異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

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 二回目の話し合いは正午過ぎに決まった。ハウスに残るユーリ達もフル装備して行く事になった。
 パウェルの話では話し合いの後、軽く争いに発展するかもという予測で、準備はしておいてくれと、言われたからだ。

 それを聞いて皆に緊張が走る。

 パウェルが裏工作をしているのは知っている。
 何をしていたかまでは分からないが……。
 まぁ、それが上手く行けば争い無く済ませる事が出来るようだが、相手側の良心に掛ける様な事らしくあまり期待はするなと言われた。

 良心の欠片でも備わっていれば回避する以前に、勝手に占拠して人の所有物を盗ろうとは思わないだろ?
 普通ならな。
 なので、一戦交えるという覚悟はして置いた方がいいなっと、国枝と話していた。







 翌日の正午過ぎにハウスに蜂系を全て収納し七星とハウスの二台だけで中央の麦畑にやって来た。

 勿論蜂系の銃器系はフル装備だ。
 いつでも出れる様にイーチェ達も跨ったまま待機している。
 クィーンにはカウェイが跨がっているので、今回は俺とパウェルとアニキだけで話し合いに参加する。
 と言ってもアニキは天幕には入らず外で待機する。
 前回の相手側がやっていた事だ。
 地竜が此方に居ますよ?アピールだ。
 下手な真似するならけしかけるぞっ!という無言の圧力ってやつだ。

 そして、アリサも間に合えば炎帝も居るぞ!アピールに繋がった様だが、生憎まだアリサは帰ってきて居ない。
 まぁ、元々あまり期待はしていない様だったが……。
 それはアリサには黙っておけと言われた。だが、腐っても嫁である。捨て駒のようには扱いたくないのでコッソリ言おうと思ってる。

 そして前回参加していた国枝はパウェルから密命?を受けてハウスの置いておいた林側に待機してる。

 足元には転移魔法の魔法陣が青い光を放ちながら描かれており、其処で誰かを迎えに行くらしい。
 まぁ、多分王国の王様辺りだろうと予想はしてる。
 何故ならクロイド子爵の上司が王だからだ。
 このパウェルというエルフの行動を見ていると、相手の最も弱い所を的確に付いて来るタイプの様で、精神的ダメージを与える事にとても特化してる様だ。
 つまり腹黒いのだ。
 ダークエルフとの違いがあまりよく分からなくなる程に……。
 それを言うと怒りそうだから言わないけども。
 エルフというのは元々みんなこうなんだよ!っと、言われても納得するレベルだ。

 まぁしかし、ダークエルフと違うところを上げるなら、相手側の良心の呵責に頼ってしまうところだろうか?
 そんな物に頼ってしまう程お人好しなのかも知れないが……。とても裏工作に利用するべき物ではない気がする。

 そんな事を一人考えながらじっとりと掌に緊張が走り汗をかく。

 「婿殿、大丈夫!儂に任せておけ」

 そう言って俺が緊張してる事に気付いたパウェルがにっこりと微笑む。

 返事をする代わりに頷いておいた。
 こんな緊張感は初めて部活の試合に出された時以来だ。
 喉が何を呑んでも乾いてる感じがする。
 返事を返すと掠れそうだ。
 それはそうだろう。
 試合とは違うのだ。
 死合になるかも知れない状況でにこやかにしてられる方がどうかしてる。

 緊張感でガチガチに成りながら席に座ると違和感に気が付いた。

 どう見ても相手側の席に座る人数が少なかった。

 当事者のザケヘルは居る。
 で、その隣にはクロイド子爵が青い顔を隠しもせずに、イライラしてるのか机を指でトントンと叩きながら座っているのだ。
 ザケヘルの顔も随分と険しい顔をしている。まぁ、それはアニキがコチラ側に居るからだろうと予測出来るので、不思議ではないが。
 問題は子爵である。
 イライラではなく、何方かといえばソワソワとしているって感じだろうか。
 早く終わらして他に何かをしたい。そんな風に思えた。
 案の定、俺達が席に座ると同時に子爵は立ち上がり、宣言する。

 「この話し合いがお互いの良き様になる事を~~」って、やつだ。

 100%良き様には成らないので、言う必要があるのかと思ったが、それを目指して話し合うのだから、宣言は必要なことらしい。

 そして始める舌戦……。と、思ったが中々始まらない。
 天幕の中からでも見えるハウスの姿がチラつくのか、暫し唖然としながらチラチラと見ていた。

 「おい、何だあの禍々しい色の昆虫は!襲ったりしてこねーだろうな⁉」

 気になったのは七星の事らしい。
 ーーおかしいな、七星は可愛い筈なんだが……。
 一応襲っては来ないと言うが信用できないのか、まだ気にしているザケヘル。
 意外と肝っ玉は小さいようだ。
 商人とはいえᗷランクなのになぁ?と、思っていると、耳元でパウェルが
 「あの色は毒持ちの昆虫に多い柄なのじゃよ、あれを可愛いと思うのは婿殿だけじゃ」と、耳打ちされた。
 強いランクの者ほどその恐怖を味わっているので、恐れ慄くらしい。
 現に子爵はそれ程怖がってはいないし、ハウスの形の方に興味がある様だ。

 貴族で魔力持ちの中には、Cランクに届いて居ない者も居ると聞く。
 冒険者ランクを挙げずとも、魔力があれば生活には支障が無い為だ。
 子爵もその口なのだろう。
 冷や汗をかいてるザケヘルを不思議そうにしているしな。

 「そんな事より随分と話し合いに来た人数が少ないのう? やる気はあるのか?」

 パウェルが煽るように相手の参加人数の少なさを指摘する。
 数で言うなら此方も同じなのだが、誘ってきた側が少ないのは変だろう?って、事らしい。やる気があるから話し合いをしたいと申し入れた訳だから。

 するとザケヘルはムカッとしたのか机を乱暴に叩くと叫ぶ。
 「お前らが何かしなかったらこんな人数で来ることなんて無かった!どの口が言いやがる!この腹黒パウェル‼」

 ーー二つ名だろうか? そんな響きがあった。

 「クフフ懐かしい名前を出しますねぇ? ダークエルフから聞いたのですか?」

 パウェルがそう言うと、ザケヘルは吐き捨てる様に言い返す。

 「へっ!商人なら誰でも知ってる話だろ⁉ エルフの森の族長の腹黒さはダークエルフをも凌ぐってな!有名な話よ!」

 そう言ってから、最初はカウェイが族長と思っていたらしい。

 「それがこんな可愛い顔した女の子が族長とはな!ヤラれたわ!」
 勿論女のっていったのは嫌味である。
 が、たいそう嬉しそうにニッコリと笑顔になると「そうじゃろそうじゃろう、婿殿さえもわしの可憐な姿には股間に血が滾るようじゃからな?まだまだ現役なんじゃよ」と、ザケヘルに色っぽい仕草で投げキスをしていた。

 というか、それを聞いて俺は顔が紅くなっていくのを感じていた。

 ーー何故気付かれた!いつ気付かれた⁉と、行った具合に困惑の表情を浮かべる。

 それを見たからかザケヘルまで
 「相変わらず節操がないなお前……地竜の次は年増かよ!本当にいい趣味してるよ……」
 なんて言葉を吐いて俺を蔑んだ目で見てきた。

 「可愛いに年齢は関係ないっ!」と、思わず叫ぶくらい恥ずかしかった。が、その言葉が良かったのかパウェルにはこの話し合い後から随分と可愛がられる様になる。

 傍からは「パウェルまで娶るのか⁉」と誤解される程の甘々しさだったとか。

 
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