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第2章 再会、集結

第4話 エルダー・ピード

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小さな工房。必要な魔道具を作成する場所。
プリシラベールは、軍資金を稼ぐには絶好の国だった。

国に納める分は、必要最低限の機能を付けただけの代物。
贋作程までではないがそんな低級の物で、国は面白いように金を差し出した。

正直これだけで3人食べて行ける。
2人となら楽しくやって行けそう・・・。いやいやダメダメ。

連れの2人の望みは元の世界に帰る事。それだけは叶えてあげなくてはならない。

ゴーウィンと言う愚かな国で、唯一生き残った魔術師。大魔術師アルバンの娘として。
責任と誇り、使命と信念を以て。

召喚時の術式は頭の中に入っている。概ね問題無し。

次に必要物品と生贄。

あの時用意出来た生贄は、32名。
クラス?当初の団員は全部で31名だったと聞いたので、最後に余った1名分で、建物まで召喚してしまったものと推測する。

生贄は必要か?帰路には不要だと思う。
こちらに引っ張る時には、莫大なエネルギーが必要。逆はそこまで大きな消費は必要無し。

集めようにも国としての大義が無くては、志願者は集まらない。
私たちは悪の狂信者集団ではないのだ。無理矢理でも誘拐でも奴隷でもない。
極普通の志願をしてくれた人を生贄とした。

生贄と言うと聞こえが悪いかも知れない。

先日、2人には正直に犯人は国と私の父親たちですと。
「生贄を使ったから大丈夫」と状況説明をしたら、2人に思い切りビンタされた。

痛かったぁ。鼓膜破れるかと思った。耳がキーンて。

生贄とは、こちらの人間の魂と異世界側の人間の魂をそっくり入れ替える為の媒介。
術式はそれを補助し、身体や着衣までの入替を可能にする意味合いを持つ。

決して死ぬ訳でも消滅する訳ではないと、力強く説明して何とか。
苦しそうに、ギリギリ納得して貰えたと思う。

「どうして、私たちだったの?」
「それについては解らないの。ただ・・・、同調した人が多かったからだと思う」

「誰かな?」
「無能君ではないと思うよ。彼、あれで何も考えて無さそうだし」
「出た無能君信者。・・・それって褒めてるの?」


次に魔石。

魔石は各種、Aランク相当を重点的に揃えていた。
金は主にこれらを集めるのに注ぎ込んだと言って過言じゃない。
あの時唯一欠けていた存在。

それが、竜種。

魔石を持つであろう上位存在は簡単には倒せない。市場に出回るのは、低位の蜥蜴擬きの石ばかりで使い物にならなかった。

私は今回、これを手に入れる。

先ず私は、鑑定用の魔道具を作成し2人の成長を促した。

最初に発現した2人のスキル。
アビちゃんが、【道化師】
フウちゃんが、【工作】

そして途中から現れたレベル?を上げる事に着手する。

魔石集めがてら近隣のダンジョンに潜り、裏で製造していた魔道具を使わせ魔物や魔獣を根絶やしにした。

面白いように上がる能力値とスキル。

アビの【道化師】が【魅了】。フウの【工作】が【創造者】に行き着いた。

護衛兼監視の3人の女性騎士を、アビちゃんが【魅了】により骨抜きにして従属させてしまった。

この【魅了】が男性に着かなくて本当に良かった。

「だって、私ノーマルだもん♡」
意味は良く解らないが、兎に角助かった。

フウちゃんには、【創造者】のスキルで他の魔道具を量産して貰う。

暫くすると2人の鑑定上の能力値は上げ止まりで見えなくなってしまった。
能力値的には、S級冒険者相当。軍部の3個師団並となった。

これなら黒竜でも倒せるのでは?それは不可能でしょ。

黒竜の装甲は殆ど魔術が効かない。
私に発現した【大魔術師】を加えた所で必要火力に満たないから。
あれに挑むならば、何か別の鱗剥がしの方法を編み出さないと。
お空に飛んで行かれたら追う手段も無いし。


充分な資金、能力、魔道具、必要な情報が揃った。

国家機密は骨抜き3人衆がスラスラと語ってくれた。

何と、2人とは別に先行で学校を脱出した6人がベンジャム経由で、クイーズのセンゼリカへ向けて出発したと聞く。

この情報を以て、私たちのプリシラベール、チャイントでの生活は終結した。

3人衆との別れ際に。
「アビ殿。責めて、お情けを!」
「キスを所望します!」
「激熱な熱烈なやつお願いします!」

「は?マジで!?」
「アビ。責任取りな」

その後の展開は・・・。うわぁ、ううわぁ、すっごい・・・。
どうか私の感想だけで理解して欲しい。


一つの家で女性だけの6人暮らし。楽しかったなぁ。
麗しき思い出を胸に、盛大に借家を爆破し終え、魔道具をふんだんに盛り込んだ自動運転の馬車に乗り込んだ。

「王様には、私たち西に向かったって言っておいてねぇー」
アビが後ろに手を振り、ダメ押しの投げキッス。

「「「お達者でぇー」」」最後まで腰砕けになっていた。

私たちは町から真北の、トーラス山脈の縦断して貫く、クコの大空洞を通るルートを選択した。

これには目的が有った。道程の山脈中間点辺り。そこに赤竜の巣が有る。
この情報は父の遺品の魔道書に書かれていた。

誇らしかった。父は召喚者たちの帰路の事をちゃんと考えていてくれた。
とても感動し、感謝の念を抱き祈った。あなたの意志は残されたこの私が継ぐと。

この馬車で行けば、2ヶ月も掛からずセンゼリカまで到着出来る。
今は馬は居ない。王都の手前で偽装用の馬を何処かで調達しよう。

「うわぁ楽ちーん」
「未来の自動運転って、こんな感じかな」

2人に喜んで貰えたようで嬉しかった。


赤竜の巣を発見した。
母竜は餌を調達しに、何処かへ出掛けている。千載一遇の機会、これを逃す手はない。

残された幼体は3匹。まだ魔石は小ぶりでも、3つもあれば・・・。

幼体であれば鱗は柔らかく、私たちの魔術でも通る。

実に楽勝だった。2人は黒竜を見たトラウマからか、震え上がっていたので私1人で魔石を剥ぎ取った。

馬車に乗り込み、その場を逃げるように走り去った。


私たち。いいえ、私は途方もない間違いをここで犯した。取り返しの付かない大きな過ちを。
時を戻す魔術が使えたなら、この時の浮かれた私を。・・・私はこの手で殺したいと願う。


-----

私は思う。これは何かと。
今朝まで元気良く鳴いていた我が子たち。首を地に垂れ、腹を割かれて息絶えていた。

私は思う。これは何故かと。
周囲には誰の気配もしない。漂っていた残り香は、直ぐに人間の雌の物だと解った。

我が子の亡骸をそっと撫でた。

私は思う。私たちが何かをしたかと。
少なくとも私は、人間に危害は加えてはいない。不味い人間を食べてもいない。

動かぬ我が子。返らぬ鳴き声。

「ガァァァ、ガァァァァァァーーーーーー!!!」

悲しき咆哮が、広い洞内と天に抜け通った。


起きよ・・・。起きよ。森と山に住む低位の者たちよ。

私は思う。これは弔いだと。

起きよ。醜き人間共を。一人残らず根絶やしに。

私は誓う。これは復讐だと。

人間の残り香は北に抜ける道を示していた。

私も向かう。手始めは、北の塵溜めからだ。


-----

ツーザサの町。

普段なら比較的長閑なはずの昼過ぎ。

カーン、カーンと町南の警鐘の鐘の音が鳴り響いた。

見回りの兵士が冒険者ギルドに飛び込んで来た。
「ザイリスさん!ザイリスさんは!!」

「どうした!この騒ぎは何だ!」
居合わせていた冒険者たちも騒ぎ始めた。

「良かった。エルダーピード(自然氾濫)です!!南の森から氾濫が起きました」
「南?南と言ったな。数と種類は・・・」
ギルドの外に飛び走り、南門の先の丘を見て絶句した。

ゴブリン、オーク、ベアー、オーガまで。
遠目に見てもはっきりと解る。その総数は千を下らない。

「兄さん!いったい何がおき・・・」
メイリダも兄の後ろで、その目線を追った。

「女子供を馬車に乗せろー。西は駄目だ!東に向かえ!」

「第1波!門まで来ます!」別の兵士が駆け寄って来る。
「1波だと?何段まで確認した!」

「あれと同等規模が、後2つです!」
総数は少なく見て3千。
「これはエルダーなんかじゃねぇ!!どいつだ!どい・・・。うそ、だろ・・・」
「ヒッ!!」
メイリダもザイリスも、その光景に絶句し、メイリダは口元を押さえた。

南の空に浮かぶのは、赤黒い口から炎を吹き出した赤竜。

「何でだ!繁殖期は過ぎているはずだろ!どうして、どうして奴が出て来るんだ!!」

誰も答えられない。この町に居る人間全て。その答えは持ってはいなかった。

「兄さん私も戦います!」
「身重のお前に何が出来る!いいからお前も馬車に乗れ。・・・子供は、諦めろ」
妊婦には馬や急速の馬車への乗車は、最も危険な行為。それでも。

「嫌です。私も冒険者の端くれです。ゴブリンに犯されそうになったら、どうか私を殺して下さい!!」

「ふざけるな!生きろ、生きる道を選べ」
「滅ぶなら、私は兄さんと共に居ます」
メイリダの決意は変わらなかった。
「この馬鹿が・・・」
「ええ、私も馬鹿です。兄さんと一緒で」

「第1波!門、突破されます!」

力の限り、喉が潰れる程に、押し叫ぶ。
「町に居る冒険者共よー!!ありったけの魔道具を持ってこい!!ここが、俺たちの死に場所だぁぁぁ!!!」

誰だ。誰が迂闊に竜の逆鱗に触れた。
削減と調整は上手く行っていたはずだ。

この町は、エルダーピードを止める役割を担っている。しかしそれは通常の話。
こんな物は普通とは呼ばない。

-スキル【巌窟】並列スキル【金剛】緊急措置として強制同時発動されます。-

こいつらはここで食い止める。それは俺たち冒険者や兵士たちの役目。

ザイリスは、嘗て愛し、冒険の最中で死んだ婚約者の顔を浮かべた。
「思ったより。早く会えそうだな・・・」


何かもが遅く、鳩すら飛ばせる程の時間も無く。
この急報が王都に届いたのは、約2週間後の事だった。

それは奇しくも、異世界からの召喚者たち10名が一同に介し、
再会を果たすその瞬間と重なった。

後に「ツーザサの惨劇」と呼ばれる、悲劇の始まりと終わりである。
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