異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 グランドル侯爵を振り切った後、三毛猫トマトを先頭に王都の門までやって来た。

 「トマト、有難う! ここ迄で良いよ」
 「はい! ではまたのご利用お待ちしてますね! ハチ! 帰るよ!」
 三毛猫に乗ったトマトはハチワレと連だって本部のある街へと戻っていった。





 「海人? これから如何するんだ?」
 国枝が話し掛けているのにも気付かず、俺は仕掛けた爆竹の事を考えていた。
 1本であの破壊力だ。
 当然、あの場に居た兵士達はもう……。
 そう考えるだけで震えてくる。
 そんな俺を見兼ねて国枝は言う。
 「仕方なかった! そうだろう? それに、向こうも殺る気で俺らの街へ向かってんだ! そんな事よりコレからする事だけを考えろ! 後悔は後でするもんだろう?」

 「ああ……そう……そうだな。……この先からはクイーンで行く、街中をハチで行ったら流石に狭いから」

 俺はアイテムバッグからパウェルに借りたクイーンを出すと跨った。

 「国枝は後ろに乗ってくれ」
 「い、いいのか⁉」
 「……え?ああ、うん。変な事しないでくれよ?」
 「しないよぉっへへへ」
 そう言うと喜んで後ろに跨り腰を掴む……というか、抱きしめてくる。

 「……普通にしてくれ」
 「タンデムはこれで正解何だって!」

 何となく違う気がするが、今は急いでいる為考えない事にして、スイッチを押す。

 『シュルルルッ』と、軽快な音を鳴らしてクイーンに命が入る。

 「んじゃ、行くけど突っ切るから追ってきたら適当に爆竹ばら撒いてね?」

 「……いいのか?」
 また大勢吹き飛ばす事になるって言いたいのだろう。
 だが俺は、後悔は後でするって決めたから。

 「ああ、構わない!」
 そう言うと、頷いてるのが背中越しに伝わる。
 ゾワッとした寒気を振り払う様に全開でアクセルを廻す。

 砂煙と砂利石を後方に吹き飛ばしながら疾走するクイーンは、門の前に陣取る兵士達の制止を振り切って街の中へと突っ込んだ。

 「待てっ! 止まれええぇっ!」と言う声をBGMにしながら北の塔を目指す。

 時折『ドンッ!』という爆発音が後ろから聞こえるので、多分国枝が爆竹で応戦してるのだろうと思うのだが、背中に伝わる国枝の体温はそのままだった。

 どうやって投げてるのか気になる所だが、今はスピードも乗ってるし前しか見てる余裕が無い。感触を感じてる暇すら失くすかのように、前傾姿勢になるとフルスロットルでアクセルを廻して更にスピードをあげた。

 「海人! その先右方向へ曲がれ! そっちの近いし道も広い!」

 国枝の支持に、迷い無く車体を倒して曲がっていくと、大通りなのか一気に視界が広くなるが、伝達網が早いのか、既に数十人の兵士が盾を掲げて待っていた。

 幸運な事に街の住民は見当たらない。
 何処かに避難してるのか、隠れているのか分からないが、派手にぶちかましても大丈夫だろう。

 「国枝! 前方射撃するから突き破った瞬間煙幕投げてくれ!」

 爆竹製造の傍ら、余った材料で作った煙幕。
 
 「あいよーっ!」

 という国枝の返事を聞いて、俺は左手の親指でスイッチを押す。
 前方にある二丁の電動ガンから『ブーーッ!』という電撃音が鳴り響き、盾を構える兵士達に魔石弾を浴びせた。
 魔石が余ってたので弾に変えた特別性だ。
 電力も乗るので威力はお墨付き。
 重ねた鉄板だって穿く。

 『ズダタダダダッ!』という着弾音と盾を穿く音と共に肉が抉れたのか悲鳴と血飛沫が舞う。

 「崩れたぞ!」と国枝が叫び、開いた隙間に無理矢理クイーンをねじ込みながら近くに居た兵士毎吹き飛ばす。

 「止めろーーっ!」と言う声と「助けてくれーっ!」という声が交じる中を抜けて行くと風下から煙幕の煙が追い掛けて来る。

 追い風を受けながら更にスピードをあげて兵士の囲いを抜けると一気に城の入り口へと突き進む。

 城の入り口には幸い兵士は誰も居なかった様だ。そのまま城の中へとクイーンに乗ったまま乗り込んで、階段を駆け上がっていく。

 赤い絨毯を巻き上げながら走り、国枝が適切な通路を後ろから叫ぶ、そして辿り着いたのは、北の塔へと続く橋。

 行く手には騎竜に跨る一団が待っていた。

 騎竜は王の支持無く動く事は余り無い筈だったが、街で暴れる暴漢者がいると言う報告でも受けたのか、既に抜刀して此方を睨む。

 「如何するんだ? アイツラ多分敵じゃないぞ?」

 「そうか? その割には殺気立ってないか?」

 彼らは確かに殺気立っていた。
 それは当然だろう。
 友好的な付き合いのあるエルフ族とはいえ、乗り物に乗って来場したばかりか、年代物の赤い絨毯までボロボロにされて、尚且つ大切な街を一部破壊してるのだから。

 殺気だつなと言う方が無理である。

 「仕方ない、突っ込むけどなるべく怪我させないようにしてくれ」

 「りょーかい!」

 そう言うと国枝は漸く両手を放してくれた様だ。が、その瞬間頭の上から鉄砲水の様な水が頭上を掠める様に何発も飛んでいった。

 その水の塊は情け容赦無く騎竜達とそれに跨る騎士達に当り、右から左へと押し流し、下の階へと叩き落していく。

 「おいおい⁉ 国枝⁉ あれ死んでない⁉」

 「大丈夫! アイツラ頑丈だから!」

 下を少し覗くと、騎竜は無事だったが、騎士にはダメージがあったらしく動いては居るが虫の息だ、まぁそれでも生きてはいるようだ。

 ホッと胸をなでおろして、それじゃあ行くか!って、思ってアクセルを廻そうとした時、「「止まれっ!」」って、声が前方から聞こえた。

 その声は聞き覚えのある声だった。
 俺たちの目の前。
 北の塔の入り口の扉が開け放たれていて、その前に仁王立ちをしているのは、軟禁されてる筈のカウェイだった。

 「お前らやり過ぎだっ‼ 馬鹿者目‼」

 そう言うとクイーンから降りろと支持を出す。

 俺達は顔を見合わせどうする?って、顔をするが、味方のカウェイが裏切るとは思えなかったので、素直に従う。

 クイーンの電力を落とし、そのままアイテムバッグに仕舞うと、カウェイの後を付いてあるく。

 北の塔には兵士は居ないのか、通るたびに端々に次女が避けて頭を下げて居た。

 「王と王妃は無事なのか?」
 国枝は焦りを隠しながらカウェイに聞くと、カウェイは振り向く事なく返事をした。

 「……虫の息だ」

 その言葉に俺達に緊張が走る。
 まさか⁉ 本当に病気なのか⁉
 間に合わなかったというのか⁉

 そんな考えが頭をよぎる。
 無言のまま俺達を王と王妃の居るだろう部屋へと案内すると、静かに扉を開けた。

 王は窓際の側で膝を付いて壁に寄りかかるように倒れていた。
 王妃も膝を付いて項垂れている。
 俺達は不敬とは思ったが、急いで王妃に駆け寄る。

 「王妃様! 王は⁉ まさか……もう⁉」

 ーー息がないのか?

 俺達は間に合わなかったのかと愕然としそうになった時、王妃は言った。

 「大丈夫ですよ、生きてます……辛うじてね」

 そう言うと俺の手を取って立ち上がる。

 「王が倒れたのは病気のせいではありません、崩れる街を見て、落ち込んだのです」

 そう言うと、俺の手を握る力が段々と増していきギリギリと音が聞こえるほど、締め付けてきた。

 「だから言ったろ? やり過ぎだって……」

 そんなカウェイの声が背中から聞こえた。

 そう。
 王は崩れて行く建物や街を遠目で見ていて、絶望して膝から崩れ落ちただけだったのだ。
 




★書き直してたら1話で終わりそうになかったので、数話にわけます。

 本当に申し訳ありません。
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