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73(残酷描写有り)
しおりを挟む世界樹の街を出て二日目アリサから連絡を貰う。
「もしもーし!こちらアリサ!海人聴こえるー⁉」
「ホイホイ聴こえるよー!」
炎帝に騎乗してるアリサの声は風の音で少し煩かったが、地声がデカイので問題なく聴こえた。
「王都から正規街道を通って将軍率いる軍を確認!本隊と思われる! 旧街道からはおよそ三千人くらいの列も確認した!」
「りょーかーい、アリサはそのまま三千人の方を撹乱してくれー!」
「はーい! 所でこのネズミ花火ってのは誕生日会で綺麗だった奴と同じものか?」
「んー。少し違うけど、廻ったあとパンパン音がするよー」
「ふーん。まぁ、使ってみるよー」
「よろしくねー!」
そう言うと電力鳥(電話)を切る。
「アリサちゃん花火見た事あるんだ?」
国枝にも聴こえたのかそう聞いてきたので息子達の誕生日に以前国枝から貰った奴をちゃんと空に打ち上げて見せた事があったのを伝える。
「あれ使ったんだ?封印するとか言ってたのに」
「記念すべき初の誕生日会だからね~。結構派手に打ち上げたら好評でさ! それからちょくちょく自分でも作るようになったのさ」
そう言うと拳大くらいの大きさの爆竹を見せる。
「……随分デカイな」
「これ見本だから、これと同じ様に作ってね!」
「あいよ、ところでこれ試し撃ちはしたのか?」
「いや?」
「いやって……ぶっつけ本番かよ!」
そう言って海人を見ると、せっせせっせと爆竹を量産している。
国枝はため息を吐いて(まぁ、海外の爆竹も大きかったしな)も、気にしない事にして、見本を見ながら爆竹作りを手伝った。
一方アリサはと言うと、炎帝がホバリングする中、唖然と地上を眺めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、ネズミ花火はどんなかなぁ~♪」
アリサは楽しみにしていた。
息子達の誕生日会をエルフ族領地に住まう人々が盛大に祝ってくれたばかりか、花の様な火花が大輪の如く空に舞散る花火を見たからだ。
その時からアリサは花火が好きになった。
事ある毎に海人にお強請りし、何かの祝い事の度に打ち上げて貰っていた。
だから思った。
ーー海人の居た世界はとても平和で美しい世界なのではないかと。
行けるならば一緒に行ってみたいとも思っていた。
ーーが。
二列に並んで進軍してくる三千人の軍隊目掛けて放ったネズミ花火は、地上に落下した瞬間クルクルと廻りだし、地表を抉りながら勢い良く竜巻の様に廻り出した。
その竜巻は兵士を次々と呑み込むと天高く巻き上げていく。
放り投げた玉が弾ける様に爆発したかと思えば、粉の様な物が舞い火花を散らして竜巻に飲み込まれて飛び回る兵士達を次々パンパンと爆発させていった。
舞ったのは魔石パウダーだった。
粉塵爆発するかの様に魔石に込められた電力が擦れ合う事で稲妻が生まれ、舞飛ぶ兵士達に次々と襲いかかる。
襲いかかった稲妻は鎧諸共身体を貫き弾け飛ばした。
パンパンとなる音は、人が爆発する音だったのだ。
遠目から見れば巨大なドラゴン花火の様に見えて綺麗だったかも知れない。
それが火花を散らしながら弾け飛ぶのが人間でなければ……。
その光景をホバリングしながら眺めていたアリサは流石に吐いた。
「えげつな……」
涙目に成りながら口元を拭き呟く。
炎帝もまた口を開けて驚いていた。
人の力とは何とも恐ろしい物だと改めて思った。それを作ったのが、自分の主であるアリサの旦那で、昔出会った時は幼さの残る顔立ちの子供だった事を思い出す。
『恐ろしい物を作ったな……旦那殿は……』
思わず口に出して言ってしまう程、あの時の海人からは想像もつかない恐ろしい物を作った事に恐怖した。
「ああ、全くだ……旦那の元居た世界じゃ子供の遊び道具らしいぞ……あれ……」
行けるなら行ってみたい。
そう思っていた数分前の自分に浅はかな考えだったと思い直し、行かなくてはいけないとなったら如何しようと、体を震わせた。
『なんとっ……‼随分過酷な世界なんじゃな……』
海人の世界では人を巻き上げ空に飛ばし人を豆の如く弾け飛ばす遊びがあるのかと、恐怖しこの世界に生まれた事を生まれて初めて感謝した。
「考えたくもないな……」
こんな恐ろしい物で遊ぶ子供達を想像してアリサは身を震わせ、自分の子供をこの世界に生ませてくれた神に心の底から感謝するのだった。
この旧街道で起こった悪夢の様な攻撃で、三千人居た兵士は数人の兵士を残して全て粉塵と化し、最後に炎が吹き上がると骨の欠片も肉片すらも残さず燃え尽くしたという。
この戦いが終わった後に事情聴取した兵士は、その話を信じはしなかった。
悪夢でも見たとしか思えなかったからだ。
そして生き残った兵士達は口々にこう言い残したそうだ。
エルフ族に手を出すな。
手を出したら如何なるか、身体で知ることになるだろう。
だが知った時が最後、何も残せずこの世から消えるだろう。
その話をした生き残りの兵士達は二度とこの話をしなかったそうだ。
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