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第1章 紅峠
第16話 謝るべき人の鳴き声
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「でさ、ヒオシ。これって・・・何?」
「おれにもサッパリ?」
見渡す限りの敵。名も無き宿場町。夕食中に、突然盗賊だと名乗る集団に襲われた。
宿場町には名前が無い。それは居住者と滞在者を守る為。
誰が何処に居るかを撹乱させる意味が有る。
盗賊たちの要求は貴族のボーン。
僕たち含め、周りの迷惑を受け続けていた人たち。護衛隊と爺やさん以外の人間には関係が無く、さっさと突き出せばいいんじゃねの雰囲気が漂う。
「俺たちにもツキが回って来たぜ。クイーズブラン王家の第3皇子が手に入るなんてなぁ」
あいつ、王子だったの?てっきり貴族のボンボンだとばかり。
でもやっぱり関係無いな。
丁度自分の居る位置は相手から死角となる位置で、夕食のスープを啜った。
「な、何をしておる。私を助けぬか。報酬なら言い値で払うぞ」
「ふーん。じゃあ、王国金貨で5百ね。2人で千枚だよ?」
「何を馬鹿な!国庫の半分ではないか!」
おー意外にも金銭感覚はあるらしい。
対岸の上級席で、窓からバッチリ見られる位置でボーンは両手を挙げて悶えている。
弓矢が向けられてるのが見えるのでしょう。
-スキル【無知無能・無関心】この場で発動させますか?-
「嫌だよ。僕ら弱弱の新人だしさ。相手何人居るかも解んないし。それにほら、君人質に成るだけだったら手荒なマネされないと思うよ。相手だって国と戦争なんかしたくないでしょ」
「タッチー、名推理!」
-スキルの発動は見送られました。尚、スキルの固定化に伴い、以降は任意の場所で発動可能状態となります-
助けるにしても、相手の規模やステータスが解らない事には対策も仕様がない。
-スキル【無知無能・無関心】が【無知無能・関心】へと進化しました。それに伴い、
並列スキル【索敵】【鑑定】が付与されます。この場で発動させますか?-
この集会場の建物を取り囲む盗賊たちは・・・。気配的にはざっと20。
たったの20人で国と戦争しようって?正気の沙汰とは思えない。余程に強い人が居るの?
そう思って再度気配を探って様子を見る。
-スキル【索敵】【鑑定】の発動が確認されました。並列スキルにレベル概念は適用外です。身体能力向上により精度上昇が見込まれます-
因みに爺やは、初手で肩を射貫かれて絶賛気絶中。手当は急ぎたい所。
居たはずの護衛が姿を消した。盗賊とグルで逃げたか寝返ったか。
「助ける?強うそうな人居ない気がする」
「あいつは嫌いだけど。放置するのも後味悪そうだしねぇ」
右手に銀鉄鋼。左に自作。並べて見ると、業の違いが良く解る。とそんな事を言っている場合じゃないな。
盗賊は素早い。常識的に、軽装で固めて速度特化が通例。狙うは足元。
毒攻撃にも注意が必要。毒耐性なんて持ってないし。
何かを期待するボーンと目が合った。口に人差し指を当てて見せ、ボーンが小さく頷いた。
「よーし。今から出てってやるからな!」ヤケクソなのか何時も以上に声がデカい。
正直五月蠅い。
ゆっくりとした動作でボーンが動き出す。
「証拠は荷台に積まれた荷物で解った。言い逃れは出来んぞ!」
盗賊たちの注意がボーンに集中した。やれば出来るじゃん。
僕らも動き出す。建物の裏口から外に出ようと、裏手の扉前で待機。
他の組の護衛冒険者たちと目を合わせる。彼らもすでに準備万端。流石は場慣れてる。
アイコンタクトで初手は僕らでと打ち合わせ、蝋燭の火を吹き消した。
「さぁ出るぞ!行き成り弓は止めよ。大事な人質だろ!」
ボーンが大声を張り上げ、玄関ドアをゆっくりと開き。
「者共!出合え-!!」
早ぇよ!!余計な事をする。
強制開始ゴングが発せられた。
「あいつ、後でお仕置きで」
ヒオシの言葉に頷いて、僕らは一番に飛び出した。同時に背から打ち出される数本の弓矢。
援護射撃の甲斐あって、相手の弓隊の動作が一歩遅れた。
対面の建屋の脇を擦り抜け、周囲の盗賊の手足を手当たり次第に斬り刻む。
「うぉーーー手が、手がぁぁぁ」
手足を切られたとの解説が各所に聞こえる。僕らは撹乱に専念。後処理は後ろのベテランさんたちに任せ、その場を起点に2手に別れ、集会所の外周を大きく迂回しながら出会い頭に斬って捨てた。
中には女性のような甲高い悲鳴も混じる。奥歯を食い縛り、ゴメンと心で呟いて。
片足と両腕さえ潰せば追撃は封じられる。可能なら腱を、乱戦状態になれば斬り落とす。
武器には頼りたくないとか、言っては居られない。銀鉄鋼なら皮籠手でも楽勝で割れる。
-----
「人間相手に死ぬなよ、タッチー」
俺らはファンタジーの世界にやって来た。魔物たちを駆逐する。若しくは魔王を打倒する。
それがテンプレ定石のはず。
こんな所で人間同士の争いに巻き込まれて死にたくない!
もう誰が何と言おうと、タッチーは親友だ。俺が居ない所でも、目の前でも殺させやしない。
-スキル【友愛】即時発動が確認されました。
これにより想う相手との相乗効果が見込まれます。
それに伴い、相手との共闘時に相互同等の身体能力に引き揚げられます。-
タッチーは優しいから、人殺しは、この俺の役目だ!!
-スキル【狂犬】即時発動が確認されました。-
「うぉぉぉーーー。こっちだバカ共!」
-スキル【狂犬】が【狂戦士】へと進化しました。
これにより狂慌状態に陥っても、並列スキル【平常心】が常時付随発動されます。-
通り過ぎた藪の中で、あいつの護衛隊のメンバーの姿が一瞬見えた。
折り返して斬り刻む。鉄甲の繋ぎ目に短剣を挿し入れる。
「や、やめ・・・。お、れは味方だ・・・」血反吐を口から吹き出して崩れ倒れた。
伸ばされた手を振り払い、次に向かった。
「どうだかねぇ」乱戦時の手違いだったとして置こう。
意外に、平気なんだな・・・。俺、壊れちまったのかなぁ。
-----
何故かヒオシの現在地が感じ取れるようになった。集会所外園をすでに半周している。
これは負けてられない。
集会所の表面を横目で捉えた。
玄関と窓部を遮るような、大盾が構えられている。戦士系の人だ。
建物自体は堅牢。防火剤も塗られている。A級並の弓の名手でないと、壁は容易に貫けまい。
安心して前を向ける。
「坊主!首領を見つけたら生かしとけよ!」建物の中から誰かの声が聞こえた。
「了解!」
今の掛け声で僕の位置が知られた。罠ではなく僕らの暴走を察知して仕方なくだ。
踏み出そうとした足を、匍匐前進で掴まれた。
篝火に照らし出される鬼の形相。明確な殺意の目。その目を見て、僕は動けなくなった。
-スキル【無知無能・関心】並列スキル【無感情】派生スキル【感情抑制】
緊急措置として強制同時発動されました。-
「死にたくないって言うなら、他人に、剣を向けちゃいけないんだよぉぉぉ」
言い訳をしながら。無我夢中で。感じた恐怖を振り払うかのように。
その目が僕から離れるまで、両手の短剣をその人に浴びせ続けた。その人が、力尽きるまで。
千切れた手首から先が、僕の足に絡み付いていた。
構わず前方からの弓矢を眼前で避け切った。確実に頭部を狙いに来てたのが幸いに。
半身だけを移動。反動で篝火から反対方向の建物の陰に飛び込む。
急激な光の変化は、視認性を悪くする。それはどんなベテランでも。
突くなら、出来上がったこの瞬間。
僕が出合った3人の動きを封じた頃。
ヒオシが正面の建物の屋根から、首領らしき盗賊を蹴り落としていた。
各所から、悲鳴と嗚咽。懇願の声が多く聞こえた。
僕らの最初の人殺しは、こうして幕を下ろした。
「ヒオシ・・・。僕らはもう・・・」
「もう何も言うな。タッチー」
ヒオシの手が肩に優しく置かれ、僕らは静かに涙を流した。
僕らはもう、元には戻れない。殺めてしまった人たちに謝りながら。
「おれにもサッパリ?」
見渡す限りの敵。名も無き宿場町。夕食中に、突然盗賊だと名乗る集団に襲われた。
宿場町には名前が無い。それは居住者と滞在者を守る為。
誰が何処に居るかを撹乱させる意味が有る。
盗賊たちの要求は貴族のボーン。
僕たち含め、周りの迷惑を受け続けていた人たち。護衛隊と爺やさん以外の人間には関係が無く、さっさと突き出せばいいんじゃねの雰囲気が漂う。
「俺たちにもツキが回って来たぜ。クイーズブラン王家の第3皇子が手に入るなんてなぁ」
あいつ、王子だったの?てっきり貴族のボンボンだとばかり。
でもやっぱり関係無いな。
丁度自分の居る位置は相手から死角となる位置で、夕食のスープを啜った。
「な、何をしておる。私を助けぬか。報酬なら言い値で払うぞ」
「ふーん。じゃあ、王国金貨で5百ね。2人で千枚だよ?」
「何を馬鹿な!国庫の半分ではないか!」
おー意外にも金銭感覚はあるらしい。
対岸の上級席で、窓からバッチリ見られる位置でボーンは両手を挙げて悶えている。
弓矢が向けられてるのが見えるのでしょう。
-スキル【無知無能・無関心】この場で発動させますか?-
「嫌だよ。僕ら弱弱の新人だしさ。相手何人居るかも解んないし。それにほら、君人質に成るだけだったら手荒なマネされないと思うよ。相手だって国と戦争なんかしたくないでしょ」
「タッチー、名推理!」
-スキルの発動は見送られました。尚、スキルの固定化に伴い、以降は任意の場所で発動可能状態となります-
助けるにしても、相手の規模やステータスが解らない事には対策も仕様がない。
-スキル【無知無能・無関心】が【無知無能・関心】へと進化しました。それに伴い、
並列スキル【索敵】【鑑定】が付与されます。この場で発動させますか?-
この集会場の建物を取り囲む盗賊たちは・・・。気配的にはざっと20。
たったの20人で国と戦争しようって?正気の沙汰とは思えない。余程に強い人が居るの?
そう思って再度気配を探って様子を見る。
-スキル【索敵】【鑑定】の発動が確認されました。並列スキルにレベル概念は適用外です。身体能力向上により精度上昇が見込まれます-
因みに爺やは、初手で肩を射貫かれて絶賛気絶中。手当は急ぎたい所。
居たはずの護衛が姿を消した。盗賊とグルで逃げたか寝返ったか。
「助ける?強うそうな人居ない気がする」
「あいつは嫌いだけど。放置するのも後味悪そうだしねぇ」
右手に銀鉄鋼。左に自作。並べて見ると、業の違いが良く解る。とそんな事を言っている場合じゃないな。
盗賊は素早い。常識的に、軽装で固めて速度特化が通例。狙うは足元。
毒攻撃にも注意が必要。毒耐性なんて持ってないし。
何かを期待するボーンと目が合った。口に人差し指を当てて見せ、ボーンが小さく頷いた。
「よーし。今から出てってやるからな!」ヤケクソなのか何時も以上に声がデカい。
正直五月蠅い。
ゆっくりとした動作でボーンが動き出す。
「証拠は荷台に積まれた荷物で解った。言い逃れは出来んぞ!」
盗賊たちの注意がボーンに集中した。やれば出来るじゃん。
僕らも動き出す。建物の裏口から外に出ようと、裏手の扉前で待機。
他の組の護衛冒険者たちと目を合わせる。彼らもすでに準備万端。流石は場慣れてる。
アイコンタクトで初手は僕らでと打ち合わせ、蝋燭の火を吹き消した。
「さぁ出るぞ!行き成り弓は止めよ。大事な人質だろ!」
ボーンが大声を張り上げ、玄関ドアをゆっくりと開き。
「者共!出合え-!!」
早ぇよ!!余計な事をする。
強制開始ゴングが発せられた。
「あいつ、後でお仕置きで」
ヒオシの言葉に頷いて、僕らは一番に飛び出した。同時に背から打ち出される数本の弓矢。
援護射撃の甲斐あって、相手の弓隊の動作が一歩遅れた。
対面の建屋の脇を擦り抜け、周囲の盗賊の手足を手当たり次第に斬り刻む。
「うぉーーー手が、手がぁぁぁ」
手足を切られたとの解説が各所に聞こえる。僕らは撹乱に専念。後処理は後ろのベテランさんたちに任せ、その場を起点に2手に別れ、集会所の外周を大きく迂回しながら出会い頭に斬って捨てた。
中には女性のような甲高い悲鳴も混じる。奥歯を食い縛り、ゴメンと心で呟いて。
片足と両腕さえ潰せば追撃は封じられる。可能なら腱を、乱戦状態になれば斬り落とす。
武器には頼りたくないとか、言っては居られない。銀鉄鋼なら皮籠手でも楽勝で割れる。
-----
「人間相手に死ぬなよ、タッチー」
俺らはファンタジーの世界にやって来た。魔物たちを駆逐する。若しくは魔王を打倒する。
それがテンプレ定石のはず。
こんな所で人間同士の争いに巻き込まれて死にたくない!
もう誰が何と言おうと、タッチーは親友だ。俺が居ない所でも、目の前でも殺させやしない。
-スキル【友愛】即時発動が確認されました。
これにより想う相手との相乗効果が見込まれます。
それに伴い、相手との共闘時に相互同等の身体能力に引き揚げられます。-
タッチーは優しいから、人殺しは、この俺の役目だ!!
-スキル【狂犬】即時発動が確認されました。-
「うぉぉぉーーー。こっちだバカ共!」
-スキル【狂犬】が【狂戦士】へと進化しました。
これにより狂慌状態に陥っても、並列スキル【平常心】が常時付随発動されます。-
通り過ぎた藪の中で、あいつの護衛隊のメンバーの姿が一瞬見えた。
折り返して斬り刻む。鉄甲の繋ぎ目に短剣を挿し入れる。
「や、やめ・・・。お、れは味方だ・・・」血反吐を口から吹き出して崩れ倒れた。
伸ばされた手を振り払い、次に向かった。
「どうだかねぇ」乱戦時の手違いだったとして置こう。
意外に、平気なんだな・・・。俺、壊れちまったのかなぁ。
-----
何故かヒオシの現在地が感じ取れるようになった。集会所外園をすでに半周している。
これは負けてられない。
集会所の表面を横目で捉えた。
玄関と窓部を遮るような、大盾が構えられている。戦士系の人だ。
建物自体は堅牢。防火剤も塗られている。A級並の弓の名手でないと、壁は容易に貫けまい。
安心して前を向ける。
「坊主!首領を見つけたら生かしとけよ!」建物の中から誰かの声が聞こえた。
「了解!」
今の掛け声で僕の位置が知られた。罠ではなく僕らの暴走を察知して仕方なくだ。
踏み出そうとした足を、匍匐前進で掴まれた。
篝火に照らし出される鬼の形相。明確な殺意の目。その目を見て、僕は動けなくなった。
-スキル【無知無能・関心】並列スキル【無感情】派生スキル【感情抑制】
緊急措置として強制同時発動されました。-
「死にたくないって言うなら、他人に、剣を向けちゃいけないんだよぉぉぉ」
言い訳をしながら。無我夢中で。感じた恐怖を振り払うかのように。
その目が僕から離れるまで、両手の短剣をその人に浴びせ続けた。その人が、力尽きるまで。
千切れた手首から先が、僕の足に絡み付いていた。
構わず前方からの弓矢を眼前で避け切った。確実に頭部を狙いに来てたのが幸いに。
半身だけを移動。反動で篝火から反対方向の建物の陰に飛び込む。
急激な光の変化は、視認性を悪くする。それはどんなベテランでも。
突くなら、出来上がったこの瞬間。
僕が出合った3人の動きを封じた頃。
ヒオシが正面の建物の屋根から、首領らしき盗賊を蹴り落としていた。
各所から、悲鳴と嗚咽。懇願の声が多く聞こえた。
僕らの最初の人殺しは、こうして幕を下ろした。
「ヒオシ・・・。僕らはもう・・・」
「もう何も言うな。タッチー」
ヒオシの手が肩に優しく置かれ、僕らは静かに涙を流した。
僕らはもう、元には戻れない。殺めてしまった人たちに謝りながら。
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