上 下
8 / 115
第1章 紅峠

第8話 討伐依頼書

しおりを挟む
テンプレってよくある話。定番のシチュエーションってやつ。
折角異世界まで来たのに、冒険者ギルドに仮登録出来たのに。突如勃発する新人潰し。

だからさ。解ってるなら、回避するでしょ。

ギルドの掲示板前。朝方は序列の高い人たちから順番を守る。
新人に残される依頼なんて、多寡が知れてる。難しい内容なら上位のベテランさんが持って行く。新人の僕らでは手出しが出来ないし、死亡確率が格段に上がる。

反面、そういった形で未来ある新人を守っているとも見れる。

「おい!新人だな。邪魔だ、ど・・・いてるのか・・・」
強面のベテランさんが後ろに来たので、言われる前に掲示板から離れておいた。
僕らは完全に誰も居なくなった後でいい。
「今日はいいのがねぇなぁ」
「遅刻するからよ」
強面にも臆することなく、普通に遇うギルド職員さん。やっぱ職員さんが最強なのかも。
結構美人さんだし。巨乳さんだし・・・。
ヒオシが隣で鼻の下を伸ばして、職員さんの胸元をガン見してる。さっきからずっと。

それ完全アウトのセクハラだから。格好悪いから止めて欲しい。早く発散させてやらないと、こいつは危険だ。

職員さんは見られる事に慣れているのか、ちょっとだけ頬を染めるだけで怒るでもなく業務を熟している。おいヒオシ。バッチリバレてるぞ。

強面さんが今日は諦めて帰ってしまった。残された依頼書を確認確認。

SSS。黒竜の討伐。アホか!
ファンタジーのど定番がプリントされている。多少盛られてる感はあるけど、引いて見てもリアルにドラゴンが描かれてる。絵師の確かな腕が窺える。

更に驚いたのは、学校の置かれた場所から西に行った森一帯が生息地だった事。触らぬ神に祟り無しはこの事だ。直感を信じて東に向かって良かった。ギャンブルの連続。こんな幸運は長くは続かない。必ず何処かで失敗する。

動悸と冷や汗を収めて、次。

SS。大狼の討伐。はい、ダメ。
モチスルーの対象だけど情報だけ入手。外観は不明で黒い塗り潰し。遙か北方の山岳地帯が縄張り。それに挑んで帰ってきた者は居ないと説明されている。
フェンリルだなコレ。銀毛の巨大狼をイメージした。

S。雷鳥の討伐。これはあんま見たことないな。
全ての詳細は不明。こいつは何処からともなく飛来して、襲い掛かって来るが対象を持ち帰る訳でもなく、目的も不明。対象は人間や獣、大型の魔物と多岐に渡る。
単なる戦闘狂だったりして。サンダーバードがフェンリルと喧嘩してるイメージを持った。

AAA。一角獣の討伐。一角の暴れ馬。
これを乗りこなせれば最強の馬主に成れる!って言われても・・・。ユニコーンだね。

上級向けは以上。他のめぼしい物は持って行かれて貼られてない。

少し飛んでB。大熊の討伐。大きなグリズリー。
南の森最深部の主。もしも出会ってしまっても、即座に逃げるのは避けるべし!好物の生肉を差し出せば、逃走確率アップ?逃げるが勝ち。なぜ疑問形??
奥まで行かなければヨシって事で解決。

「メイリダさん。この大熊だけBなのに残ってるのはどうしてですか?」
受付職員さんに聞いてみた。
「それねぇ。個体差が激しすぎるの。大熊が番とかで2匹以上居る場合、A級パーティーでも対処がとても難しくなるのよ」
熊さんのファミリーに出会したら絶望的と。

メイリダさんと僕ら以外は、ロビーには誰も居なくなった。たっぷり時間を掛けて吟味する。

昨日仮登録したばかりの僕ら新人はF級。討伐対象のランクはあくまで目安。実際に戦ってみないと実情は解らない。

例えばEやFの、スライムやゴブリンの討伐。相手の数や規模が不明な物には手を出してはいけない。低級の魔物でも大軍で押し寄せて来たらアウトだし、スライムもその個体が巨大であった場合、内部核を破壊する前に取り込まれたら窒息昇天、あの世へまっしぐらさ。

そこらの見分けと仕分け、割り振りを決めるのがギルド職員さんのお仕事。

町中のギルドで仮の登録。ある程度の武勲を積み上げ、王都に行ってから正式登録。
低級でも達成報酬は上がり、登録証は身分証にもなるので欲しがる人は大勢居るらしい。僕らも漏れなく。

功を焦って勢いで特攻。それで死んで貰っては困る。がギルドの言い分。
上位への道のりは険しいな。

昨日は安全な薬草集めに勤しんだ。報酬は当然ショボかった。ギリギリ一泊分の宿賃。

さてと、新人らしく。今日はゴブリン退治でもしようかな。顎に指を当てながら依頼書を外す。
「タッチー。ショッピングじゃないんだから・・・」
「まぁまぁ。許可されるかは聞いて見ないとさ。メイリダさん、これお願いします」
「うーん。ゴブリンかぁ。通常はEかFの複数で行くものだけれど・・・。他の子たちは出発してしまった後だしなぁ」
暫く依頼書と僕らを見比べて唸っていた。

「うん。2匹までなら許可します。深追いは絶対しない事。巣を発見しても近付かない入らない。約束出来る?」
「はい!出来ます。メ、メイリダさん。お金が貯まったら、こ、今度のお休みにお食事でも」
勇気を出しての不意打ちアタック。ヒオシ、美人なら誰でもいいのか?
急に誘われて固まっていたメイリダさんも、再起動後に。
「そ、そうねぇ。ゴブリン退治だけで誘われてたらお断りだったけど・・・。お金がちゃんと稼げるようになったらね。・・・ヒオシ君。逃げる事は恥じゃない。これだけは忘れないで」
「はい!危なくなったら逃げます!」
真逆の生きて帰れOKとは・・・。出遅れた僕は、何も言えません。

別の誰かと、フラグでも立てよかな・・・。別の誰か・・・。誰かか。

不意に鷲尾さんの顔が浮かんだ。何をバカな。
学校を出たあの日。助けようとも、誘おうともしなかったくせに。

言い訳。自分一人なら野垂れ死んでも構わないと思ってた。
出るほうも、残るほうも。どちらが正解か解らなかった。
胸に残る淡い想いも、伝えてはいなかった。

彼女を守り切れる、自信が無かった。それは今でも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...