月の都の花嫁

城咲美月

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女子寮から出て、私とアネッタは、空飛ぶソリ型に乗り
アレックスは奇獣に乗る。

気分はまるで赤い服のあの人だ。
まぁ、どちらかと言うとプレゼントを置いているほうに私達は乗るのだけど
操縦してみちゃダメかしらね、と密かに思っている。

しかし空飛ぶソリを引くのは、トナカイではなくペガサスだった。
ペガサスには馬と同じく鞍が取り付けてある為、御者が手綱を引いて操縦する。

アレックスが御者と話ししているのが見える。
御者はアレックスから何かを言われたのだろう、何度も軽く頷いた。


私達はソリ型に乗ると、中は意外にもふかふかで、長椅子がちゃんと付いていた。
ソリ型と言うより屋根付きの馬車を小型にしたような感じだった。
御者が手綱を引いて出発すると、アレックスも奇獣に乗って後ろを付いてくる。

空飛ぶソリ型の乗り心地は、意外にも心地が良かった。

天気も良くて、屋根付きだからか見通しも良く風も頬を撫でる。
空飛ぶソリだからか
そんなに距離もかからず、もう古城アセリアルージュに着いていた。

そっと古城アセリアルージュ跡地前にソリが着陸すると、
私達は降りた。
アレックスも奇獣から降りていた。

「ここでお待ちしてます」と御者から声をかけられ
「ええ」と
私達は頷いて歩いていく。

古城アセリアルージュ跡地。
跡地と呼ぶには、朽ちてぼろぼろなわけじゃない何度も修繕と修復を行いほとんど作業も終わっていて
以前の状態と変わらないくらいなのだと言う
ただ、全ての外装、内装までは手が回らず、庭園も手付かずのままがいくつもあり草花が伸びっぱなしな場所もある
その為、立ち入り禁止の場所以外は見学可能だった。

外観は、ゴシックアーチの門を潜ると

ハニーストーンのクリーム色が、柱や壁に使われているのが目に入る。
家具や調度品などは残っていないが、それでもトランザムやステンドグラスの飾り窓がまだ健在だった。


私達は足元に注意しながら、古城アセリアルージュを巡る。

玄関ホール、応接室、図書室、厨房、ワインセラー
謁見の間、執務室、客室、ダンスホール、etc…
全部を見て周る事は出来ないけれど

誰ももう座って居ないはずの玉座を眺めていると後ろから声が掛かる。

「まさか、其方とこちらで逢う事になるなんてな
奇遇だな」

声が聞こえて後ろを振り返ると、「皇太子殿下」がそこには居た。
驚いたがすぐさま私達は、皇太子殿下に向き直り姿勢を正し傅く。

「ああ、楽にしてくれ」と殿下の声が掛かると私達はゆっくりと立つ。

殿下から2人きりにしてくれ、と殿下の側近と私の侍女にも合図を送る。
その合図で側近と侍女は下がったが、護衛騎士だけは柱の方でのギリギリ見える位置に居る。

下がったのを確認したら、殿下から「立ち話になるが」と眉を下げて申し訳なさそうに言う。
私は「大丈夫です」と微笑む。

「おはようございます、殿下」
私が微笑むと殿下も微笑みを返す
「ああ、おはよう」

上から下に声をかけるのが基本だが、もう殿下から声をかけられている為挨拶を交わす。

「君は、櫻井奏さんだったね、奏嬢と呼んでも良いかい?」
隣に立つ殿下からそう聞かれて
「はい、大丈夫です」と微笑む。

「それで、君はどうしてこちらに?」
「笑わないで聞いてくれますか?」
「ああ」
「………私、お城や建物が好きなんです」
やや伏目がちに言う。
「好きなのは、こう粛々とした雰囲気と言うか……この玉座もそうです
この空間がまだパリッとしていて身が引き締まる思いをする、と言いますか…
もっとも、そんな気がするだけですけど」と照れながら微笑むと
「ああ、分かる気がするな」と同意してくれ微笑む殿下
「………!本当ですか?」
「あ、ああ…………」
私は思わず同志を見つけたような気になって、
ちょっとだけズズいっと顔が近くなる。
「あ!近くなりましたね、ごめんなさい」
スッと殿下から一歩離れた。
「あ、いや…大丈夫だ…」と微笑む殿下に

気を遣わせちゃったな、と落ち込む。

顎に手をやりながら何かを考えている殿下が
口を開く
「奏嬢、これからの予定は何かあるのか?」
「ええ、この後竜の宿舎に行く予定です」
「では、そこまで送ろう」
「まあ!良いのですか!あの、でも殿下のご予定は良いのですか?
それにこちらはペガサスで来ているんですが、殿下はどのように?」
「私は奇獣だから移動には問題ないし、時間も宿舎に送るだけだから大丈夫だ」

それなら大丈夫…かな?

「それなら殿下の申し出、ありがとう存じます」
「ああ」
私が微笑みながらお礼を言うと
殿下はこちらに向き直りスッと腕を差し出す。
私は殿下の腕に、自分の手のひらをそっと重ねる。

殿下が側近達に合図を出す。
護衛騎士達も、そっと私達の後ろをついてくる。
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