異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 「そんな事は如何でもいーんだ! おいパウェル!てめぇ何をしやがった⁉」
 そう怒鳴るとダークエルフとマキシムが不在の理由を言ってきた。
 弱みを見せたら話し合いも何も無くなると思うんだけど……。と、思ったがそんな事を言ってる場合じゃなくなったようだ。

 心無しかクライド子爵もマキシム達が何処に知りたいらしい。
 ザケヘルからマキシムの名前が出ると、目の色を変えて被りついて来たからな。

 「私の息子とマキシム殿とその他大勢の子供達が消えたのだ! 何か知っているなら教えて欲しい!」と。

 そりゃあもう、話し合いというよりお願い事の様に祈りながらね。
 ザケヘルはザケヘルでマキシムに何かを奪われたのか、しきりに居所を聞き出そうと躍起になってる様に見えた。

 で、マキシムが何処へ消えたのか言ってくれるなら何でも言う事を聞くとまで言い出したのだ。

 なので、パウェルは無血開城を望み、賠償金などの請求はしないが、二度とこの地に足を踏み入れる事を禁ず。という、署名に名前を書けと言った。

 そしてそれを二人は飲んだのだ。

 信じられなかった。何だこの流れ……、意味わかんなかった。これまでの緊張を返せと言ってやりたかった。

 それと同時に、パウェルが裏で工作した内容も知りたくなった。

 「ほほほ、そんなに期待した目が六つも向けられては話すしかないかの」
 すべての書類に名前を書かせた後、そう言って話始めた。

 先ず風車に関わる話からだった。
 風車は回る事で磁力(磁石)を動かし、其処で電力が発生して魔石パウダーに電力を溜め込む仕組みになっている。
 が、風車をザケヘルの命令で検査したズドンガドンの父親のムズガは、訳した写本を手に調べた結果、風車は壊れているかやり方が違うと言い切った。
 風車で得た電力を魔石パウダーに送る為の銅線が途中で切れていると言ったのだ。
 その為に、いくら風車が回ろうともこのままだと電力は扱えない。と、ザケヘルに言ったらしい。
 勿論拠点から離れる時、銅線は切れてなどいなかった。
 多分だがムズガが俺達に手紙を送ってきたあの日に細工したのだろう。

 だが、そんな話を信じる程ザケヘルも素直ではなかった。
 翻訳された説明書を頼りに自分でも調べたようで、其処に書かれた図を見て理解したようだ。
 その時見ていた写本を持ってきた様で見さてもらったが、銅線ーと銅線の間に長く線を書くのが面倒いからと略したチルダを二本描いて銅線を魔石パウダーに繋げて書いた図を、どうやら魔力を飛ばすと勘違いしてくれたらしい。

 そのお陰で詳しく知るが必要になった様だ。
 だから当初海人を攫う計画を立てたがうまく運ばずに、マキシムを使計画を組み入れたらしい。

 マキシムは自他共に認める男色家だ。
 俺を出汁にすれば言う事を聞くと思ったのだろう。まぁ、その思い込みは半分正解で半分違っていたのだが。利用さえ出来れば問題なかったらしい。

 まんまと仲間に引き入れたザケヘルは、金が既に底を尽きかけていた。
 焦ったザケヘルは言葉巧みに将軍やグランドル侯爵に俺が手に入った暁には武器などを作らせ融通する約束をして、資金を提供させたらしい。
 その資金は虎の子らしく隠していたのだそうだ。
 しかしその隠し場所をパウェルが国枝の私兵を使って突き止めた。
 そしてその隠し場所をマキシムにバラシたそうだ。
 マキシムも金は無かったのだ。
 男の子達を手中に収める為に私財を使い切って貢ぎ、すべての子供達が自分と共に行く資金も作っていた為に、ザケヘルに声を掛けられた時には貧乏だったらしい。
 クライド子爵から金を出させる為に息子も利用していたが、それでも足りなかった様で、パウェルの秘密の手紙を受け取ったマキシムは隠し場所から金を根こそぎ奪って逃げたらしい。

 「これは賭けであった、良心の呵責があれば仲間を裏切る事はせぬと思ったからのぅ」そういって嗤うパウェル。

 それが発覚したのは今朝のことらしい。
 ザケヘルは金庫に金がない事を知り、クライド子爵は息子が居ない事を知り、共通する人物がマキシムだと分かった途端心配になったと。
 その後世界樹周辺に出来た町の中を探し回ったが、マキシムのお手付きされてる子供達は全員見付からなかった事で、逃げたと分かったという。

 「たった一通の手紙を送っただけだと⁉」そんな事でマキシムが自分を裏切った事に信じられない顔をしていたザケヘルは、俺を見て嗤う。

 「お前は愛されてなかったみたいだな? 人垂らしのお前でも愛されない事があったんだな?ザマァww」と。

 ーーいや、愛されたくなかったので問題ないんですけど?
 寧ろ仲間とすら思われてなかった自分を嗤えよ。

 ちょっと言ってる意味が理解出来ずに少し壊れたザケヘルを眺めていたら、クライド子爵が絡んできた。

 「それで⁉マキシムは何処へ行ったか存じ上げないのか⁉」

 そう言って来たのを軽く制しながらパウェルがニッコリ笑って林の方を指差した。

 そっちはハウスがあった場所で、今現在国枝が待機してる場所だ。

 「今さっき魔道士殿の力で帝国へと送り込んだばかりじゃ、すぐに迎えば出会えるやも知れぬのぅ?」

 送った場所は元ダークエルフ達が住んでいた場所らしく、家屋や畑付きですぐに生活が営める場所らしい。其処を金貨数百枚でマキシムに譲ったのが、ダークエルフ達だという。

 「そこで漸くダークエルフが絡むのか」

 そう聞くと、頷いて
 「奴等の悲願は世界樹周辺に住む事をだからの、それを提案したら直ぐに乗ってきおったわ」と、楽しそうに話しだした。

 ザケヘルに協力的だったダークエルフの名はガウェルというらしい。
 なんと、パウェルの従兄弟だという。
 そして、カーナとカーニャの祖父なのだとか。

 ーーだから目元が似てたのか……。

 そのガウェルに送った手紙にはこう書かれていた。

 「ザケヘルに手を貸すなら、今後一切世界樹周辺に居させるわけには行かぬ、此方には全面戦争を仕掛ける用意がある。
 だが、もし手を引くなら一つ提案がある。乗るなら次の話し合いには来るな。
 それと、曾孫ひまごを抱きたくないか?」

 と、書いたそうだ。

ーー曾孫ひまご……。子供や孫にも数百年会えてなかった爺さんには堪える文だな……。

 その手紙を受け取ってガウェルは従った訳だ……。
 そして、国元に居る仲間のダークエルフ達を国枝に頼んで連れて来ても良いという言質を与えたそうだ。

 その話をすべて聞いたザケヘルは項垂れたまま動かなくなった。
 クロイド子爵は既に天幕からは居なくなっている。きっと、国枝のいる場所に向かったのだろう。

 ザケヘルは書面通りにその日の夜には世界樹周辺から居なくなった。
 自分の馬車はアイテムバッグに入れて、歩き去ったという報告を受け取った。

 これでこの一件は終わった。かに見えたが、今度は王国の将軍が絡んでくるとはこの時の俺達は想像すらしていなかった。

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