8 / 41
前日譚
かくしてクズは再臨した
しおりを挟む「優君大好きぃ」
やっちまった。
昨夜熱い夜を過ごした俺達は事後そのまま寝たが、起きてからずっと、俺は全裸で彩花に抱きつかれながらキスの雨を降らされている。
両親に愛されず、有名人として周囲とも距離があるタイプの人間、つまり前世の俺のような人間は一度セックスを覚えるとハマる。
それは分かっていた。承知の上だった。
しかし前世の俺は特に好きでもない女と初体験を迎えたからか、特に特定の人間にハマるわけではなくセックスと言う行為そのものにハマった。
だからか、勝手に彩花もそうなるだろうと決めつけていたんだが、前世の俺と彩花では条件が違った。
それは彩花が俺のことが好きな状態で俺とのセックスを覚えてしまったことだ。
まぁ早い話、
俺はセックスに依存したけれど、彩花は俺に依存してしまったわけだ。
前世の嵐だったらいくらでもあしらえた。
そもそも絶対に付き合う気はないとセックスする前から口を酸っぱくして言っていたし、
仕事を言い訳にすることができた。
他にたくさん相手がいることも周知の事実だったし、そもそも成人している方が多かったのでお互い割り切るのも簡単だったし、芸歴も長く売れていたので立場が上だから相手にも強く出れたし、しつこいタイプは調教したりしてやり過ごしていた。
しかし今の俺は優だ。
純粋な中学3年生であり、両親公認の彼女までいる。
一応最近人気急上昇中だが、まだまだいつ消えてもおかしくないレベルでしかない。
お相手は同じ事務所の売れっ子の先輩。
彩花と俺、どっちを守るか聞かれたら事務所は迷わず彩花を選ぶであろう。
あれ、俺詰んでないか?
「優君~♪」
ちゅっ ちゅっ
と考え事をしている俺に、
未だにキスしてくる彩花をいい加減煩わしく感じてとりあえず黙らせる事にした。
「きゃっ優君たら..♪あんっ。
好きぃ、好きぃ...」
はあはあとぐったりしている彩花を寝かせて、考え事を再開した。
目下最大の悩みは美愛だ。
すっかり頭から抜けていたが昨日彩花と会うことを美愛は知っている。
そこにきてこのお泊まりだ。
カイさんの家に泊まるとは言ったが、十中八九、美愛は疑いを深めているはずだ。
どうやって誤魔化す?
誤魔化しきれるのか?
いっそ正直に言うべきか?
いや、ただでさえ彩花を警戒していた美愛だ、
こんなことになったことが知れたら間違いなく仕事をやめさせようとしてくる。
いや、それどころか両親に言うかもしれない。
俺は今世の両親が本当に大好きだ。
世界で一番尊敬していると言っても過言ではない。
そんな両親に、俺が不貞行為を働くクズ野郎だと知られるのは想像しただけで辛い。
それに美愛の両親は俺の両親と親友だ。
俺のせいで仲がギクシャクするかもと考えると耐えられない。
どうする?どうすればいい?
俺は間違いなく罪悪感を感じている。
でも
俺は気づかないフリをしていた。
5年付き合っている最愛の彼女を裏切ったことにではなく、
両親を裏切ってしまったことに対しての罪悪感しか抱いていなかったことに。
美愛の存在を面倒に感じている自分に。
だってそれは嵐の考えだから。
生まれ変わった優はそんな人間じゃないから。
◇◇◇
「あのさ、彩花さん...」
「さん付けなんかいらないよ、敬語も。彩花って呼んで?」
「あぁ、わかった。それでさ、彩花...」
まだ今後どうするかは決めてないが、とりあえず今は疲労から復活した彩花をどうにかしようと口を開いた時だった。
「すとっぷ。私、わかってるよ。優君、彼女さんいるんだよね?」
「なん...で...」
「あはは...なんとなくいるんじゃないかなぁとは思ってたんだ。でもこうして、え...えっちしてさ、私初めてだったのにすぐに気持ち良くさせられちゃって、絶対優君初めてじゃないなぁって。それどころか経験豊富さんなんじゃない?」
そう言って苦笑いでジト目を向けてくる彩花の目を真っ直ぐに見返す。
「うん、幼馴染の彼女がいる。小学生からずっと付き合ってるよ。でも経験人数は彩花が二人目」
意外に鋭い考察を見せる彩花に、下手な誤魔化しは逆効果だと思い正直に答えた。
...重たそうな女だと思ったが、意外に都合の良い女かも知れない。誠実ロールすればなぁなぁにしてくれそうだなんて打算もあった。
「そっか...そんな前から...いいなぁ。私も優君と幼馴染がよかったなぁ」
「彩花はそんな感じの人いないの?」
「うーん。一応いるよ?幼稚園の頃かな?
年長さんの時に、年少の子とペアを組んで交流するイベントがあってね、その時にペアになった年少の男の子。何か凄い仲良くなっちゃって、大人になったら僕のお嫁さんになってよなんて言われたなぁそう言えば!あはは、懐かしい~」
「へぇ、また漫画みたいな幼馴染だね。その男の子は今は?」
「ん~、優君と同い年なんだけどね、私がモデル始める前くらいに両親の都合でその子が引っ越しちゃって、それっきり。お互いわんわん泣いてお別れしたなぁ。あ、今はもう楽しんでやってるけどね、私がモデルを始めたきっかけもその子なんだぁ。雑誌に載れば離れてても知ってもらえるかなみたいな!」
「うわぁ健気。もしかして初恋?」
「うーん...そうなのかなぁ?まだ小さかったしわかんない。優君に出会う前に再会したりしたら好きになってたかもねぇ。優君みたいに超かっこよくなってたりして!でも...ちゃんとこの人が好き!って思ったのは優君が初めてだから、私の初恋はやっぱ優君かな♪」
...どっかで見たラブコメみたいな話で楽しくなってしまって墓穴を掘ってしまった。
「あはは...」
「もうっ。そんな困った顔しないでよ。優君は私のこと好きじゃない?やっぱやれそうだったからやっちゃったのかな?...そうだよね。自分でも暴走しすぎちゃった自覚はあるよ。思えば私が誘ってるようなもんだもんね...なのに私ったら優君に求められて浮かれちゃって...ごめんね」
....こ、この人都合の良い女の素質がありすぎる。悪い男に引っかかるぞ。いや、絶賛引っかかってる最中か。
でも最初に想像したより良い方に行きそうだ。後はこの事を内緒にして、一夜の過ちにして終える事もできるかもしれない。
でも
惜しいなぁ。
ドロりとした感情が沸き上がる。
「彩花、聞いてくれ」
「うん...?」
「まず、今回やっちゃったことは彩花は悪くない。もう終わった流れなのに俺が手を出してしまった」
「嘘。わかってるよ私。優君は私を慰めてくれたんでしょ?」
「違う。いや、一概に違うとも言えないけど...とにかく、俺は彩花としたことに後悔はない」
「あはは...でも私も。初めてが優君でよかった。最低だよね、私。彼女がいる人に...」
「ありがとう。でも彼女がいる事を隠してたのは俺だ。俺が悪い。それで、彩花」
一呼吸置く。
大きく丸いくりくりした目でこちらを見る彩花をしっかり見つめ返す。
俺は今から最低な事を言う。
「彩花とは付き合えない。
今日の事も誰にも言わないでほしい。
でもこれからもたまに、こうして会わないか?」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?


男女比1対99の世界で引き篭もります!
夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公!
前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!!
偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

俺の好きな人は誰かの幼馴染(ヒロイン)らしいけど、知ったことではない
シダ植物。
恋愛
高校生の三枝叶翔は入学して早々今泉柚羽に一目惚れをする。しかし、彼女には仲良くしている幼馴染がいた。そうそれはまるでラブコメの主人公とヒロインのような...。だが、そんなことは関係ない!とアピールをする叶翔の運命は!?ハイスペック男子が全身全霊をかけて誰かのヒロインを搔っ攫っていく。まるで見る人が見れば当て馬のような主人公の送る青春ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる