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しおりを挟む手配書が全国に配られてから1ヶ月後
遂に決定的証拠を掴んだ将軍は軍を組織してエルフ族領地へ向けて進軍していた。
大使館は閉鎖され、ガウェル達は拘束まではされていないが、周りを囲まれて軟禁状態だという。
外に買い物へ行くにも許可がいるらしく面倒くさいと嘆いて居るという。
王国から城塞都市クロイドまでは、普通の馬車で二ヶ月掛かる。
そこから更に北東方面へ二日掛かって漸く辿り着く場所なので、手配書を出した日から毎日兵士百人送り出しても、まだ残り半分の距離になる。
竜騎士隊を使えばニ十日前後で着けるが、団体だともう少し遅くなる。
そしてあれは完全に軍隊なので、戦争などの時にしか使用出来ない事になっている為、今回の国枝捕獲作戦には使用できなかった。
将軍はキレもないし馬鹿でもあったがそれなりに補助要員がいた事で彼は将軍にまで上り詰める事が出来た。
その補助要員がグランドル侯爵である。
彼は将軍と出会う前は侯爵家の三男だった、貴族の三男というのは家も特に継ぐ必要も無いし、次男の様にスペア要員として厳しく育てられる事も無く、のびのびと好きな事に熱中できる立場だった。
そこで彼は武器開発の分野で頭角を表すようになり、若き日の将軍と出会う事で出世した。
そして、今現在は侯爵家を名乗る事も許され、軍事顧問としての地位も確率している優秀な貴族だ。
彼のお陰でマーケンは将軍を名乗れる様になったと言っても過言ではない。
そのグランドル侯爵の発案で雑兵を毎日百人単位で手配書を配った日からエルフ族領近辺に送ろうと考えた。
そうすれば少なくとも3ヶ月後には、エルフ族へ進軍できる兵士が出来ると考えたのだが、資金がなかった。
国の金を使うにしても王の許可がいる。
いくら病魔に侵されていようと、全権を委ねられていようと、一言口添えが無ければ国庫から大量の資金を使う事は出来なかったのだ。
国庫とは別に個人資産に手を出せれば良かったのだが、一度ゼロに近い状態にまでなった事から王の預貯金は殆ど貯まっていなかった。
そこで、将軍と軍事顧問の名義で金を借り、それを充てる事にした。
国枝さえ捕まえて牢に放り込み、姫を捕まえて無理矢理婚姻してしまえば借金など直ぐに国庫から返金出来ると将軍が言うので、それに安堵して大金を借りた。
こっそり自分の実家の領地も抵当に入れている。
そのお陰でかなりの金額を引き出せた。
そして聖銀を使ったフルアーマーを拵らえた。勿論自分用だ。
グランドル侯爵は一度海人から受けた爆裂魔法(花火)を食らって恐怖に慄いた経験から炎攻撃に強い聖銀製を使って防御すれば次こそ負けないと考えた。
兵士達には聖銀を薄く塗った盾を渡してある。これで海人対策も出来たグランドル侯爵は将軍と共に、意気揚々とエルフ族領地へと旅立った。
☆
「海人! マーケン将軍とグランドル侯爵が王都を出たという報告が上がってきたぞ!」
国枝は作戦が出来たという海人の言うとおりに、将軍の密偵達に自分の姿を城塞都市クロイドで買い物をしている姿を目撃させた。
そして王都に忍ばせておいた私兵達から情報を受け取って、海人の所まで戻ってきた。
「よし、では作戦を実行する! 王都に向かうのは俺と国枝とアリサだ。 アリサは空からグレンに乗って向かってくれ!」
「俺は?」
「国枝は俺と一緒にコレに乗ってくれ」
海人がコレと言って出したのは大きめの篭である。ピクニック等に持っていく形をしているがかなり巨大な篭だった。
「……ふざけてんのか?」
「大真面目だ」
「あ、アリサ! 空から王国軍の兵士の列を見付けたら、上からコレを落としてくれ」
そう言って渡したのはバスケットボールくらいの大きさの丸い玉だ。
「なんじゃこれ?」
「撹乱する玉だよ。 鼠花火ともいうかな?」
「ふーん。まぁ、持っていくわ」
十個程持ってアリサは先に炎帝に乗り込むと、バッサバッサと飛んでいった。
「で? 俺達はこの篭に入ってどうすんの?」
少しふて腐れながら国枝が篭から顔だけ出して言う。
「んじゃ、おねがいしまーす!」
と、海人は叫ぶ。
怪訝そうな顔をして声を掛けた方向に顔を向けると国枝の顔は引き攣った。
其処に居たのは巨大なハチワレ猫だったのだ。
大きな口を開いて国枝の頭上付近を咥えたハチワレは、そのまま篭を咥えたまま走り出す。
「うわわわわわわわっ⁉なんだこれ⁉何だこれぇえええっ⁉」と、国枝が叫ぶので海人は説明した。
「蜂型や七星を使うと検問で引っ掛るから、三毛猫トマトの宅配便を利用する事にしたんだ。 これは、特別便で人を運ぶ物らしい」
そう言うと、ハチワレの前から三毛猫に運ばれてるトマトが篭から顔を出し、此方に手を振っている。
ハチワレだけでは何処かに行ってしまう為、三毛猫が先導するという。
巨大な猫が二匹篭を咥えて走ったいても、宅配便として有名になった今では検問もノーチェックで通れる様になったのだ。
そして今回は二匹で通って不審に思われたとしても、王への御見舞品を預かっていると口頭で言うだけで素通りだった。
王が病魔に倒れたと聴いた諸外国や各町の者達が心配してお見舞いの品が届けられていたからだ。
それを利用して、こっそり王都へ入ろうと考えた。
撹乱用にアリサを空から向かわせたのも将軍達の目をアリサに向けさせる為の布石だった。
炎帝は強いし、空を飛ぶ。そこらの軍隊ですら攻撃は届かないと踏んでの作戦だった。態々嫁を危険に晒すことなどしないのだ。
「考えたな……で、これはどれくらいで着くんだ?」
「トマトの話だと十日くらいだって」
「そうか、なら少しは休めるか」
安心したのか国枝は篭の中で寛ぎ始めた。
「ち、ちょっと⁉ やる事あるんだから手伝ってよ!」
そう言うと海人は篭の中でゴチャゴチャした物とパウダー状の粉を出した。
「なんだそれ?」
と聞くと、海人は楽しそうに弄りながら
「撹乱用の爆竹だよ」
といった。
だが、彼らも知らなかった。
これがどれ程の威力があるのかを……。
そして大陸の歴史上希に見る程酷い、蹂躙戦が始まろうとしていた事も。
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