行商人

あるちゃいる

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十四話

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 「ごめんぐだサーイ」
 長男の家を離れて坂道を上がり、少し下った場所にある家を訪ねた。
 自分で作った家屋はまるで時間が経過していた様には見えず、最近建てましたと言われても納得するほど綺麗だった。
 汚れが付かないように式を組み込んであるからだったが、毎日必ず魔力を注ぐように言っておいた。
 それを破らずに続けている事が分かる。
 三男と次男は比較的話しやすかった記憶はあった、午前中の仕事の時間にちょろっと話した程度だったが、シダルの中では長く話したうちの一つだった。

 程無くして「はいはいどちらさんでー?」
 っという、少しボケた声が聴こえてきた。
 次男は長男程責任がある訳では無かった為か、少しボーッとしてる所があった。
 頭が悪いからボーッとしてるのではなく、何か自分の世界に行ってしまってる様な感じだった。
 農業に関して言えば真面目だった。
 輪作農業に関して書かれた本を暇があれば読んでいた記憶がある。たしか、父親の弟が書いた農業の本だった筈……
 その本は父親に隠れて読んでいたと思う。
 一度見つかってすごい剣幕で怒られて破かれて燃やされてたなのは憶えている。
 その後すぐに買い直しに隣町へ出かけていった姿を見た事がある。
 隠し場所の相談も受けた事がある。
 湿気が少なく雨露にも濡れない場所で父親が来ない場所という難しい依頼に答えて、次男が寝る場所の壁に風がよく通る様に作った隠し扉を壁の修繕時に作ってやった。
 その時貰った甘いお菓子はとても美味しかったと記憶している。

 「久し振りーシダルだよ」
 そう応えるとガラガシャーンという何かを倒した音の跡にガチャ!と扉が開いて抱き締められた。
 何事?っと困惑したがされるがままに放っとくと

 「シダル!元気だったか!良かった無事なんだな?まぁ何だ外は寒いから家に入りな!……あれ?お連れさんか?何だよお前結婚したのかぁ?奥さんだろ?まぁ、いーや入ってくれ」

 何がどう無事なのが気になったのかそそくさと馬車を誘導して(オコジョに話し掛けて)内庭に止めたあと、オコジョを寝藁の引いた厩に寝かせ、何か食べるか聞いていた。
 いやお前言葉わかるのか?っと思って見ていたら
 何か会話シテル風にやり取りしていた。
 『ははは珍しいのじゃ!獣言葉を話せる人間なのじゃ!』と、ずーーーっと馬車の中で寝てたサコラが目をさまして話しかけて来た。
 (コイツ教会のゴロッと野菜のスープを飲んでから見掛けないと思ってたら馬車に居たのか……)

 「獣言葉ってなによ?」
 『加護の一つなのじゃ。けど先天性な筈だから生まれた時から持ってる筈だからシダルは見た事ななかったのか?その男が獣と話してる姿を』

 「うーん、プライベートな時間は狩りに料理に費やしていたから会わないし、午前中は屋根壁柱の修繕に全力だったから全く知らないと思う」

 『多分今綿毛兎のユキと会ってるのはコヤツじゃぞ残り香があるし』
 「へぇ~。なら良い人だな。良かった変わってなくてホッとした」
 少し強張ってた肩を回すと安心したように誂えた椅子に改めて座り直したシダル。
 その横にサリーが座って、その前に奥様がニコニコしながら、お茶を入れてくれた。
 奥様は言葉が話せない。
 何かの病気を幼い時に患い、命は助かったが言葉は失ったそうだ。
 それでも次男が口説き落として隣町から連れてきたのがこの人だった。
 「お前の馬車を引くのが誇りなんだそうだぞ?あのオコジョ良い飼い主だなシダルは!」

 そう言いながら帰ってきた次男はシダル達が座る机の前にある暖炉の横のソファに腰掛けた。
 そして奥さんが次男の方を向いたと思ったら
 「ああ、僕のお茶はミルクを少し多めにしてくれ、うんそう!コイツがいつも話してるシダルだよ!多分肩に居るのはユキと同じ綿毛兎だろうな、亜種っぽいけど」
 言葉を発せない筈の奥さんと普通に会話してる次男が不思議だったので聴いてみたら、言葉は失ったけど獣と話が出来たんだと、それで試しに獸に話しかける様に喋ったら通じてそこから一気に仲良くなったと出会いの馴れ初めから語りだした。
 ユキとの出会いは奥さんの方が早く、家まで泊まりに来る様になった辺りでシダルの午後からの暮らしぶりも知ったのだそうだ。
 そして、長男同様頭を下げてきた
 だから、同じ様に気にしてないと言って頭を上げてもらった。
 何か言いたそうにしていたが飲み込んでくれて違う話をし始めた。
 納屋から持ってきていたのか果物を差し出してサコラに渡した。
 「なんだいそれ?」
 「聞いて驚け!俺が品種改良したリリゴっていう果物だ、甘みが他の品種より甘いんだ!だからサコラの意見が聴きたかったんだよ」

 っという。一度もサコラの名前を告げてなかったのに知ってるのに違和感を覚えた。
 「その毛玉の名前をなんで知ってるんだ?」
 『誰が毛玉じゃ戯け!』ベチ!
 久し振りの木製の棒で頬を叩かれた。
 「ユキが知っててさ、甘い物なら舌の肥えた赤いのが居るからシダルが訪ねてきたら食わせてみろって言われたんだよ」
 「へぇ~なんで名前知ってんだろうな?」
 『種族特有の風の噂でも聞いたのじゃろ』
 (特有関係なくないか?)
 巷でも良く見かけるリリコよりも少し小さいが香りが良いのかどっかの変質者の様に顔をリリコに埋めてスーハースーハーしてる桃色綿毛兎を眺めていると、徐に口をアーンと開けてシャクシャクと食べ始めた。

 その美味しそうな音は食欲をそそりシダル達も食べたそうな顔をしていた事に気付いた奥様が8つに切って皮を剥いた状態で差し出してくれた。
 それを御礼を言って受け取ると二人で食べ始めた。
 一口噛むと香りがフワッと口いっぱいに広がった。
 二口食えば甘みがジュワッと口いっぱいに広がった
 三口食べる頃には止まらなくなっていた。
 「美味いなこれ……どのくらいあるんだ?」
 「売る程あるぜ?」
 そう言ってニヤニヤ笑いだした
 シダルが幾らか聞こうとしたその前に。
 『全て買うのじゃ!そして、毎年買うのじゃ!シダル!金とアイテムバッグを持って納屋に行って買えるだけ詰め込むのじゃ!』

 その一声で動き出したシダルに慌てて次男が止めた
 「まだ収穫してないから!売れる事が分かるまでは動けなかったんだ!明日朝から収穫するから手伝ってくれ!」と言ってきた。
 当然サコラは二つ返事で了承して、俺に必ず手伝う様に言ってきた。
 いやまぁ手伝うけどね?商談とか全部サコラが決めてるのを不思議に思わない次男を見てると
 「商談はサコラがやってると聞いていたからな!」
 そう言って笑った。
 まだ一言も話をしていないというのに……
 獣の言葉を使うと心まで読めるのか……?
 そんな風に思っていたが
 「違うよ?シダル顔で言葉を話すからな昔から分かりやすいんだよね」
 そう言ってまた笑う次男

 そうか、昔から顔に出てたのか
 父親にも分かったんだろうな
 シダルが心底父親を嫌っている事が
 だから村を最後に出る前夜もシダルを納屋に閉じ込めようとしたんだと、この日シダルは漸く分かった。
 納屋に閉じ込められたが全く関係なく出て来て出掛けたシダル。何故押し込んだのか理解出来ず、納屋の中の壁を修繕してほしかったのか?と納得して修繕したあと荷物がある森へと向かったのだ。

 この日はそのまま空き部屋で寝かせて貰い、朝食を食べてから果樹園へと向かった。
 果樹園はとても広く作った畑にあった。
 父親から開墾すればするだけ自分の畑にして良いと言われたので、広げられるだけ広げた結果がこれなんだそうだ。
 「それにしたって広げすぎたろ?」
 見渡す限り全ての場所にリリコの木が埋まっていて、収穫しやすい様に低木にしてあった。
 そして、遠くの方にも収穫してる人が居て、仕事仲間?と聴いてみると

 「村の人を数人雇ってる」って言ってきた。
 広い果樹園は収穫も大変だが、儲けも中々大きく余裕で人が雇えるんだと。
 だったら全て任せれば楽だろうにって言うと
 「四男みたくなりたく無いからな!」

 そう言って汗水流して働くんだそうだ
 (また四男か……どんだけ太ってるんだろ)
 少し気になってきた。
 心配とかではなく、怖いもの見たさとか好奇心とかそんな感じだったと思う。

 「え!?見に行くの?」
 またコイツは何も言ってねーのに……
 と、思っていると
 「シダルは便利だな、声も出さずに言葉が通じるなんてよ」
 っと、真顔で言ってきた。
 「俺は一つも便利とは思ってねーんだけどな?」
 「そうなのか?その割には……」
 「なによ?」
 「いや、隠す努力はしねーのかなってさ」
 してるの!してるけど無意味なの!いつもいつも!っと、口に出さずになるべく顔に出さないように考えていると
 「そうか……無駄だったのか……シダルでも出来ない事あるんだな」
 物凄く残念な子を見るような顔で言われた

 反論しようと思ったが
 『口動かさないで手を動かすのじゃ!』
 っと、サコラに怒られ。

 「プククっまた後でなシダル!」

 そう言って収穫に集中し始めた。
 『クソっと悪態をついてないで諦めて手を動かすのじゃ』
 「まだ何も思ってねーよ……」
 『仕事を先に終わらすのじゃ!』ベチ!

 何を言っても無駄な事が分かったのでその後は昼だと言われるまで集中して収穫できた。
 そのお陰もあって買取る分のリリコは集まり、他のリリコも収穫時期が来たらまた取りに来いと告げられた。
 定期的に来る様になる切っ掛けでもあったリリコの買い付けは、街の屋台でも人気の商品になっていく。ほぼ独占状態だったので大いに儲かる事になっていく。
 そしてこの村でリリコの栽培が麦を超えて一番になり、特産品となるのだが、それはまだ少し遠い未来の話。

 昼飯を食べたシダル達は二人の夫婦に見送られながら次男宅を跡にした。
 また一月後に会おうぜっと約束をかわして。
 長男宅に付いたシダルは目を疑った。
 そこに立っていたのはガリガリに痩せてまるで幽鬼の様な老人とまるまると太った何処かの雌豚が居たからだった。四つん這いになってたその雌豚はシダルの姿を見た途端立ち上がって二足歩行になった。
 それを見たシダルとサリーは腰に付けていた剣を抜いて構えた
 「まったまった!切るな!オークじゃないから!一応人だから!」

 そう言って剣を構える二人の前に立ち塞がった。
 「オークじゃないのか?だってさっき迄四足歩行だったよな!?騙されてんのか?」
 そうシダルが言うとそのオークが言葉を発し始めたが、その声はうめき声とも雄叫びとも言える声では無く何かの音だった。
 その事にサリーも驚きを隠せず悲鳴を上げた。
 シダルは悲鳴を上げるサリーを庇いつつ近付いてくるオークに剣を向けて
 「そこで止まれ!止まらなければ切るぞ!?」
 そう叫ぶとオークは止まって鼻息も荒くフゥフゥと息を弾ませていたと思ったら、後ろに倒れた。

 地響きがして「ひぃ!?」と怯えるサリーの肩を抱いて馬車に押し込むと扉を閉めた。
 サコラを扉の前で待機させて何かあったらぶっぱなせと命令しておく。

 「で?ソイツはどこの魔物だ?」
 剣は仕舞わずに人だと言い張る長男を睨む
 「……妹だよ」
 「は?(まさか長男にオークの妹が居たなんて……ショックだ)」
 「だからオークから離れろって!うちの家族の長女だよ!姿は変わったけど……一応まだ人だよ」

 そんな目を逸らしながら言われてもなぁ……

 とりあえず剣は仕舞えと言われ、仕方ないと仕舞うことにした。

 「で?そこの老人はどちら様?」
 そう言うと本当に驚いた様にしてから
 「忘れたのか?昔から変わってないと思ったけど……父親だよ」

 そう言って本当に忘れたのか?と、また聴いてきた。
 そんなガリガリで骨と皮しかなかったか?
 あれ?そーいえば……

 「俺、父親の顔知らねーや(嫌な奴とは思っていたけど)」

 そう言ったシダルを本当に嫌そうに見ていた父親は顔を背けた

 


 
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