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第1章 紅峠
第15話 寝台急行王都行き
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何の力も持たない僕らが、何も無いこの世界を渡る。
何処へ行くのかではなく、何処まで行けるのか。単純な興味。
見た事もなかった平原。見た事もなかった荒野。
見た事もなかった山々。見た事もなかった清流。
どんな風景動画よりも美しい。どんな高精細な静止画よりも目に染みる。
天幕の隙間から見える流れる景色。情景に胸が高鳴る。
「おい、お前たち」
「タッチー。これからどうする?王都行ってから」
「どうしよっかなぁ。暫く腰据えて頑張ってみるのもいいし。東海岸でも目指そうか」
「海かぁ。メイリダさんと行ってみたいなぁ」
彼女の水着姿でもイメージしているのだろう。鼻の下が垂れている。
ま、僕もキュリオさんの姿を想像して頬が緩々だからお互い様ってやつ。
「お、おい!お前たち!」
「でもツーザサからだと、かなり長旅になるしなぁ。何かもっと速い乗り物とかあればいいけど」
「移動が馬車だけってのはねぇ。乗り心地最悪だし。乗り合いだとやたら五月蠅いし」
「五月蠅いとは何だ!好い加減に、私の話を聞け」
「ほい、ジャンケン。最初は・・・」
どちらが先に、次の宿場町までの仮眠をするかをジャンケンで決める。
大抵僕が勝つので。
「また負けたーーー」
「んじゃお先にー」
藁と干し草詰め合わせの俵を枕にしてヒオシに手を振った。
キュリオさんの膝枕・・・。Zzz
「次こそは勝つぞ」
起きてるほうは自分たちの荷物の見張り。2人旅の特権。1人だとこうは行かなかった。
馬車隊の行者の身元は保証されてて、ある程度は信用出来る。
乗り合いで乗り手のほうは知らん人。単純に誰も信用出来ない。
信用した瞬間に裏切りとか、よく有るテンプレじゃん。人は性別や顔では判別出来ない。
「クソッ、貴様らこの私を無視するか!」
「ぼ、坊ちゃま。荷上で暴れるのは規約違反ですぞ。一方的に暴れては、最悪途中で降ろされてしまいます故。お気を確かに」
-----
例えばそう、このやたらと俺らに絡んで来る王都の貴族のボンボン。
付き添いのお爺さん。従者よりは執事って感じかな。頭の天辺禿げはストレスが原因に違いないだろ。
スースー眠るタッチーを横目に、周囲に気を払いながら外の景色を楽しむ。
馬車での長旅にはもう慣れて、何時でも何処でも寝られるようになった。馬車では流石にふかふか俵が無いと無理だけどさ。
景色を楽しみたいのに、難題が一つ。
この喧しい貴族のボーン。多分年下。成人してるかも微妙。爆発して死ねばいいのに。
王都までの道程で半分近い所まで来た。
車列4台の中規模の乗り合い馬車隊。中でもこの馬車が人気が無い。
この、爆発暴言ボンボーンのお陰で。マジで死ねばいいのに。
裏でくじ引きして、今日は俺が見事外れを引き抜いた。あの時の俺を殴りたい。
何この罰ゲーム。寝てる人居ても構わず、叫き散らすとか有り得ないだろ。
何で貴族の子居るのかって?
よく話は聞いてないけど、なんか盗賊集団に襲われて台車が荷物と一緒に丸っと奪われたらしいよ。
手持ちの現金だけで購入出来たのは、この乗り合い馬車だけって流れ。
殺されれば良かったのに。
護衛隊の生き残り数名は、この馬列サイドに加わって併走してる。
この世界の盗賊って・・・。義賊か何かか?殺しはしないで金品だけ奪うとは。
こいつの運が良いのか、誰かの策略か。・・・なんて。
関係無し。絶対に関わらないぞ。俺らは決意して一切の無視を決め込んだ。
考えなくちゃいけない事は山程ある。あの学校が在った場所の事。見捨ててきたクラスメイトたちの事。これからの先の事。帰還方法の事。
見捨てたってのは違うかな。誰一人タッチーの言う言葉を聞いてなかったし。
死んでしまっても自業自得。
一番の問題は、帰還方法。どうやったら見つかるかも、方法は無いのかも知れない。
無いなら無いで、この世界で生き抜くしかない。何度も覚悟したはずなのに、心は乱れる。
乱される。
「・・・フンッ・・・」ボーンが小石を打つけて来た。
人殺しはまだ未経験だけど、殺意が湧いて来る。
左手で続投のタッチー側に流れた石を掴み取り、右手を自作の鈍鞍短剣に手を掛ける。
寝てる人に、投石するなんて。
「攻撃、したね?」作り笑いで一睨み。
「ヒッ」たったのそれだけで、怖じ気づいて振り上げた腕を引っ込めた。
このボーンデブ。痩せていればあの梶田みたいだ。あいつよりは喧嘩は強くないだろうけど。
前に一度だけ、梶田は俺をイジメの標的にしようとした事がある。
外見ガリガリだから勘違いしたのかな、とも思う。
余りにも嘗めた態度で意味不明な命令をして来たので、本気で殴ってあいつの奥歯をへし折ってやった。
それからは平和で何よりだったのに。狂犬の異名が付いたっけな。
-スキル【狂犬】この場で発動させますか?-
異世界に来てまでコレかよ・・・。
「お、お許しを!このじいが後で言って聞かせますので。どーか」
シラけたので、柄から手を離す。
-スキルの発動は見送られました。尚、スキルの固定化に伴い、以降は任意の場所で発動可能状態となります-
「お爺さん。お付きならしっかり面倒見ないと。君、黙らないと通報するぞ!!」
「ヒッ」すっかり怯えてブルってる。
これ見よがしに、銀鉄鋼の短剣を取り出して眺める。
この腕に余る逸品。刃毀れ無い美しい光沢。いつか・・・。
ザイリス(御兄)さんのように、熊を一人で狩れる位にならないと。
元世界での精神力なんて塵同然。タッチーと同じく仲良くお漏らし。本当に笑える。
あの域まではまだ遠く。偏に目指すは長剣だな。
ザイリスさんとゴルザさんってどっちが強いんだろ・・・。少なくとも同格ではあると見た。
この世界の強き武人たちに思いを馳せる。
王都でも沢山出会えるといいなぁ。美人さんは・・・、もう大丈夫。たぶん。多分ね。
何時までも裸身で剣を持っていても危ないだけなので、分厚い鞘に戻した。
「タッチーが居なかったら、とっくに暴れてますよ。どうか、気を付けて」
やっと静かに戻った荷台の中。そう。今この馬車の荷台には、俺らとボーンと執事さん。
たったの4人だけだった。
何処へ行くのかではなく、何処まで行けるのか。単純な興味。
見た事もなかった平原。見た事もなかった荒野。
見た事もなかった山々。見た事もなかった清流。
どんな風景動画よりも美しい。どんな高精細な静止画よりも目に染みる。
天幕の隙間から見える流れる景色。情景に胸が高鳴る。
「おい、お前たち」
「タッチー。これからどうする?王都行ってから」
「どうしよっかなぁ。暫く腰据えて頑張ってみるのもいいし。東海岸でも目指そうか」
「海かぁ。メイリダさんと行ってみたいなぁ」
彼女の水着姿でもイメージしているのだろう。鼻の下が垂れている。
ま、僕もキュリオさんの姿を想像して頬が緩々だからお互い様ってやつ。
「お、おい!お前たち!」
「でもツーザサからだと、かなり長旅になるしなぁ。何かもっと速い乗り物とかあればいいけど」
「移動が馬車だけってのはねぇ。乗り心地最悪だし。乗り合いだとやたら五月蠅いし」
「五月蠅いとは何だ!好い加減に、私の話を聞け」
「ほい、ジャンケン。最初は・・・」
どちらが先に、次の宿場町までの仮眠をするかをジャンケンで決める。
大抵僕が勝つので。
「また負けたーーー」
「んじゃお先にー」
藁と干し草詰め合わせの俵を枕にしてヒオシに手を振った。
キュリオさんの膝枕・・・。Zzz
「次こそは勝つぞ」
起きてるほうは自分たちの荷物の見張り。2人旅の特権。1人だとこうは行かなかった。
馬車隊の行者の身元は保証されてて、ある程度は信用出来る。
乗り合いで乗り手のほうは知らん人。単純に誰も信用出来ない。
信用した瞬間に裏切りとか、よく有るテンプレじゃん。人は性別や顔では判別出来ない。
「クソッ、貴様らこの私を無視するか!」
「ぼ、坊ちゃま。荷上で暴れるのは規約違反ですぞ。一方的に暴れては、最悪途中で降ろされてしまいます故。お気を確かに」
-----
例えばそう、このやたらと俺らに絡んで来る王都の貴族のボンボン。
付き添いのお爺さん。従者よりは執事って感じかな。頭の天辺禿げはストレスが原因に違いないだろ。
スースー眠るタッチーを横目に、周囲に気を払いながら外の景色を楽しむ。
馬車での長旅にはもう慣れて、何時でも何処でも寝られるようになった。馬車では流石にふかふか俵が無いと無理だけどさ。
景色を楽しみたいのに、難題が一つ。
この喧しい貴族のボーン。多分年下。成人してるかも微妙。爆発して死ねばいいのに。
王都までの道程で半分近い所まで来た。
車列4台の中規模の乗り合い馬車隊。中でもこの馬車が人気が無い。
この、爆発暴言ボンボーンのお陰で。マジで死ねばいいのに。
裏でくじ引きして、今日は俺が見事外れを引き抜いた。あの時の俺を殴りたい。
何この罰ゲーム。寝てる人居ても構わず、叫き散らすとか有り得ないだろ。
何で貴族の子居るのかって?
よく話は聞いてないけど、なんか盗賊集団に襲われて台車が荷物と一緒に丸っと奪われたらしいよ。
手持ちの現金だけで購入出来たのは、この乗り合い馬車だけって流れ。
殺されれば良かったのに。
護衛隊の生き残り数名は、この馬列サイドに加わって併走してる。
この世界の盗賊って・・・。義賊か何かか?殺しはしないで金品だけ奪うとは。
こいつの運が良いのか、誰かの策略か。・・・なんて。
関係無し。絶対に関わらないぞ。俺らは決意して一切の無視を決め込んだ。
考えなくちゃいけない事は山程ある。あの学校が在った場所の事。見捨ててきたクラスメイトたちの事。これからの先の事。帰還方法の事。
見捨てたってのは違うかな。誰一人タッチーの言う言葉を聞いてなかったし。
死んでしまっても自業自得。
一番の問題は、帰還方法。どうやったら見つかるかも、方法は無いのかも知れない。
無いなら無いで、この世界で生き抜くしかない。何度も覚悟したはずなのに、心は乱れる。
乱される。
「・・・フンッ・・・」ボーンが小石を打つけて来た。
人殺しはまだ未経験だけど、殺意が湧いて来る。
左手で続投のタッチー側に流れた石を掴み取り、右手を自作の鈍鞍短剣に手を掛ける。
寝てる人に、投石するなんて。
「攻撃、したね?」作り笑いで一睨み。
「ヒッ」たったのそれだけで、怖じ気づいて振り上げた腕を引っ込めた。
このボーンデブ。痩せていればあの梶田みたいだ。あいつよりは喧嘩は強くないだろうけど。
前に一度だけ、梶田は俺をイジメの標的にしようとした事がある。
外見ガリガリだから勘違いしたのかな、とも思う。
余りにも嘗めた態度で意味不明な命令をして来たので、本気で殴ってあいつの奥歯をへし折ってやった。
それからは平和で何よりだったのに。狂犬の異名が付いたっけな。
-スキル【狂犬】この場で発動させますか?-
異世界に来てまでコレかよ・・・。
「お、お許しを!このじいが後で言って聞かせますので。どーか」
シラけたので、柄から手を離す。
-スキルの発動は見送られました。尚、スキルの固定化に伴い、以降は任意の場所で発動可能状態となります-
「お爺さん。お付きならしっかり面倒見ないと。君、黙らないと通報するぞ!!」
「ヒッ」すっかり怯えてブルってる。
これ見よがしに、銀鉄鋼の短剣を取り出して眺める。
この腕に余る逸品。刃毀れ無い美しい光沢。いつか・・・。
ザイリス(御兄)さんのように、熊を一人で狩れる位にならないと。
元世界での精神力なんて塵同然。タッチーと同じく仲良くお漏らし。本当に笑える。
あの域まではまだ遠く。偏に目指すは長剣だな。
ザイリスさんとゴルザさんってどっちが強いんだろ・・・。少なくとも同格ではあると見た。
この世界の強き武人たちに思いを馳せる。
王都でも沢山出会えるといいなぁ。美人さんは・・・、もう大丈夫。たぶん。多分ね。
何時までも裸身で剣を持っていても危ないだけなので、分厚い鞘に戻した。
「タッチーが居なかったら、とっくに暴れてますよ。どうか、気を付けて」
やっと静かに戻った荷台の中。そう。今この馬車の荷台には、俺らとボーンと執事さん。
たったの4人だけだった。
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