの微笑みが固まった。時が止まったみてぇに。

-スキル【支配】
 並列スキル【機能停止】発動が確認されました。-

時が止まったのは・・・、俺の方だった。

懐かしい痛みを感じ、ルシが手を添えた自分の胸元に目を落とす。

彼女の腕が胸に突き刺さっていた。
何かを探るように、引き摺り出された、物。

彼女の手の上で脈を打つ、それを。
梶田は薄く笑いながら見詰めていた。

「な、んで・・・だ」

「何?と問うか、愚かな人間」

彼女の。それを美味しそうに貪る笑顔だけが。
彼が見た、最後の光景。


「思ったよりも、不味いのぉ」
力を失い倒れた人間の男の身体を、足蹴にして暫く弄ぶ。

「妾と言う者がありながら。汚らしい人間と交わるじゃと。許されると思うてか・・・」

ルシフェルは、食べ掛けの物を無造作に放り捨てた。
それから自分の下腹部を撫でる。

「この子さえ居ればよい」

暫くの間堪えていた高笑い。
全ては馬鹿なこいつが悪い。

操られているのにも気付かずに。

「今なら、効くのかのぉ」

-インフェルノ(煉獄火葬)-
翳した手より出流、気高き炎。

放たれた火は、床に転がる汚物の遺骸を包み込み。
やがて黒い炭となって、風の中に溶け行き消えた。


-最上位スキル【ド根性】消滅が確認されました。
 これまで獲得されたスキル群は
 全て解放状態へ移行します。-

もう少し他人を思いやる心が欠片でも在れば。
この世界はきっと、彼に救われていたのだろう。


スキル発動個数。発動限界まで残り、18個。



-----

クロスガング砦。
クイーズブラン王国、北西部防衛線。

ベンジャム王国との国境を北に座する立地。

自然に出来た隆起の上に立つ砦。
砦を管理する彼らが何を守護しているのか。

友好国であるベンジャムを牽制している訳ではない。

北部を覆い尽くす森林地帯。
そこに棲まう魔物を定期的に削減する。
それが彼らに与えられた役割。

その重要な役割を、彼らの長は善しとはしていなかった。

国王実子。次兄。
ラムール・バン・センゼリカその人である。

兄程に知略に長けては居らず、弟程の財務の才も無い。
許せなかった。彼は全てが許せなかった。

この様な辺境の地に自分を押し込める父も。
自分以外に流れる貴族も、それらを称える国民も。

彼には武の才だけは在った。他2人の兄弟よりも。

彼は大いに吠える。
「忌々しい!皆して余を馬鹿にしおって!」
近くに居た側近たちが目を背けた。

彼は目前の机を拳で叩いた。
「あの召喚者共め!」
テーブルの上、備えられた陶器のグラスが倒れ転がる。

2週間以上前に、この砦を我が物顔で素通りして行った6人の異世界人。
あの侮蔑に満ちた目を脳裏に浮かべて。


「ラムール様!急報です!!」

間の悪い所に、伝令兵が議室に駆け込んで来た。
「何だ!」

激しい彼の剣幕にも臆せず、兵は伝える。
「南のツーザサで、氾濫が起きた模様です」

ツーザサ?

ラムールは逡巡を巡らし、細く笑った。

あの町は憎き兄の管轄。これを利用しない手は無いと。

彼は高らかに笑った。

「如何されますか?今すぐ鳩を」

「必要ない」

「今、何と?鳩でなければ、彼らを呼び戻しま・・・」

そう言い掛けた伝令の胸を貫く銀剣。
その先には、ラムールの手が在った。


「こやつはツーザサで焙れた魔物に殺された。良いな?」
心弱い側近たちは、悍ましい光景に目を疑い、反対の意を閉じた。

「出るぞ。裏切りは許さん!全軍を以て、氾濫とやらを狩り尽くしてやろうぞぉ!!」

仮にもこの激戦区を制する兵士たち。
総勢3百。精鋭だけでも百を越える。

対応する動きは素早く、半刻程で準備を整え終わった。
ある意味でラムールに鍛えられた所為で。

運命は巡り回る。
「ラムール様。バリスタ(弩弓)はどうされますか?」

国内唯一と言っていい、強力な対空発射台。
「要らぬ!ゴブリン如き、貧弱な魔物なぞ我らの敵ではないわ!」

一理は在った。弩弓台は移動に時を食い過ぎる。
一刻を争う状況での足枷は、邪魔以外の何物にも成らないのだから。

置いて行く判断も、決して間違いではなかった。

相手にするのが、ゴブリンだけであったなら。


氾濫と聞けば、精々が数百。多くても5百。

其れしきの相手に遅れを取るツーザサ。それを救えば兄の責を問える。

兄を主席の座から、引きずり下ろす絶好の機会。
もう一度、王道に返り咲き王選主席に躍り出る。機会。


ラムールは、意気揚々と銀剣を掲げ鳴いた。
「これより、ツーザサを救う!余を王道へと誘え!」

出兵する兵士たちの士気は低く。呼応する声は疎ら。

その些細には気付かずに。ラムールは砦を、空にした。

この愚かな判断が、悲劇を惨劇へと導くとも知らず。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...