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2キロ
しおりを挟む俺の名前は【細井出翔】出会った奴全員に名称詐欺だと言われる。
まぁ確かに体型を見れば一目瞭然だから、怒る気はない。
身長百七十五センチに対して体重は二百kg超えてるからな、それに痩せる気も特に無い、何故なら太ってる俺は自分が可愛いと思っていたからな。
仕事は産廃屋をやっていた。
過去形だ。
少し体重が増え過ぎたばっかりに(この頃はまだ百八十kgくらいだった)可燃ゴミの詰め込める量が普通の従業員より百キロ以上減る事から仕事に支障が出る様になり、車は降ろされて委託してるデパートで働くようになったんだが、ドライバーじゃなくなったら運転手当が無くなり、給料が半分に減った。流石に生活が苦しくなってアルバイトを深夜にやってたらバレた。で、結局クビになる。
今はベ○ナム人が営む非合法焼肉屋で見習いをやりながら住み込みで働いている。最近豚を一頭捌ける様になったし、牛だって子牛なら捌けるようにもなった。
捌く場所が店長の自宅の風呂ってのが衛生的な面で少し気になったが、気にしてもしゃーないと思い直してセッセと技術を学んでる。
でかい牛も捌いてみたいと言ったが
「風呂場に運べないからダメ」
っと言われて断念した、だがいつかどっかでやってやろうと思う。
この焼肉屋に見習いできてから随分と食う量が増えたおかげか、体重も増えに増えて遂に二百kgに乗った。
この頃になると道でコケたら立てなくなっていた。
筋肉量に重さがあってないというのが問題だった
一日中殆ど動かないで仕事してるからなのかと、疑問に思うほどだ。
この職に就いてから三食ご飯とオヤツに焼肉が食べられる様にもなった。店長曰く
「食材を腐らせない為には食うしか無いんだよ」
ってことらしく、大型冷蔵庫は持ってないんだそうだ。
俺にとっては幸せな店だった。
だが最近店長とそのお仲間が捕まって俺にも何故か出頭命令が降りてきた。
自宅に居た俺はビックリして飛び上がりうっかり足元を見ないでジャンプしちゃったんだ。
足元にはスーパーボール(猫じゃらし用)が落ちていてうっかりそれを足の裏の内側で踏んでしまい、バランスを崩した右足首が体重を支え切れず《グキッ》と一気に曲がった。
一瞬で『あ、折れたべこれ……』と、悟った俺は警察に電話して事故で約束の時間には間に合いませんと告げて、行き付けの整骨院を教えてそこで待つという警察に頷きながら、生前爺さんが素振りで使ってた木刀が今は防犯用に玄関に立て掛けられていた事を思い出した。やたら頑丈で固かったので咄嗟に掴んで杖の代わりにして歩き出した。
自家用車には乗れなかった。
座ったら立てないと予想したからだ。
正常な時でさえ乗り降りが大変なのに、挫いてしまった今なんて乗ったらマトモにアクセルだって踏めやしない。
同じ理由でTAXiも駄目だ。
選択肢が限られてる。
財布と保険証と持ってバス停迄歩く。
果てしなく遠い道のりに感じた。
バス停迄TAXi呼ぼうか考えたくらい大変だった。
それでも何とか歩いて行ってバス停に着き、バスに乗ることが出来た。片足乗っけたら痛くて体重が掛けられなかったので、手摺を掴んで躰を引き寄せたら手摺から《ミシッ》と嫌な音がした。
何とかバスを揺らしながら乗り込んで、座れる席を探す。
二人用は開いていたが、多分座ると尻が嵌って動けなくなる。
当然の様に3人座れる席を睨むとそこに座ってた人が何かを察したかの様に立ち上がり素早く場所を譲ってくれた。
その人にお礼を告げて、足を捻ってしまって……と、言い訳もしたら。ウンウン頷きながら二人用に座り直してくれた。
その後数ヶ所のバス停を通り越して山吹整骨院前でボタンを押して降りたんだが、座ってたら痛みが増したのか歩く度に激痛が俺を襲ってくれた。
歩きながらドライバーに謝って何とかバスから降りたが、出口狭くない?バスってこんなんだったっけ?
横になっても前を向いても肉がドアを擦りながらしか、降りれなかった。
ポンっと音がするかの様に外に出ると、軽く拍手が起きるくらいだった。
皆さんに手を振ってから整骨院へと歩くが、これまた大変だった。
ヨチヨチと歩いていると後ろから声をかけられた。
「あの、すいません!急いでるので先に道を譲ってくれませんか!」
何とか後ろを振り向くと、可愛いくて活発そうなポニーテールの女の子JKが、ガードレールと壁に背肉と腹肉を擦りそうになって振り向く俺を見た。
目で何かを計り察したのか首を横に振りながら
「ごめんなさい……やっぱり何でも無いです……」
と、謝って後ろに居る少年達の顔を見ながら何事かアイチャッチしてた。
俺も気を使って端に寄れれば良かったんだけど、生憎道が狭くて……二人分くらいしか開いてない歩道が悪いと、心の中で悪態をついた。
すると、彼女達の足元に丸い幾何学模様の円が出来た、何故か俺の足元を掠めていたので急いでジャンプして回避しようと試みたのが悪かったのか、ジャンプしたつもりで爪先立ちしたのが不味かったのか、バランスを崩した俺は後ろの少女達を背肉で弾き飛ばしながら仰向けに倒れた。
天気の良い日だったので青い空が視界に入る筈が何故か暗い天井だった。
アスファルトの歩道で転けた筈が、小石が散らばる石畳の上だった。
ビターン!と、受け身を失敗したスライムの様にベチっと肉塊を叩き付けて俺が倒れると、歓声とどよめきが起こった。
「一人⁉一人だと⁉」
「まてまて!あれは人なのか⁉オークじゃないのか⁉」
「兵達よ!まてまて!まだ攻撃するな!」
鉄が石畳を走り回るような音を奏でながら、その音が俺を囲んでいった
俺は仰向けの体を何とか起き上がらせる事に成功して、白樫の木刀を支えに何とか立ち上がった。
周りを見ると松明の灯りで照らされた銀色の甲冑を着込んだコスプレ共が手に手に武器を持って俺を囲んでいた。
(何だこいつら……まだ夏コミまでは時期が違うし、早すぎるだろ?)
俺はそいつらに何処かでイベントあるのか聞こうと声を掛けようとした。その後ろから俺に向かって話し掛ける禿げたポッチャリ男が言った。
「君はオークかね?それとも人間かね?言葉が分かるなら答えてくれ!」
「失礼だな……一応辛うじてまだ人間だよ」
「いや何、悪かった。言葉が通じるなら良いのだ……あー……少し説明したいと思うのだが、宜しいか?」
「ああ、良いぞ。あ!その前に何処かに医者は居ないかな?足が痛いんだ」
「医者?医者は居ないが、聖女に治させよう。聖女様!」
そう禿げたポッチャリが斜め後ろの女性に声を掛けた。
声を掛けられた女性は嫌悪感を顔に出したままにじり寄ってきた。
「その豚が勇者様なんですの⁉嘘ですよね⁉その豚が未来の私の旦那様だなんて嘘ですよね⁉」
そうヒステリックに叫びだした
俺は美人が顔を歪めて醜く叫んでいた事は無視したまま心の中で呟いた。
さっきから透明の板がチラチラ俺の右手の中にある木刀から見えてて鬱陶しかったんだが、良く見ると透明の板には文字が書いてあり読んで見ると
名称 白樫の木刀
称号 勇者
持ち主 細井出翔
っとあり……
(違うよ?聖女様の未来の旦那は木刀だよ?)
と、心の中で爆笑しながら答えてあげた
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