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第2章 再会、集結

第7話 思い出のキャンパスノート

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学校から持って来たキャンパスノート。最後の一冊。
使うのが勿体なくて。かと言って雑貨屋に売るのも気が引けた。
高く売れるからと、勝手にこちらの文化を変えてはいけない。

誰かにあげられたら。誰か、大切な人へ渡せたら。
心許せる友達でも良かった。

学校の制服も、他の雑貨やリュックも。
ノートと新品のボールペン以外は全て燃やして、サイカル村の土に埋めてしまった。



「キュリオさん。これ貰ってくれない?」
お金じゃダメだ。それ位僕でも解る。

「え?いいの?すっごく高そう。この筆も、見た事ないし」
薄いカーデを羽織っただけのキュリオさん。色っぽかった。
ノートを手に取り、翳して見たり。喜んでくれたみたいで嬉しくなった。

たった一晩。だからそれが何?
男なんてチョロい生き物だろ。一回寝たら誰だって情が湧くもの。

愛とは呼べなくても、好きになったならいいじゃん。それだけで。

「いいよいいよ。どうせ貰い物で余り物だから。好きに使って。売ってもいいよ」
「ダメだよぉ。折角貰ったのに。普段は書かないけど、日記でも書こうかなぁ」

今でもハッキリと思い出せる。あの笑顔と肌の温もり。照れた顔。優しい匂い。

「じゃあ。王都で登録貰ったら、直ぐに帰ってくるからさ。その時見せてよ」
そうだよ。直ぐに帰れば良かったんだ。

一分でも、一秒でも早く。ギルド本部を出たその足で。
帰ってしまえば良かったんだ・・・。


「えー。日記は人に見せる物じゃないよぉ。恋人でも、例え旦那様でも」

「じゃあさ。戻ってきたら、僕と付き合ってくれない?恋人として」

「・・・人の話聞いてるぅ?恋人かぁ。考えとく。ザイリスさんみたいに、この町の守護者になってくれるならね♡」

今は友達以上恋人未満でいいや。
今日には王都に向けて出発してしまうんだからさ。

「うん。良い方向に考えておいて」

僕は。ヒオシも、帰るべき場所が欲しかった。
目的が欲しかった。帰るだけの理由と、家みたいな場所が欲しかった。

それを言ったら、サイカルは実家になるのかなぁ。


この知らない世界には、僕らの「大切」はとても少なかった。
もしも帰還出来ないと解ったら、僕らは絶望しないまでも。

きっと悲しくて寂しくて辛くて、押し潰される。
だから僕は、キュリオさんに帰るべき「大切」になって欲しかった。

独り善がりで、とても我が儘な気持ちだと思ってみても。諦めたくなかった。

-スキル【無知無能・無関心】反発スキル【情熱】発動が確認されました。
 これに伴い、次の発動にて最上位スキルが無条件で進化します。-

「うーん。期待しないでよぉ。私、軽い女だし」
「尚更。振り向いて貰えるように。認めて貰えるように。頑張る!」

「ウフッ。単純だなぁ、タッチーって」
「うん。自覚してる。早く強くなって、バリバリ稼いで。この町を守る!」

普段はあまりしない、ガッツポーズで拳を強く握って見せた。

「何それぇ」
笑うキュリオさんが可愛い過ぎて。思わず無言で抱き締めてしまった。

「もう・・・。私も何かお返しするから。停留所でちゃんと待っててね」
「うん」


そして別れ際に貰ったのが、この猫マークの道具袋。
小ぶりで脆く、メインでは使えない分余計に大切に思えて。

少し長めのキスを交した。
離れがたい。離したくない。彼女の温もりとその笑顔を、胸に焼き付けた。

いっそこのままツーザサに留まればとも考えてしまう。
でもそれじゃダメなんだ。出来損ないの無力な自分のままじゃ。

-深層スキル【決心】発動が確認されました。
 感傷スキルの為、特性はありません。
 最上位スキルの分岐条件に加わります。-

だから僕らは行く。一人前の男になってキュリオさんの元に帰ってくる。
そう心に決めて。

「行って来ます」
彼女から離れ、馬車に乗り込んだ。

「行ってらっしゃい。早くしないと、浮気しちゃうぞー」

離れて行く。それじゃ、まるで恋人みたいじゃん。

こちらに手を振ってくれる彼女の姿が見えなくなるまで、僕も手を振り続けた。


「タッチー。それ可愛いな」
「だろ」
「明らかに女物だけど、彼女に貰ったの?」
「想いの籠った宝物だから。何て言われても平気さー」
思わず頬ずり。

「いいねぇ。おれはコレだよ」
手に取りだしたのは、ベアー討伐の時に使っていた魔道具。実用性に差が・・・。

「すげぇ。魔道具って超高級品だろ」

「ここに帰って来て、もっと凄いの買って返す。それまでコレは使わない」
使えないんだろ?

「使わずに、絶対強くなる!!」
使い方解んないんだろ?

頼もしい限り。本人がそれで満足なら、まぁいっか。

後ろを振り返っても、もうツーザサは見えなくなっていた。

あの町で過ごしたのはたった数日間。僕らには。
何物にも替えられない、「大切」が出来ていた。



-----

離れて行く馬車を、思わず追い掛けそうになった。
今にも動きそうな自分の足を、必死で押さえ付けた。

「必ず帰って来る」

強くなって。一人前になって。君を迎えに来るんだと。

もう何度、同じような言葉を聞いただろう。

男ってホント単純。たったの一度、私を抱いた位で彼氏気取り。
でも彼は少し違った。

ちゃんと私が認めればって言ってくれた。

私の家系は身体的に強くない。特殊なスキルも持ってない。
だから冒険者の道は諦め、その冒険者たちを支える為の、普通の酒場を経営してる。

加えて私は運の無い女。

私を迎えに来ると言って出て行った過去の男は、あっさりと王都で別の女を見つけたり。

旅の途中。冒険の途中で、あっさりと死んでしまったと聞いた。

私は諦める事にした。今度もどうせ同じ。
きっと何処かで野垂れ死ぬんだ。

そう思い、そう・・・思って。そう考えようとしてたのに!

この涙は何?どうして止まらないの?
今度は違う。何かが違う。そんな風に考えてしまう自分が居た。

彼から貰った一冊の無地の本。お腹に隠したまま、その場を暫く動けなかった。

涙が止まるまで。
午前便が過ぎて誰も居なくなった、停留所脇のベンチに座った。

「キューちゃん。隣いいかな?」
「どーぞ」

親友が隣に座る。泣き腫らした目を見られるのが恥ずかしい。

「私も同じ。こんなの初めて。何度も経験してるはずなのに。私も、全然止まらない」
「メイちゃん・・・」
彼女も同じだったんだ。

「あんまり酷い顔だから、早めの休憩貰って来ちゃった」

「メイちゃん」
「なーに?」

「私も、冒険者になれたら良かったのに・・・」
「碌でもないよぉ。冒険者なんてさ」

「そうかなぁ」
「そうだよ」

待つだけじゃ嫌。私も冒険者になれれば。こんなに辛い思いはしないで済むのに。
親友とのこの遣り取りも、結構何度もしている。

なのに。今日だけは、2人とも全くダメだった。

止まらぬ涙を拭い合う。涙と鼻水で、お互いハンカチグッショグショ。

ちゃんと洗って返し合う。そんな些細な約束をして。
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