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しおりを挟む数ヶ月前とある貴族の男が将軍家で行われたパーティで愚痴を溢した。
『最近生まれた魔力持ちの子供の力が伸び悩んでる』
それは王国全土で言われ始めていた話であった。
電力の発展が活発になった数年前から言われ始めていた事だった。
『魔力を使わなくなったら魔法使いは衰退する』という、誰が言い出したのか分からないが、そんな噂が囁かれ始めた。
ーー何故か?
電力の普及と共に広がったのは何も乗り物だけではなかったからだ。
エルフ族領から拡がった井戸の活用や、風呂などの普及により、魔力を使わなくても体が綺麗になったり、水を魔力で補わなくても良くなった為だった。
魔力持ちの子供が魔力無しの家庭へと毎朝巡って施しを行い、魔力の量を何年も掛けて増やして行く。
その施しが失われつつあったからだ。
魔力に頼った生活から電力に頼った生活へと変わっていったお陰で、魔力を鍛える為の水出しやクリーンによる体の洗浄などを頼んでくる人々が激減したのだ。
一部の魔力持ちにしか頼まなくなったお陰で、魔力を使う頻度は減っていった。
とはいえ、蜂型電動一輪車に魔力持ちが乗れば、走れば走るほど魔力を消費する為、使う頻度が減るという様な事はなかったのだが、魔力持ちの施しはそれ以外にも理由があったのだ。
それが、魔力無しの生活を支えている魔力持ちを幼い時分から敬い傅かせる意味も含まれていた為だ。
それが電力の普及で魔力無しが魔力に頼らず生活する様になった。
水が無いなら井戸から汲み。
部屋が暗ければ電力で灯りをつけ。
火を使いたければ電力竈(魔導具)を使って火をつける。
そのお陰で、外街に住む必要が無くなった魔力無しが安全を求めて壁の中に住むようになり、税収も上がったのだ。
だが、それに納得しない者達が居た。
それが魔力持ちの貴族等の上流階級の出身者だ。
毎回頭を下げてお願いしてくる魔力無し達が、敬い諂いしてくるのを見て御満悦だったのに、頭を下げる者達が居なくなったのだ。
どんな金持ちでも貴族で魔力があると言うだけで、金を包んで持ってくる。
その格差を生まれた時から教えこむシステムのお陰で偉ぶっていられたのが、電力のお陰で失くなれば、貴族の権威が失くなったと感じる者が増えてもおかしくはなかった。
そして将軍家で行ったパーティで愚痴をこぼし、将軍の力で王に電力に対する規制を行って欲しいと進言する様に頼み込んだのが、事の発端の始まりだった。
勿論将軍は王に直ぐ様進言した。
このまま電力に頼れば、魔法使いの力が失われる可能性があると。
しかし、王は首を横に振りその進言を突き放した。
それはそうだろう。
電力が普及した所で、魔力を使わない事など無かったからだ。
施しが減っただけで、魔力を使う場所など探せば腐る程あるのだ、貴族の権威が失われることも無いし、魔力無し達が魔力持ちを蔑む事も無かったのだ。
将軍や他の王侯貴族達が心配しているのはもっと別の事だろうと王様は言う。
「選民意識的な事の為に、便利な物を捨てさせる事など出来る筈がないだろう?」
本音を指摘された将軍は顔を赤らめた。
が、諦められずに言った。
「では、税金を掛けてください!」と。
電力に税金を掛ければ、国も潤う事になる。その潤った資金を貴族に払えば鬱憤も減るだろうと言うのだ。
当然税金を掛ければ、支払うのは国民になる。
「エルフ族とは友好関係で居たいのに税金など増やしたらエルフ族からも国民からも非難される事になる! 今の状態でなんの問題も無いのだから、税金など増やす事は出来ない! 貴族の誇りを守る為だけに軋轢を生む様な事を申すでない!」と、強く将軍を非難した。
「お前はエルフ族の海人にも何かしら思う所があると聴く! 嫉妬や妬みで眩んだその頭が冷えるまで登城する事は許さん! 暫く屋敷で謹慎しておれっ!」
そうして暫く王城に昇ることを拒否された将軍は、怒りで顔を赤く染めながら退城したらしい。
その数カ月後に将軍は同じ考えの者達を組織して、謀反を起こし王と王妃を捉えて幽閉したそうだ。
王を幽閉したのには理由があった。
それは、アナスターシア姫と婚姻して王の血を受け継ぐ自分の子を作る為と、自分を次期王として認めさせる為だ。
それを成したあと病気で死んだ事にする予定の様だ。
その事に気付かなかったのは秘密裏に行われたクーデターだったからだ。
アナスターシアが王が病魔に侵されて眠りに付いたと知らされたのは、王も王妃も幽閉された後だった。
最初こそ信じた話だったが、国枝がおかしいと気付いた。
何故侍女ではなく将軍がそれを伝えに来たのかが引っかかった国枝は、白魔導服の諜報員に司令を出し調べさせた。
その結果発覚したのが、王の幽閉だった。
それから行動に移すまでは早かった。
アナスターシアを部屋から連れ出し、転移陣に乗って素早く移動した。
しかし、国枝は監視されていたようで、逃げた話は直ぐに将軍に伝わり転移陣は壊されたようだ。
☆
「……というのが、今まで王国であった事だ」
国枝は報告書を手にしながら、海人に言って聞かせる。
「多分俺がエルフ族領に逃亡した事は既にバレているだろう」
転移陣はエルフの森にしか繋がっていないからだ。
帝国にも繋がっているが、それはエルフ族領が間に入っているだけで、直接は向かえないのだ。
「もしかしたら、兵を挙げられるかも知れない。 そうなったら……迷惑を掛けることになる」
国枝はそれが悔しいのか申し訳ないのか分からないが、拳を握って耐えていた。
「迷惑をかける? そんなもん今更だろ? 幼馴染なんだから何時でも頼れよ?」
そう言って励ました。
それから直ぐに、国枝は王国内で王女誘拐の罪で指名手配される事になった。
そして、王国全土にこんな文が書かれて張り出された。
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私の名前はダレーニ・ド・マーケン
王国軍の将軍である。
この度王が病魔に倒れ、全権を委ねられた。
アナスターシア姫とも婚姻が決まっていたにも関わらず、大魔導師国枝慎吾により、連れ去られた。
国枝を反逆罪として捕らえよ。
捕えた者には賞金を与える。
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