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6キロ
しおりを挟む作務衣の上から当て布袋をして鉄の鎧を着込む。靴は雪駄の踵に紐を通して(草鞋のような感じ)脱げない様にしたあと、鉄の靴を履いた。膝や脛に太腿と甲冑を着せて行き、噛み合う部分に油を塗る。こうすると動きが滑らかになるのだとか……
全身鎧は着てみて吃驚、兎に角重い。体重が百kg減ったとしても筋力が上がったわけではないので、動けなかった。
結局全部脱がされて革の鎧に変更。しかも胴回りと革の靴だけを着せられて、ようやく走れる程度。革の帽子も被ったが、直ぐに汗でへニョへニョになって外して、鍛冶屋に赴き鉢金の設計図を渡して作ってもらう事にした。
頭を守れなくても、前からの攻撃は防げるってだけだが……兎に角軽いし、汗も止めてくれる筈だ。
早速始まった訓練だったが、取り敢えず鎧が重いだ何だの言って革鎧を着込んで外庭まで来ると、武器は置いて来いというのでアイテムボックスにしまう。
「では訓練を開始する!ショーは外周を走れ!50周だ!歩いても良いから50周回ってこい!日が暮れる前に戻ってこれたら素振りを教えてやる!さぁ!行け!」
っとばかりに尻を叩かれ走り出したのだが、200m程走ったらそれ以上走れなくなった。呼吸困難からの腹痛からの膝にきてフラフラになった。
何とか歩いて一周(約一キロ)終わる頃には足は棒のようになり、日が暮れる頃にはようやく6周を回り終わったのだった。
ゼェゼェハァハァヒィヒィ言いながらスタート地点で倒れ込み、そのまま意識を失った。
次の日も同じ様に走らされ、日が暮れるまでに走った周回は5周だった。
その日は、そのままその場で朝まで寝ていたようだった。
その次の日も、そのまた次の日も延々と走り(歩き)日が暮れた時間までに回る周回が一桁の日が三ヶ月ほど続いた。
その頃になるとようやく体重が人並みの体重になり、65キロになっていた。
それから更に半年が過ぎて、やっと日が暮れるまで走れる様にはなったが、50周は走れなかった。
更にそれから一年後……
「……ご、五十周!!終わったぁ!」
訓練はじめて苦節約二年!初の日が昇ってる間に50周走り抜ける事が出来た俺はスタート地点でガッツポーズを決めた!
「おめでとさん!」
っと、第二中隊副隊長が褒めてくれた直後に札を渡してきた。
その札には
「最低限の体力を得られたで証」
っと書かれていた
「その札を持って中央の隊長に渡す様に!」
っと、ニッコリ笑顔で言われて、息を整えている俺の背中を押してサッサと迎えと尻を蹴り上げてくれた。
その勢いを残したまま走って中央で素振りをやっている集団に向かっていくと。朝礼台みたいな所に座ってる厳つい顔のお姉様が座っていた。
なぜ鎧着てるのに男女の違いが分かったかと言うと、鎧の形が乳房パットみたいになってるから判断できた。
段々と近づいていくと、厳つい顔はお面だとわかった。般若みたいな鬼みたいな仮面を付けたその方の前に立ち、敬礼(片膝付いて右手を左胸に付ける)して、左手に札を持って捧げる。【この国のマナーらしい】
すると、隊長も立ち上がりその札を掴むと頷いてから、俺を立たせ素振りをした事があるかと聞いてきた。俺は顔を上げ「少しだけあります」と答えた。
やってみろというので昔じいちゃんに習ったのを思い出しながら、アイテムボックスから木刀を出して脇に差す……振りをして左手で持った。その後一度両膝を付いて座り背筋を伸ばしてから右手で木刀を持ち、座ったままの姿勢から横に薙ぎ払ったあと、左膝をついたまま右脚を浮かせて上段から袈裟斬りに、そこから左膝をあげて、右脚を半歩出して下段から上に逆袈裟斬り、その行動を素早く行った。
じいちゃん秘伝(勝手に作った)の居合からの燕返しだと言っていた。
「座ってからの攻撃なのか? いつ抜いたのかは見えなかったな……変わった剣術だな、立ったままのは無いのか?」
「え?立って?」
そう言えばじいちゃん……いつも座りながらの奴しか教えてくれなかったような?
うーんと頭を捻って考えたあと、昔動画で見た居合の素振りを真似てみた、手の使い方というか、持ち方が独特でついつい真似ていた事もあった。
それを何とか思い出しながらゆっくり確かめる様に振る。耳横をシュンシュン通り過ぎる音がする
チラリと隊長の顔を見ると、片眉を上げて目を見開き心なしか怒ってる様にも見えたので、腰に木刀を持ち替えて、佇み一礼して止める。
「なんだ?続けろよ」
何故か不服そうに見てたのでやめたのだが、止めたらやめたで文句言ってきた。
「いえ、何か言いたげだったので聞いてみようかと」
「む、いや何。何かあんまり力を抜いたやり方だったんでな?巫山戯てるのかサボってんのかと思って顔を見るが至って真面目な顔をしてるものでな。不思議に思っていたのだよ」
「もし、アレでしたら手合わせして見ましょうか?これで通用しないのなら俺も今のスタイルは捨てて隊長の勧めるやり方にします」
「ほほう、面白い。ではやってみようではないか!」
楽しそうな声色に変わった。
「見知らぬ剣術とはやってみないとわからんからなぁはっはっは」
ドンッと両手剣を構える隊長はツーハンデッドソード、方やコチラは白樫とはいえ木刀……質量で負けてる気がしてきたが、やると言ったらやるしかないだろう。
俺の体重も高校の頃より少し多いくらいには減ったし、剣技もじいちゃん譲りだし。只じいちゃんは水戸黄門の助さんに憧れてからの我流で居合を憶えたとかで、ちょっと謎だったが、舞散る枯れ葉をこの木刀で4つに斬るくらいの(自称)達人だった。
だからきっと大丈夫!
っと、いきなり始まった素振りからの手合わせ。
誰も見てはいなかったが、初手は俺からの居合抜きからの小手。
何故かこれだけは昔から早く、誰にも負けなかった。
その小手で隊長の篭手に傷が入った。というか、斬れた。「「えっ……」」
俺も隊長もまさか木刀(木の棒で)で鉄の篭手が切れるとは思っていなかったので、血がボタボタ垂れ流れてきてから大いに焦ることになった。
副隊長を大声で呼んで、ポーションを持って越させたが、手首から切れているので聖女を呼び出してヒールを掛け続けてもらいながら、ポーションを飲ませたり掛けたりと大騒ぎになってしまった。
何とか隊長の手首がくっついて、一段落したら、聖女がこっちにやって来て
「お初にお目にかかります、私宰相の末娘で聖女で御座います、貴方様のお名前は何と言うのです?」
何言い出すのかと身構えてたら何故か名前を聞かれた。何だ何か裏でもあるのかと訝しんでいたら
「あの、もしやあなた様は勇者ではありませんか?隊長格をそんな木の棒で倒してしまうだなんて……きっと勇者様ですわよね?お父様もお人が悪いわ、もう一度召喚魔法をお使いになられたなんて聞いてませんわよ!」
「あー……すいません、召喚魔法は行ってないですよ?」
「あら?そうなんですの?では、あなた様は……どちらの勇者様ですの?」
「いや、俺ただの豚人ですよー痩せただけですって」
「……え?」
「ほら、五年くらい前にこっちに巻き添え食った豚人ですよ!」
「なっ!?」
俺の顔をまじまじと見詰めた後、面影でも見つかったのか信じられないって顔をしていた
えらく驚いたのか、何度も何度も振り返りながら走って去った聖女の背中を見送りながら隊長のいる部屋へと向かうのだった。
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