月の都の花嫁

城咲美月

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「要約すると、公爵家に向かう理由としては
花嫁候補生の侍女をしてくれないかと言う事だよ」

兄様の言葉が私の中でリピートする。


侍女をする、と言う事情を私が考えるよりも先に「断っても良いんだよ」
そう兄様の言葉が、表情がとても心配しているのが分かるから、私は嬉しい。


でも、令嬢としはコールディ家としては、リーデル様との顔繋ぎは欲しいところだよね。

侍女の催促を受ける
ただそれだけで、ラガン家との繋がりは誰にでも持てる事じゃない事も確かだもん。


「いいえ、兄様受けるかどうかはともかくラガン公爵家には行きます
話を聞くだけでも、違うでしょう?」
「そうか…」

兄様の顔が、一瞬だけ厳しくなって肩の力を抜いたような
仕方ないなと言うようななんとも複雑そうな顔をする。

そんな顔をする時の兄様には隠し事なんてできないの。
きっと兄様には、お見通しだから。


兄様がゆっくりと紅茶を飲んだ後、ゆっくりと息を吐き出していた。
「何かあれば必ず私に連絡するんだよ」
「分かっているわ、兄様」

私の言葉に頷いた後、兄様はサム爺を読んだ
「それからサム」
「はい」
「後で私の執務室に来て欲しい」
「かしこまりました」

にっこりと微笑む兄様の笑顔は、とても良い顔をしていた。

きっと何かを考えついたんだと思う。

それから何日か過ぎて、ラガン家に行く事の許可が出た。
色んな準備と、最低限の知識は詰め込んだわ。

忘れていたわ、兄様がとてもスパルタと言う事を。
サム爺から教わった
紅茶の茶葉だけでも、厳選された物やブレンドされた物
水や淹れ方、蒸らしかた、効能や香りを次々と間を置かずに追加される。

いよいよ形になってきた夜、部屋でおさらいとして
詰め込んでいた時に

数回ノックが鳴った。
「入るよ、アネッタ」

私からの返事がなかなかなかったからなのか
「アネッタ?」
兄様がやってきたのが気づいてなかった。

「あんまりコンを詰めるなよ?」と、鼻をむぎゅっと軽くつねられてしまった。

「兄様」
「なんだ、今気づいたのか?」
兄様を軽く見上げる形で睨むと
兄様は、私のおでこから前髪を分けるように撫でる。


「どうした…?不安なのか?」
「私が侍女として、やっていけるかしらって…」


「お前なら大丈夫さ」
フッと微笑む兄様の笑顔は、優しくてとても好き。
でももうすこしで兄様も結婚しちゃうのよね。
この伯爵家を継いで
伯爵夫人となるマデリーン様も、優しくて兄様と、とても仲が良いから周りの皆さんが泣いていたわね。

兄様の「大丈夫さ」は、何も根拠もないけど
信じてみたくなっちゃうのよね。

「兄様がそう言うなら、頑張ってみるわ」
「おいおい、全然頑張るって顔してないぞ」とまた
鼻をむぎゅっとつねられる。

兄様の手を退かしながら「もう!」とほっぺたを膨らませる。

「アネッタ、もう少し表情を隠せよ」
今度は、ほっぺたをつねられながら小言が飛んできた。
「分かっているわ、我が辺境伯爵家が侮られるものね」
「分かっているじゃないか」
フッとイタズラっぽく微笑む兄様。

「それより兄様何しに来たの?」
「お前ね…中央に行くんだよ、激励しに来た
あと、ちゃんとスカーフを忘れずに着けておくんだ」
「はあい」

「素直でよろしい」ポンっと頭をひと撫でした兄様。
「それより、顔色が悪い
無理しないでもう寝ろよ」
「はあい」

兄様の手がすっと離れて、兄様に「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

就寝前の挨拶を交わす。


それから朝になって、朝食を食べ終わったら奇獣のところに行く。










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