月の都の花嫁

城咲美月

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女子寮 サロンにて


私達が座ると、レイニーさんが優雅に紅茶を置いていく。

殿下から口をつけて「ん、美味いな」と言って手でどうぞと合図をする。

私だけが少し色が違ってたのはきっとアネッタが淹れてくれた紅茶だからだろう。
ほんの少しの違いだけだけど

一口飲んで分かった。
ありがとうアネッタ、と心の中でお礼を言ってチラッと見るとレイニーさんにも伝わったようだ。
一瞬の事だったようだけど、アネッタにはきちんと伝わってレイニーさんの驚いた顔とクスッと笑う表情に私も口角だけで微笑む。


おっといけない、目の前のことに集中しなくちゃ。


その場を知ってる者としてはかくかくしかじかで、なんて実際には起こらないわけで

殿下が上手く説明してくれている。
「月藜龍様がおいでになり、その時授けてくださったのがその卵だ」
とヤグーワイズさんが持っていた卵をそっとテーブルの上に置く。

あの雑過ぎる卵の渡し方を省いたのは、まぁ言うまでもない事よね。

掲示板でも「卵の渡し方wwwww」
「雑過ぎて笑う」「笑笑」AAのアスキーアートまで付いていたと古めの表現だったけど少し盛り上がっていた。
朝陽さんの時はどうなるのだろうと思っていたけど、
「ただ置いてあるだけなんじゃない?」
「さすがに?」
「誰かプレイしたら報告よろ」の事で、実際プレイしている人の

「本人目の前wwww」
「公式が笑わせにきとるw」

で、報告があったように
本当に本人目掛けて卵を転がしてきたのだ。

ぷっ…と笑いそうになるのをなんとか耐え、られなかった。

ふふふ
あ、ダメダメ収まって

「まぁ、では私が責任持ってきちんと栞様に届けますので、安心してくださいな」とリーデルさんが言う。

リーデルさんが言うのをヤグーワイズさんが頷いている。

それで、話は竜騎士の人の話になったところで

まだ私の中で、笑いが収まっていなかった。
ぷふふ………ふぐぅ…………ぷふ

だってあの時の月藜龍様の…あの…面倒くさそうな顔……
竜騎士の…ぷっふ…ふ…

ダメだってば!考えちゃ…

ダメだ!抑えようとするほど、肩も震えてきている。
変な笑い声が出そう

「奏嬢!やっぱりまだあの時……怖かったのだな」
の殿下の切なさそうな声色に、私は違う違うと首を横に振るしかできなかった。

「無理はしなくていい、公爵夫人すまないが話はまた後だ」

「ええ」
リーデルさんの心配そうな声色と
そう言って殿下が駆け寄ってきた。

ぷるぷると口元を抑えている私に、そっと抱き寄せて
「部屋まで我慢してくれ」と優しく言う。

だから~違うんですっ~

あっはっはっは!と笑い転げたいだけなんです

は言えずに
もういいか、早くひとりで笑いたいと、震えたままこくこくと頷く。

私はどうする事も、出来ずにされるがまま
殿下からお姫様抱っこされる形になった。


私は殿下のほうに寄りかかる形で、殿下の洋服をぎゅっと握る。

すると、殿下の歩むスピードが速くなった。
途中変な笑い声が出そうなのを必死になって抑えるしかなかった。
バタバタと、部屋に入って私をそっとベッドに降ろす殿下。

アネッタが、心配そうにしてくれている。
アネッタがそっとブランケットをかけてくれ
私のブーツを脱がしてくれる。

ここまで運んでくれるのは嬉しいけど、私は笑いたいだけで居た堪れなくなって、顔を隠すように
ブランケットを握りながら、変な笑い声を出さないようにだけ考えていた。

「あ…り…がと…うぞん…じ…ます…でん、か………」

私がまだ笑い耐えながら言うと
「ああ、もう無理はしなくていい」
眉を下げて、私の瞳から涙を拭う。

あ、泣き笑いしてたんだと分かった。
「今日はもう休め」
そう優しく私の頭を撫でる。
「はい」
私が返事をすると、殿下は下がってくれるようだ。

アネッタは殿下に頭を下げていた。

「私は湯浴みの用意してきます」
まだ心配そうにしてたアネッタに「私は大丈夫よ」と言って「ありがとう」と微笑むと
アネッタも、まだ心配しているような様子だったけどすぐに下がった。


アレックスもどうやら持ち場に居たようだった。
皆が居なくなって、私はとうとうひとりで大笑いしたのだった。
もちろん声を出すと、心配されるのでそこは耐えるしかなかったが。


ひとしきりに笑った私にアネッタが戻ってきて「奏様、湯浴みの用意が出来ました」と声をかけてくれる。
「ありがとう、アネッタももう休んでね」
「でも」
「私ならもう大丈夫だから、ちゃんとお風呂に入るし
アネッタにもゆっくり休んで欲しいから」

そう私が言うと「奏様……わかりました」
アネッタを騙すようで悪いが、名残り惜しいような様子のアネッタを見送ると、お風呂に入ってもうベッドの中で休む事にした。




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