65 / 77
65
しおりを挟む父竜と共に炎帝の住処に向かったアリサは、延々と愚痴を溢していた。
「くっそぉ爺様の話は真であったわ! エルフは油断すると禄な事をせんとなぁ! 優しい言葉を掛けてくれるから良い人と勘違いしたわ!」
『悪い人ではないと思いますが……』
「お主は敬われる側だからじゃ!」
『ですが主殿も今は敬われる側ですし……』
「敬われてる者がこんな所まで派遣されるわけ無かろう⁉」
『いやまぁ……そうかも知れませんけど、炎帝に勝てそうなのは主様以外におりませぬゆえ……』
「炎帝に勝てる人種などおらんじゃろうがっ!」
『あ、着きましたよ?主殿』
「なにぃ⁉ さては貴様計ったな⁉」
『何言ってるんですか……話し始めたのは主殿ではございませんか……』
「うぬぅ……おのれパウェルめ!」
炎帝の住処は岩山の上にあり、鬱蒼と茂る藪草を掻き分けながらの旅だった。
あっちこっちと傷だらけに成りながら支持を出したパウェルに恨み辛みと愚痴を溢してるうちにどうやら着いてしまった様だ。
この先からはもう逃げられぬと覚悟を決めて、岩の上にある巣まで登ってきたのだが……。
「……コレが炎帝か? めっちゃぐっすり寝てるのだが……」
『……そうですね、油断しまくりですね……』
炎帝に敵は居なかった。
一応師匠みたいな存在は居るが、魔王との戦いで傷を負ってしまい、傷を癒やす為に長い眠りについていた。
炎帝の師匠は炎竜だった。
亜種として生まれた炎帝は、幼き日にたまたま出会った炎竜から炎の使い方を学んだのだ。
魔王のいた頃はいつ何時でも、何かしらが攻撃して来ていたので油断など出来なかったのだが、魔王無き後は平和な世界が続いた為に、完全に油断していた。
つまり、腹を出してグースカと寝ているのである。
「これは……攻撃しても構わぬのよな?」
『……まぁ、そうですね……竜種に喧嘩売るなら態々起こす理由にもなりませんし』
「そうだよな、恨むならパウェルを恨ませよう」
そう言うと起こさない様に気を付けながら両手にアダマンタイトの鉄槌を握ると、大きく振りかぶって炎帝の顎めがけて振り下ろした。
☆
「さて……粗方此方の準備は整ったのぅ」
パウェルは支持を出した人等にお礼を言うと、サラサラと何か書いて封蝋を施すとザケヘルに届く様にとその辺に浮いていた妖精に手渡す。
妖精は受け取るとパァッと顔をほころばせ嬉しそうにパウェルの周りを飛んだ後、ザケヘルの元へと飛んで部屋から出ていった。
「おいっ!」
一人優雅に椅子に座って妖精と戯れてるパウェルに、国枝が噛み付く。
「なんだろうか?魔道士殿」
「この術式書くのすんげぇ魔力使うんだけど手伝ったりしてくれねぇのか⁉」
国枝は背中に汗を掻きながら、顔からも大量の汗を流して必死に転移魔法の術式を床に書きなぐっていた。
「エルフに魔力など無いからの仕方ないじゃろ?」
「さっきの妖精に頼むとかあんだろ⁉ 流石にきついんだけど⁉」
「そりゃ失われし魔術じゃから当たり前じゃろう? それに妖精に頼んだら力尽きてしまうかもしれんのじゃぞ? 頼めるわけなかろ?」
「妖精は消滅しても直ぐに生まれ変わると授業で習ったが⁉」
そう、妖精は世界樹から生まれる。
力を使い果たしても、再び世界樹から生まれ変わるので、ある意味永遠の命を持つ唯一の生き物だったりするのだ。
そして、魔力も有する為にエルフにとっては掛け替えの無い存在だったりする。
「なんじゃ、知っとったんか」
「寧ろ知らん奴が居ない程有名な話なんじゃないのか⁉ いいからマジで!手伝って⁉」
少し顔が青くなってきた国枝は必死の形相でパウェルに頼み込んだ。
「おーい、婿殿ー!」
「はーい?」
「ちょっと手を貸してくれないかの」
ハウスのメンテナンスをしていた海人を呼び付けるとパウェルは、国枝の応援をする様に頼んだ。
「応援ですか? 俺に魔力は無いですよ?」
「何ちょっと例の奴を噛ましてくれば良いのじゃ」
そう言うとパウェルが首をコテンと倒す。
パウェルは年齢こそ八百歳以上あるが、見た目は少女の様な顔を保っているので意外と可愛かったりする。
それをまともに見てしまった海人は股間が熱くなるのを感じたが、気付かれまいとして直ぐに国枝の応援に向かう。
「国枝?大丈夫?」
「お?おお!大丈夫だよ!」
本当はあまり大丈夫では無いが、海人の前では弱音は吐けない性分なのか、平気そうな顔で魔術式を書きなぐる。
ーーあのエルフの野郎‼どんだけ妖精使いたくねーんだよ⁉ くっそ!海人の前では倒れてでもやり遂げる事を知ってやがる‼ 憶えてろよ⁉パウェルめぇぇ‼
っと、心の中でパウェルに文句を言うと、海人が色んな方法で自分を応援し始めたので鼻の下を伸ばす。
そして、最後に「それじゃあ俺はメンテナンスの続きやるから慎吾も頑張れな‼」
そう言って部屋から出ていった。
ーー今なんて言った?
国枝は最後に自分の下の名前を言った事に感動していた。
生まれて初めて言われた自分の名前。
あの海人に初めて言われたのだ。
あまりの衝撃で国枝の体からは異様なまでの魔力が唸るように集まってきていた。
そう、国枝は遂に魔道士としての真の力を覚醒させたのだ。
大気中にも魔力は存在していて、その力を妖精は利用する事で魔力を使っていたのだが、それはあまり知られていない事実だった。
それが今!
遂に!
国枝が覚醒する事によって発見出来た事だった。
ーーうぉおっ⁉ 今までに感じたことの無い魔力を感じるっ‼
俺は今なら何でも出来ると直感的に感じると、魔術式を膨大な魔力を込めながら書き続けると、一瞬で書き終わった‼
その魔法陣から魔力が沸々と湧き出る泉の如く溢れ出ている。
「ほほう……これ程の魔法陣は久し振りに見るのう」
カウェイも感銘の言葉を投げ掛ける。
「流石は魔道士殿じゃ、いやあっぱれ!」
ーー流石は婿殿!流石よのぅ♪
上手いこと行ったとほくそ笑み、自分に熱くした事は娘達には黙っといてやろうと心の中で思うパウェルだった。
☆
その後国枝は大気中には魔力があるという論文を書き、それを証明する事に成功する。そして、大魔導師の名前を賜る事になるのだが、それもまた別のお話。
0
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる