上 下
3 / 7

3キロ

しおりを挟む


 「俺は勇者じゃないよ多分」

 無意識に鑑定した木刀のステータスを知っているので、自分が勇者ではない事を告げる。

 するとヒステリックに「豚は嫌ぁ!豚と婚姻なんて絶対に嫌ぁっ!」と首を激しく振って頭を掻きむしり、ボッサボサの髪になってた聖女様の動きが止まる。

 そしてゆっくりと顔を上げ、涙と鼻水と汗で溶けた化粧をドロドロと流しながら俺の目を睨んだ。

 その顔はまるでゾンビの様で少し怖かった。が、何とか踏んばって

 「ステータスオープン」

 と、唱えるとその画面を聖女とおじさんに見せる

 「ほら!僕は村人です、職業は「豚が許可なく喋るなっ!!」……え……」

 自分のステータスを見せて説明しようとなるべく明るめに話していたら食い気味に聖女様が叫んだ

 「お父さ……フレディ宰相様!私は用が無いようなのでこれで失礼致しますわ!」

 そう言って去ろうとするので急いで肩を掴んで止めて、足を治してません!と伝えると

 バシッと手を払われ

 「脂ぎった手で気安くわたくしに触れなっ豚人の分際で! そんな怪我などポーション呑めば治るだろ! 二度とわたくしに関わるなっ!」

 嫌悪感は隠さずにさも不潔な物でも見るかの様に蔑んだ目で睨み、去っていった

 俺はポカーンとしながらも、豚から人に昇格した事を喜んだが、豚の獣人として扱われたと後で教えてもらってガッカリした。

 そんな一幕の後、宰相様は俺の肩にポンっと手を置き聖女がすまなかったと謝った。聴けば聖女は宰相様の末娘で光の魔法が使えた事から有頂天になり、随分と高飛車な性格になったらしい。

 そして、歴代の勇者の姿絵を見てイケメンばかりだった事から、自分も聖女になったのだから、いつか勇者と婚姻するのだと夢見る乙女の様に語っていたのだそうだ。
 だが、いざ召喚をしてみれば現れたのはオークみたいなデブだった事から絶望した様だ。
 まぁ無理もないからと、謝罪は受け取る事にした。
 そしてこのあとの事を聞いた
 自分は村人だったのだし、ここに居る意味も無い筈だった。
 すぐ様此処から放り出されると思っていたのだが、素直に謝罪を受け入れた事から好感が持てると評価され、このまま暫く体力を付けたらどうかと勧められた。

 まぁ、転移した直後に倒れ、起き上がるのに棒を支えにして立ち上がった姿を見て憐れに思ったらしい……

 正直に言ってしまえば余計なお世話だったのだが、熱心に勧めてくれるし、部屋も余ってるし飯も食い放題と聴いて「よろしくお願いします!」と返事をした。

 「細かい取り決めは後にして、取り敢えず君の部屋を案内しよう」

 そう言うと手を〈パパン!〉と叩いた
 するとすぐにメイド服を着たお姉さんがササッと出て来て案内された。宰相殿はこの後直ぐに会議があるらしい

 莫大な金と魔力を使って召喚魔法を行ったのに、呼び出したのが豚人ただ一人だったのだ。これから反省会をするらしく、頭を抱えて宰相殿は奥の部屋へと去った。

 俺を呼び出した大広間には最初沢山の人で賑わっていた筈が、俺と聖女の一悶着から段々人は減り、いつの間にか居なくなっていた。

 宰相に呼び出されたメイドさんも一瞬暗い表情を見せたあとからは真顔になり、淡々とだが 部屋の説明をしてくれた。
 飯の時間には呼びに来てくれるらしい、普通だったら着替えて欲しかったが、俺のサイズの服は無いし、珍しい織物の服なので、そのままで良いと言われた。
 俺の服は普段着だった事もあり、10 Lサイズの作務衣で秋冬春兼用の厚手なのを着ていた。
 特注サイズなのと、京都の老舗で注文した特別なやつなので、作りもしっかりしている。その織方も細かく、手触りも好い。それをみて判断したようだ

 その後は、風呂の入り方と使い方を詳しく教えてくれて、寝る部屋へと案内したあとメイドは言った。

 「では説明は以上です。もし何か用が御座いましたら、一度本当に必要なのか考えた後お呼びください」

 そう言って頭をペコッと軽く下げて素早く姿を消した。
 名前さえ聴かれなかったし、教えてもくれなかった。
 まぁ、その辺は学生時代から慣れていたので気にしない事にした。

 案内された部屋をもう一度確認する。
 キングサイズベッドには白いシーツが掛けられてあり、棚や洋服ダンスにも白いシーツが掛けられてあった。ここはどうやら元々は倉庫だった様だ。

 少し埃っぽい匂いがするが、一応掃除は定期的にしてあるようだった。
 俺のサイズが寝る場所を探した結果がこの部屋なのだそうだ。
 先々代が使っていたベッドで、今は誰も使ってないらしい。
 物が良い物過ぎて、捨てるに捨てれなかったのだそうな。

 一応部屋の案内をされた時にそんな話をメイドから聞いた。
 
 俺はベッドに座り改めて自分のステータスを確認した。

 細井出翔ほそいでしょう(33)♂
 人種 人
 職業 村人
 状態 超絶肥満
 スキル 鑑定、全言語理解、無詠唱、アイテムボックス(小)生活魔法(亜種)、土魔法(大)

 称号 聖女に嫌悪された者、巻き込まれた男、勇者候補を尻で吹き飛ばした者



 「……」

 (あの高校生達が勇者候補だったのかぁ……悪いことしたなぁ……)


 
 


 
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

念願の異世界に召喚されましたが、無能判定されて元の世界に帰されそうです。~救ってくれたのはゲーミング柴犬でした~

白楠 月玻
ファンタジー
異世界に召喚された時、最も大事なものは何だと思う? 頼もしい仲間? チート魔法? 違う違う。 俺が最重要視したのは、異世界人とちゃんと意思疎通できることだ。 これは、神から最強の言語スキルをもらった「俺」こと「色葉和音」が、魔法にあふれたファンタジー世界で無双生活をするお話。 ……だったらよかったのだが、実際は「無能スキルの召喚者」と呼ばれ、元の世界に戻されそうになっている。もちろん、そうならないようにあらゆる手を尽くすから安心してくれ!! ここまで読んでくれてありがとう。 ではさっそく、人間はもちろんあらゆる異種族、動物、生き物たちと会話できる俺が、 自分を無能と言ってきた奴らに一泡吹かせたり、 なぜか虹色に光る柴犬とスローライフを楽しんだり、 最強のテイマーを目指してみたり、 神に戦いを挑んだりする物語、ぜひ楽しんでくれ。

処理中です...