月の都の花嫁

城咲美月

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入り口から入ってすぐ近くに事務所らしき建物の前まで来ると、先程の男性がくるりと振り返って

「では、改めまして竜の宿舎の責任者で
ヤグーワイズと申します。
櫻井様、よろしくお願い致します」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「さて、これからの事なんですが、一点だけ守ってもらいたい事があります。」

真剣な表情のヤグーワイズさん。
人差し指を立てて、ずずいっと全面に押し出してくる。

「まず、これだけは守っていただきたい事
こちらからのひとつのお願い事です。
それは『私から離れない事』です
これは例外なく皆さんに言っている事で、これだけはとお願いしたにも関わらず私から離れてしまう方々がいます。
残念ながら、この事を守れなかった方は2度とこのエリアには立ち入り禁止とさせて頂いています」

こくりと私達は頷く。
そりゃそうだろう、竜がいるのだ。
それだけじゃない、誰もが考えうるのは風上風下問題だ。
囲い込みがあっても鼻が発達している動物は、
狩をする時に、自分が起点となると考えて
風下に居れば獲物の匂いがして
風上に居れば、自分の匂いで、獲物から位置をバレちゃう可能性のほうが高いと言う。

だからヤグーワイズのたったひとつのお願いは、「私から離れるな」はこれに当たると考える。

「こちらから、ひとつのお願い事とは別に諸々の注意点があります。
まずは、臭いがあるので慣れない方は気分悪くなるかと思いますのでその時は遠慮なく仰ってください
できるだけ掃除や洗濯、騎士達にお風呂の指導をして清潔感を保っていますが、これがなかなか…
あ、いや
それからこちらには竜だけでなく、実に様々な種類の動物達がいます。
また、数少ない貴重な生物もいるので充分に気をつけてください
性格が荒い子もいますから」

私達は、ヤグーワイズさんの言葉に耳を傾ける。
途中で頭をポリポリと掻きながら、困った様子を見せたヤグーワイズさん
こういうときはちゃんと聞いておく事に越した事はない。

「ああ、それからですね
次回来られる時は、もう少し汚れてもいい服装でお願いしますね」
「はい」

私の服装は、動きにくい裾の長いドレスではなくて
比較的、動きやすいショートブーツに白シャツにジャンパースカートなのだ。
確かに、もう少し動きやすい服装のほうが良かったなと反省。
このフリルの白シャツがいけなかったのかしら?
白は汚れてしまうもんね。
私は、ジーンズが良かったけど
ただ言い訳すると、春先で少しまだ冷えるのと、花嫁候補生はあんまりカジュアル過ぎてもいけないのと
皇宮は皇宮でのTPOのマナーがある。

昨今、皇宮でも服装の自由化が認められ近年化が進んで、男性も女性も長い引きずるようなドレスやくるぶしまでのあるドレスは外出に出る時になどは廃止
また
素足は夫以外には見せてはいけないなど
時代錯誤のマナーやルールは変更になってだいぶ経つ。
また、コルセットに於いても同様に。
必要以上の締め付けや無理な美容方法、は廃止。
もうそのような時代ではない。

服装も、スカートはミニ丈まではいかないものの過度の露出はさけ
上品に見えるシースルーやレース編みなどで羽織れば、大丈夫だと言う事だった。
近代化が進んでも唯一「クラシカルに」を忘れてはいけない。
品位がある魅せるファッション、をこなさなくてはならない。
それだけだった。

「えーと、それだけだったかな、もう注意する事ないよな」と大きな独り言を言っていたヤグーワイズ。

顎に手をやって考えて、唇に人差し指をおく
ヤグーワイズさんの考える時の仕草だろうか、それでもそんなに待つ事なくニコッと笑い
「もうこちらからは以上です、では設備の中を案内しながら説明しますね、途中で分からない事があればどうぞ遠慮なくおっしゃってください」

そう言ってヤグーワイズさんは、私達を案内する。



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