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第1章 紅峠

第13話 国境

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「私はカルバン・クライヴ。アルバン・クライヴが娘。廃国ゴーウィンより亡命、御国の救国が為参りました!上層よりの返答を求めます!」
高らかに宣言し、証文を掲げて見せる。大魔術師の家系だけに代々渡る家紋が入った、金刺繍のペンダントを手にして。

「格好良い。惚れる!」
「格好良いね。・・・惚れはしないけど」
カルバンの後ろに控え、付き従う従者の丁で。
目深いフード付きの麻ロングコートを着込んでいる。

「恥ずかしいから。少し黙ってて」
人差し指を口に当てて振り返る。
「可愛い。食べちゃいたい!」
「せ、節操ないなぁ。アビちゃん」
最近ずっとこんな調子で、我孫子は機嫌が良い。いったい何処に喜びを感じているのか。
正直ずっと隣に居ても、彼女に関しては解らない事だらけ。

あれか!ツンデレを地で行くタイプの女か!!

元の世界では、あんなにツンツンしてたのに。デレたらずっとなの?チョロ過ぎない?
アビの今後を、大変に心配するフウであった。

当の本人は何処吹く風。今日も機嫌が良さそうで、鼻歌でも歌いそう。
と思ってたら本当に歌い出したので、鼻を摘まんで阻止した。

邪魔をされ頬を膨らませて、不本意の目をしている。
「可愛いからって何でも許される訳じゃない」
「せ、正論過ぎて何も言えない・・・」
まず可愛いを否定しろよ!ハァと溜息を吐き出し、係の人が来た様なので姿勢を正す。

「カルバン様。先ずは砦の衛兵長が接見致します。粗末な部屋しかご用意出来ませんが。どうぞご緩りとお過ごし下さい。それと・・・後ろの方々は?」
「私の専属の従者です。同席帯同を許されないならば、即刻クイーズブランに向かいますよ」
「い、いえ。それはご自由で構いません。ただ気になりまして・・・」
「衛兵長ともあろう方が、か弱き女3人に害されるとでも?後でお伝えしましょうか?」

「め、滅相も御座いません。どうぞ、こちらへ」
案内されるままに、後に続いて門を抜け、高台に建てられた頑丈そうな砦の一室に通された。

2ヶ月近く。野宿やら野宿やら野宿を繰り返す日々だったので、どんな建物でも珍しくて。
多少男臭くても、雨風が凌げると言うだけで幸せを感じた。慣れって怖い。

これが西洋の建物かぁ。

国境壁を遠目に見えていた時点で解ってたけどさ。
石積み、石畳が続く風景。色的に単色なのでどれがどれだか。町とかで一人で居たら、余裕で迷子になれそうな気がする。

実際は看板や旗とか目印が在るんだろうけど、殺風景で。おぉ、と思ったのは最初だけ。

美術は得意でも好きでもなかったし。幼少時から柔道一本でやってきたし、インハイで優勝した事だってあるし。将来のオリンピック強化候補にも選ばれて・・・。

元の世界は、今頃どうなっているんだろう。
騒ぎになってるかな。学校と一クラス全員だからなぁ。騒いでないと可笑しいよね。

建物、備品、隣接体育館、個人の荷物、ロッカーの中身まで。不思議だなぁ。

ラノベとかは読んだ事はあるけど、ファンタジーよりは恋愛&BL少々しか読んだ事ないしな。

ふむふむ。これ位の壁なら壊せそう。大きいの一個抜いたら・・・、崩れるの?止めておこ。

トントンとノックされたので、姿勢を戻してカルバンちゃんの後ろの定位置に立つ。
いつも右側なのに、アビが急に私の右側を取り出した。

白い歯を見せて笑ってる・・・。情緒不安定か!!

ドアが開く寸前でアビを腰で持ち上げ、ヒョイと左側に置いた。
「何を遊んでるの!どうぞー」
怒られちゃったじゃない。
「失礼する。決してこちらは遊んでいる訳では・・・」
アラヤダ、イケメン♡おじさん趣味じゃなかったけど、この人なら全然イケる!

「貴方の事ではありません。後ろの従者の事でして。初めまして、カルバンと申します」
「アビです」
「フウです」
「2人合わせて?」急にどうした!?アビよ。まさかプリ何たらやりたいの?
たったの2人だよ?初代のやつ?取り敢えず、後でこいつ絞めよう・・・。

軽くカルバンちゃんが咳払いしてスルーした。
「随分と面白い従者の方ですなぁ。私はプリシラベート王国、北部国境警備隊衛兵長のエドガー・スミッションと申します。確認の為、もう一度家紋と証文を拝見出来ますかな?」
「ええ、勿論ですわ。下手に取り上げようものなら・・・、ここがどうなるかは解りますね」
交渉じゃない!?脅しよ、それは。

「ハハッ、ご冗談を。念の為の確認ですとも」
冷静ー。アビじゃないけど、惚れるわぁ。
差し出された証文とペンダントを入念にチェックしていた。
証文に書かれた字は難しくて、私には半分も読み切れない内容。隣のアビなら・・・。

頬を赤らめ、何かを口走ろうとしている!?
私は慌てて彼女の口を押さえて、羽交い締めに絞め落とした。
キューっと鳴いて力が抜けた彼女を離れた床に安置する。

「な、何事ですかな」
「何時もの事ですので。お気になさらず」
カルバンちゃんに睨まれてしまった。

「・・・証は本物と判断致します。入国許可を発行しましょう。王都への連絡は後ほど飛ばしますが今回のご予定は?我が国王様との謁見をお望みなら、その様に伝えますが」

「北部の最寄りの町に、暫しの居を構える予定です。将来的にクイーズブランに所用がある為、それまでの安住を望みます。王との拝謁は、そちらが慰問にお越しの際にでも」

「ほう。こちらが向かうなら、ですか。低俗な私めには計り知れぬ事。故にそちらの話は置きましょう。それよりも最寄りの町と申されましたな・・・。チャイントの町など如何ですかな?」

「チャイント・・・。解りました。そちらで結構よ。ならば条件を少々加えましょう。冒険者ギルドの仮登録、付近の魔物の討伐許可、ダンジョンへの入場許可、3人が住める程度の家屋。それと」
「ま、待たれよ。それで少々とは・・・」
ちょっと慌てたエドガーさんも、またイイ感じ。
「魔術師を手元に置くとはどう言う事か。貴方はご存じ?材料と大粒の魔石を持って来るなら、優秀な魔道具を拵えましょうと言っているのですよ。充二分な好条件だと、私は思います」
「は、はぁ・・・」
「持ち逃げがご心配なら、護衛兼監視を付けなさい。但し女性以外は一切認めません。その護衛にも住んで貰うなら、もう少し大きな建屋を望みます。後は専用の荷馬車。家が用意出来るまでの宿泊施設と費用。盗賊への殺傷許可。以上です」
殺傷!?泥棒は確かに怖いけど。殺しちゃうの?・・・ちょっと、聞いてるだけで気分が・・・。

「馬車と宿に関しては、直ぐにでも手配しましょう。ですが、全ては私の一存では決め兼ねる部分も御座います。暫く宿泊待機とさせて頂きます」
取ったメモ紙を読み返して汗汗してる。嫌な汗だろうけど格好いいからOK。
傾いた気分も持ち直す。・・・私もアビの事、悪く言えないなぁ。
「宜しい」
エドガーさんとカルバンちゃんが握手を交した。

「もう一文だけ加えなさいな」
「ど、どの様な?」
「条件を一つでも満たせない。又は私たちの身元や所在を触れ回る。これらの兆候が見られた場合は、即刻退去しクイーズに向かう。と」
強気だなぁ。魔術師って王様よりも偉かったりして。

「加えましょう」


-----

遠見の小窓から、去り行く馬車を見送った。
「エドガー兵長。こちらの条件で間違いないのですか?」
「一文たりとも漏らさず、有りの侭を書け。私では手に負えんよ」

「あの魔術師が、召喚士、なのでしょうか」
「さぁな。長生きしたいならば、何も知らぬ事だ」
大魔術師アルバンは、王国崩壊と共に群発した野盗の集団に襲われ殺害されたと公式には聞いている。

大規模召喚は成功したとの巷の噂だ。恐らくはあの従者が・・・。

あの素早い身の熟し。あの技。あの様な武術は、これまでに見た武とは全くの異質の物。

「それにしてもあの小娘。魔術師と言うよりも、完全な政治屋だったよ。果ては大商人か何処ぞの女王にでも成る。と言われた方が遙かに納得が出来る」
「それ程でしたか」

「さぁ仕事に戻れ。お姫様の宿まで取れぬとは一大事だ。さっさと書いて飛ばすのだ」
「ハッ!」

砦の副官が部屋を慌てて出て行った。

このプリシラベートとクイーズブランは、数年前から休戦下に在る。
膠着状態が続くかも知れない。どちらかが締結を破るかも知れない。

彼女たちがこちらに何をしにやって来たのかは解らない。解らないが、善き方向へと彼女らが導いてくれる事を、エドガーは願わずには居られなかった。
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