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九話
しおりを挟む『昼飯は焼いた肉が食べたい』
広場に帰って来ると馬車の扉が開き真っ直ぐシダルを見ながらタップは言った。
昨晩一ポンド分は焼いてやると言ったが、焼いた肉限定で食いたいと言ってきた。
どうもコイツは王宮住まいが長かったせいか我儘な気がする。そして、完全にシダルを従者と思っている様だ。確かに村に着くまで従者みたいな感じで扱う様な事を言われたが、理由は伝えて貰っていなかった。
一応この中で依頼人なのはシダルで馬の蜥蜴、護衛のマダムタッソー、御者のサリーとなっている。
この場合一番偉いのはシダルである。
ちょっと色々オハナシしたくなったシダルではあったが、深呼吸して感情を抑えると燻製にしている肉とは別のもう一頭の塊肉を出した。
それを一口大にスライスしていき生肉のまま大皿に載せて重ねて置いていく。
塊肉を半分程スライスし終わったら竈に火を熾して鉄板だけを置いて脂を引いていった。
まぁただの鉄板焼きだ。
焼肉風にしたかったので、鉄板を置いた時に全員呼んだ。
肉の食べ方を説明してフォークを持たせた。
スライスした肉を4等分に分けて各自で焼いて食えるようにしてみた。これなら、好きなペースで皆が食える。ソースは塩ダレとルモン塩にした。それも各自の前に器に入れて渡した。
昼間から焼肉という贅沢をしたが、まぁ仕方ない。では神に感謝して頂こうってなったのに、何故か蜥蜴は焼かずに空の皿を睨んだあと、鉄板を見ていた。
サリーもマダムタッソーも自分で焼きながら食べている中、一人身動きしない。
で、そんなもの構ってられる程優しい男でもないシダルは自分も焼き始めた。二枚焼いて表面に脂が浮き出したらひっくり返して軽く炙った跡ルモン塩に付けて2枚重ねて食べた。
噛みごたえもさる事ながら、スライスしたのに噛めば噛むほど脂がジュワ~っと口の中を蹂躙していった。
ウマウマと言いながら酒を呑み口の中に残った脂を流し込む。噛んでる時にまた肉を焼き、酒を口にしながらひっくり返して軽く炙ってまた口に放り込む。咀嚼してる間にまた次を焼き酒で流し込みながらひっくり返していると
『貴様!!いい加減にしろ!!自分ばかり食いやがって何様だ!!サッサと私の肉を焼いて食わせろ!!』
などと言い始めた。
「タップの分は目の前に置いたろ?それを自分で焼いて食えよ、それこそ何様だろう?」
普通にそう返したら、やおら立ち上がり腰の剣を抜いてシダルに剣先を向ける。
『従者の分際で生意気な!!その首討ち飛ばしてくれるわっ!!』
中段からシダルの首目掛けて飛んできた切っ先は、背の高い蜥蜴がふるうと上段からの袈裟斬りにも似た剣筋になる。
その剣筋に逆らう事なく受け流したシダルは蜥蜴の勢いを殺さずに自分の後ろへ投げた
その投げた先の地面を凍らせて滑らせて殆ど摩擦の抵抗もないまま出入り口の大木にぶつかって止まった。そしてそのまま、蜥蜴は意識を手放した。
そんな攻防などまったく見えなかったマダムタッソーが蜥蜴の方を向いた時には其処に蜥蜴は居なかった。
何処に?と、キョロキョロするとシダルの後ろの街道側の大木にくの字の形で寝ていた。
「お、おいおい容赦ねーな直弟子様よ?」
「俺、悪くない」
「まぁ、そーだけど……」
「ところでなぜ俺は従者扱いになってんだ?」
「も、申し訳ありません!実は……」
片膝付きながら頭を下げて恐る恐るサリーが語り始めたのは、シダルに自然な感じでレディファーストを教える為に、従者の様に成ればそれが身に付くのでは無いかと話し合いをして決めたんだそうだ。
「ふーん……マダムの発案?」
「あ、ああ、よくわかったな」
「うん、少し怒ってるから神経が昂ぶってるんじゃないかな?」
(あぁ、それで感も良くなってるのか……)
そう察したマダムタッソーは1人納得していた。
「ちょっと蜥蜴はこのまま一緒に行くのは嫌だなぁ……あ、取りに来てもらうか」
シダルは馬車で教わった鳥の魔法を使って王城へ向けて手紙を送った。
〖蜥蜴は何か勘違いしている様なので返品する〇〇広場で寝てるので取りに来てください。シダル〗
そう手紙に書いて王宛にして送った
「なんて書いたんだ?」
「返品します取りに来い」
「はは……一応英雄なんだがな……」
「知るか、俺は理不尽が大嫌いなんだよ。家族達に散々されたからな」
「そうか、まぁ話をちゃんと聞かせられなかった事は私からも謝るよ、すまなかったな。それと、申し訳ないんだが、迎えが来るまで火にでも当たらせてやってはくれないかな?流石に寒いからさ?」
「すぐに取りに来るだろーから大丈夫だよ、手紙は王に直接送ったからさ」
「え?」
「来る前に肉食っちゃおうぜ」
そんな事を平気な顔して言い始めたシダルに唖然としながらマダムタッソーは困惑していた。
一応王家に気に入られている商会ではあるが、王に直接手紙を送れる奴なんか各国王族などを除いて世界広しといえどもコイツくらいだろう。だが流石に放っておく事が出来ずにシダルに怒鳴ってしまったマダム。
「王に直接送った!?何してくれてんだお前は!!めっちゃ不敬だろうが!首を飛ばされたいのか!?」
誰かコイツに常識を教えるべきだろうと本気で思い始めていた。
だがコイツは
「前に王城の馬小屋を作った時も、四阿を作って賊を捕まえた時も言われたが、『困った事があったら遠慮なくワシ(王様)に言え』って直接本人から
言ってくれたし、今だいぶ困ってるし間違ってないだろう?」
何か間違ってる?と、本気で聞いてくるのだから堪らない。社交辞令とかってどこで習ったっけなぁと頭を抱えながら思い出そうとしていた。
そこへサリーが助け舟を出して来てこんな提案をして来た。
「今回の仕事が色々全て終わったら一度王立学園(高等部~)に入って色々と(常識等も)学んできたら如何でしょうか?学園なら商会からも通えますし、入れる年齢もクリアしております(一学年最高年齢は30歳、シダルは今年で20歳くらい)、昔はお金が無かったでしょうけど、今は沢山ありますし仕事の方も弟子達や私達も居りますし、一度最初から学び直すというのも良いかと思いますが如何でしょうか?
それに、この先貴族と関わり合う事も多々有りますからダンス等も習って置くべきかと……」
っと提案してきた。
うーん……大商会の子供等も通っている学園ではあったので、昔は入りたいとも思っていた。
「そうだなぁ、今回の仕入れが終わったら少し学ぶのも良いかもな、そうだ!サリーも一緒に来ないか?」
「申し訳ありません!私は卒業生なので、入れません!」
サリーは意外と裕福な家庭だった事が分かった瞬間だった。
ま、仕方ないかっと思い、じゃあ取り敢えず馬車は俺が引いて行くからっと納得させた。残りの肉を焼いて食べた面々は食後の紅茶を呑んで寛いでいると、遠くの方から早馬が一騎走ってきた。
馬車の手前で降りると馬を引きながら近づいて来て、もう直ぐ王が来ます!と、一言言って出入り口付近で待機し始めた。
先触れと言うやつらしい。
マダムが急いで立ち上がり騎士の後ろに立つようにシダル達を促した。
流石にこのままお茶を呑んでたら失礼過ぎる。
何となくシダルも納得したので、迎える為に出入り口へ向かった。
暫く待っていると綺羅びやかな馬車が一台赤い体躯の龍が馬車を引いて此方に向かってきていた。
ソレを眺めていると意識が戻ったのか蜥蜴のタップが唸りながら立ち上がったので、素早く肉薄して鳩尾に一発入れて、ローキックして膝カックンさせて後ろに倒れる勢いを活かして再度大木に腹から突っ込ませた。
「うわぁエゲツないな……せっかく目を覚したのに……」
「喋ると鬱陶しいからさ」
まぁ、当然騒ぎ出して王の前で普通に剣を抜く事だろう。
流石にそれはマダムタッソーでも蜥蜴を庇い切れない。
例え英雄であっても許されない事はある。
今回の事はどうなるか王の采配次第だった。
先触れをしに来た騎士の目には何も捉える事が出来なかった。大木の横で寝ていた英雄タップが起きたと思ってたら、再び轟音を響かせながら同じ場所で寝ていたのだ。
話を聞き出すにも、周りは自分より身分の高い冒険者ギルドのサブマスで裏ボスとも噂されるマダムタッソー、公爵家三女のアンサリーナ・モーカント嬢で今は王室御用商人シダル商会事務管理長
そして、シダル商会会長の棟梁シダルである。
(絶対何にも聞けない!)そう思った騎士は見なかった事にした。
サリーが公爵家三女である事を知らないのはシダルだけだった。
蜥蜴ですら知っているし、勘違いの元となったのが、シダル以外の女性達の肩書だった。
今回の旅の順位は蜥蜴の頭の中では最初から
一番偉いのがサリー
二番目がマダムタッソー
三番目が英雄タップ
で、従者のシダルと思っていたら
一番上はシダルという小僧だと聴いた。が、途中の話し合いでやっぱり小僧が従者ではないか!と、思い始め、態度がでか過ぎる従者に立場を教えようとしていたのだ。が、昼飯の一件で全く立場の分からない従者など要らないと蜥蜴の中で決定したため、今回の蛮行に及んだのだ。
大きな勘違いとはいえ、従者への奴隷扱い等も含めると少し立場が悪くなる。そして罰もある、このあとの尋問と王の采配でそれが明らかになるのが、もう少し後の話なので割愛。
蜥蜴を寝かし付けて五分程で王家の馬車が紅いドラゴンに引っ張られて広場に入って、シダル達の前にゆっくりと止まった。
カチャリと扉が開いたと思ったら金髪で金色の眼球でやたら綺麗な顔の男が降りてきた。
その男は扉の横に立つと手を差し伸ばして中から出てきた華奢だが目茶苦茶綺麗な肌の手を取った
そこに現れたのは第二王女でサリーの元同級生らしく
降りてくるなりサリーの手を取ってキャッキャウフフと話し始めた。卒業依頼初めて会ったらしい。
そのまま此方には挨拶もせずにサリーの手を取ってさっきまで呑んでいたテーブルへと向かっていってしまった。
まぁ面識はなかったし。ま、いっかと思っていると、王女の跡から少し老けた顔だが30代くらいの威厳が漂ってくる様な気がする人が降りてきた。
この国の王様だった。
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