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しおりを挟む父竜と共に炎帝の住処に向かったアリサは、延々と愚痴を溢していた。
「くっそぉ爺様の話は真であったわ! エルフは油断すると禄な事をせんとなぁ! 優しい言葉を掛けてくれるから良い人と勘違いしたわ!」
『悪い人ではないと思いますが……』
「お主は敬われる側だからじゃ!」
『ですが主殿も今は敬われる側ですし……』
「敬われてる者がこんな所まで派遣されるわけ無かろう⁉」
『いやまぁ……そうかも知れませんけど、炎帝に勝てそうなのは主様以外におりませぬゆえ……』
「炎帝に勝てる人種などおらんじゃろうがっ!」
『あ、着きましたよ?主殿』
「なにぃ⁉ さては貴様計ったな⁉」
『何言ってるんですか……話し始めたのは主殿ではございませんか……』
「うぬぅ……おのれパウェルめ!」
炎帝の住処は岩山の上にあり、鬱蒼と茂る藪草を掻き分けながらの旅だった。
あっちこっちと傷だらけに成りながら支持を出したパウェルに恨み辛みと愚痴を溢してるうちにどうやら着いてしまった様だ。
この先からはもう逃げられぬと覚悟を決めて、岩の上にある巣まで登ってきたのだが……。
「……コレが炎帝か? めっちゃぐっすり寝てるのだが……」
『……そうですね、油断しまくりですね……』
炎帝に敵は居なかった。
一応師匠みたいな存在は居るが、魔王との戦いで傷を負ってしまい、傷を癒やす為に長い眠りについていた。
炎帝の師匠は炎竜だった。
亜種として生まれた炎帝は、幼き日にたまたま出会った炎竜から炎の使い方を学んだのだ。
魔王のいた頃はいつ何時でも、何かしらが攻撃して来ていたので油断など出来なかったのだが、魔王無き後は平和な世界が続いた為に、完全に油断していた。
つまり、腹を出してグースカと寝ているのである。
「これは……攻撃しても構わぬのよな?」
『……まぁ、そうですね……竜種に喧嘩売るなら態々起こす理由にもなりませんし』
「そうだよな、恨むならパウェルを恨ませよう」
そう言うと起こさない様に気を付けながら両手にアダマンタイトの鉄槌を握ると、大きく振りかぶって炎帝の顎めがけて振り下ろした。
☆
「さて……粗方此方の準備は整ったのぅ」
パウェルは支持を出した人等にお礼を言うと、サラサラと何か書いて封蝋を施すとザケヘルに届く様にとその辺に浮いていた妖精に手渡す。
妖精は受け取るとパァッと顔をほころばせ嬉しそうにパウェルの周りを飛んだ後、ザケヘルの元へと飛んで部屋から出ていった。
「おいっ!」
一人優雅に椅子に座って妖精と戯れてるパウェルに、国枝が噛み付く。
「なんだろうか?魔道士殿」
「この術式書くのすんげぇ魔力使うんだけど手伝ったりしてくれねぇのか⁉」
国枝は背中に汗を掻きながら、顔からも大量の汗を流して必死に転移魔法の術式を床に書きなぐっていた。
「エルフに魔力など無いからの仕方ないじゃろ?」
「さっきの妖精に頼むとかあんだろ⁉ 流石にきついんだけど⁉」
「そりゃ失われし魔術じゃから当たり前じゃろう? それに妖精に頼んだら力尽きてしまうかもしれんのじゃぞ? 頼めるわけなかろ?」
「妖精は消滅しても直ぐに生まれ変わると授業で習ったが⁉」
そう、妖精は世界樹から生まれる。
力を使い果たしても、再び世界樹から生まれ変わるので、ある意味永遠の命を持つ唯一の生き物だったりするのだ。
そして、魔力も有する為にエルフにとっては掛け替えの無い存在だったりする。
「なんじゃ、知っとったんか」
「寧ろ知らん奴が居ない程有名な話なんじゃないのか⁉ いいからマジで!手伝って⁉」
少し顔が青くなってきた国枝は必死の形相でパウェルに頼み込んだ。
「おーい、婿殿ー!」
「はーい?」
「ちょっと手を貸してくれないかの」
ハウスのメンテナンスをしていた海人を呼び付けるとパウェルは、国枝の応援をする様に頼んだ。
「応援ですか? 俺に魔力は無いですよ?」
「何ちょっと例の奴を噛ましてくれば良いのじゃ」
そう言うとパウェルが首をコテンと倒す。
パウェルは年齢こそ八百歳以上あるが、見た目は少女の様な顔を保っているので意外と可愛かったりする。
それをまともに見てしまった海人は股間が熱くなるのを感じたが、気付かれまいとして直ぐに国枝の応援に向かう。
「国枝?大丈夫?」
「お?おお!大丈夫だよ!」
本当はあまり大丈夫では無いが、海人の前では弱音は吐けない性分なのか、平気そうな顔で魔術式を書きなぐる。
ーーあのエルフの野郎‼どんだけ妖精使いたくねーんだよ⁉ くっそ!海人の前では倒れてでもやり遂げる事を知ってやがる‼ 憶えてろよ⁉パウェルめぇぇ‼
っと、心の中でパウェルに文句を言うと、海人が色んな方法で自分を応援し始めたので鼻の下を伸ばす。
そして、最後に「それじゃあ俺はメンテナンスの続きやるから慎吾も頑張れな‼」
そう言って部屋から出ていった。
ーー今なんて言った?
国枝は最後に自分の下の名前を言った事に感動していた。
生まれて初めて言われた自分の名前。
あの海人に初めて言われたのだ。
あまりの衝撃で国枝の体からは異様なまでの魔力が唸るように集まってきていた。
そう、国枝は遂に魔道士としての真の力を覚醒させたのだ。
大気中にも魔力は存在していて、その力を妖精は利用する事で魔力を使っていたのだが、それはあまり知られていない事実だった。
それが今!
遂に!
国枝が覚醒する事によって発見出来た事だった。
ーーうぉおっ⁉ 今までに感じたことの無い魔力を感じるっ‼
俺は今なら何でも出来ると直感的に感じると、魔術式を膨大な魔力を込めながら書き続けると、一瞬で書き終わった‼
その魔法陣から魔力が沸々と湧き出る泉の如く溢れ出ている。
「ほほう……これ程の魔法陣は久し振りに見るのう」
カウェイも感銘の言葉を投げ掛ける。
「流石は魔道士殿じゃ、いやあっぱれ!」
ーー流石は婿殿!流石よのぅ♪
上手いこと行ったとほくそ笑み、自分に熱くした事は娘達には黙っといてやろうと心の中で思うパウェルだった。
☆
その後国枝は大気中には魔力があるという論文を書き、それを証明する事に成功する。そして、大魔導師の名前を賜る事になるのだが、それもまた別のお話。
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