月の都の花嫁

5

ノックの音が聞こえた私は、考え事を中断して
ソファーに座り直して姿勢を正すと

「はい、どうぞー」と、入室を促す

　
「お待たせ致しました奏様、熱々の紅茶です♪」
「ふふっアネッタありがとう」

思わずクスクスッと笑ってしまう。
アネッタの花が咲くような笑顔に、ほっとしたのだった。

「早速いただきましょう」
そう言ってテーブルの上にセッティングをしてくれるアネッタ。

私は、アネッタが紅茶を淹れてくれる所作を眺めていた。

温めたティーポットに、ティースプーンで茶葉を一杯入れ
熱湯を160ml注いで蓋をしたら、3分蒸らす。
ティーポットを水平に軽く回して、ティーの濃さを均一にする。
茶こしを使ってティーカップに注ぐ。

ティーカップに注がれた紅茶の色を見てピンときた私は

「カモミールティーね」
「ハイ！流石です♪奏様」
花が咲いたような笑顔のアネッタを見ていたら
私も釣られて嬉しくなる。

「ささ、奏様どうぞお座りください」と椅子を引いてくれる
アネッタに
「ありがとう」とお礼を言って腰をかけた。

アネッタが淹れてくれた紅茶をゆっくりと一口入れる

「…！美味しい」

元々カモミールティーは、苦味を感じる人にはミルクを
入れて飲む方法もある。

甘いリンゴの香りと、目でも楽しめるカモミールの黄色の色にリラックス作用のある紅茶は

ひとときの癒しとなった。

アネッタが淹れてくれたカモミールティーを楽しんでいるところに再度ノックの音がする。

「はい」
私が入室を促すと入ってきたのは、リーデルさんと
三姉妹の侍女達。

「お待たせ致しました奏さん」
そうリーデルさんが微笑むと三姉妹の侍女達は
「わー！奏様のお部屋って可愛いですねー」と、1人はしゃぐ侍女がいた。

「マーガレット、やめなさい」と叱るのは
長女のサーシャさん
「失礼致しました奏様」とすぐさまこちらに向き直る。

「大丈夫です、マーガレットさんは元気ですのね」と
微笑む私に照れた様子のマーガレットさん
ひとり静かな雰囲気のミーナさん

明るい翡翠色の髪をしたのがサーシャさんで
元気なオレンジ色の髪をしたのがマーガレットさん
黄色の色をしたのがミーナさん
カラフルだなぁと思わずにはいられない。

「これから、奏さんのご用意をさせていただく為に
3人を連れて来ました
それで奏さんは、歓迎会に参加するにあたって何かドレスを持っていますか？
持ち合わせていないのであれば、既製品ではありますがこちらでご用意出来ますわ」

リーデルさんの問いに

「大丈夫です」スッと取り出したのが

一着目がカクテルドレスで
2着目がイブニングドレス。

魅力に反映しないものの、皇妃陛下の目に止まるカクテルドレスを用意していた。

歓迎会と言う名の夕食会
ディナーであればカクテルドレスだが、時間帯によっては意味も変わってくる。
時間帯だけじゃない、格式の高さも変わってくる。
また、立食なのか着席式型なのか
開催される場所も、招待客も含まれる。

謁見の間で発表されたからには、公式と考えて良いのか
悩みどころだった。

お呼ばれでのディナー

1着目のカクテルドレスが、ワインレッドのオフショルダーでウエスト部分に巻き付けるリボンもワインレッド
オフショルダーの部分は、ベロア素材でドレスの部分には
ビジューがキラキラと散りばめられている様は
とても綺麗なドレスである。

2着目のイブニングドレスは
露出が抑えられてあるが、首から胸元のシースルであり
ふんわりとしたバルーンタイプの袖口。
それからウエスト部分のリボンも黒で、シルバーのドレスが映えている。

「まあ！」リーデルさんが驚いていた。
「すっごく綺麗ですねー」とマーガレットさん
「これは…」と驚きの声を出したサーシャさん
「綺麗」と静かにポツリともらすミーナさん
「ですよねー」とうっとり顔のアネッタ

「ところで、リーデル様
歓迎会の夕食とはどんな感じなのでしょう？」

「あ、いけませんわねボーっとなってしまいましたわね私とした事が」
ハッと口を抑えているリーデルさん
それからすぐににっこりと微笑むと

「あれからすぐに確認の為、皇帝陛下の側近の方のご使者がいらっしゃって「非公式の場で良い」との事です。
公式のお披露目も日を改めてするとの事でした。
それから夕食の形式ですが、会場は皇帝陛下のお住まいのサロンにて着席式型だそうですわ」

「それからもちろん非公式の場なのですから、招待されたのは私と栞さんと奏さんですわね」とリーデルさんが静かに言う。
「奏さんがしていたように私も公式の場所では、お2人を様呼びをします」と付け加えられた。