上 下
20 / 115
第2章 再会、集結

第3話 モンスター

しおりを挟む
「下で掲示板見てますねー」
若い2人が。異世界からの召喚者たちが、元気にロビーへと向い降りて行く。

「ちょいとお待ち!後で案内してあげるから、下で待ってるんだよ」
「「はーい」」
外に遊びに出る子供のような返し声。余りにも普通な光景に思わず絶句してしまう。

執務室に残る3人で軽く頭を抱えた。

私たちの主な仕事は財務管理。報酬金、報奨金の指針を決定するだけの。

依頼書の発行。初期の割り当て選定。依頼等級の管理。
ギルマスと言っても、殆ど書類整理に追われ、1日のノルマを達成するまでは帰れない。

人手が全く足りない。娘も冒険者を辞めてまで手伝ってくれている。それでも足りない。
なのにだ。

凡そ2ヶ月程前になる。突然の急報。
ベンジャムで保護された異世界からの召喚者たち6名を、こちらに暫く預けたいとの依頼が国から降りて来た。常日頃から面倒事を押し付けるのが大好きな奴らだ、仕方ない。

聞けば、6人は成人したばかりの若者だと言う。

その未来ある若者を、死地へと送り出してしまう。
本来なら我らが負うべき責任を、何も関係が無い彼らに押し付けてまで。

右膝の古傷が疼く。感じるのは不甲斐ない自分自身への怒り。
私は彼らに何も出来ない。助けてはやれない。守ってもやれない。
なら責めて、今出来る事を。

「ジョルディ。あれをロンジーさんに」
「あれを?そう、ですね。私たちよりも、彼らにこそ必要な物ですものね」
「アレ、とは何だい」

ジョルディは一枚の紙をロンジーへと差し出す。最重要機密書類を。
彼女はそれを一瞥すると、折り畳んで懐に仕舞った。
「こんな重要書類。紛失してもいいもんかねぇ」

「燃やして捨てたと言ってやりますよ」

「悪い子だねぇ、あんたも。潔いのも、背負い込み過ぎる癖も大概にしときな。それじゃ、ジョルディが何時まで経っても、嫁に行けやしないじゃないのさ」
「ロンジーさん。それは、大きなお世話です」

「ほー、言うじゃないか。ならこの8人は、私が預かる。全員纏めて叩き直してやるよ」
「・・・いいんですか?先日は、面倒だからと断っていたのに」

「男のクセに細かいねぇ。前は前。ここまで関わっちまったからには、後には退けないねぇ。ジョルディ。あの子にも連絡をお取り。この際使える手は何でも使う。私情を挟んでる場合じゃないさ。あの子の説得も任せるよ。私の言葉なんざ聞きゃしないんだから」
薄い眼鏡の奥が、少しだけ滲んで見えた。

「はい、了解しました。お役目は、必ず」
「フンッ。頼んだよ」

彼女が向けた背を見送りながら、私は思う。
私たちは、またしても彼女に救われる。血染めのロンジー、元A級冒険者に。
これ程の無責任があろうかと。

あの日。8年前のあの日に。
当時のギルドの見立ての甘さと、国軍の調整不足が呼び水となり。
東のダンジョンの一つで、スタンピード(大氾濫)が起きてしまった。
起こしてしまったと言うべきだろう。

あれは、完全に防げた事故。その氾濫を抑え込む際に起きた、とても悲しい悲劇。
私たちはそれを「アルハイマの悲劇」と記し、胸に刻んだ。

二度とあの様な悲劇は起こすまいと、深く刻んだはずなのに・・・。

私は。私たちは失念していた。召喚者が8人の他にも、生存していたその可能性を。

もっと注意深く。彼らの話に耳を傾けてさえいれば。二度目の悲劇は防げていたと。
彼らも、私たちも激しい後悔をする事となる。


「ジョルディ。私は、無責任だと思うかね?」
「いいえ、お父様。敢えて言うなら、この世界の人類全てが無責任なのでしょう。さぁ、目の前の仕事の山をさっさと片付けましょう」

「そうだな。ジョルディ・・・」
目の奥が熱い。娘に諭される父。実に滑稽な姿であろうな。


-----

あるわあるわ、出るわ出るわ。
2人して掲示板から一歩下がった場所で、おーとかあーとか言って感嘆を並べていると。

「おう坊主共。何やら物色中かね」

「あ、ラングさん。昨日振りですね」
「その内に、またみんなで飲みましょう」

白髭を蓄えた、屈強なおじさん。彼が宿場町であの助言をしてくれた人。
白髭こそ在るが、老人と言ってしまうにはまだまだ早い。若々しく凜々しい佇まい。

「今度な。わしらも今日の所は休暇だ。明日には東海岸に向けて出発。君らも一緒に来るかね?登録はもう済ませたのだろ。君らなら内のメンバーも大歓迎だ」

彼らは護衛隊の任を終え、本拠地のある東海岸の町ルデインへ戻るらしい。
C級メンバーで5人組。残りの4人もエントランスのソファーに座っていた。

一人スレンダー美人さんが居るけど、ラングさんの嫁さん。美女と野獣?
目が合って手を振り返す。正直、用事が無ければ是非ともご一緒したかった。

御夫婦でパーティーは珍しいですよね。と前に聞いた事がある。
でもそれ程珍しくはなく、割りに結構居るらしい。
「喧嘩は多い。細かい事には一々五月蠅い。命の危険は山程ある。かと言って家に居てくれと頼んでも、長旅が多くてつい心配になる。浮気然り、怪我や病気。傍に居て欲しい時に居てやれない。多かれ少なかれ何処も同じ様な理由で稼業を共にするのだよ」

町に居たって、女性や子供を狙った誘拐や性犯罪はあるからなぁ。
ツーザサの町を思い浮かべる。あそこでの犯罪はイメージ出来ない。
強ーいザイリスさんが居るんだし。安心安心。

冒険は別として、キュリオさんとの旅も悪くないなぁ。

「お誘いありがとうございます。でも僕らここで暫く滞在して、色々とやる事があるので」
「いつかルデインに行った時には、ご一緒に」

「そうか、残念だ。では、ルデインでな」
軽く挨拶を交し、彼らは出て行った。

今日は、ギルドへ任務達成の報告と特別臨時ボーナス(王子の護衛)を受け取りに来ただけだったみたい。

どれ位入ってたんだろ。お宿に行った時の楽しみ取っておこう。

再び掲示板に目を戻すと、今度はロンさんが丁度上から降りて来た。

「ほれ手土産」一つの畳まれた紙を握らされた。
「何ですかコレ?」

「坊やたちが今一番知りたい情報さね。ここで開くんじゃない!後でじっくり読んで燃やしちまいな。それまではBOXに置くんだよ」
何だか良く解らないので、取り敢えずBOX内に安置した。

掲示板新情報。

SSSS。大海の覇者、青竜。出た最上級!ブルードラゴン?
北東部の海を通り掛かっただけで襲い来る。凶暴凶悪な水竜。だそうです。
本気で遣り合いたいなら、空母艦持ってこいや!
海に投げ出されたら、あ、これ死んだな、と思うべし。

陸の壁がフェンリルなら、海の溝は青竜。
難易度だけで比べれば、あぁ確かにフェンリルだわ・・・んなわきゃねぇよ!


S+。深き山嶺の守護竜、赤竜。今度はレッド。
天然熊牧場の森から、更に南に下ったトーラス山脈の何処かに居るらしい。
+が付いているのは、【暴走】モードがあるからとか書いてある。
繁殖期に出合ってしまったら最後。
挑む場合には、遺書を書いてから。・・・何とも不吉な。


A。北東の怪力、鬼王。オーガロード。
王都から北東方面の森林地帯で、大抵お散歩しているらしい。
木々を越える程の体格の為、存在を確認出来次第引き返せ!そうするよ!


A。北の門番1、吸血鬼。ヴァンパイヤ。
多種多様な生物の成れの果て。常に集団で移動している。軍隊で押し潰せばイケる!

A。北の門番2、風牙。ウィンドウルフ。
荒れ狂う風を纏った狼。常に集団で移動している。軍隊で押し潰せばイケるって!

A。北の門番3、土壁。ゴーレムキング。
あらゆる鉱物と金属が混ぜ合わされた謎の生命体。魔術師10人以上は必須のこと。
普通の武器では攻撃が通らない。倒す事が出来たなら、一生遊んで暮らせるでしょう。

その場で死んでしまうわ!!

「何だよコレ。ヒオシ、僕気分悪くなってきた・・・」
「奇遇だね。おれも・・・」

絶望的。フェンリルに辿り着く前に、どのルートを辿っても強敵とぶち当たる。
個体で強く、集団で待ち構えている。オワタ・・・。

「なんて情けない声出してんだい。坊やたちならやれる。・・・根拠はないけどねぇ」
んなアホな。


A。東の深層主1、死霊王。デュラハン。
ダンジョンには必ず居るんかーい。首無しは凶暴。首有りは比較的温厚。どの差だよ。
武を好み、一騎打ちが大好物。魔術に弱く、涙脆い。何ですって・・・?
運が良ければ、お喋り出来るかも。
主にも色々バリエーションがあるんだねぇ。


A。東の深層主2、粘液侍。スライムベータ。
狩られる前に狩り尽くせ。狭い場所では戦わないこと。
飲み込まれたら、一か八か核を見つけてぶん殴れ。兎に角頑張れ!最後まで諦めるな!
精神論かよ・・・。


A。北陸の女王蜂。ミストレス。
北方の何処かの奥地に居座る女王様。一定周期で住処を変える為、正確な所在は不明。
働き者の男共を尻に敷く、活発な女王。彼女に対しては火気厳禁。
彼女のハートに火を着けてしまったなら、男は逃げだしたほうがいいだろう。
女の人なら大丈夫なの?


B。陸上の巨大兎。ラビットハードラー。
走るの大好き。人間が整えた街道を駆け抜ける姿を稀に見る。
高速で駆け抜けて行くだけ。まず捕まえられない。
お食事時を発見次第、尻尾か長耳を捕まえてみよう。掴めたなら、きっと貴方は幸運の持ち主。
デカくて速い。馬の代わりになるかも。柔らかそうだし。うん。
何より首肩腰尻が痛くならないなら、いいな。


B。遠洋のお邪魔虫、海竜。シーサーペント。
絵を可愛く書いたって、行かねぇよ!
ラングさんたちの、何か因縁の相手だって言ってなぁ。ふむ。


主要な新上位は、こんな所。他にも中から下級も一杯あるけど、それは出合ってからにします。
今は会いたくない・・・。お腹いっぱい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...