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しおりを挟む「指名手配とはやってくれる」
国枝は舌打ちして手配書を破り捨てる。
そして海人に昔あったダンゴムシ型電動馬車を借りれないか聞いてきた。
「暫く身を隠そうと思うんだ、だからもし使ってないなら借りれないか?」
海人なら快く貸してくれると思っていた国枝だったが、ここで予想外にも海人は首を横に振り断った。
「すまん、あれは貸せない。というか……何も貸す気はないよ国枝」
「なっ⁉……マジか……流石に手配書が出たら無理か……まぁ、そうだよな……はは……(何を期待してたんだ俺は)」
苦笑いも出来ず歪んだ口元が力無く閉じる。
「迷惑……かけたな」
そう言って部屋から出ていこうとした国枝の腕をつかむと、引き寄せた。
「どこに行くつもりだ? 誰も手を貸さないとは言ってないだろ?」
そんなことを言う海人に怪訝そうな顔をして国枝は言う。
「は? いや、だってさっき何も貸せないって……言ったじゃん(何言ってんだコイツは……)」
「乗り物は貸せないけど、王様を助けに行って元気な姿を国民に見せる手伝いなら何時でも手を貸すぜ?」
そう言って海人は国枝を抱きしめた。
勿論愛情からではなく、友情として。
「……なんだよ……それ」
困惑する国枝は抱きしめられてる喜びを感じていたいのに、今は素直に喜べない自分に苛ついた。
「将軍倒すか出し抜いて、王様助けるんだろ?」
そう言って背中をポンポンと叩く。
海人は何も貸せないと国枝に伝えた瞬間、国枝の目から雫が溢れるのを見てしまった。そして直ぐに言葉を間違えたと気づき、抱擁して誤魔化したのだ。
国枝は国枝で自分が泣いている事に気付いていなかった。
なので、なぜ今海人に抱きしめられて慰められてるのか理解できなかった。
ーーだが、そうか……なんで俺は逃げようと……隠れようとしてたんだ?
間違っているのは将軍なんだから、王を助ければ終わるのは向こうじゃないか!
何となく抱擁されて冷静に成れた国枝は、漸く自分の考えが間違っていた事に気付いた。
そうだ、討って出なくは!
だが、幽閉されている塔は正面から行っても阻まれる筈だ。
それに海人達の蜂型を使ったとしても難しい……。どうすればいいか……。
冷静になった国枝は海人に抱き締められながら思考の泉に入り掛けて気付いた。
「あ!今俺海人に抱かれてんじゃん!何冷静に今後の事なんて考えてんだ⁉」
つい、声に出して言ってしまい。しまった!と、気が付いたが後の祭りだった。
「国枝……おま……やっぱり……」と、ドン引きな海人は後ずさりしながら国枝から離れた。
「何意識してんだよ! 冗談だよ冗談!」と、笑って誤魔化したが、一度疑われると過去の話を思い出したりして、益々疑わしさだけ増していった。
「そんな事より!作戦だよ作戦!」
昔の言動を思い出させたくなくて違う方向へ話を持っていこうとした国枝の作戦は後を制し、うまく導かせる事に成功した。
「そうだな、作戦か……それを考えるには情報が必要だな」
そう言うと海人は白い人達を借りれないか国枝に聞いてみた。
「白い人達って……一応俺付きの優秀な奴等なんで、それなりに名称付いてんだけど……」
ーーだっていつも白い魔導服着てるから……。
「なんて名称なんだよ」
と聞く海人に照れ臭そうに
「ホワイトローブ……」
と、言うと顔を背ける。
恥ずかしかったらしい。
「恥ずかしがるなら辞めろよそんな名前」
顔を赤らめてそっぽを向いてる国枝にそう言うと
「俺がつけた名前じゃないんだよ!あいつらが勝手にそう呼び出したんだ!俺のせいじゃねーよ⁉」
「しかもホワイトローブって白い人達とあんま変わらなくて草生える!」
腹を抱えて笑いだした海人に、ツバを飛ばしながら弁解する国枝だった。
☆
「国枝はまだ見付からないのか⁉」
城にいる衛兵に声を荒げながら聞く。
聞かれた衛兵は畏まって将軍に敬礼し
「まだ見つかってません!」と、だけ答えると向き直って直立不動になって佇む。
「目撃情報も無いのか⁉」
と、もう一度その兵士に聞くと、再び将軍に体を向けて最敬礼したあと
「ありませんっ!」と、だけ答え
再び直立不動の姿勢に戻る。
その繰り返しを数刻毎にやっている。
傍から見るとコントである。
そもそも、衛兵はそこに立ってるだけなのでなんの情報も知り得ないのだが、将軍は知らない。
謁見室に佇む兵士が外の情報を得られない立場にある事など、初めて玉座に座る将軍は知らないし、無理矢理奪った椅子に座る将軍に教えてやる者も居なかったのだ。
謁見室に佇む兵士の仕事は、謁見室に来た者から何かを受け取った際、王様迄届ける事だけが仕事だった。
その為に外部の情報などは必要なかった為、敢えて魔力無しの兵士を使っているのだ。
かと言って、貴族の顔や紋章に詳しくないと出来ないし、貴族相手の仕事ではあるので魔力無しとはいえ、とても優秀な兵士である。
とても優秀な兵士ゆえに、今現在城の内部で起こっている事も把握していた。
そして、この兵士は王族派なので将軍に得になりそうな話はしなかった。
そのお陰もあって延々とコントの様な事をしているのだ。
「国枝は絶対エルフ族領に逃げ込んでいる筈なんだ! それさえ分かれば踏み込めるのに! こうなったら仕方ない! 将軍を呼べ!」
ダレーニ・ド・マーケン将軍はすっかり王様気取りで居た為、自分が将軍だった事を忘れていた。
それを聞いた兵士は再び将軍に向き直って最敬礼した後言った。
「目の前におりますっ!」
そう言うと再び直立不動の姿勢に戻って佇んだ。
「あ……、そうだった儂まだ将軍だった……」と、本当に今気付いた様な顔をすると、「副将軍を呼べ!」と、言い直した。
しかしこの部屋には将軍と兵士が一人しか居ない。
そして、この兵士は謁見室だけが自分の仕事場だったので、誰を呼びに行くとかは他の者達の仕事であった為に、動かない。
将軍は彼が魔力無しとは知らないので、勝手に魔法で連絡を出してると思い込んでいた。
その為に彼が何も反応しない事に訝しむ事も無かったのだ。
そしてイライラが募る度に
「まだ来ぬのか!」と、叫ぶと
「まだ来てませんっ!」と兵士が将軍に向かって最敬礼しながら叫ぶというコントを延々と続けている。
その日はそれで終わってしまうほど長い時間やっていた。
城に仕える侍女は、それを端から見ていて、将軍がそういう性癖なのかと思った為に、助言も他の者に知らせる事も無かった。
なぜなら以前居たマキシムがあんな感じだったからだ。
そして国枝もまた、城に居た時を知る侍女達の間では変態という認識で纏まっていた。
偉くなる方々はだいたい皆変態か変わった性癖を持っているという認識が、城に仕える者達の常識になっている。
が、そんな事に気付ける将軍では無かった為に、延々とコントを続けたと言う。
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