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しおりを挟むアリサが地竜の主として認められた話は王国中に広まる事となった。
一匹だけを使役する人は多けれど、ニ匹同時に使役出来る者など居なかった為だ。
それが憤怒のアリサだった事にも驚かれた。
竜種とはあまり関わりの無い種族だったからだ。
何方かというとサラマンダー等の精霊と縁が深いのがドワーフなのだ。
竜に関わるのはエルフなのだ。
だから王国の記者が、アリサに興味を抱き、記事を書いて王国全土にばら撒いた。
その記事は瞬く間に拡がって、当然ザケヘル達の手にもその記事は渡ったのだろう。
早急に第二回目の話し合いをしようと、向こうから打診し始めた。
これ幸いと此方もコレに賛成して参加する返事を出そうとした所をパウェルに止められる。
「まぁ待て、婿殿焦るでないわ。私にちょっと考えがある」そう言ってほくそ笑んだ。
二回目の話し合いはザケヘルからの書簡を受け取って二日後に返事を返す事になった。
その間俺はこれに関わる事を許されず、カーナと共に七星に乗せられて頑張って来いと追い出された。
手が出せないからと、蚊帳の外にされてるユーリは不満顔だ。
アリサとカーニャは落ち着いたものだったが……。
カーナはカーナで落ち着きがない。
普段はそこまで乱れないのだが、今日は朝からテンションが明らかに違っていた。
まぁ、あからさまに子作りして来いと送り出されれば、そりゃ可笑しくもなるわ。
どうもこの世界のその辺のデリカシーは、生まれた時に腹の中に置き忘れた様だ。
顔を赤らめて手を繋ぎ、七星に乗り込む。そのまま音もなく走り出した七星を手を振って見送るカウェイとパウェル。
と、言ってもどこに行くか。
特に観光施設がある訳でもないこの世界。
カーナにどこか行きたい場所はあるか聞いたところ。
「……天国ですかね」
と、言ってきた。
目を見るといつの間にか厭らしくなっている。
ーーあれぇ? すでにスイッチが?
そんなカーナに戸惑いながら、いつの間にか敷かれていたベッドに押し倒され、車は蛇行運転しながら何処かの樹木に当たって止まる。
普通だったら大事故だけど、この世界に俺達以外で走ってる人はこの辺には居ない。なので出来る芸当だった。
「痛くしませんから♡」
そんなカーナの言うがままに俺は彼女に食われ始めた。
ーー絶対何か違う!何かおかしい!
と、思いながらも、抗う事はできず。
快楽の海へと誘われた。
☆
「さて、婿殿がイッタ所で始めようか」
「いろんな意味を込めてイッタ所でじゃな? 流石地獄耳のパウェル こんな所から聞こえるとは……恐れ入る」
カウェイとパウェルが卑猥な話を交えながら残った者達に支持を出す。
娯楽の少ないこの世界では、他人の情事すらネタにする様だ。
その辺の感情には中々慣れない国枝だったが、海人の喘ぎ声なら聞いてみたいという感情と、聞くなら自分の手でという感情で葛藤してしまい、パウェルの話を聞き逃した。
「あ、すまん聞いてなかった。 何をするって?」
「おいおい魔道士殿、喘ぎ声なら後でゆっくり聞きに行けばよかろ? 今は集中してくださらないと!」と、聞き捨てならない言葉も混ぜられて返ってきた。
「え、なっ……聞きにいけるのか⁉」
つい聞いてしまった自分が恥ずかしくなり、顔を赤くする。
「だから今は真面目な話なのだから集中してもらわんと! 連れて行ってやらないぞ?」と、ニヤリとした目で言ってくる。
「分かった!集中する!何でも頼んでくれ!」
素直に返事を返す国枝は、先程の葛藤などとうに忘れて、必死に手を貸そうと言い始めた。
「では魔道士殿には、転移の魔法を教えるので、連れてきて貰いたい人物達が居る」
そう言って古い書物を持ってきた。
「転移魔法だと⁉ 実在したのか‼」
「エルフ族の歴史は古い故な、隠匿している魔法も多いのよ 其方がエルフ族と婚姻していれば、知れた魔法もあっただろうよ」と、笑う。
ーーそう言われてもな……。俺には海人みたいな人垂らしチートは備わってなかったんだから、仕方ないだろう?
そう思い何処かに行った海人を思いながら舌打ちをして、ハッと気付く。
嫉妬していた様だ。それを忘れるかの様に、見せられた書物に書かれる呪文と術式を頭に叩き込んでいった。
そして、日が沈み空に星が瞬きを繰り返す頃に漸く、完全に物にした国枝にパウェルはアリサを通じて支持を出す。
「では、今から国枝には地竜に乗って王国と帝国とを回って頂く」
「は?」
頭をフル回転させて必死で憶えた転移魔法は、自分が行った場所にしか転移出来ないのだ。
なので、これから夜通し走って明日の夜には戻る様にと言われた。
チラリと出立の準備に勤しむ地竜を眺めると、背中に背負子を担ぎ準備している姿が目に映る。
「あの、あれに乗るのですか?」
何となく嫌だった国枝は、鞍を指差して願う。
「出来ればあちらの方が……」
『出来ぬ。 我は最近胸が出て来てしまってな、苦しいのよ』
「誰か訳してぇ⁉」
と、叫んだが「そのまま乗っておるだけで良いから」と、言われて問答無用で背負子に括り付けられて、出立した。
「よし、ではアリサと父竜で炎帝の住処に赴いてほしい 頼んだぞ!」
「炎竜ではないのか?」
「炎竜なんぞには会えぬ、あれば魔王との戦で未だに目覚めておらんからの。それに見せられた鱗は飛竜の物じゃった」
そう言うとアリサも納得したのか、父竜に跨ると「して、炎帝に会って私は何をすれば?」
その質問にパウェルは笑って
「勝てれば問題ない」
その一言だけ言って追い払った。
「ちょ⁉ なんじゃそれは! おおいっ⁉ エルフこの野郎!」
アリサの叫び声は父竜の脚によって遥か遠くに向かい、最後の暴言はパウェルには聞こえなかった。
各自に支持を出したパウェルは、溜息を吐くと椅子に座る。
そこにタイミングよくマークがお茶を出して、それを受け取り一息付くと、呟いた。
「これでおそらくダークエルフの出来る事はほぼ失くなった筈じゃ……後は力尽くになるかのぅ……」
そう言って自分の武器の手入れを始めるパウェルだった。
☆
その後国枝は、帰ってきたら海人が居て、慌ててパウェルに喘ぎ声を聞きにいくんじゃ無かったのかと抗議するも、「本気にしてたのか?魔道士殿も中々の変態なんじゃな!」と、嗤われて地団駄を踏んだ所にたまたまマリアーヌが寝ており、地団駄を踏んだ足がモロにマリアーヌの顔面を捉え、その痛みに惚れたマリアーヌは国枝を意識し始めるのだが、それはまた別のお話。
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