月の都の花嫁

城咲美月

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月藜龍

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ドシンドシンドシンドシンドシン
その音源は色取り取り様々な竜と、飛んでくる龍がいる。
最後尾に異彩を放っている龍が、月藜龍なのだろう。

ここで使われている竜は、ゲームでお馴染みのドラゴン型で龍はあの昔話に出てくる似たような姿の龍だ。

その数々の移動は、私達に向かってくるのだ。
その場が緊張で包まれる。

違う方向からも竜と竜騎士達の集団も飛んでいるのが見えた。

マリーさんが急いで、車に乗り込んでこちらに向かってギュインとドリフト走行させ停止する。


向かってくる龍と竜達に場所を明け渡す為だ。
それから急いでヤグーワイズさんの場所まで走る。
ヤグーワイズさんも走ってマリーさんを受け止めていた。

同時に竜騎士達も竜から降りていたのを遠目で確認した。

その時
「人の子よ」と月藜龍が喋ったのをきっかけに、ザッとその場で一斉に傅いた。
喋ったと言うより、直接頭の中に響いてくる感覚は
なんとも言えない。念話は
ちょっとだけ気持ち悪い。

「人の子、お主の事だ、ヤグーワイズと呼ばれていただろう竜達から聞いている」
「はい」
「其方と一緒に居た亜麻色の髪をした女と共に我の前に来い
余計な者達は要らぬ」
その言葉にヤグーワイズさんが私を見ると、
ヤグーワイズさんにゆっくりと頷く。

私は、アネッタとアレックスの方向に振り返り
「そう言う事みたいだから行ってくるわね」と、にっこり微笑む。
不安そうなアネッタに「帰ってきたら、アネッタの紅茶が飲みたいから淹れてくれるかしら?」と言えば

「ハイ!」とアネッタは安心したかのように微笑んで、頷く。
「アレックス、今はアネッタを宜しく頼むわね」
「かしこまりました」
アレックスもまた、ぐっと拳を握って目を一瞬伏せて、
でも瞳を力強く見開き頷く。
私は2人に声を掛けた後、立ち上がりヤグーワイズさんと共に月藜龍の前に行く。

不思議と畏怖する気持ちも、昂る気持ちもなくて
静かに心は凪いでいる。
月藜龍の見た目は、トナカイのようなツノを持ち
身体は、白銀と青色のグラデーションの龍で
ふわふわの鬣と耳の近くに白銀の羽根が生えていた。

「ああ、我と話をする時は立っていろ、人の子同士のような変なのは必要ない」
「畏まりました」
ヤグーワイズさんと一緒に傅こうとしたのを見てそう言っていた。

「それから、其方名はなんと言う?」
「私は櫻井奏と申します」

月藜龍の視線が私に向けられた。


「サクライカナデか。ではカナデ、と呼ぶ事にしよう
ふむ…其方は不思議な魂をしているな」

その言葉から何か薄い膜が張られて

「ああ、其方は月の姫か」

ドキリと嫌な心臓の鼓動が跳ねる。

「なに、心配するな今のは其方にしか聞こえていない
まだ知られる訳にもいかないのだろう?」
私はゆっくり目を伏せた。
それを、肯定と捉えてくれたようだった。
チラリとヤグーワイズさんの様子を見ると、どうやら
本当にさっきの部分だけは聞こえてなさそうだ。
薄い膜が剥がれたのが分かった。

「人の子らの事情などもう久しく、忘れていたな
全てを分かっている訳じゃないが分かる部分もある。
ヤグーワイズの思考だと其方が次の花嫁候補か
ならば、月を跨いだ水無月の二十三夜の日
亥中の月から下の弓張月までの間に我の前にもう一度来い」月藜龍の言葉に
「はい」と私は返事をする。

「む?カルセドニーの子か」

その言葉に殿下が来た事を示している。

振り返ると殿下と殿下の側近達に護衛騎士までもが驚きの表情をしていた。
つい先程公務があるはずの殿下を見送ったと思っていたのに、もう殿下が戻ってきていた事にちょっとびっくりしている。

遠い位置から「ヤグーワイズ、すまない勝手に敷地に入らせてもらった」と言葉を述べれば
「いいえ、緊急事態です、承知しています。
それにきっちり門さえ閉めていただければこちらは今何もお伝えする事はありません」とヤグーワイズさんは答える。

「ああ、門はきっちり閉めてきたそれと後で詫びる」
「滅相もございません」

殿下とヤグーワイズさんの会話が終わると
「カルセドニーの子よ、其方の名はなんと言う?」
「月藜龍様、私はカインゼノと申します
我が父カルセドニーの子、嫡男になります。
以後お見知りおきを」
殿下が傅くと、側近達も護衛騎士も同じように傅く。

「ああ、良い立て
我はそんな変なのは好かぬ」

呆れた物の言い方に、「畏まりました」そう言って殿下達は立ち上がる。

「カインゼノにヤグーワイズよ難儀な事に
あともうひとりの花嫁候補がいるみたいだな?」
「はい」
「…では、こちらを渡してやれ」と非常に面倒くさそうな声色でコロッと月藜龍の卵を私に転がしてきた。

何か薄い膜が張られている真っ白な卵を
「私が取り上げてよろしいのですか?」と言うと
「……構わぬ、もうひとりに渡してやれ
その卵が孵る素質があれば、卵は孵化するし育つだろうよ
ああ、渡すのはヤグーワイズお主に任せるよ」と本当に非常に面倒くさそうな声色のまま言う。

「畏まりまして」と私がそっとしゃがみ込んで、取り上げるとヤグーワイズさんに向き直る。

「ヤグーワイズさん、お願いしますね」と月藜龍の卵を手渡した。









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