月の都の花嫁

2

キッチンにて

アネッタの後ろについていく事数分

まだ朝食の匂いがしてくるキッチンの前までにやってくると、アネッタから「奏様は、ここで少しお待ちください
いきなり行くとびっくりさせてしまいます」と待ったをかけられた。

アネッタがそう言ってから、キッチンに入ってから
ひょっこり顔を出してオッケーの指のサインを出す。
あっ！しまった！みたいな顔して「奏様お待たせ致しました」と、少し顔を赤らめて態度を正す。

アレックスは、入り口で待ってくれるようだ。

微笑ましい様子を見てくすくすと笑う。
それから私もアネッタと一緒にキッチンに入っていくと
料理長のロイドや厨房で働く料理人達が手を動かしながら
こちらを見ている。
カチャカチャとお皿を洗う音、スープや紅茶のコップの数々。
フライパンや、中華鍋、寸胴鍋などの調理器具
オーブンなどが目に入ってくる。

「皆さんの仕事のお邪魔をして申し訳ないですわ
でも
今日はお礼に参りましたの、美味しいお料理をありがとうございました」
そう言って微笑むと「…おう。あー…俺はお嬢様に対しての礼儀作法をまともに知らねえです、それでもこうしてやっぱり面と向かってお礼を言われるのは嬉しいもんだな」
ニカッと笑うロイドさんの歯は真っ白だった。
タメ語混じりの敬語を話すロイドさんに

「私は、一般市民ですよ
ロイドさんの礼儀作法をあまり気にしてません、皆さんのお料理が美味しいからただお礼を言いにきただけです。
美味しいお料理を作ってくれる人に感謝をしたい、
私の自己満足ですけど、それでもありがとうございました」
お嬢様言葉をやめて、お礼をもう一度言う。

「お前さん…あー…まぁ、それでもお前さんはやっぱり花嫁候補生だろう
粗相はしないように言われている」
ロイドさんが頭をガシガシかいている。

「そう、ですね」

「だけど、お前さんが一般市民だろうがなんだろうが俺達はただの料理人だ
ただ美味しい料理を食べてもらいたい、その為なら努力も惜しまない。
そしていつしか俺にも宮廷料理長の名がついた
名誉ってのは後からついてくるもんだ。
あー…だから、何が言いたいって言うと
クソっ…上手く言葉が出てこねぇが、とにかくだなっ！
俺達はお前さんが美味しく食べてくれたらそれだけで嬉しいのよ」と、腕組みしながらニカッと笑っていた。

ロイドさんが笑うと、他の料理人さん達もうんうんと頷きながら「また来てくださいね」と笑っていた。

他の料理人達さんが、主にロイドさんに対して「よっ！料理長！」「カックゥイー」と揶揄っている。
「ありがとうございます、また来ます」と笑っていると、
ロイドさんが「おう！」と笑っていた。
私もくすくすと、一緒になって笑う。
朝から、和やかな雰囲気に包まれるのは心地よい。

「では、これ以上お邪魔するわけにはいかないので失礼しますね」
そう言ってキッチンを後にする。


アネッタが横から「奏様、料理長の言葉じゃないですけど
私も奏様には無理して欲しくないです」
「ええ」
「ありがとう、アネッタ」
アネッタの気遣いに私は同意する。

「アネッタもよ」と私が言うと「ハイ！」とアネッタが元気よく返事をする。
アレックスも、「自分もそう思います」と目線が雄弁に語っていた。
「ありがとう、2人とも」そう言うと、ニコっと笑うアネッタとアレックス。

キッチンから玄関ホール前に来ると、リーデルさん
レイニーさん、サマンサさんがもう立っている。


「おはようございます奏さん」　私の姿を見て、リーデルさんが声をかけてくる。
「もうお加減はよろしいのですか？」
「はい」
私が返事をすると、「そのようですね」とリーデルさんが頷いていた。
「では、今日はどちらに参りますか？」
「今日は、昨日行けなかった廃棄処分場と図書室に向かおうと思います」
「分かりましたわ、昨日夜遅くまでお疲れ様でした
こちらからまた連絡を入れておきますので
気をつけていってらっしゃいませ」
リーデルさんがそう言うと
「奏様、気をつけて行ってらっしゃいませ」と、
レイニーさんとサマンサさんが見送りしていた。